リクルートファイター葵くん   作:まひる

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また画面が黒くなってしまった。反省


第07話 『万能情報マシーン、マキペディア』

◆ ◇ ◆ ◇

 

 あ、どうも女神さま、ちょっぴりお久しぶりの柊です。

 お仕事頑張ってますか? ごめんなさい。聞くまでもなかったですね(笑)

 さて、突拍子もない話ですが遠くの方から悪魔の奏でる鎮魂歌(レクイエム)が聞こえてきます。

 あれーおかしいなーあっちは確か飛鳥ちゃんがいる方だと思うんだけどー。

 気のせいですよね。"バキッ" "ミシャリ" "グチョリ" とかそんな、ねぇ。

 あ、そうだ、すっかり忘れてましたが女神さま酷いじゃないですか、

 勝手に他人のギフトに呪いをかけるなんて何様? あ、女神さまか。

 とりあえず、今回の定期連絡は『マキペディアばんざーい!』ということです。

 

◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 オレたちは今、ギフトゲーム "FAIRYTALE in PERSEUS" の真っ最中である。

 場所は対戦相手であるコミュニティ "ペルセウス" の本拠、白亜の宮殿と呼ばれる美しく荘厳な建物の中だ。

 あの "ペルセウス" である。スーパープラチナブロンドの超美人さんを変態のもとへと売り飛ばそうとした、レティシアさんが欲しければ黒ウサギさんを寄こせと要求してきた、あのルイオスがリーダーを務めるコミュニティだ。

 名無しの旗無し "ノーネーム" であり、本来ならば相見えることが許されなかったオレたちが何故彼らとゲームをしているのか、その答えは十六夜君が持って帰ってきた二つの風呂敷の中にあった。

 

「あの、お二人さん、何を盛り上がってるのか知らないけどさ、『七光りが二度となめた口を利けないようにズタボロにしてやろう』ってそれが無理だからこんなに悩んでるんだよね? 何か解決策でも見つけたの?」

 

 当然の疑問に三毛猫を抱えた耀ちゃんも小首を傾げて応じる。

 楽しそうに笑い合う十六夜君たちよりも早く蚊帳の外から舞い戻った黒ウサギさんが驚愕と言わんばかりの声を上げた。

 

「ま、まさか、いえ、そんなはずはありません。この短時間で二つの試練を乗り越えるなど人間技じゃないです」

「だそうよ十六夜君、人外認定おめでとう。子どもたちに頼んで今日はパーティでも開くきましょうか」

「ハッ、冗談。宴ってのはな、頭数が多いければ多いほど盛り上がる、そういうもんだろう。それにあの金髪ロリなかなかいいじゃねぇか、俺専属のメイドにしてやる」

「抜け駆けは禁止よ。金髪の使用人、いいわね。ワタシも一枚噛ませてもらうわ、異論は許しません。あ、どうせなら春日部さんと葵くんもやる? そうなるとちょうどいいわ、3:3:3:1 で葵くんが1ね」

 

 発売前のゲームの話題で盛り上がる子どものような笑みで二人は語り合う。

 金髪の使用人、というなんとも怪しげな単語に頭を悩ませているパンッパンッ、と聞き慣れた音が響いた。

 

「このお馬鹿様ーッ! 黒ウサギの大先輩であるレティシア様をメイドとはなにを考えてらっしゃるんですか! 許しません、ええ、絶対に許さないのですよ!」

「なんだ黒ウサギ、察しがよくて助かるぜ。まあもう決まったことだ、グチグチ言うならコイツはあのイカ臭いヤツらに返してくるぞ」

 

 ヤハハ、とお馴染の笑みと共に二つの風呂敷が掲げられる。スルリと結び目を解き中身を露わにする十六夜君はどこか誇らしげだ。

 現れたのは赤と青の水晶のような丸い物体。表面に何か印があるがあれは一体……。

 正体を探ろうと目を細めているとジン君が盛大な溜息を吐いた。

 

