転生したら始祖で第一位とかどういうことですか   作:Cadenza

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アカン。アークライトがガチート過ぎて戦闘が盛り上がらない。蜘蛛だとか幻想種だとかがいればもっと書けるのに。
すみません、今回文字数少な目です。あまりにチート過ぎってのも困りものです。ワンパンマンとか尊敬します。
そのうちアークライトとキスショットの大喧嘩(アルマゲドン)とか書きますので、世界観違いの超バトルはお待ちください。

原作でもアバドンって割とあっさりやられたから別に問題ない、のかな?




遥かなるテン

「グ……ッ!」

 

 血を吐き出し、暮人は膝を着いて蹲っていた。だがこれはまだマシな方で。

 暮人以外の帝鬼軍全軍は地面へと倒れ伏しており、圧倒的強者である筈の吸血鬼すらも息苦しそうにしている。

 

(なんだ……これは……⁉︎)

 

 息をする度に全身が軋み、まるで身体が崩壊していく様な痛みが襲ってくる。

 外傷や毒の類いではない。

 この場に満ちる空気そのものが身体を蝕んでいるのだ。

 

 これこそが神秘。西暦以前、天の理が世を支配していた紀元前の世界。その神代を満たしていた空気である。

 現代とは比較にならない、桁違いな濃度の魔力(マナ)やエーテルが含まれる大気。

 それは現代に生きる人間にとって、劇薬どころではない毒となる。

 人間はおろか、黒鬼シリーズの契約者であろうと身体が耐え切れず、内側から破裂して死にいたるだろう。

 

 ならば何故、血を吐き地に這う程度で済んでいるのか。

 

 アークライトが加減しているからである。

 なにせ本気の神代回帰をしてしまえば、始祖以外の人間・吸血鬼は確実に死ぬ。そうなっては本末転倒だ。

 

 故に必要最低限。

 

 何より、堕天の王や神の如き者ならともかく、神霊ですらない、たかだか熾天使クラスならばこれで十分なのだ。

 

「さぁ、どうだ。思い出したか天使よ。私は覚えているぞ。どれほどお前達を屠ったか、今や数え切れぬな」

 

 この神代の空気の中でも、変わらずアークライトは言葉を続ける。しかし、その有り様は一変していた。

 

 一本に結んでいた金の長髪は解け、風もないのにユラユラと空中にたなびき、瞳はルビーの様な朱から常に変化する虹となり、手には見るだけで魂が圧壊されそうになる黒剣を携えている。

 

 そして全身から滲み出る圧倒的な神威。視界に入れれば浮かんでくる死のイメージ。

 もはや馬鹿らしくなる程に圧倒的で、絶対的な、覆しようのない生命としてのレベルの差。

 

 それを目撃した人間は瞬きすら怖れ、吸血鬼は自然と跪く。

 

「――■■」

 

 その時、何かが聞こえた。何を言っているかは分からない。けれどもガラスを引っ掻いたような不快感を覚える音。身体が聞く事を拒絶する声。

 そう、声、だ。

 

「――■■■■」

 

 声は次第に強くなっていく。発生源はアバドンだった。

 アバドンが身を震わせ、ギチギチと軋む様な音を響かせる。まるで限界が近いかのようだ。

 いや、ようだ、ではない。限界が近いのだ。

 

 ――――帝鬼軍が施した、拘束術式の。

 

「――■■、……■■■、……■■■■■■――――‼︎」

 

 そうして訪れた。アバドンを拘束し、制御していた楔は崩れ、溢れ出した超常を抑え切れずに消滅する。

 普通に考えればわかる事だ。

 曲がりなりにも人が届かない神話の領域にいる超常の存在。いくら生贄を対価にしたからといって、人間の力でそう長く抑えておける筈がない。

 そこにトドメとなったのがアークライト。天敵といえる存在が現れたことで、アバドンと天使を強烈に刺激してしまったのだ。

 

「そうだ、それでいい。さぁ来るがいい。お前達の大敵はここにいる」

 

 浮かべる笑みを更に深くし、かかってこいとばかりに言う。しかし、浮かべていた笑みをフッと消すと、何かを考え込むような仕草をした。

 

「――――ふむ、だが……」

 

 そしてアークライトは、その虹色の双眸で辺りを睥睨する。

 

「些か動ける者が多いな」

 

 呟くや否や、黒剣を持たない左の掌を天へ掲げ、

 

天降(あまくだ)れ――――」

 

 美しい声でソレを呼び、

 

 

 

「――――『月落とし(ブルート・デァ・シェヴァスタァ)』」

 

 

 

 月が、墜ちてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 遥かなるテン

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、ちょ、冗談ですよね⁉︎」

 

