呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝)   作:navaho

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なんというか久々の主役の登場。
いくつかの番外編経て、本編に入りたと思います。
最後に没案ですが、箱の魔女ではバラゴの忌まわしい記憶が刺激されて、その時にほむらと瓜二つの女性を見て、彼女がバラゴに対して不信感を強くするという展開を考えていましたが……

まどかと杏子の二編を予定しています。



幕間「少女」

 

 

 

一人の男が見滝原の町を歩いていた。男の名は、バラゴ。暗黒騎士 呀の名を持つ魔戒騎士の逸れ者である。

 

男は少し焦ったように足早に見滝原の郊外の館へと足を向けていた。言うまでもなく、先日から意識が戻らない彼女の事が心配だったのだ。

 

人の気配が感じられない寂れた光景は、近代化、開発が活発な都市とは正反対で少し前の時代の”闇”をそのまま表していた。

 

いや、闇は何時の時代も変わることはなかった。故にホラーは今も出現し、魔戒騎士はそれを狩るという光景は今も何処かで行われている。

 

その闇をさらに越えたところに自分は、踏み込もうとしているのだ。

 

バラゴにとって闇は自分のすぐ傍にあり、無条件で受け入れてくれる”母”そのものだった……

 

 

 

 

 

 

母が自分に言ってくれたのだ……大河の元を飛び出したあの日、母は闇の力により甦り、僕の前に再び現れたのだ。

 

”いらっしゃい。バラゴ”

 

”ど、どうして……母さんは、確かあの夜……”

 

僕の記憶の中で最も忌まわしいあの夜の出来事。ホラーの返り血を受けた母を容赦なく切り捨てたアイツ。そのアイツをこの手で八つ裂きにしてやった。

 

母は、僕の記憶と同じ微笑を向けてくれた。

 

”あなたも闇の力を手にしなさい。そして究極の力を手にするの”

 

母を僕に返してくれた力をこの僕が得る事ができる。そのことに心が高揚するのを感じた。

 

”闇の世界では、生も死も同じ。あなたも闇を受け入れれば、最強の魔戒騎士になれる。その力が欲しければ、私と共に着なさい。そして、闇と一つになりなさい”

 

母の元へ行こうとした時、喧嘩別れしたのに図々しくも僕の前からアイツと同じように大河は母さんを斬ったのだ。

 

”バラゴ!!!闇に囚われるな!!!!”

 

僕は大切な人を二度も奪われてしまったのだ。それも二度も魔戒騎士に……

 

高揚していた心は冷め、あの日の悪夢の記憶が氾濫した河水のように僕の心を容赦なく押しつぶしていく。冷たくなった母の身体、何も映さなくなった瞳……微笑むことすらできなくなった……

 

また目の前で繰り返される光景。母は崩れ落ち、あの日の冷たい川を思い出させるほど、黒い血が辺りに広がっていく。

 

この光景に僕の心は、怒りと絶望の感情が激しく入り乱れていたのだ。忌まわしいこの記憶を思い出さないよう、いつかは乗り越えたいと願い、固く封印していたのに……それをこの男は……

 

僕は剣を取り、怒りのままに大河に切りかかった。普段ならば冷静に物事を見据えて相手に望むのだが、それすらせずに僕は沸騰した感情のままに大河に切りかかったのだ。

 

”よくも、母さんを!!!!”

 

”正気の戻れ!!!バラゴ!!!アレは、お前の母ではない!!!!”

 

”黙れ!!!!”

 

師である大河の剣は、僕を遥かに上回り成されるがままに彼の剣を受けるしかなかっただが、このまま負けるわけにもいかず僕は必死でそれに対抗した。

 

”バラゴ、まだ分からないのか!!!アレが人間に見えるのか!!!”

 

大河の視線の先には、切られたのにも関わらず何かの力に引っ張られるように立ち上がる母の姿だった。まるでホラーに操られる屍のように……

 

でも母は僕に微笑んでくれた。僕に教えてくれた闇の力の凄まじさを……だからアレは、母さんに違いない!!!

