呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝)   作:navaho

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最新話更新です!!!九月は出来る限り出していきたいと思います。

後、かなりオリジナルが入ります。


第十七話「願望」

東の番犬所

 

 

東を管轄する神官 ケイル、ベル、ローズの三人の少女と対峙するのは黒いローブを目深に被ったバラゴ。

 

三神官はブランコに座り、微笑んでいるがバラゴは普段と違い少し焦っているようにも見えた。言うなれば、”心、此処にあらず”である。

 

「バラゴ様。黄金騎士 牙狼の称号を持つ者がこの東の管轄に入ります」

 

「これでバラゴ様の計画もより確実になります」

 

「あの無様に死んだ黄金騎士の息子……楽しませてくれるのかしら」

 

これから悪戯をする幼い少女のようにはしゃいでいる少女達に対し、バラゴは冷めた視線を向けていた。

 

「そんな事で私をここまで呼んだと言うのか?」

 

「そんな事?……バラゴ様。一体、何を気にされているんですか?」

 

「君達には関係はない。かつての計画通りに進めてもらう……重要でない事以外に呼び出すのはやめてもらおう」

 

話すことなど何もないと言わんばかりにバラゴは東の番犬所を後にした。その足取りは普段と違い、急ぎ足である……

 

去っていったバラゴに対し、三神官は訝しげな視線を向けた。

 

「バラゴ様も随分と変わられたようですね……」

 

「そうですね。メシアと同化することを目的とした男が……」

 

「僅かですが……あの方の闇に光が見えたのは気のせいでしょうか?」

 

三神官は互いに顔を見合わせ、自分達が手を結んでいる暗黒騎士について考えを巡らすのだった……

 

その間、やはりコダマは無表情であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バラゴは東の番犬所を離れて、見滝原へと向かっていた。本来ならば、彼女の傍に付いていて上げたかったのだが、三神官との打ち合わせは外すことはできなかった。

 

聞けば、あの大河の息子が黄金騎士 牙狼の称号を受け継いだというのだ。だが、バラゴにとって黄金騎士など取るに足らない相手だった。

 

(下らない。相手が何であろうとも僕が魔戒騎士などに遅れを取る物か……)

 

彼は既に黄金騎士 牙狼に勝利している。かつて他の騎士達から最も信頼の厚かった 冴島 大河を……

 

東の管轄での活動を ゲートを掌握するために”東の番犬所”の神官たちと手を結んでいるが、最近は見滝原に活動の拠点を置いている。

 

バラゴは、仮の姿である龍崎の姿になり、急いで彼が想う”最愛の人の映し身”の元へと…

 

(まったく。ほむら君にも困った物だ……)

 

彼にとって魔女は取るに足らない存在であるが、彼女にとってはそれなりに脅威なのだ。力を与えたが、彼女の心は自分と違い………

 

(何故、あの少女に縋る?君は本来なら戦うべきではなかった……)

 

先日の件で知った暁美ほむらの素性。たった一人の心を通わせた親友の為に世界を超え、陰我を抱えて戦い続ける……

 

その有様にバラゴは…言いようのない不快感を抱いた。彼女に対してではなく、そんな彼女に甲斐甲斐しくする自分自身に……

 

「これでは、まるで………捨てたモノが何故ここに……」

 

自身の胸のうちに苛立ちながら、バラゴは歩みを進めた。

 

「それはおまえ自身がまだ、闇に堕ちきっていないからだ。バラゴ」

 

「お前は……」

 

坊主頭が特徴的な豪快という印象を持つ男がいつの間にか、バラゴの前に立っていた。

 

「久しぶりだな、バラゴ。お前とは何度か顔を合わせていたな」

 

彼の名は、阿門。魔戒法師きっての天才である。大河と深い親交があり、バラゴも時々顔を合わせていた。

 

「合わせる顔は変わっているがな」

 

”ガハハ”と豪快に笑う阿門をバラゴは、睨みつけるのだった。

 

「そう睨むな。最近、お前さんに似た妙に捻くれた目をした魔戒騎士を見てな、お前さんの顔が懐かしくなったのだ」

 

気軽に語り掛ける阿門に対しバラゴは、殺気を含んだ視線を彼に向ける。下らないと言わんばかりに……

 

「………僕の顔を見てどうするつもりだ、大河の復讐をしようというのか?」

 

嘲笑うようにバラゴは阿門に問い掛ける。

 

「復讐などするつもりはないさ。そういう私闘は魔戒法師、騎士ともに禁じられているのはお前も承知だろう」

 

阿門はそのまま背を向けて歩き出した。今なら、この男を殺すことは容易い、だが……

 

