転生したら始祖で第一位とかどういうことですか   作:Cadenza

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前回投稿時に番外編よりまず本編をひと段落させて欲しいと感想であったので、番外編と同時進行でいきたいと思います。
今話より原作第二部前、優たちが日本に戻るまでの閑話に入りますが、他にも帝鬼軍の様子やウルドやレストなどの吸血鬼側など、5000字前後の短めで書いていきます。

尚、今回は優たちのアヴァロン入りですが、細かいとこまでやると時間と字数がえげつないことになりそうなので、かなり簡略してます。そこら辺は後々区切りながら書いていくのでお待ちを。

番外編も続けていくのでよろしくお願いします。



彼方のアヴァロン

 空には淡くも暖かな光。ここは地下都市の筈だが、聞くところによると都市全体を照らす程の光量を放出する魔法道具(アーティファクト)だと言う。

 

 記憶にあるかつて囚われていたサングィネムに比べれば幾分か小さく感じるが、実際の印象は全くの正反対。ひときわ高い塔が象徴的なレーベンスシュルト城と城を中心に八方向へ伸びる大通りを基点とし、ある程度高さの揃えられた建物が軒を連ねてアヴァロンという都市を形成している。

 サングィネムは人間と吸血鬼が完全に区別されていた。吸血鬼は豪華絢爛な屋敷に住み、人間の子供たちは廃墟よりはマシな小さい小屋に肩を寄せ合って隠れるような状態で生きていた。そう、最低限に生きていける、まるで家畜のように。いつ気まぐれで殺されるかもわからず、血の代わりに生かされ、管理される家畜。

 

 だが、サングィネムと同じ吸血鬼の地下都市の筈なのに、このアヴァロンは違った。

 眼下を見やれば綺麗に整えられ、生活環境が整えられた街並み。大通りは人が行き交い、聞こえてくる喧騒がそのまま活気を表していた。生活基準は世界滅亡前とは比ぶべくもないが、人々の顔からは不便さや不安といった負の感情は見られない。むしろ日本帝鬼軍の本拠地である渋谷に住まう人々よりも、ずっと生気に満ち溢れている。

 

 これだけ見るなら驚きつつも笑みを浮かべて、世界が滅亡しても変わることのない人の強さに励まされることだろう。しかし、その中に敵であり復讐の相手でもある吸血鬼が混じっている光景がストップをかける。

 しかも記憶にあるような感情が薄く人間を劣等種やら家畜やらと見下していたものではなく、傲慢さなど欠片も感じさせない顔で人間の輪に入り、更に種族の違いなど関係ねぇとばかりにお互いに笑い合い、トドメには人間たちもそれが普通なのだと受け入れているのだ。

 

 今までやってきたのはなんだったのか。これまでを全否定されたような気分になり、溜め息を吐いて視線を目の前に戻した。そして手を規則的に力を入れ過ぎないよう繰り返し振り下ろしていく。

 

 隣でサポートをしているチームリーダーに動きを止めずに一言。

 

「……なぁシノア。俺たち、なにやってるんだろうな」

「なにって……優さん――――」

 

 エリアスとの交渉より早くも二週間。シノア隊+鳴海真琴はアヴァロンへ。最初こそ驚愕のハメ技コンボでHPがレッドゾーンに突入したが、暫く過ごしてみればもう慣れてしまった。そう、今の状況にさえも。

 

「傷んだ屋根の修理ですけど?」

「いやそうだけどさぁ!!」

 

 現在、優とシノアはお仕事中だった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 あの交渉の後、シノア達はすぐに準備に取り掛かった。日本から出る以上、お世話になった集落の人々を残していく事になるのがかなり未練となったが、そこは抜け目のないエリアス。後数時間もすればここに帝鬼軍の捜索隊が来るよう仕向けたらしい。帝鬼軍は生き残った人間の受け入れもしている為、優たちがいた形跡を残さなければ順当に保護してもらえるだろう。

 尚、それを知ったシノアは落ち込んだ。何故なら交渉など最初からエリアスの勝ちが確定していたのだから。帝鬼軍が来ることを交渉に持ち出されていたらもう詰みだった。交渉とは準備段階で勝敗が決するもので、その点まさにエリアスは用意周到だ。シノアは自分のスキルなどエリアスと比べれば月とスッポンだと遠い目で悟った。

 

 集落の人々が大丈夫なら、もはや後顧の憂いなし。荷物――と言っても鬼呪装備とポケットに入る程度のものしかないが――を纏め、いざアヴァロンへ。

 どうやってアメリカまで行くのかと疑問に思ったのも束の間、エリアスの影が大きく広がり、全員を呑み込む。エリアスがアークライトより教えを受けた精霊魔法、影の転移ゲートによってほんの数秒でアヴァロンへついた。

