転生したら始祖で第一位とかどういうことですか   作:Cadenza

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遅れながら業物語を買いました。いややっぱ面白い。おかげで曖昧だった番外編の内容が完成した。
原作に追いついたら番外編を書きます。アークライトとキスショットの出会い。キスショットとエリアス、女の戦い。アヴァロンでの日常。などなどを予定しています。


始まりのデアイ

「これは……完全に待ち伏せされてるな」

 

 望遠鏡を通して写った光景を見て、グレンはそう呟いた。

 場所は名古屋市役所よりほど近いビルの屋上。一瀬グレンチーム六人、柊シノアチーム五人、鳴海真琴チーム五人。

 計十六人が集まっていた。

 

「さて、どうするかね」

 

 現在、名古屋市役所に襲撃をかけて捕まってしまった仲間達の救出作戦の最中である。

 

「当然、助けるだろ」

「罠だと分かってて正面から救う馬鹿いないだろ」

「あ? じゃあどうすんだよ」

 

 優が素直で直球な意見を言うが、そのあまりに真っ直ぐさを鳴海が諌める。

 最終的に決めるのは指揮官であるとして、鳴海はグレンに決定を仰いだ。

 

「どうしましょうか一瀬中佐」

「……ここから狙撃して誘き寄せよう。もしも敵の数が多ければ……人質は見捨てて逃げる」

 

 一軍を率いる指揮官としては妥当な判断である。しかし優は、ふざけるなとばかりにグレンに詰め寄ろうとした。

 それをシノアが手で制し、グレンに尋ねる。

 

「中佐、今回の任務の最重要事項は何でしょう?」

「死なずに人数を維持することだ。次に人質の解放。最後に人質の救出。死ぬくらいなら逃げる」

「つまり……逃げた先に更に他の任務があるんですか?」

 

 鳴海が口に出した予想にグレンは頷く。

 

「ああ。なるべく長期間、吸血鬼共をこの愛知に引き留め、渋谷本隊が態勢を整える時間を稼ぐのが俺達の役目だ」

 

 今回の貴族奇襲作戦。それは囮であり、本当のところただの時間稼ぎだったわけだ。

 囮作戦にしては本気で命懸けだったと、君月が溜息を吐いた。

 

「貴族殲滅作戦は終わった。何人殺せたかは分からないが。市役所にいるクローリー・ユースフォード、チェス・ベル、ホーン・スクルドの三人を除けば……目標八人中五人殺せてる計算になる。十分だ」

 

 さすがに貴族を五人も殺されては、吸血鬼達も放っては置けないだろう。

 完全に別勢力の吸血鬼がいるという不安要素はあるが。

 

「人質を救出できたら今度は、なるべく敵の目を引きながら、できるだけ長く生き残る任務を始める。だから——」

 

 その先をグレンは言わなかった。

 代わりに銃剣型の鬼呪装備《白虎丸》を手に出現させた深夜が引き継いだ。

 

「だから、ここから狙撃して派手に誘き寄せ、だけど逃げるって作戦ね。で、上手くいくなら人質も救う」

「もっと上手くいけば任務を終えた他の部隊も集まって、クローリー達も殺せるだろう」

 

 グレンが口に出した理想的な流れを、深夜は笑顔で否定する。

 

「あは、いかないよ。そんな上手くは」

「…………、ネガティヴめ」

 

 ジト目で深夜を睨んでいた。毎度お馴染みの絡みである。

 

「事実を言ってる。けどできるだけ上手くやろう」

 

 そう言うと深夜は後ろを振り向き、与一を呼んだ。

 

「名古屋市役所を狙撃するよ。手伝って」

「あ、はい!」

 

 深夜と与一。この二人は貴重な存在だ。数少ない遠距離からの攻撃ができる鬼呪装備。更に二人とも黒鬼シリーズときた。

 遠距離からの狙撃という優位性はとても高い。

 

