呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝)   作:navaho

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本来ならば、纏めて出したかったのですが、このまま更新しないよりはと思い・・・・・・

前々からやってみたかった番外編です!!!

杏子のサイドストーリーは、さやかが契約をし、箱の魔女を倒した時のことです。




番外編「波怒 風雲騎士異聞 (前編) 」

 

 

「さて杏子ちゃん。明日から少しばかり見滝原を離れる」

 

おじの一言から数日の遠征が始まったのだった……

 

 

 

 

 

杏子

 

病院の一件で茫然自失だったアタシに叔父さんは何も言わなかった。無理もないっていう表情を良く憶えている。

 

だけど、アイツを見たときから嫌な予感がアタシの中に過ぎってしまった。

 

魔戒騎士の逸れ者 暗黒魔戒騎士。闇の力を扱う魔戒騎士たちが踏み込んではいけない一線を越えてしまった騎士。

 

いや、あんなのは騎士なんかじゃない、アレじゃホラーだ。ここ最近、魔女以外の恐ろしい存在である 魔獣 ホラーと同じ命を持たない怪物の目だ。

 

誰も分からないところで人を助ける仕事にアタシは、忘れていたモノを思い出し、家族になってくれた叔父さんに魔戒法師としての修行をお願いした。

 

お願いした時、叔父さんは少し考えるような顔をして

 

”俺に合わせようとして習おうとしているのなら、俺は教えることはできないぞ。杏子ちゃんが魔戒法師でなくとも俺は杏子ちゃんの家族で居たいと思うんだが……”

 

そうじゃないって言った。口が巧い方じゃないけど、アタシはただ、叔父さんの言うように家族の事を忘れずにこれからを生きていかなきゃならない。自身が幸せになるために。

 

アタシが幸せの為に都合の悪い魔戒騎士の家の事を知らないでいるのは、家族の事を否定するようで嫌だった。それも含めてアタシは自分のやれることは全てやっておきたいと叔父さんに伝えた。

 

そういうと叔父さんは黙ってアタシの頭を撫でてくれた。アタシは叔父さんの大きくて固い無骨な手が大好きだ。父さんと同じ手が……

 

アタシは意外と筋が良いらしく、叔父さんが教えてくれたことは大抵のことは出来るようになった。基本的な法術、結界、格闘も大抵のことは、こなせるように成れた。

 

色々としてくれた叔父さんは、あの暗黒魔戒騎士をもう一度本来の魔戒騎士に戻したいと言っているけれど……アタシは、それは無謀だと言いたかった。

 

あんなにおっかない悪魔みたいな奴が本気で改心なんてするんだろうか?アイツが叔父さんの言葉に耳を貸すのか?絶対にそんな事はしない。

 

父さんの話は凄く立派だったけれど、誰も耳を貸さなかった。それこそアタシが話を聞いてくれるように願ってしまうほどに……

 

叔父さんと再会するまで独りの間、アタシは人間の嫌な部分をそれなりに見てきた。同じ人間でも平然と騙したり、傷つけたり、自分の為ならば正しいことも平気で捻じ曲がったモノにしてしまうからだ。

 

あの悪魔のような黒い騎士を諭すなんて、叔父さんはあの騎士に何をみて、そう思えるのだろうか?アタシは父さんと叔父さんが血の繋がりのある兄弟であることを改めて思い知らされる。

 

父さんも叔父さんも人間の嫌な部分をどうしようもないって思えるほど見てきているのに、それでも希望を求めている。なあ、叔父さん。希望があるんなら、絶対に証明してくれよ。アタシ、それで絶望をみるのは嫌だからな!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の晩、修行は休みということになり杏子は自室で叔父が用意してくれた夜食を頬張りながら学校の課題をこなしていた。

 

現代文の課題で”高瀬舟”について感想を述べよというものである。内容は、京都の罪人を遠島へ送り出す為に高瀬川を下る船に弟を殺した罪人である喜助と護送役である同心の羽田庄兵衛とのやり取りを描いている。

 

これまでの罪人と違い晴れやかな表情をしている喜助の事を不審に思い、彼を尋ねたことにより、羽田庄兵衛の心境が何ともいえないものを感じさせる短編である。

 

「………迷惑を掛けるぐらいならって……それなら、迷惑掛けられてもしっかり支えてやるって言えよ……」

 

課題を出された時、”高瀬舟”のテーマである”安楽死”について、いかにもインテリであると言わんばかりに語る教師を杏子は感情が異様に冷めていくのを感じていた。

 

”安楽死”。今現在でも意見が二分する課題であるが、杏子はそちらに対して厳しい態度を取っている。どうあっても助からないのなら、安らかな死をもって救うということに対して彼女は

