呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝)   作:navaho

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第八話「契約」

 

 

見滝原氏の郊外にある屋敷の一室でほむらは、手帳に刻まれた日付に目を通していた。

印がつけられた日付は、本日。いつもなら、彼女が転校初日を迎える日だった。

 

 

 

 

 

ほむら

今日は、私が転校する日だったはず。でも……今は、学校へ言っている場合ではなくなっている……

この時間軸に来た時に接触したイレギュラー 暗黒騎士 呀と関わってしまった事で彼の動向に目を向けなくてはならない………

いや、これは単なる言い訳。真実は、あの男が私を束縛し、どういうわけか、手元に置きたがっているという…

転校初日の下校時、まどかとインキュベーターの接触を防ぐために、それを狩る事も何度かしていたが……今日は、そうすることに戸惑いを感じていた。

少し前の夜に、エルダがどういう訳かインキュベーターの屍骸を持ってきたことから、この戸惑いは生まれていた……

最初はエルダが狩ったのかと思ったが、エルダが私に気を使ってくれたとは考えられない。聞けば、まどかの部屋の窓の下に落ちていたという……

それもまどかの使っていた鋏の切っ先が刺さっているという奇妙なおまけも付いて………

これは、どういうことなのだろうか?何故、まどかがこのようなことを……この時間軸のまどかは、今までとは違うとでもいうのだろうか?

そんな私の疑問は悩みが増すだけで晴れない………

「………誰も未来を信用することはないだろう。実際にその愚かさを自身が味わうまでな」

薄暗い影に立っているのはエルダ。いつものように人間という感じがしない女……私と同じように何もかも諦めた目をしている……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………それは、どういうことかしら?」

ほむらは、エルダの言葉の意図を聞きたいのかそのまま彼女が居る影へと進む。

「……………言うまでもない。絶望に至る闇を誰も受け入れられないからだ」

エルダは、どこか遠くを見るようにほむらに視線を向ける。その視線は、久方ぶりに知り合いにあったようなモノだった。

「あなたも未来を見た……というの?」

「そうだな。私は魔戒導師。運命を占い、その行く末を見るもの……」

淡白に話すエルダにほむらは、

「その行く末を変えることは……」

「………出来なかった。私が、その”未来”を信じることが出来なかったからだ」

「どういうことっ!!?!」

淡々と話すエルダに対し、ほむらは思わず声を上げてしまった。

「……お前も私もバラゴ様の”モノ”。互いに素性を知っていても構わないだろう……」

 

 

 

 

 

……かつて、私には想い人が居た。彼は、シンジは誰よりも強く、優しい魔戒騎士だった……

私達は互いに将来を誓い合うほど互いに想っていた……お互いに・・・・・・

ある日、仲間達と共にホラーの始祖 メシアの牙 ギャノンの亡骸を捜す命を受けて出た旅の最中 それは起こった……

そう、それは私には見えていた。二人の仲間が私達を裏切り、想い人の命を奪う光景が……

だけど、私はそれを信じなかった…そのような未来などありえないと否定し、目を逸らしたのだ。

 

 

 

 

 

 

「未来を見た?」

ほむらは、さらにエルダに詰め寄った。エルダは戸惑うことなく淡々と続ける。

「魔戒導師は、占いにより未来を少しだけ覗くことができる」

 

 

 

 

 

 

そのようにして、私は想い人 シンジを助け幾多の危機を乗り越え、人々を救ってきた。

それがシンジと同じ魔戒騎士の仲間の裏切りがあるなど、未来など……ありえるはずがないと………

故にこの危機をシンジに伝えることはなかった……それは間違いの未来だと……

ギャノンの亡骸を見つけたとき、間違いのはずだった未来は………現実となった……

 

 

 

 

仲間である二人の魔戒騎士の刃は容赦なく私達を斬り付けた。信じた仲間二人によって……

死の淵に瀕した私は、何も映さなくなったシンジの瞳を見た……

冷たくなっていく身体……冷めていく信じてきたもの…掟、信念、護るべき人々……

全てが色あせ、憎らしかった……死の淵から私は、この世の全てを呪った……

 

