リクルートファイター葵くん   作:まひる

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第02話 『そういうお決まりネタはアルには通用しません』

 子猫と化した耀ちゃんを愛でることしばらく。ニヤついた笑みを携えたヤ―さんがオレたちのもとへと現れた。なにを考えていたのかは言うまでもない。面倒くさいロリおばあちゃんだ。軽くいじられた後、耀ちゃんの参加するギフトゲームの予選が始まるから準備しろ、と告げられた。

 

「派手に頼むぞ。一流のプレイヤーは観客を楽しませることも忘れない。覚えておけ」

「うん。頑張ってみる。絶対に優勝して黒ウサギを喜ばせる」

「良い意気込みだ。今のおんしならば本当に頂点まで辿りつけるやもしれぬ」

 

 暖かく優しい笑みを浮かべるヤ―さんを睨む耀ちゃん。自分は期待されていなかったのかとでも思ったのだろう、得意のジト目で「白夜叉の鼻をへし折るのも忘れない」とちゃっかり宣戦布告してみせた。

 

「ほほう。私の鼻が折られるか、おんしのプライドがズタボロになるのか楽しみだ。のう葵?」

「え……? そ、そうですね。ならこの場合だと『安心してください。ギフトでちゃんと元通りにしてあげますから、白ちゃん』ってのが良いかと」

 

 意地悪そうな笑みを向けられたのでこちらも仕返しにと同じ様な表情で応戦するとヤ―さんは目を丸くし、驚きの表情を浮かべながら「これは一本取られたのう」と楽しげに笑った。

 

「なるほど、愛する恋人の勝利を信じぬバカ者などおらんとな。仲が良くてけっこう、おんしも隅に置けぬな葵」

 

 中学生のようなノリで「このこの」と肘を当ててくるヤ―さんを軽くあしらい、隣でグッ、と伸びをしていた耀ちゃんとともにゲーム会場へと向かった。

 

 

◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「最後の勝者は "ノーネーム" 出身の春日部耀に決定した。これにて最後の決勝枠が――」

 

 ゲーム会場はまるでイタリアの首都ローマにあるとされるコロッセオのような場所だった。中央に存在する円形状のゲーム盤をぐるりと囲むような形で観客席が空へと鎮座している。

 また、ゲーム会場に直結する形で宮殿が隣接しており、小耳に挟んだ情報では現在、街で暴れ回っていた "ノーネーム" の二人が監禁されているらしい。

 

 一人は目つきの悪い金髪の少年。もう一人は "月の兎"。

 

 どう考えてもうちの十六夜君と黒ウサギさんだろう。オレと耀ちゃんが擬似デート中、街で暴れ回っていたと思われる。

 恐らく飛鳥ちゃんはレティシアさんに捕まり一緒に観光でもしているんだろう、メスらしいものとか好きそうだし。

 自由だねみんな。ジン君隊長の胃にオゾンホール的な穴ができるのも時間の問題か。

 絶望するジン君の背中を思い浮かべているとヤ―さんとは別の声がゲーム会場内に響き渡った。

 

「新たに北のマスターとなりました。サンドラ=ドルトレイクです」

 

 宮殿のバルコニーへと視線を移すとヤ―さんの隣で堂々とした立ち振る舞いをする小さな女の子の姿が。彼女の身に纏う衣装にオレは絶句した、王族的なのは分かるがそれってもうパレオじゃね? と。水着の上から腰に布を巻いただけのあられもない姿ってどうなんですか、と。

 ただ、彼女の話が本当ならば、普通のロリではなさそうだ。見た目はリリちゃんと同年代に見えるけどロリおばあちゃんだと思われる。アルのパターンだ。あとレティシ……いや、気のせいか。

 心なしかヤ―さんに睨まれたのは気のせいだろう。

 

「以降のゲームにつきましては御手持ちの招待状をご覧ください」

 

 これにて本日のイベントは終了です、と可愛らしい少女の声と共に火龍誕生祭一日目はお開きとなった。

 辺りが夕闇の|帳《とばりに包まれる中、オレは見事決勝まで駒を進めた耀ちゃんに労いの言葉をかけた。

 

「やったね耀ちゃん。凄く格好良かったよ」

「うん。ありがとう。葵が応援してくれたおかげ」

「ニャー」

「あ、三毛猫も来てたんだ。ありがとう」

 

 取って付けたような返答に肩を落とす三毛猫さん。瞳にいっぱいの涙を溜めながらオレの方へと飛びかかってきた。が、しかし、シュバと耀ちゃんに取り押さえられ「ニャ~」と小さく嘆くだけに留まる。

