やはり俺の大学生活は間違っている。   作:おめがじょん

22 / 28
第22話:そして、鶴見留美は──

 高校生活といえば薔薇色の青春だ。

 そして、青春とは戦争であり、悪である。青春を謳歌する者達の中には常に勝者と敗者がいる。勝者は自分の良しも悪しも全て肯定的に捉え、その全てを青春の証とし、素晴らしき思い出の1ページへと昇華していくのだ。そして、その証の中には常に敗者が存在している。勝者にとって都合の良いキャラクターを押し付けられ、自分自身を諦めながらその貴重な青春を消費する者。自分の好きなように生きているだけなのに、勝者にとってその存在は疎ましく後ろ指をさされて笑われる者。だが、私は勝者にも敗者にも興味がない。なる気もない。それが、正義でも悪でもどちらでもいい。自分が変われば世界が変わると都合の良い希望も持たない。自分の世界は生きているだけで最悪だと絶望もしていない。

 

 

 

 

 そう思うが故に、私は諦観する。

 

 

 つまるところ、こうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 どうでもいいから、全員くたばれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高校二年の春。進路調査のついでに担任の平塚先生から出された、「高校生活を振り返って」という課題の内容について呼び出された。何時もは課題を淡々とこなす私だが、今回は妙に筆がノってしまい、あんな支離滅裂な文章を書いてしまった事に多少の後悔をしつつ、進路指導室へ。部屋に入ると、平塚先生が変な表情をしている、なんて思った。苦虫を噛み潰したいけど、どことなく笑ってしまいたいような、そんな感じ。見た事のない表情だったので少しだけ驚いた事が印象に残っている。

 

「鶴見。これは一体なんなんだ?」

 

「課題です。内容が駄目なら書き直します。放課後には提出できますよ」

 

 はぁ、と先生がため息をついた。私だってつきたい。「まるできょうだいみたいだ」なんて捨て台詞まではいていたが、誰と似ているのだろうか。

 

「……鶴見。君は結構な難関大学を志望していたね?」

 

「……はい。良い大学に行って、良い会社に入ってきちんと働いてお金に不自由したくないので」

 

 今度は「こういうとこは正反対なんだよなぁ……」なんて先生は再びぼやいた。そして、少しだけ楽しそうに笑った。

 

「君は成績も良いし、このままいけば推薦だって夢じゃない。ただ、成績だけじゃ少し弱いのはわかっているな?」

 

「そうですね。ですが、このまま3年まで勉強すれば一般入試の合格も不可能じゃないとは思っています」

 

「そう言うなよ。……そこで、私から提案なんだが、部活動をやってみないか?」

 

 それが、奉仕部の始まりだった。正確に言うと、何年か前に廃部になった部活を先生と私で復活させただけなのだが。しかし、それなりに恩恵もあった。先生から与えられた部室は、校内のプライベートスペースとしては最高だった。昼休みに静かに食事ができるし、放課後も図書室から本を借りてきて読んだり、宿題や予習も1人で集中してできるのでとてもありがたい。だが、それも長くは続かなかった。

 

「鶴見、紹介するぞ。奉仕部OGの雪ノ下だ。……君が小学生の頃に会ってると思うんだが、覚えているかね?」

 

 ある日平塚先生が連れてきたのはどこかで見た事のある女の人だった。私は彼女の事を少しだけ覚えている。あまり話した記憶は無いが。どちらかといえば、彼女と一緒に居た男の事をよく覚えている。比企谷八幡。──多分、一生忘れない名前。私の色々な問題をある日吹き飛ばした男。……今だからこそ言えるが、私は彼にとても感謝をしている。やり方はどうであれ、彼の行動には随分と救われた。今の何もかもを諦観したような生き方だって、元はといえば彼が教えてくれたようなものだからだ。

 

「お久しぶりです。雪ノ下さん」

 

 あまり覚えてはいないが、印象は強い。当時も思ったが相変わらずの美人さんだからだ。先生がきょうだいと言ったのも彼女と似ているからなのかもしれない。この人も、中々小癪な文章書きそうだし。

 

