リクルートファイター葵くん   作:まひる

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三毛猫『お嬢、画面が真っ黒や!」』
春日部「本当だね。今回は一万二千字近くあるそうだよ」
三毛猫『ホンマですか!? 長すぎや、猫の目には毒やで』
春日部「私も少し痛いかな」
三毛猫『それに説明文が多すぎて頭が痛いです』
春日部「葵が眠っている間の話が凝縮されてるからだよ」
三毛猫『そや! あんのクソガキ、ちょっとお嬢に優しくされて感違いしとるかもしれません。猫パンチかましたります!』

三毛猫のこれじゃない感(笑)
耀も口調が安定しないです(泣)



第06話 『三段飛ばしのテクニシャンです!』

 "ノーネーム" 本拠、とある一室。

 ベッドやソファー、テーブルなど寝室にしては少し物が揃いすぎている部屋でオレは目を覚ました。恐らくVIP用の客間だと思われる

 ベッドには高級感漂う天蓋が備え付けられており、成人男性が三人寝てもまだ余裕がありそうな大きさだ。

 リリちゃんの尻尾には劣るがそれでも心地よいふわふわの感触に思わず二度寝しそうになったのはここだけの話。

 

 左手を天上へと向けかざす。小指から順に内側に握り込み、拳を作って開いてを繰り返す。動きは正常だ。特に体に違和感はない。

 恐る恐る腹の辺りに手をやると何か布のようなものが巻かれていた。包帯だろう。

 軽く二、三度叩いてみる。痛みを感じない。

 

 今度は親指と人差し指で抓ってみる。少しだけ痛い。でも、死にそうな痛みというのは何も感じない。

 あの時、ガルドに貫かれたはずの腹はどうやらもと通りに回復しているようだ。

 一安心、と溜息を吐く。我ながら化け物並みの回復力に驚かされるがこれも全て夢だからこそ成せる技だと自分を納得させる。

 女神さまはこれをギフトの力だと仰っていた。確かに昔から怪我の治りは異常に早い方だったが、まさか夢の中では某漫画のナメクジ星人並みの回復力だったとは、そのうち腕でも生えてきそうな気がして少し怖い。

 

 怖いといえば、右手の感覚がほとんどない。いや、少し違うか、自由に動かせないというのが正しい答えだろう。何か、物凄く大きなものに巻きつかれているような感覚がある。暖かくてそれなりに弾力のある生き物。

 耳を澄ませば聞こえてくるすやすやという音からして人間ではないだろうか。

 意を決して布団を捲ってみると、彼女がいた。オレを大切な友達と呼んでくれた耀ちゃんがギュっと大事なものでも抱きしめるように腕に抱きついていた。

 

 想定外の出来事に小さく胸が鳴る。

 目元は赤く腫れあがり、頬には涙の痕が見てとれる。ずっとオレのことを心配してくれていたに違いない。だからこそ、嬉しさのあまり頬が緩むのも納得できる。

 

「柔らかい」

 

 思わず肌に触れてしまった。マシュマロのように柔らかい頬を何度も指で突いてしまう。

 心地よい弾力感はキミのせいだな、早く起きないともっと凄いことをしてやるぞ。ていてい、と執拗に頬を責め続ける。

……油断した。パシッ、と小さな手がオレの指を掴む。流石にやり過ぎたな、勢い余って骨ごと砕かれるかもしれない。

 失礼極まりないことを考えていると眠り姫は嘆願するように呟いた。

 

「いかないで」

 

 ビクリと体が震える。常時平坦な声音の彼女が今は悲しそうな声でオレを引きとめているのだ。子猫が母猫に擦り寄るようにしがみ付き、背中に腕が回される。

 あまりの早技と想定外の力強さに逃げ出すことも出来ず、ただされるがままに身を任せるしかない。

 寝間着のせいか肌と肌の密着度合いが高く、彼女の体温がオレの体を支配するように蝕んでいく。

 まあ、流石に興奮まではしないが危ないことを考えなくもない。一応これでも男だから。

 

「オレはここにいるよ、大丈夫」

 

 邪念を振り払うように想いを紡ぐ。キザなセリフでも口にしてみようかと思ったが似合わなさすぎてやめておいた。オレには単純な言葉しか操れない。

 

