流石に、翌日鈴鹿からの問い詰めがあった。「あれはなんだ?」と
正直にあれが師匠である、と説明することもできたが、その場合、今どこにいるのか、正体は、など説明するのが面倒になったので、呪術で胡麻化すことにした。呪術の神髄は嘘である。
それはそうと、紫のブレスレットをつけた春虎は、連日の通り鈴鹿への授業を再開した。学者肌の鈴鹿には、やはりデスクで行う「勉強」が合ってはいるが、それでも呪術を扱う上で実際に行使する必要があるのは疑いようもないことである。
ゴールデンウィークも残り3日に残したその日は、出来るだけの知識を鈴鹿に叩き込んだ後、翌日のために英気を養えと言葉を残し、授業は終わりを迎えた。
その場は木々に覆われていた。鈴鹿は、前を行くカラスの式神から目を離さないようにそこを歩いていた。あまりにも不自然すぎる。鈴鹿が抱いていたのはそういった思いだ。
朝起きて春虎の姿が見えないことに違和感を覚えたが、リビングの上に置いてあった手紙を読むと「ついてこい」との5文字がつづられていた。何もない状況でついてこいとは全く意味が分からない、と可愛らしく首をかしげていたところ、手に持っていた手紙が式に変わっていたのでそれを追ってきたという次第である。
そして話は戻るが、違和感があるのである。この森には、
それは、鈴鹿が優れた術士である上で、それを凌ぐほどに春虎が優れていたため感じられていた違和感であった。昨日の春虎の言葉を思い出す。
「モノを隠すということとモノから隠れるというのは、音は似ているが、その実やっていることは全く違う。鈴鹿、隠形はできるか?」
「馬鹿にしてるの?そんなの、頭の中からっぽにしたってできるだろう」
春虎の聞き方は、確認というよりも話を次に続けるためのものであったが、少しでも気に障ったのか、鈴鹿の返答はわずかに語気を強めたものであった。しかし、口を開きながらも鈴鹿の存在自体が希薄になっていくことー目の前にいるにもかかわらずーからもそれが口先だけではないことが分かった。
それには構わず、春虎は続けた。
「そう、隠形自体は、現在でも広く使われているし、その習熟度に差はあれど、大抵の人が会得している。でも、、、、」
そこで止めると春虎は先程鈴鹿がいた方とは逆の方を向き、刃印を向けた。すると、その場に真逆にいたはずの鈴鹿が現れた。
「この隠形を解くことも見破るのもあまり難しいことではない」
「嘘!?」
隠形が解かれたことに気づいた鈴鹿は驚きの声を上げる。
隠形を解くのが難しくない、というのは正確には誤りである。それこそ、人ごみに紛れるというような、いわゆる『乙種』であれば見つけるのは特殊な技能でもない限り不可能にちかい。春虎が容易に解けたのは、あくまでも、二人以外の人間の存在がいないことに加え、彼我の実力の差があるためである。
「どういうこと??」
鈴鹿はその場で、疑問を投げかける。
「見られない、というのはある種違和感が存在してしまう。慣れていない、実力差がある、才、とか、色んな要因はあるけど、そういったものによって、違和感すら感じられていない、つまり、分からない、見えていない、と思い込んでいるだけだ。」
鈴鹿の頭には?マークが浮かんでいる。
そこで春虎はアプローチの仕方を変えるとことにした。
「盲点、って知ってるか?」
「見えないとこのこと?」
「まぁ簡単に言えばそうなんだが、簡単に説明すると、網膜上には光刺激を受け取るための視細胞が存在しない部分があって、実際に視野の中に見えてない部分が存在しているんだ」
「でもあたしの視界に、見えてない部分なんてないわよ?」
「それこそが、思い込み、だ。盲点に存在しているものは、見えていない。その周囲に補われているだけだ」
つまりだ、、そう春虎は続けた
「見えていないことに気づくことさえできれば、気づけるし、それに気づかせなければ、気づかれない、ということだ」
当たり前のことを言っている。鈴鹿もそれは理解している。しかし意味が分からない。
「そして最初に戻るが、気づかせない、というのは、まず自分が違和感を抱くことが出来なければ始まらない。いうなれば、自分へ向けられる視線を理解するのと、他者へ向けられた視線を理解するのは難度が違うというこだ」
?????
「まぁいずれ分かるさ。隠形術は実際にやってみるのが早い」
春虎は、そういって少し微笑むとその授業はそこで終わった。
今、鈴鹿の前に広がるのは広大な自然だ。どこからか鳥の鳴き声が聞こえてくる、心が洗われるような錯覚を起こす。
違和感……….