 

怒りの赴くままに僕は大河に刃を向け、いつの間にか彼を押していたのだ。

 

”バラゴ……目を覚ませ!!!お前は誰よりも強い魔戒騎士になれる!!!だから!!!!”

 

”五月蝿い!!!!お前を信じた僕が馬鹿だった!!!!愚かだった!!!!牙狼の称号も!!!”

 

この男は僕にとって、友であり、師であり、また父親のようにさえ思えた。だが、この男は僕の忌まわしい記憶を繰り返させた。

 

所詮は牙狼の称号も一介の力に過ぎない。そんな力に縋ったところで僕は、全てのホラーを倒すことはできない。

 

だったら、そんな力も誇りも称号も、この僕の命も要らない、必要なのは、この忌まわしいほどに弱い自分自身を消し去れるほどの、母を何度も殺されるのを見ているしかなかった自分自身を殺せる力。

 

僕は大河を押し切るように彼の懐に入り、その身体を斬った。彼が膝を付くのを確認し、僕は母さんに視線を向けた。

 

母さんの身体は霧となって消滅したが、抜け出した青白い光はその場を離れるように森の奥へと飛んで行った……

 

母さんを甦らせた闇の力をこの目で確かめなければと僕は大河に止めを刺さずにそれを追った。

 

その後、メシアの存在を知り、鎧にこの身を食らわせ、暗黒騎士 呀へとなった。

 

母さんとはそれ以来出会うことはなかったが、闇は僕に新たな贈り物を齎した……

 

彼女の名は、暁美ほむら。母さんの生き写しともいえる美しい少女だった。ただ、不愉快なことにかつての母さん同じように理不尽な目にあっていたという事。

 

あの夜僕は、彼女をこの手から零さないと誓った。たとえ、誰であろうと返すものか……

 

もし、命を脅かすのであれば、そいつの息の根を確実に止めてやる。魔女、ホラー、魔戒騎士、魔法少女、彼女を悲しませ、傷つけるのであれば容赦はしない。

 

何処にも行かせるものか……たとえ帰る場所があってもそこを破壊してしまいさえすれば、彼女はこのバラゴの元にいるしかない。

 

もう二度と失ってたまるものか……母さんを………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原の中心にある公園のベンチに一人の少女が寄りかかっていた。

 

彼女の名は、暁美ほむら。先ほど巴マミと別れて一人、此処で身体を休めていたのだ。

 

「……少し無茶をしたみたいね。だけど……」

 

数日前に受けた傷は、完全に塞がっていてこの身体は万全である。だが精神的には、少し気疲れを感じている。

 

この夜だけでも様々なことが起こり過ぎた。巴マミの生存、そして美樹さやかとの出会いと共闘である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ほむら

 

巴マミと共に私は、数週間後に現れる”ワルプルギスの夜”に備えて魔女狩りに出た。

 

少し前までの巴マミ……巴さんは、罪悪感に震え、自分自身の弱さに泣いていた。

 

かつての時間軸でも同じだった。誰かを死なせてしまえば、この人は深く傷つき、それをただ甘えていた私達は彼女を破滅に追い立ててしまった。

 

さらには、彼女の死を冒涜するように”身勝手な願い”により、破滅していく私達を、もし巴さんが見ていたらどう思うだろうか?

 

弱い私は、その現実から背を背け”やり直し”と言う名の”逃亡”を繰り返す…繰り返す……繰り返してきた……

 

この時間軸でも同じく、互いに利用しあうだけの関係で終わるのだろうかと少し冷めた考えを持っていたのだが、

 

「ほむらさん。あの店、今度一緒に行ってみない?」

 

「巴さん。今は、魔女狩りに集中してください」

 

魔女狩りに出たものの巴さんは、久々に友人と遊べる事に喜んでいる普通の少女そのものだった。

 

「分かっているわよ、今は確かに気を張らなければならないけど、少しはゆとりを持たないと、勝てるものにも勝てないわ」

 

