呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝) 作:navaho
恭介の不幸は確かにだけれど、それを乗り越えるのは彼自身であり、さやかは余計な事をしたような気がしないでもないです……
本編での結果は、彼女も納得していましたので特に何も言いません。
ただ、彼の奇跡とその代償でのさやかの生涯とを考えると理解は出来ても納得は出来ないだけです。
劇場版でも仁美に対しても、寂しい思いをさせているところを見ますと・・・・・・スタッフ曰く、音楽を第一にする男らしいですから……
奇跡
「神の力」 奇跡の起因からの名称である。奇跡は、被造物の世界に創造主である神が力をもって介入した時に起こることから……
古来より、人々は想像を超えた力の存在を信じ、それらにより人では叶えられないことを行ってきたと信じていた。
超自然的な力は”精霊”とも呼ばれ、「その人を救う為に行うべき事としてはならないこと」を説く教えも存在する。
奇跡とは、我々人間では到底図りきれないモノである………
魔法
「神」以外の力によって起こされた奇跡を指す。魔法は、宗教や地域によって様々な定義が存在する。
一つにユダヤにおける賢い”magi"より発生し、複数の意味の”magic"マジックと我々が知る一般的なイメージに近い。
西洋では、魔法は宗教、神に反する物とされ”魔女狩り”が行われた歴史を持つ。魔法=悪は、東洋よりも西洋では根深く存在する。
よって魔法は、神の奇跡を意図的に起こした”人の業”とも言える………
見滝原の住宅街の一角に久々にヴァイオリンの音色が響き渡っていた。数ヶ月前までは、いつも鳴り響き、近隣の人達はそれを覚える程だった。
数ヶ月ぶりに上条恭介は、自宅の自室でヴァイオリンを弾いていた。同年代で彼に匹敵する奏者は居ないといわれるほどの腕前である。
本来ならば、入院中であり病院に居なければならないのだが、彼が無理を言って退院し、そのままリハビリも兼ねて明日より登校の予定である。
「……少しでも遅れを取り戻さないと……いつまでもこんな所で燻っている暇なんてない」
無理はしてはいけないと医者に言われているが、多少は無理をしても遅れを取り戻さなければならないという”焦り”が上条恭介の胸中に渦巻いていた。
何時かは手が治ると信じリハビリにも力を入れていたが、どういうわけか治る筈がない手が治るという奇跡に上条恭介は涙した。
自分を神は見捨てては居なかった……ヴァイオリンを弾けることに感謝した……
どれぐらいの時間、演奏していたか分からなかったが、扉から母が出てきたとき、ノックをしていた事に気がつかなかった。
「恭介……鹿目さんからお電話よ」
「鹿目さん?何のようだろ……」
意外な人物の名前に、上条恭介は疑問符を浮かべた。言うまでも無く、彼女とは顔見知り程度の関係で、さやかの幼馴染の一人ではあるが、これと言って仲が良いというわけでもなかったからだ。
先日の病院では手が治ったことを気づかせてくれたこともあるが、その件に対して喜びではなく失望に似た表情を彼女は浮かべていたのだ。
その事を思い出すと上条恭介は、折角のよい気分が冷めていくのを感じた。どうせ大したことでもないのなら、謝罪なら明日にでも聞ければ良いと思い……
「母さん。鹿目さんには、今日は電話に出られないって言っておいてくれないかな……」
「せっかくお電話をしてくれたのに?」
「良いんだ。明日、学校に行くから、向こうに用があるなら向こうの方から聞きに来るだろうしさ」
上条恭介は再び弓を構え、演奏を始めた。再び演奏が鳴り響き始めた……
息子は少しばかり難しい性格をしている。このことは母親は理解しているが、溜息をつくしかなかった。
結局、この日彼がまどかからの電話を取ることはなかった………
鹿目家
自宅の固定電話の前で、まどかは溜息を付いていた。原因は先ほど電話をかけた上条恭介がそれに出てくれなかったことだった……
(……上条君。どうして、話を聞いてくれないのかな)
これまでの自分は知らなかったが彼が皆に黙って退院し、その翌日には学校に登校し、それを誰よりも心配していた彼女の心に傷を付けたことを今の自分 鹿目 まどかは知っていた。
上条恭介は、まどかにとってはある意味宇宙人のような存在だった。内気で気弱な性格の為、乱暴で意地悪な印象を持つ男の子というものが非常に苦手だったのだ。
幼少期の頃、数人の男の子に虐められたこともあり、その件で自分から話すということはほぼ皆無であった。
