呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝)   作:navaho

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最初にですが、この話でマミさんは禄な目にしか遭いません……

考えてみれば比較的マシなのは杏子ぐらいじゃないかと思うしだいです。

まどか  良く分からない記憶に振り回されていて情緒が若干不安定。

さやか  今のところ原作基準(これは良いのでしょうか?)

ほむら  ヒロインではあるが、ヒーロー?バラゴに対し、色々と複雑な思いを抱き葛藤。

仁美   魔法少女の件を知り、少し嫌なキャラになりつつ……

こうしてみますと皆、あまり良い目に遭ってないような気が…どうでしょうか?






第二十話「亀裂(4)」

 

 

 

上条恭介の登校は、見滝原中学校にとってホットなニュースであった。

 

学校側も天才ヴァイオリンリストの復活は喜ばしい。だが、この喜ばしい雰囲気に対して、二人の少女は眉を寄せていた。

 

特にさやかの表情は戸惑いもそうだが、半ば怒りの色すら浮かんでいたのだ。

 

「さやかちゃんは、上条君のところには行かないの?」

 

「……あ、アタシは良いよ……別に」

 

歯切れの悪い幼馴染に対し、まどかは思わず彼女の手を取り、

 

「誰よりも上条君の手が治って嬉しいのは、さやかちゃんなんでしょ!!!!」

 

「ちょっ!!!まどか、またっ!!!」

 

今日の幼馴染は、かなりアグレッシブであるとさやかは思うのだった。

 

「上条君!!!おはよう」

 

周りに大きく聞こえるようにまどかは、上条恭介の周りの生徒を押しのけて強引にさやかと対面させる。

 

「あ、鹿目さん。おはよう………さやかも……」

 

さやかを見る恭介は、特に何との無く……いや、今までと変わらない朗らかな笑みを浮かべ

 

「おはよう、さやか」

 

「お、おはようって……何、学校に登校してるの?まだ退院じゃなかったよね」

 

戸惑いながらもさやかは、自分の疑問を彼に問い掛けた。

 

「ああ、どうしても早く遅れを取り戻したくって……いつまでも病院のベッドにいるわけには行かないよ」

 

恭介は治った手を動かし、自分のやりたいことを告げる。今は、ヴァイオリンが引けることもそうだが、早くスクールの仲間達と合流しなければならない。それにコンテストだってあるのだ。

 

今年は出られなくても、来年は前の年にやれなかったことをやらなくてはならないのだから……今の上条恭介の目は、希望に満ち溢れていた。

 

「恭介……(今、やりたいことがたくさんありすぎてアタシのこと、眼中に無かっただけ?)」

 

思わず、嫌な思いが胸中によぎっていたが、上条恭介に悪意はなく、彼は純粋に今の自分が嬉しくて仕方が無いのだ。

 

「(……それでもショックだな)…行くなら行くって、連絡ぐらい入れなさいよ」

 

「はは、ごめん、ごめん。母さんにも言われたよ……でも、いつまでも誰かを背にもたれるわけには行かないからね」

 

彼にも一応のプライドというか吟味があるようだ。その事を察するとさやかは、盛大に溜息をつき……

 

「まったく。アンタは……まぁ、恭介らしいといえば恭介らしいかもね」

 

ニッと笑みを浮かべ、さやかは恭介と肩を並べて登校するのだった。その際に仁美が睨んでいたが、その事を察する者は誰一人としていなかった。

 

「これで良かったのかな……」

 

魔法少女となったさやかは彼に対し必要以上に境界線を貼り、自分で自分を追い詰めていたように思える。ここで二人を接触させれば、あの事態を回避できるかもしれないのだ。

 

「よう。まどかだったけ…ありゃ一体、何があったんだ?」

 

「あ、佐倉…「杏子でいいよ」

 

数日振りに杏子が見滝原中学校に登校していた。その表情は、僅かながら苛立ちの色を浮かべていた。

 

「杏子ちゃん……あの……」

 

「言われなくっても分かってる…ほむらの言う事は本当だったんだな」

 

「杏子ちゃんも!!!」

 

まさか、彼女からもほむらの名前を聞くとは思わなかった。

 

「アタシもって…アンタもほむらを知っているのか?」

 

昨夜、青い蝶の使い魔を見つけ、その後を追った所で彼女に叔父と共に出会ったのだ。

 

(……ほむらちゃん。大丈夫なんだ……でも、どうして学校に来ないんだろう)

 

本来なら転校生である彼女は、自分たちと同じように登校するはずだったが、何故か、居る筈の無い両親が居り、さらには”探し人”として捜索までされているのだ。

 

