やはり俺の大学生活は間違っている。   作:おめがじょん

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第7話:大学生が本気を出す時は大抵くだらない事が多い。

 

 爽やかな風が吹き、飛び散った紙片から「週末は文化祭」という文字が見えた。11月にもやるのに、世の中には6月にも文化祭を開いちゃうイベントが大好きな大学がこの世にはあるらしい。それ何処の大学? うん、俺の大学。とはいっても、サークルに所属していない俺には特にこれといってやる事もない。例年通り、家で過ごす。これに尽きる。ゼミの奴らが何かやりたいねーなんて話していたのが聞こえたが、俺には特に声がかかっていない。……計画倒れしたよね? 俺のみ抜きで何かやってないよね?別に奴らが文化祭を楽しもうが何でもいいが、これが教授も関わっていたりすると結構まずい。ただでさえ、協調性がないと呆れられているヒキタニ君の評価が更に下がってしまう。でも先生。それはヒキタニ君が悪いのであって、僕は比企谷なので関係ありませんなんて言い訳が浮かぶも多分通らないだろうなぁなんて思ったのでもう考えるのはやめよう。カロリーの無駄だ。

 

「………………」

 

 現在俺は家の居間で寝転んで初夏の爽やかな風を楽しんでいる最中なのだ。動くと腹が減る。そうすると食費がかさむ。だから動かない。なんて頭が良いのだろう。隼人も義輝もじっと動かず本を読んでいる。こいつらも同じ結論に至ったのか、かれこれ4時間無言で男3人がぴくりとも動かないという行為が続いているのだ。そんな事を考えていると、玄関のベルが鳴った。…………誰も出る気はないようだ。家賃も光熱費も払ったので大家さんが取り立てにきたり、電力ガス会社の社員でもないだろう。ならば無視をするに限る。俺達は無言でそう結論づけると、そのまま黙っているとドタドタと足音が聞こえた。

 

「あー! やっぱり先輩達、居留守使ってたー!」

 

 現れたのは一色だ。珍しく何時ものくっそあざとい格好ではなく、今日はTシャツにジーンズといったラフな格好だ。こんな一色初めて見たし、何だかんだで似合ってはいる。

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

「ちょっと先輩達無視しないでくださいよー! 折角、可愛い後輩が遊びにきたんですよ?! もっとこう、歓迎ムードとかないんですか!?」

 

 そもそも何でこの家の場所を知っているのだろうか。大方、大魔王か沙希に住所でも聞いたんだろうが、やはり年頃の女の子が男だらけの家にくるのはあまりよろしくない。後、ごめんねいろはす。俺達もう、今週は一日一食で生活してるの。君の相手に無駄なカロリーを使ってる余裕はないのだよ。そう伝えたいが、口が動かない。だが俺とこいつの無駄に長い付き合いなら、アイコンタクトで察してくれるだろう。届け、俺のこの想い!

 

「せ、せんぱい……そんなに睨まないでくださいよぉ……」

 

 駄目かー。この腐った目じゃ駄目かー。睨んでないんだけどなー。もうどうしようもねぇなこれ。

 

「折角、差し入れ持ってきたのに……」

 

 一色が手にさげていた袋をいじりはじめた。中には、野菜が入っているようだ………………。野菜? ええ!? 野菜!? 久しぶりに見た! 隼人も一瞬目を丸くし、次の瞬間には立ち上がって何時もの爽やかうさんくさ笑顔を浮かべ始めた。

 

「やぁ、いろは。いらっしゃい。よく来てくれたね」

 

「うむ。よく来た一色殿! 今、氷水を用意するので少し待っておくがよい!」

 

「外は暑かったよなぁ一色。扇風機も持ってくるからちょっと待ってろよな!」

 

「何なんですか先輩達はもうーーーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全くもう、先輩達はどういう生活してるんですか。一日一食だなんて。しかも、疲れるからってお客さんが来てるのに喋らないとか人として最悪ですよ!」

 

