やはり俺の大学生活は間違っている。   作:おめがじょん

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最終話:だから、比企谷八幡はそう言った。

 

 

 

 

 春、それは出会いと別れの季節。

 大学卒業間近ともなると、四年生である俺達はそれぞれの進路に対し準備をするのが常である。地元で就職する沙希は実家に帰る準備を進め、由比ヶ浜と雪ノ下はルームシェアをするらしい。そんな中、俺と隼人と義輝といった何時もの面子は、今日も元気に早朝からホテルのレストランで皿洗いをしていた。来月から社会人になるというのに、最後の最後まで働いている。何なんだこの人生。

 

「来月から朝から晩まで働くのに、何で俺達今日も働いてるんだろうな」

 

「金がないからだろ」

 

「全員実家帰り拒否されるとか、どういう面子で御座ろうな」

 

 義輝の言葉にため息しか出てこない。まさか、春から教師になるのにまだ親元で甘える気なのか?とマジレスが来るとは思わなかった。一生甘える気だと宣言した時の母ちゃんの冷たい目は忘れられない。金は困ってるなら無利子で貸してくれると言ってくれたのが唯一の心の支えだ。しかしまぁ、ここまで学費を出してくれたので文句を言う筋合いもないのだが。卒業式と三月末以外バイトの予定がてんこ盛りなのはカレンダー見てて悲しくなる。義輝はメイドの件以降も親の信頼を得る事はできなかった。なんせ就職先が決まってないというか、進路はラノベ作家様だ。どうにかこうにか新人賞に引っかかって本を出版できるようになったらしい。

 

「お前が言うなよ。本出せなかったらプー太郎のくせに」

 

「お主こそ。ベンチャー企業の代表取締役兼CEOなんて偉そうな肩書がつくらしいが、大学から金を貰わんと運営すらできんくせによく言うわ。CEOがこんなとこで皿洗ってていいんですかー?」

 

 隼人は起業して春からは代表取締役兼CEOなんて肩書がつく。といっても、大学のプロジェクトの一環の起業だ。これからが勝負だなんて、息巻いてる。なんならまず何故かその会社に入る事になっている戸部の内定取り消しをするところから始めてほしい。進路についてはご家族とまた喧嘩したらしく、こいつも無事実家拒否組に入った。

 

「こういうのもきっと良い経験になるんだよ。お前の小説、女の子の気持ちの描写が薄っぺらいのに、主人公が苦労してるとこは妙にリアルなんて書かれてんだから。対人経験もっと積め」

 

「リアリティなんて糞! 今の時代は異世界転生とか悪役令嬢とかだから! どうやって経験積むの!?」

 

「お前ら……。くだらねぇ話ばっかしてねぇでさっさと皿洗えよ」

 

 いつの間にか俺ばかり洗っているような気がしたので一言。バイキング形式の朝食なので次から次へと休む間もなく汚れた食器が流れてくる。そして、隼人と義輝は一瞬冷ややかな目で俺を見た後、

 

「はァ。安定した職業に就く奴は言う事が違うのぉ。貴様など、どこぞの山奥の男子校にでも赴任してしまえ!」

 

「まだ総武に赴任できると決まったわけじゃないしな。むしろ確率は限りなく低いだろうし。お前、平塚先生いないと本当にダメそうだしなぁ」

 

 そう言いのけた。義輝も隼人も社会人を前にして緊張しているからか、不吉な事ばかり最近言う。それに加え、新しく家も探さなければならない。しかも、金もないときた。大抵のものは処分し、金にしたので荷物は殆どない。後は家を決めるだけなんだが、俺は赴任先が未だ知らされず、隼人は東京の外れに事務所を構え、義輝は関東ならどこでも良いといった感じだ。千葉よりの東京の外れ辺りなんかは家賃もそこまで高くないので住んでもいいとは思っている。だが、流石に市原とかに赴任となると少し遠いようにも感じる。つまるとこ、決まらない。

 

「うるせぇよ。とりあえず、神に祈りながらバイトするしかねぇだろ」

 

「ごもっともで」

 

「うむ。我も早く金貯めて新居見つけなきゃ……」

 

 

 終わりが迫っている。この騒がしく、ずっと働き続ける日々もあと少しなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皿洗いのバイトも終わり、ようやく労働から解放されたのもつかの間、今度は腹の虫が音を立てる。

