転生したら始祖で第一位とかどういうことですか 作:Cadenza
前回からほぼ一ヶ月。申し訳ございません。遅くなるかもしれませんが、エタる事はないので、どうぞよろしくお願いします。
尚、今回は番外編ではなく本編です。漸く11巻。ここからヒートアップしていきたいです。
因みに番外編も書いていますので、その内に本編と同時に更新すると思います。いつになるかは未定ですが……
ではどうぞ。
いや、ビビったわ。何あの子、対物障壁だけ避けて接近してきやがったよ。すり抜けるって分かってても障壁に突っ込むかね普通。
すぐに他の障壁も発動させたから問題なかったけどさ。
いったい何をあの強気少年に吹き込みやがったアシュラの奴。
まぁそれは置いといて、まさか生きてるとは思ってなかった。人間に精神体として宿っている状態を生きてると判断していいのか微妙だけど。
双子の姉であるクルルちゃんは大人しい性格なのに、あいつときたら。悪戯小僧とでも言えばいいのか。俺の黒歴史を実際に見て知っている数少ない奴だからな。気が気でない。
あの強気少年を引き込むにしても、やっぱ警戒はしないとな。強気少年が俺の弱点だとか言ってきた時は、中にアシュラがいるのも相まって、どんだけビクビクしてたことか。アシュラ経由で黒歴史を弄られるかも。
そうなったら表面上の威厳まで無くなってしまう。
弄ってくるのはキスショットだけで充分だってーの。
しかし、アシュラから俺に頼みなんて驚いたな。
何も告げずにいつの間にか消えてて、そしたら人間の中にいて。それだけでも驚いたのに。
クルルちゃんも水臭い。頼ってくれれば探すの手伝うのに。何も言ってこないからな。
今度アシュラに説教だな。姉を心配させる、これ絶対駄目、である。
それはそうと、アシュラの頼みってのは、要約するとあの強気少年の保護だった。
うーん、言われなくてもこっちに引き込むつもりだったし、その為に色々と準備してるし。正直、今更感があるな。取り敢えず頷いておいた。
アシュラとの話が終わった後、現実世界に戻った時に後ろに飛んで逃げる隙を作ったんだけど、大丈夫かね。
キスショットに頼んだから問題ないとは思うけど。
かく言う俺は、今も名古屋市役所である。クロ坊に言った通り、クルルちゃん率いる本隊との合流の為だ。勿論、アヴァロンから連れてきた部隊も一緒である。
とうとう来ちゃったか。さて、どうしようか。人間達が《終わりのセラフ》を何処で発動させるのか、まだ分かってないんだよな。
まぁその辺はキスショットにも頼んであるし、じきに分かるだろう。
あのオールバック君を捕まえたのも、情報収集の為でもあるし。
現在、クルルちゃんの部下が尋問中の筈だが――――
「この家畜がぁあぁぁあッ‼︎」
あ、オールバック君がサッカーボールみたいに蹴られた。
そしてそのままシュゥゥゥト! 超エキサイティィィン! ……なんてやってる場合じゃない。
てか何やったんだ、オールバック君よ。クルルちゃんの部下、激おこじゃないか。
今もゲシゲシと足蹴を……おい待て待て。
「貴様、何をしている」
「――ッ! ア……アークライト様……」
「情報の為に私とキスショットがその人間を捕らえたのだ。殺しては捕らえた意味がないだろう。何より見え透いた挑発で我を忘れるな。相手の流れに巻き込まれるな。己の品位を下げるだけだ」
「……申し訳ありません」
うむ、素直でよろしい。
だいたい、痛みで話させた情報なんて信用性に欠ける。小部隊で貴族に奇襲仕掛けてくる、なんてとんでもない精神を持つ輩なら尚更だ。
確実な情報は、喋らせるんじゃなくて、喋ってもらうのがいい。
「下がれ。私がやる」
ここは俺がやるべきだな。他に任せても同じ結果になりそうだし。
「今度はアンタか。さっきの吸血鬼はすぐキレたけどよ……アンタはどうなんだろうな?」
「貴様ッ、アークライト様に無礼な口を……!」
「落ち着け、ただの挑発だ」
まだ挑発する元気があるのか。本気じゃないとは言え、キスショットの極光を受け止めたのに。
いや、さすがに直後はヤバそうだったから、簡単な治療はしたんだけどさ。
でも、必要ないから治癒魔法は殆ど使えない俺なので、本当に簡単にだ。
ぶっちゃけその場凌ぎにしかならないはず。それでこの元気って……
「お前は本当に人間か?」
疑っちゃうよねー。気合と根性でどうにかなる、とか?
