やはり俺の大学生活は間違っている。   作:おめがじょん

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第3話:やはり俺の後輩は大学生になってもあざと可愛い。

 大学生活は「キラキラしていて、人生で一番充実している時間」誰かがそんな事を言った。

誰しも想像するだろう。仲間と毎日ワイワイ騒ぎ、自分の好きな勉強をして、飲み会をして、ついでに恋人何かもできるかもしれない。俺もほんの少しだが、そんな期待を持った事がある。高校でも上手くいかなかった、だが大学なら違うだろうと。

 

 大学は個人主義で生きる事ができる。

毎朝教室に行って出席が取られる事もない。クラスメイトというくくりも高校より強くない。本当に、自分である程度決めて動く事ができる。集団行動が苦手なぼっちの俺でも快適に過ごせる最高の環境だろう。そんな事を夢見ていた時期が俺にもありました。だが、実際入ってみれば、これが中々俺みたいな引きこもりぼっちに辛い。

 

 まず第一に、友達が居ないと結構キツい。

オリエンテーションに参加しただけでは、授業の組み方もよくわからない。どう生活をしていけばいいかわからない。学生課に行って相談すれば済む事だが、そうやって気軽に人にきける人間ならぼっちじゃないし、そもそも友達や顔見知りの人間くらい作れる。更にクラスという単位も、担任という制度もないので個人的な面倒を見てくれる人が居ない。今となってはあのヤニ臭い美人女教師が女神に思えてくる。

 

 第二に、自分のしたい勉強よりも単位の取得を優先しなくてはならない。

これはもう少し自由が利くと思えば、意外と必修授業が多い。こんなん興味ないわみたいな授業と受けたい授業がかぶってしまうなんてザラだ。しかも俺は人前で発表したりする事があまり得意ではない。人と上手く喋れないのに、大勢の前で喋れるわけがない。必然的に、テストが成果発表等という科目やペアを組んだりする授業をを避けてしまうわけで、俺の初年度の授業割り振りはとても歪なものになってしまった。

 

 第三に、金がなければ何もできない。

意外と学食というものは高い。世の中には安い大学もあろうが、俺の大学は比較的値段が高いものが多い。授業が終わって皆でランチ等というものは、バイトをしているか、両親に比較的経済的な余裕がある子供限定のものとなっている。 俺は平日のみ家と大学を往復するというヒッキーの名に恥じない生活を心がけているのでバイトもしてないし、昼飯はもっぱら生協で買った100円のカップ麺である。

 

 結論を言おう。

大学生活は引きこもりぼっちには厳しい。自分から人間関係の構築に積極的に動く事をしないと、4年間空虚なまま、辛い毎日を過ごす事になる。ある日突然、美人の暴力教師に連れられて無理矢理部活に入れられたら、そこには学年一の美少女が居たなんて事は大学ではおき得ないのである。現実を見よう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけでだな。……まぁ、本当にお前が入学してくれて良かったわ、一色」

 

「はっ! 何なんですか久しぶりに会ったと思ったら、いきなり私が居なきゃ駄目発言とか口説いてるんですか? そういう台詞は時と場所と場合を選んでムードを作ってからお願いしますごめんなさい」

 

「このやり取りも久しぶりだな……」

 

 大学の隅にあるベンチで俺と一色いろはは向かい合ってそんな会話をしていた。高校時代で縁が切れると思いきや、何とこの子は俺が卒業した翌年、同じ大学の同じ学部に入学してきた。どういう意図で一色がこの大学に入ってきたかは知らない。学業のレベル的に丁度良かったのかどうか、俺はそこまで一色の事を知らないのでわからない。しかし、一色が入学してくれたのは個人的に本当にありがたかった。一年生の終わりにこのままじゃマジで留年する。何て思って二年生時には少しでも人間関係を築くべく、自分なりに頑張ってみたものの、進級し、人間関係が出来上がった時分となっては一切溶け込む事ができなかった。

 

 唯一、ゼミ長が暇な時偶に相手してくれるぐらいだった。泣ける。そんな時、一色が同じ学部に入学してくれて、学内の情報を交換できる相手ができたのだ。入学して早々から、同じゼミの女子に嫌われ始めた一色も無駄に先輩という使い捨ての盾があるのは一つのカードにもなっただろう。俺達はwin-winだっけか? そんな様な、手をくねくねろくろを回したくなるような関係を築けたのはお互いにとって有益だったろう。

 