 ぷんすか怒りながら一色は俺達が差し出した氷水を一気に飲み干した。凄まじく適当なもてなしだが、後は、我が家にあるのは酒と煙草しかない。本当に人として最悪だなこれ。しかしまぁ、氷水を飲んでいくらか溜飲も下がったのか、先ほどまでの怒気は鳴りを潜めて、何時ものあざとスマイルが戻ってきた。

 

「しかしまぁ、この野菜どうしたんだ?」

 

「うちのサークルで貰ったものですよ。私1人じゃ食べきれないので、先輩達にもおすそわけです」

 

「最近のウェーイ系サークルは野菜盗んだりするの? すげぇなそれ。世紀末救世主伝説かよ」

 

「先輩、あんまりアホな事ばかり言ってると持って帰りますよこれ」

 

 一色の笑顔に言葉に義輝と隼人が焦ったような表情を浮かべ、俺を殴ったり蹴ったりしてきた。こいつらの目が割と本気なのが怖いし、痛い。

 

「見下げ果てたぞ八幡! 一色殿が窃盗なんかするわけないであろう! 大方、上京してきた農家の息子を誑かして貰ってきたのであろうに!」

 

「そうだぞ。いろはが盗みなんかするわけないじゃないか。まぁ、入手方法については俺達が知ってもしょうがないから聞かなかった事にしような」

 

「中二先輩も葉山先輩も怒りますよ? 前に言ったじゃないですか。私、農園部に入ったって!」

 

「聞いたか?」

 

「いや……」

 

「記憶にないでござる……」

 

 俺達の言葉に再び一色が頬を膨らませた。いや、だって普通に聞いてなかった気がするし。どこぞのサークルに入ったとはまでは聞いていたけど。そもそも農園部というものが一色とイメージが合わない。泥臭いし汚れるしネイルがどうたらこうたらと言ってるイメージならすぐに湧くんだけど。

 

「あれ? そうでしたっけ? ……まぁ、いいです。でも、意外と楽しいもんですよ。野菜作ったりするっていうのも」

 

「あーそうだな。ちょっと興味ある。実は俺達も近日中にもやしの栽培を始めようとしててだな……」

 

「うわぁ……貧乏くさい……」

 

 ちょっとこの子手のひら返しが凄いんだけど。自分のちょっと前の言葉を完全否定してるんですけど、ついでに「でも葉山先輩も作るならかっこいいですー」とかいうのもやめようね。

 

「それでー。実は、うちのサークルって今男の先輩達が就職活動で忙しいんですよー。元々、男の人も少ないですしねー。それで、週末の文化祭は女の子ばっかで困ってるんですよねー」

 

「そりゃあ大変だな。じゃあ、文化祭への出店は中止でいいだろ。うん、そうしよう」

 

「中止はしませーん。というわけで、どなたか1名、週末うちのサークル手伝いに来てくれませんかねぇ? ちなみに、先輩方がバイト休みなのは沙希先輩から聞いてま-す」

 

 とても清々しい笑顔で一色はそう言ってのけた。正直、面倒くさい。そもそも、俺や義輝がいきなり他所のサークルに行って馴染めるわけがない。正直、隼人も面倒くさそうな態度をしている。笑顔がぴくりとも動かないからだ。一緒に暮らすうちにようやくこいつの笑顔の種類がわかってきた。うんともはいとも言わない俺達の態度に業を煮やしたのか、一色は引きつった笑みを浮かべながら話を続けた。

 

「女の子いっぱい居ますよー。中二先輩、ハーレムですよハーレム」

 

「我、プリキュアの方がいい」

 

「……うう。葉山先輩、私がつきっきりでお相手してあげますよー」

 

「いや、そこは1人でも大丈夫だよ」

 

「…………ううう。先輩、来てくれなきゃ沙希先輩にいいつけてやる。はるさん先輩にも……」

 

「何で俺だけ脅迫なんだよ……」

 

 涙目で一色が睨んでくる。ああ……これは俺が行かなきゃいけないパターンじゃないですか。こいつの頼み事は本当に断りにくい。高校時代に色々引き受けすぎた。

 

「うううう! 誰か来て下さいよーっ!! 美味しいご飯もお酒もいっぱいあるんですからーっ!」

 