どこぞの第七位や千の刃じゃあるまいし。
あの二人、一応人間なんだよな。やっぱ人間って怖いわ。
「何を言ってやがる……」
あら、やっぱり唐突だったかな。困惑してるよ。
あ、そう言えば情報源が欲しいって言ってたクロ坊はどうしてるだろう。
……あ、いた。フェリド坊も一緒か。仲良いなあの二人。いや、腐れ縁の方が正しいか。あんまり貴族同士って仲良くないんだけど。
特にフェリド坊は色々となぁ〜。なんか愉悦オーラ出してるし。たまに俺の黒歴史を持ち出してくるから油断ならない。今も笑顔で手を振ってきてる。
そんなフェリド坊と付き合えるクロ坊も割と大概だな。主に振り回される側として。
「黙ってないで何とか言えよ……!」
おっと、余所見し過ぎた。今は情報。キスショットにも伝えないといけないからな。
それじゃ尋問――
「待て! 話すから待ってくれ!」
開始……って、あれ?
どうしたのよ、いきなり。まだ何もしてないんだけど。
まぁ、何でか分からんけど、話すのなら尋問は終わりだな。
「日本帝鬼軍は新宿で……」
そう言いかけた途端、オールバック君の刀が勝手に鞘から抜け、襲いかかってきた。
「……気持ち悪い目で俺を見るなよヴァンパイア。殺すぞ」
…………えっ、誰アンタ。
◇ ◇ ◇
名古屋市役所。
そこは既に、第三位始祖クルル・ツェペシ率いる吸血鬼本隊の一時的な停留所となっていた。
吸血鬼がひしめく中、手錠をかけられ拘束された人間が一人。仲間を守った末に捕まったグレンである。
そんなグレンを冷めた目で見下ろすのは、サングィネムの女王クルル・ツェペシ。
アークライト達が捕らえたと言うので興味はあるようだが、そこまで重要視している訳ではないようだ。
これは強い人間軽視によるものなので、仕方がないと言えば仕方がない。
クルルの背後に控えていた貴族の一人が前に出てきた。グレンの元まで歩むと前髪を鷲掴みにし、グッと顔を上げさせる。
「怯え震えろ人間。分を弁えず貴族に手を出して、ただで済むと思ったか?」
グレンの返答は吐唾だった。
貴族は一瞬、恐ろしい程に沈黙した後、一気に激情した。
「この家畜がぁあぁぁあッ‼︎」
ボールのようにグレンを蹴り飛ばす。
我を忘れているのか、手加減なしの一撃だった。数メートルを飛ばされたグレンは、血を吐きながら咳き込む。
「が……あ……」
「殺す‼︎ 殺してやる‼︎」
だが、そんな様子に頓着することなく、抵抗できないグレンを貴族は蹴り続ける。
(……はぁ、くそ。痛ぇし疲れんな……)
しかし、蹴られる痛みを、まるで他人事のようにグレンは感じていた。
現在進行形で蹴られているが、そんなに問題ではない。確かに痛いが、キスショットから喰らった蹴りと比べれば普通に耐えられる。
むしろグレンの思考は別の事に向いていた。
元々の作戦は、奇襲で戦力を減らし、そうして躍起になった敵を罠が張り巡らされた新宿へ誘導すること。
つまりグレンは、吸血鬼を新宿へ向かうように仕向ければいい訳だ。
そこから考えれば、今の状況は願ったり叶ったり。後もう少し殴られて、そうして漏らした情報に信憑性を持たせれば完璧である。
(もう少し無抵抗に殴られとくか……)
しかし、痛みは唐突に終わりを迎えた。
「貴様、何をしている」
グレンを蹴っていた貴族の背後から、感情が乗っていない無機質な、されど威圧感を含む声が響いた。
貴族はビクリと肩を震わせ、恐る恐る振り返る。そこには漆黒に身を包んだ金髪朱眼の吸血鬼が。
「ア……アークライト様……」
貴族を止めたのはアークライトだった。まさかの登場にグレンも目を見開く。
アークライトは貴族を下がらせると、自身がグレンの前に出てきた。
「今度はアンタか。さっきの吸血鬼はすぐキレたけどよ……アンタはどうなんだろうな?」
近付いてきたアークライトに軽口を叩く。
アークライトが他の吸血鬼と違うのはもう分かっている。この挑発も通じないだろう。
案の定キレたのはさっきの貴族であり、アークライトはそれを制するのみ。
これまでの手段が効果を発揮しない以上、下手な事は言えなくなった。
「お前は本当に人間か?」
アークライトが突然、そんな事を言ってきた。
「何を言ってやがる……」
”本当に人間か?”