「あお、い……」

「なんでしょうかお嬢?」

「あお、い……」

「どうされましたかお嬢?」

「あお、い……」

 

 何度も何度も繰り返し名を呼ばれるというのは少し恥ずかしい。無意識とはいえ、反則じゃないだろうか、頬が緩みすぎてブルドッグみたいになりそうだ。

 とはいえ、いい加減離してくれないと誰かに見られたら有らぬ誤解を招きそうで恐い、脱出せねば―――無理でした。

 思った以上に体を締め付けられているというか間接取られてません? なんか腕が腕があああああ。痛いよ耀ちゃん、離して! な、なにするの? なんで舌をぺろりと唇に這わせてるの!? アオイ、タベモノ、チャウチャウ!

 再び女神さまのもとへと送り戻されそうになるオレの耳にコンコン、と扉を叩く音が響く。

 

『春日部さん、リリが朝食を作ってくれたから一緒に食べましょう。入るわよ』

 

 ガチャリ、と眠り姫となった耀ちゃんに了承を得ることなく部屋へと入ってきたのは前髪ぱっつん可愛いお嬢様こと飛鳥ちゃんだ。後ろには割烹着姿のリリちゃんの姿もある。

 

「あお、い……」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 めっちゃ気まずいんですけどーッ!?

 

 二人ともオレたちに視線を合わせないように必死に頑張ってるけど『……チラ……チラ』って分かりやすい目の動きをしてらっしゃる。

 しかもリリちゃんに至っては二本の尻尾――二尾さんが六尾さんくらいに増えちゃってますよ。落ちついて。

 

「や、やあ、お二人さん、これには深い事情が」

「リリ、どうやら私たちは御邪魔なようね、いきましょう」

「はい。わ、私にはまだ早かったみたいです。葵さんと春日部様はその、大人の階段を上られたんですね。お、御赤飯を用意せて頂きます」

「いらないからーッ!! 変な勘違いしなでよ!」

 

 顔を真っ赤に染めながら一歩、二歩と扉の方へと後ずさりする二人に手を伸ばそうとするが耀ちゃんが邪魔で身動きが取れない。

 超絶面倒なことになった早く起きろこのおバカ姫!

 必死になって体をバタつかせるオレにリリちゃんは何を思ったのか「あわわ~」と両手で目元を覆い隠す。

 

「く、久遠様見てはいけません! 葵さんが我慢できずに大人の階段を駆け上がって行きます。三段飛ばしのテクニシャンです!」

「えぇーッ!? リリちゃんちょっとその言い方はダメなんじゃないの!? というか誰が教えやがったこら!」

 

 ロリっ娘が口にしてはならぬ卑猥な隠語を、あのいい子代表のリリちゃんが口にしまくっている。一体誰が教育した! 黒ウサギさんか!

 

「し、白夜叉様に教えて頂きました」

 

 またお前か白夜叉ああああああッ!!

 

 無理ゲー、なんて単語が可愛く思えるぐらい洗脳されてるではありませんか。ヤ―さん今度あったら覚えてろよ。

 その後、しばらく続いたリリちゃんの卑猥な隠語祭りも冷静さを取り戻した飛鳥ちゃんによってうまく収められた。

 

 

「春日部さん昨日も一昨日もその前も言ったわよね、レディが気軽に男の人の寝室に、あまつさえ、ベッドの中に潜り込むなんて信じられないわ。いくら葵くんのことが好きだからって物事には段階というものがあって」

「どうしてダメなの? 葵は私の大切な友達なんだ。怪我した時は傍にいてあげないとかわいそうだよ」

「にゃー」

「ごめんなさい。どういうことかしら、もう一度よろしくて?」

「だから、葵は私の大切な友達だから早く怪我が治るようにお祈りしてたんだ」

「にゃー」

「……つまり、葵くんを異性としては見ていないのね?」

「飛鳥、葵は友達だよ。なに言ってるの?」

「そうよね。ごめんなさい、勘違いしてたわ。だって葵君ですものね」

「うん。葵は友達だよ」

 

 微妙に噛み合わない二人のやり取りを耳にし、小さく肩を落とす。

 なんとなく飛鳥ちゃんの言わんとしていることが理解できたがまあ今はどうでもいいだろう。それよりも大事な話がある。

 