この時間軸での自分もそうだが、色々とイレギュラーが複雑に重なり合っていることだけは間違いなさそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼休み、まどか、さやか、杏子の三人は屋上に居た。

 

「ったく……安易に奇跡に縋るなって言ったよな…」

 

さやかの指に嵌ったソウルジェムを見ながら、杏子は溜息を付くしかなかった。

 

「まぁ、そうですけど……でも、どうしてもやらなくちゃいけないって思ったんです」

 

絶望に陥った彼を救うには願うしかないと……そのことに対して自分は後悔なんてあるはずが無い。

 

さやかは、やらなければないと……純粋に彼を助けたかったのだ。

 

「そうかよ……でも、もっとやりようはあったんじゃないか?って…電話だ………って、叔父さんだ!!!」

 

杏子は思わず電話を取った。小言というよりも愚痴だけが出てきたが、突然の電話に対し驚いてしまった。

 

<杏子ちゃん。今の時間、大丈夫だよね?>

 

「うん。大丈夫だよ。ちょうど、昼休み始まったばかりだし……うん。わかった」

 

いつもの叔父の声に安心し、彼の意図を察した杏子は電話をさやかに差しだし、

 

「叔父さんがさやかと話したいってさ」

 

「えっ!?!おじ様が?うん、分かった」

 

もしもし、さやかですと応える。

 

<さやかちゃん。以前、俺は君に言ったよね。もしもの事があったら、必ず相談するようにと…>

 

バドは内心、迂闊に見滝原を離れてしまったことを悔やんでしまったが、なってしまったものはどうしようもなかった。

 

だが、これからをどうするかは自分達で決められる。さやかも最悪の結末にならないで済む場合だってあるのだ。

 

「姐さんにもおじ様にも申し訳ないんですけど、アタシにもやらなくちゃいけないことがあったんです。恭介を助けることがそんなに悪いことなんですか?」

 

さやかは、真剣になって彼を助けたかったのだ。純粋に目の前に一発逆転の奇跡があるのならば、それに手を出すのも無理はない。

 

事実、彼もまたそのような奇跡を内心、願ったことがある。あの夜の事を無かったことにできればと………

 

頭ごなしにさやかを否定することはできない。そんな事をしても何の解決にもならないからだ。

 

<叔父さんからは、さやかちゃんがそうしたかったのなら、それを尊重すべきだと思うけど、なってしまったものは仕方ない>

 

魔法少女の真実をこのまま伝えるわけには行かない。だが、そのための準備もしている。

 

<これだけは聞いて欲しい。おじさんもそうだが、俺とさやかちゃんの生き方は例え騙されるような事があったとしても選んだのは自分自身だ。誰のせいにもできないし、誰かを責めることは絶対にしてはいけない>

 

彼の厳しい言葉にさやかは思わず息を呑んだ。自分の願った奇跡は自分自身の責任の為、誰にも頼ることは出来ない。だが、

 

<だからだ、何か困った時があれば、必ずおじさんに相談しなさい。もし、一人で抱え込むようなことがあれば、杏子ちゃんと一緒に乗り込むからね>

 

「それって凄く図々しくないですか?おじ様」

 

いきなりのバドの言葉にさやかは、苦笑いを浮かべる。

 

<魔法少女絡みはおじさんにとっては、他人事ではないからね。だからこそ、近くにいる子だけでも何とかしてあげたいんだ>

 

「分かりました。そういう図々しいおじ様、嫌いじゃないですよ」

 

<そうかい。じゃあ、杏子ちゃんにもよろしくと伝えてくれないか>

 

了解と敬礼をしてさやかは、バドの電話が切れるのを確認し杏子に返した。

 

「姐さんの叔父様って本当に素敵な人ですね~~」

 

意味深に笑うさやかに対し、杏子はムッとし

 

「あっ!!アタシの叔父さんだぞ!!!変なこと言うなよ!!!」

 

「あれっ、姐さん。もしかして妬いてます~~」

 

幼い声であるが、何処と無く大人びた少女の年相応の姿にさやかは笑わずには居られなかった。

 

「ばっ、そうじゃねえよ!!!」

 

二人のやりとりにまどかは、ホッと胸をなで下ろした。

 

魔法少女の問題については、杏子の叔父が協力してくれる。

 

(初めてだね……大人の人が、それも一緒に戦ってくれるかも知れない人が居るなんて)

 

魔戒騎士という存在がどういったものか良くわからないが、魔法少女と同等の力を持つのは間違いなく。経験豊かな年長者が居てくれるのは心強い。

 

(後は……ほむらちゃんも一緒に居てくれたらな)

