リクルートファイター葵くん   作:まひる

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第01話 『男の方はこうすると元気になるんですよね』

 店員さんとの一件で一悶着あった後、有無を言わさず連れて来られたのは見知らぬ土地だった。

 赤い壁が見える。しかもとんでもなくデカい。

 聞くところによると "ノーネーム" の本拠がる東側の二一〇五三八〇外門から980000㎞離れた東と北の境界壁に存在する街だそうだ。

 といっても現在オレたちがいるのは街全体を一望できる高台。"サウザンドアイズ" が昔使っていたお店がここにあるらしい。というかそこにある。

 うん。立派な純和風の木造建築ですね。素人目に見てもなんかこう凄い気がします。

 

「素晴らしいわ。これ程までに美しい街並みを目にしたのは初めてよ」

 

 充分現役でいけそうな建物を眺めているとくるりくるりと舞う深紅のドレスが瞳に映り込んだ。

 

「おいおい、少し大袈裟すぎるんじゃないか? 確かに歩くキャンドルスタンドなんて奇抜なもの、実際に見る日が来るとは思わなかったが、お嬢様ならそれくらい持っていも不思議じゃないぜ」

「どういう意味かしら十六夜君? もし仮に貴方が私のことを魔女か何かと勘違いしているのであれば……ふふ」

 

 まさしく悪魔的な笑みでこちらを見据えるお嬢様こと飛鳥ちゃん。傍らにはヤハハ、と面白いものでも見つけた子どものような笑みを浮かべる十六夜君。オレの全身が小刻みに震えているのは錯覚ではない。あ、ジン君とヤ―さんが目を逸らした。見捨てないでよ。

 突きつけられた現実に絶望していると、突然耳をつんざくような奇声が上がった。

 

「見ィつけた――――のですよおおおおおおおおおおおおお!」

 

 ズドォン!! と大地を割らんばかりの勢いで何かが飛来する。瞬間、ロープでぐるぐる巻き状態で放置されていたオレは勢いよく天へと舞い上がり、数秒の後、顔面から地べたへと突っ込んだ。

 

()ってぇ、どうにかしてこの痛みもギフトで緩和出来ないんですかね」

 

 額を気にしながら視線を音のした方へと向けると、そこには淡い緋色の髪を逆立たせ、鬼の形相でこちらを睨む黒ウサギさんの姿があった。手にはお馴染の極悪武器 "素敵ハリセン"。

 

「ふ、ふふ、フフフフ………! ようぉぉぉやく見つけたのですよ、問題児様方………!」

 

 絶叫。にへら、と狂気に満ちた笑みでこちらを見据えるバーサーク化した黒ウサギさん。今にも襲いかからん勢いで右手に携えし武器を振り回している。必殺乱れハリセンの準備は整っているようだ。

 オレは誰よりも早く彼女の名を叫んだ。

 

「助けて黒ウサギさーんッ! オレは無関係なんだ! こいつらに拉致られむぐぐ~」

「余計なこと言っちゃダメ」

 

 ここぞとばかりに救援を呼ぶオレの口を小さな手で塞ぐは春日部の耀ちゃん。いつも通りの無表情ながらも頬を伝う汗が緊張を物語っている。

 

「大丈夫ですよ耀さん。心配しなくともこれから根掘り葉掘り全て聞かせて頂くので」

「断る、と言ったら?」

「またまた御冗談を、例外なく皆様ここでゲームオーバーです」

 

 ひとかけらの慢心も無く仁王立ちする黒ウサギさん。

 いつの間に取り出したのだろう、左手にも極悪武器が握られている。

 おぅおぅいくら三人でも超本気モード黒ウサギさんからは逃げられないでしょ、と思った矢先我らが最強の問題児、十六夜君が笑い声を上げた。

 

「ハハ、悪いがまだゲームは終わりじゃないぜ。寧ろここからが本番だ」

「なにを仰いますか十六夜さん、寝言は寝て言うものですよ」

「馬鹿ね黒ウサギ、貴女こそまだ夢の中かしら」

 

 肩を竦めながら「よく状況を見なさい」とこちらを指差す飛鳥ちゃん。

 意味が分からない。鷲獅子の恩恵で空を飛ぶことが出来る耀ちゃんならまだしも、身動きの取れないオレはただの足手纏い。役に立つはずがないし、元々オレは三人の味方というわけでもない。このまま黒ウサギさん側につくことも考えられるのに……。

 

 よく状況を見るのはキミの方だよ飛鳥ちゃん、と脳内ツッコミを入れていると黒ウサギさんは二人の言いたいことを理解したのか「なるほど、仕方がありませんね」と一瞬微笑んだ。

