リクルートファイター葵くん   作:まひる

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加筆修正なし。


エピローグ -始まりの終わり-

「やっほ~おいちゃん、女神さまなんだよ」

 

 未知との遭遇はいつも突然だった。

 ルシアのびしょーじょ系●学生にしか見えない容姿の持ち主、元祖銀髪ロリこと女神さまがオレの顔を上から覆いかぶさるように覗きこんでいらっしゃる。

 よく分からないのでとりあえず二、三度目をパチクリさせ驚きを表現してみるが相手にはまったく伝わらない。それどころか「お~い、生きてるか~い?」と頬をペチペチ叩かれる始末だ。地味に痛い。

 無意識的に少女の手を払いのけようとした瞬間、少女の左耳の上辺りに結わえられた黒いリボンが鼻先をかすめる。

 ほんのり香るいい匂いからすると、こいつはどうやら夢ではないらしい。

 感覚もしっかりしている。つまりは前回のように死にかけた、というわけではなさそうだ。

 おかしいな、ならどうしてオレはまた――

 

「ここに呼ばれたんだろう? っていう顔だね、おいちゃん」

「人の心を勝手に読まないでください。通報しますよ?」

「う~ん、それは非常に困るんだよ、だからごめんね。まあ、さっきのは心なんて読まなくても顔に書いてあったんだけどね~」

 

 えへへ~、と嬉しそうに笑う少女は相変わらず滅茶苦茶だ。

 女神さまに不可能なんてないんだよ~、と言われても「ですよね~」と頷かざる負えない。

 そういえばここはどこだろうか? 念のために周りを確認しておこう。

 腹筋の力を使って上半身を起こし、ゆっくりと瞳で部屋中を物色する。

 

 旧世代型のブラウン管テレビや一昔前の家庭用ゲーム機器、及びソフト諸々、あとはベッドにテーブル、冷蔵庫、と生活に必要そうな物は大抵揃っている。広さは、十畳以上はありそうだな。そして、オレが眠っていたのは床の上と。

 

 うん。特に変わった様子はない。強いて言うなら前回と同じ位置で目が覚めたことに少しビビった。

 玄関から元いた場所、つまり箱庭の世界へと帰れる仕様もきっと変わっていないだろう、女神さまは物臭だし。

 ということでこの生活感溢れる一室は間違いなく女神さまのお部屋に違いない。

 

「で、今回はどうしたんですか? また有給休暇でも満喫します? 前回の借りも返したいですし、お付き合いしますよ」

 

 オレがこの部屋に訪れるのは二度目の事である。

 一度目はピチピチさんことガルド=ガスパーに腹を貫かれて死にかけた時だ。

 あの時は皆大好き、金鉄(金太郎電鉄)でクイーンミンヒーの擦り付け合いをしてかなり盛り上がったな。結果オレが負けてしまったので今回はそのリベンジをしたい。

 

 まあ、細かいをことを気にしてもしょうがない、だって女神さまだもの、と自分を納得させ、早速ゲームのセッティングに取りかかろうとするオレに彼女は「まあ、それは後のお楽しみなんだよ。今はこっちで大事なお話をしよう」とテーブルの方へと促す。

 

 呼びだした本人が乗り気でないのなら仕方がない。部屋の隅に積まれていた座布団を一つ取り、その上に正座をする。大事な話という単語が小心者のオレをそうさせた。

 ではどうぞ、と瞳で訴えかけると女神さまは少女らしい可愛げな表情から大人の女性を思わせる真面目な顔つきになりオレに問いかけた。

 

「単刀直入に聞くけど、いつから気付いてたの?」

「……何にですか?」

「そういうこと言っちゃうんだ、分かってるくせに。キミの見ている世界が――――夢じゃないってことなんだよ」

 

 ドクン、と心臓が大きく高鳴る。瞳から得られる情報がこれ程までに当てにならないとは、ゴクリと一つ大きく喉を鳴らし瞳を伏せる。

 あれれ、おかしいな、幼女相手に手が震えちゃってますよ、アハハ、と胸の内で自分自身を茶化してみるが全然笑えない。

 何もかもが唐突すぎて上手く思考することが出来ないオレにも一つだけ分かることがあった。

 次元が違う。偽りの言葉を口にすれば "消される" 、本能がそう訴えかけてきたのだ。

 見た目では計り知れない圧倒的力の差。

 