 

自分を助けようと苦難に挑む出会ったことも無い友達にこの最善の状況を伝えたかった………

 

さやかが恭介にお昼に誘われた為この場から居なくなった後、杏子はまどかに、

 

「なぁ、まどか。アンタとほむらの接点がよく分からないんだ?どういう知り合いだよ?」

 

(……ここで真実を話しても良いのかな……でも、杏子ちゃんなら……)

 

他の時間軸でほむらが最も信頼を置いていたのは、杏子であることは間違いない。今の自分とほむらの事を話してもきっと信じてくれる……

 

「ねえ、杏子ちゃん。私が実は未来の事を知っているって言ったら?」

 

「な、何だってっ!?!」

 

いきなり突拍子の無いまどかの言葉の杏子は素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど。アタシの頭の出来じゃ追いつかないけど、アンタの言っていることは嘘じゃないんだな」

 

「うん。私も凄く不安なんだ……この記憶が何なのかって、本当に私なのかって……」

 

不安そうな表情のまどかに対し、杏子は

 

「未来を知っている事情通なら、もっと自信を持てよ」

 

”パン”と、肩を叩き励ます。事情はまだ理解できないところは多いが、

 

此処ではない場所で一人の少女が近い未来に契約し、過去へ遡り、運命を変えようと奮闘する物語。

 

「……ほむらの奴もさやかと同じで他人の為に自分を犠牲にしすぎだろう」

 

まどかにより明かされた暁美ほむらの真実。彼女も本人の了承も無くその正体を伝えることに罪悪感を憶えたが、話さなければ相手も分かってくれない。

 

「ほむらは、ほむらで他の魔戒騎士と一緒にいるみたいだし……今度、あったらアタシが腕掴んでまどかのところに連れてってやるよ」

 

杏子も杏子で同じ魔戒法師の術を使うほむらを気にしているようである。さらにマミのことも気に掛けているようなので、個人的にも仲良くしておきたいのである。

 

「どんな騎士と一緒にいるのかな~~。もしかして、叔父さんみたいに称号持ちの騎士かな」

 

二人の魔戒騎士が力を合わせる。まさに愛と勇気が勝つ王道のストーリーではないだろうか。だが、まどかはほむらと一緒にいるであろうその魔戒騎士に心当たりがあった。

 

(……ほむらちゃんと一緒にいるのってまさか……)

 

かつて夢の中で現実で見た闇色の狼 暗黒騎士 呀。もし、そうだとしたら、彼女が自分の前に現れない理由も察しが着くのだ。

 

危険なイレギュラーと関わってしまい、自分達を傷つけないように姿を現さない。今の状況は喜ばしいが、この状況を壊しかねない存在まで居るとなるとまどかは頭が痛くなった。

 

懸念だったのは、自分を殺すために暗躍していた魔法少女たちも居たが彼女達は”この時間軸”に存在していないのか、姿を現さない。

 

その魔法少女たち以上の脅威が近くに居ることに対し、単に未来を知るだけではどうにもならないことを痛感するしかなかった。暗い気持のまどかに対し、杏子は明るい心持で二人の魔戒騎士の共闘に心を躍らせるのだった。

 

「それはそうとさ、マミが今日、休みだって……なあ、まどか。この時期のアタシ達ってどうだったんだ?」

 

マミも交えてさやかと話そうと考えていたが、彼女はどういうわけか無断で欠席をしているらしい。つい最近も不登校だったが、久しぶりに来たと思ったら今日もまた………

 

「色々とパターンがあるんだけど……病院の一件でマミさんが魔女に……その後に杏子ちゃんがインキュベーターに誘われて……」

 

映画を見るような気軽さとはいえない生々しい光景の数々。彼女が遡る時間はそれぞれ違っていたが、親しい人、ましてや自分が異形と化す言葉にし難い感覚、さらには死んでいく光景をペラペラと喋ることができようものか……

 

「あぁ、分かった。それ以上は言わなくて良い。あんまり無理はするなよ。無茶はしても……」

 

顔色が悪くなっていくまどかに杏子は、この少女がかなり無理をしていることを察した。こういうときに気の利いた言葉一つ満足に言えない自分に内心、呆れながらも…

 

「まぁ、気分治しに食うかい?」

 

本来は”学校”に持ち込みは禁止であるが、何故か持っている”お菓子”をまどかに差し出す杏子だった。

 

(……見滝原に戻ってから色々とやることが増えたな……それにしても、マミの奴。どうして学校に来ていないんだ?)

