リクルートファイター葵くん   作:まひる

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第03話 『我が愛しのご主人様に絶対なる勝利をーッ!』

『火龍誕生祭にて "魔王襲来" の兆しあり』

 

 十六夜君の掲げた手紙にはそう書かれていた。差出人は "サウザンドアイズ" 幹部の一人。

 元々 "サウザンドアイズ" というコミュニティは特殊な目を持つギフト保持者で構成された組織であり、中には未来を見通すことが出来る人物がいるらしい。

 その中の一人が今回誕生祭のプレゼントとして魔王襲来の予言を "サラマンドラ" に送ったそうだ。

 で、どうにも信じ難いのだがヤ―さんの話によればその彼、或いは彼女の予言は起こり得る事象の『誰が』『何故』『どうやって』を全て見通すことが可能な "予言の域を超えた予言" と言われているらしい。

 つまり今回の場合、魔王を呼び寄せた、犯人も、犯行も、動機も全て分かっている、ということだ。

 ここで一つの疑問が生じる。全ての事柄が分かっていながら "魔王襲来" を未然に防ぐことが出来ないのは何故か? 答えは十六夜君の口から紡がれた。

 

「策を弄した人物は――名を出すことの出来ない立場の相手、ということか」

 

 結論としては細かいことは気にせず、"ノーネーム" は打倒魔王に協力することになった。

 

 ここで一度今までに分かった情報を整理しておく。

 

 まず、"サラマンドラ" についてだ。先代の頭首が病に倒れ、新たな頭首として十一歳の少女サンドラちゃんが新頭首として名乗りを上げたコミュニティ。新たな頭首となった者は自動的にフロアマスターの称号も受け継ぐらしい。サンドラちゃんは兄のマンドラさんと百歳近く歳が離れているが才能はずば抜けており、歴代当主の中でも今後に期待の持てる少女と言われている。

 東の最強フロアマスターと呼ばれるヤ―さんに今回の新頭首誕生を祝う祭り、火龍誕生祭の共同主催を依頼したそうだ。ヤ―さんは四桁より下のコミュニティに並ぶものがいない程の実力を秘めているため、後ろ盾になってもらえればそれだけで威厳ができる。

 この誘いを機にオレたち "ノーネーム" も参加してみないか、とヤ―さんが手紙をくれたらしい。祭りを盛り上げる、という条件付きで。

 

 ちなみに階層支配者(フロアマスター)とは、箱庭の秩序を守るために作られた特権階級の一つであり、多くの任を背負う立場にある。特に魔王が現れた際には率先して戦う義務がある。それと引き換えに、数多の権力と主催者権限を所持することが許された者たちだ。

 

 "ノーネーム" を塵に変えた者たちと同じ肩書を持つ存在が来ようとしている。オレには何ができるのだろうか。その答えはまだ分からない。

 

 

◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 火龍誕生祭二日目。黒ウサギさんと仲直りするため、耀ちゃんが参加することになったギフトゲーム。その決勝戦が目前に迫る中、オレたちは最終確認を行っていた。

 このゲームにはサポーターとして一人まで同伴が許されている。昨日行われた予選では耀ちゃん一人の力であっさり勝ち進んでしまったが今回はそうはいかない。今から行われようとしている決勝戦、その相手は六桁の外門に本拠を置く正真正銘の強者だ。慢心は許されない。普通に考えれば誰かしら仲間を引き連れていく場面なのだが彼女はそれを拒んだ。

 私に任せて、と小さく拳を握る耀ちゃんにジン君は頭を抱え、リリちゃんは固まり、レティシアさんは呆れた。十六夜君と飛鳥ちゃんはもとから観戦する気満々だったのでここにはいない。黒ウサギさんもヤ―さんから審判役を仰せつかったので先にゲーム会場にいるはずだ。

 話は終わり、と立ち去ろうとする耀ちゃんにレティシアさんが詰め寄る。

 

「本当に誰のサポートもいらないのか? 万が一を考えてせめて葵だけでも」

「ダメ。葵には外から応援してもらう」

「ならば私が――ッ!!」

「いらない、一人で充分だから。心配してくれてありがとう」

 

 不安そうに眉を下げるレティシアさんの頭を軽く撫で、耀ちゃんは一人歩き出す。決勝の舞台へと続く歩廊にカツン、カツン、とブーツの音を響かせながら一歩、また一歩、と。

 一般人でしかないオレは小さくなる背中を見送ることしか出来なかった。

 本音を言えば彼女のために力を貸したかった。二人で勝利を掴み取りたかった。共に戦い無様に死にかけたあの日の雪辱を今ここで果たしたかった。だが、彼女はそれを良しとはしなかった。

 

 "葵には見ていてほしいんだ。だからごめん"

 

 瞳に確かな意志を宿し、何者も寄せ付けないオーラを身に纏いながら一歩、また一歩と彼女は突き進んでいく。

 

「与えることしか出来ない、背中を守ることすら出来ないオレじゃあ足手纏いだもんね」

 