当たり前だ、そう返すのが普通だろう。それ以外の答えなどない。
だが、グレンは答えられなかった。
アークライトは第一位始祖。これまで戦ってきた吸血鬼とは、何もかも次元が違う。吸血鬼の強さは生きた年数に比例するが、少なくともアークライトは数百年どころでない筈だ。
見てて感じたが、アークライトは相当無口らしい。戦いの中でも最低限しか喋らなかった。大分お喋りだったクローリーとはエラい違いだ。
そんなアークライトが意味のない言葉を口にするだろうか。
故に、グレンは答えられない。
「…………」
アークライトは黙ったまま、その無機質な瞳でジッとグレンを見る。
思わずゾクリと背筋が冷たくなった。確かにグレンを見ている筈なのに、実際には全く別の所――本人すら知り得ない奥底を覗いているかのような遠い目。
最早慣れてしまった侮りや蔑みの目でも、かと言って好意的な目でもない、まるで超越した存在だけが向ける超然的なモノ。
そんな得体の知れない、理解ができない目でグレンを視ている。
侮蔑なら兎も角、こんなのは初めてだ。初めてだからこそ、理解できない気持ち悪さを感じてしまう。
(なんだこいつは……! いったい何処を……ナニを視ている……!)
「黙ってないで何とか言えよ……!」
その目に耐え切れず、思わず声を荒げる。そうすればアークライトから、さっきまでの超然さが嘘のように霧散した。
だが代わりに、視線がグレンに固定される。気味悪さはないが、今度は分かり易い脅威が感じられた。
(ヤバい……!)
「待て! 話すから待ってくれ!」
漏らす予定の情報なのだから無理して長引かせる必要はないし、ここでナニかされて罠だと暴露れてしまっては元も子もない。
「に……日本帝鬼軍は新宿で……」
だが、その情報を言い終える前に、グレンの意識は途切れた。
腰の《真昼ノ夜》が震え、ひとりでに抜刀される。そうして《真昼ノ夜》は、アークライトに斬りかかっていった。
「……気持ち悪い目で俺を見るなよヴァンパイア。殺すぞ」
「……誰だ貴様は」
◇ ◇ ◇
「……ふむ」
グレンが殴られ蹴られている光景を、クローリーはいつもの余裕そうな表情で眺めていた。
「やー、クローリー君」
そこへ声がかけられる。
「お久しぶり」
振り向けば予想通り。飄々とした笑顔で手を振るフェリドが。
フェリドの登場にクローリーは、若干嫌そうな顔となる。
「うわ。やっぱり来た」
「失礼だな〜。うわって何よ」
「だって今回は面白い事ばっかり起きるから……アークライト様の件しかりね。どうせ君が色々と手を回したんだろ?」
視線をフェリドから外し、チラッとグレンの方を見て言う。殴る蹴るをしていた吸血鬼を下がらせ、アークライトがグレンの前に立っていた。
「人間に情報を漏らしているのも君なんだろうけど……」
「心外な。僕は仲間を裏切るような奴が一番嫌いだって君は知ってるでしょ?」
「君の言葉は信用できないからね、昔から。……話を戻すけど、程々にしなよ。アークライト様にでも知られたら、いくら君でもマズいだろ?」
「おや、嬉しいねぇ。心配してくれるのかい」
「君に巻き込まれるのが嫌なだけだよ」
「あは、でも心配いらない」
ヘラヘラとした笑みのまま、フェリドは続ける。
「確かにアークライト様を敵に回しでもしたら僕でも危ない。彼と戦いが成り立つのは、眷属である第二位始祖イヴ様だけだ。彼に比べたら他の上位始祖なんて可愛いものだろうね。でも――」
一度区切り、表情から普段の笑みを消して言った。