 出勤前にまかないがあるが、働いている内にそれも全て消費されてしまったようだ。義輝ですら多少なりとも痩せてきているのだ。俺や隼人なんかは消費と供給のバランスが悪くなっている。この後家に帰って、それぞれやる事がある。各自家探しをしたり、社会人に向けての準備だ。俺も、授業の準備もあるし、隼人は会社のためにしなきゃならん事もあるし、義輝も小説を書かねばならない。その為にはどうしてもカロリーを摂取しなければ始まらない。今なら由比ヶ浜の料理だって喜んで食べれそうだ。味はどうあれ、カロリーは存在しているからな。自分で言ってて悲しくなってきたけど。

 

「飯どうするよ?」

 

「節約したいし、プランIはどうかな? 確か、土日は朝番入れてた筈だからもう終わるだろ」

 

「うむぅ……。あれは諸刃の剣。しかし、背に腹は変えられぬな」

 

 あのプラン、コスパは凄く良いんだけど人として大切なものを失ってしまうから俺もやりたくはない。しかし、今は一円でも多く金が欲しい。だらだらとバイト先から三人で歩く事二十分。ようやくお目当ての場所までやってきた。俺達が向かった先は、一色がバイトしているコンビニだ。店内を見るとあざとスマイルを浮かべてレジを打っている。少し早めに到着してしまったらしい。裏口の隅っこへ移動し、息を殺して一色を待つ。そして、

 

「げっ。めんど」

 

 待つ事十数分。ようやくバイトを終えた一色は、ドアを開けたらすぐに俺たちの存在を認識したらしい。滅茶苦茶嫌そうな顔をすると、一度店の奥に引っ込んだ。めんどってどういう事?だが、すぐにもう一度出てくるとため息をつきながらこちらへ歩いてくる。俺達も一色に駆け寄り、

 

「「「一色さん、お勤めご苦労様です!!!!!!!!!!」」」

 

「あー……はいはい。もういいですから。とりあえずここから離れましょ」

 

 俺達の最後のカロリーを使い果たす勢いの出迎えも、ただの迷惑らしい。こちらも視線は既に一色ではなく、こいつの手に下げられた廃棄弁当に向かっているのでこの態度には何の文句もない。一色がコンビニでアルバイトを始めてから、何度もやってきた。最初は弁当を餌に俺達に色々無理難題を吹っかけてきた一色だが、流石に一年以上経つとそれも飽きたらしい。こうしてだらだらとバイト終わりの一色を送るのが日常になってしまった。義輝と隼人なんかは、もう既にどこで弁当を食べるのか相談を始めている。

 

「一色……。今日の弁当は?」

 

「開口一番それですか……。からあげ弁当二つと、そばとパスタですよ。他に言う事ないんですか」

 

 いろはすってば何だか機嫌が悪い。何かしたっけと思うが、そもそもバイト先に廃棄弁当狙いで押し掛ける時点で普通不機嫌になる。それを除外したとしても、何時もと変わらない。何がいけないのだろう。

 

「最近、全てにおいて食欲が優先されちまうからなぁ……」

 

「そーですか」

 

「何か怒ってない? バイト先突撃されるのやっぱ嫌だったか?」

 

「逆ですよ」

 

 何なのいろはす。毎日突撃していいの? 迷惑かかりそうだし隼人と義輝には内緒にして俺だけ来よう。うん。そう決めた。

 

「先輩たち、行っちゃうんですよね」

 

「ああ……。そういう事」

 

「私だけ残して、大学卒業するなんてどうかしてます。一体、責任はいつとってくれるんですか」

 

「道のど真ん中でその物言いはやめてくれない?」

 

 来月から一色は俺達のいない大学生活を送る事になる。俺も隼人も義輝も沙希も居ない。高校最後の一年間そうだったでしょ?と言いたいところだがそこまで野暮な事をいう必要もないだろう。確かに、そう言ってくれるのは純粋に嬉しい。昔の俺だったら、またあざとい事を言ってなんて笑って流すだろう。だが、俺は知っている。高校だけの付き合いじゃない。大学でも関係は続いたから。死ぬほどあざといし、男すぐはべらすし、女の敵は多いし、人をハメようとするけど、なんだかんだ可愛いし面白い奴なのだ。

