拒絶の血、光抜の速鬼   作:鏡狼 嵐星

6 / 8
三文字に達したい者たちと進めぬ者

妖焔山には、文字を持つ者たちに文字が多ければ多いほど待遇が良くなるような仕組みが存在する。一文字であれば、妖焔山に存在する店などで割引をしてもらえるなどの大きい待遇とは言いがたいものだが、四文字ともなれば訪れた妖焔山の本部や各所に存在する地方の本部などで最上級ホテル並の接客をしてもらえるなどの好待遇が約束される。待遇としてではないが、文字が多ければ多いほど部下のような存在が増えていくのも確かである。

 

妖焔山では一般的にチームを組むことを推奨される。一文字などでは一人で依頼をこなすのは大変だからというのが理由となっている。だが、このチームを組むとき、リーダーとなる人物の文字数に最低でも一つ少ない人物でないといけないというルールが存在する。これは、メンバー内の実力が離れすぎず、チームを組みやすくするためである。

 

「困ったな、これは」

 

先日あった三文字(・・・)昇格試験に合格した『光抜鬼』杵槌 日向雅。

 

「どうしようか」

 

同じ試験に合格した『紅血鬼』グラン・スカーレット。

 

「こりゃ大変だぜ、カカカカカッ」

 

二文字昇格試験に受かった『反骨』無梢戯 骸。

 

日向雅の自室にその三人はいた。試験に合格したあとに投げつけられた解決しなければならない難題に対して頭を悩ませていた。

 

「数少ない四文字持ちの過半数に認められろ。よほどお前らの三文字昇格が他の輩は気に入らなかったみたいだなぁ、クカカカカッ」

 

そう、響が考えていた二人の三文字昇格に対して四文字をはじめとした多くの文字持ちたちが反対の意思を表明し始めたのだ。響自身も少し意外そうな顔でこんな提案をしたが故に三人は悩んでいる。

 

「仕方ないぜ。ただでさえ例のないほどの速出世だし、おまえらが鬼子母神の子供として扱われている以上、依怙贔屓がないとは言えないからなぁ、大変だぜ、けけけ」

 

「まぁ、解決するしかないのは確かさ。でも、これ、相当きついよ」

 

現在、妖焔山に存在する四文字持ちは

『鬼子母神』猿飛 千秋

『災颪天魔』灰神流 天奈

艶狐九尾(えんこきゅうび)』八坂

『明鏡止水』ぬらりひょん

操踊三毛(そうようみけ)参曲(まがり)

百物語妖(ひゃくものがたりあやかし)』山本 五郎左衛門

『江戸物怪』神野 悪五郎

『爆潰鉄鬼』新庄 剛太郎

『力借之狢』北水 軌響

『魔絶鏡剣』ラグナシア

『天狼斬裂』狗翔(いぬかけり)

この十一人である。

中でも反対の大半を占めるのがぬらりひょん、山本 五郎左衛門、神野 悪五郎の三名だ。それは彼らの下にはまさに百鬼夜行とも言えるほどの大量の様々な妖怪がいるためでもある。しかも、今現在、山にいない『紅黒零狼王』のお付きをしている『力借之狢』は参加できず、『魔絶鏡剣』、『天狼斬裂』は反対の意思を表明。この時点で反対派は五人。一人でも反対した時点で終わりである。そのうえ、全員が参加したとしても五人。これでは過半数とは言えない。

 

「まず条件が成り立ってないよ。こっちがどうやっても勝てないようになってる」

 

「反対派の誰かを引き込めってことなのか? だが、反対している人は全員こっちにはこないぞ。一度決めたら曲げないような人ばかりだしな」

 

頭を悩ませる二人に対し、骸自身は不敵な笑みを浮かべながら、口を開く。

 

「なぁ、他の五人の四文字にお前らが三文字に相応しいって表明できんのか?」

 

「たぶん大丈夫だとは思うけど。八坂さんは颯也を、参曲さんは夏箋を気に入ってる。説得を手伝ってもらえば、ほぼ説得できるはずだ。問題は……」

 

「『爆潰鉄鬼』ってわけか。なるほど、分かった。よし、お前らはそいつを頼むわ。俺がもう一人四文字を連れてきてやる」

 