「先輩は、用事がある時しか私に話しかけてくれませんからねー。本当に、私は先輩にとって都合の良い女なんですね」

 

「ちょっと待っていろはす。その言い方は厳しくない? だってお前何時も周りに男が居るし、近づくと皆で睨んでくるんだもん」

 

「先輩、年下にビビり過ぎです……。確かに、あの人達と居ると他のグループと話しづらいんですよね。私は、広く浅く人間関係を築きたいのに」

 

「最近のお前、傍から見ててオタサーの姫みたいな感じになってるからな」

 

「あんなのと一緒にしないでくださいよ……」

 

 同じ男を手玉にとるジャグラーにも住み分けというものがあるらしい。俺から見てると、全く同じ事をやっているようにしか見えないんだが。まぁ、一色は金を巻き上げないだけマシだと思いたい。それに一色はツインテールにしたり、毎日ニーソを無駄に履いてこないだけいいだろう。高校を卒業しても外見にあまり変化はない。ピアスが増えたぐらいだろうか。 

 

「そういえば先輩、聞きましたよ。何だか、葉山先輩と中二先輩と一緒に暮らし始めたらしいじゃないですか」

 

「ああ、なりゆきでな」

 

「ルームシェアとか憧れますよねー。しかもあの葉山先輩とだなんて。どういう風の吹き回しですか?」

 

「色々あったとしか言いようがねぇんだよな。俺もあいつも、お互いを認め合って許容できる関係になったって事じゃねぇの?」

 

「まさかのリアルはやはちですか……」

 

 何か不穏な単語が聞こえたけど聞こえない。一色は絶対にそっちに行ってほしくないんだけど。ようやく学校卒業してあのうめき声聞かなくて済んでたのに。俺の不安な視線に聞こえたのか、一色は「ん」と一度咳払いをした。そんな小さな仕草もいちいちあざとくて可愛い。

 

「でも、先輩変わりましたよ。……昔よりずっと雰囲気が柔らかいです。前みたいにいちいち皮肉を挟まなくなったし。斜に構えた態度もなくなったし。無駄に上から目線でカテゴライズとかしなくなったし。目の腐りようも少しはマシになったけどまだまだですし。私のボディタッチの効果も薄れてつまんなくなってきたし」

 

「おかしいな。最初褒めてたのに、最後の方悪口になってた気がするんだけど」

 

「気のせいですよ。私は、先輩の味方ですから」

 

「それ絶対、何時か裏切る奴の台詞だからな」

 

 俺の言葉に、一色は「ううん」と首を振り、居住まいを正す。そして、真面目な表情を作ると、

 

「裏切りませんよ、絶対に」

 

 とても優しい表情でそう呟いた。思わず、息を呑んでしまう。

 

「先輩が居てくれたから、生徒会長楽しかったですもん。だから、今度は私が先輩の味方になってあげます。……ついでに、東京での妹ポジションにもなってあげます」

 

 最後は冗談めかして一色がそう言った。最後に付け加えてくれたその言葉は俺への逃げ道なのだろう。軽口を叩いて、本心へと話題の焦点を持って行かせず更に次への会話の糸口としていく。流石は八幡検定を持っているだけの事はある。だから、俺もそれに合わせてやる事しかできない。そんな自分に嫌悪感すらわく。

 

「俺の妹ポジションは小町が不動なんだよ。残念だったな」

 

「そうですか。では、別のポジションを探す事にします」

 

「そうか、頑張れよ」

 

「勝手に頑張りますので、先輩は何時ものように適当に待っていてください」

 

「…………ん」

 

 何となく居心地が悪くなったのでそんな曖昧な返事しかできなかった。一色はニコニコと楽しそうに笑っている。こういう時の女は怖い。旗色が悪いので「よっこいせ」と年寄り臭いことをいいながら立ち上がる。

 

「先輩は、今日はもう上がりですか?」

 

「そうだな。今日はもう授業ねぇし、バイトもねぇからスーパー寄って帰るだけだ。この後、タイムセールで卵が安くなるんだよ」

 

「うわぁ……主婦みたい」

 

「まだ専業主夫諦めてねぇからな。それに、今日は義輝と隼人は2人とも夜勤のバイトなんで、必然的に買出しと料理当番は俺になるってわけだ」

 

「へぇぇ……んじゃ、私もご一緒しますね」

 

「は? 駄目に決まってるだろ」

 

「えー。でも川崎先輩は偶に行ってるみたいじゃないですかー。先輩、えこひいきするんですか?」

 

