呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝)   作:navaho

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前編と比べて少し短くなりますが、区切りが良かったので掲載します。




番外編「波怒 風雲騎士異聞 (中編) 」

 

 

阿門法師と共にバド、杏子は少し古びた社である彼の住居に来ていた。

 

「その辺で適当にしてくれ」

 

そこは魔戒工房であり阿門法師の仕事場であった。室内の棚には、様々な魔導具が並んでおり、博物館を思わせた。

 

初めて見る魔導具に興味津々と言わんばかりに杏子は見ていた。

 

「杏子ちゃん。阿門法師は魔戒法師一の天才と言われる方だ。彼の作った魔導具のほとんどが一級品だ」

 

「すっげ~~な。おっさん」

 

「こら、杏子ちゃん。おっさんじゃなくて、阿門法師だ」

 

「いや、構わんよ。法師と呼ばれるのはむず痒くて敵わん」

 

礼儀を重んじる魔戒騎士達であるが、今宵は無礼講で構わないようである。

 

「法師……それで構わないのですか?」

 

「ハハハハ。道寺と最初に会った時、お前さんもあ奴の事を”おっさん”と生意気な口を叩いたではないか」

 

「そ、そうでしたっけ?法師も人が悪いですね……」

 

「叔父さんも人の事言えないじゃん」

 

意地の悪そうな笑みを浮かべ、杏子は叔父に意味ありげな視線を向けていた。バツが悪そうにバドは目線を逸らしてしまった。

 

「ハハハハ、お前さん達はよく似て居るよ。今夜は歓迎しよう。さぁ、食事の用意は出来ておる」

 

阿門に居間に案内され、そこには一人の女性と既に準備がされていた料理の数々があった。

 

山の幸、さらには海の幸で作られた料理に杏子は目を輝かせた。

 

「うわぁ、こういうのって団欒って言うんだよな」

 

「そうさ、アタシにとってはそのおっさんが父親代わりだしね」

 

「ハハハ。邪美、お前さんも言うようになったな」

 

邪美と呼ばれた女性は、笑う阿門に対し

 

「法師に似たんだよ。この口の利き方は」

 

温かい笑いとともに四人の団欒が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

杏子は、この晩今まで以上に暖かさを感じていた。家族を自身の願いにより亡くしてしまし、一人孤独に逃げ込んでいた日々が遠い昔だったようにさえ感じられた。

 

「へぇ~~叔父さんって、すっごく生意気だったんだ」

 

「それを言わないでくれ、杏子ちゃん」

 

「ハハハハ、そういうことがあってこそ、今のお前さんがあるのだろう?そう、恥じることでもあるまいに」

 

「その生意気だった男に……」

 

「邪美さん……これはかたじけない」

 

自身の少し恥ずかしい過去を阿門に暴露され、それを面白そうに聞く杏子に戸惑いながらも邪美に酌を貰い、バドは戸惑いながらも笑っていた。

 

「アハハハハ、叔父さんも若かったんだ」

 

「今でも心は若いつもりで居るんだが……」

 

「見た目若いのは、アタシも認めるけどさ……時々、おっさんくさく見えるときがあるんだよな」

 

杏子は叔父を弄ることが出来たのか、より身近に彼を感じることが出来たので終始、生意気な口が止まらなかった。

 

「そういうアンタも…杏子も大人になれば嫌でも周りにそう見られるときが来るさ」

 

「えっ!?!アタシが……そうは成らないよ。だってアタシは……」

 

言い返そうとしたが、かつての叔父も自分と似たようなモノだった為、反論しようにも喉に何かがつっかえたような感じがしたのだった。

 

「ハハハハハ、杏子ちゃんもこの俺の姪だったわけか」

 

ここで仕返しと言わんばかりにバドが追い討ちを掛けた。

 

「何だよ。それ!!アタシの逆転負けじゃん!!!」

 

盛大に後ろに倒れこみ、嘆く杏子の姿に笑いがドッと沸くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「それはそうと、陰我消滅の晩が近くなってきているな」

 

「そういえば、もうそんな時期でしたか、法師」

 

阿門の言う”陰我消滅の晩”に対しバドは、何時の間にと言わんばかりに感慨深そうに頷いていた

 

「インガショウメツのバン?」

 

聞きなれない言葉に杏子に対し、邪美は

 

「20年に一度のホラーがゲートから出てくることのない特別な晩さ。その日だけは魔戒騎士、法師達も狩にはでないのさ」

 

「そう、その晩がいよいよ数週間後に近づいているんだ」

 

「20年に一度か……」

 

