リクルートファイター葵くん   作:まひる

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第05話 『まずは一人、目障りな元・魔王様から』

『勝者、春日部耀!』

 

 飛び跳ねるような声音に合わせて踊るウサ耳。胸の奥底から込み上げてくる嬉々とした思いが瞳の淵からスルリと流れ落ちる。朱色に火照った頬を伝い首筋へそれが消えゆくとともに「うおおおおお」と会場を包み込む割れんばかりの大歓声が巻き起こった。

 

 誰が予測出来ただろうか、名無しの旗無し "ノーネーム" が箱庭六桁外門の最上位の一角を担うコミュニティに勝つなど前代未聞。史上稀にみる番狂わせに観客たちは滾る気持ちを抑えきれず、総立ちとなって拍手喝采を送った。

 歓声の中心に佇む四つの陰。巨大なカボチャ頭を持つ彼が何かを悟ったような声音で問いかける。

 

「なるほど、そういうことでしたか。卑怯な真似をしてくれますね、貴女という人は」

「うるちゃい。先に仕掛けたのはおじさんの方だお。もうホントシネバイイノニ、クソパンプキン♪」

 

 相手の神経を逆なでするよう態とらしく一拍置いてから侮蔑を込めた敬称で答えるアルゴール。ジャックは呆れたように苦笑する。視線の先には石化して動けなくなった同士アーシャの姿があった。

 

 ジャックに諭された後、いの一番に洞窟の奥へと駆けていったはずのアーシャ。後方より迫る耀を振り切ってゴールは目の前、というところでアルゴールの設置した石化トラップに引っかかり、彼女はゲームオーバーとなった。その後、追いついてきた耀に蹴りを入れられたことを本人は知らない。

 

 アーシャにかけられた石化の呪いを解き、首元にチョーカーをつけ直すアルゴール。小さくなるその背に擦り切れそうなか細い声がかかる。

 

「あ、あの……その……ありが」

「ありがとうなんてほざきやがったらお前のその貧相な胸を陥没クレーターにしてあげるんだからね♪」

「えぇ――!?」

 

 そんなバカな、と一歩後ずさる声の主、耀。普段のどこか冷めたような印象の彼女はどこへやら、コミカルなポーズでさらにもう半歩距離を取る。無理もない、ここで選択肢を誤れば問答無用で石化コースだ。洒落にならない。

 背後で息を呑む彼女にいつも通りのロリっ子状態へと戻ったアルゴールは振り向き様に満面の笑みを送った。

 

「アルはお前を助けたつもりなんてミジンコレベルでないから礼を言われる筋合いはない。全ては愛するご主人様のために、やってやったぜ! ということ」

「で、でも」

「あー聞こえない聞こえなーい」

「それじゃあ私の気持ちが治まりきらない」

 

 だから! と語気を強める耀に対しアルゴールは「ねぇねぇ聞いてよ蛇神三(みかみさん)、さっきからバカがうるさいんだ、殺っちゃてもいいかな? いいよね」とにょろりと舞う相棒たちに向け何やら物騒な問いかけを始めていた。

 

「ゴメンナサイ。スミマセン。ユルシテクダサイ」

 

 逆らったらどうなるかよく知る彼女はいつもにも増して平坦な声音で謝罪の言を述べる。

 

「ん? どうしたのおねぇちゃん? そんなに怯えないでよ。アルのこと嫌いなの?」

「ダイスキデス」

「そっか。それならいいんだぁ~。えへへ~♪」

「…………」

 

 降り立つ気まずい空気。私はどうすればいいんだろう、と縮こまる耀と我関せずのアルゴール。このままでは収集がつかない。しかし、忘れてはならない。ゲーム会場には四つの影があったことを。

 

「お嬢さん、一つお聞きしても?」

 

 アルゴールのもたらした重苦しい雰囲気から逃れるように視線を向けるとそこには陽気な声音で尋ねるジャック、とよく見れば彼の背後からチラチラと顔を覗かせるアーシャの姿があった。

 ゲーム開始前の糞ガキ少女はどこへやら、耀と目が合った途端慌てて顔を引っ込めてしまう。

 