結局、また繰り返されるのだろうか?これは今も、時間を遡行している彼女も同じ思いをしているかもしれない。
未来を知っていてもそれを簡単に変える事は出来ない……彼女と比べれば、自分は新米そのものであるが、痛いほど理解した。
「なぁ、まどか。ちょっと良いかい?」
気がつくといつの間にか母が自分を呼んでいた。
「なに?ママ」
「ちょっと、晩酌に付き合って欲しいんだな」
「えっ?私、お酒なんて飲めないよ」
「まぁ、飲めなくても話ぐらい聞いてくれればいいからさ」
母の笑みに誘われ、家族全員で母曰く”晩酌”が始まった。
仕事の愚痴から始まり、最近の出来事に一喜一憂しながらまどかは、話を聞いていたが、少し気になることがあったので思い切って聞いてみた。
「ねえ、パパ、ママ。もし、誰かが大切なモノをなくして、その人の為に大切なモノを取り返すってのはアリなのかな?」
娘の突然の問いに二人は、少し驚いたが、考えるように唸りながら……
「そうだね…僕は、二人の同意があればと思うけど……片方の一方的なそれだと、少し問題があると思うよ」
「そうなの?例えば、一度だけ叶えられる願いをその人の為に使うとか」
妙に具体的な例え話だが、父 知久は内心、やはり何かあったと察するが娘に悟られるわけには行かないと思い……
「その大切なものが何なのかはよく分からないけど、どうしても取り戻したい事なら、何とかしてあげたいという気持はわかるよ。だけど……」
「だけど?」
「その大切なモノを元通りにしてあげることが本当にその人の為にしなければならないことなのかなって……」
知久の言葉には、何かを含んでいるように感じる。
「どうして、その人の為にならないの?」
「う~~ん。僕自身も良くわかっていないところもあるんだけれど、その人の人生に意味の無い”試練”はないんだってさ」
突然の”試練”という言葉にまどかは戸惑ってしまった。父はこんな熱血な言葉を使うような人ではなかったはずだからである。
「こらこら、知久。まどかが戸惑っているだろ。その試練っていうのを言ったのは、大河さんだったよね」
「そうだね。大河さんの事をまどかに教えないと分かりづらいよね」
二人だけに分かる笑みに対し、まどかは困惑するしかなかった。
「大河さんってのは、まどか。アンタの名づけ親さ」
「えっ!?私に名付け親が居るの?私に親戚が居るって聞いたことないよ」
自分の名前のルーツを始めて知り、まどかは驚くしかなかった。
「はは。実を言えば、アタシと知久は駆け落ち同然でここ、見滝原に来たのさ。そのときにお世話になった人でさ……」
そこはもっと重い話になるんじゃないのかとまどかは思うのだが、両親は懐かしそうにそれでいて、楽しく当時の事を語るのだった。
「でさ……大河さんは言ったさ。人の力は本当に小さくて弱い。だから、一つ一つ”試練”に打ち込む。そうすれば、何時かは一人の人間が大きな星すら動かすほどの軌跡を起こすかもしれないってさ」
一人の人間が起こす大きな奇跡……その例えにまどかは、自分では受け入れることの出来ない”可能性”の一つが浮かんだ。だが、アレは”魔法”に縋った結果であり、人の力とはいえないだろ……
「それって、魔法とか不思議な力なのかな」
「アタシは、そういうもんじゃないと思う。色んな人が物事に関わって、それでいて一つの形に仕上げていく感じじゃないのかな」
難しいことは分からないけどねと豪快に笑いながら、母は勢いよくビールを飲むのだった。
(……いつかは、魔法少女たちもインキュベーターの手から離れる時が来るのかな)
彼らが宇宙を救う為に利用する感情のエネルギーは、もしかしたら、彼らもまた人の持つ大きな力の存在を知り、利用しているのではないかと……
まどかは、そう思わずには居られなかった………
「アタシから言わせて貰うと余計なお世話って言いたいところだけど……大河さんもそんな感じだったしね」
当時の自分は、色々と余裕がなく迷惑ばかりかけていた。そんな自分も今や二児の母親である。
「話を戻すけどさ。何も魔法や奇跡が悪いってわけじゃない、それをどう扱うかは本人次第さ」
その結果が望んだモノと違うものかもしれないが、
「自分なりに納得の行く結果が得られれば、それはそれで良いかもしれないね」
(………納得のいく結果か………)
まどかが関わっている問題は冷酷で残忍なモノである。それを根本的に解決、せめて、希望を見た魔法少女たちを絶望で終わらせずに出来る方法は”あの可能性”でしかなかったかもしれないが……