 

「ったく、赤点確実だけど、アタシは、この喜助にガツンと言ってやるよ。兄貴なら弟が苦しんでいるなら、引っ叩いても迷惑かけてもいいから生きろって」

 

杏子は、自分の思ったことをそのまま書くことした。変に気取って中身のない文章を書くよりも、不器用でも真っ直ぐに意見を言うべきだと思い、原稿にシャープペンを走らせた。

 

「……アタシの家系ってある意味、そういう事をやっているのかな?」

 

ふと頭によぎったのは、自分の中に流れる魔戒騎士の血。魔戒騎士達は人に憑依したホラーを狩ることを使命としている。

 

陰我より現れるホラーに憑依された時点で人は死同然となり、人を喰らう怪物となる。それらから人々を護るために魔戒騎士、法師達は刃を取り戦う。叔父は杏子に

 

”俺達、魔戒騎士の仕事はヤクザなもんだ。だが、俺達が戦った後に幸せそうに笑っている誰かが居ると思えば、それはそれでやりがいがある”

 

二振りの風雲剣を弄びながら叔父はそういってくれた。

 

「さ~~てと、アタシは明日に備えて早めに寝るか…休める時は休めって言ってたしな」

 

課題を終わらせ、杏子はベットに横になると同時に布団を被った。脇の棚に自身の赤いソウルジェムを置き

 

(………そういえば、アタシ達、魔法少女ってどういう結末になるんだろ?)

 

独りでいた頃は自分の為にグリーフシードを集め、自分の為だけに魔法を使うことに必死だった。その果てに自分はどういう結末を辿ったのだろうか?

 

縄張りを奪いに来た他の魔法少女か、へまをして魔女に殺されるという光景が脳裏に映った。おそらくは一般人と比べれば、凄惨な最後が待っていることは間違いないだろうと……

 

”杏子ちゃんは、自分が幸せになることだけを考えるんだ。そして、今まで関わってきた人のことを絶対に忘れちゃいけない”

 

自分を抱きしめながら言ってくれた言葉は、自分が人間であればそれで良かったが、魔法少女であれば、人としての幸せは望むことは難しいのではという思いが心の片隅に存在していた。

 

良く分からないがソウルジェムを見ていると苛立ちを感じることがある。魔戒法師として修行を始めてから、よく分からないが何かが自分の中に足りなくなっている……そんな感じがするのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原外周部でバドは魔女結界の入り口に来ていた。

 

「ホラーかと思えば、”魔女”か……」

 

不穏な気配を察し、着てみれば魔女の結界が発生していたのだ。いつもの魔女の結界と違うところは、入り口は西洋の古城を思わせるほど立派な物であり、それを守護する使い魔もまた青を基調とした衛兵の衣装を纏っている。

 

二体の使い魔達は、近づいてきたバドに気づいたのか槍を前に構えた。

 

「なるほど此処に居る魔女は、腕に自信があると見た」

 

不敵な笑みを浮かべて二振りの風雷剣を構えて、駆け出してきた使い魔達を迎え撃つ。

 

二体の使い魔は、バドを前後で挟むように展開し同時に槍を突く。二振りの風雷剣を逆手に持ち、往なすように二体の使い魔を交差させ振り向きざまに一体を背後から両断する。

 

背後から切られた使い魔は、倒れたと同時に消滅し、もう一体の使い魔は楯を召還し追撃してくるバドの風雷剣を防ぐ。

 

金属特有の打撃音が響き、火花が散る。楯に対しバドは正攻法ではなく風雷剣の片方を使い魔の後方に投げつける。丸見えの軌道だった為か、これを使い魔は難なく避けるが、バドの狙いは当てることでなかった。

 

彼が視線を少し動かすと同時に投げられた風雷剣は真っ直ぐに使い魔の背を突き、そのまま絶命させた。

 

二体の使い魔の消滅を確認した後、魔女結界へと踏み込むのだった。

 

普段ならば、魔女結界の中の複雑な迷路をくぐるのだが今回は少し勝手が違っていた。何故なら、入り口を潜ったと同時に一瞬だけではあったが、通路が消えコロセウムを思わせる闘技場が現れ、雄雄しいドラムの音と共に多くの篝火が燃え上がる。

 

使い魔達は、主である魔女の意を汲んでか下がっており、侵入者であるバドに対して攻撃を行わなかった。

 

中央に現れたのは、真紅の騎馬に跨る赤い女騎士”騎兵の魔女”である。ランスを構え、バドに戦うように促していた。

 

 

 

 

 