「で、そのレティシアさんというス―パープラチナブロンドの超美人さんを返して欲しければ代わりに黒ウサギさんを寄こせ、と」

「はい。現状、僕たち "ノーネーム" が "ペルセウス" と一戦交えるのは不可能ですから他の手を考えないといけません。でも……」

 

 と、そこで言葉を切って弱々しく眉根を下げるジン君。椅子の上で体育座りをしながら何度も溜息を零す。

 傍らに腰掛ける黒ウサギさんは深刻そうな表情で俯き続けていた。

 飛鳥ちゃんと耀ちゃんは興味なさげに二人で会話をしている。とはいえ、二人が薄情な訳ではない。色々と面倒なことになっているらしい。

 

 

 目を覚ましてから半刻ほど時が流れた。場所は変わらずVIP専用の客間。そこに十六夜君を除いた "ノーネーム" の主力メンバーが集まっている。

 卑猥な隠語をまき散らしていたリリちゃんはお仕事のため、一人ちびっこたちのもとへと帰って行った。

 去り際にたっぷりと二尾さんをもふもふしてあげると嬉しそうに眉尻を下げながら頬をスリスリされた。

 

「葵さ~ん、もふもふもっとぉ~」

「リリちゃんは甘えん坊さんだね、こうしてやる」

 

 へにゃりと破顔する彼女に気を良くしたオレは調子に乗ってキツネ耳を重点的に攻めたのだが少しやり過ぎた。今は反省している。

 

「気持ちいいです。凄いです。葵さんはもふもふ界の伝道師様です。もっと私の体をもふもふしてください。あ、どうしてやめてしまうんですか、まだ全然足りてませんよ。最後まで連れていってください」

 

 白夜叉ああああああああッ!!

 

 お前は本当に仕事のし過ぎだこの変態が! 危うく目覚めてしまいそうだったじゃないか。イエスロリータ、ノータッチ……あ。

 耀ちゃんと飛鳥ちゃんにジト目で睨まれたのは言うまでもない。

 その後、リリちゃんと入れ替わるようにしてジン君と黒ウサギさんが入室し、オレが眠っている間の出来事を教えてくれた。

 

「え? あれからもう三日も経ってるの!?」

「はい。葵さんがガルドにやられてからちょうど三日です。だからみんな凄く心配していたんですよ、リリをはじめとした百二十人の子供たちがここに押しかけようとしていたんくらいですから。耀さんにいたっては『私のせいで葵が』とずっと涙を流して貴方の傍から離れようとしませんでした」

 

 ジン君の言葉を受け、自然と瞳が右腕を捉える。

 病院服のような上着に着替えさせられていたオレの腕には大きな染みが出来ていた。思わず顔が綻ぶ。

 礼の一つでも言おうと思ったのだが無表情可愛い彼女は今この部屋にはいない。

 目を覚ましたっぷり涙を流しながらオレに抱きついた後、何かに気づいたように慌てて部屋を飛び出していった。

 飛鳥ちゃん曰く「汗を流しにいったのよ」とのこと。

 ジン君の話から推測される結論は、まあ分かる。

 

「みんなに迷惑をかけてしまったんだね、ごめんね」

「謝らないでください、こうして無事に目を覚ましてくださったんですから。仲間を失わなくて本当に良かったです。そうだよね、黒ウサギ?」

「YES! 誠に申し上げにくいのですが一時はもうダメだと諦めていました。ですが葵さんのギフトが奇跡を起こしたんです。お帰りなさい、葵さん」

「うん。ただいま」

 

 瞳に涙を浮かべながら「良かったね」と頷き合おうジン君と黒ウサギさん。

 飛鳥ちゃんは一人離れた位置で腕を組みながら佇んでいた。もちろん、優しげな笑みで。

 しばらくそうした後、不意にジン君がオレに訪ねてきた。

 

「葵さんのギフトは回復系だったんですね。ご存じではなかったんですか?」

「どうだろう、確かに昔から怪我の治りは早かったから知っていたといえばそうなんだけど、まさかここまでの回復力とは思わなかったよ」

「なるほど。しかし、黒ウサギが思うに回復というよりは再生の方が近いのではないでしょうか?」

「そうかもしれないね。つまりそうすると――"ウルトラじこさいせー" とかかな?」

 