もう一人の四文字という単語に二人は目を見開いた。いま、反対派に引き込める人はいない。

 

「軌響さんを連れてくるっていうのか? それこそ無理だ。亮介さんのお付きをしてる上にどこにいるかわからないんだぞ?」

 

「ちげえよ。こっちの見方をしてくれる四文字がもう一人いるのさ」

 

どうもホラには感じられない。そう思えてしまう、いやそう思いたいのだ。

 

「日向雅、骸に任せてみよう」

 

「……わかった。頼むぞ、骸」

 

「くけっくけっ、任されたぜ」

 

 

 

 

 

 

骸と別れ、僕と日向雅は『爆潰鉄鬼』である新庄 剛太郎さんが住まう本山の中腹にある巨大な屋敷に来ていた。四文字である妖怪たちは少なくとも千年近く行きているものたちがほとんどで、その中で最も若いのが剛太郎さんなのだ。公平でしっかりした妖怪だと聞いている。

 

「さて、いこうか?」

 

「そうだな、いつまでも待ってるわけにもいかない」

 

その屋敷の門の前に立って扉を叩く。するとすぐに中から返事があり、扉が開く。

 

「お待ちしておりましたぁ。杵槌 日向雅様ぁ、グラン様ぁ」

 

出てきたのは中肉中背の女性だった。ただ、特徴として白い犬のような耳と尻尾がある。たぶん、白狼天狗の一人なんだろう。

 

「私、梅と申しますぅ。剛太郎様がお待ちですのでぇ、奥までご案内しますねぇ」

 

ふわふわとした雰囲気で空気が和んでいくのがわかるが、日向雅は緊張感を保ったままだった。さすがだなと思いながら、奥に案内される。

 

「剛太郎様ぁ。お二人をお連れしましたぁ」

 

ふすまを開けて僕たちを中に入れるように促すのを見て、中に入る。

 

「待っておったぞ。若き戦士たちよ」

 

奥にいる人にしては巨大すぎる体格の男が座っていた。肌は赤黒く、頭の上には二つの対をなす角が上向きに生えている。顔自体は人のように見えなくもないが、下あごにある二本ある牙が鬼らしさを表現していた。着物を着ているが、それでも力強さがひしひしと伝わってくる。

 

「お主らがわしの所へ来るのも時間の問題と思っていたが、なかなか早かったな。まぁ、いい。そこに座れ」

 

「「失礼します」」

 

目の前にするとその力の威圧感で体が震えそうになる。でも、震えてはいけない。これはこちらからの願いでで始まるのだから。

 

「お主らの目的はわかっておる。わしはお主らが三文字になるのを良いと思ってはおる。響殿がふさわしくないものに文字を与えるようなことををする人物ではないのもわかっておるからな」

 

「……認めるにはなにか条件があると?」

 

僕たちに対して遠回しに何かをさせようとしているのが感じ取れた。

 

「うむ、そうだ。三文字は我ら妖焔山の評価に直結する。実質的、四文字は依頼を受けて動く何てことはほとんどない。大方統治などの仕事に回るからな。一般の依頼を受ける一番上が三文字だ。ゆえに難しい依頼が来る」

 

十一人の四文字はそれぞれの勢力の統率をすることが役割となっている。だけど、それは誰もが知っていることだ、どうして今それを僕らに?

 

「まことに情けない話だが、お主らにはわしでは解決できんことを依頼として受けて、それを達成して欲しい。そうすれば、わしはお主らを全面的に押そう」

 

「あなたが解決できない、ですか」

 

「あぁ、単純だがわしの息子についてなのだ」

 

新庄 剛太郎さんの息子といえば、若手妖怪の中でも上位にいる二文字『力砕』と呼ばれる新庄 凱太郎という男だったはずだ。

 

「最近、あやつから覇気を感じられんのだ。二文字に昇格して少しした後だったのだが、わしには一切話そうとせん。悩んでおることは確かなのだが、許嫁である梅や他の者にも話してはおらんらしい。そこで、お主らにはこの依頼を頼みたい」

 

三文字ともなれば達成条件があやふやな人との間にあること、心情的なことも依頼としてされることもある。ただ、頻度は少ないだろうし、そうそうこない種類なのも確かだと思う。

 

