拒絶の血、光抜の速鬼   作:鏡狼 嵐星

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さてさて、できました。遅れました。
高校生活があるので、投稿はまちまちになるでしょうし、一話が短いですが、上がっていたら片目でも見ていただけるだけでもうれしいです。

では、また。


第零章 次世代のオリジン
隻翼と呼ばれる賞金首と悪魔を救う鬼


いつからだ? 自分の無能さに歯を食いしばりたくなったのは。

 

いつからだ? 大切なものを守る力が欲しいと思ったのは。

 

いつからだ? 大切なものの為に命を、この身をささげようと思ったのは。

 

大切なものとはいつの間にか出来ているのに、無くなったら困るものだ。なのに自分には力がない。その大切なものを守るには力が必要だというのに。

 

 

 

 

 

力が欲しいのか?

 

 

 

 

 

僕には何もなかった。僕ができると言えば、頭でものを考えるぐらいだった。でも、圧倒的な森羅万象の力には知能だけではどうしても足りない。

 

 

 

 

 

お前は何を望む?

 

 

 

 

 

何か声が聞こえる。ついに天からのお迎えかな? 僕ももう死ぬのかな。……嫌だなぁ。まだやりたいことあったのに。

 

 

 

 

 

もう一度言う、お前は何を望む、少年?

 

 

 

 

 

……もし、許されるなら。もし、それが可能なら。僕に力をください。大切のものを壊させないために揮える、そんな力を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

欲するのは力。でも、それは守りたいが故、か。いいだろう、少年。その願い聞き届けたり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒャハハハハハッ!! 逃げろ逃げろぉ。いつまで逃げ切れるぅ?」

 

どことも知れぬ深い深い森。その奥を走る小さな影が二つ。そしてそれを追いかけるでっぷりと太った男が一人。

 

「はぁっ……はぁっ、くそっ、なんで追いつかれるの!?」

 

黒髪の少女がいらだっているように叫ぶ。その隣を小さな白髪の少女が息を切らして走る。そんな途中で木の根に足を引っ掛け、転んでしまう。

 

「だ、大丈夫かにゃ!?」

 

すぐに体を起して、脚を確認する。紅く腫れており、到底使えるような状態ではない。黒髪の少女は何の迷いもなく自らの服を噛みちぎると白髪の少女の脚に巻きつける。

 

「……ねぇっ、さまぁ……。私を、置いて……いって」

 

「そんなこと出来るわけないにゃ!! 無理でも二人で逃げ切ってやるのっ」

 

白髪の少女を背負い、走る、走る、走る。しかし、無情にももう一つの足音が消えることはない。どんどんと大きくなる。その緊張感と張り巡らせてきた気が薄くなっていくのを自分でも感じている。でも負けられない。自分はだめでもせめて、妹だけ……。

 

「はい、追いついたよォォォ?」

 

その前を太った男に遮られる。その手にあった鞭がしなり、顔を的確に打ち付ける。脳を揺さぶられる感覚。思わず立っていられなくなり、座り込んでしまう。

 

「ヒャハッ、鬼ごっこは終わりさッァァァ。おとなしく家に帰るよォォォ。黒歌ァァァ?」

 

自分の妹である白髪の少女に覆いかぶさるようにその手を遮る。絶望をかみしめ、その手が触れた瞬間にかみついてやると、身構えるが。

 

(……………?)

 

いつまでたってもそれが来ない。不思議に思って、振り返ってみると。

 

「ぱぁ……、ぷひゅ」

 

腹に何者かの手を生やしたその男がいた。その男は間抜けな顔から一気に憤怒の形相に変わる。手に持っていた鞭を後ろに振りまわし、自分の腹を貫いた相手を狙うが、

 

「……ッ」

 

それを察知した相手がいとも簡単にその鞭を避けながら、手を引っこ抜く。その男は手で腹にあいた穴を押さえながら叫ぶ。

 

「いったああああい!? どおおこの誰だああ!?!? 俺はミュルヌルン家長男のディブタンテン様だぞオオ!?」

 

背後に跳びのいたのは、黒髪の少女と同じくらいの小柄な人物。肌を見せないように黒い布が巻かれている上に、奇妙なお面をかぶっていて何者か判断ができない。

 

【聞いたことがないような家柄だね】

 

