リクルートファイター葵くん   作:まひる

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若干シリアス成分強めなお話。


第04話 『黙れ厨二病のくせいにッ!!』

◆ ◇ ◆ ◇

 

(女神さまへの定期連絡欄。あとから更新予定)

 

◆ ◇ ◆ ◇

 

 

 現在、(わたくし)柊葵は四方をちびっこたちに囲まれております。その数なんと驚異の百人越――百二十人です。

 場所は "ノーネーム" 本拠地内に建つ立派なお屋敷、の横に建つ別館大広間。

 意外とこちらも豪華な造りになっております。外観からはお化け屋敷のようにボロくみすぼらしいものに思えましたが住めばエデンですよ。いぇーい。

 本当にここがあれと同じ場所に建つ建物なのか、と疑うことしかできませんね。

 

 ヤ―さん(白夜叉)にギフト鑑定を行ってもらった後、ちびっこたちとの約束を果たすため、オレは黒ウサギさんについて行くことにした。まあ、ぶっちゃけそれしか選択肢は用意されてなかったんだけど。

 というか耀ちゃんの無言の圧力と飛鳥ちゃんの冷え切った視線という最強コンボを決められては勝てるわけがありません。お前逃げられると思うなよ、あぁ? まさにこれ。

 んで、耀ちゃんに腕をガッツリホールドされながら飛鳥ちゃんに背中を取られ、ヤハハと笑う十六夜君と苦笑気味の黒ウサギさんと共に帰宅したわけだ。もちろん三毛猫さんはオレの頭にかぶりついた状態で。

 この猫野郎いつか仕返ししてやるからな。永遠犬かきの刑に処してやるぜ。

 

――そしてその先で、あの恐ろしい爪痕を目にした。

 

「この風化しきった街並みが三年前だと? ハッ、そいつはいい、最高だよ魔王様、俺を楽しませてくれそうじゃないか」

 

 自ら問うた疑問に対しての返答それを耳にし、十六夜君は獰猛な笑みを浮かべる。

 視界いっぱいに散らばる家屋だったものは全て朽ち果て、まるで何百年もの時間を経て滅んだかのような錯覚を与えられる。さらに、土地は死に、木々は枯れ、水は腐っている。

 ヤ―さんがいくつもゲーム盤を持つ理由がようやく理解できた。これは洒落にならない。

 足許に転がる人形を手に持ち彼は呟く。

 

「良かったじゃねぇか、一歩間違えればお前もこうなってたかもしれないんだからな。それとも過去を悔やみ懺悔し続ける日々よりも『死』という楽な道を選びたかったか?」

 

 ドサリ、と彼の手から滑り落ちたそれには首から上がない。

 十六夜君は何を思ったのか顔を青くする黒ウサギさんを一瞥し、足許に横たわるそれに止めを刺した。じわじわりと靴の踵で踏み潰す。手足をもがれた肉塊に逃げ場などない。砂利混ざりの綿が散乱し彼の靴を犯していく。

 

「どうせやるならこれくらいはやれよな、見せしめにしてはやり方がせこすぎんだよ」

 

 吐き捨てるように言う軽薄な男にトレードマークのウサ耳を逆立て怒りを露わにする黒ウサギさん。青みがかった黒髪が緋色に変色していく。

 しかし、何かを言い返すために口を開くことは許されなかった。十六夜君は神格を保持する蛇神をあっさりと倒すほどの実力の持ち主。機嫌を損ね、コミュニティを脱退されて困るのは彼女たちの方だ。

 

 いや、それだけではない。

 

 逆廻十六夜が本気なれば今の "ノーネーム" を塵にするなど造作もない。そんな風に彼女は思ったのではないだろうか。故に肩を震わせるだけに留まった。

 俯き拳を握りしめてジッと耐える黒ウサギさんを挑発するように彼は紡ぎ続ける。

 

「流石の魔王様もこんなクソみてぇな土地はお断りだとよ。やっぱお前考え直した方がいいぜ、せっかく箱庭の貴族とかいう偉そうな称号を持ってんだ、 "ノーネーム" のガキや帰ってくるはずもない元・お仲間さんは放っておいて白夜叉のところでにも」

()()()()()()()()()ッ!!」

 

