呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝) 作:navaho
どれぐらい前のことなのか覚えてはいない。
そう、顔すら思い出せない”親父”にいつも、虐待に近い鍛錬で気を失って、それから目覚めた記憶が最初・・・・・・
”親父”は、牙狼の称号こそは持たなかったが、黄金騎士の家系の血を汲む騎士だった・・・
その活躍は、英雄譚と呼ぶには程遠い。そうだ、残虐非道の武勇伝といったところか・・・・・・
ホラーに対し怨念に似た執念で挑み、手段を選ばない非情さは他の魔戒騎士ですら恐るほどで、ホラーですら逃げ出すほどであったらしい・・・・・・
管轄の境界線を越えてまでホラーを追い回し、さらにはほかの魔界騎士は仲間ではなく、捨て駒として扱う。
その暴走ぶりは抑えるはずであった番犬所も見ぬふりをするという有様だった………
そんな男にも家族を思う気持ちがなどという温かいものはなく、ほとんど家を空けていて思い出したかのように帰ってきては、僕らを叩き起こし、暴言、暴力の限りを尽くした。
妻である母の献身的な態度で口答えをせずに接していた。僕には分からなかった、どうして、あんな男が黄金騎士なのか…魔戒騎士になれたのかが………
そう決してあこがれの対象などではなく、憎むべき対象だったのだ・・・”親父”は………
屋敷の中でバラゴはソファーに腰をかけていた。その表情は俯いているため伺うことはできない。
見ようによっては苦悩しているようにも見えなくもない。少しだけ呼吸を整え、ストックしていた秘薬を口に含み、部屋を出て行った……
部屋を出たバラゴは、屋敷のある一室。暁美ほむらが眠る部屋へと足を踏み入れた。
ほむらは、穏やかとはいえない寝顔だったが、それでもバラゴにとっては喜ばしいことだった。
彼が近づくことで枕元に居た黒猫が毛を逆立てたが、特に気にすることはなかった。僅かに差し込める月の光を頼りに少女の顔に視線を向けた。
近くの棚に置かれているほむらソウルジェムは、ほんの少しだけ濁っているが、バラゴは回収したグリーフシードでそれを浄化する。
壊れ物を扱うようにソウルジェムを手に取った。これは彼女の魂そのものである。
これは、魔法少女から魔女になる段階の繭のようなものであると認識している。だが、バラゴはそれを許すつもりはない……
正義感からではない、彼は失いたくないのだ、自身が大切にしていた”母”を二度も………
あの日は、帰ってきた親父もそうだが、最悪なことが起きてしまった……珍しく外へ外出した母にホラーが襲ってきたのだ……
川を背に怯えた母に対し、ホラーは獰猛な表情で近づいてきた……親父は、母に”逃げろ”と叫び、鎧を纏いホラーを両断した……
この時、僕はあの親父が母を助けたという事に初めて親父を見直した…だが、次の瞬間、その淡い期待は砕かれてしまった………
母は、ホラーの返り血を浴びてしまったのだ。
返り血を浴びてしまったものは100日以内に死亡し、気を失うことに許されない激痛に襲われ、醜く崩れ、苦しみながら地獄へ落とされるのだという…
魔戒騎士の掟では、ホラーの返り血を浴びた者は斬らねばならない。だが、救う方法もある何件か事例がある、救う方法はゼロではないのに……
”ホラーの返り血を浴びた者は斬らねばならない”
躊躇なく親父は”母”を切った……斬られた母の体は糸が切れたように川へと落ちていった……
昨晩見たほむらと母の姿が重なってしまった………
さやか
・・・・・・・・・一体、アタシが何をしたというのだろうか?まさか、あんな現実離れした事態に遭遇するなんて・・・・・・
何が起こるかわからないのか人生って言うけど、これはわからなすぎでしょ!!!!
転校生の姐さんは、魔法少女だし・・・一般ピープルのさやかちゃんが入る余地なんてないんじゃないの?