 そのまま二人はオレには分からない猫語で「にゃーにゃー」言葉を交わし、三毛猫さんが泡を吹いて倒れた。

 

「み、三毛猫さん大丈夫なの?」

「うん。ちょっと驚いただけだよ。心配しなくてもいい」

「もしかして擬似デートの件を話したんじゃないよね?」

「うん。話したよ」

「あ、それは仕方がないね。なんかごめん、三毛猫さん」

「…………」

 

 まるで屍のようなパターンですか。

 アルやリリちゃん同様置き去りにされた三毛猫さんはどうやらレティシアさんたちにくっついてきたらしい。遠路はるばる来て頂いたにも関わらず申し訳ないです。ごめん、マジごめん、超ごめん。

 

「葵さーん!」

 

 意識を失った老ねこさんを腕に抱き、そっと頭を撫でる耀ちゃんを眺めているとどこからともなくオレの名を呼ぶ声が響いた。

 誰だろう、と首をキョロキョロさせるとダボダボのローブを引きずりながらこちらへと駆けるジン君姿が目にとまった。

 顔が真っ青だ。きっと何か良くないことでも起きたに違いない。恐らくうちの人外さんたちのせいだろう。隊長殿に人権をー!、と気の毒に思っていると「ズサァァァァ」と前のめりに転倒なされた。ご愁傷様です。

 涙目で地べたに拳を叩きつけるジン君に駆け寄り抱き起こす。

 

「大丈夫かいジン君?」

「ぼ、僕は大丈夫、です。でも黒ウサギ達が大変なことになってしまいました。もう終わりです。コミュニティが、みんなが路頭に……」

「こらこらまだ諦めるには早いよ。なんとかならないか一緒にお願いしに行こう!」

「葵さん……」

 

 貴方が神か、とでも言いたげな表情で瞳を潤ませるジンくんを抱え走りだす。善は急げだ。

 

「耀ちゃん、決勝のためにもゆっくり休んでね」

「うん。葵も黒ウサギたちをよろしく」

 

 去り際に耀ちゃんに言葉を残し、囚われの仲間たちのもとへとオレはひた走るのだった。

 

 

◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「先に申しておくがサンドラは(よわい)十一の(れっき)とした美()()だ」

「何故このタイミングでそれを言ったんですか?」

「いや、先程おんしが『どうせまたコイツもあれなんでしょ』的な表情をしておったからのう、サンドラの名誉のためにも私がひと肌脱がせてもらった。ちなみに私は器の大きなびしょーじょだから小童の戯言には聞く耳を持たぬ」

「それってつまり自分が例のあれだとうことを理解してはいるけど認めたくないので聞こえないフリをしようというご都合主義では?」

 

 可愛らしく両耳を塞ぐ自称 "びしょーじょ" さんに冷静にツッコミをいれると "ペチンッ" と手に持つ扇子で腕を叩かれた。

 笑っている。にこやかに「フフフ」と笑いながら「何か言ったかのう?」と口元を扇子で隠す "びしょーじょ" さんの背後には黒い靄が見えなくもない。

 

 パンッパンッ、と快活な音が二つ。

 

「お二人はここへ何しに来たんですか!」

「サンドラの衣装から見え隠れする生足を拝みに」

「黒ウサギさんたちを救出に」

 

 パンッパンッ、と再び唸るハリセン。

 

 超速二連打でオレとヤ―さんの頭を叩くはハレンチ担当黒ウサギさん。先程まで牢屋にぶち込まれていた二人のうち一人。怒りに燃える髪は緋色に変化し、彼女の気持ちを代弁するかのように逆立っている。

 肩をわななかせながらこちらを睨む黒ウサギさんに対し、捕まっていたもう一人、十六夜君は心底楽しげにケラケラと笑い声を上げた。

 

「オイ白夜叉、あの衣装を用意したのはお前か?」

「もちろん」

「そうか――バカが最高じゃねぇか♪」

「話をややこしくしないでください!」

 

 パンッパンッ、とお馴染の効果音。

 

 互いに右手の親指をサムズアップさせ、キリッと顔を見合わせる変態どもに容赦ないハリセン攻撃が飛ぶ。

 次問題を起こした人はもう容赦しませんからね、とオレたち三人に向け明確な敵意を向ける黒ウサギさん。オレとかただの被害者ですよね? とは言いだせない雰囲気に呑まれ、とりあえずだんまりを決め込む。

 

 ジン君とともにやってきたのは宮殿の奥、ドラ○エに出てきそうな所謂 "謁見の間" だった。部屋の奥に豪華な椅子が備え付けられたあれだ。

 大急ぎでやってきたオレたちが警備兵の許可を得、中に入ると既にそこには捕まっていたはずの黒ウサギさんと十六夜君、さらにヤ―さんとその付き人たち、夕食の買い出しに出ていたはずのアルとリリちゃんがいた。

