転生したら始祖で第一位とかどういうことですか   作:Cadenza

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みなさんお久しぶり。さて、今回は前々から予告していたアークライトとキスショットの出会いです。本当は一話で終わらすつもりだったのですが、予想以上に長くなり、上中下の三話構成となりました。もう内容自体は考えてあるので残り二話も近いうちに更新します。

尚、時系列は本編終了後です。


二人のデアイ 上

 なに、俺とキスショットの出会い?

 なんでそんな事を……是非聞きたい?

 う〜ん、どうしたもんか。いや、黒歴史ってわけじゃないし、むしろ一番大切な過去なんだけどさ。だって、恥ずいじゃん? 自分の恋路を他人に語るとか。

 

 キスショットだってそう――何故かイイ笑顔を向けてらっしゃる。

 儂は構わぬ? むしろ俺の口から聞きたい? さいですか。

 

 隠すような事でもないし、まぁいいか。

 そうだなぁ……だいたい1100年前。九世紀の中頃あたりだったな。

 

 俺の最盛期の最期の世紀だって?

 取り敢えずお口チャック。話し終える前に俺のライフが終わるから。

 

 この時で俺の歳は凡そ1200歳。

 吸血鬼って基本的に不老長寿だけど、俺に関しては本当に不老不死らしいよ。更に不朽不滅も付くみたい。物理的に完全消滅しても復活するかも。

 試す気ないけど。

 

 うん? いや、不老不死なんてそんな良いものじゃないよ。

 何があっても死なない――死ねないんだ。

 二百年程度ならまだいいだろうけどさ。十世紀だ。

 不老不死にありがちな、生きることに意味が持てなくなる。飽きてくるんだろうね。

 こればっかりは経験者じゃないと分からないな。

 

 話を戻すと、基本的に吸血鬼は不老長寿。生物として性能も高いから、外的要因で死ぬこともない。

 だから吸血鬼の死因は、自殺が大半。永く生きることで感じてしまう飽きには、始祖でも抗えないってことだ。

 これは俺も例外じゃなかった。

 

 不死の吸血鬼が自殺できるのかって?

 正確には不死じゃない。だって死ぬ方法があるのに、それを不死と呼んでいいのか微妙だろう?

 吸血鬼が自殺する方法とは、血を吸わないことだ。

 血を絶つことで肉体を維持できなくなるってのもあるけど、吸血鬼にとっての吸血は己の存在の証明なんだ。

 吸血鬼が血を絶つということは、己の存在を否定することに他ならない。

 長く血を絶てば、存在を保てなくなり、最後には崩壊する。

 

 そう、その通り。そうして鬼という存在が生まれる。

 

 あいつら――俺以外の最初の始祖が血族を残して逝っていく中で十一世紀も生きた俺も、そろそろ限界だった。

 そうして選んだ方法が、血を絶っての自殺。なにしろ馬鹿げた程の不死身だからな。それしか思い浮かばなかった。

 

 そんな時だった。俺がキスショットと出会ったのは。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 いつからだろうか。世界が薄く見えてきたのは。

 生きて生きて、また生きて。そして生きている事に意味を見出せなくなった。

 退屈を紛らわせようと色々やってみたが、長くは続かず。

 

 始まりの吸血鬼――アークライト=カイン・マクダウェルとして生まれて千年程。

 他の始祖が血族を残し、最後には血を絶って死を選んで逝く中、眷属も作らずに生きていた。だが、それも限界。

 

 そろそろ死のう。そう思い、血を絶った。しかし存在が存在故に、直ぐに渇きで死ぬこともない。

 

 ならば。

 最後にもう一度、世界を周ろうと放浪していた。血を絶って今日で凡そ十年と言ったところか。もっと経っているかもしれない。さすがに身体の働きが鈍く感じる。

 

 最期を迎えるなら北欧辺りがいいと思い、存在を隠蔽して人間の都市をぶらぶらと歩く。

 そんな時、妙な話を耳にした。童話なのか噂話なのか。しかし、詳しく聞こうとはしなかった。

 どうせいずれ死ぬ。今さら興味は湧かない。

 

 そうしてまたぶらぶらとしていた時だった。鼻孔を久しい匂いがくすぐってきたのは。

 

「……血の匂い」

 

 それも人間一人分なんてレベルではない。何千何万。大規模な戦争でも起こらない限りここまで濃くはならないだろう。

 だが、この辺で戦争の気配など感じない。

 

「…………」

 