 

事情を知っているまどかに尋ねようにもかなり無理をしている為、聞くことは難しいと思い、特に追求することは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は昨日まで遡る。杏子がポートシティーから戻った夜のことだった。

 

マミは、自室に戻るべくエントランスを歩いていた。夜も遅いため、照明は必要最低限しか照らされたいないがそれでも充分だった。

 

普段ならばキュウベえを肩に乗せているのだが、そのキュウベえは”用事が出来た”と言って何処かに行ってしまった。

 

最近少しばかり付き合いが悪くなっている友達に対し愚痴りたくなるが、彼が居ない事に少しだけ落ち着いている自分が居た。

 

どういうわけか、最近のキュウベえは他の魔法少女 ほむらと顔を合わせようとしない。さらには、時々物思いにふけるようにリビングの窓からある方向を眺めていることが多くなっている。

 

キュウベえの見ている方角は、マミにとっては絶対に関わりたくない場所……そう、かつてキュウベえと契約を交わした場所なのだ。

 

魔法少女としての自分が誕生したのだが、それは同時に両親を亡くした場所でもあった。だからこそ、キュウベえが何を思っているのかを尋ねることはしなかった。

 

あの過去は自分にとっては思い出したくもないが、自身の魔法少女としてのあり方にも疑問を感じてしまう。

 

”助けて……”

 

あの日の事故に遭って、冷たい死から逃れたくてキュウベえと契約した。自分が助かりたいがために……

 

どうして両親を助けなかったんだろうと……何度も後悔をした。もし、やり直せるのならばあの日の自分に言ってあげたい。

 

”私達を助けて”

 

そんな願いだったなら、両親は死なずに済んだのではないかと………

 

後悔をするよりも今をどうにかしなければならないことは誰かに尋ねなくてもわかる。過去の自分勝手な自分ではなく、人々の為に何かをしてあげるそんな存在にならなければならなかった。

 

故に魔法少女として、正義を行おうとした。人々を影から守り、それを他の魔法少女たちにも教え、導こうともした。

 

”そういうのってさ、魔法少女としては褒められた物じゃないよ”

 

”これからはさ、魔女だけを狙おうよ”

 

自分自身の願いの為に戦う。それが魔法少女にとっては無理の無い選択であるが、マミはそうではなく誰かの為に戦うという姿勢を曲げることは無かった。

 

他の魔法少女たちからは損をしているとも馬鹿な生き方とも言われてきたが、それでも彼女は自分の思うがままに生きることを良しとしなかった。

 

(……正義の魔法少女か……それは誰にとってのかしら?他の皆の理想?それとも私自身の理想なのかな)

 

辛いこともあるが、やりがいのある仕事と分かっている為、寂しさを憶えても自分の活動に疑問を抱くことは無かった……

 

この事をほむらにも相談した。ほむらはマミが思ったとおり自分と同等の魔法少女のベテランだった。

 

”私にも、ハッキリした事は分かりませんが。誰かの為、自分自身の為の願いに善も悪も無いと思います。もうそうする以外にどうしようもなかった、縋るしかなかった人達の気持は当人でしか分からないですから”

 

ほむらは、何か思うことがあるのか戸惑っているように見えた。もしかしたら、そういう人が身近にいるのかもしれない。そういう人がいるのと尋ねてみた。

 

”……彼のしていることは誰もが忌み嫌うかもしれません。でも彼はそうするしかなかった。例えそれが間違いであっても迷ってはいけないと自分を駆り立てているんでしょう”

 

それ以上語ることは無かったが、マミはほむらの語る彼は、ほむらの中ではかなりのウエイトを占めているようである。

 

(皆は皆で、傍に誰かが居るのね。良いわね……私にもそういう人が居てくれたら……)

 

「…………巴さん。今日は、君に確認したいことがあるんだ」

 

考えに耽っていたマミの前に現れたのは柾尾 優太。薄暗いエントランスの奥から現れた彼は、普段の好青年とは違い、何処か幽霊を思わせるほど無表情であった。

 

自分の隣ではあったが、父や母は彼の事を嫌っていたことを今更ながら思い出した。思い出すのは、まるで忘れ去られたように店の隅に置かれた人形のようにボンヤリとしている光景だけ……

 

「あ、あの…今日はもう遅いですし、明日は学校に行かなければならないので、また別の機会にお願いできますか?」

 

断りを入れて立ち去ろうとするが、柾尾 優太は強引にマミの手首を取った。

 

「な、何をするんです「お前の都合なんか!!!知ったこっちゃないんだよ!!!」

 

突然、怒鳴りだした青年に対しマミは嫌な物を彼に感じたのだ。

 

「何ですか?アナタは……」

 