…………あり? どうして三人とも目を逸らすの? ねぇ、ちょっと。

 

「"ウルトラしこさいせー" ですか。ネーミングセンスに狂気を感じるのは黒ウサギだけでしょうか?」

「大丈夫よ、私もしっかり感じてるわ。ということで今後葵君に何かを命名させることを堅く禁じます。異論はないわね? はい決定」

「飛鳥さんそれは流石に言いすぎでは……?」

「あら、いいのよジン君、葵君から貴方に大層立派なニックネームを頂いても」

「それはちょっと、いえ、かなり困ります。今でさえ十六夜さんから『御チビ』呼ばわりですから。だから葵さんごめんなさい」

「ジン君にもナチュラルにディスられたーッ!?」

 

 どうやらオレにはネーミングセンスが皆無のようだ。口にした瞬間のあの微妙な空気、絶対忘れないからな。

 恨みを込めたジト目で三人を睨んでいるとガチャリと扉が開いた。耀ちゃんだ。

 風呂上りのせいか頬が赤く上気し、髪が湿っている。服装は半袖シャツに短パンと非常にラフな格好だ。

 一瞬飛鳥ちゃんが何か言いたげな表情で彼女を睨むが思い留まった。

 

「おかえり、耀ちゃん」

「うん。葵もおかえり。それとごめん、私のせいでキミに大けがをさせてしまった。今後は私が命に代えてもキミを守るから」

 

 拳を握り締め真っ直ぐな瞳で彼女はオレを見つめる。

 深刻そうな顔でなにを言うかと思えばこのおバカさんは、悪いのは自分の身も守れない弱っちいオレだというのに優しすぎるよ。

 扉の前で佇む少女のもとへと歩み寄り、軽く頭を撫でる。

 耀ちゃんは嫌がる素振りも見せずに気持ち良さそうに目を細めた。

 

「耀ちゃんがオレを命に代えても守ってくれるというのなら、オレもキミを命に代えても守るよ」

「だ、ダメだよ、それじゃあ意味がない。葵は無理をしないで、だってキミは」

「満足にギフトも使えない庶民兼一般人だから?」

「うぅ……違う。そうじゃなくて」

 

 困ったように言い淀む耀ちゃん。なんだか苛めみたいでちょっと心が痛む。

 俯く彼女の頬を両側から軽く抓り、オレの方へと向かせる。

 

「耀ちゃんがオレのことを大切な友達と思ってくれてるみたいにオレも耀ちゃんのことを大切な友達だと思ってるんだよ。一人だけ抜け駆けはずるいんじゃないかな? それに、どうやらオレは簡単には死なない体質みたいだから安心してよ」

「分かった。でも、絶対に無理はしないでほしい。約束だよ?」

「うん。約束する。また耀ちゃんの身に何か起こりそうだったら全力で盾になるよ」

「……葵、私の話を聞いていた? キミはバカだ。葵のバカ。バカバカ」

 

 口元を軽くすぼめ、ジト目で睨む耀ちゃん。場違いにも程があるが是非お持ち帰りしたいと思います。

 

「で、もういいかしら? 二人仲良く愛を育むのは結構だけど、時と場所を考えてちょうだい。口から砂糖が出てそうだわ」

 

 オレたちのやり取りになにを思ったか、飛鳥ちゃんが怒気混じりの声音を投げかけてきた。超怖い、目が本気だ。

 よく見ればジン君と黒ウサギさんも苦笑いだよ。ごめん。お互いそういうつもりなんて微塵もないけどなんかごめん。

 心の中で平謝りするオレとは裏腹に耀ちゃんは頭にハテナマークを浮かべながら小首を傾げている。天然というか無知というか、とにかく可愛いぜ。

 

「葵さん、もう一つ話しておかなければならないことがあります。いいですか?」

「分かった。耀ちゃんは三毛猫さんを可愛がってあげて、なんだか死にそうな顔でこっちを見てるよ」

「え? み、三毛猫ーッ!? どうしたの? 大丈夫?」

「にゃ……にゃ~」

 