ノイズがかかったような聞き取りにくい声。仮面の右側に笑いを、左側に悲しそうな顔が首をかしげるのに合わせて横にずれる。

 

【さて、早いうちに君の血をいただこうかな】

 

普通の人間なら即死するレベルのはずの怪我。それなのにその男が生きているのは人間ではないからだ。

 

【貴族悪魔、下級とはいえ純血なのには期待するよ?】

 

彼が左手を男に向け、手招きするように手を動かすと男の腹の血がそれに従うように、彼の手の上に集まり始める。その速度は徐々に速くなりだし、男の顔に焦りが見え始める。

 

「な、何をするのかああああ!! やめろおおおおお!!」

 

男の掌に魔方陣が浮かび、それに呼応するようにいくつもの弾が彼を襲う。巨大に土煙が同時に上がる。

 

「ヒャハ。俺に手を出すからだぁぁぁ。ヒャハ、ヒャハハッハ、ハヒュッ!?」

 

笑っていたその男へ向け、一つの紅き塊が弾丸ほどの速さで、野球ボールほどの大きさで顔面にめり込む。わずかに跳んだその男はさらに飛んできたその塊たちに抵抗できずにさらに後ろへ吹き飛ばされる。

 

【めんどくさいなぁ。あまり肉体には興味ないから食べていいよ】

 

相手に向けた左手が肩まで紅く染まり、それがまるで生き物のように男の方へ飛んでいく。紅かったはずの血は一部だけが黒く染まり、男の上に覆いかぶさり、すっぽりと包まれてしまう。

 

「な、なんだこれ、ぎゃぁ、い、いあたったい、や、やめ、ああぁぁぁああぁぁ…………」

 

スライムが動くみたいに上下し、声がどんどんと消えていく。そして、何も聞こえなくなった後に、人の大きさほどもある巨大な血の塊がゆっくりと近づいてくる。

 

【さて、行こうかな】

 

踵を返して、去ろうとする相手に対し、

 

「ま、待ってほしいにゃ!!」

 

黒髪の少女は震えている白髪の少女を抱えながら、

 

「あ、ありがとう。助けてわけじゃないにゃろうけど……、お礼は言っておくわ」

 

【……自分のことはよくわかってるんだね。自分たちが狙われないわけじゃないことを、ね】

 

彼は振り返り、着ているコートの中から一つの小瓶を出して、黒髪の少女に渡す。

 

【それを飲めば、しばらく痛みもなくなるだろうさ。さすがに、自由を手に入れた君たちを殺すほど血には飢えてないよ。隣にいっぱいあるからね】

 

空中にわずかに浮き上がる彼を見上げた、二人の少女は眼を見開く。それは、悪魔に、いや翼を持つ種族にとって命である翼が

 

【君たちとはまた会えるような気がするよ。じゃあ、また。猫又ちゃん】

 

少女たちから見て、左側。つまり彼には右側にしか翼がない。隻翼はハーフであれば、可能性はある。が、後ろを向いたときにわずかに根元だけ残っている翼があった。それはつまり、切り落とされた(・・・・・・・)ということだ。

 

しかし、〝優雅〟。どんなに高貴な悪魔にも出せないような、尊さがあった。月に重なるように血の太陽と共に消えていく。

 

「綺麗……」

 

「……うん、そうだね、白音」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは冥界の中心近い場所に存在するグレモリー領。とてつもないほどの大きさを誇る現魔王の土地である。その中で魔王とその家系が住んでいるお屋敷があるのだが、そのうちの一つの部屋の机に肘を突きながら一枚の紙を持っている。

 

「どうされたのですか、サーゼクス様」

 

一人のメイドが傍に紅茶を置きながら、紅き悪魔に質問を投げかける。彼は、紅茶を口に含み、見つめていた書類を彼女へと見せる。

 

「また、彼だそうだ。今回も貴族の一人がやられたみたいだよ」

 

彼女はその書類に目を通す。

 

 

 

 

 

調査隊から冥界治安維持会へ。

 

 

今回も識別名『隻翼』を確認。監視を続けたところ、ミュルヌルン家長男のディブタンテン様と接触。そのまま戦闘へはいりました。

 

 

やはり、『隻翼』の力は強大であることが再確認。観察結果より、血液の性質を変化させる能力が確認。このまま監視を続行いたします。

 