騎兵の魔女 性質 闘争

 

 

 

 

 

 

「……どうやらこの子は、ひょっとしたら良い魔戒法師に成れていたかもしれないな」

 

魔女に対しバドは少しだけ、思うところがあった。そうもしかしたら、自分の姪も道を踏み外したらこうなってしまうのではという心配があったのだ。

 

(ソウルジェムは……彼女達の魂…認めたくはないが、間違いはないだろうな)

 

以前からソウルジェムと魔法の事が気になっていた。少しでも気の滅入ることがあればソウルジェムは濁る。まるで人の魂の色に呼応するように………

 

その件を確認するために今宵、魔戒図書館へ赴いた。

 

魔戒図書館、古の時代、騎士、法師たちの情報発信の中心であったが、古今の情報ネットワークの発達により廃れていった。

 

そこに置かれていたある手記に”魔法少女”の事が描かれており、その最後が記載されていた。希望を見た願いは、インキュベーターによって歪められた絶望であることを……

 

”彼らインキュベーターの行っていることは、私等が及び持つかないぐらいに正当なモノだ。だが、それを私は許すことはできない。なぜなら、彼らと違い、私達には心があるのだから”

 

手記を見たとき、インキュベーターの所業に怒りを覚えた。例え、この世界よりも広い宇宙にとって大切なことでも”魔戒騎士”としてこの”陰我”を許すことはできなかった。

 

ホラーが人間に憑依し、喰らうのは人間が他の動物と同じ事であるのだが、人を脅かすホラーを狩るために魔戒騎士は存在している。

 

インキュベーターにとっては、宇宙という得体の知れない巨大な存在にエネルギーを与えるのも同じことかもしれないが、

 

(自分が勝手だとは理解している。少しでも杏子ちゃんの為になるなら……)

 

大きな目線で見れば人間程、身勝手で邪悪な存在は居ないかもしれない。魔戒騎士の戦いも人の生存の為でしかないのだから……

 

”騎兵の魔女”に応えるようにバドは、鎧を召還すると同時に自身が契約した”魔導馬”も同時に出現させた。

 

 

 

 

 

 

 

”魔導馬”

 

100体のホラーを狩り、試練を越えた魔戒騎士に許される魔戒獣。

 

 

 

 

 

 

 

 

魔導馬を駆り、互いに武器を構え騎馬同士が前進しお互いに交差する。

 

騎兵の魔女の持つ二本の槍とバドの風雷剣が火花を散らし、結界内に衝撃が走る。その衝撃により、使い魔達がよろめく。

 

槍をバド目掛けて突き立てたと同時に馬を自身の足のように巧みに操る。その動きは、ベテランであるバドを唸らせる程のモノであった。

 

(人馬一体とは言ったが、この魔女は純粋に絶望したわけでは無いかも知れんな)

 

これほどの戦闘技量をもつ魔女ならば、魔法少女の頃もかなりの強さを誇っていたのだろう。

 

魔法少女の中でも最強の部類に入る見滝原の巴マミは、戦闘に関する技術は高い。だが、精神的な面は年相応な部分がある。話しを聞く限り非常にアンバランスなのだ。彼女は……

 

杏子の話を聞く限り、魔法少女はキュウベえに願いを叶えてもらい、その対価で魔女と戦うことになる。だが、杏子のように他人の為に願うのではなく、自分自身の為に願うケースも存在するのではないだろうか?

 

この魔女は、杏子とは違うケースの可能性が高い。それを問うたところで魔女は応えない。ホラー同様こうなってしまっては、人として死んでいるのだから……

 

大きく飛翔し、騎兵の魔女は背後に無数の槍を展開しバド目掛けてそれを弓で射られる矢のように飛ばす。

 

それらを二本の風雷剣で叩き落し、さらに魔導馬が持つ強固な装甲をもってすれば、魔女が如何に強くてもこれを貫くことは出来ない。

 

身軽さを持って騎兵の魔女はバドに手数による攻撃を加えるが、バドはこれを防御に徹しているが、僅かではあるが隙を伺っていた。

 

魔導馬の咆哮に応えるように魔女の愛馬も声を返す。魔女も高揚したように身を大きく震わせている。この魔女、相手が強ければ強いほど喜びを感じるタイプのようだ。

 

「やれやれ、中々面白い子だ。良いだろう、少しだけオジさんが相手になろう。それで満足するのならな」

 

槍を巧みに操り、二振りの風雷剣すらも翻弄する。本来であれば魔女に遅れを取らないのだが、例外とはよく言ったもので魔女の中には、ホラーはおろか魔戒騎士ですらも苦戦させるモノも存在している。

