リクルートファイター葵くん   作:まひる

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-第一巻 NO! 呼ばれてません(仮)-
第01話 『原住民の中にはケモノっ子がいるそうです』


「これが妄想廚二力の賜物か……」

 

 茂みの向こう側にそれはいた。頭の上と腰の辺りからそれぞれ二本ずつ、人としてあってはならないものを()()()()少女。

 もしかしてオレってケモナーだったのか?

 

◆ ◇ ◆ ◇

 

 お元気ですか女神さま、柊葵です。

 夢がいつ終わるか分かりませんが目覚めるその瞬間まで頑張りたいと思います。

 そういえばここってどこなんですか? なんか凄く田舎です。周りに木しかありません。あ、森か。

 どこの森? 国内? というか地球? まあどうせ夢だからなんでもいいか。

 そういえばお決まりの足許からひゅーんじゃありませんでしたね。

 ちょっと期待してたのに残念です。

 それでは目の前のちびっこたちに突貫してきます。

 

◆ ◇ ◆ ◇

 

 おぉ、今の定期連絡みたいでちょっとカッコイイな、またやってみたい、というかやろう、これはオレの夢なんだから自己満足でいいんだ、うんうん。

 

 散策ついでに女神さまに初脳内定期連絡を行ったオレこと柊葵。

 気がついたら知らない土地に、状態だったオレは色々とこの訳の分からない森をさまよっていただのがようやく話の出来そうな人々を見つけることに成功した。

 視界の先にはケモノっぽい子がいるちびっこ集団の姿が、原住民的なあれだと推測される。

 

「今日来る新しい仲間ってどんな人たちだろうね?」

「う~ん、全然分かんないけど、優しい人たちだといいねぇ~」

「だねぇ~」

「もしガルドみたいなヤツだったらボクが懲らしめてやる!」

「それはちょっと無理だと思うよ、あの人すんごく大きくて怖いし」

「ぬぅ……で、でも!」

「こういうのを無理ゲ―って言うらしいよ、白夜叉様に教えてもらったんだ」

「さすが白夜叉様、難しい言葉をいっぱい知ってるんだね」

「ねぇ~」

「そ、そんなの気持ちの問題だよ! ボクだってやれば……」

 

 良かった、どうやら言語の壁はないようだ。まあ、夢なんだから当然だけどね。というか白夜叉、子どもに変な言葉を教えないでくれ。ちびっこの将来に不安しかないよ。

 

 ワイワイガヤガヤと楽しげにおしゃべりしながら歩く彼らの手にはそこそこ大きめの桶が握られている。イメージとしてはお墓参りの際使うあの持ち手がついた木桶だ。

 ちゃぷんちゃぷん、という緩い音からしてどこかに水を運んでいる最中だろう。

 

 草むらから見つめるオレとしては彼らはお使いを頑張るいい子たちにしか見えない。つまり「いける!」ということだ。そうと決まればあの子たちにここがどこなのか聞いてみよう。

 

「やあこんにちは」

「きゃっ!?」

 

 どんがらがっしゃーん! と両手で持っていた木桶をひっくり返し、少女がオレの目の前で尻もちをつく。

 そ、そんなに驚かなくても、ちょっと茂みからバサーッ! って感じで勢いよく飛び出しただけなのに。とりあえず謝ろう。

 

「こ、ごめんね。お兄さんは怪しい人じゃないから話しを聞いてもら」

「来ないでください~助けてぇ~」

「なっ!? そのリアクションは痴漢に間違われたあの日を思い出すからやめてくれないか」

「こらお前! リリちゃんから離れろーっ!」

「え? ちょっと待――――危ないッ!!」

 

 オレの制止を無視した一人の少年が手に持つ桶を投げつけてくる。

 おーけー、やりたいことは分かった。状況からして不本意ながらどう考えても不審者のオレからこのリリちゃんとかいうケモノっ子を守りたかった、といった感じだろう。その勇敢な姿勢は認めよう。キミは将来イケメンになる。だから爆ぜろ。いや、ウソです、冗談です。

 この話題は放り投げておいて、もう少し冷静に考えてから行動してほしかった。リリちゃんはオレと投げつけてきた子の間にへたりこんでいるのだ。

 彼的には力一杯放り投げたつもりでも、相手はそこそこ大きめの木桶、尚且つその中には溢れんばかりの水、ちびっこの力では遠投距離などたかが知れている。

 案の定、桶はオレの所まで届かずリリちゃんの頭上へ。最悪な事に後ろから飛来する物体に彼女は気付いていない。

 仕方ない。オレがいきなり出てこなければこんなことにはならなかったんだ、責任を取ることにしよう。

 