 

 

 

 

 

 

 

その時にあのお方。バラゴ様と出会った……そして、見たのだ。あの方が齎す 闇の世界を……

 

 

 

 

 

 

 

 

ほむら

エルダの話を聞いていて、私は彼女に対して違和感を抱いた。そう、愛しい人を亡くしたはずなのに彼女はあまりに冷淡だったからだ。

感情の揺らぎすらない瞳。私もかつての仲間たちに冷淡に振舞ったことはある。だけど、エルダのように無かった事にはできなかった……

今もそれは引きずっている。故に深く関わらないように……することで自分の心を護って来た……

「あなたは、どうしてそんな風に他人事のように話せるの?後悔していないの?哀しくないの?どうして、そんな風に冷たく話せるの!!?!!」

自分でも驚くほど感情的だ。これでは、過去の私だ…置いてきたはずの………

「………さあな。あの方に忠誠を誓った時、全てが変わった。魔戒導師としての誓いも…シンジへの愛しさも全て……冷め切ってしまった」

やはり淡々と語るエルダの瞳には何も映していない。彼女にあるのは、暗い闇だけだ……

「お前の未来も見た。お前の未来は、暗い闇にある。そこで永遠と繰り返していた……いずれお前も…」

暗い闇を映した瞳が僅かに笑った。それは、まるで知り合いを見つけたかのように………

「・・・・・・・・・あなたと同じようになるって言いたいの?」

否定したい未来。私がエルダのように全てに絶望し、よりによって、バラゴが起すであろう災厄に手を貸す光景なんて………

「私と同じ?違うな、お前はお前でバラゴ様に寄り添うことになる。私とは違う形でな」

私に手を翳した瞬間、エルダの五本の指から金属上に爪が現れた。その爪で私の頬を撫でる。

「お前の目は、全てに諦めが付いている。希望も絶望もない……あるのは、唯一つの約束……」

そうだ。こうされていても私には何の感慨もない。ただ、エルダの言葉を否定したいという想いが微かにあるだけ……

「その約束を果たすだけの価値が”鹿目まどか”にあるのか?」

何を言うか?それこそが私に残った唯一つの道しるべ……それを否定される謂れはない。

「あなたに、何が分かるというの?全てを諦めて、あの男の”道具”に成り下がったあなたなんかに……」

「否定はしないさ。そういうお前もかつての仲間を”駒”として目的達成の手段にしてきたのだろう」

今まで繰り返してきた時間軸での行動は、はっきり言って誇れる物ではない。まどかの為といいながら……行ってきたことは………

「何を動じている?そういう感情は置いてきたのではないのか?過去に……」

エルダの闇色の瞳が更に笑う。笑っているのかどうかさえ分からない。分かっているのはエルダの心には何もない……

あるのは………私は、目の前の女が少しだけ恐ろしく思えた。何もない空虚な人間が………

「っ!?!!!」

何も言わずに私は、エルダの元から去ってしまった。だから気づかなかったエルダが笑っていたことに……

 

 

 

 

 

 

 

 

エルダ

あの娘。いや、ほむらの運命は既に見た。それに至る過去も……

面白い物だった……そして久しく感じていない親しみという物を覚えた……

何の取り得もない何処にでもいる少女が”希望”を求めて、”絶望”に至る物語は……

唯一つの約束を果たすために…全てを犠牲にしてきた様も………

そうバラゴ様のようだった……あの方の始まりは、”誰よりも強い騎士になること”、”母を死なせてしまった”こと……

最初にほむらを見たときは、バラゴ様の考えが良くわからなかったが、ほむらの未来と過去を見ることでよく分かった……

バラゴ様にとって大切な方の写し見であるほむらは、かつてのバラゴ様の果たせなかったことをほむらを利用することで果たせる。

そして、ほむらがバラゴ様に抱いている感情も……臣下としてなら、あの態度は許せる物ではないが、ほむらの目は気に入っている。

あの全てに諦めた目。そして僅かに残った道しるべは決して希望などではない。アレが砕かれたときのほむらは、どのような顔をするだろうか…

それを思うと私は、久しい感じを頬に覚えた。そう……私は笑ったのだ………いずれ”同胞”となる少女に対して………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「姐さん、ここですよ。アタシのお勧めは」