 ジン君に大事な話があると促され席につこうとするオレとは別に部屋の隅で三毛猫さんが御臨終寸前の状態で白くなっていた。

 すぐさま大好きな耀ちゃんに三日も放置されたのだと理解する。ごめん。

 うわ、超こっち睨んでるし、絶対後でダブル眼球猫パンチ喰らわされるよ、まあいいか。

 死にかけの猫さんなど放っておいてジン君と黒ウサギさんもとへと歩み寄り、手頃な椅子に腰かけた。

 

「では、さっそくですが現在 "ノーネーム" の置かれている状況について説明させて頂きます」

 

 そうして、ジン君の口からガルド戦後に起きた出来事について説明を受けた。

 

 無事(とはいえないが)ガルドとのギフトゲームに勝利したジン君たちはその後、ヤツのコミュニティ "フォレス・ガロ" を解体し、無理やり傘下に加えられていたコミュニティに名と旗を全て返したそうだ。魔王を打倒すると決めたジン=ラッセルが率いる "ノーネーム" がという言葉を添えて。

 

 多くのコミュニティに恩を売ることに成功した、と捉えていいだろう。

 

 発案者は案の定、十六夜君だった。

 名乗る名も掲げる旗印もない俺たちは御チビの名を売ることぐらいしか出来ないんだよ、とのこと。

 大胆にも程があるやり方に思わず苦笑してしまった。

 これでコミュニティに何かあっても周りの人々が手を貸してくれるだろう、逆に魔王に反逆しようとする愚か者とも捉えられなくもないが。

 

 一方その頃、オレは既に黒ウサギさんに運ばれコミュニティで眠っていたそうだ。

 その際恐るべき再生力に度肝を抜かれたとかなんとか。これでも一応人間ですからね。

 ちなみに再生活動が始まったのはコミュニティに着いてからしばらく経ってからだそうだ。いつの間にか傷口が塞がっていたらしい。それでも軽い貧血気味だったので輸血だけは施してくれたようだ。あの出血で軽い貧血って等価交換的なのどうなってんの?

 

 その後、コミュニティへと戻ってきた十六夜君たちのもとに彼女は現れたそうだ。

 

 スーパープラチナブロンドの超美人さん。

 指を通すと絹絹糸みたいに肌触りが良くて、湯あみの時に濡れた髪が星の光でキラキラすのです、とは黒ウサギさんによる情報。

 なんでもガルドが化物のように変貌を遂げていたのは彼女のせいらしい。

 彼女、レティシア=ドラクレアは "箱庭の騎士" と称される充血の "吸血鬼"。

 そのため、吸血行為によって相手に "鬼種" の恩恵を与えることが出来るらしいのだ。だからガルドは強くなっていた。

 ちなみに元・魔王様&元・ "ノーネーム" の一員。

 三年前に起きた魔王軍襲来の時に捉えられ、商品として様々なコミュニティを渡り歩いていたそうだ。

 黒ウサギさん情報によれば、彼女は思慮深く、とても自分を可愛がってくれたそうだ。

 

 ではなぜガルドに手を貸したのか?

 

 それは『打倒魔王』というあまりにも無謀な目標を掲げるジン君に警告するためだった。

 確かに普通なら心配になる。箱庭の貴族としてなかなかの実力を備えている(らしい)黒ウサギさんを除けばジン君には悪いけど最底辺の弱小コミュニティなんだから。

 オレを含めた新たな同士四人の加入は知っていたそうだが実力はまでは分からなかったんだろうね。十六夜君とか超強いのに。飛鳥ちゃんも耀ちゃんもこれからどんどん成長するだろうね。オレは知らん。あと三毛猫さんも知らん。

 

 で、あろうことかガルドを倒しちゃったからさあ大変、いっちょ私自身が警告しに行くか、ということでコミュニティに来たそうだ。

 その際、現在彼女が所属している "ペルセウス" というコミュニティとひと揉めあったらしい。

 

 "え? なにお前らうちの大事な商品勝手に持ち出してんの? バカなの? 死にたいの?"

 

 といちゃもんをつけてきたのだとか。

 なにやらきな臭い話なのだが、どうも彼女は商品として箱庭の外にいる変態に売られることになっていたそうだ。

 まあ、確かにスーパープラチナブロンドの超美人さんともなれば引く手数多の状態だろう。ただ、人を物として扱い、尚且つ、変態のもとに売るなど言語道断。

 黒ウサギさんたちも同じ気持ちだったらしく、ペルセウスのリーダールイオスのもとに直訴しに行ったらしい。

 

 "ふざけんなよ! うちのスーパープラチナブロンドの超美人さん返せよ、三下!"

