昼時が過ぎ、日が落ちて、山に重なり始めたころ。今、駒王学園は学校側の都合で、昼までしか授業がない。その分だけ部活に熱中する人物は多く、特に運動部の熱気もすごい。そんな様子を屋上から見下ろしている男が三人。
「ふむ、俺も部活というのをやってみたいものだ」
「助っ人として何回かやってんだろ」
フェンス越しに運動場を見ながらつぶやくがたいのいい男に対し、突っ込みを入れながら昼飯として作ってきた弁当をかきこむ。今はもう昼食を食べるのには遅いが、風紀委員としての仕事をしていたため、遅くなってしまったのだ。
「んで、どうよ、骸? 動いたか?」
「いんや、何かを用意してる途中ってところだな。完成までもうちょいだろ」
「それ動いてるって言わないか?」
「まだ、作戦を実行してないんだぜ。それに介入はできないじゃねえか」
実際問題、平等を謳う妖焔山に『何も悪事を働いていないのにその行動を妨害する』という行為を文字持ちがするわけにはいかない。それはルールでもあるが、彼らのプライドとしてもある。たとえ、悪事を実行する寸前であっても、決定的な証拠があるに越したことはない。
「こんな時に限って、グランと日向雅、その上夏箋までほかの任務が来るなんてなぁ。意図的に響さんが送ってきたとしか思えないぜ」
「いやいや、颯也。いくらあの人でもそれは……あるのか?」
「ないわけないよな~。まず、あの人ができないっていうほうが探すの難しいだろ。ていうか、想像できねえ」
三人が笑いあっていると、骸が顔色を変える。
「どうした?」
「教会の地下で動きが収まった。逆に魔力が増えてきた。そろそろおっぱじめるみたいだぞ。お、ついでに三人追加だ。グレモリー眷属だぜ」
三人は立ち上がり、山の上の境界を見据える。もう夜になりそうなほど、太陽は沈み始めていた。
〇
「なんで、あたしが見張りなんか~」
金髪ゴスロリの堕天使の彼女は木の上で足をぶらぶらさせていた。すると、近くの地面に赤い光とともに魔方陣が描かれる。そこから現れた二人の悪魔に反応し、彼女は木から降りる。
「これはこれは。わたくし、人呼んで堕天使ミッテルトと申します」
「あらあら、ご丁寧に。うふふ」
紅髪、そして黒髪の二人に対し、形だけの礼を行う。彼女にとって、敵対する悪魔の中で危険な二人を呼び込めただけでも、うれしい結果だ。
「さぁ、いでよっ、カラワーナ! ドナーシーク!」
一気に仕留めてしまおうと、仲間たちを呼ぼうとした彼女ではあったが。十秒近くたっても現れる気配がない。
「あ、あれ?」
「あなた、仲間が近くにいないのかしら?」
「そ、そんなはずはないはずっす! あいつら、どこに行って……」
周りを見渡した、その時だった。
「お仲間をお探しか~い? げっげっげ」
声が低い男の声。それがいきなり地面の下から響き渡る。地響きが起き始め、地面の二か所に巨大なひびが入り始め、二本の白い線が走る。
「これは、人骨!?」
出てきたのは文字通りの白骨化した巨大な腕の骨だった。そのサイズは普通の人間のサイズの数倍はある。しかも、その片方の腕には一人の女堕天使が握られていた。
「か、カラワーナ!? 何してんすか?」
「す、すまん。この謎の骨につかまってしまった」
その骨はやけに響く笑い声とともに、腕の骨を揺らす。
「初めまして、と一応言っておこうかぁ。俺は妖焔山が一人『反骨』なり。任務のためにここまでやってきた、ってな」
(また、妖焔山……)
リアス自身、『紅血鬼』に会った後、魔王である兄に事情を詳しく聞いた。なんでも、ある依頼で文字持ちを六人もこの町へ派遣しているというのだ。その上、全員が二文字持ちを超えているときた。依頼などと言いながら、自分のために派遣したと思っているリアス自身は、さすがに過保護が過ぎると思った。
「ここを治めるグレモリー様の目の前で誠に申し訳ないんだが、堕天使の諸君に提案だぁ」
その手に持っている堕天使を目の前に差し出すようにしながら、高らかに叫ぶ。
「なに、簡単なことさぁ。お前ら全員投降して妖焔山に来ないか? いいぜぇ、あそこは。階級とか気にせず暮らせる。響さんは間違いなく、お前らみたいな反乱分子を嬉々として受け入れるぜぇ」
「それを断ったら……、どうなるっすか」
「もちろん、皆殺しに決まってんだろ? 俺たちは慈愛に満ちた神じゃねえ。敵なら終わらせるだけさ」
あまりにあっさりと。そのうえ、明らかにカラワーナの顔がゆがむ。『反骨』が腕に力を入れているのだ。
「や、やれ、ミッテルト! 私にかまうな!!」
「で、でもっ」
「おうおう、いい展開だねえ。さてどうす、んぐあっ!?」
堕天使二人の討論をしているとき、その腕骨に特大の光の槍が貫き、爆発が起こる。その天空には一人の影があった。
「よくやった、カラワーナ、ミッテルト。これでその腕は動けまい」
「何やってんすか!! カラワーナを殺す気なんすか!?」
「役に立たんのならおとりにはなってくれんとな」
悪魔の二人は介入することをしなかった。本来なら、優先されるのはリアスたちのはずだ。だが、彼らには三文字持ちが含まれている。三文字は並の家の次期当主よりも実力が高いと言われているため、うかつに手を出せない。
「くくくっ、次はお主らよ。グレモリーとその女王よ。お前らの「それはできない相談だなぁ」なにっ……ぐはっぁ!?」