 ここまで手が出せなかったシノア達が、顔面蒼白で空を見上げる。

 

 夜になれば空に浮かぶ美しい月。

 

 それが今ここに出現していた。それこそ視界一面に。と言うより、見える範囲の殆どの空を月が遮ってしまっている。

 いや、現実逃避的なまどろっこしい言い回しはやめよう。

 

 天からこの名古屋空港目掛けて、月が墜ちてきていた。

 

「おいおいおいおい、マジで洒落にならねぇぞ……!」

「こ、こんなの逃げられるわけ……」

「くそっ、さすがにこれは……!」

 

 君月、与一、三葉の3人もシノア同様に絶句している。

 

 優が再び暴走し、そこにあの第一位始祖が現れ、なにやらいきなり身体が痛みに襲われたと思えばこれだ。

 

 文字通り、月が墜ちてきている。

 

 逃げ場などある筈もなく、それどころか規模と速度から考えて、日本そのものが消滅するかもしれない。

 あまりの巨大さに距離感が狂い、正確なところまではわからないが、衝突までおそらく十分もないだろう。

 

 まさしく天変地異。どれだけ足掻こうとどうしようもない事態。月そのものを墜とすなど、誰が想像できようか。

 

 この場にいる全ての人間が茫然と空を見上げ、迫り来る月の落下に目を見開いていた。

 敵である吸血鬼がいると言うのに、誰一人として動かない。否、動けない。あの支配者然としていた暮人や、鬼に取り憑かれたグレンですらもだ。

 

 それも仕方がない。信じられる筈がない。この天災を引き起こしたのは、たった一体の吸血鬼なのだから。

 

「これを使うのは三度目か。――――さて、人よ。天より来たるは鏡像の月。何を魅せてくれるのだ?」

 

 墜ちる月を呼び寄せた吸血鬼――重力を無視したかのように空中へフワリと浮遊したアークライトの声が帝鬼軍の人間達の耳に入る。

 その一言一言が紡がれる度に重圧がのしかかり、まるで魂が削られていくような感覚を覚える。

 

「さぁ、どうする。古来より化物は人に討ちとられるのが常。ならばこれも乗り越えてみせよ。少なくとも、元は人間の我が眷属はこれを斬ってみせたぞ」

 

 誰もが皆一様に、無理だと諦めた。

 

 月というこれだけの巨大質量を相手にどうしろと言うのか。

 

 迎撃、即死。

 回避、無理。

 破壊、論外。

 

 考えるまでもなく答えが出た。何をしようが無駄に終わる。そもそも身体を蝕むこの場の大気で満足に動くことも出来ない。

 皆が視線を地に伏せ、諦めを選択しようとした。

 

 

 ――――猛然と駆け出した、二人を除いて。

 

 

「轟け! 雷鳴鬼‼︎」

「斬り裂け! 真昼ノ夜‼︎」

 

 金色の雷撃と紅色の斬撃が迸る。

 暮人とグレンだった。

 この神代の空気の中でも比較的マシに動ける二人が攻撃に出たのだ。

 

「ほう、この神代の中でそうも動けるか。よい、来るがいい。私を殺せば止まるやも知れんぞ」

 

 アークライトが睨むだけで雷撃と斬撃は霧散する。

 

 そんなのは元から承知の上。地を踏みしめ距離を詰め、左右からアークライトを両断せんと刀を振るう。

 

「天使であれ人間であれ、私は差別せん。来るならば相手をしよう。だが――」

「そう容易くキングを取れると思わぬことじゃ」

 

 数メートルまで迫っていたグレンと暮人の眼前に、突如聞こえてきた美しい声と共に長大な刀が割り込んできた。鬼の力で強化され、帝鬼軍でも最強クラスであろう二人が呆気なく弾き飛ばされる。

 咄嗟に防御したものの、それを越えて伝わってきた威力にビリビリと腕が軋む。

 

 弾かれながらも体勢を立て直し、衝撃を殺して着地すると即座に構える。

 グレンと暮人が険しい視線で睨む先には、金髪金眼の美しい吸血鬼――キスショットが降り立っていた。

 

「来たか我が眷属よ。そこの二人は任せた。私はあの悪魔を滅する」

「任されたのじゃ。……しかし、ひさびさに黒歴史モードじゃのぅ……後が楽しみじゃ」

 

 何やら最後にポツリと漏らしニヤリと嗤ったキスショットだが、アークライトには聞こえていない。既に標的をアバドンへ切り替えているからだ。

 

 アバドンを振り向き、キスショットに背を向ける。途端、黒いヨハネが無数に襲いかかってきた。

 

「『墜ちろ』」

 

 それに対してアークライトは、ただ言葉を紡ぐのみ。

 