 とまあここまで聞くと割とカッコイイ感じなんだけど、如何せん湿った木桶をなめておりました。

 オレのイメージでは頭に当たっても "スコーン!" といい音立てて終わりのはずが……ハァ、予想外の出来事すぎるよまったく。

 

 ドスッ、と鈍い音が一つ。

 バキッ、と人体が破壊される音も一つ。

 

「うげっ! あ、ああ痛ッてえええええあああああ」

 

 非常によろしくない音と共にやってきた意識を刈り取らんばかりの痛みに絶叫。はっきり言って超絶格好悪い。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 オレの下敷きになっていた少女から安否を確認する声が飛ぶ。

 先程まで変態痴漢強姦魔くらいの認識だったはずなのに、この子は絶対良い子だ。

 

「ハハ、ヨユーヨユー、ゼンゼンイタクナイヨー」

「で、でも血が」

「ダイジョブーダイジョブー、シンパイシテクレテアリ……ガ……」

「きゃあああ頭から血がぴゅーってぴゅーって!?」

 

 涙目で慌てるケモノっ子。

 他の子たちも心配してくれているのか地べたに伏すオレを不安そうな顔で覗き込んでくる。

 わぁー土ってこんなにひんやりしてたんだぁー。

 それにしても痛いな。ケモノっ子ちゃん実況だと頭から血がぴゅーらしいが所詮は夢、死にはしないだろう。

 でも、痛みの再現度ちょっと高すぎやしません? もしかして寝てる間に頭から床に堕ちたかな? こりゃ起きたらたんこぶものだ。

 

「とりあえず何か止血できるものない?」

「ぴゅ~ぴゅ~」

「ごめんなさい僕のせいで、これを使ってください」

 

 毛並みの良さそうな二本の尻尾をバタつかせながらあたふたするケモノっ子に代わって、桶をぶん投げてきた男の子がハンカチを手渡してくれた。

 ありがとう、とお礼の言葉を述べ傷口に当てること数秒。

 

「ふぅ、助かった、キミのお陰でもう大丈夫だよ」

「えぇ!? でも血が――出てない?」

「ほんとだぁーもう止まってるぅーすごぉーい」

「だろ。昔から怪我の治りとか早いんだよね、これちょっとした自慢。流石に服までは乾かせないけど」

 

 得意げに胸を張るオレに「おにぃちゃんすごぉーい!」とちびっこたちは沸きに沸きまくっている。

 ヒーローショーに遊びにきた子どものような純粋な眼差しに自然と手は彼らの頭の上にあった。

 まあよくは分からないけど仲良くなれたことだし、当初の目的を果たすとしよう。

 

「ところでキミたちに質問が」

「ダメです!」

「……え?」

 

 荒々しい声でオレの言葉を遮ったのはケモノっぽい要素を持つ少女。名前は確かリリちゃん。

 先程までワタワタと忙しなく動いていた二本の尻尾はいつの間にやら落ち着きを取り戻し、定位置っぽいところで固定されている。

 彼女の瞳に強い意志を感じたオレは黙って次の言葉を待つことにした。

 するとリリちゃんは「コホンッ」と一つ咳払いをしてから真剣な表情でオレの手を握った。

 

「"私のせいでお怪我をされたのですからしっかりとした治療でお返しするのが当然の義務です" って黒ウサギのおねぇちゃんなら言うと思います。ですので私たちのコミュニティにいらしてください」

 

 黒ウサギのおねぇちゃん? コミュニティ? 何だそれは?

 必死に頭を捻って思考するも皆目見当がつかない。

 頭を抱えるオレを余所にリリちゃんの言葉を耳にし、テンションが上がってきたらしいちびっこたちは「おいでよおいでよ~」とジャケットの裾を引っ張りまくる。

 

 皺になるから辞めてもらえませんか、と言える勇気を持とう日本人。

 

 リリちゃんのお誘いについて顎に手を当て考える、なんて洒落たことをする余裕をこやつらが与えてくれるわけもなく、半強制的にオレは頷かされた。

 

「わぁーいお客さんだぁ~ご馳走だぁ~」

「今日はいっぱい美味しいもの食べられるぅ~」

「やったぁ~」

 

 だ、騙されたというのか……!? こいつらまさか新手の詐欺集団?