 さすがにここまで濃いと何があったのか気になる。少し足を向けてみるのもいいだろう。

 そう思って血の匂いがする方向に行ってみれば――そこは血の海だった。

 

 赤赤赤赤、血血血血。そして死体死体死体、死体。どこに目を向けても例外なくそれが映る。

 周囲には、血を吸う鬼と言われる吸血鬼ですらも噎せてしまいそうな程に蔓延する血の匂い。

 長く生きているが、ここまでの絶景など見たことがない。文字通り、想像を絶する光景だ。

 魔法で浮遊しなければ移動もできない――足の踏み場もない有様だった。

 

「……なんだこれは」

 

 あまりに予想外。目を疑うような光景。

 しかし最も驚いたのは、これだけの惨状でありながら、この場が全く淀んでいない事だ。

 通常、戦争やこの場のように大勢の人間が死ねば、その場には負の思念が溜まる。

 特に戦争の激戦地跡など、下手に人間が踏み込めば憑き殺されるだろう。

 だがここは違う。負の思念が全くない。

 

 ひしめく死体の一人に近づき、死に際に浮かべたであろう表情を覗き込む。

 笑顔だった。歓喜だった。

 まるで、自ら進んで命を捧げたかのように。他も見てみるが、皆一様に笑顔。喜びのまま死んでいったようだ。

 

 若干高度を上げ、視界を広げて見る。やはり赤と血と死体。

 ここはそれなりに大きな国だったと記憶しているが、どうやら今や、国民全員がこの光景と化してしまったらしい。

 よくよく見ると、死体で道が出来ている。より正確に言うならば、一方向に向かって死体の数が増えていっている。

 

「…………」

 

 本当ならここで去るべきだろう。その先に待っているのは、確実に超級の厄介事に決まっている。

 だが、今の自分は血を絶ち、長くない時間で死に至る身。なら最期くらい、自分から厄介事に向かうのも一興か。自暴自棄とも言えるが。

 

 死体の数と共により濃くなっていく血の匂い。より濃くなっていく方に向かう。

 本当に国民全員が死んでいるようだ。国一つの民が全て死ぬというのも珍しい。例え、敗戦国に対してだろうとここまでしない。

 

 そうして暫く行ってみれば、死体に埋もれた小屋があった。

 いや、これを小屋と表していいものか。奴隷部屋の方がまだ立派かもしれない。

 しかし小屋である。中に人の気配があり、何やら料理をしている――生活をしているのだから小屋と言える。

 

 しかし、周りがこんな惨状にもかかわらず、普通に料理ができるとは。狂人の類だろうか。

 状況から考えれば、小屋の中にいる人物がこの惨状の関係者、もしくは原因だろう。

 

 念の為、魔法を発動できるようにしておきながら着地し、そっと扉を開ける。

 吸血鬼は招待されなければ室内に這入れないなんて言われているが、あくまでそれは、そう伝えられているだけであり、アークライトには何の影響もない。

 そもそもこんなボロい――と言うか脆い小屋に這入るのに招待が必要かと言われれば、些か疑問である。

 

 気配があるとは言え、本当に人がいるのだろうかと思ってしまう程だが、這入ってすぐにそれは払拭された。

 探すまでもない。

 土間で。火のついた竃で、ことこと鍋を煮ていた。質素な洋服にエプロンをつけて、自ら料理する彼女。なんと女性だった。その姿は一見普通。

 しかし彼女からは、隠しきれない程の何かが出ていた。最強の吸血鬼であり唯一の王、そう呼ばれるアークライトに勝るとも劣らない何かが。

 

「あら。どちら様でしょうか?」

 

 ノックもせずにいきなり見知らぬ男が入ってきたと言うのに、彼女は何気なく尋ねる。

 

 だが、アークライトは答えない。アークライトは、その無表情を崩して惚けていた。

 彼女の人並み外れた美貌と――何故か透けて見える心の清らかさに。

 

「……私は、アークライト。アークライト=カイン・マクダウェル。吸血鬼だ」

 

 未だ惚けながらも答える。魅了されたのかもしれない。本来、魅了は吸血鬼のスキルだと言うのに、その吸血鬼が魅了されるとは。

 

「マクダウェル様ですか。わたくしはアセロラ。人間です」

 

 対して彼女は、スカートの端をつまんで、上品にお辞儀しながらそう返す。

 

 これが、のちにお互いを永遠の伴侶とし、悠久の時を共に生きる人間と吸血鬼の、初めての出会いだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 話を聞いて見ると彼女――アセロラ姫は、なんでも魔法にかかっており、それを解く為に旅を続けていると言う。