「お前さんは、急いでいるのだろう。それを邪魔するほど、わしは野暮ではない」

 

愉快そうに笑いながら、阿門は去っていった。バラゴも見送るつもりはなく、足早にその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原の郊外の屋敷の一室に一人の少女が横たわっていた。

 

全身を包帯で巻かれた痛々しい姿は、少女を知る者、もしくは少女を慕う者にとっては心苦しいものである。

 

少女の名は 暁美ほむら。先日、魔女 シャルロッテとの戦いに傷つき、それを喰らったバラゴ 暗黒騎士 呀の手で此処に運ばれたのだ。

 

彼女の傍らには、暗黒 魔戒導師である エルダが魔導筆を手に取り、傷口に術を掛けていた。

 

「なるほど……ほむらの言うように魔法少女の身体は既に死んでいるも同然か……」

 

一般の人間なら、魔法少女の運命に対し義憤に駆られるかもしれないが、エルダはそういう感情を抱かなかった。

 

人というよりも魔女を思わせる青白い肌と感情を移さない黒い瞳に揺らぎはない。

 

傍らにおいているソウルジェムを交互に見ながら、エルダは立てかけている紫の弓に視線を向けた。

 

「魔法少女としては、それほどの素質はなくとも……魔戒の者としては……」

 

エルダは、数日の間彼女に師事した事を思い返した。アレは、主であるバラゴがあるホラーを喰らった後のことだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日前

 

その日、ほむらは溜息をついていた。

 

(どうしたものかしら……既にストックしていた武器は少なくなってきたわ。調達するにも……)

 

普段の時間軸ならば、武器の調達とワルプルギスの夜に向けての準備を行うのだが、この時間軸で知り合った”バラゴ”により、半ば拘束されていた為行うことができなかった。

 

楯の中の武器を取り出しながら、あまりの頼りなさに溜息以外つけなかった。

 

「言ってみるしかないわね。アイツがどう反応してくるかは別にして……」

 

バラゴは、自分から厄介ごとに首を突っ込むということはしないことは、ほむらも理解していた。

 

彼は自身の目的の為に動いているに過ぎない。エルダもその過程で僕”しもべ”となった。かという自分はどうなのかといわれると疑問は尽きない。

 

考えても良くわからないのだ、彼が何を理由に自分を”束縛の刻印”というモノを使ってまで手元に置いているのかという事が……

 

結局考えても堂々巡りな為、ほむらはこの屋敷の何処かにいるであろう彼を尋ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そういうことか。あまりそういう事には関わりたくはない」

 

ほむらが武器を調達しに行くことにバラゴは苦い顔をして応えた。彼は、他の厄介ごとには興味がないというか、係わり合いを持ちたくないのだ。

 

「そうしないと。私は戦う術を失うことになる。だから、行かせて……」

 

「それならば、態々他から持ってくるよりも私が持っているものを君に与えよう」

 

バラゴは紫色の弓をほむらに手渡した。

 

「…………これはなに………」

 

「見ての通りさ。それが君の武器だ……魔女、ホラーに対して有効な筈……そうそう……」

 

ほむらは倒すべき相手である魔女に対して有効な攻撃手段が思わず手に入ったことに驚いたが……

 

「当然、敵対する魔法少女にも有効なはずだ」

 

含むように嗤うバラゴにほむらは、頭に一気に血が上るのを感じた。この男は、酷く歪んでいる。あまりにも純粋すぎた故に……

 

ほむら自信はバラゴの行動が唯一つの目的に邁進している様に、根は非常に純粋ではと察していた。しかしながら、彼はあまりにも歪なのだ。

 

「あなたって……本当に最低ね」

 

睨みつけるほむらに対し、バラゴは薄く嗤い、傍らに控えさせていたエルダに

 

「エルダ。ほむら君に法術を師事したまえ……」

 

「勝手に話を進めないで欲しいわね……」

 

自分のことを無視して話を進める二人にほむらは怒りで自身のソウルジェムは少しだけ濁るのを感じた。

 

(まあ、いいわ。この時間軸を踏み台にするにしても……)

 

長年、戦いの中に身を置いてきたゆえか、メリットとデメリットの計算が早くなっていた。

 

ここでほむらは、新たな戦闘方法を不承ではあるが、学ぶのも構わないと考えた。

 

「……で、ほむらくん。何か言いたいのかね?」

 

「何でもないわ」

 

ほむらが軽く舌打ちしたことは、誰にも知られることはなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(意外ではあったが、ほむらは法術を要領よく習得していったな)

 

一番、驚いていたのはほむら自身であった。魔法少女としては最弱の部類に入るが、法師としてはそこそこ強いレベルにあったのだ。

 

この事に対し、ほむらは最初の不貞腐れた表情から一変し、真面目にエルダに師事を受けるようになった。

 

”エルダ。これに何の意味があるの?”