「覇気を取り戻して欲しい、と?」

 

「いや、そこまでは言わん。だが、あやつのあのような顔を見とるのは少々辛いのでな」

 

凱太郎はいつも鍛錬をしている場所を決めているそうなので、そこへと向かう。その途中で、考えをまとめようと日向雅に尋ねる。

 

「どうする?」

 

「何に悩んでるかによって変わるだろう?」

 

「作戦を考えておくに越したことはないからね」

 

とは言ったものの、実際は聞いてみないとどうしようもない。剛太郎さんの屋敷は妖焔山の中腹だが、向かった先は山の麓近い、修練場としては一番小さい場所だった。修練場と言ってもそんなに豪勢な場所ではない。例えるなら野球場とかが近い。周りには座るための場所がある壁が円状にある。修練場というより闘技場かもしれない。これは亮介さんの趣味だ。

 

「あれか」

 

その修練場の中に入ると、一人だけが汗だくになりながら体を動かしていた。体格はがっしりとしていて、筋骨隆々と言ってもいいほど身体中ムキムキだ。でも、鬼らしさよりも人間らしさの方が強い。肌や顔も鬼と一目で判断しにくい。

 

「むっ? ここで訓練をしに来たのか? すまぬな、小さい場所なのに真ん中を堂々と使ってしまって。少し待ってくれ。休憩したら端による」

 

「寄らなくてもいいよ、僕たちは君に用があってきたんだ。新庄 凱太郎さん、いや『力砕』と呼ぶべきかな?」

 

額の汗をぬぐい、地面に座った彼に単刀直入に言う。行員のは隠しても意味ないからね。

 

「すまない、俺は君たちにあったことがあるだろうか?」

 

「ない。だから、名前ぐらいは名乗る。杵槌日向雅だ」

 

「グラン・スカーレットだよ」

 

僕たちの名前を聞いた瞬間、目を見開く。そして、息がまだしっかり整っていないが、立ち上がって頭をさげる。

 

「これは失礼をした。『光抜鬼』殿、『紅血鬼』殿。それで、私に用とは?」

 

「端的にいえば、あんたが今言った文字のことだ」

 

「文字?」

 

「うん。僕ら三文字を与えられたんだけど、何人かの四文字に反対をされちゃってね。それで、響さんに過半数の四文字に認められろって言われたんだ」

 

その話を聞くと、凱太郎さんは表情少し暗くさせる。

 

「ふむ。状況は把握しました。父上が認める代わりに私をどうにかしろとでも行ってきたのですか」

 

「簡単にいえばそういうところだ。あと、敬語はいらない。あんたは俺たちよりも年上のはずだろう」

 

「そうか? なら普通に話させてもらおう」

 

暗い表情ながらも少し笑いながら答えた。……見たところ問題があるのは本人自身。感じた性格から感じても、自分だけでどうにかしようって感じの人だと思える。この人の悩みは少し大きそうだ。

 

「いや、わかってはいる。俺が何かに悩んでいることだろう? すまないがこれは俺が超えるべき問題だ。君たちには関係はない」

 

「関係ないで済まされちゃ、こっちが困る。ただでさえチャンスの少ない文字試験で合格したんだ。それで文字がもらえないのでは洒落にならない。正直に言うが、俺やグランは三文字になるのに必死だったからな。お前を痛めつけてでもいいと思っている」

 

文字の数の差は待遇や依頼の難しさだけじゃない。何より違うのは情報量だ。三文字は基本的に妖焔山のほぼ全ての情報を知ることができるようになる。あらゆる勢力からの依頼を請け負っているこの妖焔山の情報力は並外れている。その上、響さんは世界中の全ての情報を文字通り知っている(・・・・・)。それはあの人が新しく作った鏡によるものだ。僕も日向雅もそれで知りたいことがある。どうしても、どんなことをしてでも。

 

「そういうことだよ。諦めて話すか、ボロボロにされてから話すかのどっちかだ、決めろ」

 

いま、ぼくは嫌な顔をしているんだろうな。彼女たちが見たら、気持ち悪いっていうかな。

 

「……俺一人で、君たち二人に勝てる気など微塵もしない。万に一つもありえないだろう。だが、話さん。これが答えだ」

 