資格があるっていうけど・・・・・・こんなどこにでもいる取り立てて美人じゃないさやかちゃんが一タイトルの主役を張るなんて、すごく烏滸がましいんですけど・・・・・・
でも・・・・・・たった一つだけ願いが叶うのなら、アタシにも誰かが助けられるということ・・・・・・
この事をめぐって、姐さんと三年生が互いに険悪になってしまってあわやというところになってしまった・・・
数時間前
「キュゥべえ・・・・・・アタシの前で”契約”なんてさせないからな」
槍を構えた杏子はさやか、まどか、仁美の前に立つ。近づくことは許さないといわんばかりに……
「…………佐倉杏子。以前、言ったわよね。二度と会うことはないって…」
冷たい視線でマミは杏子に答えた。
「そうだな。あの時は、アタシが馬鹿して、マミにも迷惑をかけた……」
「迷惑をかけた?あなたは、自分の力によって、自分の為だけに魔法を使うと私に言ったわよね」
マミはキュウべえを下がらせながら、いつでも戦える態勢に入る。マミの様子に杏子は内心舌打ちをした。
(ったく、自業自得だけど……やっぱ、辛いな)
「ああ、そうだ。アタシは自分の為に魔法を使うといって、マミ、アンタの顔にも色々と泥を塗っちまった」
「そう……噂では、使い魔に人を襲わせてグリーフシードを手に入れていたと聞いたわ」
その言葉に、まどかを除いたさやかと仁美が驚いたように目を見開いた。
二人の様子に杏子は、少し辛いのか僅かながら彼女のソウルジェムが僅かに濁る。
杏子
くそ……自分のやったことなんだけど、面と向かって言われるのは本当に辛い。
でも自分のやったことだから、アタシはそれと向き合わなくちゃいけない。そう、だって、アタシは風雲騎士 バドの血筋だ……
そして、アタシが犯した罪は絶対に繰り返しちゃいけない。だから…言うよ。
「ああ、そうだ。アタシは人として恥ずかしいことをしたさ。それを後悔した、だから正したいんだ」
杏子は真っ直ぐマミに視線をむけて応えた。
「…………信用できるかしら?アナタのように調子のいい事を言う魔法少女がどれだけ居ると思っているのかしら?」
「ちょっと!!!なんか分かりませんけど!!!姐さんを悪人みたいに言わないでくださいよ!!!!!」
二人の会話を遮るようにさやかが鼻息を荒くして、ヅカヅカと前に出る。
「さ、さやかちゃん」
まどかの制止を振り切り、杏子の隣に並び立ち胸を張る。
「貴女には、分かっていないのよ。この佐倉杏子がどんな魔法少女か……」
「そりゃそうですけど!!!アタシをあの魔女から助けてくれたのは本当なんです!!!!」
「っ!?!魔女。佐倉杏子、魔女を見逃したというの?」
マミは目元をきつくして、杏子を責める。
「ああ、でも、さやかの安全を優先したかったんだ。アイツはアタシが後で……」
「別に構わないわ。私が魔女を倒す、だから、貴女は何もしないで……」
人助けも大切だが、人々を襲う魔女を逃してはならない。マミは四人の前を通り過ぎ、杏子が見逃したであろう魔女を追うのだった………
さやか
思い出せば出すほど、あの三年生感じ悪かったな。姐さん曰く、正義の魔法少女で悪い奴じゃないから嫌わないでくれっていうけど……
確かにかっこいいけど、長続きはしないなって思う。あの後、歓迎会って雰囲気じゃなかったから解散したけど、まどか大丈夫かな?
三年生に何か言われたりしないといいんだけれど……
明日は恭介の手の検査があるから、何となく不安になっているんだよね。だから、今日は力及ばないけれど、出来ることをさやかちゃん、頑張っちゃいますね。
「もし…何か分かりましたら、お願いします」
黒い髪が印象的な女の人がA4ぐらいのチラシを渡して頭を下げているのが横目に映ったけど、アタシは特に気にすることなく恭介の病室へと足を運んだ。
後で知ったけれど、姐さんが転校してきた今日、もう一人転校生が居た。でも、その子は行方不明になっていて、警察と両親が必死に探していること……
その子の名前は 暁美 ほむら。大人しそうな表情をした女の子の顔の写真を見たのは、恭介との面会を終えてからのことだった………
自宅に戻った杏子は、鞄をソファーに放り出し横になった。あの後、魔女を自身で探したが何処に行ったのか行方は分からなかった。
杏子
くそっ、自分で蒔いた種だけど何だか、嫌だな。この気持ち……これが後悔って奴かよ。
自分が持て余しているこの気持ちは、本当に嫌なもんだ…
「お帰り、杏子ちゃん。何があったのかは分からないが、鞄をその辺に放って置くのはよくないぞ」
いつのまにか、笑みを浮かべて向かい側のソファーに腰をかけたおじさんが居た。
「あの…おじさん。昔、世話になった先輩が居てさ、その人と喧嘩別れしちゃって、それで嫌われてて……」
歯切れの悪い杏子の話にバドは
「なるほど、前に話してくれたマミちゃんのことだね」
「……う、うん。今日、ちょっと……」
杏子の話は、バドにとっても他人事ではなかった。言うまでもなく杏子の父と自分の関係もまた……
だからこそ、同じ過ちを杏子にはして欲しくないと思う。
「一度失ってしまった信頼を得るのは難しい。だからといって歩みよらなければ、何もならない」
「頼りないかもしれないが、マミちゃんとは魔法少女としてではなく、人間として一対一で話し合ってみるといい」
「そうかぁ~、アタシ、あんまり口は巧くないからな……マミを怒らせたらどうしよう?」