 そして奥の椅子にはゲーム会場で見たパレオロリちゃんが腰かけ、傍らに厳つい兄さん、少し下がって取り巻きの兵士たちが佇んでいた。

 

 やはりパレオロリさんは偉いお方だったんですね。ということは実年齢三ケタ、下手したら四桁か。恐るべし箱庭のロリ、と考え込んでいたオレにヤ―さんが真事実を告げ、この騒ぎに陥ったのである

 

「それにしても随分派手にやったようじゃの、おんしら。一部では暴動染みた騒ぎになっていたと聞いたぞ」

「俺たちはご要望通りに祭りを盛り上げてやっただけだ。あとのことは依頼主に任せるってのがセオリー、だろ?」

「ほほう。清々しいまでの横暴ぶりじゃの。まあ良い、今回は負傷者も出ておらようだし、金ならある。そういうことでよいかのサンドラ?」

 

 軽いノリで "インペー" しようとするヤ―さん。

 相手は彼の有名な "サウザンドアイズ" 。箱庭の上層から下層までありとあらゆる場所に精通した超巨大商業コミュニティ。断ることは簡単だが彼女たちの意向を無下にしたとあらばどうなるか、北のフロアマスターであり、コミュニティ "サラマンドラ" のリーダーである小さな彼女にもすぐに分かったのだろう「そうですね、この件に関しては私どもからは不問とさせていただきます」と事務的に答えた。

 サンドラちゃんの言葉にほっと胸を撫で下ろす黒ウサギさん。そのうち心労で倒れないか心配だ。

 

「む、何か不満でもあるのかのう、マンドラ」

「い、いえ、サンドラが決めたことに異論などありません」

「そうか、ならよいのじゃが」

 

 マンドラと呼ばれた厳つい兄さんが鬼の形相でオレたちを睨んでいたのだが流石ヤ―さん、たった一声でかたをつけてしまった。普段は優しい和装ロリちゃんもこういう大人な場所では雰囲気が別人のようだ。出来る女みたいでちょっとカッコイイ。

 ちなみにマンドラさんはサンドラちゃんのお兄さんらしい。小声でジン君が教えてくれた。だから一番近い場所に控えていたのかと納得する。

 

「さて、ここからは少々込み入った話しになるため」

 

 とヤ―さんが最後まで言い切る前にお付きの人々とサンドラちゃんを警護していた兵士の皆さんが足早に部屋から去って行った。

 が、厳つい兄さんことマンドラさんは残るようだ。大事な妹を一人にはしておけないのだろう。まあ一応オレたちは名無しの旗無し "ノーネーム" だから仕方がないか。またこっち睨んでるよ。

 

「ジン、リリ、久しぶり! コミュニティが襲われたと聞いて随分と心配していた!」

「ありがとう。サンドラも元気そうで良かった」

「知らない間に立派になっててビックリしたよ、サンドラちゃん」

 

 大人の事情など知ったことか、と年相応の少女らしい口調と笑みでジン君とリリちゃんのもとへと駆け寄るサンドラちゃん。二人も彼女に応えるように旧友との再会を楽しむ。

 

 ジン君曰く "ノーネーム" がまだ旗と名を所持していた頃は "サラマンドラ" と盟約を結ぶほど良好な関係だったそうだ。

 だが魔王に襲われて以来、関係を一方的に切られ、それ以来音沙汰無しであり、彼らが再開するのは本当に久しぶりのことらしい。

 シビアだがなんのメリットもない "ノーネーム" をすぐに切り捨てたのは間違いではないとオレは思う。偽善で手を差し伸べ続けていると今度は自分たちが襲われかねないのだから。

 とはいえ、現在は "サラマンドラ" のほうにも事情があるそうだ、詳しくはまだ聞いていないので分からないが。

 

「魔王に襲われたと聞いて、本当はすぐに二人に会いに行きたかったんだ。でも、色々あって」

「気にする必要ないさ、またこうして会えたんだから。それよりもあのサンドラがフロアマスターになるなんて信じられ」

「貴様! 名無しの分際でサンドラを侮辱するとは許せん! 死――ッ!?」

 

 ジン君たちが三人仲良く話しこんでいると突然マンドラさんがぶちギレた。

 何かが彼の(しゃく)に障ったのだろう、獣のような獰猛な目でジン君を睨みつけ、腰に帯刀していた剣を抜きにかかった。

 だがその動きは()()のギフトによって封じられ、留められる。

 