「…………何?」

「このゲームにおける覚悟を、内に秘めし想いをお聞かせください。どうも貴女はご自身の命を軽んじている節があります。いえ、無理にとはいいません。何かにとりつかれたように向かってくる姿に少々狂気を感じましてね」

 

 穏やかな声音で問うジャック。しかし、耀は質問には答えず、そっと瞼を閉じた。

 思い描くは彼のこと、優しい彼の笑顔、大切な友達の言葉。そして、大事な仲間たちのこと。

 

 "ごめん"

 

 戦いを終え、幾分か頭の冷えた彼女は胸の内で深々と頭を下げる。ゲームに勝ちたい理由が『黒ウサギと仲直りするため』からいつの間にか『葵のために強くなること』へとすり替わっていたと気が付いたからだ。だから、ごめん。

 

 "私は馬鹿だ"

 

 結果的に自分は何も出来なかった。調子に乗って同じ過ちを繰り返し、安っぽいちんけなプライドを捨て切れず、仲間である彼女に頭を下げることすらできなかった。弱いくせになんて愚かで馬鹿なんだろう、と悔しさを噛みしめる。

 

 "このままじゃいけない、全然ダメだ"

 

 一つ、二つと大きく息を吸い込み、閉じていた瞼をゆっくりと開ける。

 

 "勝つことも、仲間を想うことも出来ないこんな弱い私じゃ、友達を守れない"

 

 紡ぐ想いは誰のためにあるのか。決まっている、大切な友達のために。

 

「私は強くなりたい。貴方よりも、飛鳥よりも、十六夜よりも、世界中の誰よりも、もっともっと強くなりたい。そうすれば私が大切な友達を、葵を守ってあげられる。だからもっと強くなるために」

「図に乗るなよ勘違い女――ッ!!」

 

 未だ止まぬ大歓声の中、(いかずち)のごとく荒々しい怒声が轟く。乱痴気騒ぎの様相を呈していた観客席は一瞬にしてその鳴りを潜めることになった。

 ピリリと空間が裂けてしまいそうな轟音をもたらしたのが彼女だと気付いてしまった耀は思わず二歩三歩と後ずさる。その瞳に映る銀髪少女、アルゴールは愛らしい見た目に反して親の敵でも見つけたような表情で耀のことを睨んでいた。

 

「確かにご主人様は弱い。雑魚だ。その辺のモブ一般人と変わらない。だが心は強い。誰よりも強い。自身が弱いことを自覚しながらも同士たちのために戦う。そして、優しい。誰よりも優しい。暗い闇の底で泣いていた私に手を差し伸べてくださった。自由を与えてくださった。そんな強くて優しいご主人様がいつお前に守ってくれと頼んだ? いつ自分の身代わりになってくれと頼んだ? あの方はそれを望まない。自分のために誰かが傷つくのを認めない。友であるお前はそんなことも分からないのかッ!!」

 

 明確な敵意をもって視殺するかのごとく鋭い眼差しで睨みつけるアルゴール。

 耀は力の抜けた足から崩れ落ちるように尻もちをついた。

 

 春日部耀は心の底から恐れている、再び大切な友を失うことを。

 初めて出来た同族の友達が暖かさを教えてくれた。今までになかった感情を与えてくれた。大切な居場所を作ってくれた。だから彼女は守りたかった。必要として欲しかった。一人占めしたかった。

 いなくなられては困る。だから命を賭してでも守らなければいけない、親友ならそれくらい当然、と勘違いしていた。

 無理もない。彼女には同族の友達がいなかったから、父親から友達は大切にするように言われていたから。ただその言葉を守ったにすぎない。

 

 耀は気付いた。アルゴールの真摯な言葉を受けやっと自分が間違っていたことに気がついた。と、同時に申し訳ない気持ちで胸が埋め尽くされた。ゲームが始まる直前、自分は彼に、皆になにを言った、全て思い出す。

 

 "いらない、一人で充分だから"

 

 心配してくれる仲間たちを跳ね除け、我儘を突き通してしまった。

 私は酷いことをした。嫌われるかもしれない。皆に、葵に嫌われるかもしれない、と考えるだけで瞳から涙があふれた。

 またしても彼女は思い違いをする。友達ならばあれくらいで嫌いになるようなことはないというのに無知な彼女は怯えた。どうしよう、どうすればいいんだろう、と。

 胸の内で頭を抱える耀とは裏腹にアルゴールは心臓を鷲掴みにされるような錯覚に陥っていた。

 

 ま、まさかの号泣ーッ!? 正論しか言ってないのに泣き落としとか卑怯だぞ。ゲームに勝利したはずなのにご主人様にしかられるぅー!