少し悪戯が掛かった笑みで私に話し掛ける巴さんは、普通の少女でしかない……

 

巴さんがよくしゃべり、私はそれを聞く役という具合でやり取りを続けていた。暫くして私達は”箱の魔女”による口付けを受けた人達、使い魔達と遭遇し、

 

「巴さん……これで三人目です」

 

「そうね………ここまでの人数に口付けを……」

 

「ほむらさん、急いで大元を叩きましょう」

 

「もちろん、そうすべきです。ですが、今回の魔女は私達にとって、少し厄介かもしれません」

 

「どういうことかしら?」

 

「はい。魔女は精神的に弱った人間を誘い込みますが、今回はそれに加えて使い魔もいます。ほとんどの人がうわ言の様に愚痴を…後悔を口走っています」

 

この魔女は、何時の頃から私は苦手になっていた。理由は言うまでもなく私にとっては振り返りたくない”記憶”を掘り返してくるのだ。

 

以前、私はこの魔女により嫌な物を大量に見せ付けられ我をなくしてしまったことがあった。

 

「今回の魔女は、おそらく私達の嫌な記憶……トラウマを刺激するタイプです」

 

「精神攻撃を行うという事?私も長いこと、魔法少女をやってるけど、そういう敵は初めてね」

 

そうだ、最初の時間軸では”箱の魔女”とは遭遇していないのだ。この魔女と出会う前に巴さんは私達の前から退場してしまう……

 

「でも、攻撃はほむらさんがいれば大丈夫ね」

 

巴さんは、私の時を止める魔法の動作を真似ている。確かに動きさえ止めてしまえばどうにかなるかも知れない。だけれど……

 

「……ですが、あの魔女は意外と攻撃が速いんです。私も以前、それでやられかけたことがありましたから」

 

自嘲するわけではないが、あの魔女は意外と動きが速い。結界に入ってきたものへの対応がかなり早いのだ。

 

「貴女が苦手な魔女が居るなんて……でも行くしかないわ。この程度の魔女で躓くようだとワルプルギスの夜に勝つことなんて無理だわ」

 

「そうですね。一人では難しくても私達、二人ならば……」

 

私も覚悟を決めて、工場内に足を踏み入れた。

 

「嫌なことを聞くかもしれないけれど、ほむらさんは何を見せられたの?」

 

自分でもはっきりと表情を歪めるのがよく分かる。

 

「………はい。以前、仲間だった人達に”お前なんか助けなければよかった”と……」

 

思い出すだけでも震えが走る。憧れであり、私にとっては最高の友達である”まどか”が鬼のような顔で攻め立ててくる光景は……

 

「そんなことはないわ。あなたを護ろうとした人の意思を信じてあげて……最後にあなたの事を責めたりなんかはしていないはずよ」

 

震えている私にとって巴さんは、やはり私にとって頼りがいのある先輩だ。彼女の言うとおり、私が見た鹿目さんは笑っていた。清清しいほどに……

 

でもね、私はもっとあなたと一緒に居たかった。ううん、巴さんと三人でずっとずっと一緒に夢を見ていたかったのに………

 

「……そうですね。信じたいんです……ですが、時間が経つほどに私の中の彼女達の姿が薄らいでいくんです。少しずつ、思い出せなくなるんです」

 

それを手繰り寄せようとして、辛うじて思い出せるまでになってしまった自分の中の彼女達。いつから自分はこんなにも白状になってしまったのだろうか?