(………何だか、少し歪んでいるかもしれない。結局は………)
古い漫画であるが安楽死を持って苦しむ病人を救おうとする男は、”あの可能性”と根本は同じで苦しむ人を救いたいという純粋な願いからであるのは、間違いないかもしれない。
「たあぁっ!!!」
奇怪な結界…魔女のものではなく、使い魔の結界の中を勢いよく駆けて行く影が一つ……美樹さやかである。
白いマントを靡かせ両手にサーベルを構えながら、迫りくるかつての”薔薇の魔女”の使い魔達の両バサミを巧みに受け止めながら両断する。
数はかなり多いが、さやかは焦ることなくむしろ余裕を感じさせる表情で使い魔達を見据えていた。
「ふふん♪頭数、揃えたって無駄だよ♪」
マントを大きく靡かせると同時に無数のサーベルが出現し、それらを自身の魔法で浮かび上がらせ、
「いっけえええええええええええええええええええッ!!!!!!!!!!」
ギロチンの断頭を思わせる勢いでサーベルを使い魔達を串刺しにした。使い魔達は、全て狩られたと同時に結界は消滅した。
結界が晴れるとそこは、繁華街の路地裏であった。
「さぁ~~てと、さやかちゃん。今日も頑張っちゃいましたね」
上機嫌と言わんばかりにさやかは、使い魔が消えた場所には”アレ”は無かった。
「やっぱり、グリーフシードは落とさないか……まぁ、やらなくちゃいけないんだよね」
「そう……かつて、佐倉杏子は効率が悪いからと言って、使い魔を放置し、人を襲わせていたわ」
「って……いきなり出てきて、早速嫌味で人の悪口ですか?先輩」
現れたのは、巴マミとその肩に乗るキュウベえであった。二人の姿にさやかは、軽く舌打ちをした。
「まぁ、マミ。佐倉杏子は最近、その辺のところは反省しているみたいだし、それをここでいう事はないんじゃないかな?」
キュウベえの助言にマミは”それもそうね”と返す。
「悪口に聞こえるのなら、私の配慮が足りなかったわ。でも、必ずしも絶対視するものではないわよ」
「へんっ!!そんなこと、アンタに言われなくっても分かってますよ!!!」
”姐さんのことは、私がよく知っています”と言わんばかりにさやかは返すのだった。
「そうね……貴女がそういうのならそういう事にしておきましょうか」
「いちいち、癇に障るな~~アンタって……」
さやかの憎まれ口には慣れたのか、マミは特に言葉を返すことなく……
「貴女は魔法少女になったのは、本当に後悔のない選択だったのかを個人的に確認をしておきたかったの」
「そうですよ!!!だったら、話してあげますよ!!!アタシの覚悟を!!!!」
可能性を断たれた幼馴染の絶望を払ったことを…その代償に戦い続けることに後悔はないと……
眼前を行く人々の生活を守ることに誇りを感じ、自分の行いは”正しい”ことであると……
(その願い……本当にアナタの正直な心なのかしら?彼を救いたかったの?それとも彼の恩人に……)
さやかに対し、マミは不安を募らせてしまった。人は言うまでも無く欲望、望みを際限なく要求する生き物である。
目の前に自分にとって美味しいモノがあれば、それを手に入れようと…もし、それがすぐ伸ばせば手に入るところにあれば、真っ先に手を伸ばすであろう。
最初の望みを叶えたら、その次の望みを叶えようとするだろう。手を治したら、次に望むのはその男の子と……
「本当に貴女はそれで良いというの?貴女が後悔しないと言い切れるの?」
魔法少女は増えるべきではない。その生き方はある意味自業自得であり、誰のせいにもすることはできない厳しい茨の道だからである。
その生き方を選ぶことはなるだけして欲しくないのだ。伝えなければならないのだが……
「分かってますって!!!そんな説教言われなくても!!!!アタシは後悔なんてしてない!!!!それで良いじゃないですか!!!!」
「ま、待って!!!」
さやかはそのまま壁を蹴り、建物の屋上に向かうようにして路地裏から去ってしまった。
さやかが去った後、マミは自分が伝えたいことを伝えることの難しさに…それができない自分の未熟さに肩を落とすしかなかった。
「駄目だな~~。私って……どうして、こんなにも駄目なんだろう」
かつて、佐倉杏子が自分の元を去った時も結局は、互いに自分の都合を主張ばかりして、話を聞くこともできなかった……
「……ほむらさん。アスナロ市から早く帰ってきてね……私って意外と寂しがりだから、拗ねちゃうかもしれないからね……」
「マミ。僕が居るのに、それはないんじゃないかな?」
「男の子には、分からないことです」