「全員配置につけ。吸血鬼からの攻撃に備える」

「みなさんもお願いします」

 

 しかしそんな優位性があるからといって警戒を怠る楽観的な者はここにいない。狙撃が通じない相手もいるのだ。実際に優達はそれを経験している。

 各々が不測の事態に備え、直ぐに動けるように陣形を作った。

 そして与一と深夜も狙撃の構えをとる。

 

「じゃあ僕は四階あたりを撃つから。与一くんは五階で」

 

 深夜の指示に従い、照準用の魔方陣を展開させて弦を引き絞る。その動作に合わせて与一の視界も段階的にズームされていった。

 五階の窓際が映る。その窓際に、佇む一体の吸血鬼がいた。

 

「ご……五階の窓際に吸血鬼がいます! 気づかれる前に狙撃許可を!!」

 

 まさかこんなに早く見つかるのは予想外だったようで、グレンと深夜が目を見開く。しかし即座に反応した。

 

「許可する!撃って殺せ!!」

「やれ与一!!」

 

 優からも受けて、与一は実行する。

 

「はい!! 行け月光韻!!」

 

 幾条もの光の矢が鋭く空を翔ける鳥の形をとって、名古屋市役所五階の一角に炸裂した。窓はおろか、周辺の壁をもまとめて破壊する。

 普通なら絶対に避けられないタイミングだ。

 

「何この鳥?」

 

 しかし吸血鬼は――クローリー・ユースフォードは、濛々と粉塵が立ち込める瓦礫の中から無傷で現れた。与一が放った月光韻の矢を素手で掴み取って。

 掴んだ矢を投げ捨て、クローリーは矢が飛んできた方向を見る。

 

「ああ、そうか。やっと来たのか」

 

 そして、背後の従者二人に告げた。

 

「チェス、ホーン。来たみたいだよ〜」

 

 奇襲を受けたにもかかわらず、クローリーは焦りも慌ててもいない。あくまで余裕。

 狙撃をされながらも自分から行くことはせず、悠然と泰然自若に構えていた。

 そしてそのまま暫く待っていたが、一向に次は来なかった。

 

「あれぇ、攻撃第二弾が来ないね。作戦でも練ってるのかな」

「こちらから討って出ますか?」

「いや、僕達の役目はあくまで誘き出すことだからね。いつまでも来ないならそれも考えるけど、敵の数が分からないからなぁ」

 

 顎に手をやって思索する。

 人質をとり、一人だけわざと逃がしてここに来るように誘導したとは言え、実際のところ本当に来るかどうかは五分五分だった。

 なにせ三十人の部隊が壊滅したのだ。他の部隊が何人かは不明だが、これだけの数で倒せないとなると人間も躊躇ぐらいはするだろう。

 しかし人間達は来た。

 

「人間は長期的にはいつも愚かだけど、短期的にはそれほど馬鹿じゃない。最初の攻撃で敵わないと分かった相手にもう一度仕掛けてこないだろう」

「えーと、つまりはどういうことですかぁ?」

 

 チェスにはよく分からないらしい。だがもう一人、ホーンはクローリーの言いたいことを理解していた。

 

「……奴らは私達吸血鬼の貴族に勝てるだけの準備をして襲ってきている、と?」

「そういうこと。まぁまた襲撃してくるかは五分五分だったけどね。ピンポイントでここに来たアークライト様には何かしらの確信があったのかな。それともフェリド君が何か言ったのか。どっちにしろ面白い事になりそうだから、僕は構わないけど」

 

 フェリドの名が出た途端、チェスとホーンが互いに見合わせた。そして二人揃って言う。

 

「私、フェリド様はなに考えてるか分からなくて嫌いですぅ」

「珍しく意見が合ったわね。私もです」

 

 さすがのこれにはクローリーも苦笑いだ。しかしフェリドと一緒にいると面白いことが起こる。退屈をしのぐことは、吸血鬼にとって割と重要なのだ。

 

「まぁでも彼と付き合ってると退屈しないからねぇ」

 