 

「それは違うわ。あなた自身が前に進もうとしているの。いつかは、私達の今日の出来事は何時かは遠い日の出来事になってしまうかもしれない。それは決して彼女達の事を蔑ろにしているわけじゃないのよ」

 

前に進む。後ろ向きに過去へ逆行する自分にとっては耳の痛い言葉だ。

 

ここで怯むわけにはいかない。この時間軸では、幸いにも巴さんと友好的な関係が築けている。これならば……

 

「誰かしら?私達の後をつけて来たのは?」

 

突然巴さんが私の背後に視線を向けた。迂闊だった、最近は少し考え込むことが多い。気を抜いてしまったら、一瞬にして命を落としてしまうかもしれないのに……

 

誰だというのだろうか?イレギュラーな魔法少女は既にこの”時間軸”には居ないはずなのに……

 

「相変わらずな対応だね。三年生」

 

現れたのは、魔法少女の姿となっていた美樹さやかだった。

 

「そういうあなたは……契約を……」

 

巴さんは苦々しそうに美樹さやかを……美樹さんを見ていた。この前に出来る限り自分達のような境遇を増えないことを願っていたのに……あなたは………

 

「そう、後悔なんてあるわけない。言っとくけど、アタシは三年生みたいに変にプライドが高いわけじゃないから……」

 

妙に巴さんに食って掛かる美樹さやかを見ると、過去の時間軸の私を敵視していた美樹さやかを思い出す。

 

佐倉杏子に対しても、その認識を持ち、妥協すべきところを妥協せずに頑なに自分達という輪を乱すことを許さなかった……

 

その頑なな態度が美樹さやかが乱すことを許さなかった輪を自らの手で乱し、私達もその影響で崩壊していった……

 

「……新人ね。ここは私の縄張りよ。勝手な行動は控えて」

 

「出しゃばるなっていうんですか?目の前で大変なことが起こっているのに、アンタの顔を立てるって冗談がきついわ」

 

なんという光景だろうか。自棄になった美樹さやか、美樹さんが巴さんを拒絶することはあったが、こんな風に対立する光景は未だかつて見た事がない。

 

こうなったら、あの時、病院での杏子と巴さんが対立していた光景に出てこられなかったけれど…

 

「二人とも喧嘩するなら、魔女を狩った後にしてください」

 

「あっ!?!やっぱり、生きてるの!?!」

 

いきなり素っ頓狂な声を上げる美樹さんは、いつものことながら予想外の行動ばかりだ。

 

「い、生きているって……なんだと思っていたのよ」

 

「いやぁ~~、てっきり、そこの三年生が幽霊に取りつかれて……」

 

「何、勝手にストーリーを作っているんですか…えっと……あなたは」

 

いつもは唐突に初対面であるはずなのに、相手の名前を言うのはNGであると忌々しいが”彼”に忠告されたことがある。

 

「幽霊じゃないんだね……えっと、アタシは美樹さやか」

 

相手が名乗り返したのなら、私も名乗り返さなければならない。

 

「私は暁美ほむら。巴さん、貴女と同じ魔法少女よ」

 

「一応、病院での一件で知っている。あ、そうそう、あの時は助けてくれてありがとう」

 

美樹さやかは、私にお礼を述べた。こういう風に言われるのはどれぐらい前だろう。ほとんどが、彼女にとっては”悪い魔法少女”でしかなかった私が……

 

「お礼を言われることではないわ。貴女は偶々、そこに居合わせただけ」

 

「でも、アレはアタシが勝手に首を突っ込んでというか……」

 

あまり無茶はしないでね、美樹さん。

 

「でも、最初に貴女を助けてくれたのは巴さんよ」

 

「……そう、アタシは姐さんに手柄を取られたくないからと思ったんだけれど……」

 

話を巴さんに振るとあからさまに不機嫌な態度になる。巴さん、あなた美樹さやかに舐められているんじゃないですか?

 

「そういう捻くれた考えしかできないなんて、貴女、碌な魔法少女にならないわよ」

 

巴さんも巴さんでかなり高圧的に返す。他人を見て我が身を直せだったかしら……自分にとってはかなり痛い言葉だ。でも……

 

「いい加減にしてください!!!今は、魔女を目の前にしているんですよ!!!!二人とも!!!!!!」

 

思わず大きな声を出してしまった。こんな風に声を上げるのはどれぐらい久しぶりだろうか。

 

「ほむらさんがそういうなら、仕方ないわね。あまり、足を引っ張らないように……」

 

「そっちも油断して、お陀仏は二度も見てられませんからね」

 

この二人、普段の時間軸ならもっと仲良くなるはずなのに……そうか、美樹さんは誰かの腰巾着みたいになる事が多いから、多分佐倉杏子辺りが凄く大人だからなのだろうか?