「その印章、"ペルセウス" のもので間違いありませんね。白夜叉様に教えて頂いたんですか?」

「正解だ。お前もなかなかいい感してるじゃねぇか、ちょっとは見直したぜ、御チビ様」

「御チビ……」

 

 ぐぬぬ、と必死に何かに耐えるよう拳を握りしめるジン君。そういえば十六夜君につけられた『御チビ』というニックネームが気に入らない的なこと言ってたね。

 

……どうしよう、全然話ついていけないんですけど。

 

 胸の内で慌てるオレに三毛猫を頭に乗せた耀ちゃんが近づいてきた。

 念のため「分かる?」と尋ねれたところ嬉しいことに彼女もオレ同様、目の前の出来事がちんぷんかんぷんらしく首を左右に振った。

 良かった、一人だけ置いてけぼりをくらったわけじゃなくて。

 とりあえずやることがないので二人揃って小首を傾げながら待機していると察しのいい黒ウサギさんがこちらに気付き、オレたちも仲間に入れてくれた。

 

「御二人は、ペルセウスのゴーゴン退治をご存知ですか?」

 

 黒ウサギさんによれば十六夜君が持ち帰ったあの二つの水晶に似た物体はコミュニティ "ペルセウス" に挑戦するための証らしい。

 なんでも力のあるコミュニティは自分たちの伝説を誇示するために、伝説を再現したギフトゲームを用意することがあるのだとか。挑戦するにはそれなりの資格が必要で、過酷なゲームをクリアしなければならない。

 "ペルセウス" の場合二つの試練があり、どちらも普通にやれば数ヶ月単位でかかるらしいのだがうちの人外さんは三日で仕上げてきたそうだ。

 流石オレの考えた最強の主人公、名前だけじゃなくて能力も厨二病だよ。やったね、十六夜君!

 

 という訳で無事にギフトゲームまで漕ぎ着けたのだ。

 ルールは至って簡単、ゲームマスターであるルイオスを打倒すればいい。ただし、ホスト側である "ペルセウス" のメンバーに姿を見られてしまった場合、ルイオスに挑戦する資格を失うという制約がある。

 

 宮殿前に掲げられていた契約書類(ギアスロール)にサインをし、戦いに臨んだ。

 

 

 宮殿内に突入してからそれなりに時が流れた。恐らく既に半分以上は踏破したと思われる。

 大理石でできた床を踏みしめながらオレたちはルイオスが待つであろう宮殿最奥の部屋へと向けて駆けていた。

 

「こ、怖いです。今日この瞬間だけは黒ウサギの素敵耳がなければと…………あぅ」

 

 何かに怯える黒ウサギさん。ガタガタと奥歯を鳴らしながら小刻みに震えるその姿はオレのよく知るあの可愛いウサたんそのものだ。愛でたい、ピョコピョコ跳ねまわるウサ耳をもふもふしたい。

 人参をスティック状にスライスしたものを人差指とボス指で挟んであの可愛らしいお口にお届けしたい。

 もっと欲しいのかい? だ―め。食べすぎは体に毒だからね、とか意地悪したい。

 黒ウサギさんってこんなにも可愛かったのか、お持ち帰り余裕です。

 っていかんいかん、思わず良からぬ事を考えてしまった。

 弱っているウサたん相手に何てゲスいことを考えているんだオレは、一回落ち着こう。

 

 そもそも黒ウサギさんが怯えている理由は分かっている。遠くの方から聞こえてくるあれのせいだ。ごくごく普通の庶民兼一般人のオレの耳にも届くあれ。

 黒ウサギさんは超高性能ウサ耳を持つせいで臨場感が半端じゃないらしい。

 なんかごめん。ちょいちょい「葵さんのせいですぅー」的な視線が心に突き刺さる。マジごめん。

 

 さてどうしたものか、と思い悩んでいるとジン君が颯爽と彼女のもとへと歩み寄った。

 

「しっかりして黒ウサギ、僕が付いてるから」

「ジン坊ちゃん……」

 