 "白ちゃんが赤ん坊に見えちゃうくらいは大人なんだよ"

 

 あの時の何気ない言葉の意味をようやく理解した。

 年齢的なことを言っていたのではない、強さそのものの話だったんだ。

 カチリ、カチリ、と時を刻む音だけが部屋を支配する。

 対峙する絶対的存在――――女神にオレは震えることしか出来ない。

 

「おいちゃん、ビビりすぎなんだよ。ワタシは別にキミをどうこうするつもりはないんだよ? ホントだよ」

「だといいんですけどね」

「むぅ……女神さま、ウソツカナイ」

「なんで片言なんですか、余計怪しいですよ」

「アハハ、スペシャル女神さまジョーク、いぇーい♪」

 

 気を遣ってくれたのか、女神さまはいつも通りの少女らしい笑みでオレのことを笑う。

 楽しげな表情の裏にはきっと何か黒いものがある。だが、今は彼女を信じるとしよう。

 張っていた肩の力を抜き、あぐらをかく。腋の下に違和感を感じるが今はどうでもいい。

 

「それじゃあ質問に戻りたいと思うんだよ。嘘はメッだからね」

「分かってます。まだ死にたくないですからね」

「うん。それはいい兆候だよ。で、いつから気付いてたの?」

「そうですね……夢じゃないと "認識" したのは前回ここに来たときです」

「おぉ、意外と早かったんだね。驚くべき真相にワタシは顎が外れそうなんだよ」

 

 とか言ってみる、と両手で頬を杖を付きながらニコニコと笑う女神さま。

 テーブルの上のオレンジジュースをストローごしにちゅるちゅるゴクゴクやっている。

 

「んでんで、まだ終わりじゃないんだよね?」

「えぇ、もちろんです。明確に自分の置かれている状況を "受け止めた" のがペルセウスとの戦いの後ぐらいですかね」

「ふ~ん、つまり短い間だけどこの前ワタシと会った時からにょろにょろちゃんをゲットするまでは現実逃避してたんだ」

 

 にょろにょろちゃんとは恐らくアルのことだろう。確かに蛇神三(みかみさん)の動きを見ていれば納得できる愛称だ。蛇のようによく動く彼、あるいは彼女はにょろにょろに違いない。

 彼女の言葉に小さく頷きで返す。

 現実逃避と言われてしまえば返す言葉もないのだが改めて考えてみると頭がおかしくなっても不思議じゃない気がする、なにせ異世界に来ているわけなのだから。

 それこそアニメや漫画みたいな人々に出会ったわけですしね、十六夜君とか黒ウサギさんとか。

 ん? ちょっと待てよ。冷静に考えてみれば恐ろしいな、十六夜君はさておき、黒ウサギさんとか人間じゃないし、半獣人だし。

 ノーマルな思考の持ち主なら間違いなく夢だと思いませんかね、耀ちゃんたちには手紙が届いたそうだけど、柊さんは『ロリは突然に』状態だったわけですしお寿司。

 我ながらオレって心底一般人思考だったんだな、夢の中だからちょっとはしゃいでもいいですよね? ね? とか思っていた自分が恥ずかしい。

 しかも、それを女神さまにずっと見られていたと思うと溜息で地球温暖化に貢献出来そうくらいだ。

 一人憂鬱な気分に陥るオレとは対照的に女神さまは子どものように瞳を輝かせている。

 早く続きを聞かせて欲しんだよ、と言わんばかりの視線に自ずと言葉がこぼれ落ちる。

 

「もっと詳しく言えば違和感自体は最初からあったんですけどね、痛みとか妙にリアルでしたし」

「もふもふちゃんと出会った時だね? あの時はぴゅ~ぴゅ~騒いでるもふもふちゃんに大笑いしたよ」

 

 当時のことを思い出したのか、きゃははは、とはしゃぐ女神さま。ただのロリにしか見えないのが怖いところである。お持ち帰りは全力でやめておこう。

 改まって色々思い返してみれば、最初から無意識的に現実逃避してたってわけか。

 楽しいことばかり考えて辛い現実から目を逸らす、一種の防衛本能的な何かが働いたのかもしれない。だからこそ、無駄にハイテンションに騒いでたんだ。うん、きっとそうに違いない。

 