日向雅が腰にさしている金棒を抜いた。姿が掻き消えたのと同時に巨大な音と風が巻き上がる。凱太郎さんが吹っ飛ばされ、近くの壁にぶつかる。防御はほとんどできていなかった。反射的に体に力を入れたんだろう。怪我は少なかった。

 

「ふむ、一撃は弱いな。だが、あの速さ見えんな。手数で攻められては抵抗できん」

 

冷静に日向雅のことを分析している。攻撃されたことには何も言わない。覚悟はできている、逃げもしないか。決めるのが早いことも考えると、悩みが戦闘関係ってことかもしれない。可能性の一つだけど。

 

「さて、面倒だ。加減はしないから、せめて死ぬなよ」

 

ここで僕まで参加したらいじめになるよね。僕は傍観に徹するかな。一応、周りに被害が出ないようにしておこうかな。見るのは簡単な光景だ。まぁ、日向雅が一箇所で攻撃によって動けなくなっている凱太郎さんをいじめているだけなのだが。

 

「日向雅はしっかりしてるよ……」

 

実を言えばこんなことをする必要はない。僕の血を彼に流し込めば、少なくとも暗示をかけて喋らせることはできる。でも、これは呪術に近い。日向雅は呪術を嫌っている。それに、これはかけた相手の意思が関係なくなる。こういうのを好む妖怪もいるが、こういうのは嫌いだ。ただ状況による。僕は使うのを拒否しないが、日向雅はこういうのを全く好まない。

 

(この大きい音のせいか、普段この辺りにいる力を持たない小妖怪たちの気配も感じられない。いや、一体こっちに寄ってくるのがいる。妖気からして、一文字ってところかな)

 

「日向雅! 一人、こっちに向かってきているやつがいるけど、どうする?」

 

「ほっとけ! かまっている暇はない!」

 

仕方ないか。日向雅も日向雅で楽しんでるみたいだし。そろそろ着くかな。そう思った時、壁を超えて一人の人物が刃渡だけで2メートルはあるようなものを振り上げて飛びかかってきた。

 

「……えい!!!」

 

飛びかかってきたのは色黒で茶髪のツインテールを持った小さな女の子だった。身長的には僕よりも小さい。日向雅に向かっていたので、血を使って防ぐ。防がれたことが不満なのか、彼女はこっちを見て、剣を向けてきた。

 

「……邪魔しないで」

 

彼女なりにすごんでいるのだろうが、声に覇気がないせいか、表情があまり変わっていないせいか、怖く感じない。

 

「ミネルバか!? なぜここにいる!?」

 

「大きな音がして、来てみたら凱郎がいじめられてた。だから助ける」

 

ミネルバと呼ばれた彼女は自分の手にある巨大な剣を槍投げのようにして、僕に向かって投擲する。僕は血を触手のようにして、剣を絡め取る。しかし、剣そのものが霧散して、彼女の手の中で再構成される。

 

「創造系魔法か。面倒だなぁ」

 

「面倒じゃない。すぐ終わらせる」

 

「こんな見た目だけど一応三文字だからね。そう簡単には終わらせないよ」

 

その時の彼女の反応は驚いたというのがよくわかった。すると、同じような巨大な刀身を持つ剣を創り上げ、それぞれを片手で持ち上げる。重くないのかなぁ?

 

「ここから本気。行くよっ!」

 

 

 

 

 

俺はいわゆる名家に生まれた。妖焔山に貴族というものはないが、家柄のいいものはある。三文字のほとんどが家を持っているから、四文字ともなれば豪邸を持っている。俺はそこで父上に武術を含む生身の身の戦闘を多く習った。その時はそれが当たり前のことだと、強くなることが普通だと思っていた。

 

10歳になった時、俺に許嫁が二人いることを知った。一人は父上の嫁の血縁者の子供である、白狼天狗の梅。そして、同じ鬼でお転婆な凛という三文字の親を持つ子だった。10歳の誕生日にその二人に会った。二人とも美人で、こんな綺麗な娘がと不思議に思ったものだ。二人とも俺にのことが好きだと言ってくれた。その時は俺がこの娘たちを守るんだと思った。

 