光の槍を両手に加えて、とびかかってきたドナーシークを身長が百九十はありそうな巨躯の男が光の槍を受け止めながら、男を殴り飛ばす。男は赤い鬼の仮面をつけた上半身裸だった。でも、筋骨は隆々で、ある意味、彫刻のようにしっかりとした形をしていた。
「うむ、まぁまぁな威力ではあるが、これでは鍛えた鬼の皮膚を超えることはできん」
「きぃさまぁっ!!」
顔面を変形させながら、まだあきらめず、光の槍を振りかざしながら巨大な男に突っ込む。
「たぁくよ、痛いことしてくれる」
「んぐあぁっ!?」
しかし、その男を巨大な骨の手が押しつぶす。
「いや、お前は痛くないだろう?」
「まぁなぁ。違和感はあるものの、俺はあらゆる生物の骨だから、光の一撃もあまりきかないのさ」
押しつぶして伸びてしまった堕天使の男を骨の手がつまみ上げる。
「伸びちまってるし、連れてくか。あっ、そうだ。ミッテルト、だっけ。お前は?」
ビクッと震えながら彼女は下を向く。ぽつぽつと二つの水しずくが地面に落ちる。
「い、いくぅっす!! 死にたくはないっすぅ!!」
「くははっ、ごもっとも!! んじゃ、先に行くぞ。『力砕』、後は頼むぜぇ」
両腕の骨はミッテルトごと地面に沈んでいく。『力砕』と呼ばれた男はそれを横目に、悪魔二人を見据える。
「先ほども名を知らせてもらったと思うが、妖焔山の一人『力砕』なり。君らがここにいてくれてもいいのなら俺は何もしない。いやなに、こちらにも事情があってな。構いはしないだろう?」
〇
駒王庁のはずれに存在する教会。そこに飛び込んだ悪魔を迎える悪魔祓いが一人。
「ご対面! 再開だねえぇ! 感動的だねぇ!」
「フリード!」
二度目の対面となるフリードと一誠。寂れて荒れた場所での戦闘が始まった。三対一であるが、互角に戦っているフリードの実力は疑いようがない。
「まったく、むかつく悪魔さんたちだよね、ちみたち~。さっさとやられてくれないかな~」
「あいにくだけど、いやだよっ! イッセーくん、君は奥へ!」
「お、おう!」
木場がフリードを抑えている瞬間に、奥に行かせようとするが、
「そんなことさせると思ってんですかぁ!?」
剣を構えている方と逆の手で持つ銃で、イッセーを狙う。小猫自体は物を投げたあとの体制のため、何もできない。一誠自体も避けようとしているが、間に合いそうにない。
「まったく、アシストすんのも大変だな」
教会の上、正確には天井裏に張り付く影が一つ。その下では、今まさに戦闘が始まった瞬間であり、かけられた声に反応し、上を見上げる元聖職者一人、悪魔三人。
「別に続けてもらってもいいが、俺がその聖者もどき相手にしてやってもいいぜ。悪魔のお三方」
降りてきた人物は、前腕部分に大きな鎌のような刃を付けた人物であった。獣を模した仮面がつけられており、表情は見えない。白装束のようにほぼ全体が真っ白な着物のようだが、現代のジーンズのような機能性を併せる持ったような不思議な服を着ていた。
「なんだよてめぇ、僕ちんと殺りあおうってかぁ? なめてもらっちゃ困るんすよ~。君みたいな雑魚に僕ちんが倒せるとでも?」
フリードは体をそらせて大笑い。それに合わせたのか、その男も少し笑いながら、
「俺は妖焔山が一人、『鎌風』。まぁ、なんだ。お前がお尋ね者の以上、無視するわけにはいかなくてな」
と宣告した。フリードの顔から表情が消える。出てくると思っていなかったわけではない。だが、せいぜい一文字ぐらいだと考えていた故に警戒心を強めた。
「ほら、行きなよ。救いたいやつがいるんだろ?」
「お、おう! ありがとよ!」
一誠が像のもとへ走り出し、
「行かせると思ってんすか~!?」
フリードが銃を向け、
「行かせろよ」
『鎌風』がその銃を切り刻む。光を放つその銃は銃身がなくなったことにより、ため込まれた聖なる光が暴発し、爆発した。
「あんさん、妖怪のくせになんてことしやがりますかぁ~? 僕ちんの大事な銃が粉々じゃないすか」
「また買いなおせよ。買える品物じゃねえけどな」
お互い獲物を構えなおす。しかし、フリードはすぐにそれを下した。
「もうくそ悪魔さんたちも行っちゃいましたし、わざわざあんたと事を構えなくていいわけだし、にげます。ばいちゃ!」
閃光を放ち、一瞬で消える。『鎌風』も構えを解き、ケータイを開く。
「おう、『反骨』か? こっちは終わった。あとはあいつらに任せよう。一誠なら聖女様を救ってくれるだろうさ」
〇
「結局、おいしいところは持ってかれちまった感じだな、げげげげ」
「もともと俺たちのほうが介入している。普通であろう。それにちょうど日向雅もグランもいない。これが一番良い判断だ」
駒王町から離れたところにある、そこまで大きくない山の上。『反骨』こと無梢戯 骸と『力砕』こと新庄 凱太郎はもうひとり、『鎌風』こと矢武 颯也を待っていた。
「はぁ、割に合わないぜ。俺はあの赤髪姫怖かったしなぁ」
「お主が怖がる理由が見当たらん。嬉々として響さんとつるんでいるお主が、実力が少々高いだけの女にな」
そのコメントにげげげといつも通りに笑う。
「それにはすごく同意だ」
「お、颯也。おかえり。どうだった?」
「一誠は
「まったくだ」
「げげげ」
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