 零れ落ちかけていた涙を細い指で拭う小さなイケメンことジン君。流石オレの隊長カッコイイ。

 両頬に手を添え「大丈夫だよ」と繰り返し言い聞かせるその姿に惚れてしまいそうだ。あと五年もすれば身長も伸びてそれなりに貫録も出ると思うよ。

 このリア充予備軍め。リリちゃんやちびっこ精鋭隊のお二人を落とすのも時間の問題だね。

 

「いつの間にか大きくなられたのですね」

 

 主の成長に感慨深いものでもあったのだろう、黒ウサギさんは柔らかい表情を浮かべながらジン君を抱きしめ、優しく頭を撫でた。

 

「ちょっと黒ウサギどうしたの!?」

「ジン坊ちゃんが素敵ジェントルマンになられるまでこの不肖黒ウサギ、全てを捧げ続けます」

「えぇー!? やめてよ恥ずかしい。ちょっと黒ウサギ、みなさんがこっちを見てるよ。許してもお~」

 

 止めどなく溢れ出す涙を拭うことも忘れてジン君の頭を撫で続ける黒ウサギさん。

 顔を真っ赤に染めながらジタバタ暴れる往生際の悪い我らがリーダージン君隊長。

 そして、二人の微笑ましい光景にしびれを切らす者たち。

 

 パンッ、と快活な音が一つ。

 

「お前が御チビのことを溺愛してることはよく分かった。今すぐ死ね」

「な、何故そうなるのですかーッ!?」

 

 パンッ、と繰り返される過ち。

 

「飛鳥が一人で頑張ってくれているのにこんなところでジンといちゃいちゃする黒ウサギは嫌い」

「うぅ……そ、それは」

 

 バチィィィィンッ! と落雷にも似た轟音が一つ。なんでやねん!

 

「痛ッ、なんでオレ!? どういう見脈絡があって殴られた! 説明してくださいよ黒ウサギさん!」

「ど、どうもうこうもうないんです! こういう時は全て葵さんが悪いに決まってるんですよ!」

 

 ウガーッ! と乱れハリセンを繰り出す駄ウサギさん。

 なんだこの横暴ウサギは、十六夜君と耀ちゃんには勝てないからってオレに全力出すかね普通。弱者を痛ぶるとかサイテー。

 場違いにも程があるやり取りをしていると遠くの方から爆発音が響いた。

 

「五分か。まあ庶民のお前にしては頑張った方じゃねぇ」

「いやいや、持続時間に関してはオレの許容範囲外だと思うんだけど」

「ハッ、気合いが足りねぇんだよ阿呆」

「冗談きついぜ暴君十六夜様」

 

 何事も気合い云々でどうにかなっちゃう人はいいよね。オレみたいな庶民兼一般人は社会の歯車がお似合いですよーだ。

 陰鬱な気分に陥り肩を落としていると有ることに気がついた。

 

 あれ、黒ウサギさんは? おーいどこいったの、出ておいでー。

 

 先程までジン君をこねくり回していたはずの黒ウサギさんの姿がどこにもない。

 これはもしかして怪奇現象? んなわけないか。おーい出ておいでー。

 再度呼びかけてみるものの返事はない。

 何が起こったのか理解することが出来ず頭を抱えるオレのもとに無表情可愛いあの子がやってきた。得意の平坦な声音で告げる。

 

 "葵、世の中には知らないほうがいいこともあるんだ"

 

 謎の言葉を言い残し、彼女、春日部耀は十六夜君のもとへと去っていった。

 いやいやちょっと待ってぇい! なんだこれ、あれか、細かいことは気にしたら負けとかそういうパターンのやつか。よく分からないけど黒ウサギさんごめん。

 

 

 謎の黒ウサギさん消失事件が起きてから数分。宮殿の奥へとさらに突き進んだオレたちは物陰に身をひそめながら敵の動向を伺っていた。

 

