呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝)   作:navaho

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この間にいくつかの出来事が平行しています。

前話の「悪夢」とこの「亀裂(2)」の間に杏子とバドはポートシティーに行っていました。
ちょっと話数がカオスになっていますが……出来たので取り合えず……






第二十話「亀裂(2)」

 

 

さやかは父 総一朗、母 咲結と共に、上条恭介が入院している病院へ自家用車で移動していた。

 

「それにしても良かったですね。恭介君の手が治って」

 

さやかの母 咲結は嬉しそうに笑った。

 

「そうそう、あんな恭介見たくなかったから、本当に良かったよ」

 

「恭介君のご両親もこれで一安心ですね」

 

後部座席での会話をバックミュージックに総一朗はハンドルを切りながら今回の奇跡について少しだけ眉を寄せた。

 

(今回の件は、医者もなぜ治ったのか分からないと言っていた。知り合いの医師にも来てもらったが、手の施しようがないと)

 

自身の知り合いにも見てもらったが、どうにもならないとのことだった。先日も結果は変わらず、手の治療は諦めるしかなかった。

 

恵まれたヴァイオリン弾きの才能を断たれた彼の嘆きと絶望は、聞くだけで気の毒であった。だが、彼はまだ若い。

 

今までしていたことに背を向けるのは辛いが、これからは新たな道に進まなければならないのだ。そこに至るまでは辛いが、後悔はないと総一朗は自身の経験で知っている。

 

かつて自分も高校野球で豪腕を鳴らした投手であったが、事故で肩を壊しその選手生命を断たれてしまった。

 

そのあとの自分は奇跡だけを願い、自分自身で歩くことを辞めてしまい、性根が腐っていくのを感じていた。親に当たり、さらには心配してくれた友人さえも傷つけ、迷惑をかけた。

 

結局の所、奇跡が叶うことはなかった。どうしようもない自分を献身的に支えてくれ妻となった咲結のおかげで、警察官になり、刑事としての仕事に誇りを持つようになった。

 

あの時の自分が上條恭介の事情を知れば、妬ましかっただろう。だが、今となっては過ぎてしまったことだから気にはしない。

 

(……だが、失くした物は二度と戻ってこない。失くしたものを再び得る事などできるのだろうか?)

 

上条恭介に起きた奇跡を素直に喜べない自分は、心のどこかで彼に嫉妬をしているのではと思ってしまう。考えても無駄だと思い、そのことを頭の隅に追いやるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっほー、恭介。調子はどう?」

 

「さやかかい。うん、今日は少し調子がいいね」

 

何事もないと言っているが、その表情は今まで以上にないほど喜びに満ち溢れていた。その理由はさやかにもよく分かっていた。

 

「そうそう、恭介。ちょっと屋上に行ってみない?」

 

腕時計を確認するさやかに対し、恭介は怪訝に思ったのか……

 

「屋上に何のようがあるんだい?」

 

「いいから、いいから♪」

 

強引にいつの間にか用意されていた車椅子に促され、恭介は訳が分からぬまま屋上へと連れ出されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

病院の屋上には、手が治ったことを祝福する為に主治医、看護婦達、スクールのメンバー、先生、恭介の両親が居た。

 

「な、何なんだい?これは……」

 

戸惑う恭介に構うことなく拍手が鳴る。突然のことに何が何なのか分からないが、これが自分の事を祝ってくれていることが分かると途端に恥ずかしくなり、頬が熱くなるのを感じた。

 

「な~~に、照れてんのよ。恭介」

 

「こ、こんな状況じゃ仕方ないじゃないか。さやか」

 

悪戯が成功した子供のように笑うさやかに対し恭介は、照れを強引に隠そうとするものの隠し切れなかった。

 

「本当のお祝いは、退院のあとだったんだけれど、足よりも手が先に治っちゃったしね」

 

恭介の前に彼の父親が進み出る。手には、諦めかけていた、既に無くなってしまったと思っていた”宝物”があった。

 

「それは………」

 

「お前からは処分しろと言われていたが………どうしても捨てられなかったんだ。私は……」

 

「私からもお願いしたの。いつかはこういう日が来ると思って」

 

父に続いて、スクールの先生が歩み出た。差し出された宝物 ヴァイオリンを受け取り、皆の期待に応えるように本体を構え、弓を手に取った。

 

長い間、引かれていなかった為か音はずれており、少しのチューニングをし、演奏を始めた。恐る恐るの音からだったが、次第に情熱的なものへと変わっていく。

 