 表情の変化に十六夜君はヤハハ、と楽しげな笑みを見せる。

 

「いいねいいな最高だぜ黒ウサギ。いや、空気読めるウサギ――(くう)サギ」

「十六夜君なかなかいいわねそれ。どうかしら空サギ、このまま私たちも見逃してはくれない?」

「ダメです。お二人は葵さんと耀さんの分まで黒ウサギにお仕置きされる予定ですので♪」

 

 さらに空気を読んでもう一声、と両手を差し出す飛鳥ちゃんを一刀両断し、黒ウサギさんはニコッ、と作り笑いで応戦する。目が笑っていない。

 ん? 今何かとても重要なことが聞こえてきたような。

 必死に思い出そうとするオレの思考は彼女の声によって遮られた。

 

「そう。なら全力で逃げさせてもらうわ――十六夜君ッ!!」

 

 任せろ、という掛け声とともに飛鳥ちゃんを抱えた十六夜君が眼下に広がる中世ヨーロッパ染みた街並みへと向け全力で跳躍する。

 だがその動きは予測の範囲内だったのだろう、黒ウサギさんが二人の前に立ちはだかる。

 

「甘いわ黒ウサギ! ()()()()()()!!」

「な!? 卑怯ですよ飛鳥さん! もぉ退いてくださいジン坊ちゃん!」

 

 飛鳥ちゃんの絶対の命に従い、弾丸タックルをかますジン君。

 これはお見事。仕えるべき主人であるジン君を無下には出来ないだろう、という何ともゲスい一手。

 人生経験豊富な飛鳥ちゃんにかかれば相手の弱みを突くことなど造作もないようだ。

 

「ぐぬぬ……まさかジン坊ちゃんを使ってくるとはなかなかやりますね飛鳥さん。絶対にギャフンと言わせてあげるのデス」

 

 ですがその前に、と蚊帳の外状態だったオレと耀ちゃんのもとまで歩み寄り、彼女はニッコリと微笑んだ。

 

「お二人には今日一日恋人のように振舞ってもらいます」

 

 

◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 所変わって "サウザンドアイズ" 旧支店。畳の匂いが懐かしい和室。

 オレと耀ちゃんは色々ありながらも恋人ミッションに精を出していたはずなのだが気付けば二人揃ってここへと強制連行されていた。

 原因は予期せぬ来訪者たちにある。アルとリリちゃんだ。今頃コミュニティ本拠にて、せっせと家事に勤しんでいるはずの二人は境界門(アストラルゲート)を潜り抜け、オレたちのあとを追ってきたらしい。我々の断りもなく勝手にいなくなるとはどういうことですか! お説教です! という流れだ。

 ちなみに境界門(アストラルゲート)とは、莫大な土地を有する箱庭を行き来するために設けられた、外門と外門を繋ぐワープ装置のようなものらしく、とんでもない使用料がかかるらしい。

 二人曰く、その使用料と "ノーネーム" のちびっこたちの面倒はルイオスさんに任せてきたそうだ。

 なんかすみません。アルや飛鳥ちゃんに罵られたいがためにちょっかいをかけてくる "ペルセウス" のダメな兵士のみなさんは置いといて、ルイオスさんにはなにかお土産でも買って帰ろう。二人でお酒を酌み交わすのも悪くない。

 

 近い未来の楽しげな様子を思い浮かべているとふすまの向こう側から弾むような笑い声が聞こえてきた。

 "サウザンドアイズ" 旧支店へと連れて来られた際、黒ウサギさんがお怒りの理由をヤ―さんに説明するため耀ちゃんは隣の部屋へと消えていったのだがどうやら平穏無事にやっているらしい。

 聞き耳を立ててみると、なにやら祭りを盛り上げるためにギフトゲームに参加して欲しいと嘆願されているようだ。詳しい内容までは分からないが楽しげな雰囲気からして耀ちゃんはやる気充分だと思われる。

 

「葵さん」

 

 畳の上に正座をしながら俯くオレに声が飛ぶ。耀ちゃんたちへ注がれていた意識を戻すと目の前にロリがいた。覗きこむような形で見つめるキツネ耳に思わず固まる。

 

「な、何をしているのかなリリちゃん?」

「それはこちらの台詞だと思います。葵さん、ご自身の置かれている立場を分かっていませんね。反省の色がこれっぽっちも伺えません。ですので、今すぐ二尾をもふもふしてください」

「いやいや、なにが『ですので』なのか全然分からないんだけど。単純にもふもふしてほしいだけだよね?」

「なにを仰いますか、言いがかりとは許せませんね。こうしてあげます!」

「…………」

「さあどうですか、今すぐもふもふしたくなってきたでしょう?」

 

 てい、てい、と必死に腰を振るキツネ耳少女リリちゃん。畳に両手をつきながら膝の上から落ちないようにバランスを整えフリフリ。突然なにをするのかと思いきや、オレの膝の上に座り二尾を擦りつけてきた。

 

「男の方はこうすると元気になるんですよね。荒ぶってきたんじゃないですか、どうぞ後ろから激しく揉みしだいてください。さあ早く」

 

 白夜叉あああああああああああッ!!