肩をすくめるキュウベえに対し、マミは厳しく突き放す。少し前に彼女の”使い魔”により、町を離れることが伝えられ、ほんの少しだけ寂しく思うのだった。
マミ達から離れた空を青く輝く蝶が飛んでいた。その蝶は、歩道橋の上を歩く一人の少女の手元に止まる。
「巴さんには、これで………良し」
良しと言って良いのか微妙なところであるが、ほむらはこの”時間軸”の異質さもそうだが、現状ではこれと言った問題は起っていない。
だが、彼女にとっては最大の目的であり救うべき少女とは未だに言葉すら交わしていないことが悩みであった。
(このままでは行けない……とは、分かっているけど………まどかの安全を考えると一番は、関わらないことが……)
彼女を護る自分になりたい。出会いをやり直したいと願ったが、どうしてもそれ以上の事を求めてしまう。
まどかと一緒に学校に行き、勉強をし、遊びに行ったりと……
(分かっているわよ。それは叶える事ができない願いだって事……私達の過剰な欲求が自分の願いを裏切る……)
憎たらしいことこの上ないがインキュベーターの言う事に間違いはなく、彼自身に非?は無いかもしれないが……
(納得が出来ないなんて……本当に自分勝手なものね……)
だからこそだろうか。この時間軸で行動を共にしている彼 バラゴに期待を抱いてしまうのは………
正義とは言い難い行いをする暗黒騎士の行動は、心の奥底にある暗黒面の感情を大きく刺激する。ホラー映画等でも主人公が凶悪な殺人鬼であることは、受け入れられないのだが、人はそれを受け入れ、あろうことか自分の感情を移入してしまう。
自分もバラゴに感情移入しているとでも言うのだろうか?同類の匂いを感じるからこそ嫌悪してはいるが、親しみを憶えるという訳の分からない自分の心情には呆れるしかなかった。
エルダから貰った使い魔は自分の周りをこの右も左も付かない様に飛んでいる様はどちらにも定まらない自分の不安定な心情を顕しているように見えた。
「……誰にも言えるわけないわよね……」
もし、自分がやばい男の事が気になっていると相談をすれば殆どの知り合いは”そんな男はやめておけ”と口を揃えていうだろうが、彼女だけは、戸惑いながらも肯定してくれる……そんな気がするのだ………
(……そこまで酷い奴じゃ……何を言っているのかしら。私は……)
自己弁護まで始めだしたら、いよいよ自分はどうかしているようだった………
翌日
体調もよくなり、まどかはいつものように通学路で幼馴染を待っていた。
「おっす、まどか!!」
「おはよう。さやかちゃん」
いつもに増して上機嫌な親友は、本来なら喜ぶべきことであるが、あまり喜ぶべきではないのではと感じてしまう。
「どうしたの?まどか。まだ、体調が悪いの?」
「う、ううん。大丈夫だよ」
「本当に?あんまり無茶はしちゃダメだぞ。それよりもあの犯罪者に本当に何もされなかったよね」
”あの犯罪者”こと柾尾 優太に対し表情を険しくするさやかであるが、まどかはあの青年のことを思い出すと背筋が寒くなった。
人間であるが人間を感じさせない青年。人形が人間の振りをしているだけにしかみえないガラス細工のように何も映さない瞳。
一度だけであるが、あの青年を見たことがある。父とタツヤの三人で公園で遊んでいた時、彼がやってきた途端、優しい父が険しい目で彼を睨み、自分達を連れて公園を出て行ったことがあった。
その時に父が険しい目を向けていたのがあの青年だった。
「あぁ~~。自分で言うのもなんだけど、あの犯罪者のことを朝から、言うもんじゃないわね……まぁ、いざとなれば……」
ソウルジェムが変化した指輪に視線を向ける。
「さやかちゃん。そういうのは、良くないよ。そんな事の為に魔法少女の力を使うなんて……」
手に入れた力に対し、さやかは半ば自惚れていた。その様子にまどかは、彼女が出会った最初の頃の自分を重ね、少しだけ溜息を付きたくなった。
「まぁ、そうだね。姐さんやおじ様に叱られちゃうね……こういう時に、ほむらが間を取り持ってくれたら……」
「えっ!?!さやかちゃんっ!!!ほむらちゃんのことを知っているのっ!!!!」
突然の言葉にまどかは、勢いよくさやかに詰め寄った。
「ちょ、ちょっと、まどか……な、何よ、アンタ、どうしちゃったっていうの!?」
「ちょっとでもなんでもないよ!!!何で、さやかちゃんがほむらちゃんを知っているの!!!!」
今までに見たことのない幼馴染の様子にさやかは、戸惑うしかなかった。そもそも、ほむらとまどかに面識はあったのか?