 もしかしたら何も知らないオレを拉致って馬車馬の如く働かせるつもり……ないか、流石にそこまではな。

 というか、新しい仲間が来るんだからオレが行かなくてもご馳走なのでは?

 まあ今置かれている状況がよく分からないし、ついて行ってそこで親御さんに色々教えてもらうとしよう。

 

「痛ッ!」

 

 "コミュニティ" とかいう家の類に連れていってもらおうと立ちがった瞬間その悲鳴は漏れた。

 声の主は誰だろうと辺りを見回すと足を押さえるケモノっ子の姿が。

 べ、別に痛くありませんから、だ、だいじょうぶです、と涙目で強がるリリちゃん。オレが覆いかぶさるように守ったせいで足を捻ったらしい。

 いやいや全然大丈夫じゃないでしょ、声の震え方的にかなりヤバそうなんですけど。完全にオレのせいでしかないだろうマジで。

 

「気付かなくてごめんね。 "お前のせいで歩けないから送ってけ" ってことだよね?」

「ち、ちち違います! そういうのではありません! 私は」

「ハハハ、やっぱり興奮すると尻尾がワタワタするんだね。可愛い」

「あぅ……」

 

 再び落ち着きを失った二本の尻尾について指摘するとリリちゃんは分かりやすい反応を示してくれた。これはなかなかに中毒性のある可愛さだな、正直お持ち帰りしたい。

 とまあそんなくだらないことは置いといて。

 足の怪我を確認すると思っていた通り腫れが酷く、立つのも辛そうだった。

 本人は相変わらずの涙目と震え声で大丈夫だと訴えてくるがそんなことは知ったこっちゃない。無視だ。子どもがやせ我慢するんもんじゃない。

 その証拠に軽く指で触れただけで「ひゃうぅぅぅッ!?」と尻尾をバタつかせて敏感に反応している。もしかすると骨をやっているのかもしれない。

 バカが、オレのせいでこの子は……

 

「そんな顔しないでください。あなた様がいらっしゃらなければ私は今頃もっと大きな怪我をしていました。ですので、お気になさらないでください」

 

 痛くて痛くて仕方がないはずの少女はオレに精一杯の笑顔を向けてくれる、俯いて自らの過ちを悔いているオレに気にするなと。

 年下の女の子、しかもちびっこに気を使われる大学四年生か。情けない。

 大きく息を吸い、深呼吸してからへたりこむ少女へと手を伸ばす。

 

「とりあえず帰ろっか。濡れてるのは我慢してね」

「あ、あの何を――きゃっ」

「ごめんね。オレの考えが正しければキミはこうでもしないと自力で歩いて帰るって言いそうだったから」

 

 腕の中で混乱するリリちゃん。

 まあ当然っちゃ当然の反応だ、いきなり見知らぬ男に抱きかかえられたら誰だって嫌な気分にもなる。

 でもここは少し我慢してもらおう、これ以上怪我を悪化させるわけにもいかない。

 逃げられないように少し強めに抱き寄せ、ちびっこ諸君に「さあ行こうか」と促し出発進行。

 リリちゃんは「お、下ろしてください! 私は元気ですので大丈夫です~!」とこれまで以上に尻尾をバタつかせて抵抗してくるが無視。

 涙目と上ずった声ではなんの説得力もないよ。ごめん。

 

()()()()()()()()()、リリちゃん」

 

 

◆ ◇ ◆ ◇

 

 

「おにぃちゃん、もうすぐ僕たちの暮らす街が――あ、おーいジン~ジン~」

 

 ちびっこたちと共に歩くこと数十分、如何にも "街の入り口ですよ" という雰囲気の門までたどり着いた。

 と同時にコミュニティ "ノーネーム" リーダー、ジン=ラッセルと思しき人物にちびっこたちは走り寄っていく。元気だね~。

 

 ここまでの道中でちびっこたちから色々なことを教えてもらった。

 まずここがどこなのか。とりあえず日本ではないらしい、 "箱庭" という巨大都市の周辺だとか。いや、実際オレの夢ん中なんですけどね。

 まあ、それは置いといて、"箱庭" という都市は七つの層から構成されているらしく、リリちゃんたちのコミュニティはその一番外側に存在するそうだ。簡単に言えばバームクーヘンの色が違う部分かな。

 んで、そこよりさらに外側、要はバームクーヘンを包む紙の部分を『箱庭の外』と位置づけるらしい。リリちゃんたちと出会ったのはこの箱庭の外。もちろん今いる場所も箱庭の外。目の前に見えている門を潜ればオレも晴れて箱庭デビュー出来るということだ。