 

 どうすればいいんだー、とアルゴールはリアルに頭を抱えることとなった。

 方や体育座りで号泣。方や頭を抱えて思考停止。ゲーム盤の上に取り残された "ウィル・オ・ウィスプ" の二人は置いてけぼりに遭い、互いに顔を見合わせることしか出来ない。

 黒ウサギはといえば、ゲーム会場の隅でひっそりと祈りをささげていた。

 

 ――早く来てください葵さん、会場全体が淀んだ空気に陥ってますよ。お二人を救出できるのは貴方だけです!――

 

 

◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 見事ギフトゲームに勝利した耀ちゃんとアル。オレは誰よりも早く二人に「おめでとう」と言いたくて客席からゲーム会場へと駆け抜けたのだが予想外の出来事に見舞われた。

 

「く、黒ウサギさん、これは一体……?」

「遅いですよ葵さん。早く、今すぐお二人を呼び戻してください!」

 

 うっきゃー、大変デス大変デス、とウサ耳をバタつかせながら慌てふためく黒ウサギさん。彼女の指差す場所にはそれぞれ違った落ち込み方をする美少女と美幼女の姿があった。

 無表情系女子で有名な耀ちゃんは瞳から大粒の涙を流しながら鼻をすすり、お転婆メイドことアルは頭を抱えながら真っ白になっている。

 ごくごく普通の庶民兼一般人のオレに何が出来るのだろうか、と内心溜息を吐きたい気分だったが黒ウサギさんに頼まれたこともあり意を決して二人の救出へと向かった。

 結果、見事成功。耀ちゃんが「私は君の友達に相応しくない」とか言い出した時は思わず怒鳴ってしまったが全て上手くいったのでまあいいだろう。よく分からないけどアルとも仲直りしたみたいだし、ゲームにも勝って万々歳。いぇーい! とみんな仲良くゲーム会場から立ち去ろうとした時だった、平和な時をぶち壊すように客席の一角から張り裂けそうな悲鳴が轟いた。

 

「魔王が……魔王が現れたぞオオオォォォォ――――ッ!!」

 

 何事かと視線を向けるまでもなく、言葉の意味を俺たちは思い知らされた、上空からハラリと雪のように舞い降りる黒き封書によって。

 ヒトビトは我先にと突きつけられた現実に背を向けるべく会場の外へ向かって駆けていく。どこにも逃げ場はないというのに。

 

 話には聞いていたがこれが本物の魔王のやり方か。彼、或いは彼女らは主催者権限を悪用して、強制的にギフトゲームを開催させるとガルドが説明していたのを思い出す。

 とはいえ、百聞は一見にしかず。聞いた話とリアルで体感するのではこうまでも違うか。今更夢と現実の境界が分からなくなる。事実は小説よりも奇なり。昔の偉い人は面白い言葉を沢山残したものだ。

 アルやレティシアさんも過去に同じことをやっていたと思うと少し対応を改めるべきかと本気で悩む。

 

 まあこの件は置いとくとして、我ながら異常なまでに冷静な思考に苦笑を漏らしそうだ。原因が視線の先の彼と言えば全て納得出来てしまうのもどうかと思う。

 流石僕らの十六夜君、期待を裏切らないリアクションありがとうございます。

 

「やってくれるじゃねぇか魔王様、やっぱりこうでなくちゃな!」

 

 ヒャッハー、と宮殿のバルコニーの淵から身を乗り出しながらいつも以上に凶悪な笑みを彼は浮かべる。心なしか訪れてしまった悲劇に胸を躍らせているように見えなくもない。新しい玩具を見つけた子どもかキミは。隣で飛鳥ちゃんが呆れてるよ。

