リクルートファイター葵くん   作:まひる

3 / 32
第02話 『目覚めが悪くなる。だから燃え散れ、ファイア!』

◆ ◇ ◆ ◇

 

 こんにちは女神さま、数時間ぶりの柊葵です。

 絶対届いてないと思いますが飽きるまで続けてみます。

 で、今回の定期連絡なんですが聞いてください、マジもんのエスパーさんを発見しました。生きいてれば誰とでも意思疎通が出来るそうです。凄いですね、なんたらこんにゃくみたいです。

 あ、そうそう、ええとこのお譲様にも出会いましたよ。前髪ぱっつんがよく似合う気の強い子です

 それともう一人、二メートル越えのピチピチさんが現れました。ムキムキでピチピチだから化け物じゃないですか。やだぁー。

 ではでは、お体には気をつけてくださいね。さようなら~。

 

◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 "最凶の問題児" なる少年を追ってとんでもない速度で消え去った黒ウサギさん。

 彼女を見送った後これからどうするか悩んでいたところ、ジン君が「も、もちろん葵さんも一緒ですよね?」と困り顔で嘆願してきた。

 何事かと思いきや今日から仲間になるお嬢さん二人に箱庭を案内するので一緒に来て欲しいとのこと。

 はっきり言って断る理由がない、寧ろ好都合というヤツだ。オレも便乗して色々と教えてもらおう。

 あ、でも、一応確認しておくか。

 

「確かに年上のお姉さん二人をエスコートするのは大変だもんね。でも、ジン君はリーダーなんだから」

「葵さん……」

 

 ゲリラ豪雨の中発見してしまった子犬のような目で見上げてくるジン君。みかんの段ボール箱がよく似合いそうだ。黒ウサギのおねぇちゃん、この子にリーダーは荷が重すぎると思います。代わってあげて!

 

 まあ結論から言うとリリちゃんたちに教えてもらった情報しか知らないオレはジン君について行くことにしました。わりと本気で見捨てられない感じだったし。

 で、必然的流れとしてお嬢さん二人に挨拶することになったわけだが……

 

「オレは柊葵。こっちの彼が "ノーネーム" っていうコミュニティのリーダージン君、以上です」

「ちょ、ちょっと貴方ふざけてるでしょ」

 

 オレの簡素的な物言いにいちゃもんをつける前髪ぱっつんお嬢さま。

 間違いない、彼女は絶対ツンデレ属性だ。オレの妄想廚二力が正しければ「べ、別にあんたのことなんて好きじゃないんだからね」と口にするに違いない。

 両手を胸の前で掲げ「oh~ナニイッテルデスカ、ヤレヤ~レ」的な表情をお嬢さまに向ける。先に言っておくが煽っている訳ではない。

 

「そういうわけじゃないよ。さっきの黒ウサギさんとのやり取り聞いてたでしょ? 二度手間かと思ってね」

「それとこれとは別の話でしょ、名を名乗るというのは礼儀として当然のことよ。そんなことも分からないのかしら貴方は?」

「……だそうだよジン君、リーダーなんだからもっとちゃんとしようよ」

「えぇ!? 葵さ~ん」

 

 面接時に適当に名乗ったら一発アウトだもんな、まったくジン君はおこちゃまなんだから、社会人としてのマナーがゼロだよ皆無だよ。

 いたいけな少年がジト目で睨んでくる。心にきますね~マジごめん超ごめん。

 とまあそんな感じで前髪ぱっつんお嬢さまこと "久遠飛鳥" ちゃんに怒られたのだ。

 そしてもう一人女の子に挨拶したのだが……

 

「で、飛鳥ちゃんのお友達のキミの名前は?」

「……お友達?」

 

 やべぇ地雷踏んだかも、一緒に来たからてっきり友達かと思ってたのにそうでもない感じ?