 こう言われてはしまっては困る。あんまり男だけの家に女の子招くのよくないと思うんだけどね。……ちなみに沙希はアレだ。特別だ。何か最近では俺達のカーチャン代わりになっているまである。それに、あいつは弟が居るので俺達の扱いも心得たものだ。こいつを一度連れていって、入り浸るようになっても困る。高校時代も、何時の間にかあの部室に居るのが当然みたいな空気出してたもんなぁ。

 

「……仕方ねぇ。じゃあ、まず俺の買い物に付き合ってくれ」

 

「お、いいですよ。やっぱり先輩は私とお買い物デートがしたいってわけですね」

 

「違ぇよ。卵の1パック100円はお一人様一個限定だからな。お前が居れば2パック買えるって話だ」

 

「うわぁ……。それちょっと聞きたくなかったです。あんまり、女の子を幻滅させるような事言っちゃ駄目です。真実より優しい嘘をくださいよ」

 

「あれおかしいな。沙希に言った時は、目を輝かせて喜んだんだけどな」

 

「あの人はまた特別ですよ……」

 

 そんな会話をしながら俺と一色は大学を出て最寄のスーパーへと向かった。お陰で、卵を2パックを買う事ができた。後は夜の献立を考えるだけである。ちょっと怪しいキャベツが冷蔵庫に転がっていた気がするので、100円の袋焼きそばも買って置く。今晩は目玉焼きと焼きそばでいいだろう。後の問題は一色だ。

 

「なぁ、一色。お前男の裸って見た事あるのか?」

 

「は? なんですいきなり? 気持ち悪い」

 

 あら、今回は振られない。という事は素で気持ち悪いと思っているのだろう。俺の聞き方も悪かったけど、結構これもキツいね。

 

「ああ、悪かった。ほら、俺達の家って男3人暮らしだからな。格好なんか適当なわけだよ。義輝はほぼ半裸で家の中をうろつくし。あの隼人だって、お前が普段みているようなビシっとしたスタイルじゃ居ないぞ。そこんとこ大丈夫かなと思ってな」

 

 一色の脳裏に義輝の半裸が想像されたのだろう。顔が強張ったのがわかる。ついでに、隼人のイメージにも少しヒビが入ったようだった。

 

「つか、何で男の家ってあんなに汚れるんだろうなぁ」

 

「あー。食べ残しとか飲み残しをそのまんまとかにしちゃう人居ますよねー。後は、服とかが床に転がっていたりとかですよねぇ」

 

「それもあるっちゃあるんだけど。……なんか掃除しても縮れ毛が必ず出てくるんだよな。この前なんか漫画の隙間に挟まっててなぁ……」

 

 俺の言葉に一色の動きが止まった。口がパクパクと動いているが、言葉が出ないようだ。大方、よければ私が掃除お手伝いしますよーとでも言うつもりだったのだろう。それは申し訳ないので、このままずっと言わなくていい。そして、俺はダメ押しの一言を放つ。

 

「だから突然来られるとそういう迷惑がかかるかもしれなくてな。今日じゃなくて、別の日に掃除した後に来てくれると助けるんだけどなぁ」

 

「う……」

 

 決まったようだ。一色は力なく項垂れ、俺はこれを幸いにと距離を空けていく。こちらとしては一緒に卵を買わせた時点で8割ミッションは達成できたのだ。一色もいいように使われたという事は気づいているのだろう。だが、どうしても生理的嫌悪感というものは中々拭えないものだ。

 

「じゃあ、一色。また今度な」

 

 頭をぽんぽんと叩いてやり、踵を返そうとすると一色が顔を上げた。顔が少し赤くなっており、頬も不満げに膨れている。そして、怒りに震える瞳で俺を見据えた後指を差し、

 

「先輩のバカ! ボケナス! 八幡! はるさん先輩に言いつけてやるーー!」

 

 ありったけの罵倒をブチかました後、走って逃げ去ってしまった。ていうか、八幡って悪口じゃないからね。俺の名前だからね。そこに並べちゃ駄目だよ。ついでに、最後の方に不穏な名前があった気がするが気にしない。あれは天災みたいなもんだ。天才でもあるしな。仕方ねぇよ。寒いか。一色が走り去って見えなくなるまで見送ると、不思議と笑いがこみ上げてきた。やはり俺の後輩は大学生になってもあざと可愛い。そんな感想を胸に抱きながら俺は薄く笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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