「彼は、吸血鬼という種族にそう思い入れがある訳じゃないのさ。あくまでアークライト様はアヴァロンの王。彼が守護するのはアヴァロン。結局のところ要点はそれだけだ」
下手をすれば上位始祖会から裁きを受けかねないフェリドの物言いだが、クローリーはそれを黙って聞いていた。
良く考えれば思い当たる点が幾つかあるからだ。
「だから、余程重大な事でもない限りアークライト様は動かないと思うよ。例えば、《終わりのセラフ》に加担している、とかね。それに僕の方はアークライト様にとっても都合がいいみたいだから、きっと大丈夫さ。証拠に――」
そう言ってフェリドはアークライトの方に視線を向ける。釣られてクローリーも顔を向ければ、アークライトがこちらを見ていた。
まさか丸聞こえ? と若干冷たくなるクローリーだが、そんなの知らぬとばかりにフェリドは笑顔で手を振る。
特に何もせず、アークライトは視線を戻した。
「ほらね? もし僕がアウトならこんな話をしている時点で僕達は終わりだ。でも、こうして生きている。立派な証拠だろう?」
「君ね、盛大に僕を巻き込んでるよね? 今一番、君との縁を切りたくなったんだけど」
「あは、大丈夫だよ。生きてるなら別にいいだろう?」
快楽主義というか刹那主義というか。こんな時にも変わらないフェリドに溜息さえ出てくる。
「相変わらず君、危ない橋を渡るのが好きだね。まぁいいけどさ……でも気になるのは――」
鋭さを目に宿し、冷たい表情でフェリドを見据えた。
「君が僕の居場所も人間に売ったことだ。これはどう説明する? 僕は君の派閥だと思っていたんだけど……」
「でも、楽しかったんだろう?」
なんとも軽い調子で軽く答えるフェリド。きょとんと呆気に取られたような表情となり、そうして顎に指を当てて考え込むクローリー。
「まぁ……うん。おもしろかったかな」
それなりの
しかも本当に楽しいのはこれからと来た。
「感謝してよね〜。退屈な君の人生に彩りが出たこと」
吸血鬼にとっての最大の天敵は、太陽でも鬼呪でもない。悠久の時が与える退屈である。
それを紛らわせる為に吸血鬼は娯楽を求める。
血と並ぶ吸血鬼の重要事項だ。
「で、派閥内の君が襲われれば僕に疑いの目は向かない、と」
「やっぱり君が黒幕じゃないか」
あはは、とフェリドは笑いながら続ける。
「まぁ半分はね。でもなんと、今回の事件は、性格の悪い本物の黒幕が別にいるんだ」
「ほう、誰?」
フェリドの視線が移動する。その先には――アークライトに尋問されるグレンの姿が。
そのままグレンを指差し、
「彼だよ」
実に愉快そうに言った。
予想外過ぎる人物にクローリーの目が見開かれる。
「彼、ってあの俺様君? イヴ様の斬撃から死ぬ気で仲間を庇った彼が? とてもそんな風には……」
「それは二つある人格の一つの方。僕が言ってるのはもう一つの方さ」
「人格が二つ?」
「そう。彼はもう”生成り”なんだよね〜」
「”生成り”? って何?」
「完全な鬼になる直前の事だよ。だから彼は、一日の時間を二つの人格が行ったり来たりしてる」
丁度その時、アークライトの雰囲気に耐えかねたグレンが誘導の為の情報を口にしようとしていた。
「一つは、部下や仲間を救いたい理想主義者」
グレンが口を開き、情報を言おうとする。だがその前に腰の《真昼ノ夜》が震える。
「もう一つは、死んだ元恋人の怨霊に取り憑かれ、鬼に成り果てた完璧主義者」
その瞬間、グレンの気配が一変した。人間味を感じさせない、どこか吸血鬼に近いモノへ。