 

 普通に考えれば「え? ちょっとそれ横暴じゃない?」と思うところだ。元・仲間とはいえ、今は他人のコミュニティに所属しているのだから口出しする権利はないだろう。

 しかし、話はそんな単純なものではなかった。

 実は近々レティシアさんを商品としたギフトゲームが開催される予定だったのだ。

 だが、ルイオスは金に目が眩み、急遽ゲームを取りやめ、変態との交渉に動き出したらしい、大々的に公表していたにも関わらずにだ。

 まあこれでも充分横暴なのだがごり押しでそこを突いたらしい。

 しかし、帰ってきた答えは

 

 "知るかよバーカ! 名無しの旗無し "ノーネーム" の言うことなんかいちいち聞いてらんないの、帰れよ"

 

 とのこと。

 

 "あ、でも、キミキミ、箱庭の貴族である黒ウサギとなら交換してあげてもいいよ。毎日たっぷり可愛がってあげるからさ"

 

 名状しがたいゲスイ笑みで黒ウサギさんを出せと要求してきたそうだ。

 

「で、そのレティシアさんというス―パープラチナブロンドの超美人さんを返して欲しければ代わりに黒ウサギさんを寄こせ、と」

「はい。現状、僕たち "ノーネーム" が "ペルセウス" と一戦交えるのは不可能ですから他の手を考えないといけません。でも……」

「もういいんです。黒ウサギがルイオスさんのところに行けばレティシア様は帰って来られるのですよ。それでいいじゃないですか、何を躊躇う必要があるというのです」

「いや、ちょっと何言ってるのか分からないんですけど、黒ウサギさんを売るとかいうゲスイ選択肢はどこにも存在しませんから黙っててください」

「いえ、しかし」

 

 と、オレの説得を無視して反論しようとする黒ウサギさん。

 実はこの会議、オレが寝ている間にも何度も何度も繰り返し行われていたらしくその都度飛鳥ちゃんと耀ちゃんが黒ウサギさんを説得していたそうだ

 

「私がルイオスさんのところにいけばいいんです。そうすればレティシア様はここに帰って来られるのですから」

「黙りなさい。レティシアが戻ってきても貴女がいなくなればなんの解決にもならないのよ。そんなことも分からないの!」

「でも、これ以外に方法がなくて」

「だからこうして皆で考えているんでしょう。ふざけないでちょうだい」

「く、黒ウサギはふざけてなど」

「嫌だ。黒ウサギも私の大切な友達、どこかに行くなんて許さない。葵も飛鳥もみんな一緒がいい」

「耀さん……」

 

 という流れの繰り返し。

 まあ何が言いたいのかというと、飛鳥ちゃんのイライラは限界を超えてしまった、ということだ。

 

「黙れッ!!」

 

 ピリリ、と部屋の空気が揺れる。

 

 視線の全てが飛鳥ちゃんに集中し、怒気の籠った瞳が黒ウサギさんを射抜く。

 

「あぁ鬱陶しい、ふざけるのも大概にしなさいこの駄ウサギ。ずっとコミュニティの仲間が仲間がって全て一人で抱え込もうとして、所詮貴女にとって私たち四人は部外者でしかないのね」

「そ、そんなことはありません。飛鳥さんたちは黒ウサギにとって大切な」

「大切な何かしら? 先に言っておくけど私の認識では "仲間" というものは互いを助け、尊重し合うものよ」

 

 侵略すること火の如く。昔の偉い人は恐ろしい事を言う。

 相手に反撃する暇さえ与えない現代用語で言うところのゴリ押しだ。

 黒ウサギさんは「うぅ……あの、その」と目を泳がせている。ウサ耳も応じて忙しない動きを見せるのは仕方のないことだろう。

 

「なに? 何か言いたいことがあるのならはっきり言ってちょうだい。私たちは "仲間" なんでしょ。ねぇ黒ウサギ」

「あうぅ……」

 

 小さくなる背中。萎れるウサ耳。

 止めの一撃は思わぬところから飛んで来た。

 