妖焔山に正式に入ってしばらくした時に見つけたはぐれ悪魔の小さな女の子、ミネルバ。俺は捨てておけず、自宅に連れて帰って飯を与え、父上に話した。はぐれに関しては妖焔山の一番上に通さなければならないらしい。そこで、その人を父上が呼んだ。

 

「お前が剛太郎の息子か?」

 

銀色の髪を持った男だった。見ただけで、その目に見られただけで、今まで鍛えていた自分が小さく見えるぐらいの強さを感じた。恐怖、畏怖、そんなものではかたずかない。例えるなら魔王に睨みつけられた普通の人間のように。

 

「そんなに怖がんなよ。そこにいるミネルバだったな? そいつについてはここにいていいそうだ」

 

はいと言ったつもりが喉から息しか出ない。そこにいるだけで喉元に何かを添えられているようだった。

 

「ん〜、やっぱり、俺を初見で見るとそうなるのか? 日向雅やグランがやっぱり普通じゃないのかねぇ。いや、お前は俺自身を恐れちゃいるが、別のものにも怯えてるなぁ」

 

いつの間にか目の前にいて、俺の目を覗き込んでいた。綺麗というより艶美なその目に全てを文字通り見透かされている。そう確信した。

 

「お前は怯えてるな、俺のあり方に。お前は怖がっている、お前のあり方に。お前は知りたくないんだな、お前が求める生き方に」

 

「え?」

 

「おっ、声が出たな。まぁ、年の功さ。お前は自分の生き方に疑問が浮かんでいる。それが今くるのは、早い方じゃないか? それにたどり着くヤツは少ないもんだ。気づかないか、ほとんどいないが生き方を確定しているかのどっちかだしな。実際、お前の親父もそうだったぞ。そこまで行くのにお前の数倍かかったがな」

 

響さんは大笑いしながら、帰っていった。その時はそんなことはないと、気にもしなかった。だが、しばらくすると、そのことが気になって、鍛錬に手が入らなくなる。だが、何が納得行っていないのかわからなかった。許嫁の二人を守りたいではいけないのだろうか。ミネルバを救ったことが間違いなのだろうか。次第に考えない時間はなくなっていった。

 

「……どうしたの? 凱郎」

 

ミネルバは13歳を過ぎていないが、特例として妖焔山の所属になっている。凱太郎と呼ぶのが面倒なのか、俺のことを凱郎とよんでいる。彼女の頭を撫でると、嬉しそうな顔をする。少なくともこの娘を救ったのは間違いではないことは確信した瞬間だった。

 

それのしばらく後にある二人組がきた。外見的には俺とほとんど変わらない。片方は背が低く子供という印象を受けるような銀髪の優しそうな少年で、もう片方はいかにもしっかりしているという感じの青年だった。その二人は父上に言われて、俺の悩みを解決しにきたと言った。その二人はかつて響さんが口にしていた、グランと日向雅という人物だった。二人は答える気がないのがわかると、襲いかかってきた。その顔に一切の迷いはなく、まっすぐだった。すぐに彼らが生き方を確定したものたちなのだと感じた。自分もこうなれたらと思った。その時にミネルバが俺を助けに来た。俺は助けなどいらないのに。

 

「……俺に攻撃をしないのか?」

 

ミネルバが来て動けなくなり、考えにふけっていた俺に一切の攻撃をしなかった日向雅と名乗った男に尋ねる。

 

「俺は戦いにきたんじゃない。お前の悩みを解決しにきたんだ。話さなくても自分で解決してくれるならそれでいいからな」

 

「聞かせてくれ。お前たちがまっすぐに生きることができる理由を。俺はどう生きたらいい?」

 

相手は目を空に向けて、感慨深そうに言った。

 

「お前が悩んでんのは生き方か。こればっかりは俺たちが押し付けるわけにはいかない。が、話せることははないしてやる。俺は肉親がいない。殺されたからな」

 

あっさりといい放つ。ミネルバとグランという男が戦っているのを後ろに聞きながら話を聞いた。

 

「生き方が決まっていると言っても、これは決めちゃいけない生き方だ。殺しも全て目的のためなら正当化するっていうな。復讐とは言えて言えないようなものだ。ただ、見つけたらそいつを殺すぐらいにしか考えてない。考えるのが得意なグランにも完璧なものは出せていない。だが、芯さえ決めれば、勝手に生き方は決まる。お前に芯がないわけない。あと外れた軸を治すだけだろうさ」

 

軸のずれ? わからない。いったい何がずれている?