二人のつながりが良く分からないことに対し、さやかは困惑した。
「………何を騒いでいるんですの?道を歩いている人に迷惑ですわ」
二人の間に割り込むように仁美が普段とは違う険しい表情で押し通った。特にさやかを見る仁美の視線を厳しい。
指輪に対し、ますます表情を険しくし、話さずに立ち去っていった。
「全く……どうしちゃったのよ。仁美……」
わけがわからないと言わんばかりにさやかは口を尖らせる。まどかは、複雑そうに二人を見ていた。
(……何だか、この空気って嫌だな……)
まどかの悩みを気に掛けることなく、一人の少年が松葉杖を付いて登校する光景があった。
「きょ、恭介?」
久しぶりに見る恭介に対し、周りの同級生達は声を掛けていく中に自分達を押しのけていった仁美の姿も会った。
困惑するさやかに対し、まどかは彼女の様子が不安定であることを察するのだった。
(何よ……恭介の奴。アタシに何も連絡を入れないなんて……)
悲しそうにそれでいて怒っている様な表情にまどかは、先ほど気になっていたことが聞けなくなったことに対し……
(上条君……どうしてなのかな………)
どんなに頭を捻っても彼のことが理解できなかった。そうまるで遠い星から来た宇宙人のように………
いつもの見慣れた光景のはずなのだが、何かが違うように感じる違和感。
何がこの日常を変えているのだろうか?奇妙な日常に対し、まどかは少しだけ頭が痛くなった……
日常に入り込んだ非日常により刻まれた亀裂は、音を立てて日常を大きく歪ましていく・・・・・・
そこは繁華街の一角であった。誰も寄り付かないというよりもかつては、栄えたであろう一角であるが今や見るも無残な光景が続いている。
数十年前のバブル経済の遺跡ともいえる場所を小さな白い小動物ことキュウベえが我が物顔で歩いていた。
「数年経ってもこの場所は変わらないね……蓬莱暁美。君と僕とで作ったアレである少女達が面白い試みをしているよ」
ある建物の前に止まり、キュウベえは感慨深そうにその建物を見つめていた。ここには、ある魔法少女がインキュベーターと共に築いた”遺物”が残っていたが、数ヶ月前にある一団がそれを持っていってしまったのだ。
人間ならば怒りを覚えるところだが、彼にはそう感じる感情は無かったが、むしろ呆れていた。
「向こうにはイレギュラーの暁美ほむらが行ったようだし、君達とどういう風に絡むかを僕は近くで観察させてもらうよ……」
キュウベえは、ふと気配を感じ背後を振り返った。いつの間にか、美樹さやかの父親 総一郎が立っていたのだ。
彼は興味深そうに建物を見ていた。そして、意を決したように中に入っていくのだった。
「美樹さやかの父親は何かを察したようだね。蓬莱暁美の真実を……だけど、彼は真実を探るどころかそれを理由に……」
再び凶行を重ねる理由にしていた。彼は、彼女の事が大事であり、心を感じることが出来ると信じている、思い込んでいる。
「彼には、その辺の利用価値はあるみたいだからね……蓬莱暁美。そうなるのなら、君も本望だろう」
今は居ない少女に語るキュウベえの姿に感情を持たないとされる生き物に”感情”の影がよぎっていた………
あとがき
次回……何かが起きます……話の進みが遅いかもしれませんが、早くすると何となく違和感を覚えてしまいますのは、どうでしょうか?う~~~ん。
ちなみにほむらの気になっているお相手に対してどうすれば良いのかという悩みを”何処かで見たことのある人”の元ネタの少年に伺ってみたいところです。
ほむら(呀)「彼については自分でもよく分からないの。嫌いなのか、好きなのか……恋愛ではないと思う……」
大概の人はそんな男は辞めておけと口を揃えていうかもしれませんが(笑)
最後に、恭介が少し嫌な男になってしまいました(汗)