「あぁニートになりてぇなんだよ~」
「どこの社畜ですかあなたは、一応偉い人なんですから働いてください」
「むぅ……ワタシはこう見えてもおいちゃんよりもずぅーっとお仕事頑張ってるんだからね、十七戦全敗に言われても痛くも痒くもないんだよ」
「ヤブヘビーッ!?」
ベッドに腰掛けながら『働きたくないでごじゃりゅ~』と駄々をこねる少女。
ギリギリ肩にかかるか否かという長さの銀髪が体を左右に揺らすたびにハラリと宙を舞う。
左耳の上に結わえられた黒いリボンがとても可愛らしい。よく見れば縁に沿って白いレースが宛がわれている。超可愛い。お持ち帰りしたいです――ってなに冷静に美少女紹介やってんだよオレ。
彼女が何者かというと自称 "女神さま" だったりする。
制服の様なものを身に付けていることもあり、見た目は限りなくルシアのびしょーじょ系小学生なのだが本人曰く「白ちゃんが赤ん坊に見えちゃうくらいは大人なんだよ」とのこと。
ちなみにこの "白ちゃん" というのは "ヤーさん" のことだったりする。
ちなみのちなみに "ヤ―さん" というは "白夜叉さま" のことだったりする。
「おぉ見てよおいちゃん、もふもふちゃんがショッキングおいちゃんでバタリンコなんだよ」
「ちょ、ちょっとリリちゃんーッ!?」
少女の指示した先には「ぴゅぅぅぅぅ~」と可愛らしい悲鳴を上げながらぶっ倒れているリリちゃんの姿が、原因を作ったのは他でもないオレだ。女神さまで言うところのショッキングおいちゃん――血まみれのオレを目の当たりにしたんだからちびっこには衝撃映像だったに違いない。
ごめんよリリちゃん。許してね。
あ、そうそう。オレとしたことが大前提から忘れておりました。
今現在オレがどのような状態に陥っているのかというと、よく分からないです。
なんか、最早これのどこらへんが夢なのか理解できません。
ここまでの流れを簡潔に言えば、耀ちゃんを救おうと彼女の前に飛び出したオレは見事ガルドに腹を貫かれて意識を失った。そして、小躍りする女神さまと対面し、現在に至る。
なんでも「ちょうどいいタイミングだったからおいちゃんと一緒に有給休暇を満喫しなきゃなんだよ」とのことらしい。
まったく意味が分からなかった。到底理解の及ばない状況に思わず頭を抱えたオレは悪くないと思う。
「さあさあおいちゃん、こっちなんだよ」
項垂れるオレにいつの間にかテレビの前に移動していた自称女神さまはがキミもくるんだよ、と手招きする。
なにが起きているの分からなかったオレはとりあえず部屋の隅に積まれていた
座布団を手に取り、彼女の隣へと腰を下ろした。
何か言われるのかと思いきやテレビに夢中らしく完全に放置され、さらに頭を抱えることに。仕方なしに辺りを注視する。
「なんでやねん」
大学生の一人暮らしですかあなたは、とツッコミたくなるほど生活感溢れる部屋に思わず溜息が零れた。
テーブルの上の食べかけのケーキが妙に美味しそうに見えるのも夢補整ということだろうか。
瞳で部屋中を物色しているとテレビのスピーカーからペチン、と乾いた音が響いた。
何事かと思い瞳を向けるとよく知る二人の少女が映っていた。
『あす……か?』
『五分――いえ、三分で終わらせてくる』
『待って! 私が――』
『
命令するような言葉を最後に赤いドレスを身に纏った少女、飛鳥ちゃんが駆けていく。
あの衣装は間違いない、彼女だ。黒ウサギさんから譲ってもらったと嬉しそうに話していたから絶対そうだ。
と、すると彼女と話をしていたのは間違いなく耀ちゃんだろう、瞳を真っ赤に染めながら涙を流し続けていた。その腕の中にあった赤黒く変色した肉塊はオレとよく似た顔をしていた気がする。まさか……
「このままじゃあおいちゃんがごお陀仏しちゃうかもなんだよ~♪」
混乱するオレを尻目に女神さまは楽しげにマラカスをシャカシャカさせる。
思考が目の前の出来事に追いつけないオレはただ、茫然と画面の中の出来事を見つめていた。
『私の大切な友達を泣かせ――殺した貴方を本当はもっと惨たらしく、嘆願させながら殺すつもりだったけれど、残念ながら時間がなかったのよ。出来ればあの世で誰かが貴方に罰を与えることを願うわ。ええ、心から、お前のようなゴミ屑が何万回何億回死の痛みと恐怖の罰を与えられることをッ!!』
言葉を紡ぎ終えた飛鳥ちゃんがガルドに向け銀十字の剣を振り下ろす。
一瞬の静寂の後、哀れな獣は砂となって消え去った。
「よく頑張りましたぱっつんちゃん。その願い、この女神さまが叶えてあげるんだよ」
トス、と平らな胸に拳を当てニヒヒ、と少女らしい笑みで笑う女神さま。
訳の分からないことを呟く少女を他所にだらりと床に寝転がる。