さやかが先導して、一件のカフェに入っていく。そのお店を見て、杏子は

「あ、ここ、一昨日、おじさんと一緒に来たところじゃん」

入学祝いという事で外に食事に来た帰りに寄った所だった。

(意外だったな。おじさんがアタシに似て甘党だったなんて……いや、アタシがおじさんに似たのかな?)

「えっ!?!ここ姐さんのご用達だったんですか?」

「ご用達って言うほどじゃねえよ。まあ、ここのケーキは美味いから入ろうぜ」

「さっすが姐さん!!さやかちゃんへのフォローは完璧っすね」

「ったく、姐さんっていうなよ」

杏子、さやかの二人に続くように仁美もまた店へ入店する。三人に遅れるようにまどかも続く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まどか

私の知っている時間軸と違う。どうして、ほむらちゃんじゃなくて杏子ちゃんが此処にいるんだろう?

それに、杏子ちゃんの言う”おじさん”って誰なの?どうして、この”時間軸”に現れたの?

私はほむらちゃんを助けてあげたい。そのためにもマミさんと杏子ちゃんが協力できたら……

でもマミさんは、杏子ちゃんとの柵と魔法少女の使命で杏子ちゃんとは、ほむらちゃんとは………キュゥべえとの……

イヤダ……初めてだった……感情がないっていうけど、生き物を殺すことが……あんなにも怖くて嫌なことだったなんて……

それに比べて、ほむらちゃんは……もしかしたら、この近くに来ているかもしれない…だったら、探さないと……

「ごめん!!仁美ちゃん、ちょっと用事を思い出したから!!ここで別れるってさやかちゃんにお願い!!!!」

「えっ!?!ま、まどかさん!?!どちらへ行かれるんですか!?!」

仁美ちゃんの声を背に私は一目散にほむらちゃんが居るかもしれない場所へと駆け出していきました………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駆け出していったまどかを物陰から小さな白い生き物が見ていたことに誰も気がつかなかった……

「僕を何故、目の仇にするのかは分からないけど……何か知っているみたいだね」

感情のない赤い目にまどかの姿を映しながら………

 

 

 

 

 

 

 

 

まどかは、立ち入り禁止区域に足を踏み入れていた。数ヵ月後にオープンするために改装中の区域である。

薄暗い非常灯の明りを頼りに居るであろう”ほむら”を探す。ほとんどの出会いでは、ここにいるインキュベーターを狩っている最中に遭遇するのがほとんどだった……

「何処にいるんだろう?ほむらちゃん……」

打ち付けのコンクリートのフロアに響く自分だけの足音。世界で一人ぼっちになってしまった気分だった……

まるで暗い迷路の中に居るような……

「………ほむらちゃんは、迷子になっちゃったのかな……」

自分の為に……そう思うとまどかの心は、少しだけ痛みを覚えた………

「まどかさん!!!!どうして、ここに!?!」

「えっ!?!仁美ちゃん?どうして……」

「それはこっちの台詞ですわ。なんで、こんなところに……」

一人 奇妙な行動をするまどかに対して仁美は少しだけ声色を荒げた。

「そ…それは……」

「友達であるわたくしにも言えないのですか?」

目を反らしたまどかに対し、仁美はそう言葉を返した。

そのときだった……奇妙な笑い声と共に”魔女結界”が二人を包み込んだのは………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「けっ、転校早々の帰りに”魔女”かよっ!!!」