 

この状況にバドは好戦的な笑みを浮かべ、追撃してくる槍を往なしながら自身の魔導馬を走らせる。二振りの風雷剣を巨大化させ大きく振りかぶりながら”騎兵の魔女”目掛けて…

 

騎兵の魔女も巨大化した武器に対して、自身の二振りの槍を一つにしてこれに応えるように走り出す。何度目か分からない交差共に二振りの風雷剣は旋風のような軌道を描き、騎兵の魔女の馬、魔女本体を切り裂き、それらの残骸は結界上空へと飛ばされた。

 

騎兵の魔女が倒れたと同時に結界が消滅し、彼が纏っていた鎧も解除され、魔導馬も消えていた。

 

「……………」

 

彼への報酬と言わんばかりに五つのグリーフシードが落ちていた。視線のさらに先には、彼が以前の住まいから持ち出したサイドカー付きのオートバイが止まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子は早目に起床し朝食の準備と今日の昼食であるサンドイッチを作っていた。今日は、ポートシティーに向かうため、その途中の弁当作りである。

 

正直料理は作るよりも食べる方が専門であるが、今日ばかりはこういうところがあっても良いのではと彼女は考えていた。

 

「よしっ!!これで……そういえば、マミもこういうのを持ってたっけ……」

 

このときの為に急遽購入したバスケットにサンドイッチを入れるが、このバスケットの形状、何処となく乙女チックなデザインに巴マミの嗜好を見た。

 

いつかは、仲直りがしたい。だが、自分は彼女に徹底的に拒絶されている。どうにかできないものかと悩むものの、現状を打開できる案は出てこない。

 

「叔父さんも付き添ってくれたのに……ていうか、キュウベえの野郎。叔父さん達を何だと思っているんだよ」

 

あの時、キュウベえは叔父を見たとき警戒するように叫んでいた。キュウベえにとって、叔父というよりも魔戒騎士は都合が悪い存在のように感じられる。

 

「あいつ等の都合なんて知ったこっちゃないけどさ……だけど、絶対、胸糞の悪いことを考えているよな」

 

家族が居た頃、安易に奇跡を願い、その罰なのか家族は自分をおいて逝ってしまった。錯乱した父親の声が今でも耳に残っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日々の食べるものに困っていたけれどアタシはそれで満足だった。父さん、母さん、妹のモモが居たから…時々、尋ねてきてくれた叔父さんも居たから寂しいともお金がないからと言ってそれを不幸とも思わなかった。

 

ただ不満があるとすれば、父さんは多くの人達に他の人を労る心をと説いていて、それを誰も聞いてくれないことだった。

 

父さんの言葉は正しいのだけれど、世の中には綺麗な言葉を飾り立てて下種なことを平然と行う奴等のほうが殆どだから、父さんもそんな胡散臭い奴の同類に見られていたことが悔しくてしょうがなかった。

 

自分たちの食べるものですら困っているのに、その辺の物乞いに生活費を何も言わずに渡してしまう父さんはお人よしを通り過ぎて馬鹿だったかもしれない。

 

だけど、そんな人だったから、アタシは何とかしてあげたいと思って、話を聞いて欲しいと何度も訴えかけた。だけど、殆どの人は冷たくて、アタシ達を罵倒した。

 

正しいことを言っているのにどうして聞いてくれないんだって、何度も涙した。寂しそうに俯いていた父さんの姿を見るのが辛かった……

 

そんな時にアイツがアタシの元にやってきた。人畜無害そうな顔でとぼけた名前の悪魔が………

 

”やあ、佐倉杏子。君のその望みを叶えてあげようか?”

 

”だから、僕と契約して魔法少女になってよ”

 

何でも願いを一つだけ叶えてくれる。真っ先にというかアタシは二言目に契約すると言ってしまった。もし、あの場に叔父が居てくれたらと思わなくない。

 

悲しかったけど、叔父さんと父さんは仲が凄く悪い。父さんが一方的に叔父さんを嫌っていた。どうしてかは分からなかったけど、後で聞けば魔戒騎士の家系にとっては、ある意味当たり前の残酷な出来事があったからなんだ。

 

”父さんの話を皆が聞いて欲しい”とアタシは願った。その願いを叶えたのが”幻惑”の魔法だった。

 

アタシが祈れば、多くの人が父さんの元に訪れた。父さんは喜んだ。

 

”杏子、モモ、母さん!!!皆、分かってくれたよ!!!やっと気づいてくれたんだ!!!”