 怒声が飛ぶ。振り向くと額に青筋を立てた飛鳥ちゃんが立っていた。あまりにも酷過ぎる十六夜君の言動に堪忍袋の緒が切れたのだろう。

 命令するような口調から恐らくガルドの時に使ったギフト "威光" を発動させたに違いない。これで十六夜君の自由は奪われた。

 しかし――

 

「おいおいお嬢様、ここからがいいところだってのになに邪魔してくれてんだよ。これだから高飛車なお嬢様は勘弁願いたいぜ。空気も読めないようじゃ立派なレディにはなれないぞ」

 

 ヤハハ、と先程までの軽薄な笑みが嘘のように楽しげな笑い声を上げる十六夜君。

 小馬鹿にしたような瞳に飛鳥ちゃんの頬が見る見るうちに赤く染め上げられていく。

 

「ど、どうして私のギフトが通用しないのッ!?」

「そりゃもちろん、俺の方が強いからに決まってんだろう。お嬢様のギフトは確か相手に土下座を強要してその黒ウサギに負けず劣らずの美脚で踏みつける卑猥な才の」

()()ッ!!」

「だから何度も同じことを言わせるなって、俺の方が強いんだからギフトが効かねぇのは当然だろう。無駄なことは止めて話を最後まで聞け、傲慢お嬢様」

「うぅ……」

 

 悔しそうに肩を震わせながら十六夜君を睨み続ける飛鳥ちゃん。完全に弄ばれていた。

 え? ちょっとなんでオレのこと見てるの!? ま、まさか――ぎゃあああああああ。

 

「どうやら十六夜君の言葉が正しかったようね。癪だけど貴方の方が強いことを理解出来たわ、今は」

「ハッ、勘違いするなよ、これからもだぜ、お嬢様」

 

 バチバチ、と互いに視線で火花を散らす二人の様子をオレは地べたに這いつくばりながら眺めていた。

 どうでもいいから早くギフトを解除しろやこらああああッ!!

 

「あら、ごめんなさい葵君、存在感がなさすぎて忘れてたわ」

「気にするなよ、お嬢様、こいつは自分のギフトの名も分からねぇモブなんだからよ」

「それもそうね。葵君はその辺の市民Aと代わらない気がするわ」

「オレの古傷を抉るな暴君コンビ! それと十六夜君! キミも一応 "正体不明(コード・アンノウン)" って表記されてたよね!?」

「ハッ、これだから程度の知れたモブは。俺ぐらいの大物になると才能がデカすぎてカード側が受付られないんだよ」

 

 黙れ厨二病のくせいにッ!!

 

 悔しいので心の中で罵声を浴びせる。この滾る思いを具現化させることは敵わない。だって殴られるのヤだし、痛いのヤだし。

 オレに罵声を浴びせるというなんとも許しがたない仕打ちで結託した二人の間からわだかまりが消えていく。これでいいわけないけど話がややこしくなるので黙っておこう。

 溜まりに溜まった鬱憤を吐き出し満足したのだろう、飛鳥ちゃんが問う。

 

「それで、どうして十六夜君は黒ウサギにあんな酷いことを言ったのかしら?」

 

 ビクッ、と一人静観を決め込んでいた黒ウサギさんの肩が震える。いつの間にやら髪の色が元に戻っていた。

 

「たいしたことじゃねぇよ、ちょっとばかし黒ウサギの覚悟を試させてもらっただけだ」

「どういうこと?」

「なんだ、分からないのか? 案外お嬢様も察しが悪いんだな。そんなんじゃ立派なレディに」

「十六夜君、過去のことを持ちだしてうだうだ言ってるようじゃ立派な紳士にはなれなくてよ。いいから続けないさい」

 

 ぱっつん前髪が風に揺られ、案の定、額には青筋さんの姿が。

 一つ溜息を零し、十六夜君は説明し始めた。

 

「これから仲間になるオレたちにこいつらがなにをさせる気かは知ってるよな?」

「ええ、もちろん。魔王を倒して名と旗を取り戻し、コミュニティを復興、再建させるのでしょう。それがどうしたというの?」

「よく考えれば分かる、オレたちの相手するヤツらががどういったやつらか」

 