 クローリーはそう言うが、チェスとホーンの二人はかなり不服らしい。表情に出まくりである。

 

「アークライト様からの頼みもあるし、こっちの作戦はこうだ。僕達に向かってくる奴らをここに足止めして、そして誘導する。下の方は気にしなくていい。フェリド君が情報を欲しがるだろうから、情報を持ってそうな向こうの指揮官も見つけておこう。でも捕まえるのは後でいい。まずはアークライト様がやるからね」

 

 そう言ったクローリーの声は、まるで楽しみを前にした子供のように弾んでいた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 ところ変わって京都地下サングィネム。

 名古屋出陣に向けて本隊の準備が着々と進んでいる中、サングィネムの一角を第七位始祖フェリド・バートリーが歩いていた。

 足取りは悠々に、その妖艶な顔には普段と違う類の笑みを浮かべている。

 

 彼は今、非常に上機嫌だった。

 

 何故なら状況が上手く進んでいるから。

 まあ女王様の四苦八苦した様子で愉悦できたのも一つだが、大抵はそれが理由である。

 

(いやホント、アークライト様が来ただけでここまでスムーズにことが運ぶなんてね)

 

 おかげでクルルは最早限界寸前だ。その様子を見ているだけでとても愉しい。

 フェリドは己の快楽を何より優先するタイプだ。その為なら上位始祖すら利用してしまう。

 とは言っても、アークライトを利用する形となったわけだが、そう簡単にはいかないらしい。

 

(本当は僕から誘導するつもりだったんだけどな〜)

 

 結果的に同じではある。しかし思い通りには動かせなかった。

 第一位始祖の来日。確かに定めていた結果はそれだが、予定ではフェリドが上手く誘導してそうさせるはずだった。

 しかし実際は、フェリドの思惑に関係無くアークライト自身が来ると決めてしまった。

 思惑通りなのだが、何か釈然としない。

 

(やっぱりただでは利用させてくれないか)

 

 アークライトは自分の狙いに気付いている節がある。

 彼を先に名古屋に向かわせるため、少し口添えをした時だ。自分に『やりすぎるな』と言ってきた。その時は曖昧な返事と笑みで誤魔化しはしたが、少しどきりとしてしまったのは事実である。

 

(分かっている上で敢えて利用されている。彼にとっても一番手っ取り早いからか、それとも他に何かあるのか)

 

 可能性は五分五分だ。敢えて言うなら前者のが高い。

 今の日本の状況は見るに耐えないものがある。クルルという女王がいながらも内部では幾つもの派閥に分かれ、表面上の統制すら出来ていない。更に日本帝鬼軍に《終わりのセラフ》。

 アークライトもそれを見かねているのだろう。日本以外の吸血鬼が治める土地は、それなりに上手くいっているのだ。

 例を挙げるならクルルと同じ第三位始祖レスト・カーのドイツ、第二位始祖ウルド・ギールスのロシア、第一位始祖アークライト=カイン・マクダウェルのアメリカ。

 むしろ日本のようにここまでバラバラの方が珍しい。

 だから自らが来たのか。最終判断を下す為に。

 

 己の快楽が大半であるが、フェリドにも今の日本を見かねているという気持ちも無くはない。

 だから色々と暗躍している。アークライトを呼んだこと然り、人間に情報を流していること然り。

 現状を誰よりも重く見ているからこそなのだ。己の快楽が大半であるが。大事なので二回。

 

(本当に、これから起こることが楽しみだねぇ)

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「殺しに来たぞ吸血鬼」

「あ、見たことある顔だ。じゃあ君が指揮官か」

 

 先陣を切ったグレンが、与一の攻撃によってオープンテラス状態になった五階で様子を眺めていたクローリーの前へ飛び出した。

 この救出作戦には制限時間がある。シノア隊と鳴海隊が人質を解放する間、貴族を引き付けておくのがグレン達の役目だ。

 クローリーの部下と思わしき吸血鬼は、五士の鬼呪装備《覚世》の幻術によって十六人を二百人の部隊に見せかけ、何とかしている。

 