 

何とかして、私達は”箱の魔女”の結界の近くまで着たが、周りに口付け、もしくは使い魔に連れられた人間達が多いことに驚いた。その中に一人だけ元気に動いている青年を見つけた。

 

あんな青年、今まで居ただろうか?

 

「あ、あの人はお隣の……」

 

巴さんは、あの青年に心当たりがあるようだ。お隣さんなんて今まで見たことがなかったのに……

 

お隣さんと聞いて少し嫌なことを思い出した。まさかと思うが、巴さんの家に訪れた時、正面に隠されたカメラを見つけたのだ。盗撮用の小さなものだ。弁護士をしていたお父さんが証拠物件として抑えていたのを見たことがあった。

 

あの青年がまさかと思うが、一人暮らしの女子中学生というのは嫌な思考を持った人間にとっては非常に魅力的なものだから……

 

「あ~っ!?!アイツ、柾尾 優太!!!!」

 

美樹さんも知っているなんて…意外と良い人なのだろうか……

 

「知り合いなの?」

 

「あんなのと知り合いたくないわよ!!!アイツは、犯罪者よ!!!!」

 

前言撤回。まさかと思うが…この時間軸の美樹さんの両親は……

 

「美樹さやかさん。そういうのは口に出すものじゃないわ。単に誤解しているだけかもしれないのに」

 

「そういうんじゃないんですよ……」

 

美樹さんは苦々しそうに唇を噛んだ。どうやら、あの青年は関わってはいけない人物らしい。私の知っているあの二人と比べたら、まだマシな方かもしれないけれど……

 

私達は、状況を見て魔女がどういう能力を持っているかを改めて確認し……

 

「巴さん。貴女は、あの人達の拘束をお願いできますか?」

 

「えっ!?私も一緒に結界に行くんじゃないの?」

 

「はい。あの中を進むのは少し骨が折れます。私は美樹さんと一緒に魔女の結界に入って、殲滅します」

 

「どうして、美樹さんと一緒で私と一緒ではいけないのかしら?」

 

ベテランの自分を差し置いて、ルーキーの美樹さやかに花を持たせるのかと少し視線が厳しかった。

 

「先ほどもお話したんですが、この手の魔女は私達の様なベテランよりもルーキーのほうが向いていまし」

 

「あぁ、そういうこと。確かに、貴女も苦手とする精神攻撃なら、そういう手もありね」

 

巴さんは渋々ながら納得してくれた。対する美樹さやかは……

 

「ふふ~~ん。アタシが居ないと始まらないみたいね♪」

 

ドヤ顔で子憎たらしいことこの上ない表情だった。少しばかり調子に乗っているかもしれないが、今は此処では何も言うまい。

 

巴さんは私にだけ聞こえるように軽く舌打ちをした……

 

巴さんは、魔女の影響で自傷行為に及んでいる人達を優先的に拘束し、さらには私達が進みやすいように口付けを受けた人達を傷つけないようにリボンで拘束してくれた。

 

「へぇ~~、一応は先輩なんだね」

 

「そういう事は言わないの。もう少し、ベテランを敬いなさい」

 

「はいはい、ほむらも姐さんと同じことを言うんだね」

 

少し小言の多い姑のような自分に少し抵抗感を感じながら、私達は魔女結界の入り口に飛び込んだと同時に

 

「いやああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

結界の中で響く友達の声を聞いたのだ。

 

「まどか!!!!!!?!!」

 

「そうだよ!!!まどかの声だよ!!!!これ!!!!!」

 

初対面の私がどうしてという事を美樹さやかが追及しなかったことはありがたかった。

 