 視線で促すように飛鳥ちゃんに示す十六夜君。そこには朽ち果てた家屋の姿があった。他にも周りには広大な死に絶えた土地が広がっている。

 自分たちのいる場所がどういったところなのか再度認識した飛鳥ちゃんは「なるほど」と小さく笑みを零す。

 

「つまり、お前たちは俺たちに死ねと命令することが出来るか、こんな感じかしら?」

「正解だ。まあ、死ぬつもりなんてさらさらねぇんだけどな」

 

 ヤハハ、と楽しげに笑う十六夜君につられて「まったくこのバカは」と苦笑する飛鳥ちゃん。

 

「他にもやり方なんていくらでもあったでしょうにどうしてこうも面倒なのを選ぶのかしら貴方は」

「最初にも言ったと思うが俺は快楽主義者なもんでね、やる前から弱腰のヤツの命令になんて従えるかよ。もし仮に俺の言動、行動によって黒ウサギが適当なことほざきやがったら即刻コミュニティを潰してやるつもりだったんだが、どこかの空気の読めないお嬢様のせいで失敗だ。クソが」

「それはごめんなさいね。お詫びに黒ウサギの生足に頬を擦りつける権利を進呈するわ」

「ハッ、なんだよそれ、ふざけてんのかお嬢様、超いいじゃねぇかこの野郎」

 

 ダメだコイツら、同じ匂いがする。

 逃げて! 早く逃げないと貞操が奪われますよ黒ウサギさーんッ!!

 

「…………」

 

 オレの心からの叫びも虚しく目をパチクリさせながら立ち尽くす黒ウサギさん。

 どうやら思考が現実に追いついていないらしい。とりあえず呼び戻してあげよう

 

「ていっ」

「ふぎゃっ!? な、何をするんですか葵さん!?」

「ぼーっとしてたら食べられちゃいますよ」

「た、食べられるって誰に――ひにゃあああ、な、ななな、何をしてらっしゃるんですか十六夜さん!?」

「見て分からないのか、お前の肉付きのいい美脚に頬を擦りつけようとしているんだぜ、黒ウサギ」

「なにを言ってるんですかこのお馬鹿様ーッ!!」

 

 バチィィィィンッ、と炸裂する必殺のハリセン。

 十六夜君はそれを適当にあしらい「で、どうなんだ?」と答えを促す。

 もちろん半分上の空状態だった黒ウサギさんはなんのことか分からず小首を傾げる。

 

「お前は俺たちに死ねと言えるのか?」

「な、何を仰いますか藪から棒に! 黒ウサギはもう二度と大切な仲間を、家族を失いたくありません。ですからこの命に代えても皆さんをお守りします……ど、どうして笑ってらっしゃるんですか? 葵さんまで」

 

 あわわ、と忙しなくウサ耳をバタつかせながら交互にオレたちの顔を見る黒ウサギさん。

 可愛らしく愛嬌たっぷりな姿に飛鳥ちゃんが思わず口元を押さえる。

 

「と、いうことらしいわよ、十六夜君。どうするの? コミュニティを潰す? もしそうなら悪いけど全力で貴方を止めさせていただくわ。もちろん葵くんも一緒に手伝ってくれるわよね?」

「それはもちろん構わないけど、拒否権なんて最初から用意されてないでしょうが、オレは従順なペットじゃないよ」

「それもそうね。確か貴方は」

「市民Aでもないからね」

「なら庶民Bね」

「ほとんど同義じゃないですか、やだー」

 

 もとのフォルムが綺麗な分、飛鳥ちゃんが笑うと様になりすぎて困る。女帝にしか見えないよ、お嬢様。

 涙目で項垂れるオレを無視して十六夜君は不敵な笑みを浮かべる。求めていた答えとは違う結果になってしまったけど黒ウサギさんの言葉に満足しているに違いない。

 

「ちょうどいい、家族ならひと揉みさせろ。それで許してやる」

「なにがちょうどいいんですかーッ!? 貴方は底抜けのお馬鹿です。二百年守り続けてきた黒ウサギの貞操に傷をつける気ですか、この鬼畜悪魔様ーッ!」

 

 バシンッバシンッ、とハリセンの乱れ打ちを繰り出す黒ウサギさんにヤハハ、といつもの笑みで返す十六夜君。

 口元が緩んでいることをオレは見逃さなかった。

 なんだよ照れ隠しかよ。やっぱり可愛いところあるね、十六夜きゅん♪

 

