『魔王』とは
この権限を持つ者から挑まれたゲームは例えどんな理由があったとしても断ることを許されない。故にヒトビトは魔王という存在を恐れる。
ギフトゲーム『The PIED PIPER of HAMELIN』
火龍誕生祭に乗じて降り立ったリーダー魔王ペスト、配下ラッテン、ヴェーザー、シュトロムから成るコミュニティ "グリムグリモワール・ハーメルン" によってもたらされたギフトゲーム。
このゲームが行われるにあたって参加者側が不利になるようなルールが設けられているという理由から黒ウサギの判断により審議決議及び交渉の場が設けられた。
審議内容
現在白夜叉は黒い球体の中に封印され、力を行使することを制限されている。ペストたちがゲーム会場へと降り立ったと同時になされた所業だ。
その解除方法は不明であり、唯一分かっていることは『偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ』という一文のみ。これでは不正行為がなされたと結論を出すのも無理がない。
プレイヤー側であるジンたちはテーブルを挟んだ向かい側に座る魔王に向け、身を乗り出すようにして語気を強めた。今に分かる、貴女たちの不正は箱庭によって正されるんだ、と。
だがしかし、審判役である黒ウサギが告げたのは「不備はない」という一言だった。
彼女のウサ耳は箱庭の中枢とリンクしており、不正がないかどうかその解答を数秒にして得ることが出来る。
つまりペストたちが完全に白だということが証明されてしまった、ということだ。
交渉の場に参加していたジン、十六夜、サンドラ、マンドラ、さらには告げた本人である黒ウサギまでもが絶句した。
彼らの間の抜けた面を瞳に映し、ペストは一人ほくそ笑む。ここまでは全てシナリオ通り。白夜叉の封印は正当な条件で成されているのだから当然の結果でしょ、おバカさん、と。
意気消沈するジンたちを尻目にペストは次なる行動へと移る。ゲーム再開の日取りをできるだけ引きの延ばすこと。理由は至極簡単、確実なる勝利を得るため。
元々 "ペスト" というのは十四世紀から始まる寒冷期に大流行した人類史上最悪の疫病 "黒死病" を指すものであり、魔王である彼女が持つギフト "
用意周到にもペストはゲームが開始されるよりも以前に街中に病原菌を撒いておいたため、あとは発症を待つばかり。最短で二日で芽を出す悪魔の子に一日でも多く時間を与えてしまえばどうなるか、それはプレイヤー側のゲーム参加以前の敗北を意味する。
"戦わずして確実に勝つ"
これが魔王ペストの描いたシナリオ。確実かつ完璧なる計画に小さな口から笑みが零れる。
(勝った。これでやっと……ッ!!)
ペスト、十四世紀から始まる寒冷期に大流行した人類史上最悪の疫病 "黒死病" を指すもの――だがこの彼女は違う。
その正体は黒死病によって無念にも命を散らした八千万もの死者の霊群、その代表が彼女、魔王ペストなのだ。
彼女には明確な目的がある。
"復讐"
黒死病を世界中に蔓延させ、飢餓や貧困を呼んだ諸悪の根源――怠惰な太陽へと復讐するという目的。
そして、その権利が彼女にはある。黒死病が世界中に蔓延したのは太陽がその姿を隠したことによって地上が寒冷期に見舞われたため、という一節があるようにその責任の一端は間違いなく太陽にもあるのだ。故に太陽の主権を持つ白夜叉の封印という特殊なルールを敷くことを尊き犠牲者である彼らの代表ペストは許されたのだ。
(これでやっと皆の想いを繋げるための一歩を踏み出せる。やはり私は正しかった。フフ、貴方も私を認めざる負えないわね)
胸の内で紡がれた言葉に酷く無機質な声音が応じる。
"貴様ではどう足掻こうと奴には勝てない。早急に悔い改め、奴の軍門に降るがいい"
思わず歯ぎしりがこぼれ落ちた。
壊れた水道管のように溢れ出す不快な音にペストは俯き、唇を噛みしめる。
(黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れええエエエェェェぇッ!!)
呪詛のように繰り返される否定の言葉にまた一つ
"貴様ではどう足掻こうと奴には勝てない。早急に悔い改め、奴の軍門に降るがいい"
植えつけられた否定の言葉に抗おうとすればするほどに心はかき乱されていく。
この怒りや憎しみは全てヤツのせいだとペストはある人物を思い浮かべた。
(私が負けるはずがない。殺す。必ずヤツだけは――柊葵だけはこの手で地獄に送ってやるッ! お前の望み通りの道化など演じるつもりはないッ!!)