 

それから信者になった人からの寄付もあり、アタシ達家族の生活は格段に良くなった。それと同時にアタシもまた、魔女狩りに精を出していた。

 

表で父さんが人々の心を救い、裏でアタシが人々を傷つける魔女を倒すという、自分勝手な理想に燃え上がり、その過程で正義の魔法少女で先輩のマミに出会って、弟子入りをした。

 

”アタシ…ワタクシは、佐倉杏子です!!魔法少女に成り立てですが”

 

”フフフ、そんなに畏まらなくていいわ。私とあなた、同じ年でしょう?”

 

妙に上がってしまったアタシにマミは優しく微笑んでくれた。あの夜が来るまでは…アタシは能天気な魔法少女だった………

 

あの日、どういうわけか教会に現れた魔女と戦い、それと戦っている光景を父さんに見られてしまった。

 

”そうか…お前が…お前のその力で……”

 

”と、父さん。アタシは……でも、この間、悪い魔女を倒したんだ!!これって、良いことだろ?”

 

”………結局、私は…あの家と…あいつと同じ事を繰り返してしまったのか”

 

”あの家?アイツ?何を言っているんだよ?父さん!?!”

 

”杏子の声で、娘の顔で私を呼ぶな!!!!”

 

”っ!?!!?!”

 

”何という事だ!!あの家から出たのに!!!どうして……”

 

崩れ落ちた父さんに駆け寄ったけど、父さんの目はアタシをまるで化け物を見るかのようなモノだった。

 

”杏子の魂を喰らい、他の人の魂をも喰らうつもりなのか、私達を利用して”

 

”父さん、アタシ達、魔法少女は魔女とは違う!!人間は傷つけない!!父さんが取り除きたかった不幸を”

 

”そうやって、言葉を並べ立ててそれらしく取り繕うのだろう。浅ましい獣め……本性を現せ!!!!”

 

”本性って…アタシは……”

 

”ハハハハ……私も結局はあの家の人間だという事か……お前にこれ以上利用されてたまるものか!!!”

 

錯乱した父さんは、アタシを押しのけ教会に火を放った。ここには母さん、モモも居るのに

 

”父さん!!!アンタ、何やっているんだよ!!!!”

 

”杏子の姿で私を惑わすな!!!!お前に喰われるぐらいなら、私は此処で家族を護る!!!こんなに救いのない世界なんて!!!!”

 

”だから、アタシは魔女じゃない!!!!”

 

火は予想以上に回りが速く、アタシは自分の命惜しさに家から逃げ出してしまった。

 

”人々は信仰ではなく、魔女…獣の幻に惑わされてしまっただけか……不甲斐ない…アイツと同じでなんて不甲斐ないんだ……”

 

あの言葉の意味は分からなかったけれど、今なら良くわかる。父さんは大嫌いだったんだ自分の家族を自らの手で破滅に追いやった自分の父親が……誰よりも憎かったんだ……

 

「……自分の命惜しさに、家族を殺したアタシが幸せになるか……できるのかな……」

 

「只今!!杏子ちゃん!!!!」

 

「あっ、おっかえり、叔父さん。今、朝飯出来てるよ!!」

 

着ていたエプロンを取り、帰ってきた叔父を出迎えるために杏子は玄関へと駆け出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食の後、家の前には杏子が見たことのないサイドカー付きのオートバイが止まっていた。

 

「アレ?叔父さん、ここからポートシティーまで結構あるのに魔戒道を使わないの?」

 

「ああ、遠いが旅はゆっくり行くのも構わないだろう。だから、こいつで行く」

 

叔父が持ち出したのは大型のオートバイだった。サイドカーが付いており、メットを手渡された杏子は

 

「アタシこういうのに乗るのは初めてだよ」

 

「それは良かった。こいつでのんびりと行くとしよう」

 

バドもまたバイクに跨り、マフラーを吹かし、その振動がサイドカーの座席に響くのが心地よい。

 

「それじゃあ、ポートシティーまで行こう」

 

グリップを回し、オートバイが勢いよく進む。早朝の少し冷たい風が気持ちが良い。

 

初めて”家族”で行く旅行に杏子は年相応に心を弾ませた。

 

「叔父さん!!!もっと、飛ばしてよ!!!もっと、早く!!!!」

 

「ハハハハ。杏子ちゃん、ポートシティーは逃げないさ。のんびり気楽にいこう」

 

二人はポートシティーへと向かう。そこでの三日間が杏子、バドにとって大きな転換点になることを二人は知る由もなかった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前の風景が後ろへと勢いよく下がっていく、いや自分達が勢いよく進んでいるのだ。

 

「すっげ~~~。風になるってこういう事なのかな」

 