「さて、アークライト様相手にどうするのか。さぁ、モンスターがくるぞ♪」
《真昼ノ夜》がひとりでに抜刀され、眼前のアークライトに斬りかかっていった。
◇ ◇ ◇
ひとりでに抜刀された《真昼ノ夜》が迫る。しかし、アークライトが腕を上げれば、その直前で何かにぶつかったように弾かれた。
「……気持ち悪い目で俺を見るなよヴァンパイア。殺すぞ」
「……誰だ貴様は」
アークライトが目を細め、鋭さが宿る。
「陛下‼︎」
突然の事態に真っ先に動こうとしたのは、アヴァロンの吸血鬼だった。
敬愛する総隊長が仕え、長年アヴァロンを護ってきたのがアークライト。
そんな彼が斬りかかられるなんて事態となれば、何よりも優先して動くのが当然である。
一斉に武装を抜き、不届き者を排除せんと踏み込もうとする。しかし、それは他ならぬアークライトによって制された。
「よい。お前達は手を出すな」
プライドや意地など、そういったモノではなく、別のところからきた言葉なのだろう。
今回の派遣部隊は、エリアスが選抜した精鋭中の精鋭。一人一人が下位とはいえ、貴族に匹敵する実力を持っている。
だが、アークライトに斬りかかったグレンは明らかにおかしい。雰囲気も人間とは思えない程に異常だ。
いくら貴族に匹敵する実力でも、その再生能力は通常の域を出ない。鬼呪を喰らえば死ぬ確率が高く、万が一という場合も考えられる。
それなら、キスショットと共に再生能力がケタ外れに高いアークライトが対処するのが良い。こんなところで被害を出す必要もない。
それらを一瞬で判断し、アークライトは部隊員達を制したのだ。
「死ね」
グレンが刀を振るう。首、心臓など、吸血鬼にとっても重要と言える部位を的確に狙って。
しかし、アークライトには掠りもしない。全てを見切り、僅かに身体を動かす事で回避する。
だが反撃に移ろうとはしなかった。
「……ちっ」
限界を超えた速度の剣閃だと言うのに、余裕で回避されている現状から、グレンは一旦距離を取ろうとする。
だが、唐突にその場から弾き飛ばされた。回避はおろか、感知すら出来なかったグレンは一度バウンドした後、更に地面に叩きつけられる。
そして降り立つ吸血鬼の女王。クルル・ツェペシだった。
クルルがグレンを殴り飛ばしたのだ。
「図に乗るな人間。その程度の動きで何ができる」
クルルが割り込んだのには理由があった。
それはアークライトがグレンの連撃を避けている最中、チラリと視線を向けてきた事にある。
向けられ、すぐにその意図を理解した。
つまるところ、責任を果たせと言うことである。
確かにアークライトは吸血鬼最上位の第一位始祖だが、この場での指揮権を持つのはあくまでクルル。
その指揮官がこの程度の些事を収められないようでは、日本のトップなど名乗れない。と言うか、下手をすれば女王としての能力さえ疑われる。
それがアークライトの意図だったのだ。それを察して本来なら真っ先に動くべきキスショットも傍観していたのだろう。
あの一瞬でそこまで考えていたのなら、やはり恐ろしい限りだ。
「人間、お前の目的はなんだ」
しかし、このままなら事を終えられそうである。後は人間から情報を引き出せれば、指揮官としての示しもつく。アークライトも納得する筈だ。
「……名古屋空港で《終わりのセラフ》の人体実験をする。手伝え吸血鬼」
そんなクルルの余裕は、グレンのその言葉で吹き飛んだ。
「――ッ! お前、柊真昼からの使者か?」
周りに注意を配りながら小声で問う。幸いな事に周りの吸血鬼とは、それなりの距離が空いている。