 

 そこからはもう悟りを開いてしまうと言わんばかりに、優たちのSAN値を削る驚愕の連続だ。

 

 まずアヴァロンとは昔アークライトが領主をしていた頃に呼ばれていた名であり、現在のアヴァロンはアークライトが吸血鬼だと知って尚ついてきた人間と、人間との共存を望む異端の吸血鬼が集まって誕生した地下都市だと言う。

 そんな馬鹿なと最初は一蹴した優たちだが、実際にアヴァロンを数刻ほど見て回れば信じるしかなくなった。なにせそこには人間と吸血鬼が、人間よりも人間らしく生活していたのだから。

 加えてアヴァロンは世界滅亡時、どの地下都市より早く人の保護に動いていた。黙示録のウィルスは全世界同時多発的に発生した上、突然のこと故にウィルスを死滅させるワクチンを何百万分の一まで薄めたアークライトの血から精製するのに時間がかかり、更に絶対的な人手不足が重なったこともあって多くは救えなかった。効率的に量産できるものでもない為、ワクチンが供給できた範囲はせいぜいアメリカ合衆国程度。それこそアークライトにキスショット、エリアスが出張っても間に合った数は合衆国全体のほんの数パーセントだろう。だが、何も出来なかった人間や、あまつさえ世界滅亡の原因を作った柊家より遥かに立派だ。

 生き残った人たちは、アヴァロンの真上にある街を整備し、物理的・魔術的な防御を施して暮らしていると言う。

 

 アヴァロンに着いて数時間しか経っていないのに、逃亡生活を続けていたこの一ヶ月より多大な疲れを感じた。これまでの常識を根底から覆す驚愕の連続に、身体的ではなく精神的に参ってしまったのだろう。

 このままアークライトと謁見するには些か問題ありと判断したエリアスは、逃亡生活でまともに着替えや身体を洗うこともままならなかったのか臭いが酷いことも加わり、明日まで休むようにと伝え、(優たちにとって)激動の一日は終わりを迎えた。

 

 そこからアークライトとのやりとりがあったり、アヴァロンでの規則をエリアスから教えられたり、アヴァロンにいる間暮らす家を案内されたりと、トントン拍子にことが進んでいった。

 

 そして現在。アヴァロン北東部にある建物の上で、優とシノアは傷んだ屋根の修理をしていた。

 

「ほらほら優さん。口ではなく手を動かしてください」

「いやさぁお前、なんでそんなに平然としてんだよ。なんかおかしいだろ、今の状況」

「手を、動かしてください」

「……わかったよ」

 

 シノアから目が笑っていない笑みを向けられ、作業を再開する。それを見て優の問いにシノアが答えた。

 

「確かに優さんの気持ちもわかりますが、ここに来ることを選んだのは私たちです。それにこれは条件の一つですからね。……まさか本当に言葉通りだとは思いませんでしたけど」

 

 シノアとしては仕事をしろというのは比喩表現で、もっと何か別のことを想像していたのだ。だが蓋を開けてみればそのままの意味だった。

 アヴァロンに来てから都市の修繕などを主にやっている。何度かヨハネの撃退や地上の捜索など危険が伴うものもあったが、優たちシノア隊だけでなくアヴァロンの部隊も含まれているのでそうそう事は起こらない。

 帝鬼軍で吸血鬼と戦っていた時や、一ヶ月の逃亡生活と比べれば、なんと楽なことか。

 

 だが、そんなこれまで縁のなかった平穏な暮らしに、どこかむず痒いものを優は感じていた。

 

「本当に俺たちがやってきたことは何だったんだって気持ちになるよ。ここを見てると」

「来たばかりの頃は突っかかってましたよね、あのアークライトさん相手に。……見てるこっちは冷や汗どころか生きた心地がしないのでマジでやめてくださいよ」

 

 ミカエラからアヴァロンが人間と吸血鬼が共存している都市だと聞いたとしても、アークライトとキスショットが他の吸血鬼と違うと感じても、やはり優にとっては受け入れ難いものだったのだろう。

 

 だが、たとえそうでも第一位始祖に食ってかかるのはやめて欲しかった。見ているこっちは気が気でない。アークライトはその程度で気分を損ねたりしないとエリアスに言われても、相手が次元違いの超越者なのを考えると肝が冷える。一番怖かったのは優の物言いに満面の笑みを浮かべていたエリアスだったが。