「ああ、あの鶴見さんね。覚えているわ。……大きくなったわね」

 

 雪ノ下さんの視線が何故か胸に集中しているのに気づいたが、気にしない事にした。その後、雪ノ下さんと色々話をした。学校生活の事。この部活の事。雪ノ下さんも最初は1人だったそうだ。本来奉仕部とは自己改革を促し、悩みを解決する事を目的とした部活との事だが、私はそんな事まるで興味がなかった。ここで自学自習するようになり、成績も伸びてきた。できれば面接で有利になりそうな話を作っておきたいところだが──まで話すと、

 

「そうね。……じゃあ、私の友人を紹介するわ」

 

 そこで現れたのが結衣先生だ。近所の保育園で仕事をしているらしく、わざわざ休みの日に部室まで来てくれた。こちらも雪ノ下さんとはまた違ったタイプの美人である。雪ノ下さんが既に市の社会福祉協議会に話をつけてくれたらしく、私は定期的に結衣先生の指導の下、保育園にボランティアに行く事になった。雪ノ下さんは凄い。兎に角行動を起こすのが速い。目的の為に何をすればいいかを全て理解していて、仕事が出来る女の人ってこういうものなのか、と思わず唸ってしまうほどだ。ずっと部室に篭って勉強ばかりしている身にとっては、偶にボランティアをするというのも良い息抜きになったのも素晴らしい。ただ、それとは逆に私のクラスでの生活は酷くなっていく一方だった。

 

「鶴見って生意気じゃない?」

 

「何時もスカしてるよね」

 

 2年生となりようやくクラス換えを経てようやくスクールカーストが固まって来た頃、どうやら私の事を嫌いな人間が現れた。そりゃ、そうよね。なんて自分でも納得する。小学生のあの経験以降、私は近しい友達を作る事を辞めた。何時裏切られるかわからない。何時裏切るのかわからない。そんな恐ろしい綱渡りのような関係を好き好んで作る気力は私にはもう無い。あの日、私は見た。たった一つの悪意が、絶対的な正義を喰い散らかす瞬間を。絶対に覆る事のない強固な身分制度がたった一夜で崩れ去った事を。──あれは、とても嬉しかったし。とても憧れた。ああやって、強くなりたいと思った。

 

 

 1%なんて誤差だ。切り捨てていい。なんて言える強さが欲しかった。勉強も1人で頑張るしかない。学校行事も1人でやるしかない。だって、気を許せば裏切られるから。また同じ事をしてしまうから。私の心は動じない。どんな悪意も貫けない。正義には悪意で。彼のように、食い尽くしてやるのだ。勝者たちの作った絶対的な身分制度を。私は井浦に立ち向かう。井浦に虐げられる人間もついでに助けてやった。もっと波乱があるとは思っていたが、そこは山羽と弓ヶ浜が上手く空気を作ってくれたのでそこまで険悪にはならなかった。そうして何だかんだ表面上は普通のクラスを演じていた時、再び彼が現れた──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朝は好きじゃない。

 めんどくさいと感じることが多いからだ。身支度や朝食はまだいい。生きるために必要なのだから。学校につくとまず下駄箱で靴を履き替える。最近では高確率でお菓子のゴミが入っている事が多いが今日はない。これがめんどくさいその1。そして、そこにはクラスメイトが大体居る。他所のクラスの子も居る。私の顔を見ると目をそらし、ひそひそと話を始める。これがその2だが、今日はない。それどころか、

 

「鶴見さん。おはよう。昨日聞いたよ……。何か大変だったみたいね」

 

 珍しくクラスメイトに挨拶された。名前を憶えていない運動部の何とかさんだ。昨日と言われたが、何も思い当たる事がない。LHRだるくて体調悪いフリして、部室で本読んでいたぐらいか。弓ヶ浜に体調悪いアピールして保健室に行ったフリがバレて平塚先生が怒り狂っているのだろうか。めんど。それとも弓ヶ浜が大げさに何か言ったのだろうか。どちらにせよめんどくさい。

 

「もしかして、バレた? 平塚先生怒ってた?」

 