「答えろ人間。お前は柊真昼からの使者か?」
確認の為にもう一度、同じ問いを繰り返す。
「……真昼はもう死んだ。俺は助けられなかった」
「……ならお前は誰だ?」
グレンはただ乾いた笑みを返した。その反応にクルルは表情を険しくする。
目の前の人間が本当に柊真昼の使者なのならそれはいい。問題はこのタイミングで、と言う事だ。
ここにはアークライトがいる。アークライトにとって天使は、地上からアヴァロン諸共姿を消す要因となった忌むべきモノ。天使にとってもアークライトは、数多くの同族を屠り、喰らい、殺してきた大敵。
絶対に会わせてはいけない、お互いに最悪の組み合わせだ。
だが、何年も前から進めてきた計画。今更止める事など出来ないし、その気もない。相当に危ない橋を渡っている自覚はあるが、目的の為には避けて通れない道なのだ。
だから細心の注意を払ってここまで来たと言うのに、あの憎たらしい第七位の所為で狂いつつある。
極めつけには、アークライトが同伴しているこのタイミングでと来た。
正直、心労が重なり過ぎて精神的にマズい。自分はただ、
「契約と違う。私は世界崩壊前、柊真昼と取引した。だが、お前が柊真昼でないのなら手は組めな――」
「なら殺せよ」
周囲を伺いながら話すクルルの言葉をグレンは遮った。その表情は、勝ち誇ったような笑みだった。
「でもお前には出来ない。どうせ後戻りできないところまで吸血鬼を裏切ってるんだろう?」
クルルが無言となる。
「今日、お前も《終わりのセラフ》の実験を成功させる必要が……」
言葉が止まる。痛いところを突かれたのか、クルルが蹴ったのだ。
しかし、血を吐きながらもグレンの笑みは崩れない。むしろ増してさえいる。
「ははは、それでいい! さぁ演技を続けろよ‼︎ クルル・ツェペシ‼︎」
そんなグレンに一瞬視線を向けた後、クルルは配下の吸血鬼に宣言した。
「……今、人間が吐いた‼︎ 貴族を殺した人間共は、名古屋空港へ再集結している‼︎ 全軍移動するぞ‼︎」
『はっ!』
女王の命令を受け、吸血鬼達は続々と輸送機に乗り込み始めた。
「陛下、我々はどう致しますか?」
クルル配下の吸血鬼が移動の準備をする中、アヴァロン部隊の隊長がそれを眺めるアークライトに指示を求めた。
「キスショットを回収した後、名古屋空港へ向かう。儀式の発動場所が一つであるなら、分散するのは得策ではない。準備を急げ」
「了解しました」
一度跪き、隊長は部下達の元に走っていった。
その背中を見送るアークライトは、傾き始めた太陽を見上げる。
「これからが始まりだ」
呟きは、輸送機のモーター音に消えていった。
次回からアークライト始動!
魔眼に魔剣に空想具現化と、世界観違いのチート振りを発揮じゃぁ‼︎
以下アークライトの強さ基準
通常(アリストテレスとしての能力封印。基礎能力と精霊魔法)→十分な魔力供給を受けたサーヴァント状態のギルガメッシュとカルナ、ネギま世界の真祖の吸血鬼や龍樹と同格
第一段階(基礎能力と闇の魔法使用)→サーヴァントでは勝率皆無、魔法世界における造物主と同格
第二段階(魔眼と空想具現化、固有結界使用)→生前の全盛期ギルガメッシュやエルキドゥ、神霊クラスと同格
最終段階(アリストテレスの能力完全開放。神代回帰に固有結界全開)→星の最強種。各神話の主神クラスでさえ勝率皆無、同じ領域にいる水星の蜘蛛やアリストテレスが唯一同格
こんな感じに滅茶苦茶なので注意してください。