「フッ」

 

 グレンが刀を横薙ぎに振るった。クローリーは腰の剣に手をやり、抜刀術の要領でその一撃を弾き返す。

 弾かれた刀からビリビリと衝撃が手に伝わる。

 

「うへぇ…強ぇ……」

 

 冷や汗が頬を滴る。

 加減も出し惜しみもない、本気の一撃だった。それを容易く弾かれたとなると、否応にでもクローリーの実力を察せる。

 与一の狙撃を無傷でしのいだ時から分かってはいたが、実際に剣を交えると予想以上だ。

 

(こいつはケタ違いに強い)

 

 グレン隊が担当した第十九位始祖メル・ステファノとは次元が違う。

 しかし共通点があった。それは、人間を侮っていること。侮りから来る余裕によって、油断している。

 だから……

 

「だが――お前は終わりだ」

 

 クローリーの隣に深夜がいつの間にか立っていた。手に持つ白虎丸の銃口をクローリーに突き付けて。

 

「はいチェックメイト」

 

 殆ど零と言っていい距離で引き金を絞る。連続で射出される鬼呪の弾丸。

 

 勝った。素直にグレンも深夜もそう思った。

 

 しかし、深夜が引き金を引いた瞬間、クローリーの目からふざけた様子が消え、戦士としての鋭さが宿る。

 途端、クローリーと深夜の間に無数の軌跡が煌めく。その頃には宿った鋭さは霧散し、いつもの悠々とした様子に戻り、クローリーはパチンと剣を鞘へ納めていた。

 何が起こったか見えなかったが、どうやらあの距離とタイミングで放たれた音を置き去りにする白虎丸の弾丸を、全て視てから切り落としたらしい。

 

 それを理解した深夜とグレン。信じられないとばかりに目を見開く。

 予想を上回る事態に二人は隙を晒してしまう。

 クローリーが両腕を伸ばし、グレンは右脚を、深夜は右手に持つ白虎丸を掴まれた。

 

「なっ!?」

「え」

 

 驚く二人を余所に両腕を後ろに引いた。まるで二人を引き込むように。

 そうなればその腕力に二人は逆らえないわけで。とんでもない力で市役所の中に揃って投げ込まれた。

 クローリーの背後でガガッやガシャッと、何かが壊れる音が響く。

 下でクローリー配下の吸血鬼を相手にしていたグレンチームの一人、花依小百合が悲痛な声を挙げた。

 

「グレン様!?」

「く……! いま助けに……!」

 

 同じくグレンチームの一人、十条美十が思わず飛び出そうとする。しかし五士に肩を掴まれ、動きを止められた。

 

「行くな。ありゃ行ったら足手まといになる」

 

 クローリーに投げ込まれた二人は、傷を負いながらも立ち上がろうとしていた。

 随分と派手にやられはしたが、それほど大したダメージではない。

 確かに肉体的には大したことない。問題は精神的な方だった。

 

「これ…まずいでしょ。他の貴族とケタが違うんだけど。死ぬかな?」

「いや、作戦通りだ」

「うそばっかり」

「少なくとも敵の目は引いた。囮役はできてる。さぁ逃げるぞ」

 

 戦闘開始から約二分。秒殺されはしたが、十分に気を引けた。殆どの人質は解放できただろう。

 後は逃げるだけだ。しかしそう甘くないらしい。

 

「もちろん逃がさないよ」

 

 クローリーだけではなく、チェスとホーンまで二人の背後を取っていた。

 絶望的である。クローリー単体ですら太刀打ちできないというのに、従者の二人も加わってしまっては勝率どころか逃げることすら不可能だ。

 

(こりゃ、覚悟決めなきゃまずいか)

 