「苦労詐欺」

「詐欺ーッ!? 黒ウサギはそのような卑劣なことを」

「私たちを騙そうとしてた」

「あうぅ……」

 

 耀ちゃん恐ろしい子。的確に相手の急所を突いてくるその戦法はどうかと思うよ。

 しょんぼりしないでジン君、耀ちゃんは本当のことを言っただけだよ。

 ごめんごめん嘘だって、アオーイ、ジーン、トモダーチ。友好の印にシェイクハンド。

 泣きそうになるジン君を他所に二人のウサギ狩りは続く。

 

「いいわねそれ。『私こんなにも仲間のために身を粉にして頑張ってます。でも助けは不要。だって私は苦労詐欺ですから』素晴らしい自己犠牲だわ」

「意味が分かりません! 百歩譲って私が苦労詐欺だとしてもその説明では何を言いたいのか分かりませんよ」

「意味なんてどうだっていい。私たちは黒ウサギに捨てられるんだ。酷い」

「何故そうなるんですか耀さあああんッ!?」

 

 ハァハァ、と肩で息をする詐欺師黒ウサギさん。

 やっぱり私たちは騙されていたんだ、捨てられるんだ、としょんぼりした雰囲気を醸し出す飛鳥ちゃんと耀ちゃん。

 そして、三人のやり取りを一歩引いた位置から静観するジン君とオレ。

 

 よし、ジン君、オレたちは静かにしておこう。これは逃げじゃないよ、戦略的撤退ってやつさ。

 や、やめろ、眩しい。そんな『葵さん、凄いです』的な眼差しをオレに向けないでくれ。 騙してごめん。今度背中流してあげるから許して。

 

「黒ウサギの……黒ウサギの苦労も知らないくせによくも詐欺師呼ばわりしてくれましたね。お二人とも許しません。ええ、絶対に許さないのですよ。この温厚で有名な黒ウサギを本気で怒らせたことを後悔させてやります」

 

 どこから取り出したのか、お馴染のハリセンを右手で握り締め、テーブルに向かってパンッパンッと試し打ちをする黒ウサギさん。

 だが、相手が悪かった。

 飛鳥ちゃんは数多くのオジ様たちを手玉に取ってきた最強のお嬢様なのだ、ちょっと出来るウサたん程度では勝つことはできないだろう。

 また一つ溜息を吐き、冷めた目つきで急所を抉り取る飛鳥ちゃん。

 

「そう、理不尽ね。教えてくれるつもりなんて微塵もないくせに悪いのは全て私たち。自分さえ犠牲になれば全てが上手くいくという傲慢な考え方をするのが "ウサギ" という生き物の本質というわけね」

 

 残念だわ、と心底つまらなさそうに吐き捨てる飛鳥ちゃんに一瞬怯みながらも、黒ウサギさんは嘆くように訴えかける。

 

「うぅ……でしたら黒ウサギはどうしたら良かったというのですか。我々名無しの旗無し "ノーネーム" が超巨大コミュニティ "サウザンドアイズ" 傘下の "ペルセウス" に喧嘩を売ってただで済むとお思いですか! 仮に勝てるだけの力があったとしてもルイオスさんは絶対にゲームをお受けになりません。黒ウサギ達にはもう選択する余地はないんですよッ!」

 

 始める前から諦めきっている彼女にイライラが止まらない。

 彼女のために "仲間" として何もしてあげることが出来ない無能な自分に腹が立って仕方がない。

 オレたち外からやってきた者は一様に己の無力さを嘆くことしか出来ない、たった今この瞬間までは。

 

「おいこらちょっと待てよ黒ウサギ、そいつは聞き捨てならねぇ――なーッ!!」

 

 爆音とともに吹き飛ぶ扉。巻き起こる砂塵の向こう側に誰かが立っている。

 何事だーッ!? と慌てるオレたちの前に現れたのは "ノーネーム" きっての超問題児、逆廻十六夜君だった。

 いきなり出てきたと思ったら派手すぎるでしょ。どこまでチートのノリやれば気が済むんだキミは、お兄さんビックリだよ。

 