 

 早くもリリちゃんが取り返しのつかないところまで堕ちかけている。二年後くらいに黒歴史になるの確定じゃないですか。黒ウサギさん止めてあげて!

 放っておけば荒い息を立てながら潤んだ瞳でも向けてきそうな少女を黙らせるため、とりあえず二尾さんをもふもふしておく。

 頬を膨らませながら睨まれた。瞳が訴えかける、もっと強くです、と。

 ご要望通りいつもより激しくもふもふしてあげると満足したのかもたれかかってきた。将来が心配でしかない。

 コミュニティに置き去りにしたことを責められていたはずが、いつの間にか大変な事態に陥っていた。

 と、溜息を吐くオレの視線の先で転げ回る黒い物体。

 

「ご主人様そこはまだ、ダメです。もっと丁寧に優しくはむはむして欲しいです」

 

 ジン君に預けていたはずのオレの相棒が皺くちゃまみれの刑に処せられている。飛び出る白銀のあほ毛が踊り狂って悶絶しかけている気がしないでもない。

 今日もうちのロリっ娘たちは仕事熱心でした、まる。

 

 

◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 ロリと戯れることしばらく。ヤーさんとの歓談を終えた耀ちゃんに連れられ、縁側へと移動したオレはすっかり聞きそびれていた拉致られた理由や憤慨する黒ウサギさんについて教えてもらった。

 

 彼女がどうしてあそこまでお怒りだったかといえば、十六夜君たちがコミュニティに残してきた手紙に原因があるそうだ。

 なんでも、飛鳥ちゃんが偶然 "ノーネーム" より遠く離れたこの土地でコミュニティ "サラマンドラ" 主催のお祭り "火龍誕生祭" が行われるとの趣旨が書かれた手紙を発見したらしい。

 この面白そうなのはなにかしら? とジン君に詰め寄ると、皆さんが興味を持たないように隠しておいたんです。絶対行きたがりますからね、と涙目で謝罪したそうだ。

 ジン君自身も本当は行きたかったそうなのだが、今の "ノーネーム" に980000㎞も離れた場所へと移動する費用を工面できないと泣く泣く諦めたらしい。

 しかし、飛鳥ちゃんから諸々の事情を聞いた十六夜君は手紙の送り主であるヤ―さんになんとかさせようぜ、と暴君ぶりを発揮し、"サウザンドアイズ" 支店へと乗り込んだ。そこでオレに遭遇し拉致。いざ行かん、火龍誕生祭へ! あ、どうせなら黒ウサギとメイドのレティシアも呼ぼうぜ! ついでに手紙を隠していた罰として今日中に俺たち四人を捕まえられなければ全員脱退という鬼畜ゲームの幕開けだ! となり現在に至る。

 滅茶苦茶だなキミたち、そりゃキレますよ、主力メンバーの脱退とか生死に関わるからね。

 黒ウサギさんがストレスでぽっくり逝ってしまうのでは、と心配になりながら耀ちゃんの話を聞いているとこれから仲直りのためにギフトゲームに参加し恩恵をゲットしてくると告げられた。恐らく先程ヤ―さんと話していたゲームだろう。

 

「つまり、その恩恵(ギフト)があれば黒ウサギさんも許してくれるに違いないと?」

「うん。絶対優勝して黒ウサギと仲直りする。だから葵も応援して」

 

 ね、と小首を傾げながら同意を求める耀ちゃん。縁側を吹き抜ける風に前髪が揺られ、瞳にかかる。

 オレは右手を伸ばし、わしゃわしゃと彼女の頭を撫でた。

 

「くすぐったいよ葵、やめて。急にどうしたの?」

「パワーを送ってるんだ、がんばれーってね。といってもズルはよくないから普通に頭を撫でているだけなんだけどね」

「そっか。じゃあ、お言葉に甘えてもっといっぱい撫でてほしい。君の手は暖かくて凄く気持ちいいから」

「りょーかい。恋人のお願いなので全力出してみます!」

「ありがとう葵。でも、少しやりすぎだよ、バカ」

 

 腕の中で丸くなる耀ちゃんに頬が緩むのを感じながら、時が来るまで彼女の頭を撫で続けた。

 

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