「葵の手、暖かくて凄く気持ちいい。もっとしてくれる?」

「もちろん、お安いご用さ。耀ちゃんのは指通りがよくてこっちまで気持ちいいよ」

「そうなんだ。一石二鳥だね……あ、くすぐったいよ」

「ごめん、少し力を入れ過ぎたかも。許して」

「仕方がない、大切な友達だから特別に許す。葵のバカ」

「バカ呼ばわりは酷いんじゃないかな、せめてもう少しましな」

「よく見ろ御チビ、これがバカップルってやつだ。見つけ次第『爆ぜろ!』と大きな声で罵ってやれ」

「は、はい! 爆ぜろ! これで大丈夫でしょうか?」

「よくやった、上出来だ。つうことでお前らいい加減にしねぇと戦場に叩きだすぞおら!」

「ごめんごめん。ちゃんとやるからもう()たないで。お願い」

 

 小指の方から徐々に拳へと形状変化させていく動作をキミがやると怖さ倍増どころか乗増だよ。ごめんなさい。

 背後に迫る恐怖から逃れるように再び耀ちゃんの頭に手を伸ばす。

 そのまま優しく慈しむように撫で回し、言葉を紡ぐ。

 

「無理しちゃダメだよ」

「うん、大丈夫。葵は私が守る」

「ありがとう」

 

 一瞬だけオレの瞳をジッと見つめ、敵が潜んでいるであろう回廊へと向けて彼女は駆け出した。

 いつも通りの無表情。オレ以外の誰かが見てもそう言うだけだろう。勘違いかもしれない。でも、なんとなく笑いかけてくれた気がした。

 

 私が守る、か。

 情けない話だが俺の持つギフトは戦闘向きではない。いや、ある意味では超戦闘向きなのか。

 

 "限られた時間の中だけ最良の力を発揮させることが出来る"

 

 それが俺の持つ名前不詳のギフト。

 持続時間約五分。効果が付与されている間、対象者の能力値を爆上げするチート。

 範囲は恐らくその者に潜在する力の限界点だと思われる。

 黄色い電気ねずみことテカチュウで有名なホケモンで表すとレベル三のホッポにこの力を付与するとあら不思議、五分間だけレベル百で全ステータスマックスのジョットさんに大変身を遂げられる。こんな感じだ。

 ただし自身には効果が及ばない。所謂 "支援系" というやつだだろう。

 以上、マキペディアからの引用。

 

 ここで一言、十六夜君はリアルチート野郎でした。流石オレの考えた最強の主人公だけはある。

 

 "ペルセウス" とのゲームが行われる直前、白亜の宮殿を目にしながら十六夜君が驚くべきことを言い放った。

 

「俺の推測が正しければこの戦い、阿呆のギフトが役に立つかもしれない」

 

 もちろんみんな「え? なに言ってるの? 大丈夫?」 と訝しげな目で彼のことを伺った。

 

 そこで万能情報マシーン、マキペディアが発動されたのだ。

 先程述べたオレのギフトについての考察を分かりやすく事細かく説明してくれたのである。

 どうも彼自身、違和感を覚えたのは耀ちゃんがキメラさんの背に乗って楽しげに遊んでいた時だそうだ。

 あとから分かったことだが友達になった異種族の力を得ることができる、それが耀ちゃんの持つギフトの力。

 しかし、十六夜君曰く、それでは説明がつかないらしい。地球上の生物ではないキメラさんの速度に対して笑顔でいられるのは異常だと語った。

 さらに、オレと耀ちゃんがガルドと対峙した時も似たような現象が起こっているらしい。

 いつも以上の力を発揮していたにも関わらず、時が経つとともに簡単に吹き飛ばされた耀ちゃんがその証拠だそうだ。

 ちなみに黒ウサギさん実況でこちらの様子についてはだいたいの事は分かっていたのだとか。

 さらに疑問を確信に変えるため調査をしていた十六夜君の耳に面白い情報が入った。

 

「おにぃちゃん目を覚ましたそうだよ」

「ほんとぉ~? やったぁ~おにぃちゃんがかえってきた」

「ばんざぁ~い」

「ほら言ったでしょ、おにぃちゃん昔から怪我の治りが早くて、しかも "足を挫いたリリちゃんをあっとういう間に治してくれた" んだから。だからすごいの」

 