 その魔法が周りの惨状の原因らしい。しかし、魔法はあくまで間接的な原因であり、直接的な原因はその魔法によって可視化されたアセロラ姫の内面の美しさだ。

 魔性すらも超える、ある意味で神性と言ってもいい心の美しさ。それを目にした者は、その美しさに報いる為に己が大切なモノを捧げる。

 

 こう聞けばおとぎ話にあるような悲劇なのだが、魔法をかけたのは悪い魔女でも魔物でもない。

 外見でしか判断されない、誰もが上部しか見てくれないことを憂いていたアセロラ姫を見て感激した魔法使いのおばあさんが、アセロラ姫を想ってかけたのだ。

 

 そうしてかけられた内面を可視化する魔法。齎された結果は――強靭な精神を持つアセロラ姫にすら絶望を与えた。

 

 初めに、これまで外見でしか判断できなかった事を恥じた父親は、城のテラスから身を投げた。

 次に、娘がこれほどまでに育ってくれた事に満足した母親は、朝食を作り終えると笑顔で息を引き取った。

 更に、やはりアセロラ姫を外見でしか表現できなかった音楽家や詩人、芸術家は己の最も大切なモノを捧げた。命より大切なモノがない者は命を。自分の命、親兄弟の命、子供の命、孫の命を捧げた。

 そして、アセロラ姫の故国は、一夜にして滅んだ。

 

 だが最後に奇跡が起こった。最初に心が可視化されたアセロラ姫を目にし、一番大切なモノ――即ち知識が詰まった頭を捧げた魔法使いのおばあさん。魔法を解いて貰おうと再び訪ねたアセロラ姫がこぼした涙が、首だけとなった筈のおばあさんをほんの少しだけ、生き返らせたのだ。

 

『旅に出なさい。魔性をも超えるお前の心の美しさの為に死んでしまう者を、いつかは助けられるかもしれない。その時まで、お前は人々から離れ続けなさい。誰とも寄り添わず、一人で生きなさい』

 

 そうしてアセロラ姫は、その誰かを探す為に果てのない旅を続ける。

 

 なんて事をアセロラ姫の口から語られた。

 

「……なんと言うか、なんとも言えぬ話だ」

「その通りです。お父様もお母様も、国の皆様が死んでしまったのは、全てわたくしの所為。わたくしに同情される資格などないのです」

 

 ――お前が望んだ事ではないだろう。

 

 そう言いそうになったが、本気で責任を感じているアセロラ姫を見て、やめた。

 文字通りの亡国の姫と言ったところか。冗談にしては笑えない――まったくもって救いのない話だ。

 

「――いや待て。何故お前は、私と話せている」

 

 ここまでアセロラ姫は普通にアークライトと会話していた。

 しかし両者には、決定的な違いがある。アセロラ姫は人間で、アークライトは吸血鬼。

 

 人の血を吸う化物――吸血鬼を相手に、何故こうも何ともないように話せるのか。

 

「私は吸血鬼だ」

「そのようですね。実在していたとは思いませんでした」

「人の血を吸う化物だ」

「では、血を求めてここに来たのですか? それなら申し訳ございません、応えてあげられなくて」

「…………」

「何か?」

「いや……」

「お腹が空いていらっしゃるようでしたら、ご一緒にいかがですか? ちょうど、ポトフが出来上がるところです」

 

 言って、アセロラ姫は鍋を両手に持ち、竃から取り外して小屋の奥に向かおうとする。

 

「吸血鬼は人間の食事で栄養を得ることはできない。私なら味わうことはできるが、それは嗜好品としてだ。――なにより私は、もう生きる為に血を吸う気はない。ここに来たのも血を求めてではなく、何があるのかと興味によるものだ」

 

 鍋を置いたアセロラ姫が首を傾げる。

 

「血を吸わない? 吸血鬼が血を絶って大丈夫なのですか?  それではいずれ……」

「ああ。いずれ死ぬだろうな」

 

 ――構わない。それが目的なのだから

 

 吸血鬼が減るのだ。理解できないモノを忌避する人からすれば、それが神の敵と言われる吸血鬼なのも相まって、諸手を挙げて喜ぶことだろう。しかもその吸血鬼が世界を滅ぼせる程の、神をも超える人類の手には余る存在ならば尚更。

 

「いけないことですよ、自殺は」

 