本日何度目か分からない台詞を出すのは、現在絶賛バイクで二人旅を満喫中の佐倉杏子である。

 

「そうだな。偶にはこういう風にのんびり行くのも悪くはないだろう」

 

「それってさ、魔戒騎士としてはどうなの?」

 

意地悪い質問をする姪に対し、叔父は

 

「俺の知る限り殆どが堅物が多い魔戒騎士、もしくは魔戒法師はこうはしないかもしれんが、俺は偶にはこうやって息抜きをしても構わないと思っている」

 

「だよな!!!アタシは、そういう叔父さんが大好きだ!!!」

 

「俺もだ!!!こう言ってくれる知り合いは意外と少ないんだよ!!」

 

互いにいつもよりも少し弾けた掛け合いをしながらもオートバイはは勢いを増していくまさに風のように目的地のポートシティーへと進んでいく。

 

「じゃあ、もっと飛ばせ!!!このまま一気に目的地へ行くぜ!!!!」

 

「合点承知のすけ……杏子ちゃん、サイドカーに立つと危ないから座ってなさい」

 

「あっ、ヤベ……アタシって変なところで調子に乗るからな……え~とシートベルト、って、うわっ!!?!!」

 

オートバイが加速したため杏子は勢いよく座席に背中から当たってしまいつつも勢いよく来る風の感触を楽しんでいた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

早朝からオートバイを走らせていた二人は、ポートシティーに近い海岸に着ていた。

 

ここはバドが管轄としている”西の番犬所”のエリアである。

 

西の管轄の特徴は海辺の景色が美しいことがあげられる。国際港として年中多くの船舶が出入りし、付近の建築物も異国情緒を漂わせる物が多い。

 

杏子が生まれ育った見滝原、風見野周辺は都市開発が多く進んでいるものの山間部なため、このような大きな海を見るのは新鮮だった。

 

潮の香りを嗅ぎながら少し早目の昼食を取りながらも杏子は叔父から買ってもらった携帯電話のカメラでこの光景を取っていた。

 

白い砂浜の感触を直で感じたかったのか、ブーツを取り素足になり、勢いよく波打ち際に駆け出し、跳ねる海水の感触に

 

「冷たっ!!でも気持いい!!おぉ~~~い、叔父さーーーーーん!!!!」

 

手を振る杏子にバドも応えるように手を振った。年相応にはしゃいでいる姪の様子にずっとこういう風に笑っていてくれればと思わずには居られなかった。

 

「へへっ、さやかにメールしてやろう♪」

 

今の時間、さやかたちは授業中だろう。自分の現在の様子を見たらどう反応するかを想像したらそれは愉快だと杏子は思った。

 

「ついでに画像もつけてやれ♪」

 

上機嫌に海と少し遠くに見える船舶、建物を立て続けに撮影し、叔父に向けるといつの間にか、叔父の隣に見知らぬ若い男が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はしゃいでいる姪を微笑ましく見ていたバドに近づく青年が居た。彼は少し綻んだ黒いコートを纏ったよく整った顔立ちであるが、少しばかり表情は固い。

 

「へぇ~~、アンタも身を固めたんだ?あの子、何処から拾ってきたの?」

 

「やれやれ、久しぶりに会う兄弟子に対して、随分な口の聞き方だな……銀牙……いや、今は零だったか?」

 

視線を向けるバドに対し、零と呼ばれた青年は悪戯を思いついた子供のように笑い

 

「ハハハハ。滅多に父さん達に会いに来ることがなかったのに、ちゃんと把握ぐらいはしているんだ」

 

「まぁな。一応は、道寺は俺にとっては親父さん見たいな人だった。彼の弟子は、俺にとっては弟みたいなもの、把握はしておきたいんだよ」

 

バドの言葉に零は少しだけ目元をきつくした。まるで嫌いな人物を見るかのように……

 

「よく言うよ。血の繋がった家族から背を向けてきていて、今更、あの子に叔父さん面かい?アンタのそういう所がずっと嫌いだったよ、いや、今でもね」

 

「……否定はしないさ。俺が今まで弟とちゃんと向き合えずに杏子ちゃんに苦労を掛けた事と…兄弟子なんだが、後輩のお前には格好悪いところを何度も見せたな」

 

懐かしいねと言わんばかりに笑うバドに対し、零はさらに目をきつくする。

 

「アンタの事情なんて俺の知ったことじゃない。聞きたいことがある、アンタは父さんを殺した奴の事を知っているか?」

 

「そうだったか?お前がやたら荒れていると聞くが、敵討ちでも始めるのか?」

 

砕けた口調のバドに態度を見かねてか

 