 しかもなんか飛鳥ちゃんがめっちゃ『鋭い眼光も~やすぅ~♪』的な感じでこっち睨んでくるよ。

 なにあれ超怖いんですけど、こっちもやらかした感じ?

 思わず頭を抱えて項垂れるオレの耳に何やら人外の言葉が流れ込んでくる。

 

「にゃー」

「にゃー」

「にゃにゃーにゃー」

「にゃーにゃにゃー」

 

 ね、猫としゃべってるぅ――ッ!?

 

……え、ちょっとウソでしょ? ショートヘアの女の子猫に話しかけてるようにしか見えないよ。もしかして不思議ちゃん? それとも超能力者? これは確かめる他ない。

 

「わぁーあのお兄さん超カッコイイよー惚れるよー」

「ん……?」

「今その猫がキミに話してた内容、こんな感じじゃなかった?」

 

 小首を傾げてジッとオレの瞳を見つめるショートへアの女の子。

 一拍置いてから衝撃の一言がこぼれ落ちた。

 

「知らない方がいい」

「……ま、マジで?」

「うん。マジ」

 

 ちょっぴり傷つきしょんぼりする。心なしか猫の口元がニヤリと歪んだ気がしなくもない。

 地べたに木の枝で「の」の字を書きながら絶望するオレに代わって、何故かテンションの上がった飛鳥ちゃんが少女に詰め寄った。

 

「ちょ、ちょっと待って! 貴女猫の言葉が分かるの?」

「うん。生きてれば誰とでも話が出来る」

 

 淡々とした口調で告げられた驚くべき事実に飛鳥ちゃんの瞳が爛々と輝く。

 しゅごぉ~い、とか言い出しそうな雰囲気だ。雰囲気だけね。

 というか、このショートヘア美少女マジもんのエスパーさんかい。テレビ出たらガッポリ儲けられる感じですね。選り取り見取りの就職先が羨ましいです。

 あれ? さっきまでおどおどしてたジン君が得意げに何か言ってるよ。

 心強いギフト? 何それ? 食べられるの? ハム? ハムなの?

 

「ねぇジン君ギフトって何? 実はオレ、箱庭に来て間もないからよく分からないんだ」

「そうだったんですか!? すみません気付けなくて」

「いやいや別に気にすることないよ、オレが言ってなかったわけだし。で、ギフトについてだけど」

「はい。ギフトというのは」

「 "恩恵" のことよ。様々な修羅神仏、悪魔、精霊、星から与えられた力の総称」

 

 謎の単語 "ギフト" についてオレはジン君に尋ねた。

 リリちゃんたちには軽くしか教えてもらっていないので気になる気になる。

 そこでやっとオレがぺーぺーの初心者だと知ったジン君はすぐさま平謝り。

 色んな意味が込められてるんだろうな、と思ったのでとりあえず頭を撫でておいた。

 で、真面目顔のジン君に "ギフト" についてご教授して頂こうかなぁ、と思った矢先、飛鳥ちゃんが割り込んできたのだ。

 何故かこの子も凄く得意気な表情なんですが。

 

「この "箱庭" という世界で生きていくための常識よ、覚えておきなさい」

 

 フン、と小さく鼻を鳴らす飛鳥ちゃん。我儘お嬢様臭がプンプンする。

 へぇ~そうなんだ、と頷くオレに彼女は腰に手を当てさらに詳しい説明を始めた。

 

「ちなみにこの特殊な才能(ギフト)を持つ者だけが参加を許された競技を "ギフトゲーム" と呼ぶのよ。互いのギフトを用いて競い合い、勝者は主催者(ホスト)の提示した賞品を得ることができる。その中には金品・土地・利権・名誉・人間……そしてギフトといった多種多様なモノがあるわ。もちろん負ければルールに応じて何らかのペナルティが課せられるのは当然のこと」

 

 どう、理解した? と瞳で問いかけてくる少女にオレではなくショートヘアの彼女が答える。

 