 混乱の中、客席から会場へ降りてきたレティシアさんに十六夜君が声を張り上げる。

 

「あの軍服が魔王だな?」

「恐らくそうだ」

「よし。ならアイツは俺がやる。白いのとデカイのはお前らに任せてもいいいな?」

「もちろんだとも主殿。私とアルゴールがいれば事足りる」

「えぇーッ!? アルもやるの? 今戦い終えたばかりだよ、ドラちゃんは鬼だ」

「緊急事態だ弁えろ。メイドなら甲斐甲斐しく働け馬鹿者! これも全ては葵たちを守るためだ、文句を言うならまずはお前から殺るぞ!」

 

 口元のキラリと光るそれを見せつけるレティシアさんにアルはガクリと肩を下げた。

 二人のメイドのやり取りを尻目に十六夜君はミサイルばりの速度でバルコニーより遙か上空へと跳び上がる。目指す先にいるのは会場へと降り立たんとする三つの影、魔王御一行様だ。そのうちの一つと接触したかと思えば相手ごと十六夜君は遠くの壁へと姿を消し去った。

 流石リアル人外さんですね、と唖然とするオレと耀ちゃんに可愛らしい少女から大人の女性へと姿を変えたメイドたちが注意を促す。

 

「葵は万が一を考えて力を温存しておいてくれ。お前のギフトは切り札だ」

「分かりました。いつでも加勢できるように安全な場所で身を潜めておきます」

「うむ。耀は――」

「お前もご主人様と共にいろ、下手に動かれては足手まといになる。いいな?」

「うん。葵は私が命に代えても……じゃなくて、一緒に隠れてる」

「それでいい。もしまたふざけたことを口にしていたら危うく石ころに変えるところだった、なんて」

「お前が言うと冗談に聞こえんぞ。味方を始末してどうする気だ馬鹿者」

「さあ、どうだろうね」

 

 ニヒヒ、と美しい女性になっても変わらない悪戯っ子な笑みを浮かべるアルに額に手を当てながら「やれやれ」と首を振るレティシアさん。

 それも一瞬のことで、背中に漆黒の翼を顕現させると勢いそのままに美しい所作で宙へと舞い上がる。アルも重力に逆らうようにレティシアさんの隣まで移動し、今一度オレたちに目くばせしてから二人はそれぞれの戦場へと赴いていった。

 

 これでこの場に残るのは一足先に避難誘導へと向かった "ウィル・オ・ウィスプ" の二人と黒ウサギさんを除いたオレと耀ちゃん、あとは彼女だ……け?

 

「あら、どうしかしたの? 顔が真っ青よ、柊葵」

「…………だれ、だ? どうして、オレの名前を……?」

「そう。貴方が柊葵なのね。それじゃあ―――さようなら」

 

 可愛らしく口角上げ、ダボついた袖をこちらにかざす少女。白地に黒く散りばめられた斑点が吹き抜ける風に煽られ、小さくゆらめく。

 突然の事にオレは判断が鈍り身動きが取れない。

 

「ご主人様――ッ!!」

 

 麻痺する思考を押し退け響き渡る彼女の声。背筋を駆ける不快なそれが全力で警鐘を鳴らす。

 

「かかった。まずは一人、目障りな元・魔王様から」

 

 キュッと上げていた口角をニンマリとしたものへと変化させ、少女はほくそ笑む。それはまるで先程彼女が浮かべていた悪戯が成功した子どもの様な柔らかい笑みだった。

 何も知らないアルはオレを助けるべく必死の形相でこちらへと全速力で飛びこむ。

 

「貴様アアァァッ!!」

「く、来るなッ! こっちに来ちゃダメだア――――ッ!?」

 

 叫ぶように発した言葉を紡ぎ終えるよりも早くそれは引き起こされてしまった。じゅるり、と艶めかしく堪能するような口づけ。

 目を丸くし、唖然と立ち尽くすオレの視界の先で少女はその小さな手で彼女の頭に手を回す。宙に浮いた足を胴体へと絡ませより強く、抱きしめるような形となった少女は逃れようと足掻くアルにさらに激しく迫った。