 ちなみに、箱庭では中央に行けば行くほど、強いコミュニティがあるそうだ。

 二一〇五三八〇外門に本拠を置く七桁のコミュニティ "ノーネーム" は最弱クラスと言えるだろう。

 また、話の都合上さらっと流した "コミュニティ" についてだが複数名からなる組織団体とかそんな感じ。

 で、まとめ役をリーダーと呼び、リリちゃんたちのコミュニティのリーダーがジン=ラッセルと呼ばれる幼い少年だそうだ。緑の髪という情報を追加しておく。

 

「ジン、リリちゃんが大変なんだよ、黒ウサギのおねぇちゃんは?」

「黒ウサギなら今新しい仲間を迎えに――それよりもリリは!?」

「ジンく~ん、ただいま~」

 

 そっと地面に下ろしてあげると軽やかなステップでちびっこたちのもとへと駆けていくリリちゃん。あ、尻尾可愛いな。

 

「リリ! どこか怪我でも?」

「うん。さっきちょっと足を挫いちゃったんだ。でも葵さんのおかげでもう大丈夫だよ」

「ホントだぁーおにぃちゃんすげぇ! あんなに腫れてたのにもう治ってるぅ」

「流石おにぃちゃん!」

「怪我がないなら良かったよ。それよりもアオイさんというのは?」

 

 どう考えてもサイズの合わないローブを身に纏った幼い少年。寝ぐせかセットかは分からないがあの跳ね上がった毛では面接一発アウトだな。そんな第一印象を与えられた少年ジン=ラッセル君がオレの方へと視線を向けた。

 

「やあこんにちは、キミが噂のジン君でいいのかな?」

「は、はい! 僕が噂のジン=ラッセルです! ……あっ」

「ハハハ、なるほどね、これじゃあ心配にもなるな」

 

 微笑みながら目配せるとちびっこたちは「でしょ~」と楽しそうに笑顔で返してくる。

 なんだか怪しいな、こういうのを『きな臭い』とか言うんだっけ?

 普通に考えて小学生の男の子がリーダーなんて、組織として成り立つはずがない。

 幼くしてリーダー職を務める、という情報から「もしかして本当はかなり頭の良い子なのかもしれない」と勝手に思い込んでいたのだがどうやらそういうわけでもなさそうだ。

 今日来る新人さんは置いといて、期待出来そうなのは黒ウサギのおねぇちゃんだけか……

 

 先程の続きになるがどうやらこのジン君のコミュニティ "ノーネーム" という組織は色々と問題を抱えているらしい。

 第一に大人がほとんどいない。というよりは『黒ウサギのお姉ちゃん』と呼ばれる女性一人しかいないそうだ。

 第二に最低限生活するための食料や水、金銭が底をつきかけているのだとか。

 ちびっこたちは笑いながら教えてくれたけど、どちらも深刻な問題ですよね。

 現にさきほど彼らが運んでいた水は自分たちが使用する分だったらしく、一日に何度も水汲みを行っているらしい。こんな小さな子どもたちがだ。

 コミュニティにあった水源は枯れてしまったそうなので仕方ないといえばそれまでなのだが何とも心苦しい。夢とはいえ、ちびっこたちを苦しめるような環境設定にしてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいです。

 ひもじい思いをする彼らのもとに本日新しい仲間がやってくるそうなのだができるだけいい人たちカモン! ちびっこたちを救ってやってくれ!

 

「あの、アオイさん? でよろしかったでしょうか?」

「あ、ごめんごめん。まだちゃんと自己紹介していなかったね。オレの名前は柊葵。名前でかまわないよジン君」

「はい。では "葵さん" と呼ばせて頂きます。この度はうちの者がお世話になりま」

「ジン坊ちゃーン! 新しい方を連れてきましたよー!」

 

 ジン君の言葉を遮るように甲高い声が響いた。

 反射的に後ろへ振り返るとそこにはリリちゃんとはまた違ったケモノっぽい女性が大きく手を振る姿があった。

 

「……え? バニーガール? も、もしかしてあれが黒ウサギのおねぇちゃんとかね、ハハ」

「そうだよ~」

「黒ウサねぇちゃんだよ~」

 