 

”基本的な戦い方だ”

 

エルダはほむらに爪を立てて襲いかかってきた。女性特有のしなやかな動きで彼女に拳を突き立てる。

 

”ひゃっ!?!わ、私は術を学びたいのに!!”

 

”小娘のように声を上げるな。耳障りだ”

 

感情的なほむらに対し、エルダは抑揚のない声色で応えた。

 

そのまま組手を行い、ほむらも半ば自棄になってエルダとの組手に応じるのだった。

 

”こちらは素人かと思ったが・・・・・・意外とやるようだな”

 

”ただ魔法に頼ってばかりじゃなかったわ”

 

ほむらは自身が巡ってきたループでせめて接近戦をと独学で格闘技を行い、その過程で虚弱体質だった体は改善されていた。

 

数日の間、法師としての訓練をある程度行いつつ、ほむらは自身の目的の為に動くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現在

 

傷ついたほむらをエルダは相変わらず感情のない目で見ていた。

 

「・・・・・・愚か者め。付け焼刃程度の力で動くとは・・・・・・」

 

魔法少女としてはベテランであり、戦士としてはある程度独り立ちしているだろうが、エルダにとってほむらは、まだまだ未熟であった。

 

個人的な感情では彼女のことを気に入っているが、今回のような行動は好きにはなれなかった。

 

「まったく・・・・・・鹿目まどかの事など見捨ててしまえば良いのだ。もはや希望すら抱いていないのはお前自身よく分かっているだろう?」

 

鋼鉄製の爪でほむらの頬を撫でながらエルダは呟いた。

 

「他の小娘も同様・・・望みすらないのに・・・・・・何故、救おうとする?そうまでして希望にすがり付こうとするのだ?」

 

エルダには、見えていた。ほむらの心の中に存在する僅かな”内なる光”の存在を・・・・・・

 

彼女以外にも闇にありながら、”内なる光”を持つ者を・・・・・・

 

「バラゴ様もまた、僅かな内なる光を宿していらっしゃる」

 

この場にいる”母の映し身である少女”の存在がそれを証明させていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原 中学校

 

病院での一件から、まどか達はあっさりと元の日常へと戻っていた。

 

(あれから、マミさんには会っていない……杏子ちゃんとさやかちゃんはいつも通り)

 

「でさ、姐さん。お願いが……」

 

「って、またかよ!!今週で何度目だよ!!!」

 

そこには、宿題が終わっていないさやかが杏子に頭を下げている光景と……

 

「さやかさん。そういうのはあまり関心しませんわ」

 

仁美が呆れながらも笑っているというこのクラスの日常だった。時々、キュウべえの姿を見かけることもあるが、話すことはなかった。

 

こちらの様子を伺うように見ている様は気味が悪かったが、関わってこないのは……

 

(杏子ちゃんが居るからかな……)

 

”記憶”に存在しない”魔戒騎士”、”魔戒法師”……そのことについて、杏子からは聞いていない。

 

(たくさんの”時間軸”で、キュウベえは、契約した覚えのないほむらちゃんを警戒していた……魔戒騎士は、杏子ちゃんはキュウベえにとって都合が悪い存在なのかな……)

 

契約を持ちかけてこないのは、ある意味ありがたかったが、逆に何を行うか分からないと言う点では不気味であった。

 

(それに……ほむらちゃん……)

 

魔女結界の中でマミを助け、共にお菓子の魔女 シャルロッテを倒したはずだったが……倒したはずのシャルロッテが現れ……

 

(現れたのは……)

 

夢で見た”闇色の狼”。悪魔のような冷酷で感情のない目で魔女を喰らった。

 

(何だろう……どうして、この時間軸は……どうすれば、ほむらちゃんを皆を救えるんだろう)

 

自分が魔法少女になればとも思うときがあったが、それは決して行ってはならないことだった……今の自分が契約すれば……

 

(嫌だな……私が皆を傷つけ、殺してしまうなんて……)

 

酷い奴だと思い、手を掛けてしまったキュウベえの屍骸を見たとき、心の底から怖いと思ってしまった。生き物の命を奪うことの恐ろしさに……

 

(どうすればいいんだろう……)

 

何の力もない自分が出来ることは、なんだろうと考えても分からなくなってくる。思考の海に潜ろうとした時、

 