「て、さっき黒ウサギに教えてもらった」

「ちょ、ちょっと春日部さん、それは」

「へぇ~そうでありますか、人に聞いたばかりのことを()も以前から知ってた風に披露して頂き誠にありがとうございました、飛鳥お嬢さま」

 

 オレの嫌味たっぷりの口撃に睨みで応戦する飛鳥ちゃん。

 腰の辺りで握られた左右の拳がプルプルと震えている。表情は所謂ぐぬぬ顔ってやつだ。

 勢い余って殴りかかってくるんじゃないかと思ったがどうやらそうでもないらしい。

 女の子みたいな名前で恥ずかしくないの? ぷーくすくす、という軽い挑発でぶちギレるオレとは大違いじゃないか、凄いぞ前髪ぱっつんお嬢さま。

 

「柊さん酷い。久遠さんがかわいそう」

「うぅ……確かに今の言い方は年上のお兄さんとしてはよろしくなかったね。申し訳ない飛鳥ちゃん」

「別に気にしていないわ、あの程度でいちいち怒っていたら生きていけないもの」

「お強いことで」

 

 生きていけないってどういう意味だよ? 物凄く詮索したい気分だけどそれよりも年下の女の子たちに頭の上がらない大学四年生って……ハハ。

 

「それと春日部さん」

「なに? 久遠さん?」

「それ。飛鳥でいいわ、私たちもう友達でしょ? 出会ったばかりなのに人のことを馴れ馴れしく "飛鳥ちゃん" なんて呼ぶ人もいるくらいだし。ねぇ "葵君"」

 

 怒ってます。何度目かの睨みを利かせた飛鳥ちゃんが滅茶苦茶怒っております。

 怖ッ!? 思わずジン君まで震えあがってるじゃないか、やめてあげて!

 

「……お友達」

「私ではご不満かしら?」

「そ、そんなことない。嬉しい」

「そう、良かったわ。これからよろしくね、春日部さん」

「うん。よろしく、飛鳥」

 

 色々あってオレとジン君は蚊帳の外行きになったのでしたー、まる。

 

 で、それから無事門を潜って箱庭デビューを果たしたオレたちはこの世界についてより詳しい話をするため、落ち着ける場所、手頃なカフェへと入ることにしたのだが、入店直後、何故かオレの席が盗られた。

 いやマジで、ホント自然な流れで盗られたんだ。怖いよ。箱庭って吸血鬼もいるんですよ、というジン君の話なんてどうでもいいくらいの衝撃だった。

 

 オレの座るはずだった椅子に腰かける男。二メートルを超える大柄な体躯にピチピチのタキシードを纏う彼は一体なにがしたいのだろうか、恐る恐る声をかける。

 

「あの、すみません。そこオレの席」

「おっと失礼、気付かなかったもので。どうぞこちらに」

「あ、どうも」

 

 え? 普通に譲ってくれちゃうの!?

 そこはお約束的な流れで「お前の席、ねぇから」ってぶん殴りたくなるような笑みで挑発しにくるんじゃないんですか!? 優しいな、おい。

 チンピラの成り下がりにしか見えないけどこの人って案外いい人なのかもしれない。

 

――そんな風に思っていた時期がオレにもありました。

 

 この野郎、隣の席から運んで来た椅子にどっしり腰掛けたと思えばジン君に喧嘩売り始めやがった、「コミュニティの旗と名前がないお前らが調子に乗んなや、いてもうたんぞ!」って。

 

「同席の許可を得ることもせず、あまつさえ名乗りもしないこの失礼極まりないピチピチタキシードは放っておくとして、コミュニティの旗と名がないとはどういうことかしらジン君、もちろん詳しく懇切丁寧に根掘り葉掘り説明してくださるわよね?」

「……じーっ」

 