「私もあの時、道寺を殺した男の太刀筋は牙狼の系譜のモノに良く似ていたことを憶えているわ」

 

「シルヴァも久しぶりだな。師匠が付けていたのはどれぐらい前だった?」

 

「話を逸らさないで、貴方は貴方の父親の伝手で道寺に弟子入りをした。風雲騎士 バドの称号を継ぐ為に……師が殺されたのなら、貴方も仇を討とうとは思わないのかしら?」

 

零の胸元の魔導具 シルヴァが彼に問う。

 

「俺も師が殺されたのは悔しいさ。だが、それを道寺が望むと思うか?復讐心と怒りをその後の人生に捧げても虚しいだけだ。俺が望むのは、その下手人が自分の罪を認め、悔い改めてくれるところだな」

 

その瞬間、零はバドの胸倉を掴んだ。普段の飄々としたモノではなく、その表情は怒りを露にしていた。

 

「アンタに俺の何が分かる?俺の怒りと悲しみを水に流せというのか?冗談じゃない!!!俺は、必ず父さんを殺したアイツに復讐の鉄槌を下してやる!!!」

 

「お前のその父さんも復讐と怒りに身を震わせたことがあったが、それでも魔戒騎士としての吟味だけは無くさなかった。お前のように番犬所を放逐されるようなことだけはなかった。銀牙」

 

「アンタにその名前で呼ばれる筋合いはない!!!!」

 

怒りに身を任せ、拳を振るうが軽くバドに止められ、そのまま往なされるように反対側へと飛ばされるが、

 

「ここで倒れるのがセオリーだと思うんだが……」

 

「生憎俺は、誰にもやられるつもりはない。相手が魔戒騎士の最高位であっても……」

 

「やれやれ、減らず口ばかりは達者だな。で、態々、俺に嫌味を言いに着ただけではないんだろう?」

 

バドはいつでも風雷剣を構えられるように態勢を整える。零の狙いは……

 

「アンタの言い訳がましい所は大嫌いだけど、腕だけは確かだからね」

 

「なるほど、俺を復讐の手駒に加えたいというのか?あの頃の素直なお前が懐かしい」

 

まだ少年だった頃の零を懐かしく思うが、今は一人の魔戒騎士として目の前に立っている。

 

「俺もいつまでもアンタの背中を見ているだけじゃない」

 

ギラギラとした獣のような眼光で兄弟子を睨みつけるさまはまさに、魔戒騎士達の鎧のモチーフとなっている”狼”を思わせる。

 

「そうだな、俺もかなり歳は行っている方だが、まだまだお前達、若造に負けはせんぞ。それと……」

 

二振りの風雷剣を頭上に掲げたと思ったら、そのまま投げ捨ててしまった。

 

「っ!?!どういうことだ?」

 

「魔戒騎士同士の私闘は掟で禁じられている。お前にこれ以上、掟破りをさせるわけには行かないからな」

 

余裕の笑みを浮かべるバドに対し、零は”らしくないことをするな”と言わんばかりに睨みつけるが、ここで武器を持ち出せば、彼に勝負をする前から負けてしまうと察し、同じく自身の二振りの剣を捨てた。

 

軽く舌打ちをしながら零は拳を掲げ一直線に向かっていく。応えるようにバドも構え拳を往なす。空を切る拳をバドは往なし、自分から攻撃を行うことはなかった。

 

正直、尊敬できない兄弟子に対し、零はさらに苛立ちを覚えた。

 

「何故、攻撃をしない?」

 

拳を軽く受け止め、バドは悪戯を思いついた少年のような笑みを浮かべ

 

「言ったろ、掟破りをさせるつもりはないと…それにお前のヤンチャに真面目に付き合うほど付き合いが良くないんだ」

 

「ちっ!!」

 

軽く舌打ちをし、零はバドに背を向けた。どうやら、彼の目論見が外れてしまったようである。

 

「強くなれよ!!!銀牙!!!!お前は、まだ試練の途中だ!!!!いずれ、俺よりも強くなるだろう!!!!」

 

「……………」

 

振り返ることなく零は、その場を後にした。嫌う人物にこれ以上、関わりたくなかったからだ。

 

「叔父さん!?!アイツ何なんだよ!!?!」

 

こちらに駆け寄ってきたのは、杏子である。普段、息切れをするようなことはないのだが、今回は息を切らしていた。

 

「あぁ、アイツは銀牙。俺の弟弟子で、同じ師の元で剣を学んだ」

 

「じゃあ、叔父さんにあんな嫌な態度を取るんだよ!?!先輩で兄弟子ならもっとそれらしい対応ってのがあるんじゃ」

 