数ヶ月のブランクを感じさせない天賦の才能。その場にいる全員が聞き惚れていた。

 

諦めかけていた演奏の喜びに、自分に舞い降りた奇跡に感謝した。この幸福に涙しながら……

 

(後悔なんてあるわけない。私の……戦う理由が……姐さんもきっと分かってくれる)

 

今は、用事で町を離れている友人に……

 

(ほむら……アタシは大丈夫だよ。心配性っぽいアンタは、願った時の気持を忘れないでって言ったけど…いくら馬鹿でも絶対に忘れない)

 

これから一緒に戦うかもしれない”魔法少女”へ……

 

演奏が終わり、恭介は久しぶりの心地良い疲労を感じた。聴衆たちは拍手喝采で復活した”天才”を祝福する。奇跡を感謝するように演奏は日が落ちるまで続けられた………

 

「先生には、お手数をかけましたね。龍崎先生」

 

「いえ、私は何もしていませんよ。奇跡が起こしたのは、誰よりも彼の事を心配していた彼女かもしれませんね」

 

カウンセラーとして雇われていた龍崎ことバラゴは目の前の奇跡に対し心が冷ややかになっていくのを感じずに入られなかった。

 

(……あの少年の傷は絶対に癒えることは無かった。だけど、少女の人生を犠牲にしてこの奇跡は起った……とんだ茶番だ)

 

満足そうに頷くさやかに対し、バラゴはいっそのこと恭介にこの事を言ってみようかと思ったが、それを聞いたところで彼がどうなろうと興味はなかった。

 

(そういえば……ほむら君は今日も巴マミのところに行ったとエルダが言っていたな。友人は結構……だが、あまり深入りだけはしないでくれよ)

 

奇跡の演奏に対し、バラゴの心は普段以上に冷ややかであった。だが、彼がほむら以外で関心を寄せることがある。

 

(………番犬所の神官によるとアスナロ市に使徒ホラーの一体が現れたようだ。どちらが、より闇に近いかハッキリさせるのも悪くは無いだろう)

 

最近の見滝原は、魔女が少なくなっている。それに加えてホラーの出現も収まっているようにさえ感じていた。そんな時に知らされた大物の存在である。

 

(ほむら君もこの町から離れれば、頑なな態度も少しは和らげてくれるだろう……)

 

”遠出”に少し惹かれるものがあったのは、彼の胸のうちだけの秘密である……奇跡の演奏に浸る気は全く無かった為、関係者に軽く断りを入れて屋上を後にするのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「巴マミさんですか?」

 

「はい。そうですが、……貴方は?」

 

突然の訪問者に対し、マミは呆然としていた。彼は隣の部屋に住んでいる柾尾 優太であった。

 

「この件について、教えてくれないかな?」

 

彼が見せたのは、マミにとっては馴染み深いモノ……

 

「そ、ソウルジェム!?!」

 

「知っているんだね……だったら……」

 

何故、一般人がソウルジェムを持っているのかが気になるが、このままにしておけないと思い、

 

「ここではなんですので、中に入ってください」

 

マミは、柾尾 優太を自らの部屋に招き入れるのだった……

 

紅茶を傍らに、柾尾 優太は自身に優しくしてくれた彼女について語った。魔法少女であることは知らなかったが、どうして自分に何も言ってくれなかったと嘆いていた。

 

「巴さん。ぜひ、君の事を僕に教えて欲しいんだ。暁美が何をしていたのか……君がどういう存在かを……」

 

砕けてしまったソウルジェムを握り締め、震える彼にマミは自分が抱えている”問題”を話してよいかと悩んでしまう。

 

魔法少女の因果を背負った少女達も人間である限り、何処かに人としてのつながりを持っている。蓬莱暁美という魔法少女が何をしていたかは分からないが、彼女は彼を残して逝ってしまった。

 

残された彼はずっと答えが知りたかったのだ。その一端が明らかになるのなら、自分はこの青年に話すべきかもしれないマミは結論を出した。

 

(……一般人が役に立てるか分からないけど、私達の事を知ってくれるのなら、それはそれで良い事かも知れない)

 

人知れず戦いに明け暮れ、その果てに最後を迎えるという結末ならば、そういう少女がいたことを記憶にとどめてくれる人が居ても構わないと……

 

「柾尾さん…貴方にとっては、信じられない話ですが……私にとっては、当たり前のことなんです」

 