 

「でもお前も、教育実習やるんでしょ? 俺が総武なら、またすぐ会えるさ」

 

「総武じゃなかったらどうするんですか。会いに来てくれるんですか? てゆーか、何で知ってるんですかっ!?」

 

「教授が言ってた」

 

「うっわ最悪! 別に……先輩がどうこうとかじゃないんで安心してください。私にも色々と思う所とか憧れる所とか……。まぁ、私みたいな子は絶対どこの学校にも居ますからね。だから……」

 

「別にいいんじゃねぇの。どんな理由だってよ。……俺だって、誰かが言ったたった一言で決めたんだから」

 

「……女の影が見えますね」

 

「……ノーコメントで」

 

 お前もサイコメトラーかよ。触れてないのに。そして、しばらく俺を見た後はいつものようにあざとく笑った。好戦的で、愛嬌があって、あざといなこの子って感じてしまう何時もの一色いろはさんである。

 

「……まぁ、少しだけ良い事言ったのでお弁当わけてあげますよ。先輩は、蕎麦ですね」

 

「えっ!? おかしくない? 平等にじゃんけんで行こうよ……」

 

 俺がそういうと離れて歩いていた隼人と義輝がぐわっとこちらに近づいてきた。さっきまでは我関せずみたいな態度貫いていたのに。

 

「いや、違うぞ八幡。これは、いろはが好意で持ってきてくれたものなんだからな。いろはに決める権利がある」

 

「では、我と隼人はからあげ弁当だな。うむ。一色殿。この先の公園で食べようと思うのだが、いかがであろう」

 

「お前ら……っ!」

 

 俺が弁当に手を伸ばすと、一色がひらりとかわして隼人にパスした。流石に相手が悪い。瞬時にわかってしまう悲しさがある。 

 

「では、公園まで競争で。ビリの人がジュース奢りですよー」

 

 そう言うと同時、一色が駆け出した。隼人に荷物を持たせ、すぐにこの提案まさに小悪魔IROHA。先に駆け出していく一色はとても楽しそうだ。隼人と義輝もそれに続き、走り出す。こんな事ばかりしていた。それも今日で最後なのかもしれない。──最後まで負けっぱなしじゃいられない。負ける事に関しては俺が最強という称号もそろそろ返上しても良いだろう。

 

「待てよっ──!」

 

 まずは義輝だ。最近痩せたからか少しだけ早い。何とか追いつこうと俺も一歩踏み出し、駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一色達と公園で弁当を食った後、奴らとは別れて俺は沙希の家へとやってきた。

 飯食ってる途中、今晩は鍋が食べたいという話になり、一色と共に義輝と隼人はうちの大学の農園部まで野菜の調達に行った。俺に任された別のミッションは沙希の引っ越しの手伝いだ。川崎沙希には四年間本当に世話になった。一生頭が上がらないかもしれない。後、肉余ってませんかね。VIP待遇で迎えるからさ。

 

「悪いね。八幡」

 

「世話になってるからな。ああ、それと今晩鍋やるんだけど来るか? 面子はいつもの奴らだ」

 

「鍋か。……肉あったかな?」

 

 そそくさと冷蔵庫を覗きに行く沙希。本当にこういう心遣い痛み入ります。無事に肉もあったようで、これで今晩野菜鍋という悲しいオチは回避したらしい。もう一人のパトロンにも声をかけていくように連絡しておこう。呼ばなきゃ呼ばないで拗ねるし暴れるし……何であの人とつるんでるんだろう?

 

「じゃあ、八幡。そっちお願いね」

 

「おう」

 

 流石に友人と言っても沙希の私物に触るのは緊張するので、俺の役割は基本荷物運びだ。段ボールを部屋の中から玄関近くまで運び出すだけ。週明けには千葉に帰るらしいので、元々家具や荷物の少ない部屋だったが、殆ど荷造りされていて生活感が殆どない。

 

「実家に帰るんだっけか?」

 

「最初はそうなるのかな。でも、けーちゃんも大きくなってくるし、生活が安定したら家出てくと思う。大志は家に居てほしいから」

 

「偉すぎる……」

 

「一応、あんたも長男なんだけどね……。新居決まったの?」

 