「平塚先生? え、違う違う。山羽君の事。弓ヶ浜さんに告白しろって言われてやらされたんでしょ?」

 

 一瞬頭が真っ白になった。どうして、そういう話になっているのだろうか。私のやった事は弓ヶ浜には話していない。あれから何かを言いたそうにしていたが、どうでもよかったので相手しなかった。だとしたら、奉仕部の部室の会話を誰か盗み聞きして、それが噂になっただけなのか。どちらにせよ、状況はよくない。思わぬ所で弓ヶ浜にまで飛び火してしまった。まずは、状況把握。

 

「……それ、誰が言ってたの? 井浦? 坂見?」

 

「ううん。弓ヶ浜さんが自分で言ってたの。何かLHR終わったらね。井浦さんと坂見さんと弓ヶ浜さんが言い争いしててね。何か怒りながら弓ヶ浜さんが私が鶴見さんにやらせたって大声で言ってたよ」

 

 何をやっているのだあのバカ娘は。黙っておけばいいものを。

 

「鶴見さん……山羽君の事好きじゃないんだよね?」

 

「まるで、興味ない」

 

 そういうと彼女はほっとしたように笑った。私に声をかけた真意はそこなのだろう。他のクラスの友人と酷いよねーなんて笑いながら言い合っている。何にせよ、こちらもそちらの事情なんかどうでもいいので適当に挨拶をして教室へと向かう。中に入ると、私の姿を見て何人かが会話を止めた。坂見なんかは露骨に私の方を見ている。

 

「鶴見さん。何かごめんねー。弓ヶ浜ちゃんがさー」

 

「うるさい。話しかけないで」

 

 弓ヶ浜がどこまで事情を話したかはわからないが、全てを知って「弓ヶ浜がさー」なんて話の切り出し方はないだろう。自分が不利にならないためのフロント活動なのだろう。くだらない。相手にする価値もない。それよりも弓ヶ浜の行動の方が謎だ。何か、あったのだろうか。考えても答えは出ない。ひそひそと雑音も多いので集中もできない。何もかもめんどくさくなったので、イヤホンを取り出して音楽を聴こう。その後、ゆっくり考えればいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後になった。未だ、脳内で上手く処理できていない。どうして? 何故? 疑問ばかりが湧く。黙っていれば何も変わらなかったというのに。クラスの雰囲気は私に対して同情的だ。現に、話した事すらないクラスメイトからも声をかけられたりした。曰く、鶴見さん可哀想だったね。弓ヶ浜さん酷いよね。本人が学校に居ないのを良い事に憶測が広まっている。坂見のフロント活動の賜物だろう。井浦はよくわからない。そして、ついには

 

「あっ、やべ。机倒しちまった」

 

「何やってんのよ……。ま、弓ヶ浜のだしいいんじゃね?」

 

 クラスの攻撃対象が私から弓ヶ浜に完全にすり替わっていた。机を倒してしまった。でも、弓ヶ浜のだからいい。トップカーストがそんな事をすればクラスの空気も変わる。私は山羽に視線を送った。彼は一瞬だけ目を合わせ、すぐに逸らすと何時ものような作り笑顔を浮かべながら「いいわけないだろ」と率先して倒された弓ヶ浜の机を直し始めた。何とか最終防衛ラインは守れた感じだろうか。ここで山羽が動かなければ完全に弓ヶ浜への攻撃はクラスで認可されたものになってしまう。悪いとはわかっていても、止められない空気の出来上がりだ。理由もある。鶴見が山羽に告白したのは、弓ヶ浜がけしかけたから。何故、弓ヶ浜はわざわざ自分が不利になるような事を言ったのか。現に弓ヶ浜は告白してくれなんて頼んですらいない。私が全部勝手に決めて自己責任でやった事だ。それなのに、何故。

 

「鶴見さん。大丈夫?」

 

「顔色悪いよ?」

 