自身のソウルジェムをテーブルに置き、自分の体験を彼に語った。

 

一般人からしてみれば、それは現実離れした御伽噺、もしくは単なる妄言かもしれない、

 

巴マミにとっては現実であり、彼女の日常であった。魔法少女としての契約…キュウベえの存在、魔女と呼ばれる呪いと災いを振りまく怪物……

 

それに唯一対抗できる希望と願いから生まれた魔法少女。この見滝原以外にも存在していると……

 

「………暁美は何を願って魔法少女になったんだろうか?僕に黙って……僕を独りにしてまで……」

 

「柾尾さん。私からは何も言えませんが、彼女は最後は貴方と会えたんですよね。だから彼女が”希望”と言ったのなら、貴方は貴方の幸せを見つけることだけを考えてください」

 

紅茶を淹れ直し、

 

「それが彼女さんに対して、できることなんじゃないですか?」

 

「………………」

 

押し黙った柾尾 優太の表情は俯いていてハッキリはしなかったが、彼をよく知る人が見ればその目に何の感情も映っていなかったことに気がついただろう。

 

一般人には見る事ができない存在”キュウベえ”が物陰から伺っていたのである。

 

(………やれやれ、マミは余計な事をしてくれたようだね。こうなってしまっては、さやかの荷が重くなってしまうよ)

 

感情を持たない生き物であるが、あの青年を見ていると先日見た絵本の中の”あの人形”とだぶってしまう。

 

かつて自分が契約した蓬莱暁美の件で、彼女が幼少期の頃の美樹さやかと関わりがあった。彼女の付き添い、いや、キュウベえから見たら、一方的に付きまとっていた柾尾 優太については…

 

(僕に感情はないけど、蓬莱暁美……君の男の趣味は最悪と言って良い)

 

二人のやり取りを冷ややかな視線で送った後、キュウベえは興味を失ったようにその場から去っていった。

 

別の固体がこのマンションに近づく暁美ほむらを捕らえたからだ……彼女の件も不安ではあるが、自分が長年監視していたあの青年よりはマシだろうと思うのだった。

 

”ねえ、キュウベえ。私ね、空を飛びたいの?叶えてくれる”

 

彼女 蓬莱暁美はその願いと共にソウルジェムを輝かせたことはキュウベえの記憶に強く刻まれていた………

 

マミよりも先に見滝原を護っていた魔法少女。彼女はキュウベえにとっては良き協力者でもあった……

 

”あなた達のやり方って、人から見ると詐欺だって言われるけど……仕方ないといえば仕方が無いのよね”

 

”分かっていながら、僕に友好的にしてくれるのは君が初めてだよ。君は、どうして他の子の様に僕を非難しないんだい?”

 

”アナタも好きでやっているわけじゃない。やらなければ、アナタ自身も困るんでしょ。慈善事業じゃないんだから……”

 

”そこまで分かってくれるなんて……君には全面的に協力しよう。君の計画の前に一言良いかな?”

 

”何?”

 

”君に付きまとっている男子なんだけど、アレの何処に魅力を覚えたんだい?”

 

”アレじゃないわよ。彼にはちゃんとした名前があるの柾尾 優太って名前が”

 

”可愛いじゃない。何も無くて純粋なところが……まるでお人形さんみたいで”

 

手には、あの人間と思い込んでいた人形が描かれた絵本が在った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柾尾 優太が退室した後、入れ替わるようにほむらはマミの住まうフロアに来ていた。今回も前回と同じく、”アップルパイ”を手土産に向かう途中で妙な青年とすれ違う。

 

その青年はほむらにぶつかるが気にも留めないように部屋の中に入っていってしまった。その青年の態度は、よく言われる”世代”であった。

 

怪訝に青年を見たが、直ぐに目的の人物に会わなければならないと思い、背を向けた。

 

「こんにちは、巴さん」

 

「暁美さん、いらっしゃい」

 

目的の人物 巴マミは快くほむらを迎えた。

 

「改めてだけど、暁美さんの衣装ってとても素敵ね。何だか、魔法使いみたいで」

 

ほむらの衣服は魔戒法師の法衣である。魔戒法師の法衣は見ようによってはそう見えるだろう。

 

「はい……今は、衣服がこれぐらいしかなくて……」

 

「えっ?そうなの…じゃあ、今度私と一緒にほむらさんの服を買いに行きましょうよ」

 

いつものことであるが、マミはかなりの世話好きである。

 