テレビに映る光景が先程までオレがいた場所だというのなら、どうやら耀ちゃんは死なずに済んだみたいだ、素直に嬉しい。
でも飛鳥ちゃんにはちょっと悪いことしちゃったかな、一人でガルドを倒すはめになったみたいだし。
まあどうでもいいか、もうオレには関係のない話だ。
天を仰ぎ、丸い未確認飛行物体の様な電灯を眺めながら理解する、この夢の正体を。
無能な一般人は何も出来ずに退場してください。
そしてこれからもその無能っぷりをどうぞご発揮くださいませ。
尚、お持ち帰り頂けるのは最悪の悪夢のみです。
まさかこんな不快な夢で終わることになろうとは、オレの妄想廚二力恐ろしすぎるよ。
あぁもっと楽しめば良かったな、人生後悔ばっかりで嫌になる。
もう何にも考えたくないから
「早く目覚めさせてくれよ」
降り注ぐ光を遮るように顔を腕で覆うオレに女神さまは「なに言ってんだコイツ」みたいな声で語りかけてきた。
「こらこらおいちゃん、それはダメなんだよ。今目覚めたらショッキングおいちゃんで本当に死んじゃうよ。だから今日はワタシと有給休暇を満喫してまた明日から面白可笑しい映像をお届しておくれよ」
「………………はい?」
てなわけで、これが今のオレの現状だったりする。
死んでしまったからにはこの妄想廚二力全開の夢は終わりを迎え、目覚めの時が来てしまったと思い込んでいたのだが、退場にはまだ早いらしい。
なんでもゲームはまだ続行しているらしく途中棄権は許されないようだ。
「ゲーム? なんのことですか?」
「もお~すっとぼけちゃって、一番最初に契約したでしょ、忘れちゃったの? ワタシに面白可笑しい映像をお届するって」
「契約ねぇ………………もしかして鏡からぬちゃ?」
「そうそれなんだよ! あの時署名してもらった書類はちゃ~んとここにあるんだから言い逃れはメッなんだよ。最後まで付き合ってもらうからね」
掲げられた書類には謎の文字の羅列と『柊葵』というオレ直筆のサインが記載されていた。
この瞬間、オレは全てを理解する、自分の身になにが起きていたのかを。
「ま、まさかこれは実は全て昔封印したはずの忌まわしき記憶、妄想廚二力と負け続きの就職活動の疲れが引き起こした悪夢!」
中学生の頃憧れたチート主人公に可愛い半獣人さんやら高飛車なお嬢様、さらには無表情平坦な口調の親友、まさに夢のような妄想。痛い、痛すぎるぜオレ。
視線を隣に移す。もちろんそこにいるのは黒いリボンが可愛らしい銀髪ロリ。そうロリだ。ヤ―さんもロリだった。リリちゃんもロリだった。 "ノーネーム" にも沢山のロリがいた。
つまり、オレの深層意識やべぇよ。ロリコンじゃねぇかオイ!
ぬおおおお、と頭を抱えて転げ回るオレに女神さまが止めの一撃を叩き落とした。
「そういえばおいちゃんのいるコミュニティって妙に小さい子たちが多いよね」
「ち、違うです! それはオレのせいじゃなくて、いやでもオレのせいなのか!? いやいや、オレはロリコンじゃない。綺麗なお姉さん系の女性が好きなんだ。スーパープラチナブロンドの超絶美人なお姉さまが」
「おいちゃん、いきなり自分の性癖を披露しないでおくれよ。ワタシは激しく引いているんだよ」
「のわああああッ!!」
終わりは唐突にやってきた、あまりの恥ずかしさに身悶えし転げ回っていると運悪くテーブルの脚に自らの足の小指をぶつけた。人間の急所ともいえる小指を負傷したオレは一瞬で冷静さを取り戻す。
なにやってんだろうオレと一つ溜息を吐き、ゆっくり起き上ると女神さまが何かを手渡してきた。ニヒヒ、と嬉しそうな笑みだ。
手元のそれを確認するとどこからどう見てもゲームのワイヤレスコントローラーにしか見えない。
「あの、これは一体どういう?」
「金鉄するんだよ」
「…………金鉄?」
「もお~おいちゃんは、ちゃんとワタシの話を聞いておくんだよ。なんのためにキミをここに呼び寄せたと思ってるの、有給休暇を一緒に満喫するためでしょ」
「そういえばそんな話していたような……」
「日頃忙しいワタシを癒しておくれよ。どうせおいちゃんが完全復活するにはまだまだ時間がかかるんだから今日は二人でゆっくり金鉄なんだよ。あ、もちろんちゃんとゲームは続行されるからね、逃がしてあげないんだよ!」
ふふん、と得意気な表情で無い胸を張る少女に思わず頬が緩む。
結果的に自分がどういう状況に置かれているのか理解したんだ、目一杯今を楽しもうじゃないか。
辛い現実は忘れてこの楽しい夢を謳歌しよう、現実の体は病院送りになってるかもしれないけど。
いつかちゃんと目覚めるよね、大丈夫大丈夫、こんな厨二病全開な世界が現実なわけないんだから。バカなオレにだってそれくらい分かる。
飛鳥視点で構成されていた第4.5話も掲載予定。