 その言葉がきっかけだった。俺達3人ははじかれたように距離をとり、お互いけん制を始める。愚かな一色め。最初からそう言えばいいものを。美味しいご飯と酒がただで食えるなら何だってしてやる。こちとらもう、かれこれ2週間はまともな食事をとっていない。隼人と義輝の目も血走っている。

 

「え……。ど、どうしたんですか先輩達?」

 

「いろは。手伝いは1人いればいいのかな?」

 

「あ、はい。1人いれば後は何とかなると思いますけど」

 

「じゃあ俺が!」

 

「我が!」

 

「俺が行く!」

 

 どうやら候補は1人だけのようだ。勝ち残ってまともな食事にありつけるのは1人だけ。ならば、こいつらを倒すしかない。しかし、三人が三人とも敵なのだ。迂闊に動いた者から殺られる。緊張が空間を満たし、張り詰めた空気が流れる。この中で一番ガタイがいいのは隼人だ。スポーツエリートなだけあってか、力も強いし背も高い。次いで、デブの義輝が体重というアドバンテージを持っている。そして、最弱なのが俺。何一ついいとこがない。定石であれば、一番弱いのから潰すだろう。俺だったらそうする。──だから、

 

「…………」

 

「…………っ!」

 

 義輝と一瞬目を合わせ、隼人に指を向ける。そして、一瞬だけ動く。俺が先に動いたフリをする事で、義輝から選択肢を奪う作戦だ。あいつも自分1人では隼人に勝てない事はわかっているはずだ。俺を先に倒したところで、義輝に待ってるいるのは敗北だけだ。あいつもバカではないので、俺とほぼ同じタイミングで隼人へと突っ込んだ。しかし、隼人も隼人で強い。義輝が全力でタックルしても、受け止めて押えつけている。運動部とデブでは話にならない。体力と体の筋肉量からして違う。2人がこう着状態になった所で、俺は手近にあったガムテープを手に取った。これで勝ちは決まったも同然。隼人を縛り付けるフリをして、義輝も一緒にガムテープで巻いていく。

 

「は、八幡貴様裏切ったなあああああああああああああ!?」

 

「バカめ。先に隼人に突っ込んだお前が悪い」

 

 2人とも力が強いので押えつけた後は念入りにガムテープを巻いていく。五周も巻いた所で、完全に2人は動けなくなった。更に、足をひっかけてころばしてやる。「ぶもっ!?」っと醜い音を立てて義輝が転んだ。下になった隼人が死なないといいけどと思ったが、かなり苦しそうだ。正直、いい気味である。あでゅー。怖いので、一応手も念入りにガムテープを巻いて一丁上がり。

 

「よし、これでいいかな。一色、週末は任せておけ。俺が農園部の手伝いに行って──ぐあああああああああああああ」

 

 背後から衝撃がきたかと思うと、体が壁に叩きつけられた。何時の間にか立ち上がった隼人と義輝が俺にタックルするような形で突っ込んできたようだ。手じゃなくて足を縛っておくべきだった。これは大誤算だ。しかも、こいつらの目が血走っている。マジでこのままじゃ殺されかねない。隼人と義輝の体重と壁の隙間に挟まれているのだ。苦しいなんてもんじゃない。段々と呼吸も苦しくなってきた。つか、何で俺達こんなくだらない事に本気になってるの?

 

「よくもやってくれたな八幡っ!」

 

「光になれえええええええええええええええええええええええええっっ!」

 

「うがあああああああああああああああああっ!」

 

 そして男3人が絡み合う不毛で、暑苦しい異様な光景に嫌気が差したのか、一色が悲痛な声で叫んだ。

 

「わかりました! 3人とも来ていいですから、もう止めて下さいよっ! 家が壊れちゃいますって!」

 

 こうして俺達の馬鹿馬鹿しい戦争は終戦を迎えた。衣食足りて礼節を知るという諺があるがやはりそれは間違っては居ない。

 




キャラも出揃ったのでだらだらとくだらない日常が続きます。

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