「それは……またの機会に……それよりも先ほどこっちの方から男の人が……」

 

何処かで見たことのある青年だと思ったが、先日の魔女結界でさやかが異様に毛嫌いしていた人物であった。

 

「柾尾さんのこと?えぇ、あの人も魔法少女と係わり合いがあったらしいの」

 

「どういうことですか?」

 

マミの話によると、蓬莱暁美という魔法少女が見滝原に居たらしい。その魔法少女と特別な仲であり、突然居なくなり、目の前で死んでしまったことに対して、長年疑問を募らせていたらしい。

 

「蓬莱暁美……(まさか、巴さんの口からその名前を聞くなんて……)」

 

「ほむらさんは、知っているの?その魔法少女の事を」

 

「は、はい……一度、別の町で噂だけは聞いています。ただ、あまり良い噂ではなかったですが…」

 

言いにくそうな表情のほむらに対し、マミはあまり良い噂ではなかったのだと察した。

 

「そうね……噂は所詮、噂よ。本当のことはちゃんと自分で判断しなければ駄目ね」

 

この話題は聞かないでくれるようだった。そのことにほむらは、内心ホッとしていた。彼女が巡った時間軸の一つで”蓬莱暁美”の名前を聞いていた。

 

”蓬莱暁美……彼女は、悪魔に魂を売った魔女だ”

 

ほとんどの魔法少女は、インキュベーターの実態を知ればほとんどが敵対する道を選ぶのだが、彼女はそれを知りながら、あろうことか協力までしたらしい。

 

(……私が今までに出会った事のないインキュベーター側の魔法少女……人の不幸を喜ぶ趣味は無いけど、この時間に居なくてある意味良かったわ)

 

突然の意外な人物の名前にほむらは失念していた。その魔法少女に関わりを持っていた青年の危険性を推し量ることを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僅か数日であるが、いつものようにほむらとマミはお茶会を開いていた。

 

「ワルプルギスの夜の件ですが、やはりここは他の魔法少女にも呼びかけたほうが確実だと思います」

 

”他の魔法少女”という単語にマミは表情を曇らせた。言うまでも無く該当する魔法少女に対して良い印象を持っていなかったのだろう。

 

ほむらは、ここで自分の素性を少しだけマミに知らせようと決めた。

 

「もしかして、その魔法少女は魔戒騎士と係わり合いがあるので信用ができないのですか?」

 

「ほむらさんも魔戒騎士を知っているの?」

 

「はい、私も魔戒法師の術を使います。キュゥべえは魔戒騎士、法師は無法者だと言っているようですが」

 

魔戒法師関係だから信用できない。自分も同じだとほむらは告白するのだが、マミは動揺することなく

 

「……そうね。私もキュウベえの事はある程度信用しているけど、少し考えてみれば、そうでもないんじゃないかって思うわよね」

 

だったら、どうして?とほむらは問うが、マミは少し疲れたような表情を浮かべ、

 

「佐倉さんに関しては、仲直りをしたいって言うのもあるわ。でも、私は彼女に対して嫉妬をしているの」

 

「……嫉妬ですか?」

 

マミからまったく似合わない言葉が出て、ほむらは戸惑ってしまった。

 

「そう、佐倉さんには護ってくれる人が、独りになっても手を差し伸べてくれる力強い人が傍に居てくれる。私がどんなに願っても着てくれなかったのに……」

 

(巴さんは、私達のリーダーという風に認識していたけど、巴さんも強くて優しい誰かに導いて欲しかったんだ)

 

「私にも親戚が居ないわけじゃないわ。でも、皆、私の両親が残したお金が欲しくて私の手を取ろうとするだけなの……」

 

親戚は、彼女の両親が残した莫大な財産を得ようと優しい面をするだけであり、話の中心はいつも遺産の管理についてで、そのたびに他の親戚と騒がしく争う。

 

「私の事を本当に心配してくれる人も居る。そういう人に限って、浅ましい親戚が執拗に攻撃をするわ」

 

あんな人達と血が繋がっているなんてと嫌悪するように吐き捨てた。

 

「でも、私はまだ佐倉さんと向き合う勇気はないわ。少しだけ、時間をもらえるかしら?」

 

マミの身の上を聞くことは初めてではないが、彼女も彼女で思うところはあるのだ。

 

「……はい。私のお節介かもしれませんが、向こうには、一言入れておきますので……」

 

「ありがとう。ごめんね、頼りない魔法少女で」

 