「それよりもお前こそ、何だ!?!暁美と同じだろ!!!こいつを見せろ!!!!」

 

取り出したのは、蓬莱暁美のソウルジェムだった物。この青年は何を求めているのだろうか?ソウルジェムが絡まると悪寒さえ感じてしまう。

 

「アナタに話したのは、間違いだったようですね。私に二度と関わらないでください」

 

一応はベテランの魔法少女。それなりに睨みに自信はある。だが目の前の青年にそれを察することは出来なかった。

 

喚き散らしている青年に対し、身を守るために少しだけ魔法少女の力を使うことにした。筋力を少しだけ上げ、彼を痛めつけない程度に腕を振るい、手を振りほどいたのだ。

 

「っ!?!」

 

僅かに手首を傷めたのか、僅かに表情を歪めるものの、その目には何の感情もなかった。

 

(……この人の目、凄く嫌な感じがする……何だろう、でも何処かで見たことが……)

 

身近で見たことがあるのだ。そういうものだと気にしないで居たが……よくよく考えれば……何処か違和感を感じていたが、あえて思わないようにさえ……

 

「嗚呼嗚呼ああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!!!!」

 

狂ったように青年はマミを押し倒した。突然の体当たりに対し、マミは背中に固い感触を感じながら表情を歪めた途端に”バチバチ”という音を聞いた。

 

いつの間にか青年はスタンガンを手に持っており、それを戸惑い無く押し当てた。

 

「きゃあああああああああああああああっ!!!………」

 

放電される感触と腹部が焼けるような感触と身体を走る衝撃と共にマミは意識を失った……

 

倒れた少女を無表情に見下ろし、柾尾 優太は、いつの間にか変化していたソウルジェムを手に取り……

 

「並河……早く来い。こいつを部屋に連れて行け」

 

物陰からバツが悪そうに並河が出てきた。自分は何も悪くないと呟きながら、マミの身体を抱え、荒れ放題である彼の部屋へと連れ去られた。

 

(ったく…何なんだよ…こいつ、本当に頭がおかしいんじゃないのか)

 

元々分かっていたが、それを目の当たりにするとそう思わずには居られなかった。

 

当の柾尾 優太は何かを焦っているように忙しなく手を握ったり閉じたりを繰り返していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、現在……

 

見滝原中学でまどか達が昼食を取っている頃、マミの身体は心電図を測る機械に繋がれていた。これは柾尾 優太が病院より持ち出した物である。

 

さらに彼女の周りをカメラが回っており、その様子を撮影している。心電図を表すモニターは全く動かなかった。

 

マミの身体は、現在死んでいるのだ。だが、彼女は生きている。ここより離れた柾尾 優太の手の中にあるソウルジェムに魂があるのだ。

 

「そうか…そうだったんだね。僕の思ったとおりだ。これが巴さんで、暁美だったんだ」

 

あの男によって、ソウルジェムが割られたために暁美は糸が切れた人形のように死んでしまった。暁美をあんな目にあわせたのは、契約を持ちかけたのは誰なのかが知りたくなった。

 

「素質のある少女にしか見えないんだよね……だったら……」

 

昨日聞いた上条恭介に起った奇跡もまた、誰かが願った奇跡ではないかと察した。

 

「その子に契約を持ちかけたそいつを呼び出させよう。そうすれば……」

 

そう思うと興奮せずにはいられなかった。自分の中にあるはずの”心”を呼び覚ましてくれるかもしれないのだ。

 

願いを叶えてくれるのなら、自分の”心”を呼び覚ましてくれるぐらいのサービスぐらいはしてくれるだろうというのが、彼の都合の良い甘い見通しであった。

 

早速であるが、スマートフォンに目を通しプランを立てる。メール受信の画面が現れ差出人”QB”とあるが、

 

「今は、忙しいんだよ。QBさん……僕の心が何か感じたら、話に付き合ってあげるから……」

 

メールの内容を確認せずに柾尾 優太は画面に映る”上条恭介”に対し、無表情な視線を向けるのだった……

 




ネタばれかも知れませんが、次回はキュウベえの主役回。



かつて君は、僕と一緒に歩んでいくれると言ってくれた。

僕に奇跡を願い、彼女達は自分自身で願いを裏切ったにもかかわらず、僕に責を求めた。

それを知りながらも君は僕をその腕で抱いてくれたね。

呀 暗黒騎士異聞 二十一話「過去」

蓬莱 暁美。君の心に”この宇宙”はどう写っていたのかな?

君の残した”人形”は、今日もまた無意味なことを繰り返しているよ・・・・・・




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