不安になっている杏子に対し、
「口の巧さではない。杏子ちゃんのありのままの気持ちを伝えることが大事だ。いざという時は、おじさんが頑張ろう」
拳を掲げて、万が一の時は自分が手助けをすると…
「えっ!?!そ、そこまでおじさんに迷惑…」
言い切る前に”ぺちん”と軽くでこピンを杏子は額に当てられた。
「杏子ちゃん、君はまだまだ年端もいかない女の子だ。魔法が使えるからと言って一人前というのは、少し調子に乗りすぎだ」
口調は穏やかな物の厳しいおじの言葉……
「子供は、大人を頼るべきだ。今のうちだけだぞ、おじさんに存分に甘えられるのは」
笑みを浮かべて、バドは杏子に優しい言葉をかけた。
「そ、そういうもんか……大人って…」
照れくさいのか、杏子は少し頬を赤くしてソッポを向いてしまった。
「そういうものだと俺は思うのだが、遅れてしまったが、杏子ちゃん。転入 おめでとう」
「も、もう~~、こういう場面でそういうこと言うなよ、おじさ~ん」
「ハハハハ、すまない。こうした方が、肩の力も抜けるかなと思ったんだが……」
頬をかいてバドは少しだけ困ったように苦笑するのだった……
早朝
いつもの通学路をまどか、さやか、仁美が通っていた。しかし、いつもの光景ではなかった。
普段なら、会話が弾むのだがそれが一切なかった。思い思いに何か考えていた。
特に仁美の表情が暗い………
仁美
あの後、杏子さんからお話を伺いましたが、この世界には”魔女”なる災厄が存在し、人々に害をなしていると……
それと戦う存在が”魔法少女”。たった一つの願いを叶えることを代償に ”魔女”と戦うことを義務付けられる。
それを成すのは”キュゥべえ”。彼とも彼女とも知れない白い生き物。魔法少女になれる素質……願いを叶える資格のある少女にしか見えない…
凄い話でした。どんなに大金を叩いても、素質がなければその資格を買うことなどできない。
まどかさんとさやかさんは、素質があり、願いを叶える資格を持っています。どうして、同じ人間なのにこんなにも差があるのでしょうか?
わたくしにも叶えたい願いがあります。それは……
幼い頃に、両親に連れられた発表会で聴いた今も心に残るあの方のヴァイオリンの音色をもう一度聞きたいという事……
少し前に事故で手を怪我をし、ヴァイオリンを弾くことができなくなってしまいました。あの方については、一目ぼれをしていたのだと思います。
ですから、あの方の手を治して差し上げたい。でも、願いを叶える資格はわたくしにはありません……
”なあ、誰かを救いたい気持ちをアタシは否定しない。だけど、奇跡に縋る前に、自分が出来ることをもう一度考えてくれ。願いを叶えたアタシがいうのもなんだけど、こんな奇跡に縋っても誰も幸せにはなれねえよ”
別に構いませんわ、わたくしの幸せ一つで……あの方を救えるのなら……だけど、わたくしには資格がない…………
もし、資格を得られるのなら……奇跡を叶えられるのなら………わたくしは………
昼休み
「やあ、まどか、さやか、君たちの願いは決まったかい?」
「キュゥべえ、そう急がないの・・・二人が困っちゃうでしょ」
屋上にいるのは、キュゥべえとマミ。向かい合うように対峙するのはまどかとさやか。
杏子は近くに待機している。万が一のことを考えてのことだった。
「・・・・・・・・・あの三年生さん。どうして姐さんを目の敵にするんですか?」
第一声はさやかだった。友好的とは言い難い声色だった・・・
「佐倉杏子ね。今はそのことよりも大事な話を・・・・・・」
「大事な話なら姐さんだってあるのに!!!それを蹴ったのってひどくないですか!!!!」
さやかは声を上げ、マミに抗議する。だがマミは、
「あの子は信用ができないわ。そもそも二度と会いたくないって互いに言ったのに・・・・・・・」
その言葉にさやかは
「ったく!!!悪い人じゃないって聞いたけど、このわからず屋!!!!!!」
「さ、さやかちゃん!!!」
「まどか、良いよ!!!この人の話なんて聞かなくていいわ!!!!」
まどかの手を引き、さやかはそのまま屋上から出て行ってしまった。
(・・・・・・姐さんの話を聞いたら、契約なんて・・・・・・)
「キュゥべえ・・・・・・佐倉さんは、本当に信用してはダメなの?」
「残念だけど、マミ。杏子は関わってはならないものに関わっている。だからマミを危険にさらすわけにはいかない」
「キュゥべえ、それは・・・・・・まさか・・・・・・」
「改めて言うと呪いは、魔女だけじゃないんだよ・・・・・・それはね。魔法少女や魔女を餌食にする悪魔さ・・・・・・」
マミの脳裏に”闇色の狼”が浮かぶ。そして・・・・・・
”あなた、狂っているわよ。あなたは、何を私に望むの!!?!!何を企んでいるの!?!!”
あの時、近くにいた魔法少女は・・・・・・・・・
「あの・・・・・・巴先輩・・・・・・」
「あら、あなたは・・・・・・」
いつの間にか仁美がマミの前に立っていた。
「巴先輩。わたくしには叶えたい願いがあるんです。どうすれば叶えられますか?」
真剣な面持ちの仁美にマミは、答えることなく足を進め・・・・・・・・・
「キュゥべえが見えないアナタには願いを叶えることも魔法少女になることもできないわ」
去り際のマミの言葉に仁美はただ、立ち尽くすしかできなかった・・・・・・・・・