ほむらの気遣いはマミにとってありがたかった。

 

「いえ、私も同じです。いつも肝心なところで大切な人を護ることができませんでしたから」

 

「だったら、次は護れるようにしないとね。よしっ!!!見滝原アンチマテリアルズの結成ね!!!」

 

「へっ?」

 

突然のチーム宣言にほむらは、疑問符を浮かべてしまった。

 

「何を呆然としているの?私達のチーム名よ!!チーム名!!!」

 

「な、何をって…なんですか?チーム名って……一応、協力者でそこまでは……」

 

「ほむらさん。こういうのは私達の団結が必要なのよ。それをしっかりさせるための精神的な心構えなの」

 

(それならば……佐倉杏子との連携を考えて欲しいんだけど…少し無理か……)

 

マミもまだ15歳の少女である。魔法少女としてのマミではなく、人間 巴マミを見る事ができて彼女に対する親近感が増すほむらであった。

 

(以前は苦手だと思っていたけれど……こういう弱いところを見せてくれるってことは、信頼してくれるということなのね)

 

事情により敵対してしまう場面が多かったが、今回に限っては今まで以上に良好な関係を築けそうであったが……

 

「じゃあ、名乗りの練習に入りましょうか」

 

(前言撤回……やっぱり巴さんは苦手だ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柾尾 優太は隣の自室に戻っていた。彼の部屋を訪れた者は誰一人としていない。

 

あらゆる物が錯乱し、荒れ放題だった。寝室には数台のモニターとさらには、壁一面に張られた数千枚の顔の写真で埋め尽くされていた。

 

自分にはないものを手に入れようと様々なことを行ってきたが結局、彼がそれを理解することは出来なかった。

 

いくつかのモニターは割れており、一つのモニターには男女二人が互いに愛し合っている光景が映し出されていた。その光景を不快に思ったのか

 

「何故だ!!?何でだ!?!!優しくされたのに、何も感じない!!!どうしてだ!!!!お前たちとちがって僕は、何故、何も感じない!!!!」

 

苛立ったようにモニターを手にとり、そのまま壁にぶつけてしまった。鈍い音と共に何かがショートする音に構うことなく、彼はゴミ溜めの中にそのまま横になる。

 

「…あの刑事の娘は、願いを叶えたんだ……じゃあ、それを……無かった事にしたら……」

 

先ほどの魔法少女から聞いた願いについて考えだし、そこに手を加えたら自分は素晴らしい体験が出来るのではと……

 

複数のディスプレイの明かりに照らされた彼の影が大きく笑ったように見えたのは気のせいだろうか?

 

「ねぇ、暁美…駄目なんだ。最近はQBさんも協力してくれないし、他の女の子に優しくされても駄目なんだ。君だけなんだよ…僕が優しく慣れるのは……」

 

自分の今の行いは悪いことと理解はしているが、それをやめることは出来なかった。何故なら、殺人は彼にとっては無くてはならないものになってしまったのだから……

 

割れたソウルジェムを優しく撫でるが、直ぐに自分の隣に不快なモノが横たわっていることに気づき、

 

「なんだよ?お前、まだ居たのか?もうお前の下品な顔は見たくないのに、さっさと消えろ!!!」

 

立ち上がり、黒いゴミ袋からはみ出ていた腐敗した青白い女の顔に蹴りを入れると鈍い音と共に黒い何かが部屋を横切っていった……

 

「並河……処理にきてくれ…それと美樹総一郎の家族で変わった事がなかったか教えろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

マミと見滝原のパトロールを終え、ほむらはこの時間軸での拠点である郊外の屋敷に戻ろうとしていたが、ある人物と遭遇してしまった。そう、彼女が複雑な感情を寄せるバラゴである。

 

「……………」

 

「やあ、彼女とのパトロールは楽しかったかい?」

 

バラゴは柔らかい笑みを浮かべてほむらに話しかけるが、対する彼女はいつも通り頑なであった。

 

「……魔女狩りに楽しいも楽しくないもないわ。遊びじゃないもの……」

 

魔法少女は仲良しクラブではないのは、マミ共々しっかりと理解していた。だからこそ、この先にある脅威に備えているのだ。

 

「そうだったね。それが君の目的でもある。だけど、ワルプルギスの夜は、この僕が居れば充分だというのに……君は何故、僕にそれを望まない?」

 

僅かながらバラゴの口調に苛立ちが含まれているが、ほむらはそれを気にすることなく、いや、正面から向き合うように……

 