 ドゴッ、と地中にめり込む勢いで視界が眩む。

 首を百二十度回転させるとヤツがいた。

 

「痛ッ、はぁ!? 馬鹿なの? 殺す気か人外!」

「黙れ阿呆。無性にお前の頭に踵落としを決めたくなった、ただそれだけだ。文句あるか?」

「なんじゃそれ!? 黒ウサギさん、今すぐこの快楽主義者を "ノーネーム" から追放しましょうそうしましょう!」

「いえ、それは出来ません。こんなお馬鹿様でも我々 "ノーネーム" の大切な一員ですから」

 

 期待してますよ、と微優しく笑みかける黒ウサギさん。

 チッ、と舌打ちで応じる十六夜君。

 クスクス、と二人のやり取りを楽しげに見つめる飛鳥ちゃん。

 

 おい、オレの意見は無視かこの駄ウサギ。

 ん? 心なしか十六夜君の頬が少し赤いような……き、気のせいだ、これ以上の詮索は命に関わるからやめよう。

 あれ、そういえば耀ちゃんたちはどこにいったの?

 

 辺りを見回すとコミュニティの敷地に入るための門の近くで無表情系女子と飼い猫がフリーズしていた。どうやら二人にはこの惨状は衝撃が強すぎたらしい。

 自力でめり込んだ足を引きぬき二人のもとへと歩み寄る。

 

 こらこらキミたち、そろそろ起きる時間だよ。必殺掌ひらひら攻撃~。

 やあ、お二人さん。こんなところでフリーズなんてしてたら風邪ひくよ。

 ん? なにしてたのかって? 実は色々あってね、これから頑張ろうって話になったんだ。

 私を仲間外れにするなんて酷いだって? いや、それは耀ちゃんが悪いと思うんだけど。

 ぎゃああああ、なにいきなりダブル眼球猫パンチかましてくれてんだこのクソ猫待ちやがれ!

 

 逃げ回る三毛猫としばし戯れた後、コミュニティ本拠へと歩を進めた。

 十分程で建物のある場所まで辿りついたのだが微妙に遠いのが難点だ。

 オレたちの到着を待ちわびていたのか、何人かのちびっこたちが建物の前に集まっていた。その中には箱庭の外で出会った少年たちの姿こそあったが二本の尻尾が特徴的なリリちゃんの姿はなかった。

 どうしたのかと聞けば、彼女は "ノーネーム" の料理長を務めているらしく忙しいのだとか。今も晩ご飯の準備に励んでいるそうだ。キミたちも働けよ。

 それからちびっこたちと再会を祝い、情け容赦なく貴重な水を零した件をバラされ、本日は風呂抜きの刑に処せられました。酷いよみんな、水樹の苗があるから別に報告しなくてもいいのに。

 

「葵さん、まだ起きてますか?」

「……一応起きてる、のかな」

 

 まさか夢の中で「起きてますか?」と問われることがあろうとは、などと考えつつも声のした方へと体を反転させる

 するとそこにはふわふわの尻尾を枕代わりにされるリリちゃんの姿があった。

 思わず「キミも大変だね」と苦笑すると「いつものことですから」と彼女は優しい笑みで返してくれる。

 

「どうしたのリリちゃん?」

「あの、約束ありがとうございました。葵さんが来てくださったおかげでみんな凄く楽しそうで、笑顔がいっぱいでした。でもこんなことになっちゃって、すみません」

 

 頭部から生えたケモノのそれを萎れさせ、しょんぼりするリリちゃん。黒ウサギさんのとは違い彼女のはキツネ耳だ。みんな違ってみんないい。キツネ耳さいこー!