 尚、その後に優たちの世話役として紹介された人物に、これまでで最大の衝撃を受けることになるのだが、それはまた別の話だ。

 

「俺が自分勝手なこと言ってたのは認めるけどよ、あいつもあいつだろ。無表情で淡々として。こっちに関心がないみたいで、サングィネムの吸血鬼どもを思い出してイラつくんだよ」

「その辺は慣れてください。エリアスさんが言ってたでしょう。アークライトさんは感情を表に殆ど出せないと」

「人見知りかってのあいつは」

 

 実はこのやり取り、アークライトにばっちり聞こえており、「これは仕様でコミュ障なんだから仕方ないだろぉ!」と内心で叫んでダメージを受けてたりしたが、キスショット以外にそれを悟れる者はいないので、シノアと優が知る由もない。

 

「取り敢えずそれは置いといて。まずここの修理を終わらせましょう。また君月さんや鳴海さんから毒舌が飛んできますよ」

「へいへい」

 

 トンカントンカンと、作業の音が響く。

 そうして修理が八割ほどまで進んだところで、再び優が何気なく口を開いた。

 

「なぁ……俺たち、このままでいいのか?」

 

 思わずシノアの手が止まる。

 

「このまま、とは?」

「今はこうして暮らせているけどよ、ずっとは無理だ。すぐにとは言わねぇけど、日本に戻らないと。君月の妹や柊家、それにグレンだって……」

 

 優の脳裏に涙を流したグレンが浮かぶ。あの涙が偽物だとは思えなかった。もしミカエラから聞いたように、鬼に取り憑かれてああなっているなら、絶対に放っておけない。

 君月の妹の未来も、自分のように何かの実験体にされているなら同じだ。仲間の家族なら優にとってもまた家族と呼べるのだから。

 

「ここに来て色々知って、頭が滅茶苦茶になるくらい驚いて、人間と吸血鬼が仲良くて、今までの俺がわかんなくなって、ホント意味わかんねぇよ。だけど、これは忘れちゃダメだ。俺たちにはやらなきゃいけないことがある」

「…………」

 

 やらなければならないこと。その言葉にシノアは思わず押し黙ってしまう。

 

 シノアはリーダーだ。忘れていた訳ではない。それでも今だけは、と甘えた考えがあったのかもしれない。これまで頑張ってきて、これだけ傷ついたのだから、今くらいなら、と。そんな言い訳で正当化し、自己の甘えを許していた。

 そんな余裕が自分たちにあるのか。人間は弱く脆い、一人では何もできない生き物だ。だからこそ知恵と知識を身につけ、何度も挫折と失敗を繰り返し、集まり群れて力を合わせ、そうして漸く偉業を成すことができるのだ。

 

 今この瞬間も、目的の為にやるべきことと、やれることがある。為すべきことを成してこそ、初めて大事を遂げられのだから。

 

「……優さんの言う通りですね」

「シノア……」

「私は、どこか甘えていました。私たちにはやらなければならないことがあります。まったく、優さんに言われて思い出すなんてダメですね」

「おいこら」

「褒めてるんですよ。事実、優さんに言われなければ、このままここの平和に浸かり続けていたかもしれませんからね」

 

 感じたことのなかった平穏は、常に滅亡と死が隣り合わせだったシノアたちにとってそれだけ甘美だった。優のおかげで早い段階で気付けたのは幸いだ。

 

 帝鬼軍は名古屋での一件で受けた被害やら次元違いの力を振るったアークライトへの対策やらで、そうそう復活できないだろう。《終わりのセラフ》でかなりの数がやられた吸血鬼も同上で、一体一体が強力でも絶対数が少ない吸血鬼では、失った戦力を立て直すのには時間がかかる筈だ。

 あの一件から一ヶ月以上経っているが、まだ猶予はある。だが多いとも言えない。残り少ないであろう期間で、何をやれるかが重要だ。

 

「だから、ありがとうございます。優さん」

「お、おう。ま、このくらいなんてことないぜ」

「では差し当たってですが――」

「やっぱ連携だろ。これからはミカと鳴海も加わる訳だしな。後は鬼との会話か? 俺もなんだかんだで阿朱羅丸と最近話せてないし「優さん」……」

「仕事、しましょうか」

「……だよな」

 

 今やるべきことはそれだろうと、二人は一刻も早く終わらせる為に作業へ戻るのだった。

 

 

 

 そして二日後。シノア隊並びにミカエラと鳴海は、廃墟にてエリアスと対峙していた。

 

 

 




次は二人のデアイ中編を投稿予定。

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