 以上のことから、オレの持つギフトが付与した相手の能力を底上げするものだと思い至ったらしい。

 恐るべき洞察力と推理力に素直に感心させられた。流石オレの考えた最強の……。

 

 で、今現在ちょっとした実験を行っている。

 その一つが効果の持続時間を計るものだったわけで――結果は約五分。

 突入前に飛鳥ちゃんに効果を付与しておき、感覚的に元の状態に戻ったら知らせる、ということになっていた。

 ちなみに先程、遠くの方から響き渡った爆音が効力が切れた時の合図だ。

 

 また、もう一つ分かった事がある。同時に複数人に対しては使用できないらしい。

 これも突入前に試したのだが飛鳥ちゃん→ジン君→耀ちゃんの順で効果を付与してみたが後ろ二人は失敗。扱いが難しい。

 

 ただし、ギフトを発動させる感覚はなんとなく掴めた。

 効果を付与したい相手の体に触れ、想いを言葉に乗せて送り出す、こんな感じだ。

 確かにリリちゃんや耀ちゃんに不可思議な現象が起きる直前、彼女たちの体に触れている、なんらかの言葉も残した。

 もしかすると最終面接で友達になったみんなにも無意識の内に力を送っていたのでは……考えすぎか。夢と現実を同一視するのはよそう。

 

 ない頭で思い悩むのをやめ、目の前の光景に瞳を向ける。

 

「甘い。そこ!」

「――ッ!? な、なぜ、バレた…… "ノーネーム" ごときが我らが不可視のギフトを破るなどありえん」

「でも貴方は私に負けた。それが答えだ」

 

 降り注ぐ強者の言葉に悔しそうな表情を浮かべながら "ペルセウス" の兵士は動かなくなった。

 横たわる兵士に手が伸びる。

 白く小さなそれが男の頭に触れそうになった瞬間、握り込むように拳へと形を変え、横薙ぎに一閃。必殺の裏拳が不可視のそれを捉える。

 

「邪魔」

 

 無表情、平坦な声音の少女、耀ちゃんの周りにまた一つ木偶が転がった。

 

 つ、つええええッ!! 流石異種族パワー、視覚を封じられても嗅覚や聴覚で補えるんですね。カッコイイ。

 

 オレの心からの賛辞が届いたのだろうか、背中越しに右手の親指をサムズアップさせる耀ちゃん。観客へのアピールも忘れないとは流石です。

 

 でも――

 

「違う。ガルドと戦った時の動きに比べれば今の耀ちゃんは遅すぎる」

「やはり一定の間は使用不可か。手のほうはどうなんだ、まだ痛むか?」

「痛むどころかワンサイズ大きくなった気がするよ。シッペで骨にヒビが入るってどうなのこれ、ねぇ逆廻人外君」

「…………」

「スル―ですか」

 

 口元に手を当てながら瞳を細める十六夜君。ハイスペックな彼の頭の中では一体なにが巻き起こっているのだろうか。

 

 オレたちは今 "ペルセウス" の兵士を使い、もうひとつの実験を行っている。一度力を付与してからどれだけのクールタイムを設ければいいのか、という実験だ。

 

 結果としては、突入前に飛鳥ちゃんに力を付与してからそれなりに時間が経っているにもかかわらず、どうやらまだ休みが必要らしい。

 

「葵さん、手、大丈夫ですか?」

「大丈夫ではないけど、十六夜君の推測が正しければそのうち治るはずだから、心配しなくていいよ」

 

 誰もいないはずの空間に向け、笑いかける。

 と、いっても本当に誰もいないわけではない。"ペルセウス" の兵士からお借りした不可視のギフトを被るジン君がいるのだ。

 眉根を下げているであろうジン君を尻目に右手を確認する。先程よりも腫れが酷くなっていた。

 

 一度力を付与してからどれだけのクールタイムを設ければいいのか、という実験には裏がある。

 

 黒ウサギさんによれば、ガルドに腹を貫かれた時、再生活動が始まったのはコミュニティに着いてしばらく経ってから、だそうだ。

 