 信じ難い光景を目にし思わず口を衝いて出た疑問にちびっこたちが答えを示してくれる。

 ごしごしと両手で目を擦り瞳を細めるが少女は優しそうな表情で大きく手を振るハレンチな衣装に身を包んだ(主に夜の)ウサギさんにしか見えない。

 ぴょこぴょこと踊る長い耳は恐らく本物だろう。リリちゃんの件もあったし、違うタイプの半獣人さんがいても不思議じゃない。

 ということで、コミュニティの唯一の大人が短いスカートにガーターベルトを身に付けた如何わしい女、という点については触れないでおこう、止むに止まれぬ事情(生活面的な意味で)があることをオレは知っているのだから。

 

 沸き上がった疑念を頭を左右に振ることによって払い除け、再び黒ウサギさんの方を見つめると彼女の後ろ歩く二人の少女の存在に気付く。

 ぱっつん前髪が特徴的な女の子と頭の上に猫を乗せた女の子だ。恐らく彼女たちが新しい仲間なのだろう。

 

「お帰り黒ウサギ、御苦労さま。そちらのじょせ」

「黒ウサギのおねぇちゃんおかえりぃ~」

「おかえり黒ウサねぇちゃん」

「わぁーいごちそお~ごちそお~」

 

 ジン君の言葉を遮ってウサ耳少女に群がるちびっこたち。

 空気を読むことを知らない彼らに黒ウサギさんは嫌がる素振り一つ見せず「ただいま」と笑顔を振りまく。

 

――見た目だけで如何わしい女と判断してしまい申し訳ございませんでした!

――趣味趣向は個人の自由ですよね。本当はとても優しいおねえちゃんなのに「うわぁ、ハレンチウサギさんだ」とか思ってすみませんでした!

 

 土下座する勢いで謝罪の言葉を述べる。もちろん脳内でのやりとり故に黒ウサギさんが気付くことはなく、絶賛ちびっこたちに押し潰されそうになっている。

 

「黒ウサねぇちゃん、早くお家に帰ろうよ~」

「お腹空いた~、ごちそうまだ~?」

「おねぇちゃんおねぇちゃん」

「あやや、みんな落ち着いてください。黒ウサギはこれからお客様をご案内しなくては……」

 

 飛びつく勢いで押し寄せるちびっこたちに慌てふためく黒ウサギさん。

 このままでは話が前に進みそうもない。ジン君も両手で犬かきをしながらおろおろするばかりだし、ここはオレが頑張ってみよう。

 

「こらこらみんなダメだぞ。キミたちのリーダージン君から黒ウサギのおねぇちゃんに大事な話があるらしんだ。邪魔するような悪い子はいないよね~?」

『いな~い!』

「よーし良い子たちだ。ご褒美にお兄さんが頭を撫でてあげよう」

 

 無邪気な笑顔でオレのもとへと群がる少年少女たちの頭を一人ひとり優しく撫で回す。

 うん。普通に言うことを聞いてくれたけどまだ出会って一時間も経ってないよねキミたち。これはひょっとすると女神さまのくれた特殊能力なのかもしれない。悪くないな。

 元気いっぱいにはしゃぐちびっこたちの相手をしながらケモノっ子少女リリちゃんに目くばせする。

 

「リリちゃん、みんなのことを任せても大丈夫かな?」

「はい。私にお任せてください葵さん。それじゃあジンくん、私たちは邪魔にならないように先にお家に帰ってるね」

「あ、うん。もし僕らの帰りが遅くなっても」

「分かってる。夜更かしたらダメ、だよね?」

「うん」

「がんばってねジン君――――あっ」

 

 何か大事なことでも思い出したのか、ちびっこたちを連れて門の中へ消えようとしていたリリちゃんがこちらに振り返り「葵さーん」とオレの名を呼んだ。

 

「どうしたのリリちゃん?」

「約束ですよーっ!」

 

 口元に手を当て簡易メガホンを作ったリリちゃんが笑顔を振りまく。同調するように二本の尻尾がフリフリ揺れ可愛さ倍増だ。

 周りにいたちびっこたちも負けじと『約束ぅー!』と手を振り、オレの瞳には微笑ましい光景が映る。

 期待に応えるよう大きく手を振り返し「オレはちびっこに嘘吐いたりしないよ、またね~」と彼らを見送った。

 

「あの子たちと仲良くして頂き、ありがとうございます」

 

 声のした方へと視線を移すと黒ウサギさんが深々と頭を下げていた。

 やはり礼儀正しい彼女が如何わしいなんてありえないよな。

 