20年に一度……気が遠くなるような年月である。何時、命を落としてもおかしくない自分たちにとってその日を無事に迎えられる保障などないのだ。

 

此処にいる阿門、バド、邪美は当然のことながら、杏子もまたそれを理解していた。

 

「20年後はお前さんの姪も立派な魔戒法師になっているかもな」

 

「じゃあ、そうなったら叔父さんに代わってアタシがホラーを狩ってやるよ」

 

「おいおい、俺は隠居確定なのか?」

 

苦笑するバドに対し、杏子は

 

「だからさ、叔父さんはずっとアタシの家族で居てくれるってことだよね。この先、ずっと……」

 

魔戒騎士としての叔父の頂に遠く及ばない杏子であるが、それでも確実に一歩ずつ近づきたいと願っていた。

 

いつかは二人で遠い未来でこのような団欒ができれば、これ以上の幸せはないだろう。

 

「いや、二人じゃなくってさ。アタシが誰かと結婚して子供ができたとしたら…」

 

思考の回廊を何処で曲がったかは知らないが、杏子は将来、自分が家族を持つことを考え始めた。

 

「杏子ちゃんが結婚か……俺は結局のところ身を固めることはなかったが……そこだけは俺に似ないでほしいな」

 

「ハハハハハハ。お前さんも気苦労が耐えないな」

 

阿門の言葉の通り、将来新たな家族が出来ることは嬉しい。だが、結婚相手の事を考えるとその時の自分は苦虫を潰したように相手の男を見ているのではと思うと悩みは増すばかりであった。

 

その間も杏子は将来魔戒法師になった自分が一緒になるのは魔戒騎士かもしれないという考えに没頭していた……叔父の悩みを知る由もなく………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

社での団欒の騒がしさは無くなり、杏子は客間で眠っていた。少しだけ頬が赤いのは団欒で少しだけ酒を飲んだためである……

 

表情は穏やかであり、枕元に置かれている赤いソウルジェムも彼女に呼応するように赤く輝いている。

 

阿門とバドは、阿門の仕事場で互いに杯を片手に話し合っていた。少し前まで邪美も居たが、依頼によりホラー狩りの為この場には居ない。

 

「法師……相談ですが」

 

「分かっておる。あの子の魂の在り処について悩んで居るのだろう。ワシも同じように悩んでいた頃があった」

 

阿門は二つの小さな小箱をいつの間にか持ち出しており、その内の一つの箱を開けるとそこには欠けた”ソウルジェム”が仕舞われていた。

 

「っ!!法師……これは……」

 

「あの頃の呼び名は忘れてしまったが、今は魔法少女と呼ばれているのだろう」

 

遠い過去を懐かしむように阿門はソウルジェムの傍らに仕舞っていた古い写真を手に取った。そこには、かつて少年だった頃の自分と赤いローブを来た少女が写っていた。

 

「そうだ。ワシも彼女らのことは知っておったよ。いや、ワシが生まれる前から番犬所、元老院の神官もな……」

 

「自分達が思う以上に根は深そうですね」

 

バドは、杏子の件は何とかしなければと思っているが、具体的な解決方法は一向に見つかっていなかった。最終的には少女は女に……魔女に変化してしまうのだから……

 

「お前さんの悩みは良く分かるよ。あの頃のワシは傲慢で彼女の犠牲の上で今の自分があると自覚しておる」

 

少女と阿門法師の間に何かがあったようであるが、彼にとっては今も思い出すとあの頃の不甲斐なさを思い知らされるようだ。

 

「さて……あのインキュベーターのことだが、お前さんはどこまで知っておる?」

 

「自分も情報があまり無いのでなんともいえませんが、ホラーもどきであることは間違いないでしょう」

 

闇に潜み、古より魔界に生息し、陰我のあるオブジェより出現し人間を襲い、その魂を食らう魔獣。

 

ホラーは、我々の世界の生物のどの生態系にも属さないために、古より妖怪、悪魔として伝わっている。

 

彼らは人間、物に憑依し実体化する。特に人間が憑依される事は”死”と同じであり、その魂は安らぎを得ることなく苦しみ続ける。

 

対して、インキュベーターは素質のある少女に近づき、願いを叶える代わりにその魂をソウルジェムにし、魔女と戦わせる。最終的に魔女になり、そのとき発生するエネルギーを回収する……

 

「ホラーと同じといわれると向こうも心外と反論するだろうな」

 

「まだインキュベーターとは会ったことは無いので、分かりませんが話を聞く限りホラーの同類でしょう」

 

シニカルな笑みを浮かべるバドであるが内心は穏やかではなかった。幼い少女達の命を食い物にする存在に憤りを感じてしまう。

 