「な、なんだこれは!? 体が石化している、だと?」

「はーい吊り目のお兄さん正解でーす♪」

「一体何者だ! これを今すぐ解け! 解かねば貴様ら "ノーネーム" を全員まとめて切り捨てる!!」

 

 怒声をまき散らすマンドラさんに声の主は「プププ」と両手で口を押さえながら笑いを堪え、二本のお下げが "シャキーン" とクロスで応える。

 バツ印。つまりはノーセンキュー。お前の言うことなんて聞くわけないだろバーカ、とドヤるあほ毛。

 オレは頭を抱えた。間違ってもこっちには振るなと願ったのが間違いでした。

 

「見てくださいよご主人様、木偶の坊が口利いてますよ、面白いですね♪」

 

 子どものような笑みではしゃぐ彼女に「仕方ない」と一つ溜息を零し、口を開く。

 

「ジン君たちを助けてくれようとした、ということでいいんだよね?」

「はい。ジンはご主人様の大切な友人ですので助けてあげました。アルえらい子ですよね? ついでにタヌキも助けてあげましたし」

「そうだね、咄嗟のことだったし今回は石化のギフトを使ったことに関しては不問としよう。ありがとうアル」

 

 礼の言葉とともにわしゃわしゃ、と頭を撫でてやるとアルは嬉しそうに目を細めた。

 

「えへへ♪ そんな、当然のことをしたまでですよ」

「出来ればリリちゃんとも仲良くしてほしんだけどね」

「それは無理です。いくらご主人様の命令でもあのクソタヌキと仲良くなんて」

 

 いや、キミたち二人で買いだしに出かけてたよね、と言うとまたややこしくなりそうなので黙っておく。

 アルとともにいつもと変わりないやり取りをしているとしびれを切らしたのか、マンドラさんが怒鳴った。

 

「名無し風情が舐め腐りおって! 番兵! 今すぐヤツらを捉えろ!」

「はいはい、そういうお決まりネタはアルには通用しません。ちゃっかりしっかり安全の防音対策を施しておきましたので、てへっ♪」

「流石うちのメイドさん、抜け目がない」

 

 彼女のパーフェクトさに素直に感心していると沈黙を保っていたヤ―さんが「もう気はすんだかの? そろそろ話を始めたいのじゃが」と悪戯をして喜ぶ子どもを諭すように優しい声音で訪ねてきた。

 

「えぇーダメだよ白ちゃん、コイツほっといたらまた暴れ出すからここで始末しようよ」

「ま、待ってください! 兄の非礼はお詫びしますのでどうか穏便に」

 

 平気で「始末する」と宣言するアルに茫然と立ち尽くしていたサンドラちゃんが血相を変えて頭を下げる。

 彼女の情けない行動に誰よりも早く反応したのは兄であるマンドラさんだった。

 

「やめんかサンドラ! こんな "名無し" のクズどもに頭を下げるなど "サラマンドラの" 威厳関わる! この部屋が完全に防音であるというなら今すぐその手で全員」

「いい加減にせいッ!!」

 

 ビリリ、と部屋の空気が一変する。先程までの可愛らしい和装ロリちゃんはもういない。あの日、ギフト鑑定に訪れた日に見せた "白き夜の魔王" としての彼女がそこに立っていた。

 

「大切な肉親にヒト殺しをさせようとは恥を知れこの痴れ者が!」

「うぅ……」

「葵、貴様も自身の従者の管理ぐらいしっかりしろ!」

「た、大変申し訳ございませんでした」

 

 空気を読んで全力で頭を下げる。

 隣には萎れた蛇神三とともに申し訳なさそうな顔で佇むアル。しょんぼりする彼女に「調子に乗ってすみません」と泣きつかれた。本当は素直でいい子なのにやり過ぎなところがたまに傷だよ、おバカさん。とはいえオレも注意するべきだったね、ごめん。

 微妙な空気に包まれる中、十六夜君が平然とした口調でヤ―さんに問いかけた。

 

「おい白夜叉、結局話ってのはなんだ?」

「……うむ。おんしらを今回呼びだした理由に直結する重大な話じゃ、それがここに記されておる。…………己の目で確かめるといい」

 

 魔王モードからロリちゃんモードへと切り替えたヤ―さんが一通の手紙を十六夜君に手渡す。

 その文面に目を通した瞬間、彼の表情が消えた。いつもの軽薄な笑みはなく、ただの "無"。 どうかしたんですか十六夜さん? と怪訝そうな表情で顔を覗き込む黒ウサギさんに彼は無言で手紙を見せつけた。

 

『火龍誕生祭にて、 "魔王襲来" の兆しあり』

 

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