先ほどの零の態度に対し、憤りを感じている杏子であるが。叔父はまったく気にすることなく

 

「アイツに色々と失望させるところを見せてしまったからな。だから、嫌われているんだ」

 

”嫌われるだけの事をした”と語る叔父は、こればかりは仕方ないと言わんばかりだった。

 

「でも、アタシは、叔父さんが好きだぞ。前は格好悪かったかも知れないけど、今は格好良いからいいいじゃん」

 

「俺は、中々良い姪をもったものだ。ありがとう、そう言ってくれると気が楽だ」

 

自身の赤毛に良く似た頭を少し乱暴に撫で、バドは既に姿の見えなくなってしまった零の事を案じていた。

 

(師の仇を知ってはいるが、それをアイツに教えるつもりは微塵もない。教えたところで銀牙は、バラゴに殺されるだけだ。もし、そうさせたら師 道寺に顔向けが出来んし、向こうで再会した時に破門にされてしまうからな)

 

これを彼が聞いたら、怒り狂うかもしれないが、彼に聞かせることもないと思い、バドは今晩会うある人物が居るであろう方角に目を向けるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オートバイをある森の入り口の止め、バドと杏子は木々が生い茂った獣道を進んでいた。

 

「ここが叔父さんの知り合いが居るところ?何でまた、こんな森の奥に住んでるんだよ?」

 

邪魔な草木を退けながら、悪態をつく杏子に

 

「阿門法師は、多くの魔導具を作っているからな。人目になるだけつかない様にするためらしい…」

 

詳しいことは叔父さんも知らんがねと応えた。魔導具は特殊な鍛錬を積んでいる魔戒の者だからこそ扱える為、一般人にとっては凶器そのものである。

 

「まだ言っていなかったが、預けていた魔導輪 ナダサを受け取りに行くためだ」

 

「それって、叔父さんが契約した魔導具だよな。騎士って魔導具と契約しているって聞いたけど、叔父さんも持ってたんだ」

 

「あぁ、前に俺の不注意で傷をつけてしまってな。それを阿門法師に修復を頼んでいた」

 

内心、あの陽気な魔導具と杏子が出会ったら、面白い展開が見られるのではと思うのだったが、

 

『YOUがあまりに遅いんで、Mr阿門と一緒に来たよ』

 

「フフフ、お前さんがワシを急かしたんじゃろうが、ナダサ。早く、風雲騎士の血筋の娘を見たいといってな」

 

二人の前に亜門法師とその腕に付けられていた魔導輪 ナダサの姿があった。ナダサは妙に上ずった声である。

 

「お久しぶりです。阿門法師」

 

「あぁ、お前さんも暫くだったな。ナダサも首を長くして待って居ったぞ」

 

「YES。MEに首はないけど、本当に首があったら、そうなってたかも知れないね」

 

「相変わらずだな。ナダサ、お前のその妙な皮肉は何時聞いても変わらない」

 

久しぶりに会う魔導具に対し、バドも苦笑するしかなかった。

 

「これが叔父さんと契約した奴?思ってたよりも変だし、少し悪趣味だ」

 

指を差す杏子に対し、ナダサは

 

「SHIT杏子。MEを指差すんじゃない。失礼じゃないか」

 

「アタシは、称号持ちの魔戒騎士の魔導具がそういうので良いのかって思うよ」

 

呆れる杏子に対し、阿門は

 

「やはりお主を作った時、ワシがもう少ししっかりしておったら良かったかもしれんな」

 

「NO、NO、Mr阿門に不手際はナッシング。MEは生まれた頃から、こうだったYO」

 

「やっぱり変な奴だ」

 

魔導具は変り種が多いのではと思う杏子だった。事実、彼が作った某黄金騎士の口の悪い魔導輪もそれなりの変り種である。

 

「ここで立ち話もなんじゃから、お前さん達、ワシの家まで案内しよう」

 

一同はさらに森の奥へと進むのだった。日は時期に沈む時間帯である……間もなくして、陰我に誘われホラーが現れる時間が近づいていた……

 

 

 

 

 

 





あとがき

ここでのバドと零の関係は、設定だけならば兄弟弟子だけなんですが、バドさんの事を零は腕は尊敬するけど、家族と何かしら理由をつけて会わなかった言い訳がましい所を嫌っています。

二人の関係は描かれてはいないので想像になってしまいますが、もしかしたら、年齢がかなり離れているので面識はお互いに無いかもしれません。

次回はいよいよ、後編。後編と一緒に本編も掲載したいと思います。

さて、新たにコラボを掲載します!!!予告編ですが………

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