「そうだな。だが、彼らは彼らで一応の自重はしている」

 

「どういうことですか?法師」

 

阿門の話によると、彼らインキュベーターは宇宙の終焉を回避するためにエネルギーを集めているが、その活動には制限があるらしい。

 

「彼らは宇宙を持続する為に、知的生命体を好き勝手に犠牲にしてはならないそうだ。そんな事をすれば制裁が下ると言っておったな」

 

他の星からやってきた彼らにとって、魔法少女は宇宙を持続するための”消耗品”のような物であるが、制裁が下らない様に気をつけているのだ。

 

「制裁?」

 

「あぁ、何でも宇宙というのは適当に見えていて実はよくできたシステムと言っておった。そこに居る生き物はある程度定められた生き方をするが、それを他の者が捻じ曲げたり、私利私欲の為に手を加えてはならんそうだ」

 

認められるのが、生きる為に食物として他の生き物を取り込む事。必要最低限の殺生は良いらしいが……

 

「だから、ホラーよりは紳士的というのですか?やっていることは同じでしょうに……」

 

「お前さんにとっては、納得はできんだろう。だがワシも納得などできるわけがなかった」

 

阿門はもう一つの小箱を取り出し、そこにはソウルジェムに似た魔導具が安置されていた。

 

「法師……これは……」

 

「ワシは納得などできんと言ったではないか。だからこそ、作ったのだ少女の魂を肉体に戻す道具を…」

 

「流石は阿門法師……これを使えば……」

 

憤っていたバドは心が魔導具の件で心が穏やかになるのを感じた。魔法少女の過酷な運命を救うかもしれない希望がそこにあるのだ。それを目の前にして希望を抱けないという事はない。

 

「だがな、軽々しく使えるわけではないのだ。この魔導具は……」

 

「どういうことですか?」

 

「あぁ、お前さんも分かっておるだろう。目的の良し悪し関係なく魂を抜き取り、さらには移動させることがどれ程おぞましい事か……」

 

「……まさか、先ほど言っていた”制裁”が……」

 

宇宙というこの世界に居るものの生きるための土台の延命の為、インキュベーター達は制限はあるものの、そのおぞましい行為は認められている……

 

だが、自分達が行えば……

 

「あの子を魔法少女から佐倉杏子に戻したとき、お前さんには”死”という制裁を与えられるであろう。それでも行うのか?」

 

どんなに尊い行いでもそれは決して行ってはならないのだ。それを行うことは道を踏み外した外道以外に他ならない。

 

「ホラーにも命を抜き取る存在も居ますが……」

 

「アレに関しては、無理やりやられてだからまだ許容できるらしいが、インキュベーターと少女は契約をしている。それは互いに納得した上でのことだ」

 

「・・・・・・それが自分の出来ることならば・・・・・・」

 

例え間違いであっても、姪が助かるのならば、自分の命など幾らでも投げ出しても構わない。だが、

 

「お主がそれで良かれと思っても、居なくなってしまったらあの子はまた独りになってしまうのだぞ」

 

杏子を再び独りにしてしまう……少し前に弟弟子に身勝手だと罵られたが、やはり自分はどうしようもないほど身勝手な男でしかないのかもしれない……

 

(………どうすれば良い。杏子ちゃんをこのままにしておくこともできない……そうすれば……)

 

「まぁ、時間は無限とは言わんがまだある。今はお前さんの納得の行くまで悩むのも良いだろう」

 

振るまわれた赤酒を勢い良くバドは飲んだ。ただ、逃れたかったのかもしれない。どうしようもないジレンマから………

 

 

 

 

 

 

 

 

自分は世の中の件についてある程度、納得をして自分なりに生きてきたと思う。だが、どんなに経験を歳を重ねてもどうしようもない程、難しい問題は多く存在する。

 

称号を得た魔戒騎士が何たるざまであろうか?たった一人の女の子の未来を救うことすら叶わないとは………

 

かつて弟がこの世界には救いがないと嘆いていたが、まさにそうだろう……様々な人が憎みあい、傷つけあうどうしようもない闇が存在しているのだ。

 

その闇がホラーであり、魔女でもあるのだ。本当に自分が何とかしてあげたい杏子を救い出せたとしても、何時かはどうしようもない絶望が降りかかってしまうのだ………

 

何杯目か分からない赤酒の赤が自分もそうだが、この世界で絶えず流されている痛みのように思える。

 

痛みを更なる痛みで癒すとは………なるほど、確かにどうしようもない世界かもしれない…………

 

 

 





あとがき

次回で番外編を終えたいと思います。

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