 腕を組み口元を隠すように頬杖突く飛鳥ちゃん。威圧攻撃だ。

 隣の席の耀ちゃんも無表情ながらジン君を見つめ続ける。無言の抗議というやつか。いや、よく聞けば分かりやすく威嚇してるな。

 オレはリリちゃんたちからコミュニティ "ノーネーム" について、ある程度話を聞いていたのでそこまで驚きはしなかった。

 

「えっと、それはですね、なんといいますか、僕たちにも色々事情というものがありましてですね、だから、その……すみません」

「謝るなら猿でも出来るわよ、ジン君。私は別に貴方を責めている訳ではないの、ただ、これから仲間になって頂こうという人間に対して隠し事をするのはどうかと思うわ。ええ、それがコミュニティの尊厳に関わる様な大事な事なら尚更ではなくて」

 

 こ、怖ぇ~マジ怖ぇよ飛鳥お嬢様。もし仮にキミが面接官だったらオレ逃げ出してるよ。

 ジン君はこの世の終わりみたいな表情でまた犬かきしてるし、どうするんですかこの状況!?

 使いものにならなくなったジン君を尻目にピチピチさんが紳士的な笑みで飛鳥ちゃんに進言する。

 

「レディ、貴女の言う通りだ。未熟とはいえ彼もコミュニティの長、新たな同士に箱庭のル規則を教えるのは当然の義務です。しかし彼はそれをしたがらないでしょう。よろしければこの(わたくし)、"フォレ」

「うるさい黙れ、ピチピチタキシード」

「…………え?」

 

 素っ頓狂な声を上げ目を丸くするエセ紳士に飛鳥ちゃんは額に青筋を立てて捲し立てる。

 

「誰が貴方の発言を許したのかしら? これは私たちの問題よ、部外者は引っ込んでなさい。――と、言いたいところだけど彼はしばらく立ち直れそうもないわ。貴方、ジン君のコミュニティについてどこまで知ってるの?」

「そ、それはもう彼のコミュニティの置かれている状況から在籍するメンバーまでありとあらゆることを知っています」

「そう、それは良かった。ジン君の代わりに一つご教授お願いするわ。先程の無礼な態度はこれもって不問とさせて頂きます」

「承りました。ではまず、彼の……」

 

 ひょんなことから始まったジン君のコミュニティ "ノーネーム" について知ろうの講座。

 ピチピチさんの話をまとめるなるとこうだ。

 ジン君のコミュニティは数年前起きたとある事件に巻き込まれるまで東区画最強だったそうだ。

 先代のリーダーはギフトゲームにおける人類最高の記録を保持しており、各方面の有力者とも親交を持つほどの天才、破竹の勢いで勢力を伸ばし続けていた。

 しかし、何もかもが順調でこのままいけば箱庭の上層にも届きそうだった彼らを悲劇が襲う。

 

 "魔王"

 

 ギフトゲームが世界の理と云わん箱庭においてそれは "天災" として恐れられるそうだ。

 彼らは主催者権限(ホストマスター)を悪用する者たちを指し、主催者権限とは箱庭における特権階級の一つを指すらしい。

 この権限を持つ者から挑まれたゲームは例えどんな理由があったとしても断ることを許されない。

 ジン君たちが巻き込まれた事件というのはこの魔王によってもたらされたゲームだ。

 勝負を挑まれ、敗れた。一夜にしてコミュニティとして活動していくための全て(名前、旗印、地位、名誉、そして仲間)を奪われた彼らに残されたのは死に耐えた広大な土地とゲーム参加資格を持たない幼い百三十人の子供たちだけだった。

 

 この悲惨な状況を打破するために飛鳥ちゃんたち三人が新たな同士として招かれたと思われる。

 

 ちなみに黒ウサギさんは貴族らしい。コミュニティにいるだけで箔がつくんだとか。

 他にも彼女が何故ハレンチな格好をしているのか、頻繁にギフトゲームに出られない理由についても教えてもらった。

 