 だと言うのに、死ぬつもりだと聞いたアセロラ姫は、その端麗な顔を顰めて事もあろうに引き止めてきた。

 

「なぜ止める。人間からすれば喜ばしいことだろう」

「貴方だって生きている一つの生命でしょう。命を捨てて喜ぶなんて、言ってはいけません」

「理解できんな。人間が吸血鬼の命を惜しむなど前代未聞だ。何より私の生き死にをお前にどうこう言われる筋合いはない」

「だからこそです。自分の命は自分で決めるしかありません。だからこそ、簡単に命を捨てるなんて選んではいけません」

「簡単にだと――」

 

 たかだか生まれて三十年も経っていない小娘に、十世紀以上を生きた果てに選んだ終わりを、簡単にと断じられ、アークライトの感情を写さない筈の瞳の奥に激情の焔を宿らせた。

 

 

「それは、私が吸血鬼であることを理解した上で、なお簡単にと断じるか?」

 

 

 偽りを許さないと、冷たく鋭い声色だった。同時に凄絶な威圧が空間を満たした。

 アークライトからしてみれば感情が昂り、少し表に出てしまっただけなのだろう。だが、いかに何十年と血を絶ち、弱っていようと彼は最強の始祖にしてアリストテレス。星そのものであるアークライトの少しは、万人には大海もしくは大空に等しい。

 

 半径数キロ内にいた空飛ぶモノは翼が千切れんばかりの羽ばたきで逃げ出し、地を歩くモノは脇目も振らず遁走した。そして、不幸にもその範囲にいた人間は、まるで蛇に睨まれた蛙のように身を硬直させた。動けば死ぬ、身動ぎ一つしてはならない、ただじっと過ぎ去るのを待つ、と。

 

 余波だけでこれだ。そもそもアークライトが個人に敵意を向けようものなら、向けられた者は肉塊に変わる。

 ならば、直接向けられた訳でなくとも最も近くにいたアセロラ姫はどうだろう。

 

「はい」

 

 即答だった。一切の躊躇いや淀みなどなく、真っ直ぐに目を合わせて。

 

「貴方は私などが想像できないほど生きているのでしょう。それに相応する経験をしてきたのでしょう。――――それでも、です。簡単に命を捨ててはいけません」

 

 天が墜ちてきたような威圧を受けながらも一歩も退かず、アセロラ姫はそう言ってのけた。常人なら返答以前に気絶している。凄まじい程に強靭で強硬な精神力だ。

 

 アセロラ姫の硬く揺るぎない意思を受け、アークライトはその朱い瞳でジッと視線を合わせる。偽りを見抜き、奥底まで見通すように。

 そうして暫くして、空間を満たす威圧がフッと消失した。見れば、アークライトは口角を僅かに上げ、自嘲するような笑みを浮かべていた。

 

「そこまで断言されてしまうと、むしろ気持ちがいい。本当にらしくないな、この私が」

 

 先程までは、己の終わりを決め、死を選択したからなのか諦観的な雰囲気だったアークライト。だが今は、自嘲すると共にどこかスッキリした様子になっている。

 

 アセロラ姫の脇を通り越して奥に向かいながら、小屋全体に魔力を流して壊れないよう強化を施した後、肩越しに振り返る。そして何も映さなかった貌をほんの少し崩して、アセロラ姫に言った。

 

「ポトフ、いただこう」

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「……中々の味だな。周りの凄惨さが玉に瑕だが」

「ありがとうございます」

 

 アセロラ姫とアークライト。人間と吸血鬼。二人は椅子に座り、向かい合ってアセロラ姫手製のポトフを食べていた。

 

「私、料理はそれほど得意ではないので。お口に合うかどうかわかりませんが」

「あまり己を卑下するな。これでも趣味嗜好として世界中の食を口にしてきた。私から言わせても美味だ。その食すらも何十年と絶っていた身ではあるが」

 

 アークライトは数少ない例外として、血以外にも人の食べ物を味わうことができる。ただ栄養は取り込めないので、言った通り趣味嗜好としてだ。

 そんな料理すら味を忘れるほど、長い間口にしていない。もともと必要なものではない上、死を選択した今、食べる意味を見出せなかったのだ。

 

 なのに、何故だろうか。最高とは言えないこのポトフが、とても美味しく――そして暖かく感じた。

 誰かと言葉を交わしながら共に食べる。当たり前である筈のソレは、アークライトが記憶を遡る限り既に那由多の果て。転生して吸血鬼となってから、下手をすれば初めてかもしれない。