 

「ずれているのもお前にとってまっすぐならまっすぐなんだろう。結局は自分のサジ次第さ。

 

頭を抱えてしまう。わからん、わからん!! むしろ正しいものはないのか!? ……ん? 正しいものがない(・・・・・・・・)? 存在……しない……

 

「さっき来たあのミネルバ、だったか? あいつを守りたいならば守ればいい。守られたいなら守られればいい。そんなもんに答えなんざありゃない。お前が納得さえすればいい。心からな」

 

……俺が心からしたいこと。それはまちがいなく、梅と凛とミネルバを守りたい。それ以外に何がある?俺がそれ以外でしたいこと。思ったことは? 感じたことは? 彼ら二人なら? ……。

 

「もう一度手合わせ願いたい」

 

「いいだろう。それで答えが出せるならな」

 

「いや、お前だけではなく、あっちのグランという男も同時に頼む」

 

 

 

 

 

 

妖焔山最頂部。そこには四文字が会議をするための場所でもある。今この場にいないのはここにいない五文字の男とそれの御付きをしている四文字の少年だけだった。

 

「つー訳で、とっとと始めようか。日向雅とグランの三文字昇格に反対なのは?」

 

手を挙げたのは前回と変わらない五人。この時点で過半数はない、はずだった。

 

「んじゃ、賛成が六人で賛成が勝ちだな」

 

今日があっさりと言い放ったものだから、思わず反対派のぬらりひょんが立ち上がって、文句を言う。

 

「おいおい、さすがにそれはないだろう。お前さんの票はまず入ってない。かと言ってここにいない軌響に投票権はねぇ。どうやって六票はいるんだぁ、響よぉ」

 

「なに、お前らが四文字がもう一人いるのを忘れてないか? なぁ、髑髏?」

 

「カカカカッ、まったくだぜ」

 

ふすまを開けて入ってきたのは、2メートルの人骨が鎧を着ている姿だった。

 

「なっ!? 『無命死屍』だと、てめぇ、死んだはずだろ!?」

 

ぬらりひょんを含む他のメンバーが驚いていると、一人だけ、その正体に気づくものがいた。

 

「あなたは『反骨』骸ですね?」

 

「ケケケケッ、正解だ。さすがは響さんの一番刀だぜ」

 

骨が黒い妖気の塊をまとい、人型になる。すると、それは無梢戯 骸だった。

 

「お前らの言いたいことはわかるが、こいつは正真正銘の『無命死屍』だ。噓いつわりもない。なら確かめてみろ」

 

ラグナシアが前に出る。

 

「では、遠慮なく。あなたと初めて会った時、私があなたになんと言いましたか?」

 

「無駄に巨大な骨ですね、だ」

 

「私があなたをがしゃどくろとよんだのは何時でしたか?」

 

「おれが妖焔山の試験を受ける時、だったはずだぜ」

 

「あなたの四文字試験の内容の中で響さんに行った一言は?」

 

「ひどくキッツイ内容だったわ、殺す気かぁ! だった……はず」

 

ラグナシアは一つため息をつくと、結果を答えた。

 

「声音、記憶、彼の性格からしての言い方。全て一致します。やけに似ていたので、疑ってはいましたが、本当に本人だったとは」

 

ラグナシア自身は響自身には甘いが、それ以外に関してはものすごく厳しい。もちろん評価をいじるような人物ではないし、今日もそんなことはしない。

 

「これなら俺も一票入れられるだろう?」

 

「……けっ、生死に関して触れやんかったわしらの責任てことになるんやろ。オチはわかっとるわ。認めるっちゅうねん」

 

ぬらりひょんがお手上げといった様子で両手を上げる。他のメンバーも同様だ。

 

「話が早くて助かるぜ。へへへっ、これでようやくあいつらを起爆剤として扱えるぜ。最初はサーゼクスあたりを巻き込むか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




や、やっと終わった……。課外に宿題、受験を目指せという親と教師の目。少々長くなりすぎた気もしますが、お楽しみあれ。
ケツアゴさんのキャラをようやく使えるようになった。次からようやっと原作だ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。