 どうでもいいけど黒ウサギさんの何をもって "黒" なのかちょっと気になる。

 髪の色黒くないし、さっきピンク色に変色してたし。まあ今度直接本人に聞くか。

 

 あ、それと、ピチピチさんは "烏合の衆" のガルド=ガスパーっていう人らしい。

 ごめん間違えた、 "フォレス・ガロ" だ。ジン君が口にしたのがまだ残ってたみたい。

 

 あとはここだけの話、ピチピチさんの講義が始まってから終わるまでずっとオレは逃げ出そうとしてました。

 いや~なんとなくここにいちゃまずい気がして仕方なしに逃亡を図ろうとしてたんですよ。

 そしたらエスパーさんにいきなり腕を掴まれて「柊さんは良い人。ありがとう」って言われちゃってね。

 なんでも飛鳥ちゃんと友達になれたのはオレのお陰だから礼を言いたかったらしい。狙い澄ましたかのようなタイミングに泣きそうになったよ……ぐすんっ。

 

 まあ、そんな感じでピチピチさんがジン君のコミュニティについて説明している間にオレとエスパーさんこと "春日部耀" ちゃんはお友達になりました。

 

 あれ? ちょっと待てよ。思ってた以上にオレの廚二世界入り組んでないか? 

 夢とはいえ看過出来ないぞこれ、魔王とかいう厄介な設定思いつくなよバカ。

 オレの夢なんだからオレ都合の良いようにすげぇ力とか出ないの? せいやああああッ!

 

「葵、大丈夫?」

「え? あ、ごめんごめん、ちょっと考え事しててね。大丈夫だよ、ハハ」

 

 湧き出る額の汗を片手で拭って誤魔化すオレに、耀ちゃんは「私、心配です」と言わんばかりの瞳でジッと見つめてくる。

 気のせいかさっきよりも腕を掴む手に力が籠っている。

 

「本当に大丈夫?」

「もちろん。耀ちゃんは優しいね、ありがとう」

 

 気遣ってくれたお礼に頭を撫でてあげようと思ったのが間違いでした。

 猫襲来。

 

「ぎゃああああ、目、目がああああああ」

「葵! 三毛猫ひっかいちゃダメだよ」

「にゃー」

 

 伸ばした手を伝ってやってきた悪魔。勢いそのままに必殺ダブル眼球猫パンチ。柊葵に致命傷になるダメージ。

 

「葵君、貴方人が真剣な話をしている時になに猫と遊んでるの? 死ぬ? 死にたいの? 死ね!」

「も、申し訳ないですごめんなさいすみません。すぐに回復すると思うからちょっと待って………………はい、おっけー」

「やっぱりふざけてるわよね?」

 

 肩をわなわなと振るわせながら睨みつけてくる飛鳥ちゃん。

 ヤバい、マジで殺されかも、と命の危険に晒されるオレを救ってくれたのはなんとピチピチさんだった。

 激昂寸前の彼女に「で、どうでしょうか、私たちのコミュニティに入りませんか? こんな死にかけのコミュニティよりもずっと楽しいですよ。黒ウサギとそちらの二人も含めてどうか」と空気の読めない問いかけをしてくれたのだ。

 

 えぇーっと、なんだっけ、確かピチピチさんのコミュニティ "フォレス・ガロ" はこの近辺のコミュニティを牛耳っていてバックには物凄く強いコミュニティが控えてるんだっけか。

 それと両者合意のもと行われる互いのコミュニティの旗印を賭けたギフトゲームに連戦連勝してるんですよーガハハ、とか言ってた気がする、うろ覚えだけど。

 

 まあ兎に角、助けてくれてありがとう、超ありがとう。マジであんた紳士だわ、疑ったりしてごめん。

 彼の問いかけに胸の内で礼の言葉を述べ続けるオレとは裏腹に飛鳥ちゃんは吐き捨てるように宣言する。

 