 

「それにしても、貴方は私といても何ともないのですね」

「む? ああ、なるほど。確かに私にもお前の内面が透過して見える。だが私は吸血鬼、その中でも始祖と呼ばれる希少種だ。本来ならお前に向く悪意や敵意はそのまま己に返ってくるのだろうが、私には殆ど効果がない。良くて薄れる程度だ。恐らく一定以上の神秘には半減ないし無効化されるだろう。このまま旅を続けるというのなら、頭の片隅にでも置いておくといい」

「……そうなのですか。なにぶん、魔法は知っていても貴方のような存在と会うのは初めてでしたので。ご忠告、感謝します」

 

 本来なら恐れ忌避されるべき吸血鬼からの言葉を、たとえ事実であろうと受け入れるアセロラ姫に、アークライトはよく分からない妙な気持ちになった。

 

「本当にお前は変わっている。私が吸血鬼と知って尚、そう平然と接する人間は初めてだ。弱り衰えた身とはいえ、人程度の命を刈り取るのは容易いのだぞ?」

「そう言う貴方こそ自分を卑下しているのはないですか? 先程からまるで、恐れられるのが当然、怯えられるのが当たり前と、まるで諦めているような印象を受けます」

 

 時が停止したように空気が凍り、アークライトが無表情に戻る。

 

「……諦めているも何も、それが普通だろう。吸血鬼だ。神の敵だ。人間はそう言って私を殺そうと襲い、私はその悉くを葬ってきた。今更それは変えられない。諦めではなく、ただの事実だ」

「事実を事実としか受け止めないことを諦めと言うのです。諦めてしまえば、停滞してしまえば、待っているのは無意味な終焉。何の意味も持たない終わりほど、悲しく虚しく寂しいものはありません」

 

 だから旅を続ける。アセロラ姫の魔性を超える心の美しさで死んでいった人たちに意味を与える為に。そして、そんな誰かをいつか助けられる為に。

 

「……だから進むと? その過程で生まれた無数の屍、滅ぼした国、捧げられた命を背に、お前は進み続けると?」

「はい」

「茨の道――否、地獄といってもいい道だと理解していてもか?」

「はい」

 

 アセロラ姫の間髪入れない真っ直ぐな答えに、アークライトは目を瞑り無言となる。

 

 その心は強く美しく、穢れのないものだ。ここまでの強靭さはそうそうないだろう。だがそれはあまりに美し過ぎる。綺麗過ぎる水には魚が住めないように、度を越えたものは毒となるのだ。

 

 だが、それはアークライトも同じこと。ある意味同類と言える二人。故に分かる。お互いに受け入れられずとも、理解はできる。

 ただ違うのは、アセロラ姫はそれを認めた上で進み、アークライトは諦め停滞したこと。

 

 人間でありながら、自分以上の苦悩と絶望を味わいながらも、自分とは違う道を歩んだアセロラ姫。アークライトにとってその姿は、閉ざしていた心を刺激するのには十分なものだった。

 

 ――――――閉じられていた瞼が開かれる。

 

「アセロラ姫。停滞の果ては意味のない空虚な終焉だと、お前は言ったな。それに偽りはないな?」

「はい。だから私は旅を続けるのです」

「そうか。――ならば、私から提案だ」

「提案……ですか?」

「そうだ。私が選んだ終わりが無意味だと言うなら、お前が私に意味のある終焉を見せてみろ。少なくともそれを見届けるまで、私は生き続けよう」

「それは……ですが……」

 

 困惑したように表情となるアセロラ姫。答えを早まるな、とアセロラ姫を押し留め、アークライトは続ける。

 

「無論、これはお前にも益があるものだ、アセロラ姫。お前がこのまま放浪の旅を続けても、お前が助けられる誰かが見つかる保証はない。ここから次の国に行こうと、またその心の美しさの犠牲を増やすだけだ。お前はお前で配慮はしているのだろうが、やはり限界がある」

 

 その結果がこれだ、と周りに視線を巡らす。初めてアセロラ姫の仮面が崩れた。

 悲壮、後悔、苦悩、怒りなど、様々な感情が綯い交ぜになった見るも痛ましい表情をアセロラ姫は浮かべる。

 

 たとえ強靭な精神を持ち、いくら気持ちを奥底にしまい込み無感情を装おうと、これまで死んでいった者たちの命はアセロラ姫に強く重くのしかかっている。

 こう正面からそれを言われれば、いくらアセロラ姫でも抑えきれなかったらしい。

 