 迫って来ていた黒いヨハネが地面と区別がつかない程に圧潰された。

 

 他の黒いヨハネも過程は違えど、迎える結末は同じだった。

 

「『歪め』」

 

 防御が意味をなさない空間歪曲の渦で拉ぎ、捻られる。

 

「『轟け』」

 

 空間を鳴動させる衝撃波に大地諸共粉砕される。

 

「『滾れ』」

 

 割れた地面の裂け目から噴き出した灼熱の業火に焼かれる。

 

「『迸れ』」

 

 天から降り注いだ暮人の雷撃を遥かに超える雷光によって消滅する。

 

「『墜ちろ』」

 

 一度目は天にあるべき天使を沈め、二度目は黒いヨハネを圧潰させた局所的超重力が三度発生する。

 ただしその範囲は一度目、二度目とは比べ物にならない。半径数百メートルに渡って天からの鉄槌が下り、残っていた黒いヨハネを全滅させた。

 

 ここまでアークライトは一歩も動いていない。一切の動作なく、それどころか視線すら揺らさずに黒いヨハネを殲滅した。

 この黒いヨハネはアバドンより生まれた滅びの尖兵である。人間はおろか、並の吸血鬼すら圧倒する力を持っている。

 

 それが、全滅。おそらく三桁はいたであろうヨハネをたった一体の吸血鬼が、言葉を紡いだだけで。

 

 その力、名を『空想具現化(マーブル・ファンタズム)』。

 自己の意思を世界へ直結させ、望む確率を意図的に取捨選択し、世界を思い描く通りの環境へ変貌させる。

 始まりの吸血鬼であると同時に、天体という最大単位の生命体の具現であるアークライトのみが持ち得る能力である。

 あくまで自然現象のみを変貌させるので、自然から独立した存在には干渉できないという制約があるが、言ってしまえばそれだけ。利便性や応用性はすこぶる高い。

 この能力を知る比較的アークライトと歳が近いとある上位始祖曰く、世界を相手にするようなもの、だとか。

 

 アークライトの伝説・逸話(黒歴史)も、この能力によるものが大きい。

 

 しかし、自然を意のままに変貌させるだけならまだいい。十分に反則と言えるが、まだ予測や対処も可能だ。

 

 だが、これに魔眼が加わると変わってくる。

 

真理の瞳(プロビデンス)』。

 過去、未来、現在。この世の全てを見通し、理解するという魔眼のカテゴリーにおいて最上位の全能の瞳。

 

 アークライトの瞳に宿るこの魔眼を併用する事で、『空想具現化(マーブル・ファンタズム)』は世界の理にすら干渉するものへと昇華されるのだ。

 

 そうなれば最早無敵一歩手前。権能とまではいかなくとも、神霊以下の天使や悪魔を圧倒するなど造作もない。

 

「温いな。雑多をいくら生み出そうと所詮は雑兵。私を動かすには程遠い」

 

 アークライトが虹色の双眸をアバドンへ向ける。

 

「『弾けろ』」

 

 途端、アバドン周辺の空間が震えたかと思えば、知覚する間も無く一気に爆裂した。

 

「■■■■■――――⁉︎」

 

 新たに生み出そうとしていた黒いヨハネ諸共を全方位からの空間爆砕が襲う。流石にこれは堪えたのか、アバドンが苦しみの絶叫を上げる。

 

「■■■■――――‼︎」

 

 仕返しとばかりにその巨大な両手を前へ突き出すと、黒い靄のような瘴気が放たれた。

 その瘴気に触れたモノは数百年の時が経ったかのように朽ち果て、塵へと還っていく。

 

 滅びの軌跡を残しながら迫る黒い瘴気に、アークライトはただ黒剣を振るった。

 無造作に、霞む程の速度もなく、型など全くなっていない。本当にただ振るっただけ。

 

 だが、そのどうでも良さ気な動作に反し、起きた現象は目を疑うものだった。

 

 まず黒い瘴気は、初めからなかったかのように消滅した。何の予兆や前兆もなく、唐突に忽然と。

 

「頃合い、か」

 

 続けて黒剣を再び軽く振るう。それで、月が光の粒子となって解けた。

 

「――――は?」

 

 その唖然とした声を漏らしたのは誰か。今の今まで天から墜ちてきていた月が、抗いようのない絶望をもたらした月が、光の粒子となって空を満たしたのだ。

 

「『光よ』、『集え』、『重なれ』」

 

 空一面を金色に染めていた黄金の粒子が一点へ集束する。光に光が幾重にも重なり、アークライトの意思に呼応して形を成していく。

 

 形成されたのは、アバドンの全長をも優に超える光の槍だった。

 