「いやいや、あの頃のおいちゃんは今よりもずっと楽しそうだったよ。もふもふ~とか騒いでたしね」

「あー聞こえない、聞こえない」

「こうしておいちゃんは再び現実から目を背けるのだった、まる」

「変なナレーションつけるのやめていただけませんかーッ!?」

「ナイスリアクションなんだよ、いぇ~い」

 

 右手の親指をサムズアップさせて白い歯をニカッ、と煌めかせる女神さま。

 どうにも手のひらで転がされてる感が拭いきれない。オレは玩具ではありませんよ。いや、マジで。

 なんだか少し疲れたので冷蔵庫から勝手にドリンクを取り出し、口をつける。

 ついでに女神さまのコップが空になっていたのでオレンジジュースを補充しておくことにしよう。

 

「気が利くね、ありがとうなんだよ」

「いえいえ、こっちも勝手に頂いてますし。で、他には何か聞きたいことってありますか?」

「聞きたいことか、そりゃいっぱいあるよ、おいちゃんが誰とズッコンバッ」

「拒否! その質問は全力で拒否させて頂きますッ!」

「あはは、前にもこんなことがあったね。最終的に誰を選ぶのか見ものなんだよ」

「女神さま視点だとオレの人生はギャルゲーなんですね。嬉しいような悲しいような」

 

 ぐすん、と涙が止まりません。

 実はこの部屋にある旧世代型のブラウン管テレビはかなりハイテクだったりする。様々な世界の出来事をボタン一つで映し出すことができるのだ。紛れもなく彼女は女神さまと言っていいだろう、見た目はロリだけど。

 女神さまはこの謎機能を使って色々と仕事をしているそうだが詳しいことは分からない。まあ、その辺は教えてくれそうにないからどうでもいいけど。

 っと、プライバシーがどうのこうの考えているとあることを思い出した。オレと彼女の関係が始まったゲ―ムについてだ。

 悩むよりも先に声をかける。

 

「そういえば、ゲームの進行状況ってどうなってるんですか? あれです、女神さまが最初に持ちかけてきた『ワタシに面白可笑しい映像をお届する』とかいうゲームです」

「あぁそうだった、それそれ。実は今回あおいちゃんをここに呼んだのもあれの結果を伝えるためなんだよ」

「…………え?」

 

 結果を伝える。つまりはいつの間にか勝者が決まっていたということだろうか。

 そもそもオレが箱庭に来ることになったきっかけがこの女神さまと始めたギフトゲーム的な何かである。

 正確にはよく分かっていない。何故ならば、ゲーム名、勝敗北条件を知らないからだ。

 分かっているのは女神さまに面白可笑しい映像をお届けすればいいらしい、ということだけだ。

 方法は盗撮されているので普通に暮らしていればいい、というなんともアバウトな仕様だったりする。

 あの頃は完全に夢だと思い込んでたからノリでサインしちゃったんだよな。

 今思えばあの選択がなければオレは皆に出会うことは出来なかったんだ、感謝こそすれ、恨みなんて全くない。

 ありがとうございます、と胸の内で頭を下げるオレ目がけ女神さまはパーティ用のクラッカーを鳴らした。

 

「おめでとう、おいちゃん。どんどんぱふぱふ、なんだよ~♪」

「あ、どうも、ありがとうございます。って何がですか?」

「それはね、おいちゃんがワタシとのゲームに勝利したからなんだよ」

「…………え?」

「いや~楽しかったな~、今まで色んな面白可笑しい映像をお届けしてくれて凄く楽しかったよ。女神さまもう大満足。約束通り、おいちゃんの好きな企業に就職させてあげるよ。なんだったら、一生遊んで暮らせる自宅警備員にだってしてあげちゃうんだから」

 

 トス、とその小さな拳で女神さまは胸を叩く。ワタシに任せておくんだよ、ということだろう。

 そういえばそうだった。ゲームに勝てば好きな企業に就職させてくれると彼女は約束してくれたっけ。記憶もある、すっかり忘れてたけど。

 つまり、オレにとって箱庭での生活は就職活動と同じだったのか、笑いがこみあげてくる。

 

「嬉しそうだね。どこにする? やっぱりここは安定の自宅警備員? それとも冒険者? 勇者?」

「冒険者や勇者って企業じゃなくて職業じゃないですか」

「あはは、細かいことはいいだよ。おいちゃんが望めば出血大サービスで普段なら三つところを五つまで特典をつけてあげるよ」

「なんですかそれ、急に女神さまみたいなこと言わないでくださいよ。って女神さまでしたね」

「そんなボケは必要ないんだよ。さあさあ、どこに就職するの?」

 