 アセロラ姫の悲痛な表情に何かが沸き上がってきたが、この千年で固められた無表情の鉄仮面で抑え込んで続ける。

 

「故に提案なのだ。私に対してお前の強力な防御壁は十分な効果を発揮しない。そして私の居城にお前以外の人間が来ることはない。つまり、私と共にいる限りこれ以外の犠牲は増えない。お前は何の気兼ねもなく、お前の言う意味のある終焉を探すことができる」

 

 アークライトの言う居城とは、ダイオラマ魔法球内にあるレーベンスシュルト城のことだ。

 正確に言うとレーベンスシュルトにはメイドが一人いるのだが、そもそも人間でないし、アークライトと主従契約関係にあって主人の意に反して死を選ぶことはできないので数に入っていない。

 

「更に私はお前の手助けも可能だ」

「手助け?」

「ああ、そうだ。これでも私は魔術師――お前に魔法をかけた老婆と同じ魔法使いだ。それも西暦以前の神代から生きる最高クラスのな。その魔法を解く方法にもいくらか心当たりがある」

「…………」

 

 つまり、と。

 暫く考えた末、アセロラ姫はアークライトを真っ直ぐ見据える。

 先程までの悲痛さは完全になりを潜め、その視線は強く鋭い。

 悲劇のお姫様として世間では噂されているアセロラ姫だが、おおよそ悲劇と形容すべき弱々しさは見当たらなかった。

 

「最適の環境と協力を得て、貴方は少なくとも私がいる限り生き続ける。代わりに私は、貴方に意味のある終焉を見せる。そういうことですね?」

「その通りだ。お互いに利害が一致している。そして万が一にも、お前が道を踏み外したなら、私が幕を引こう」

 

 その可能性は本当に万が一――否、億が一かもしれない。だがもし道を外れ、己で死ぬことできず、死を撒き散らしながら彷徨うのは、アセロラ姫も本意ではない筈だ。

 ならばその時は幕を引こう。他の誰でもない。アセロラ姫の心を知りながら、理解している故にそれを望まないアークライトが。恐らくそれは、己の最後となるだろうから。

 

「……それしか道はないようですね。どうぞよろしくお願いします、アークライト様」

 

 アセロラは嘆息と共に言い、右手を差し出してきた。アークライトは困惑したがそれは一瞬で、同じく右手で握り返す。

 

「こちらこそ。よろしく頼むよ、アセロラ姫」

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 と、まぁ、導入はこんな感じだな。言っただろ、出会いはそんなに穏やかじゃなかったって。

 

 え? キスショットの口調が今と違う?

 まぁ今の古風なのはそういう時代に日本にいって言葉を覚えたからなんだけど。まぁ歳も歳だし違和感は――ホワァッ!?

 

 危な! おいこらキスショット! なに三段突きかましてんだよ!? しかも心渡で!

 

 歳のことは言うな? 回避くらい余裕だろうって?

 いやいやお互いに十世紀以上生きてるんだから――アッハイ、スミマセン。もう言いません。だから九頭龍閃はやめて。教えた俺が後悔するくらいヤバイから。

 

 

 ……さて、気を取り直して。じゃあ次はレーベンスシュルトの場面からだな。長くなりそうだから飲み物でも……あ、サンキューエリアス――って、エリアス? なぜここに?

 

 え、キスショットに呼ばれた? おま、いつの間に……まぁエリアスだけ仲間外れはいかんよな。ならついでにお茶菓子も頼むよ。続きはそれからだ。

 

 ははは、結局四人全員揃っちゃったな。じゃあレーベンスシュルトのところからいこうか。

 

 

 




まぁ命が紙より軽く、宗教の全盛期に吸血鬼として生まれたらそりゃ心も閉ざしたくなるよね。最初こそ力を試したくてテンションが高かったアークライトだけど、吸血鬼という理由で敵視されまくって命まで狙われる環境にいれば、元現代の日本人にはかなりこたえるだろう、と。しかも扱えきれてなくても強いことに変わりはなく、襲われて死にたくなくて返り討ちにして恨みを買ってと、悪循環が続く。更にたとえ正当防衛でも、能力の加減が効かずに殺してしまったことの罪悪感も加わる。
ぶっちゃけキスショットと同レベルにヘビィです。

後、キスショットは最初から金眼設定なので悪しからず。業物語読んでキスショットは元はオッドアイと知り、マジかよとなりましたよ私。忍物語が発売される前に何としても書き終えねば。
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