「結構よ。貴方の事は好きになれそうにないし、ジン君のところで間に合ってるもの。春日部さんとそこの阿呆は今の話どう思う?」

「阿呆? 耀ちゃん言われてるぞ、何か言い返してやれ」

「貴方よ、阿呆の葵君」

 

 蔑むような目でオレを見下す飛鳥ちゃん。

 やめよう、これ以上ふざけてたら何されるか分かったもんじゃない。

 

「あーオレか、まあそうだよね。――ってちょっと待てよ! オレはいつからジン君のコミュニテ……異論はないでありますお嬢様」

「よろしい」

 

 必死になってでも断る勇気を持とう日本人。

 

「春日部さんは?」

「私は……」

 

 チラリと一瞬だけこちらを伺うように目配せし、耀ちゃんは答える。

 

「友達と――葵と飛鳥と一緒がいい」

「そう、ならこれで決定ね」

「うん」

 

 耀ちゃんのチラ見の件については触れないでおこう、飛鳥ちゃんに殺される。

 とりあえずオレはリリちゃんたちと約束をしてるから一回ジン君のコミュニティに行かないといけないんだよね。

 その後の事とか何も考えてなかったし、可愛い子がいっぱいいるから "ノーネーム" 所属でいいか。とまあその前に朝が来てこの夢終わりそうだけどね。

 

「ちょっと待ってください。理由を」

「「あなたが嫌い」」

「――ッ!!」

 

 容赦ねぇなおい、ピチピチさん全身震えてるぞ、ヤバいんじゃないか?

 二人で被せ気味に言わなくてもいいのに、かわいそうだろ。

 

「お言葉ですがレディたち、しっかりと考え」

()()()()()

「……ッ!?…………!?」

 

――え、どういうこと? なんで急にピチピチさん大人しくなったの? 

 おかしいだろこれ。いきなり "ガチンッ!" って勢いよく口を閉じたっきり何も言わなくなったぞ。ジン君や耀ちゃんも目をパチクリさせてるし、一体なんなの!?

 困惑するオレたちを他所に飛鳥ちゃんはその身に宿るであろう特殊な恩恵を発動させる。

 

「足掻いても無駄よ、このエセ虎紳士。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 しゃ、シャレになんねぇ。まさかの飛鳥ちゃん "お嬢様" じゃなくて "女王様" だったんだですけど、ピチピチさんが操り人形なんですけど。

 

 オレの妄想廚二力爆発しております。

 

 多分あれだ、飛鳥ちゃんのは言霊を具現化する恩恵(ギフト)だ。

 ハッ、私の命令は絶対よ具民ども! ってな感じで元女王様に違いない。

 耀ちゃんの生命が宿りしものならば誰とでも話せるなんたらこにゃくみたいなギフトとはまた違った良さがありそうだ。

 

「……連れ去ったガキ? 俺様はギャーギャー喚くガキが嫌いなんでね、全員殺して腹心の部下に食わせて」

()()

 

 告げられし真実に怒りを隠すこともせず、エセ紳士ガルド=ガスパーを飛鳥ちゃんは睨みつける。

 

 ピチピチさんのコミュニティ "フォレス・ガロ" は互いの命とも言える旗印を賭けた戦いに連戦連勝し続けている。

 しかし、それには裏があった。

 まず、対戦相手のコミュニティから女性や子供を攫い、ゲームに乗らざる負えない状況に追い込む。そうして、無理やり参加させておいて人質を盾に勝利を得るのだ。その後は傘下に下ったコミュニティから数人ずつ子どもを人質に取り、命令に従わせてきたそうだ。

 彼の発言が本当ならば、子どもたちの命はもうこの世にはない。

 

……お、重すぎる。なんて重たい話なんだ。夢にしてはリアリティがありすぎる。

 

「私の世界にも貴方と同じような人間たちがいたわ、私利私欲のために弱き者たちを虐げる屑どもがッ!!」

 