「そうね。アナタが危険だからという理由はもう言い訳にはならない。だけど、私は誰かに縋るような弱い自分を必要としていないわ。アナタがどう言おうとも私は私のやり方でやらせてもらう」

 

例えアナタがそれを踏みにじろうとも自分は噛み付いてでも目的を果たすと強い視線でバラゴに臨んだ。

 

「………僕のやり方を否定するわけでもないんだね。良いだろう、君のやりたいようにやるがいいさ。僕は君の覚悟に口を挟むほど野暮じゃないからね」

 

正直、ほむらの執念は嫌いではなかった。むしろ自分に似た妄執を感じさせるところに親しみすら感じていたのだ。母とは違うが……

 

「どの口がいうのよ……私に色々とやってきたくせに…良いわ、戻るんでしょ……」

 

今日は少し気分が良いから、並んで歩いても構わないと言わんばかりにほむらは彼の横に並んだ。

 

「そうそう、これからアスナロ市に向かう。君も一緒に来てもらおう」

 

「?アスナロ市。見滝原から離れるというの?」

 

冗談じゃないと言わんばかりにバラゴを見るが、バラゴは余裕を含んだ笑みで

 

「ワルプルギスの夜が来るのは、まだ先のこと。それに君が気に掛けていた少女二人も大きなことに巻き込まれることはないだろう。いや、一人はそうでもなかったな」

 

”一人はそうでもなかった”誰のことかは言うまでもなくほむらは察した。余計な悪意には思わず怒りすら感じてしまう。こういう悪態を突く自分は所詮はただの餓鬼としか言いようが無い。

 

「本当にアナタって、言うまでも無く……最悪ね」

 

「それは君も承知していたんじゃないかな……ほむら君」

 

バラゴもほむらの扱いに慣れてきたのか、軽口さえ聞けるようになったのは何となくであるが癪である。

 

「僕はまだやらなければならないことが残っている。君はこのままアスナロ市へ向かいたまえ」

 

後でエルダも向かわせると聞きながら、バラゴからチケットを渡され、ほむらは怪訝な表情を浮かべるが……断る理由も無かった為……

 

「良いわ。先に行く……それとバラゴ。アナタ、まだ何も食べてないなら、これ……食べても良いわよ」

 

ほむらは手に持っていたバスケットをバラゴに強引に手渡し、そのまま背を向けて別れてしまった。

 

(呆れた……これじゃあ、バラゴと同じじゃないの……何故、こんな事をしたのかしら?)

 

彼には親しみを感じているが、それを表に出すことは絶対に無いと思っていた。だが、先ほどの行為はまるで親愛の情を抱いているようではないか……

 

(何処かで私は彼に何かを期待しているかもしれない。彼の言う究極の力がどんなものなのか…その果てに何を手に入れるのかを見てみたいのかもしれない……)

 

危険極まりないイレギュラーに変わりなく、魔法少女にとっては魔女と同等の災厄でしかない暗黒騎士のどこに期待が寄せられるのだろうか?

 

自分は歪んでいるかもしれない。それこそ矯正ができないほどのそれを抱え込んでいる。暗黒騎士に何かを期待してしまうほどに……

 

それを僅かながら認めてしまうとバラゴに対する嫌悪が、同族嫌悪が少しだけ和らぐのは……暁美ほむらは惰弱な少女でしかないのだろうか……

 

自分が一番分からないことは自分自身と誰かが言ったが、確かにその通りだとほむらは思うのだった………

 

 

 

 

 

 




あとがき

さて、次回で本編とバドのサイドストーリーを同時に終えられたらなと思います。

一応ではありますが、呀はかずみ☆マギカと交差します。劇場版 呀ということで使徒ホラーとの対決に入ります。

ヒーロー バラゴ。ヒロイン ほむらの提供で行えればと思います。七月までには全ての話が書き終えればと目標を立てていますが、最近はまた忙しくなりそうでどうなることやら………

それはそうと、恭介のヴァイオリンの先生ですが、設定では父親が先生らしいんですが、こちらでは別に先生が居るという設定にしています。さらには志を同じくするスクールのメンバーもいます。

何となくですが、ほむらがデれました……

オリジナル魔法少女 蓬莱暁美に関してはダイジェストで物語りに出てきますが……

一言で言うなら、彼、キュウベえ、彼女の組み合わせは”三悪人”とでも言っておきます。



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