「まどかっ!!!なに、湿気た顔してんのっ!!!暗いよ!!!!」

 

「っ!?!!さ、さやかちゃんっ!!!!」

 

驚いたのか、まどかは声を上げてしまった。さやかは、いつものように明るい笑顔である。

 

「もしかして、宿題忘れたっ!?!」

 

「違うよ、さやかちゃんじゃあるまいし……」

 

「ひどっ!!!まどか、親友にそれ言う?」

 

「えぇ~~、友達だから言えるんじゃないかな。ティヒヒヒヒヒヒ」

 

先ほどの暗い表情ではなく、年相応の少女の顔でまどかは笑っている。そんな彼女に杏子は少し複雑そうな視線を向けていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原の街頭を一人の女性が縋るような視線で”探し人”のビラを配っている女性がいた。

 

「すみません・・・・・・お願いします。どうか・・・」

 

街頭を歩く人達は、時折受け取るか、最初から女性は居ない者として通り過ぎるだけだった。

 

「あぁっ!?!」

 

ある人にぶつかりそのまま、アスファルトの上に倒れてしまった。倒れてしまっても誰も女性のことを気に留めることはない。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

女性に一人の女子中学生が駆け寄った。その女子中学生 鹿目 まどかを見た女性は……

 

「ほむら?」

 

自分が探している”愛娘”が微笑んでいるように見えたが、少女は”愛娘”とは似ても似つかなかった。

 

「あ、あの……」

 

「ごめんなさいね。少し疲れていたみたいだから……」

 

女性は、ビラを拾い集め、まどかも集める。

 

「この子は……」

 

「えぇ、私の娘…居なくなってしまったの」

 

悲しそうに俯き、女性は思い出の中の娘の姿を思い浮かべる。

 

「あの子。自分で自分を痛めつけることがあるから心配なの・・・・・・迷惑だなんて思っていないのに・・・・・・もしあの子が帰ってきたら、あなたとは良いお友達になれそうね」

 

涙混じりに女性はまどかに礼を述べ、人ごみの中に消えていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放課後、まどかと別れ、さやかはいつものように上条恭介が居る病院へと来ていた。

 

恭介はCDプレイヤーでいつものように音楽を聴いていた。

 

「・・・・・・何を聴いているの?」

 

「亜麻色の髪の乙女」

 

「ドビュッシー?素敵な曲だよね」

 

さやかは、彼が聴いている曲を一度聴いている。普段が普段なためか、さやかがクラシックに詳しいことは意外であった。

 

「あたしってさ、こんなだからさ・・・クラシックなんて聞く柄なんかじゃないし・・・・・・恭介が教えてくれなかったらさ、こういう音楽を真面目に聞こうとなんてさ、たぶん、一生なかったんだろうなって・・・」

 

音楽の授業で曲名を当てることで、他のクラスメイトに何度もビックリさせていたのだ。普段なら、恭介は彼女に”そんなことはないよ”と優しい言葉を掛けるのだが・・・・・・

 

「・・・・・・さやかはさ・・・・・・」

 

「…なぁに?」

 

普段と違う妙に冷たい声色にさやかは戸惑うように応えた。

 

「さやかはさ、僕をいじめて楽しいのかい?」

 

「えっ、!?な、何を・・・」

 

突然の、意外な彼の言葉にさやかは戸惑ってしまった。

 

「今でも僕に音楽なんかを聴かせるんだ?嫌がらせのつもりなのか?」

 

「だって恭介、音楽が好きだから・・・・・・」

 

取り繕うようにさやかは、応えるが恭介の怒りにさらに油を注いでしまった。

 

「もう聞きたくないんだよ!自分で引けもしない曲を聞くなんて!!!!聞いているだけなんて!!!僕は!!!!!」

 

普段の物静かな彼とは打って変わって激しく怒りでそれでいて今にも泣きそうに表情を歪ませ、CDプレイヤーを叩き壊した。

 

「や、やめてっ!!」

 

「動かないんだ!!!何も感じないんだ!!!!もう痛みさえ感じない・・・・・・こんな手・・・・・・」

 

現に彼は自身の手から血が流れてもまったく痛みを感じなかったのだ。

 

「大丈夫だよ。きっと、何とかなるよ。諦めなければ、きっと・・・・・・」

 

彼の悲しみを少しでも和らげようとさやかは、励ますが、

 

「諦めろって言われたのさ」

 

少しでも彼の気持ちを和らげようと浮かべていた笑みが強ばってしまった。

 

「僕の手は二度と動かない。奇跡か、魔法でない限り治せないって・・・・・・・・・」

 

完全に望みが絶たれてしまったのだ。両親も何とかしようと海外の名医を当たっているそうだが、治せる可能性は限りなく低い。日本の最高の医師に見てもらってこれなのだから・・・・・・

 

そのことは両親も分かっているのか、心理カウンセラーまで雇っていた。

 

ただ、確実性のない励ましを言うしかできない彼女にはどうしようもできなかった。

 

”僕と契約して、魔法少女になってよ!!”