「黒ウサギお前の目は節穴か。俺たち()人があんな雑魚モブに負けるわけねぇだろ。寝言は寝て言え」

「十六夜、三人じゃない四人。葵のことを忘れちゃダメ。ここ重要」

「あぁそうだった。そういやそんなヤツもいたな、まるでナメクジ星人みたいなヤツが」

「十六夜、私の大切な友達をバカにしないでほしい。怒る」

「先走るな褒め言葉だ。ちなみにバカにし続けるとどうなるんだ?」

「三枚にすりおろしてから三毛猫の餌にする」

「そいつは勘弁」

 

 ヤハハ、と楽しげな笑みを見せる十六夜君に耀ちゃんはジト目で応戦する。いつの間にか手には黒ウサギさんのハリセンが握られていた。

 恐るべき動物パワー、神業的スリに驚きが隠せません。

 というか耀ちゃん、葵のことを忘れちゃダメってオレがハブられてる前提で話を進めないで欲しかったです。キミにまで見捨てられたらオレもう無理だってばよ。

 

 それにしてもドアが派手にぶっ壊れましたね。

 蹴り破って入ってくるなんて非常識このチートおバカくらいじゃないだろうか。十六夜君はもっと自重するべきだと思います、いや、マジで。

 あ、しょんぼりしないでジン君、オレも手伝うからあとで一緒に直そう。

 

 ん? 部屋の外に誰かいる?

 

 やぁやぁ、誰かと思えばちびっこ精鋭隊のお二人ではないですか。

 何やってるのそんなところで? 大丈夫だよ、こっちにおいで。

 え? オレの様子を見に来てくれたの? ずっと心配してたであります?

 そうでありますか、それはそれはありがとうであります。

 ほらこの通り、お兄さんはもう完全復活してるでありますよ。心配かけちゃってごめんであります。

 また皆で枕投げやろうね。約束ぅ。んじゃ、お仕事がんばってね。ばいば~い。

 

 犬耳と猫耳の可愛い二人の少女を送り出し、ジン君たちのもとへと歩み寄ると飛鳥ちゃんが「えらく遅かったわね」と十六夜君に語りかけていた。

 

「遅すぎてこのまま "家庭訪問" にでも伺おうかと思ってたところよ」

「おいおいそんな面白そうなことを俺抜きでやろうなんて趣味が悪いぜお嬢様」

「あらごめんなさい、以後気をつけるわ。で、もしかしてそれが?」

 

 飛鳥ちゃんの指差した場所には二つの風呂敷が、テーブルの上に置かれている。一体何だろうあれは、気になる。

 あ、余談だけど家庭訪問って絶対 "殴り★込み" だよね。 ハハ。怖いよ二人とも。

 

「まあそういうことだ。なんなら今から行くか?」

「ダメよ。せっかちな人ね、それでは女性に好かれないわ。いきなり持っていってさあ始めましょうか、とは普通ならないでしょ。それに――最高の状態の彼を地べたに這いつくばらせるのが至高ではなくて」

 

 飛鳥ちゃんの試すような物言いに十六夜君は「お嬢様……」とたっぷり前置きをし「超グッジョブ!」と右手をサムズアップさせた。

 表情を変えず、同じ様に右手をサムズアップさせて答える彼女は何やら楽しげだ。

 

「いいねいいな最高に面白くなって来やがったぜ。当然ヤツを殺るのは」

「貴方に譲るわ」

「最高」

 

 獰猛な笑みを浮かべる悪魔 with 悪魔。

 なんだよこれ。もし誤って契約しようものなら地獄を見るぞ。

 

 二人で勝手に盛り上がる十六夜君と飛鳥ちゃんにオレが言うのもなんだが蚊帳の外に追いやられたはずの黒ウサギさんが問いかけた。

 

「お二人とも一体何の話をしているんですか?」

 

 ふふん、と得意気な顔を見合わせ、タイミングを計ったかのように二人は黒ウサギさんを指差す。

 そして、二人の悪魔は獰猛な笑みを残虐なるそれへと変貌させ楽しげに告げた。

 

「「七光りが二度となめた口を利けないようにズタボロにしてやろう、という話よ(だ)」」 

 




全体的にリリちゃんの出番が少なくなってしまったので強化してみた。

リリ「まだ全然足りてませんよ。最後まで連れていってください」←どこに行く気なんですか?(笑)

※ちびっこ精鋭隊のお二人のモデルは某、愛と勇気と耳と尻尾の物語の仲良しの二人組。ということになっているであります。
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