「って、なにこれ!!!!なんなの!!!?!!あいつは!!!!!」

 

美樹さやかが叫んだ先には、白い翼を広げ一人の少女を抱える髪の長い少女だった。いや、少女というには少しばかり違う。バラゴのように見た目とは違う違和感を感じた。

 

抱えられた少女が居たと思われる場所には数人の少女が居り、悲しんでいた。あの少女はまるで死んだ少女を迎えに来た死神……そして死んだ少女は迎えられたのだ死神に……

 

「ねえ、ほむら!!!あいつのこと知ってる!!?!」

 

「知らないわよ。あんな死神のような魔法少女……」

 

魔法少女ですらないのかもしれない。もしかしたら、魔法少女の願う奇跡以上のもっととてつもない因果を抱え、さらには狂気に近い絶望よりも突き抜けた希望を願ったのかもしれない……

 

正直に言えば、あのバラゴの掲げる目的よりも………

 

あの少女?の顔は、はっきりとは見えないが私は少しだけ見覚えがあった。誰かまでは思い出せないが……

 

「それよりもまどかを!?!」

 

「そ、そうだった!!!!ほむら、お願い!!!!」

 

私は時間を停止させ、美樹さんと共に魔女の近くまで一気に飛んだ。

 

近くまで来た時、まどかをあの青年が押しのけて異様なほど興奮して魔女に話しかけていたが、

 

”シンジっ!!!”

 

”お前達も魔戒騎士であろう!!!なのに!!!”

 

何処かで聞いたことある声と共に黒い影たちが二人の男女をリンチするかのように刺し殺している光景。

 

その声は、私が知る彼女の者とは思えない程感情的だった。

 

(まさか……エルダもこの場に来ている。アレが……エルダの言っていた………)

 

かつて未来を変えようと奮闘してもそれが都合の悪い未来であれば、真実であろうとも、それを誰も信じることはないと………

 

「って、何っ!?!今度は、魔戒騎士っぽいけど、誰よ、おじ様と姐さんを誤解させるようなもんを映しているのはっ!?!」

 

美樹さんも魔戒騎士の事を知っている。佐倉杏子が魔戒騎士関係であるから当然かもしれない。だけど、今は……

 

「美樹さんっ!!!」

 

「あいよっ!!!一気に決着をつけてやるわ!!!!」

 

白いマントを靡かせ、サーベルを突き立てて美樹さんは魔女に突撃し、両断する。

 

両断された魔女は奇妙な黒い液体を結界内に飛翔する。致命的なダメージを受けたのか、魔女が映し出していた光景が消滅していく。

 

「ほんとうにほむらの能力は最強だよね!!!!アタシと姐さんと三人なら、絶対に最強のチームが組めるよ!!!」

 

巴さんを除け者にしないで欲しい。

 

「バランスが偏りすぎるわ。二人とも近接ばかりじゃない!!!それよりも早く!!!」

 

「分かってるって!!!!そこの魔女、覚悟!!!!!」

 

サーベルを片手にダメージを負った魔女に対し、美樹さんはさらに追撃すべく飛翔し、

 

「これで終わり!!!!!!」

 

瀕死の状態であるが止めは刺さなくてはならない。魔女を倒した後、いつものように結界が晴れていった。

 

少し臆病かもしれないが、私は結界が完全に晴れるまで周囲を警戒していた。以前のように”お菓子の魔女”にように二体目が現れるようなことだけは絶対になくてはならないのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

美樹さん、巴さんと別れた私はこうして公園のベンチに腰掛けている。一晩で色々なことがあった。私は、この時間軸で何をすべきだろうか……

 

あの二人特にバラゴと関わってから、まどか達とは関わらないようにと考えていた。

 

理由はバラゴが恐ろしく危険な存在であり、彼女達に危害を加える可能性が高いため、イレギュラーを関わらせて、取り返しのつかないことにさせないためでもある。

 

「相変わらず無茶をするのだな。それとお前は誰にも希望を抱いてなどいなかったのではないか?」

 

いつものことながらエルダは唐突に現れる。いつの間にか私の目の前に居た。青白い肌は何時にも増して魔女よりも魔女らしい。

 

「……それが私に残された道しるべだからよ。言われるまでもないわ」

 

心が冷め切ってしまった女。私も何時かは、こうなってしまうのではないかという怖れもあるが、ここばかりは抵抗させてもらう。

 

「別にそれでも構わないか……一つだけ私からお前に伝えておこう」

 

またバラゴからの小言だろうか?