 

脳裏に浮かんだのは、親友達が警戒する得体の知れない小動物の言葉だった。

 

あらゆる願いを叶えることができる。

 

”その人のために人生を投げ出すのが嫌ですか?それだけの価値があるのではないでしょうか。投げ出せないのは、願いなんてその程度なんですね”

 

”絶対にアイツと契約するなよ。取り返しがつかなくなったら、後悔しても遅いんだ”

 

叶えたくても願いが叶えられない親友の声と、安易に奇跡に縋るなと警告する親友の声がぐちゃぐちゃに混ざっていく。

 

目の前にいる少年を絶望から救えるのなら、使える手段があるのならば、それは正しいことでないのだろうか?

 

しかし、数日前の悪夢を忘れているわけではない。願いを、奇跡を叶えてしまえば・・・・・・自分はあの恐ろしい存在と大きく関わってしまうことになるのだが・・・・・・

 

(あの時は、冗談じゃないって思ったけど・・・・・・恭介の為なら・・・・・・何とかなるかもしれない)

 

独りで戦わなければならないかもしれない。だが、彼女には一緒に戦ってくれるかもしれない宛があった。

 

(姐さんは怒るかもしれないけど、きっと分かってくれるよね)

 

決心がついたのか、さやかは、

 

「・・・・・・あるよ!!」

 

「・・・・・・・・・?」

 

訝しげな恭介に対し、さやかは彼をまっすぐ見据えて

 

「奇跡も魔法もあるんだよ!!!!」

 

さやかは決意したように言い切った。病室の前にひとりの男が居たことに二人は気がつかなかった・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・軽々しく他人の為に命を差し出すとは・・・・・・身の程知らずの小娘が・・・・・・・・・」

 

カウンセラーの龍崎ことバラゴは、この件についてはある程度、彼女から聞いていた。だが、彼はこの件をどうしようとも思わなかった。

 

「・・・・・・彼女がどうなろうと僕に関わり合いがあるわけじゃない」

 

恭介の両親から依頼を受けていたのだが、あの様子で話すのも拗れるだけかもしれないと判断し、その場を後にした。

 

二人よりも彼が関心を寄せているのは、たった一人の少女である。その少女の身が安全ならば、それ以外の事などどうでもよかった・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

病院の屋上で・・・

 

「キュゥべえ、居るんでしょ!!!」

 

彼女の声に応えるように小さな白い生き物が手摺の上に現れた・・・・・・・・・

 

「美樹さやか。君にとってその願いは命を賭けるに値する願いなのかい」

 

頷いたさやかにキュゥべえは、耳を腕のように動かす。

 

「うん・・・・・・アタシの願いは・・・・・・」

 

その後、屋上に青い光が弾けたことに誰も気がつかなかった・・・・・・ただ一人を除いて・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼女が選択した事だ・・・・・・僕が態々、出るまでもない・・・・・・」

 

先ほど光が弾けた屋上に視線を向けるバラゴの視線は、まるで何も見なかったように言い聞かせているようにも見えた。

 

”あなたって、本当に人間じゃないのね!!!!”

 

かつては、止めるほどの言葉ではなかったが、何故か、今、響いた彼女の声は嫌に心を動揺させた・・・・・・・・・

 

 

 

 

 




捏造になるかもしれませんが、この小説の設定では、バラゴは何度か阿門法師と顔を合わせている設定です。

阿門と出会ったのは、小説版だと鋼牙とバルチャスを興じた後、ヴァランカスの実を鋼牙が取りに行く手前でこの時が初対面です。ついでに最後の出会いでもありました。

名前だけですが、鋼牙もでましたが、あの人も捻くれた目をした魔戒騎士で、でています(笑)

時期は、TV版が始まる前ですね。この物語のコンセプトにIS×GAROでは出せない人たちを出そうというのもあったりします。

阿門法師もその中のひとりです。次回はいよいよ、飛び入りであの人に似たキャラが・・・・・・



次回予告

アレから、私はずっと一人ぼっち。

誰も傍に居られるわけじゃない・・・・・・

呀 暗黒騎士異聞 第十八話「古傷」

いま、あなたは生きているの?それとも・・・・・・




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