 瞳を爛々と輝かせながら詰め寄ってくる女神さま。やっぱり可愛い。

 夢のような話にオレは浮足立たない。確かにあの頃、最終面接十七戦全敗していた頃なら狂ったように飛び跳ねていただろう、やったぜ! ここからはずっとオレのターンだ! とかね。

 本当に望めば勇者でも、魔王にでもしてくれそうだけど生憎とオレの永久就職先は既に決まっている。もう見つけてしまったんだ。今更一抜けなんてしたら何を言われるか分かったもんじゃない。

 だからこそオレは戻らなければならない、みんなの待つあの場所へ。

 弱くて無能だったオレを拾ってくれた恩を返すために、ヒトとして成すべきことを示してくれた彼らのために、慕ってくれる彼女たちのもとに、オレは帰る。

 

「すみません、女神さま。どうやらオレの就職先、名前がないみたいです」

「おぉ、やっぱりそうするんだね。期待を裏切らないおいちゃんのことがワタシは大好きなんだよ。お帰りはあちらの扉になっておりまーす」

「またオレを試したんですか、この性悪女神さまめ」

「その言い草は酷いんだよ~。またいつか呼ぶと思うからその時はレッツ・金鉄なんだよ」

「ハハ、今度は負けませんからね。ではまた」

「バイバイなんだよ~」

 

 こうしてオレの辛く厳しいリクルート生活は幕を閉じた。

 もといた世界に帰りたくないのかと聞かれれば、そりゃ帰りたい。

 箱庭での生活は楽しいことばかりじゃなくて、自分、柊葵という人間の力や才能の無さを痛感させられることばかりだ。正直コミュニティの役に立っているのかも怪しい。

 でも、それでもオレが必要とされているという自覚はある。

 

 だからこそ、オレの就職先は――――名無しの旗無し "ノーネーム" しかないんだ。

 

 とか格好良く言ってみたけど、どう考えてもブラック企業じゃねぇか!

 

 

◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 葵の去っていった扉をテーブル越しに満足そうに見つめる女神。

 視線をベッドの方に移すと()が腰かけていた。

 

「やっほー、ちょうど今帰って行ったところなんだよ。これでやっと第二章のプロローグが終わった、そんな感じかな?」

「第二章のプロローグ、か。ちなみに第一章は?」

「敢えて聞くとはキミは超ド級のマゾヒストなんだよ。もちろんキミがコミュニティを立ちあげて、倒されちゃったところまでが第一章なんだよ。あれにはビックリさせられたよ。まあこうして、生きてるからいいけどね」

 

 ぺしぺし、と嫌味のように胸を叩く女神を適当にあしらい彼は言葉を紡ぐ。

 

「柊葵と彼の持つ恩恵(ギフト)には期待できそうだ。彼女とも上手くやっていけるだろう。ここまでは満点、いや、百二十点」

「おぉ、流石おいちゃん、ロリっ娘マイスターの肩書は伊達じゃないんだよ。でも、本当に厳しいのはこれからなんだよね?」

「あぁ、彼はこれから多くの困難に出会うことになる。到底敵うはずのない敵にも遭遇するだろう。自分の弱さに再び苦悩する時もきっと来る。だが、彼には仲間がいる。共に支え合える仲間が」

 

 彼は一瞬だけ遠い目をした、何かを懐かしむように、楽しかった日々を噛みしめるように。そして、笑った。

 

「第二章のタイトルは差し詰め『新たなる希望』」

「じゃあ第三章はどうなるのかな?」

「そうだな、『邂逅』なんてのはどうだろうか」

「なんだいそれ、凄く面白そうなんだよ! あはは、やっぱりキミも変わってるね」

「彼ほどではないさ。俺はあんなにモテないよ」

「またまた~、伝説の一級フラグ建築士の名が泣くよ」

「なんて不名誉な称号なんだ。まあいい、何れ彼と話す機会も来るだろう。その時は三人で金鉄、なんてのも悪くない」

「おぉーなんだよー!」

 

 葵の知らぬところで物語は動きだしていた。

 




リクルートファイター葵くん 第一部完

ここまで読んで頂きありがとうございました。
約一年もかかってしまいましたが色々と学ばせて頂き本当に感謝しております。

今後の展開については活動報告を上げますのでそちらを参照ください。

それでは失礼します。
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