少し口に出して考えてみる。
そして周りを見渡して気付いた。
「さっきから景色が変わってない…?」
そう景色が変わっていなかったのだ。いくら森とはいえ、木全てが同じように配置しているわけでも、同じような見た目をしていることがあるはずがない。鈴鹿は途中まで何も考えず、カラスの式神についてきただけであったが、それだからこそなんの疑いも抱くことが出来なかった。しかし、何らかの方法で同じところを歩かされている、というのは分かった。あとは、それに対する対処をするだけだ。
鈴鹿は、一度閉じ春虎の講義を思い出しながら集中する。周囲の霊力の流れを見る。
結界の扱いはいくつかあるが、こういった場合、核を見つけそれを破壊、もしくは、そこから崩壊させるのがセオリーだ、、、、、と現代では教わる。しかし、連日の春虎の講義では違った。
「結界ってのは、どこかしらに穴がある。それを見つけさえすれば、破壊するんじゃなくて、すり抜けることが出来るんだ」
まぁおれはそれも作らないような結界作れるけどな
そううざいくらいの笑顔で続けた彼だったが、どーせ先生基質のことだ。今回は私が見つけられる様な、それでいてめちゃくちゃ難しい穴をわざと作っているはずだ。
結界の大まかな位置は把握できた鈴鹿は、そこから『穴』を探していく。結界に、自分の霊力を流し込みながら、その霊的な構造を把握していき、、、、そして、見つけた。
「みつけた!!」
そう独り言ちた彼女の額には汗がにじんでいた。そして、その穴を使ってすり抜けた瞬間だった。
「うらああああああああああああ!!」
唸るような叫び声とともに、莫大な圧力が自身を襲う。そのあまりの大きさに、自分に向かってきているものではないと分かっていつつも、思わず、呪符を手に取ってしまう。そして、彼女の経験値がその正体を即座に見破った。
「これは、、、、、、鬼気??」
これほどの鬼気が抑え込まれていたこと、音や衝撃まで結界外には影響していないことな度に対する驚きは、その鬼気によって打ち消されてしまっていた。
結界の先には草原のようなものが広がっていた。そのさきで、青い炎を身にまとった鎧が春虎に向かって、突撃しているのが見えた。
「ちょっ、、、やばっ!!!」
その気迫はもはや訓練のそれではない、外から見れば明らかに殺しにかかっているようにしか見えなかった。しかし、その意に反して春虎はその突撃をひらりと躱した。
外から、突進に見えたそれは、冬児の右ストレートだ。それに加えて、横から鬼火を放ち逃げ道を塞ぐ徹底ぶり。
春虎は、それをさらに後退することで躱す。冬児は、その行動を見てさらに踏み込みを強くする。
「ううるあああああああ!!」
大きく振りかぶった冬児に対して、春虎が行ったのは単純な方法だった
「閉ざせ、
見えないように後ろ手で用意していた呪符で目つぶしをする。冬児は、一瞬視界を奪われたがもはや止まれる段階にない。自分の鬼気を高め、視界を回復させると、目に映った春虎に勢いままに右腕を振りかぶった。今度こそ完全にとらえたと思った。実際、その拳は春虎に当たった、、、、、
「!?!?!!?!」
、、、、、はずだった。
しかし、そのストレートは空を切り、その拳圧によって後ろの木々が揺れるにおさまった。
その理由は春虎の放った呪符にある。あれは単純な目つぶしではなかった。目つぶしはあくまでも副産物であり、本当の目的は、冬児の目に幻影を映し出すことだった。呪術において、『言葉』は非常に重要なキーではあるが、呪符に通した術式であれば、ある程度の工夫が効く。むしろ、春虎がそのようにアレンジしたのだ。
鈴鹿が春虎がすり抜けるように避けたように見えたのは、春虎が少し横に—冬児に違和感を抱かれない程度に—像をずらしたからだった。
当時は振りぬいた拳の勢いに一瞬隙が出来た。春虎によって鍛えられ続けた冬児は自分の攻撃によって行動が全くできなくなるようなことはない。実際、ほとんどの術者では対応できないほどの隙しか、今の冬児にはなかった。残念だったのは、相対しているのが、春虎であったということだ。
「ナウボウ タリ タボリ バラボリ シャンキメイ シャンキメイ タラサンラン オエンビ ソワカ」
そう耳元で聞こえた後、受け慣れた衝撃が体を襲った。
「再封印」
自粛頑張りましょう
要望あれば、自粛に効きそうなマントラ集めておきます。