 

「鹿目 まどかだが……アレにインキュベーターは、関わろうとはしないだろう」

 

「ど、どういうこと!?!」

 

いきなりのエルダの言葉に私は動揺してしまった。インキュベーターは積極的にまどかに契約を持ち掛けるのに……どういう事だろうか?

 

「……元々、定められていた運命を書き換えようとはしたが……それはもう書き換えのしようがないものを…さらにどうしようもない事にしてしまった」

 

まどかが何かをしたというのか?インキュベーターを鋏の切っ先で殺すという彼女らしからぬ行為もそうだが……病院の件でも巴さんは、疑いの目で彼女を見ていた。

 

この時間軸のまどかは、今までとは違うとでもいうのだろうか?本人が居ない所で私が仮説を立ててもどうしようもない……

 

「それとお前は少しばかり眠ってもらう。バラゴ様にとって大事な存在だからな、お前は……」

 

突然、私の前で手を翳したと同時に私の意識が暗くなっていくのを感じる。何が起きたのかが分からなかったが、この脱力感が少しだけ心地良かった。

 

そういえば今日は、普段以上に気を張り詰めていた気がする……

 

 

 

 

 

 

 

「やっと眠りについたか……付け焼刃程度でここまで無茶を行おうとする気になれたものだ」

 

寝息を立て始めたほむらに対し、いつの間にか持ち出していた黒いローブを掛けた。今の季節は少しばかり肌寒く、何かを羽織らなければ風邪を引く可能性もある。

 

エルダは穏やかとはいえない寝顔のほむらの頬にそっと手を添え、無言のまま見つめていた。

 

「エルダ。此処にいたか……」

 

その声に対し、エルダはひざまづき、主 バラゴを迎えた。

 

「エルダ、そのままで良い。ほむら君は……」

 

「はっ、少しばかり無茶をしていたようですが、他の魔法少女達とは友好に接しているようです」

 

今日の一部始終を途中であるがエルダは見ていた。

 

”他の魔法少女”という言葉にバラゴは少しばかり表情を険しくした。言うまでもなく、彼女をこのような運命に引き擦り込んだのは……

 

「そうか…ならば今はそれでいい」

 

自分らしくはないが、その運命を自分が粉砕するなどという”魔戒騎士”のような錦を掲げる気はない。ただ、バラゴは気に入らないだけなのだ……

 

大切な人の映し見である彼女がそれを望み、傷ついていく光景が………

 

眠るほむらに対しバラゴは、膝を折り彼女の白い肌と鮮やかな黒い髪に指を滑らせ………

 

「………誰にも母さんを渡さない」

 

理不尽な運命にもインキュベーター、ホラーの陰我にも渡すつもりはない……そう例え戻る場所があろうともそこに返すつもりなどバラゴにはなかった。

 

彼の歪んだ心情を人は、”狂っている”とでも言うだろう。だが、彼は歪であっても護りたい者の為に剣を振るおうとしていた……

 

それは彼の太刀筋に色濃く残る”黄金騎士”のそれがそうさせるのだろうか?それは、誰にも分からない……

 

歪な闇色の狼の加護を受け、少女は眠りに付く………

 

 

 

 

 

 

 

 

人が眠りについている間に見る現実のように感じる出来事………

 

 

 

 

 

 

 

 

私、暁美ほむらは、奇妙な一団の中にいた。ここが何処なのかはハッキリはしないが、霧が掛かった道を青白い顔をした喪服の少女達の中にいる事は分かっていた。

 