 最悪、鬼を暴走させることも視野に入れるグレン。視線を向ければ深夜も頷いていた。どうやら同じ考えらしい。

 死ぬのなら道連れ、という考えなのだろう。

 いくらクローリーが強くても黒鬼二体の暴走に巻き込まれればただでは済まないはずだ。

 

 正直なところ、深夜だけは逃がしたい。たとえ自分が死ぬか捕まっても深夜が残っていれば任務は続けられるし、部隊の指揮も維持できる。

 なら自分を犠牲にする前提で深夜を逃がす手立てを考えるのが最善か。

 やるべきことは決まった。後は実行に移すのみ。

 そう決めた矢先。

 目の前の敵であるクローリーは、添えていた手を剣の柄から離し、ダラリと構えを解いてしまった。

 

「……何のつもりだ? 俺達には武器すら使う必要はないってか?」

 

 返答など期待していない。せめて精神的優位だけでも保とうとした為の問いだ。

 しかし律儀にもその問いに答えてきた。

 

「違うよ。僕の役目はここまで。後は見物さ」

「……なんだと?」

「もういいですよね?」

 

 今度は答えず、クローリーは誰もいないはずの空間へ呼びかけた。グレンと深夜の、背後に向けて。

 瞬間、二人の背中にゾクッと寒気が走った。

 

「アークライト様」

 

 二人がバッと振り向く。

 そしてそこには――――

 

百の影槍(ケントゥム・ランケアエ・ウンプラエ)

 

 声が、響いた。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 はい、やって参りました名古屋。数十分前までは京都に居たわけだけど。

 

 日本の吸血鬼の本拠地、地下都市サングィネム。

 少ししか中にいなかったけど……アレはないわ〜。暗いし何か湿っぽいし陰気だし息苦しいし。おいこらクルルちゃん、ちゃんと管理してんのかい。

 何よりあの街並みが頂けない。なんだアレは、バラバラ過ぎるわ。

 建物の並びは滅茶苦茶で、大半が手入れもしていないのか傷みまくり、そして特定の箇所だけやたら豪華。都市全体のバランスが釣り合ってない。

 民だけではなく、街の管理も統治者としての役目。それがサングィネムには見られない。

 即ち無秩序。少なくともアヴァロンやドイツ、ロシアの都市を知っている俺からはそう見えた。

 でも口に出してしまったのは悪かったな。聞かれてなきゃいいけど。

 

 そう言えば俺達が降り立った空港。あんまり傷んでなかったな。羨ましい。

 アメリカは魔術がとても薄く、疎かった。だからあの破滅のウィルスの影響を大きく受けてしまったのだ。だからその時の混乱の所為で地上の設備などの損傷率が酷い。ぶっちゃけ直すより新しく作った方が安上がりである。

 それに比べてヨーロッパ近くの地域は比較的に被害が小さかった。昔からあの辺りは、魔術関係が濃かったからだ。

 ウルドのロシアやレスト坊のドイツは、地上がそれほど傷ついていないし、実際に使ってもいる。

 色々と苦労した俺からしてみると、非常に羨ましい限りだ。

 

 話が逸れたな。なぜ京都の本隊に先駆けて名古屋に来たかと言うと、少しこんな事が浮かんだからだ。

 日本帝鬼軍が奇襲作戦を企てているのは、ほぼ間違いない。そして奇襲するとしたら名古屋の貴族だろう。京都の本隊と合流されたら手に負えないし、京都を直接叩くよりも近くて済む。

 そしてキスショットが遭遇した《終わりのセラフ》のキーとなる人間達。遭遇した場所からこの人間達も奇襲部隊のメンバーと考えていい。

 ここで問題となるのが、吸血鬼側の情報を流しているのは誰かということだ。疑いたくはないけど、おそらく上位始祖会に参加できたクルルちゃんかフェリド坊のどちらか。

 俺が本隊と名古屋に向かってしまえば、必然的に二人と共に行くことになる。

 