「いや、まだ。赴任先も決まってないし」

 

「……ふぅん。広いとこ借りるなら、その内ルームシェアしてもらおうと思ったんだけど」

 

「金ないし、広いとこは無理だろ……」

 

 ぐだぐだと喋りながら荷物を運んでいたが、今なんて言いました? ルームシェア? 俺と、沙希が? 滅茶苦茶いいなって思うけど、滅茶苦茶恥ずかしい。ちらりと沙希の方をみるが、何時ものように澄ました顔をしている。俺だけ照れてるって何なの? 俺の視線に気づいたのか、何?みたいな顔をして見てくる。お前が何なんだよ。

 

「いや、流石にそれまずいでしょ」

 

「ふっ。何照れてんのよ」

 

 悔しい。完全に遊ばれている。しかも四年間面倒を見て貰ったので逆らえる気がしない。これが、カーチャン化というやつか。声優もママになる時代だしな。違うか。

 

「楽しかったね。四年間」

 

「……まぁ」

 

「まだ素直になれないんだ。私は、楽しかったよ」

 

 沙希が感慨深くそう呟く。高校卒業してから今日に至るまで色々な事があった。俺達が風邪ひいた時は看病してもらった。バイトを紹介してもらって四人で働いた事もあった。完全に頭が上がらなくなってからは、毎年沙希の誕生日は盛大に祝おうとして毎回ドン引きさせて怒られた。コンビニの前で酒飲んだり、一緒にバッティングセンターにも行った。あっという間だったし、今思えば──とまで考えて俺もようやく観念する事ができた。

 

「──そうだな。俺も、楽しかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 沙希の手伝いも終わり帰路につく。買い物をしていくから、先に戻って机やら鍋やらの準備をしておけと言われたので真っすぐ家に戻る事に決めた。一色達はじゃんけんで負けた奴が野菜を全部持つというゲームをしながら戻ってくるらしい。大量の野菜を持たされている半泣きの一色の写真が送られてきた。鬼か、あいつら。沙希から持たされた肉の量を見ると心許ない。一瞬で消える事がほぼ確定しているが文句など有る筈がない。こうなっては最後のパトロンに期待せざるをえない。有事の際は共同貯金から出すしかないだろうが。

 

「ひゃっはろー」

 

「来るの早くない? 暇なんすか?」

 

「いきなり辛辣過ぎない!?」

 

 家に帰ると陽乃さんがベランダに座っていた。確かにパトロンに対して辛辣かなぁなんて思うけど、スーツ姿なのに、既に缶ビール空けてるの本当にイメージが壊れるのでやめてほしい。

 

「何か今日やる気でなくてさー。雪乃ちゃんに全部投げて来ちゃった」

 

「邪悪過ぎる……。まぁ、上がって下さいよ」

 

「んーん。ここに居る。あ、これ。肉買ってきたから。その分、今日は接待してもらうからね」

 

「ありがとうございます。お心遣いありがとうございます」

 

「本当に、食べ物が絡むと素直になったよね……」

 

 家の鍵を開け、中に入る。冷蔵庫に肉を入れ、無駄にでかいテーブルを拭く。ゴミ捨て場で拾ってきたもんだが、なんだかんだ付き合いも長くなった。酒は今日でできれば全て飲み干したい。床下収納から最後の梅酒の瓶を取り出し、テーブルの近くへ。後はカセットコンロと鍋と食器の準備だ。箸はいつもの割りばしを使えばいいだろう。ガスボンベをセットし、火をつけてみる。中身もありそうだったし、今日一回分ぐらいは持つと思いたい。準備も終わって、陽乃さんおつまみとか要るかななんて思っていると、

 

「準備終わった?」

 

「ええ、後はあいつらが戻ってくるのを待つだけです」

 

「じゃあ飲もう。一緒に飲もう」

 

 陽乃さんの隣の座り、ベランダで俺もビールを貰った。暦の上ではもう春である。夕暮れ前のこの時間なら、まだ外で飲んでいても暖かい。ビールを口に含んで思う。──色々な事が変わったと。高校時代、昼間から酒を飲むなんて誰が想像できただろうか。あの雪ノ下陽乃と昼間からこんなぼろい一軒家のベランダで飲むなんて事が想像できただろうか。その変化とビールの苦さを飲み込むと、暖かい風が吹く。穏やかな日常だ。居心地が良い。