 

 リリちゃんが言うこんなこととは、周りの状況によるところが大きい。

 見渡す限りのちびっこ。三百六十度ちびっこ包囲網に苦笑を浮かべるしかない。

 名無しの旗無しとなってしまった "ノーネーム" に客人が来ることは少なく、あまり遊び慣れていないこともあって、オレたちの到着にちびっこたちは大騒ぎ。一緒に遊ぼう、遊ぼうと詰め寄ってきたのだ。

 もちろん黒ウサギさんやジン君に阻まれ彼らの願いは潰えてしまった。

 耀ちゃんたちは子どもが苦手らしく、ここ別館の隣に建つ本館に部屋を用意してもらったらしい。十六夜君はそうでもないらしいが静かに寝たいそうだ。

 オレはといえば、ちびっこたちと事前に『コミュニティに来たら遊ぼう』という約束をしていたので一人別館に泊まることにしたのだ。

 その際黒ウサギさんに「コミュニティはギフトを持つ者がゲームに参加し、彼らの得た恩恵があって初めて生活が成り立つのです。これは箱庭の掟ですので子どものうちから甘やかしては将来に影響が出てしまいます。だからそれ相応の態度で接してください。遊ぶなんてもっての他です!」と怒鳴られた。

 まあ軽く無視ですわ。こっちには百二十人の軍勢が控えているんだ、勝つのは道理よ。

 で、食後に大規模枕投げ大会を行って、ここ別館の大広間で雑魚寝しているというわけだ。

 

 萎れるキツネ耳に手を伸ばし優しく撫でる。

 ふにゅ~、と気持ち良さそうな声で受け入れてくれた彼女を喜ばせようと白い頬を指でツンツンと軽く二、三度突く。

 しかし、どうやらこれはお気に召さなかったらしくリスのように頬を膨らませてジト目で睨まれてしまった。

 お詫びの印にもう一度耳を撫でてあげると彼女はへにゃりと表情を和らげた。

 やはり黒ウサギさんのウサ耳もいいけどリリちゃんのキツネ耳もなかなかに捨て難い。本格的にお持ち帰り出来ないかな。

 夢だから無理ですよ―、と分かっていても考えずにはいられない。

 気持ち良さげに目尻を下げるリリちゃんに本日の感想を述べてみる。

 

「こういう大勢で寝るのも意外と楽しいね」

「うぅ……そう言って頂けると幸いです。でも、ちょっと、いえ、明らかに多すぎますよね」

「そんなことはないさ、みんなで遊んだ方が楽しいんだから」

「で、でも」

 

 否定の言葉を口にしようとするケモノっ子に問いかける。

 

「リリちゃんって生真面目だよね?」

「それだけが取り柄ですから。でも、ジン君や黒ウサギのおねぇちゃんが頑張ってくれてるのに私には何も出来ません。ギフトだって少しは持ってるのにゲームに出ちゃダメとおねぇちゃんに言われてるんです」

「それは仕方がないんじゃないかな」

 

 落ち込みモードに入ろうとする彼女にオレは否定の言葉を告げる。

 

「リリちゃんは充分頑張ってるよ、寧ろジン君よりも働き者じゃないかな。それにキミがゲームに出ちゃうと色々と困ることの方が多いだろうしね」

「そ、そんなことはありません。私なんて別にたいしたこと」

「あるね。ここのメインシェフってリリちゃんなんでしょ?」

「え? ま、まあ基本的にはそうですが、私一人で作ってるわけではないですよ、皆にも手伝ってもらってますし、たまに黒ウサギのおねぇちゃんにも作ってもらいますし」

 

 リリちゃんは慌てたように謙遜しながら二本の尻尾をバタつかせる。

 だがそのどちらにもちびっこがしがみついているので軽く上下させることしかできない。

 

「リリちゃんはこんな言葉を知ってるかな、腹が減っては(いくさ)はできぬ」

「聞いたことがあります。それは確か……あっ」

「そういうこと。今日食べてみて分かったけどリリシェフのご飯はものすんごく美味しいよ、今まで食べた中でダントツの一番。数少ない食材であれだけのものが作れるなんて天才だね」

 

 面と向かって絶賛されたのが恥ずかしかったのだろうか、先程よりも大きく尻尾が上下している。

 それでもちびっこたちが手放そうとしないのは、ふわふわの毛並みが心地よい快感を与えてくれるからに違いないだろう。恐るべき執着心に敬意を表してこの子たちを『ちびっこ精鋭隊のお二人』と命名しよう。オレも、もふもふしてみたい。

 

「料理だけじゃなくて家事全般をキミが仕切ってるんでしょ? ちびっこたちに『リリちゃんはすごいんだよ~』って自慢されちゃった。慕われてますな~リリおねぇちゃん」

「や、やめてください。そんな恥ずかしいです」

「ハハハ、キミのそういう困った顔がお兄さんは大好きだよ」

「もお~葵さ~ん」

 