周りを見ると彼岸花が一帯に咲き乱れており、この光景にほむらは誰かの葬儀ではないかと思った。

 

”彼は、魔戒騎士だったんだけれど、ホラーよりも母親を殺した父親よりも許せないモノがあったの”

 

棺があるであろう正面で誰かが芝居がかったように声を上げていた。

 

この声、何処かで聞いた覚えがある。よく見知っているような……

 

”彼女も魔法少女になったの。大切な人を護りたいがためにね。でも、彼女も魔女、魔法少女よりも許せないものがあったわ”

 

何処の誰か心当たりがありすぎる。正直、聞きたくはない……

 

”それはね。大切なものを護れなかった自分自身よ。誰よりも抹殺したかったのよ。その弱い自分が何よりも許せなかった”

 

声は興奮したかのように大きくなっていく。

 

”””””””””””””””””そうよね”””””””””””””””””

 

喪服の少女達が一斉に私、暁美ほむらを見たのだ。三日月のような裂けた笑いと共に……

 

”あなたとバラゴ。そっくりだわ”

 

そいつらの顔は私自身がよく知っている顔だった。そう、穏やかに笑う悪魔だった。

 

”ふざけないで!!!あの男と私を一緒にしないで!!!!”

 

そいつに手を上げるが、簡単に手を取られてしまう。堕天使を思わせる黒い翼を広げ私の頭上を面白そうに舞い。

 

”そうね。貴女はそう思っていても、彼は貴女に夢中なのよ。その辺は、しっかり理解してあげなさい。だって彼は、貴女のナイトだもの”

 

”貴女が羨ましいわ。私は、あんな風に大切に思われたことなんてなかったもの。一番の親友ですら、そう思われなかったから…”

 

何を言っているんだ”あの私”は?バラゴが自分に異常なまでに執着しているのは分かっている。それが何故なのかは分からない。

 

”もう少しだけ自分をよく見なさい。彼ならきっと貴女を……”

 

”それ以上言うな!!!!お前は、私じゃない!!!”

 

”誰も貴女だと言ってはいないわ。じゃあね、もう二度と会うこともないでしょうね”

 

薄気味の悪い笑い声と共に霧が晴れていくのと同時に私は夢から醒めた………

 

 

 

 

 

 

 

「やっと目覚めたようだね」

 

いつの間にか夜が明けており、夢と同じように少しだけ霧が掛かっていた。だがどういう夢だったのかは思い出せない。

 

悪夢だったことは間違いないが、まさかバラゴを目覚めに見るとは……

 

「………おはようって、バラゴ。まさか一晩中、私の前に居たの?」

 

だとしたら呆れた。こいつは、何処まで私を拘束すれば気が済むのだろうか?胸の悪趣味な刻印だけでは足りないとでも言うの?

 

「君が心配だったからね。ソウルジェムが傷つかなかったから良かったものの…君は君自身をもう少し大切にすべきだよ」

 

「余計なお世話よ。あなたが私をどう扱おうが、私は私のすべきことをするだけ。それだけは譲れないわ」

 

やはり私は、こいつが気に入らない。いや、同族嫌悪を感じる自分が気に入らない。

 

だから私は、バラゴに親しみを覚えてもそれを表には出さない。出したくはない、そうしたら、今まで築いてきたものが壊れてしまうから……

 

勢いよくベンチから立ち上がったが、バラゴと同じローブが落ちた。どうやら、バラゴかエルダのどちらかがかけてくれたようだ。それだけは感謝しても良いかもしれないが、私がそれを口に出すことはなかった……

 

 

 

 

 

二人はそのまま拠点である洋館へと戻っていく。戻る前にエルダは足元に落ちていた見慣れない”黒い羽”に視線を落としたが、黒い羽は、突然の突風と共に見滝原の空へと消えていった……

 

 

 

 

 





ヒーロー?とヒロインがこんな感じでよろしいでしょうか?

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