「姐さんっ!!まどかと仁美がここにっ!?!」

同じく二人の後を追って来たのは杏子とさやかであった。先の二人同様”魔女結界”に入ってしまったようだ。

辺りは、毒々しくそれでいてサイケな空間になっていた。

「姐さん言うなっ!!それとさやか、信じられないかもしれないけど…信じろよ!!!!」

「えっ?!?信じられないけど、信じないって?」

「目の前で色々あるからってことだ!!!」

杏子は自らのソウルジェムを取り出し、槍を構えた赤い魔法少女へ変身を果たした。

「姐さん……そ、その姿は……」

「後で話す。だから、今はあいつらを助ける!!!付いて来い!!!!」

さやかの手を取り、杏子は魔女結界を一気に飛翔する。

「ね、姐さん!!!!こ、心の準備がって……きゃあああああああああああ!!!!!!足が、体が!!!浮いてるぅぅうううううううううううっ!!!!!!!」

魔女結界に一人の少女の絶叫が響いた…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まどかさん…わたくし、夢を見ているのでしょうか?妙に視界がぼやけているのですが?」

「仁美ちゃん?”使い魔”が見えるの?」

「え?まどかさんには、あの黒いぼやけた物が見えるのですか?」

魔女結界に迷い込んだ二人の見えているものは違っていた。まどかには、髭を結わえた使い魔が見え、仁美には壊れたTVに映る不鮮明な何かだった……

それらは、二人を取り囲み始めた。異様な光景に二人の表情に怯えが表れた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マミ!!!!二人が危ない!!!!!」

「分かっているわよ!!!!!キュゥべえ!!!!!」

二人の少女を取り囲む”使い魔”達に対し、マミは二人を護るように魔法を展開した後、無数のマスケット銃を展開しそれを一気に放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

二人は突然、現れた光に対して仁美は、

「こ、これは一体なんですの?」

「………マミさん」

二人を護る光は使い魔を蹴散らし、蹴散らされた使い魔達はその後降り注いだ光により、倒されてしまった。

騒ぎを聞きつけたかのように”使い魔たち”がさらに集まってきたが、二人を護るようにマミは降り立った。

「間一髪ってところね」

二人を安心させるようにマミはウインクをした。

「あ、あなたは……」

「色々話したいけど、今は一仕事を終えてからでいいわね」

マミはスカートのすそを上げ、左右のそれぞれ三丁づつマスケット銃を取り出し、それらを巧みに操り、使い魔達を手際よく打ち抜いた。

場の使い魔達が倒されたあと、”魔女結界”消えていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

「結界が崩れてきたな……誰かがやったのか?って、違うっ!!!!」

薄れていく結界もだが、正面に怪物じみた何かが飛んでいるのが見えた。

「ね、姐さん!!!!なんか、気色悪いのが!!!!来てますけど!!!!!!!!!!」

「魔女だ!!!!誰かさんが派手に暴れたから逃げ出したんだ!!!!!しっかり捕まっていろ!!!!!!」

正面からくる魔女を回避するために杏子は槍を鎖で分割し、刃の部分を足場にし正面から突っ込んでくる横に回避する。

「てっ、急すぎぃいいいいいいいいいいいっ!!!!!!!!!きゃああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

二度、絶叫が響いた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あの助けていただいてありがとうございます」

仁美は、目の前にいる、魔法少女に対して礼を述べた。

「いいのよ。魔法少女として当然の事をしたまでだから…それにあなた達の危険を知らせてくれたのは、キュゥべえよ」

「えっ?そこに誰かが居るんですか?」

マミの腕の中にはキュゥべえがいるのだが、仁美にはそれが見えていなかった。

まどかには、見えていたが……

「あら、あなたにはキュゥべえが見えないのね。鹿目さん、また会ったわね」

「まどかさん、知り合いなのですか?」

「う、うん…ちょっと……」

少しだけ歯切れの悪い返事をするまどかだった。

「やっぱり、マミか」

「…………………」

遅れて、杏子とさやかがこの場に現れた。杏子は少し複雑な表情で、さやかは妙に疲れた表情をしていた。

キュゥべえは、まどかに視線を向け……

 

 

 

 

 

 

 

「鹿目まどかには、改めて。美樹さやか お願いしたい。僕と契約して、魔法少女になってよ」

 

 

 

 

 

 

 

その言葉に、三者三様の反応をしたのはいうまでもなかった………

 

 

 

 


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