 クラスメイトのろくすっぽ話した事のない奴らが私を心配している。ひどく、気持ち悪い。何もわからないのに、わかったようなフリをして上っ面だけの言葉をかけてくる。本当に心配するべきは、今ここに来れなくなってしまった人間の事だろうに。ついこの間まで弓ヶ浜と仲良さそうに話していた筈じゃない。あまりにもイライラしてきたので、彼女たちを無視して、私は教室を出た。どうすればいいかわからない。弓ヶ浜が勝手にやった事だし、自分には関係ない、それが今までの私だ。どうでもいい。客観的に見れば自分に有利だ。今までのように諦観していればいいのに。そのまま特に行くあても無かったので部室に向かう。雪ノ下さんに相談してみるのもいいかもしれない。だが、

 

「おう。邪魔してるぞ」

 

 LHRの時姿が見えないと思ったら、八幡は既に部室に居た。雪ノ下さんの姿は見えない。あの二人のやり取りはどうにも疎外感を感じるので二人一緒じゃなくて良かった。

 

「……何? サボり?」

 

「用事が出来たからな。とっとと今日の日誌書いて行くんだよ。だから、今日はお前一人で活動してくれ」

 

「ふぅん……。クラスが荒れてるのに呑気なもんだね」

 

「弓ヶ浜の事か」

 

 意外にも八幡は知っているようだった。何もわかっていないようで、何もかもわかっている。人の色々な部分を見るのが上手いし、よく覚えているイメージがある。模擬授業何かでも、誰が何を苦手としているのかをよく把握している感じだ。私もこの前苦手な部分を何回か当てられて、腹いせに放課後お腹を空かせた八幡の前で総菜パンを三つも食べてしまった。帰りに胃もたれを起こしたし、1キロ太ってしまったので今後ああいった仕返しは控えようと思う。

 

「知ってるんだ。……その、あいつ。何か私が山羽に告ったのを自分の所為みたいに言ったらしくてさ。それが原因で、今じゃクラスでハブられはじめたってわけ」

 

「そりゃあそうだろうな。自分が頼み事した人間が、毎日クラスで陰口叩かれてりゃ普通の人間なら罪悪感を覚える」

 

「……私のせいだって、いいたいわけ?」

 

「別にお前のせいだとかそういう話じゃない。やった事の結果だ。現に問題の解消はされた。クラスの状態は弓ヶ浜の望むようになった。これ以上、何を望む」

 

 八幡の言葉は冷たい。怒っているとかそういう事ではなさそうだが、淡々と事実だけを説明している。事実だけでいえば確かにそうだ。問題は確かに解消された。依頼はこなしたのだ。あのまま弓ヶ浜が黙っていれば何もなかったのに。私は何を言われても平気だったし、何をされたってどうでもよかった。半年も過ぎればこんな事誰も覚えてないのに。思考が上手く纏まらない。代わりに出てきたのは、陳腐な言葉だった。

 

「わかんない。でも、このままじゃ嫌だ」

 

 そういうと八幡は少し驚いたような顔を見せた。少しだけ笑ったようにも見える。何故だろうか。わからない事が面白いのだろうか。こんな、陳腐な"感情から出ただけの言葉"に何の価値があるというのか。

 

「……そうか。なら、考え続けろ、留美。何が嫌なのか。どうすれば嫌じゃなくなるのか。全てを計算して、最後に残ったものがお前の答えだ」

 

「そんな事言われても……」

 

「仕方ねぇ。じゃあ、聞いてやる。何がわからないのか。そのまま放っておけばいいじゃないか。弓ヶ浜がお前のした事の後始末をひっかぶってくれた。お前に何の損がある?」

 

「確かに私には有益だよ。でも、それで弓ヶ浜が酷い目にあったら、意味ないじゃん。私は、そんなもの欲しくなかった!」

 

「そうだよな。弓ヶ浜もきっとそうだろうよ。お前に相談した結果、結果は出たけど今度は、お前が酷い目に遭い始めたからな。見ていて気分の良いもんじゃないだろう」

 

「──っ! 私は、あんなの別に……」

 

「前にも言ったよな。お前がいくら強くたって、お前の周りが強いとは限らないって。お前を大事に思っている連中が、その姿を見て心を痛めない筈がないだろう」

 