追加として、『隻翼』は自らの肉体の血液を使い魔のごとく使用可能なことも確認。貴族悪魔に対して圧倒的であり、反撃もさせませんでした。なにより、魔方陣を展開させていなかったというのが強みかと思われます。これにより、『隻翼』の危険度をA級からS級へと上昇させることを推奨。

 

ディブタンテン様は骨すら残っていないことが判明。危険度の上昇率の証拠として提示いたします。

 

 

 

 

 

「血を使役する、ですか。魔方陣なしに」

 

彼の妻にして、最強の女王(クイーン)であるグレイフィアも眉をひそめた。

 

「僕たち悪魔、他の勢力にとっても魔方陣とは最も底辺にある基盤にして基礎。それを展開しないということは、彼は魔力だけでその血を使役しているということだ。魔法を使用せずにね」

 

彼らの実力でも魔方陣なしに出来ることは、魔力を直接ぶつけるなどの単調な攻撃ばかり。それは『隻翼』の実力がとんでもないことを表している。

 

「でも、彼が殺しているのは下種な方とはいえ貴族悪魔。ランクを上げざるを得ないね」

 

『隻翼』が殺した人物は例外なく、奴隷をひどく扱っていたことや自分の利益の為だけに犯罪を起こそうとするなどのねじ曲がった人物だけなのだ。裏の事情からすると、いなくなっては困る人物ではあるのだ。

 

「……何故、彼は何も言わないんだろうね。いや、言っても無駄なことを知っているのかな」

 

「おそらくそうだと思いますよ。とても頭の良い人物だと聞きますから」

 

悪魔の駒(イーヴィルピース)の制度を導入してからというものの、無理やり眷族にするという事件を何度も聞いている。この二人は彼がその被害者であると考えている。

 

「……ふぅ、心の底からゆっくりできるようになるのは本当にいつなんだろうね」

 

魔王の一対の言葉を聞いたのはその最愛の(クイーン)だけである。

 

「失礼ですが、ご報告があります」

 

そんなところに入って来たのは彼の騎士(ナイト)であり、日本で知らない者はいないであろう新撰組一番隊隊長沖田総司。

 

「何かな?」

 

「妖焔山の千秋様から至急来るように連絡が」

 

悪魔、天使、堕天使に続くもう一つの勢力である妖怪。まだサーゼクスが魔王について間もないころに、二人の人物がバラバラだった妖怪たちを数年という時間でまとめあげ、三大勢力に匹敵する軍事と組織力を持つようになった一団。その現在のトップが猿飛千秋である。

 

「わかった、すぐに行こう」

 

妖焔山は基本中立で、どの勢力からも独立している。時には悪魔に協力し、時には堕天使を助ける。依頼として扱われれば、それをどんな人物であれ、受けるのが大四勢力の妖怪である。そのため妖焔山のトップである彼女は世界の中でも顔の広さは一二を争うほどなのだ。その彼女からの逆に来るようにと言われれば、恩を売っているサーゼクスは行かざるを得ない。

 

「すでに準備は出来ています。どうぞ」

 

沖田が一枚の紙を彼に渡す。受け取った彼は移動用の魔方陣を展開し、妖焔山へと向かう。魔方陣をくぐれば、そこはすでに妖焔山の土地であり、客間の一室だ。

 

「きましたか、サーゼクスさん」

 

「君から呼ばれるなんていったい何事だい?」

 

額に一本の角がある少女。この妖焔山の中で一番強い人物、猿飛千秋その人である。彼女は少し困っているというか、戸惑っているというような顔をしていた。サーゼクスとグレイフィアは普段冷静な彼女らしくないと顔を見合わせる。

 

「いえ、実を言うと……」

 

理由を話してくれようとしたその瞬間、

 

「ソーたぁぁぁぁぁああああんん!!!!!!」

 

青色の魔方陣が出現したかと思うと、黒髪でツインテールの千秋と変わらないぐらいの身長の少女が飛び出してきて、千秋の襟をつかんで上下に振る。

 

「千秋ちゃん!! ソーたんは、私のソーたんはぁぁ!?!?」

 

「お、お、おちついて、セラフォルー!? 奥の客間にいるから、ってきゃっ!?」

 

きくやいなや、「ソーたああん!!」と叫びながら、廊下に出て走って行ってしまった。

 