 

「引っ越し先決まったの?」」

 

「いえ、まだです。とりあえず千葉には帰ろうかなと」

 

「ふぅん……。隼人とヨッシーは東京だから、離れちゃうね」

 

「でもそんな距離あるわけじゃないですからねぇ……」

 

 義輝は作家なので関東近辺でいいだろうし、隼人は千葉寄りの東京だ。別段会えない距離というわけではない。それどころか、この生活が終わったら──とまで考えて、その先は何も言えなかった。考えたくもない、のだろうか。

 

「ちなみに、八幡の赴任先は概ね総武だよ」

 

「……何で知ってるんですか?」

 

「母さんが調べてたもん。また、うちに顔だしなさいよ。喜ぶから」

 

「あれ喜んでるんですかね……」

 

「男の子を育てた事がないから新鮮なのかもね。隼人なんかは手のかからない子だったし」

 

 何だか怖い話題になってきた。どうして他人の子供の進路調べてるんですかね。何なら子育てってどういう事でしょうか。雪ノ下家の子供は遠慮したいんですけど。雪ノ下妹の言葉が脳裏にちらつくのがまた嫌なのだ。この話題を続けるのが怖くなってきたので、ここで少し話を変えたいところだ。

 

「……何だか色々とありましたね。この四年間。まさか陽乃さんとこんな風に飲む仲になるとは思いませんでした」

 

「そうだね。それを言うなら、隼人とヨッシーと一緒に住むなんてのも、想像もしてなかったんじゃない?」

 

「確かに……。全員個性の暴力みたいな所ありますから。よく仲違いしなかったもんです」

 

「……君たちの関係って何なんだろうね」

 

 俺達の関係。わかりやすく言えばルームメイトだ。友達かと言われれば、今の俺はうんと返事をしてしまうだろう。それぐらいの付き合いはあるし、それぐらいは言えるような人間にもなった。陽乃さんは俺にどんな答えを期待しているのだろうか。親友です、とか言ったら呆れるだろうか。俺もそうとは言い難い。友達と親友の違いについての定義から考えなくてはならない。やべえあんま成長していない。誰ノ下さんだよ。だから──

 

「共依存じゃないっすか?」

 

「嫌味な子ねぇ……」

 

「冗談ですよ。少なくとも俺もあいつらも、今は自分で考え自分で発言してきました。……陽乃さんに関係をどんな言葉で定義されたって、何言ってるの? バカなの? 仕事行けよぐらいは言い返せますよ。それだけのものは手に入れる事が出来ましたから」

 

 俺がそう言うと陽乃さんに頭を叩かれた。痛いけど、彼女は満足そうに笑っている。 

 

「それが、君の間違い続けた青春の答えってわけだ」

 

 俺はきっと数多くの事を間違えてきた。多くのものを失い、多くのものを得てきた。間違いだらけの青春だったのかもしれない。青春ラブコメとすれば失敗の部類に入ってしまうだろう。だが、それでも良かった。大切なものは今でも失っていない。そう思えるだけの日々が俺の胸の中にはある。これで良かったのだと、学生生活最後にして此処にたどり着けた事に感謝をしてもいい。春の暖かい陽気に、ビールのほのかな苦みが丁度いい。今の俺を象徴しているような感じだ。全てが上手くいったわけではない。少し苦さも残った青春時代を過ごしてきた。だから──

 

「俺の青春ラブコメは間違いだらけでしたが、選んだ道はこれで良かったんですよ」

 

 俺は胸を張ってそう言ってやった。

 

 

 

 

 

 




完結しました。比企谷八幡のこれからに幸あれ
今まで読んでくださった方々ありがとうございました。
本編でも少し触れましたが少しだけ書いた短編がまだ残ってますので
ワンチャン番外編として投稿するかもです。
誕生日の話とかタイムカプセルの話です。


全く宣伝してませんでしたが、
自信の八結とカレーへの愛を詰め込んだ。

「美味しい料理の作り方」という短編を投稿してありますのでそちらもよろしくお願いします。

ではまた何時か。
更新情報とかは少なくなりますが、Twitterはこちらです。
@omegajhon1





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