 ──ふと、思い出した。昔のことを。あの日、助けてくれたことも含めて全部。とても嬉しかった。憧れた。ああいう風になりたかった。強く、なりたかった。ただそれだけだったのに。どうして今になって現れてこんな事を言ってくるのだろうか。そんな、自分が弱くなってしまうような事を。そんな事を言われたら、もう何もできない。

 

「全部諦めて、見限って、何も期待しないで──。そうやって独りでずっと頑張ってきたのに、今更どうしてそういう事を言うの……? 私はただ、八幡みたいに強くなりたかっただけなのに……!」

 

「……お前のやり方は否定しない。そうでなければ救えない事だってある。だが、お前は弓ヶ浜を諦めきれていない。最後まで自分を貫くのであれば、覚悟を決めろ。何もかも全てを傷つけて台無しになっても、自分のやり方を貫く覚悟が今回のお前にはなかっただけだ」

 

「だってそれは……まさか、こんな事になるなんて思わなかったし……」

 

「そうだよな。だから、間違いは正す必要があると俺は思う。……留美。お前にとって、弓ヶ浜がどうでもいい存在なら、今回の状況において何もしようとは思わない。だって、どうでもいいから。傷つけた事にすらどうでもよければ気づかないから。それは、弓ヶ浜にも言える事だ。お前の事がどうでもよければ、今回の件は何事もなく終わっていた筈だろ?」

 

 八幡の言葉が響くと同時、私の中で弓ヶ浜との記憶が蘇ってくる。入学した時、同じクラスだった。私があっちいけオーラを出してもめげずに話しかけてきた稀有な同級生だ。クラスの中では上から数えた方が早いぐらいの立ち位置にいるのに、色々な事に気を配って、いつもへらへら笑っていて。嫌なことを顔に出さない子だった。二年に上がってからも私の態度は変わらなかったが、それでも色々と助けてもらったという認識もある。……ああ、だから私も依頼を受けようだなんて思っていたんだ。今更そんな事に気づいた。

 

「…………うん」

 

「後は、お前がどうしたいかだ。弓ヶ浜の思いに対し、お前がどう動くか。これはもう、お前にしかできない事なんだ」

 

「どうって……」

 

「今、お前にしかできない事がきっとある。──何も動けず本心を伝えられず、適当な理由を探して、それが本物だと信じてその場をやり過ごすなんて辛いだけだ。後悔しかない。だから、留美。今なんだ。今しかできない事、ここにしかないものを大切にしてほしい」

 

 八幡の顔が少しだけ悲しく歪んだ。きっと、色々とあったのだろう。雪ノ下さんとのやり取りや。結衣先生とのやり取りを見ている限りには、かなりこじらせていたように見える。

 

「お前に伝えたい事はそれだけだ。──頑張れ、留美」

 

 それだけ言うと八幡は立ち上がった。どこかへ行くらしく、スーツのジャケットを羽織り始める。ここにはもう、戻ってこないのだろうか。それとも──

 

「どこ、行くの?」

 

「先生の仕事しに行くんだよ。お前とは話した。後は、もう一人と話しに行くだけだ」

 

 

 そういうと八幡が教室から出て行った。一人残された私は考えるしかない。

 八幡はきっと弓ヶ浜を探しに行ったのだろう。私は彼女の連絡先すら知らない。知っている事といえば、今日来ていないことぐらいだ。弓ヶ浜と会って八幡は何を話すのだろうか。そして、私は彼女と何を話せばいいのだろうか。ごめん。でもない。何やってるの?でもない。言葉が出てこない。私が、何も考えず傷つけてしまった人。私に優しかった人。ありがとうでもない。この感情は何をどう表現するかわからない

 

 

 

 

 ──私にとって、彼女は何なのだろうか。

 

 

 

 

 その答えを私はまだ持っていない。そして、その答えを用意しておかなければならない。

 

 

 




13巻最高だった・・・(昇天)
ガハマさんの台詞全部ほんま好き過ぎてハッピーエンドじゃなきゃ死ぬ(過激派)
新刊読んだ熱量で一気に書き上げました。
というわけで、次回で教育実習編終わりです。
第23話をよろしくお願いします。
現状24話で完結予定です。もうしばらくおまちください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。