 それはまずい。大抵の場合、黒幕が現場に行く=最終局面である。

 なら俺から行くしかないじゃない。と、言うわけでゴートゥー名古屋。

 そんな感じで名古屋に来たのだ。

 最終局面に入る前にキスショットが遭遇した人間達ってのを確認しておきたい。更にキスショットによると、その人間達の鬼を封じた鬼呪装備から、俺と似たような気配を感じたらしい。

 《終わりのセラフ》もそうだが、それも気になる。

 そして現在。俺は名古屋市役所のとある一室の影の中にいる。ここ名古屋市役所は、クロ坊ことクローリー・ユースフォードの拠点だ。

 

 なんでここなのか。それは、俺が先に名古屋へ行くと知ったフェリド坊から、「名古屋市役所に行くといいです。あそこにはクローリー・ユースフォードがいます」と耳打ちされたからだ。

 

 なるほど。そう納得してしまった。

 

 フェリド坊は何時も飄々としていて真剣でないように見えるが、実際はかなり聡明だ。おそらくフェリド坊も人間達が奇襲を仕掛けてくるのをある程度予測しているのだろう。

 俺が名古屋に行く理由も何となく察してくれたのかもしれない。

 クロ坊は、その階位から逸脱した実力を持っている。いくら数十人規模の部隊が吸血鬼を殺せる装備を持って挑んでも絶対に勝てない。元からの才能に加えて数百年間の経験。全てに於いて違い過ぎる。

 そうなれば相当な戦力を向けざるを得ない。聞いた限りキスショットが遭遇した人間達は、かなり有望だったとか。なら、その相当な戦力に組み込まれる可能性は高い。

 それを予測してフェリド坊はクロ坊の場所を教えてくれたのだと思う。

 裏切り者候補の言葉を信じるのはどうかと言われそうだけど、その点は心配ない。言葉の真偽は聞いた瞬間に分かる。言葉とは言霊。紡がれる一文字一文字に意味がある。詠唱が代表格だろう。俺の特性上、そういった類にはとても敏感なのだ。少なくとも今回のフェリド坊の言葉に嘘はなかった。

 

 ただ、フェリド坊が俺に耳打ちをした後、クルルちゃんが物凄い剣幕でフェリド坊を睨んでいた。

 なんというかフェリド坊って、いじめっ子というか愉悦神父みたいなオーラを感じさせる。

 いや、やめたげてよ。クルルちゃん、見た目相応に泣いちゃうよ。

 一応やりすぎるなって注意しておいたけど、大丈夫かな。

 

 まぁそれは置いといて。

 フェリド坊の助言をありがたく頂戴し、クロ坊に頼んで誘い役をしてもらって、俺は影の中に隠れてるわけだ。

 俺単体だと向かってこない可能性があるし、俺から行くと途端に遁走されるかもしれない。

 だから不意を突く待ち伏せが一番良かった。もし名古屋市役所に来なくても、別行動中のキスショットが控えている。

 だが杞憂だったらしい。まぁ人質とってたからね。これでも紀元前生まれで一国を治める身。人質や汚い手段を罵る気はない。

 

「僕の役目はここまで。後は見物さ」

 

 おっと。そろそろか。

 影の中から視線を飛ばして見れば、黒い軍服の二人がクロ坊に部屋の中へ投げ込まれていた。

 よしよし。クロ坊ナイス。後でお礼として何か贈るよ。

 人形達も上手く出来てるな。久しぶりだったけど、腕は鈍っていないみたいだ。

 

「もういいですよね?」

 

 十分だよ。では、リク・ラク ラ・ラック ライラックと。

 

「アークライト様」

 

 影のゲートを伝い、軍服二人の背後に出る。同時に開幕の魔法を発動。

 

百の影槍(ケントゥム・ランケアエ・ウンプラエ)

 

 さて、いっちょいきますかね。

 




次回、やっとアークライトのバトル。さぁ派手に行くぜ。魔法祭りだ!
とりあえず無双なのでご了承ください。

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