 

「――――!?」

 

 獣のように荒々しい息遣いが増すにつれ、必死に抵抗するアルの様子がおかしくなっていく。まるで何かに苦しむかのようにもがき身をよじらせ、その動きが止まった瞬間、彼女の体が少女のそれへと変化した。

 

「嘘だろ……アル! アルゴール!」

「にげ……て、くだ……さい……ごしゅじ……ま」

 

 自分の事はいいから逃げてくれ、と彼女は嘆願する。胸を押さえ、もがき苦しみながら。

 熱くなる鼓動を押さえきれず無意識的に一歩足が出てしまう。だが「待って葵!」と傍らで同じ様に立ちつくしていた耀ちゃんが必死にオレの腕を掴んだ。

 

「離せーッ! アルが、アルが……ッ!!」

「行っちゃダメ葵! 冷静になって」

「うるさい! オレはアルを助けるんだ!」

 

 と怒りに我を忘れて飛び出そうとするオレを斑模様の衣を纏う少女は笑った、口元を押さえながら必死に噛み殺すような素振りで。

 挑発するような態度に声を荒げる。

 

「なに笑ってんだクソガキ! 今すぐアルから離れろ! さもないと」

「私を殺すのかしら? 残念、それは不可能。だって貴方のギフトは与えることしか出来ないもの。そうでしょ、柊葵」

「な、何故それを――ッ!?」

「お馬鹿さん。また貴方は進んで敵に情報を与えた。滑稽ね、柊葵」

 

 アハハハ、と小馬鹿にしたように少女は笑い、オレを守るようにして立っていた耀ちゃんを指差した。

 

「次はその子、貴方の大切なものは全て奪い取ってあげるわ、フフ」

「なん、だと……何故オレの仲間たちを」

「それを貴方に教えてあげる義理はない。でもそうね、最期、貴方が死ぬ最期の瞬間にでも全て教えてあげようかしら」

 

 チッ、と思わず舌打ちが零れる。

 訳が分からない。なんなんだコイツは? いきなり現れて、なんでアルがこんな目に遭わなければならない。一体何がどうなってる!?

 

「――ッ!!」

 

 混乱する頭を無視して腸が煮えくり返るのを必死に抑え込む。相手の挑発に乗ってはダメだ。耀ちゃんにも言われたろ、冷静になれ。

 

「生意気な目ね。こうしたらどうなるかしら」

 

 倒れ伏すアルの頭を踏みつけるべく少女は足を浮かせる。

 と、それが彼女の肌に触れそうになった瞬間、勢いよく耀ちゃんが飛び出した。弾丸のごとき速さで少女目がけて突進する。

 

「触るなッ」

 

 低く絞り出すように吐露された一言に少女は余裕そうな表情を浮かべながらぬちゃり、と舌舐めずりで応える。

 関係ない。ギフトを用いて放たれる必殺の一撃はグシャリ、とお前の胴体を貫くはずだ。それで全てが終わる。何もかも全部終わってアルも無事解放されるに決まっている。はずなのに、何故かオレの体は言いようのない恐怖に支配され、はち切れんばかりに心臓が高鳴った。

 

「バカな子、そんなに急がなくても、ちゃんと殺してあげるわ」

「なん、で……?」

 

 渾身の力をもって放たれた突きは小さな体を貫くことなく、何かに阻まれるようピタリと胸の前で制止した。

 それがさも当然であるかのように少女は小さく微笑み、ゆっくりと眼下に捧げられた腕を手に取る。

 そうしてそのまま、アルにしたのと同じように唇を奪うべく顔を近づけ始めた。

 

「やめろオオオォォォぉぉッ!!」

 

 このままでは拙い、耀ちゃんまでやられる。オレが何とかしないと、となりふり構わず駆け出そうとした瞬間、雷鳴とともに彼女の声が響き渡った。

 

「これよりゲームを一時中断し、真偽決議を取り行います!」

 




アルゴールVSジャックの詳細はまた後ほど追加予定。
ちなみに全て捏造です。この二人は原作で関わり合いになりません。
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