 擦り切れそうなか細い声が耳に届く、他の誰でもないオレ自身の口から。そして無意識の内に漏れ出たそれが現実を思い知らせる。お前じゃダメだ、と。

 

「――いけないんだ」

 

 頭を抱えそうになるオレの耳に力の籠った声音が触れる。聞き覚えのあるそれは誰が発したものか、声の主を確かめるべく俯いていた瞼を持ち上げると彼女の瞳と重なった。

 何か言わなければ、頑張れでも、期待してるでも、何でもいい、オレにだって一つくらいできることがあるはずだ。

 なにも言わず向け立ち去ろうとする耀ちゃんに応援の言葉をかけようとした瞬間、ゾクリと背筋を何かが走った。

 

「背中がガラ空きですよご主人様ーッ!!」

 

 弾むような声音と共にシャツの中を何かが這い、思わず素っ頓狂な声を上げ身をよじる。

 悶絶するオレを嘲笑うように視界の先ににょろりと蛇のような動きで二本の銀髪が躍り出た。

 

「オオーッ、効果は抜群だぁーッ! ですね。流石私の蛇神三(みかみさん)、優秀すぎてご主人様専用になってしまいそうな勢いです。あ、もちろん私はご主人様専属ですよ。十八禁なことも承っております。寧ろめちゃくちゃにされたいです」

「こ、こらアル! いきなり何するんだ!」

「フフフ、良い子のアルは愛しのご主人様のために誠に遺憾ながらスケキヨの尻拭いに行ってきます。ご褒美はおひざの上で食事をする権利ですからね。忘れないでくださいよ」

 

 ニヒヒ、と少女らしい容姿に合った笑みを浮かべるうちのお転婆メイドさんことアルゴール。左手を顔の横で綺麗に「ピシッ!」と張る動きに同調してあほ毛も「シャキーン!」と同じポーズで答える。

 突然の暴挙にオレは目をパチクリさせ、唖然とすることしか出来ない。 

 しかし、歩廊を進む彼女は違った。一定のリズムで響いていた音が乱れ、不機嫌な声音が響く。

 

「私はスケキヨじゃないし、尻拭いなんて必要ない。だから貴女は来なくていい」

「ダウト! お利口さんなアルの罠にまんまと引っ掛かったな愚か者め! 見てくださいよご主人様、あのマヌケ『そうだす。私がスケキヨだす』と自分からゲロりやがりましたよ。言質は取った! ここからはずっとアルのターンだ!」

「――ッ!? は、離して、やめ、あおむぐぐ~」

「我が愛しのご主人様に絶対なる勝利をーッ!」

 

 いってきまーすっ! と、元気な挨拶とともに疾風の如き速さで駆け抜けていくアルゴール。相棒の蛇髪三(みかみさん)を駆使して、スケキヨこと耀ちゃんを決勝の舞台へと拉致してしまった。

 有無を言わさぬ早業に言葉が出ない。二人の姿が薄暗い歩廊から光溢れる舞台へと消えてから数秒後、足許から優しい声音が漏れた。

 

「まったくなんといえば良いのやら、あやつらしい力技だな」

「はい。でもそれがアルさんのいいところだと思います。根は優しい方ですからきっと、いえ、絶対に大丈夫です!」

「なるほど、普段からいがみあっているお前が言うのなら問題あるまい。ジンも主殿も文句は言わんだろう。なあ?」

 

 目を丸くして呆けるオレと項垂れるジン君にレティシアさんが同意を求める。傍らにて「アルさんファイトです」と胸の前で両拳を掲げていたリリちゃんも同調するようにこちらに瞳を向けた。

 もちろん我らが隊長殿は「ひゃ、ひゃい! 問題ないです。もう何でもいいです」と詰まりながらも即答。言い終えてから小声で「僕の存在価値って……」と嘆いていた。隊長殿は必要な方ですよ。暗黒面に堕ちないでください。

 地べたに「の」の字を書く少年を慰めながらレティシアさんに肯定の意を示す。

 

「オレも問題ないです。今更なにを言ったって代わらないし、それにアルがいればなんとかなりますから」

「ほう。随分とあやつのことを信頼しているんだな主殿」

「そうですね。レティシアさんも知っている通り、アルはメイドなんて枠組みで収まる様な女性(ヒト)じゃないですから。寧ろ対戦相手の方に合掌ですかね」

「むぅ……それは確かに否定できんな。だが今回の相手は話が別だ。"不死の怪物"。アルゴールとは何かと因縁のあるヤツだよ。下手をすれば敗北することも」

 

 と、そこで言葉を区切り、レティシアさんは小さく微笑んだ。

 突然のことにオレをはじめとした少年少女たちは揃って小首を傾げ、頭に疑問符を浮かべる。

 答えはすぐに示された。悪戯っ子のように口元を歪めながら鋭い牙を見せ一言レティシアさんは紡ぐ。

 

「愛しのご主人様、だったな」

 

 一人達観したような表情を浮かべるレティシアさんにオレたちの疑問符は増え続けるばかりだった。

 





『いつもニコニコご主人様の隣に這いよるメイド、アルゴールです♪』
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