 より一層凄味を増した飛鳥ちゃんの言葉に応じてピチピチさんの、ガルドの口からおびただしいほどの血が流れてゆく。

 だがそんなものは微々たるものでしかない、今までコイツらの手によって流されてきたものに比べれば。

 

 後悔してももう遅い。冷たき視線に晒されたガルドは本能的に感じ取ったはずだ、決して彼女を怒らせてはいけなかった、と。

 今の飛鳥ちゃんにはこの愚かな(けだもの)を裁く恩恵(ちから)がある。

 彼女が "死ね" と口にすればそれは直ちに現実のものとなり、ヤツの全てを無に帰するだろう。

 だが "久遠飛鳥" という少女の頭にはその選択はなかったようだ。

 

「こんな屑が簡単に死んでいいはずがないわ、地べたを這いつくばりながら存在するはずもない神に許しを請い、苦しんで苦しんで苦しみ倒して己の罪を後悔しながら死ぬべきよ、そうでしょジン君?」

 

 実はオレの妄想廚二力が生み出したこの世界には女神さまがいるんだよ、てへっ♪ なんて言えるわけがない、流石のオレも空気を読む。

 飛鳥ちゃんの凍てつくような瞳にジン君はビクリッと肩を震わせながら肯定する。

 

「はい。その通りだと思います。彼は許しがたき大罪を犯してしまった。だからこそ、その報いは受けなければなりません」

「悪くない答えね。貴方はまだ幼い子供だけれど、しっかりと分別を弁えているわ。将来が楽しみよ、リーダー」

 

 優しげな笑みを向けられ、ジン君の頬が赤く染まる。両手で口元を隠すように覆う彼の表情は言うまでもないだろう。

 俯き小さくなるジン君に飛鳥ちゃんが問う。

 

「箱庭にこの外道を裁くことの出来る法はあるのかしら?」

「あるにはあります。ですが、ガルドが箱庭の外に逃げてしまえば手遅れに」

「そう。なら仕方がないわ」

 

 パチンッ、と飛鳥ちゃんが指を鳴らす。と同時にガルドを縛り付けていたものは消え去り、ヤツの体に自由が戻る。

 次の瞬間、ガルドはその姿を人外の者へと変えた。黄色と黒のストライプ模様―― "虎" だ。

 

「小娘如きが調子に乗るなァァァァァッ!!」

 

 怒りの雄たけびを上げ、飛鳥ちゃんを捕らえようとするガルド。

 丸太のように太い腕を彼女目がけて振り下ろす。

 

「友達に怪我をさせたら本気で怒る」

 

 だが、それよりも早くオレの隣にいたはずの耀ちゃんがヤツを取り押さえていた。

 

「離しやがれクソガキッ! てめぇオレの上に誰がいるのか分かってんだろうなァ!! 箱庭六六六外門を守る魔王がぎゃああああああああ」

「あ、ごめなさい、もうケモノ萌え間に合ってますから」

 

 性懲りもなく暴れようとするガルドにオレみたいな一般人でも出来る嫌がらせは何か?

 答えは簡単、天敵を見せてやればいいのだ。所詮コイツは獣、大自然を駆けるしか脳のない虎ちゃんなのだ。

 そう考えたオレはジャケットの内側からあれを取り出し()()した。

 

「どうだ怖いか? これはライターっていう手頃に火を起こせる文明の利器だ。ほれほれ~」

「ぎゃああああああああッ!!」

 

 耀ちゃんに抑えられながらもがき苦しむガルド。

 もういい、沢山だ。夢とかそんなものは関係ない、時間の許す限りこの下衆の極みを痛ぶり続けなければ目覚めが悪くなる。だから燃え散れ、ファイア!

 

「あら葵君、随分と便利なものを持っているのね。私にもそれ貸して頂けないかしら?」

「もちろん。偶然もう三本あるから一本飛鳥ちゃんにプレゼントするよ」

「流石葵君、気が利くわね。ありがとう」

「ぎゃああああああああッ!!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。