 この情報をもとに我らがマキペディアは次のようにオレのギフトを分析した。

 

 "お前のギフトは恐らく一つ。相手の力を最大限引き出す能力と超越的な自己再生能力、この二つが合わさったものだと推測される"

 

 要は、相手の力を最大限引き出す能力がいつでも発動できる状態でなければ超越的な自己再生能力は発揮されない、ということらしい。

 

 確かにガルド戦の時は無意識とはいえ、耀ちゃんに力を付与していた。その後、腹を貫かれ再生活動が始まったのはコミュニティに着いた後、この期間が肝ということだ。

 

 今回の場合、飛鳥ちゃんに力を付与してからまだクールタイムを抜けきっていないがために超越的な自己再生能力が発動されなかった。だから右手の怪我は治らない、と。

 

 実験のためとはいえ、もう少し軽い怪我でも良かった気がする。

 うちの人外さんはなにを思ったのかシッペでオレの手を砕いたのだ。曰く、分かりやすい方がいいに決まってんだろう、とのこと。鬼か貴様は!

 

「使い勝手の悪さは折り紙付き、ということか」

「十六夜さん、本人を前にしてそんなストレートに言わなくても」

「流石は御チビ様、なんにも分かってないぜ」

 

 子ども扱いされ無言になるジン君。恐らく飼い主に怒られた子犬のような表情をしているに違いない。

 

「よく分からない能力で大切な仲間を危険に晒す訳にはいかない。こんな感じだよね?」

「ハッ、お前がそう思いたいならそういうことにしておけ」

 

 短絡的な思考回路しか持たない阿呆には俺の考えなんて一生理解できないだろうからな、と高圧的な物言いでオレを睨む十六夜君。

 これはまさかのツンデレ!? もしそうなら可愛すぎるだろう。

 

「今はそういうことにしておこうか、十六夜きゅん♪」

「黙れ。気色の悪い笑みを向けるな阿呆。七光りを殺ったあとはお前だ」

「甘いね、その時はちびっこたちに全力で守ってもらうよ」

「おいおい、いくらその辺のモブと代わらないお前でもちっとはプライドくらい」

「ないね! そんなものは最終面接五社目を失敗した時点で溝に捨てた!」

「……そうか。悪かった」

 

 心なしか十六夜君が目を逸らした気がする。

 やめろよ。なんだその「お、おう」的な表情は、オレを憐れむなこのハイスペックリア充糞野郎。

 ぷんすかと怒りを露わにするオレを無視して十六夜君は無言でいじけるジン君に声をかけた。

 

「流石のあいつも二桁相手はきつそうだな。御チビ、お前のそれを貸せ」

「…………」

「おい、御チビ早くしろ」

「…………」

「春日部が怪我してもいいのか御チビ」

「そ、それはダメです! (誠に不本意ながら)どうぞ」

 

 慌てた様子で被っていた不可視のギフトを十六夜君に手渡すジン君。

 それを手早く装着した十六夜君の姿は空間に溶け込むように消え失せた。

 

「悪いが俺はあいつの援護に回る。御チビのことは任せたぞ」

 

 答えるよりも早く十六夜君が立っていた大理石の床が割れ、次の瞬間耀ちゃんの周りに三人同時に鎧騎士が転がった。さすがオレの考えた……。

 

「それじゃあジン君、俺たちも見つからないようについて行こう」

「はい!」

 

 二人の先導を受け、オレたちはルイオスの待つ白亜の宮殿最奥を目指し、ひた走るのだった。

 




◆"葵、世の中には知らないほうがいいこともあるんだよ"
完全にこちら側のミスです。原作では黒ウサギは最初からペルセウス戦に参加しておりません。審判なのです。
今後はこのようなミスがないように原作沿いルートでは逐一確認の方向で。

◆マキペディア=逆廻十六夜のウ●キペディア
何もかもが正しいとは限らない。
あくまで逆廻十六夜の主観で導き出された情報でしかない。
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