「いえいえ、仲良くして頂いたのはオレの方ですよ、黒ウサギのおねぇちゃん」

「や、やめてください、おねぇちゃんだなんて恥ずかしいです。それよりも貴方様は?」

「こちらの方は柊葵さん。怪我をしたリリを治療してここまで運んでくださったんだ」

 

 ヒョコッと敏感に反応するウサ耳を慌てて押さえる黒ウサギさん。

 可愛らしい少女の疑問にジン君が答え「本当にありがとうございました」と勢いよく頭を下げる。

 その際、背中のフードが彼の視界を奪い、再び犬かきを披露してくれた。ショタ可愛いぜジン君。

 

「元々はオレが原因だからお礼なんて必要ないよ」

「いえ、ですが」

「ダメです! どういう経緯があったかは分かりませんが怪我を治して頂き、その上ここまで運んで頂いたんです、しっかりとお礼をさせて頂くのが当然の義務です!」

「ハハ、これまたちびっこたちの言ってた通りだ」

「へぇ……?」

 

 突然笑い声を上げるオレに黒ウサギさんは首を傾げて頭に「?」マークを浮かべる。

 

「まあその辺の話は追々ってことで。あんまり長ったらしく話しているとそちらの可愛らしいお嬢さんたちに失礼ですからね」

「そ、そうでした! ジン坊ちゃん、こちらの御三人様が」

 

 クルリと華麗にターンする黒ウサギさん。

 ワンテンポ遅れて「ふぇ?」と素っ頓狂な声を上げ、石化したように動かなくなった。

 

「なるほど、二人の女性と一匹の猫で御三人様か」

「そうみたいですね」

「じゃあとりあえずジン君、コミュニティのリーダーとして自己紹介でも」

「ちょっと待ってくださああああいいいッ!!」

 

 勝手に話を進めようとするオレとジン君に「ウガーッ!!」と勢い良く復活した黒ウサギさんが制止の言葉をかけてきた。

 服装は置いといて、話し方や立ち振る舞いから上品な方だと思っていたのだがそうでもないらしい。見た目通りの "十代の女の子" なんだな、部分部分の発育は恐るべきレベルだけど。

 どうせこの子もオレの妄想廚二力の賜物なんだよね。結局オレってケモナーで美脚好きだったのかな、変態じゃん。

 

「どうしたのかな? 黒ウサギのおねぇちゃん」

「こんな時にふざけないでください葵さん、一大事なんですよ!」

「と言われてもオレとジン君にはさっぱりなんだけど」

 

 隣で「うんうん」と頷くジン君。

 だ~か~ら~、と拳を握り締め、てんやわんやする黒ウサギさん。

 一向に進まないオレたちのやり取りに我慢の限界が来たのだろう、前髪ぱっつんの如何にも "お嬢様" という雰囲気の女の子が口を開いた。

 

「お客様である私たちを放っておくなんて失礼なウサギね、シチューにして食べてやりましょうか」

「く、黒ウサギは食べ物ではありませんよ!?」

 

 訪れるかもしれない最期の姿を想像し思わず身を震わせるシチュー予定の黒ウサギさん。

 怯える彼女に救いの手を伸ばしたのは頭に猫を乗せた少女だった。

 

「丸焼きのがおいしい」

「救いの手どこですかーっ!!」

 

 パンッパンッパンッ、とハリセンの音が()つ。

 何故か知らないが俺まで殴られた。

 

「最凶の問題児さんはどこに行ったんですか!」

「問題児? ああ、粗野で凶悪で快楽主義のダメダメ人間、十六夜君なら "ちょっと世界の果てを見てくるぜ!" と言い残して駆けて行ったわ」

「な、何故止めて」

「「疲れる」」

 

 そんな理由で……、と前のめりに倒れそうになる黒ウサギさん。

 すかさず彼女の肩を抱き「頑張ろうよ」と優しい言葉で慰める。 

 黒ウサギさんは耳を萎れさせ、目に一杯の涙を溜めながら「あ、葵さ~ん」とオレの胸に顔を埋めてきた。

 

「よしよし、お兄さんはキミの苦労分かってるよ」

「うぅ~」

 

 泣きじゃくる黒ウサギさん。

 オレは彼女のトレードマーク "ウサ耳" を優しく一撫でし、力の限り引っ張った。

 

「ふぎゃああああッ!! 痛いです痛いです痛いですーッ! 何故ですか葵さーん!?」

「黙れ駄ウサギ。人の頭をハリセンで殴っておいて "何故ですか" だと?」

「あ、ああれは葵さんが――ぎゃあああああああ」

 

 やはりウサ耳は本物だった。

 

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