「光栄に思うがいい。魔剣を使うのは、我が眷属を除いてお前で二度目だ」

 

空想具現化(マーブル・ファンタズム)』は結局のところ、あくまで自然現象を意のままに変貌させる力。

 プロビデンスによって時間や空間、因果も自然の一種と解釈を拡大させようとも、その原則から逸脱することはできない。

 

 ならば、この光の槍はどうだろう。

 

 肌に突き刺さる波動。空間を軋ませる神威。悪を許さぬとばかりに溢れ出す神聖なる輝き。

 光に嫌われ、神の敵となった吸血鬼は、思わず後退りしそうになる衝動に駆られ。脆弱な人間は、この神聖なる光の前ではどれだけ己は矮小なのかを思い知らされたような感覚を味わされる。

 滅びの悪魔であるアバドンですら、まるで恐れ慄くように身を震わせ、動きを止めていた。

 

 あらゆる悪を悉く滅殺し、この世の罪に等しく裁きを下す天罰の一撃。その性質は《終わりのセラフ》に近いものだろう。

 

 そんな権能の領域といっていい天罰の光槍。これが自然現象などと言えるだろうか。

空想具現化(マーブル・ファンタズム)』ではない。ならば何か。

 

「――――『真世界(リアル・オブ・ザ・ワールド)』、今ここにその威光を示せ」

 

 真世界とは、何もなかった世界のことを指す。あらゆる生命が存在しなかった頃の原初の地球でもなく、原初の混沌でもない。文字通り何もなかった世界。

 謂わばまっさらな白紙、もしくは生まれたばかりの無垢な赤子のような状態だ。

 ここから星が生まれ、生命が芽生え、人が出で、神が想像される。

 まっさら故にいかようにも変化する。故に真世界。

 

 ――アークライトが携える黒剣、『真世界(リアル・オブ・ザ・ワールド)』。

 真世界の名を冠するこの魔剣の能力は単純明解。

 

 魔剣の所持者を中心とした範囲内に真世界を展開する。

 

 ただそれだけ。

 それだけなのだが、意味を理解すれば戦慄するだろう。

 真世界とはまっさらな何もない状態。そこからいかようにも変化する。

 つまり、どう変化するかは手の加え方次第(・・・・・・・・・・・・・・・)

 言い換えるなら、その真世界の範囲内で所持者は、全てを知り全て能う事ができる。

 

 この言い方をアークライトは嫌うだろうが、謂わば全知全能の神となるのだ。

 いや、神霊すら超えるかもしれない。やろうと思えば、あらゆる神格が持つ権能を自在に再現することすら可能なのだから。

 

 アークライトは天罰の光槍が形成されたとみると、未だ神聖なる光で動けないアバドンを見据えた。

 

「終わりだ滅びの悪魔。人に天罰を下す神の意思だか知らぬが、私はこの世界が気に入っている」

 

 ――――故にお前は邪魔だ。疾く光となれ。

 

 そう言外に告げ、アークライトは真世界を頭上に掲げる。

 

 光が集まる。

 地上を照らさんとする黄金は槍へ収束し、その輝きをより一層大きくした。

 

 

 誰もが圧倒されていた。

 吸血鬼は、これこそが第一位始祖、吸血鬼の王なのだと畏怖と畏敬を。

 人間は、切り札であった天使を歯牙にもかけない怪物に恐怖と絶望を。

 

 

 様々な感情を背に、天体の化身たる吸血鬼の王はその名を紡ぐ。

 今や神霊すら超越し、言葉一つ一つがチカラを持つに至ったアークライトの声は、この戦場にいる全ての者へ届いた。

 

 

 

「――――神明裁断(Y・H・V・H)

 

 

 

 悪を滅殺する天罰の光槍は空を切り裂き落ちていく。

 

 絶対なる裁きから逃れる手段などない。

 

 光の槍は空間を貫き、

 蔓延する欲望を貫き、

 そして、アバドンを貫く。

 

 血に染まり、欲望に塗れた醜い戦いは、ここに終わりを告げた。

 

 

 

 

 




はい、私が考察した『虹』の魔眼と魔剣の能力はこれです。自分でやっといて何だけど、あんた問題児か神座にでも行きなさいよ。

でもまだ本気じゃない模様。本気だったらキスショット以外と戦闘が成立しません。だって同格以下からの干渉を完全無効化だから。だから破壊と再生の鏃だろうが乖離剣だろうが効きません。元を辿れば全て星から生まれたものなので。

次回はキスショットvs暮人&グレン、そしてアークライト視点を予定。気長に待っててください。

ちなみに最後の神明裁断、唯一神を冠していながらその場の思いつきだったりします。

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