目を血走らせ肩で息をするペスト。
いつもクールなマスターがどうしたんだろう? と浮かび上がった疑問を払拭するように薄い生地に身を包んだ女性が声をかける。
「マスター? 何をそんなに興奮してらっしゃるんですか? 勝利の宴には少しばかり早いと思いますが?」
突如投げかけられた疑問の声に「ハッ!」と我に返ったペスト。
声のした方へと振り返るとそこには配下の一人、ラッテンが不思議そうな表情で彼女の顔を覗き込んでいた。
距離にして数十センチ。あまりの近さに思わず頬を赤らめてしまったが誰にも見られていなかったと分かると少女はその愛らしい顔に不敵な笑みを張り付け、高らかに宣言した。
「この状況を見ても同じことが言えるかしら、ぐうの音も出ないとはこのことよ」
「おぉ、今のちゃんと録音したヴェーザー? マスターが難しい言葉を使ってドヤってるわよ。可愛い♪ もう超カワイイー♪」
「……黙りなさい。貴女ここがどういったバカ――ッ!?」
「別にいいじゃないですかマスター、どうせ調子こいていちゃもんつけてきたお返しにゲームの日取りを送らせるんでしょ?」
空気の読めない陽気さを醸し出すラッテンの言葉にペストは思わず「ムカつく」と小さく口を尖らせる。
しかし、その表情の変化は彼女のつぼらだったらしく「きゃわわ~♪ うちのマスター最高ーッ!」とその身に宿る豊満な果実にペストを押しつけながら小躍りし始めた。
傍らにて佇む軍服の男、ヴェーザーは溜息を吐くばかりで我関せずといった体を崩さない。
その態度がまたペストの機嫌を損ね、ラッテンのテンションを爆上げさせる。
片やお通夜、片やお祭り、カオスな空間へと変貌を遂げた審議会場。
まあいいか、どうせ何も覆らないのだから、とペストは小さく微笑む。
それを見計らってか彼女の気が緩んだのを的確に突くよう少年は口を開いた。
「貴女の正体は
堂々とした面持ちではっきりと言いきる少年、ジン=ラッセル。
コミュニティのリーダーとして何か自分にもできることはないかと始めた "知識を蓄える" という行為が役立つ時がやってきた。冷静に、正確に、相手の表情を読み取って優位に立つ交渉術。傍らにて試すような視線を向ける十六夜に軽く目配せし、ジンは再びペストの方へと向き直った。
「答えてください。貴女はペストですね?」
「ええ、そうよ。大正解。よく出来ました、"ノーネーム" リーダー、泣き虫ジン君」
「――ッ!!」
挑発するようなペストの声に一瞬でジンの表情が強張る。
しかしそれだけではない、いつも冷静な彼、逆廻十六夜までもが驚きで目を見開いた。
「こいつは驚いた、いつの間にかうちのジン坊ちゃんも有名になってたってことかよ」
「い、いきなりなにを仰っているんですか十六夜さん、今はそういう話をして――ッ!?」
「いる場合だろ? なんせこの斑ロリ、まだ名乗ってもいない御チビのことを知ってたんだぜ」
ヤハハ、と楽しげな笑みを見せる十六夜の目は笑っていない。鋭く研ぎ澄まされたそれで見据えるは斑模様の衣服を纏う少女、ペスト。
彼のふざけた態度に思わずツッコミを入れてしまったウサ耳少女、黒ウサギも同様に彼女の方を伺う。
「…………」
ペストは俯いたまま何も言わずただ胸の内で――笑った。
(フフ、フフフ、アハハハハ、私の完璧な計画がこうもあっさりと覆されるなんて、面白い。これも全て貴方の描いたシナリオ通りということなのかしら。でも、ごめんなさい、私は貴方の玩具じゃないの。だから必ず、必ずこのゲームにも、貴方にも勝ってみせるわ)
こうして魔王ペストの描いたシナリオはあっさりと崩れ去った。
その後も審議決議は取り行われ、最終的に以下のような黒い
『ギフトゲーム名 "The PIED PIPER of HAMELIN"
●プレイヤー 一覧
・現時点で三九九九九九九外門・四〇〇〇〇〇〇外門・境界壁の舞台区画に存在する参加者・主催者の全コミュニティ("箱庭の貴族"=黒ウサギを含む)。
●プレイヤー側・ホスト指定ゲームマスター
・太陽の運行者・星霊 白夜叉(現在非参戦の為、中断時の接触禁止)。
※一部例外を除く。
●プレイヤー側・禁止事項
・自決及び同士討ちによる討ち死に。
・休止期間中にゲームテリトリー(舞台区画)からの脱出を禁ず。
・休止期間の自由行動範囲は、大祭本陣営より五〇〇メートル四方に限る。
※一部例外を除く。
●ホストマスター側 勝利条件
・全プレイヤーの屈服・及び殺害。
・八日後の時間制限を迎えると無条件勝利。
●プレイヤー側 勝利条件
一、ゲームマスターを打倒。
二、偽りの伝承を砕き、真実の伝承を掲げよ。
●休止期間
・一週間を、相互不可侵の時間として設ける。
※一部例外を除く
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
"グリムグリモワール・ハーメルン" 印』