 相変わらず可愛いな。ほっぺを膨らませるリリちゃんにケモノっ子萌えだぜ。百二十人もいる中でキミが一番可愛いよ。

 

「葵さん」

「なにかなリリちゃん?」

「ずっと……ずっとここにいてもらえるんですよね?」

 

 だらしなく破顔するオレに目の前の少女は期待を込めた瞳で問う。

 当たり前だよ、そんな嘘っぱちを口にすることは出来ない。

 所詮これは夢の中の出来事、本来この子もこの世界も存在しない。全てはオレの妄想廚二力が生み出した幻想だ。

 こんな偽りの世界に浸っている時間があるなら早く起きて面接の練習でもしたほうが良いに決まってる。

 

「……葵さん」

 

 リリちゃんはジッとオレを見つめ続ける。ダメだ、無理。

 肯定以外は許ないんですからね、そんな空気に負け一つ溜息を漏らし、観念したように紡ぐ。

 

「もちろんいるよ、ずっとここに」

「ほ、ホントですかーっ!? ホントのホントにここにいてくれるんですか?」

「リリちゃんが嫌でなければ、ね」

「嫌じゃないですよ! やったぁぁぁぁッ!」

 

 ふわふわの尻尾――二尾を激しく揺らして喜びを表現するリリちゃん。

 流石のちびっこ精鋭隊のお二人もお手玉の要領で宙を舞っている。危ないからやめなさい。

 彼女たちをそっと床に下ろしてあげると弾丸の如き速さでリリちゃんがオレの胸に飛び込んできた。 

 

「こらこらリリちゃん、皆寝てるんだから騒がないの」

「むぅ……だって葵さんがずっといてくれるんですよ! 嬉しくてしょうがないんです」

 

 これまでとは比べ物にならないほど二尾がバタつく。

 残像でもう二、三本生えてるんじゃないかと錯覚するほどワタワタと忙しない。可愛いやつめ。

 

 よくよく思えば夢なんだから深く考える必要なんてどこにもなかったんだよな。

 それをあーだこーだと悩んでいたなんて馬鹿みたいだ。そんなことよりも一秒でも多くこの子たちと楽しめばいい。いつ目覚めるか分からないのだからやりたいことをやっておかなければね。そうと決まればあれしかない。

 少女の腰から生えるふわふわの尻尾に顔を埋めるのだ。合言葉はもちろん――リリちゃんもふもふ~♪

 

 ズドガァァァァァン!!

 

 "ノーネーム" 本拠地内に響き渡る轟音。爆発にも似たそれに百二十人ものちびっこたちが一斉に飛び起きる。

 

 え? な、なに今の? 隕石? 大爆発? 

 あ、リリちゃん落ち着いてね、ほ~らなでなでだよ。

 とりあえず暴れ回ってる二尾さんを定位置に戻すところから始めようか。

 もう大丈夫? うん分かった。

 それじゃあみんな衝撃で起きちゃったからもう一回寝かしつけようか。

 ちびっこ精鋭隊のお二人も手伝ってくれるよね? よし、みんなで頑張ろう。

 あれ、ジン君もいたんだ。キミもちびっこたちと一緒で別館住まいだったの?

 違います? 十六夜さんに私室を盗られたので昔使ってた部屋に避難してました、と。

 キミも苦労してるね、やっぱり彼に逆らうとシャレになりませんからな、あっはっはっは。

 何? そんな呑気なこと言ってる場合じゃないでしょうがって?

 いやいやそんなことないって、どうせさかまっきーさん辺りが寝ぼけてベッド壊したとかそんな感じでしょ? 

 あ、ジン君のだったね、どんまいどんまい。

 おいおい顔面蒼白じゃないか、一回深呼吸しよう。

 そんな暇ないですよでありますか? まあ確かに放っておいたらあの人外に屋敷ごと破壊されちゃうかもね。

 いやいや他人事だとは思ってないよ、リリちゃんと約束もしたし、ね~。

 おーけーおーけー。とりあえずオレたちと精鋭隊のお二人でちびっこ諸君の相手をしとくからジン君は私室の安否を確認してきてね。

 はい、いってらっしゃい。

 

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