「そっちは逆だよ!? ……聞いてないか、はぁ」

 

「……そろそろ説明してもらっていいかしら、千秋?」

 

仕事口調を崩し話すグレイフィアに、千秋ははっとして経緯を反した。簡単に説明すると、冥界に修行に出ていた千秋の息子が怪我をしたソーナ・シトリーを背負ってきたというのだ。

 

「なるほど、セラフォルーが取り乱すわけだね」

 

「あの子ならすぐ来るだろうから、先に案内するからついてきて」

 

奥にあるいていき、ある一室の襖を開く。その中にいたのは黒い髪で一本の角を額に持つ少年が、嗚咽を漏らしながら彼に抱きついている見覚えのある少女、ソーナ・シトリーの頭をなでている光景があった。

 

「ひぐっ……ぐずっ、あぐっ……」

 

「早く落ち着けよ。何分泣いてるんだよ、お前」

 

その少年はとってもうっとおしそうだが、その手を止めようとはしない。

 

「あ、母様。来ましたか?」

 

少年は千秋の隣にいる二人に対し、視線をわずかに向けると元あった戻す。

 

「ほら、あんたの知り合いが来たぞ。いい加減泣き止め」

 

「ぅう……、お姉ぇ……ちゃん……?」

 

ソーナが顔をおあげたその瞬間に、一人の影が飛び込んできて、少年からソーナを奪い取る。

 

「ソーたああああああん!! 心配したんだよぉおおおお!!」

 

その小さな体格に対しては大きめの胸に顔をうずめられ、手をパタパタと振る。少年は奪われたことに何も言わず、立ち上がって外へ出ようとふすまを通ろうとする。

 

「すまないね。セラフォルーの代わりにお礼を言うよ」

 

「別に。獲物を追っていたらそいつを拾っただけだ。お礼を言われる筋合いはねえよ」

 

わずかに体を浮かせたその刹那、彼の体が消える。魔王の一人であるサーゼクスですら消えた瞬間を見ることができなかった。

 

「……すごいね。外見からすると相当若いはずなのに」

 

「私の自慢の子の一人だから。あなたの妹と一緒ですよ?」

 

やっと、セラフォルーとソーナともに落ち着いたのか、普通に話せるような状態となった。

 

「ご、ごめんなさい。ご迷惑をおかけしました」

 

まだ涙が止まらないのか、詰まりながらもお礼を言った。サーゼクスは少しづつでもいいからなんでこうなったかを説明するように言った。ソーナは、つまりつまりになりながらも、話し始めた。

 

「最近、お姉さまは忙しくて私と遊んでくれなかったから、一人で外で遊んでました。それで、秘密で外に出て、森の中に入っちゃって、そこで」

 

「魔獣に襲われたってことか」

 

少年の言い分からして、その魔獣を追っていたのがあの荘園なのだろう。

 

「そうだ、千秋。彼の名前を聞いていなかったね。改めてお礼を兼ねて会いに行きたいんだが」

 

「あ、言っていませんでしたね。あの子の名前は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖焔山の中腹あたりに存在する、木がない開けた広場。そこに一陣の風と共に黒い角を額にはやした少年が虚空から現れる。

 

「悪い、少し遅れた」

 

「ふふふ、君が遅れてくるなんて珍しいね」

 

広場の真ん中に座っていた隻翼の少年。その肩にはいく羽かの鳥が乗っている。

 

「いろいろあったんだよ、グラン」

 

「まぁ、君が遅れることなんてそんなことぐらいしかないでしょ、日向雅」

 

グランと呼ばれた湘南絵は立ち上がり、日向雅に向き直る。

 

「遅れはしたが、とっとやるか」

 

日向雅は背中から普通の金棒よりも細く、少しでも力があれば触れそうだ。それを両手で顔のあたりで持ち、体の半分を後ろに下げる。

 

「そうだね。時間はある。思いっきりやろうか」

 

グランの手首から血が出てきたかと思うと片手で振るには少し大きめの斧を空中に浮かせ、自分は血を体に道のように走らせる。

 

「また、新しい戦い方か?」

 

「君と違って、僕は戦い方は一つに統一しないほうがいいからね。まぁ、楽しみにしててよ」

 

血を浮かせる隻翼の少年と細い金棒を俊足の速さで振る少年が激突するまであと数秒もなかった。


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