呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝)   作:navaho

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かなり久々の更新です。昨年はリアルでへこむことが多くあり、人間関係で非常に疲れていました。世の中って、どうしてこうもやるせないというか、人の良さそうな顔をして人を利用することしか考えないのかしらという嫌な考えに支配されていました。
ストレス発散でダイビングを行ったりもしましたが、聞こえの良いことばかり言う人には要注意ですよと言いたくなりました!!

こちらの注意ですが、上条君がかなり酷い目にあうので彼が酷い目に会うのは嫌だという人はバックをお願いします。





第弐拾弐話「崩壊(後編)」

風雲騎士 バドは、見滝原の繁華街にある劇場に来ていた。

 

繁華街と言っても駅前の開発計画によりかつての活気を失い、道中見かける店舗のほとんどがシャッターを閉めており、人通りは少ない。

 

その中にある西洋の劇場をイメージした劇場があり、現在公開している映画のタイトルとそのイメージボードが掲げられていた。

 

古い映画がほとんどであるが、どれも広い世代で親しまれているタイトルばかりであり、平日の午後にTVで放送していたタイトルもあった。

 

橙色の照明の下、バドは劇場の中に足を踏み入れた。造りはレトロであるが、何処となく品のある佇まいである。

 

その奥に新聞を広げる老人が一人居り、缶コーヒーを片手に休憩を取っていた。

 

「次の三十分後に開始するよ」

 

いつものように訪れた客に対し接するが、今回の客は少し事情が違っていた。

 

「ここは、かつて蓬莱暁美がよく通っていた劇場でかまわないのかな 日登美さん」

 

ここ数年聞かなかった”蓬莱暁美”の名前に対し、老人は大きく見開いた。

 

「嗅覚の利く知り合いに探らせてもらった。14歳の女の子からのお小遣いにしては随分と多い気がするんだが……」

 

胸元から書類を持ち出し、老人に視線を向ける。それは現在も存在している蓬莱暁美の講座に関する書類であった。その資金はこの劇場に定期的に振り込まれており、今も劇場運営の資金となっていた。

 

「そうだね。私があの村から出て、見滝原に来たのは随分と前だ。あの村のイカレタ風習から逃れられると思ったのに……」

 

突然、遠くをみるように老人は古ぼけた電話を取り出した。既に回線を切っているため使用は出来ないが、この中に記録してあるメモリーだけは今も聞くことが出来る。

 

「一から始めていて、どういうわけかあの村から出られないはずの蓬莱暁美があの時の姿のままで現れたんだよ」

 

頭のおかしい話かもしれないが、あの時の衝撃は今でも忘れられない。そして、彼女は自分にいった言葉も……

 

「アンタは、魔法少女というのを知っておるかい?言っておくが、いい年をした若い者が夢中のアレのことじゃない。現実におるんだよ…言っても分からんか、今の人間は目に見える世界しか信じないからな」

 

この老人の孫娘は、かつて魔法少女だったというのだ。

 

「目に見えない世界?」

 

気になる単語であるが、老人はバドに構わず続ける。

 

「あの子は、あるお願いをしたのだよ。この劇場を立て直して欲しいと……不思議なものじゃろ、こんな寂れた劇場にいつも人が居るというのは……」

 

最初の頃は多くの来場客で賑わっていたが、時代の流れと共に劇場は形を変え古い劇場は次々と閉館していった。そんな時代に消えるしかなかったこの劇場が今でも残っているのは……

 

「お孫さんの名前を伺ってもよろしいですか?」

 

「日登美 雫。私のたった一人も孫じゃった。あの子には、味あわせたくなかったのに、どうしてだろうか?あの村だけではなく、何処もいかれておるのは人間がそういうものだろうか?」

 

「今は……」

 

「数年前から行方不明じゃ。いや……もう生きては居ないじゃろう」

 

老人は、疲れたように古びた固定電話の留守電に残されたメッセージを再生させる。

 

<おじいちゃん……ワタクシ……もう駄目みたいですわ……>

 

<円さん。もう少しだけ待っていただけますか?ワタクシの最後の身内へ残すのですから……>

 

メッセージの後に騒音、何かが激しく戦うような、ガラスが割れたような音の後に……

 

<アハハハハハ♪やったね。あ、おじいちゃん♪聞いてる?ねえ、居るんならさ、出てよ!!!お宅のお孫さんなら、さっき亡くなったばかりで、間違って川に死体を落としちゃったよ>

 

<ねえ、聞いてる?聞いてる?もしもし?もしも~~し>

 

その後を聞きたくなかったのか、再生を中断させた。老人の表情は暗く、それでいて何か納得できないようだった。

 

「なぁ、この子達は何様のつもりで蓬莱暁美に攻撃をしたんじゃろうか?孫が得体の知れないモノに手を出したのは自業自得じゃが、あの子たちにはあの子達なりの正義を持っておった」

 

”たとえ、因果応報でも”を付け加え、老人は席を立った。

 

「お前も身内に魔法少女が居るんなら、中途半端な覚悟で関わるのならやめておけ。中途半端な正義感で蓬莱暁美を下した結果が今の見滝原じゃからな」

 

老人は吐き捨て、

 

「今はもう蓬莱暁美は居らんが、彼女の墓だけは荒さんでくれよ。眠っている亡霊を叩き起こして良いことなんぞないからな」

 

バドにある場所の地図を差し出した。そこは、かつて”バブル”と呼ばれていた時代に見滝原で最も栄えていたある場所だった。そこは、数日前に美樹さやかの父親である総一郎が訪れていた場所であったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 時刻は放課後であり、真冬ほどではないが肌寒く感じる風を頬に感じながら、人を探していた。

 

「ったく……マミの奴何処をほっつき歩いているんだよ」

 

「ソウ言うもんじゃないよ。杏子、事情があって街を離れているという可能性も否定できないんじゃないのかな?」

 

杏子の腕に付いているのは、伯父が契約している魔導具である”ナダサ”である。何かあったときにという理由で伯父からもたされているのだ。

 

「ほむらのことを言ってんのか?暫く街を離れるからマミに見滝原を任せているんだろ、そんなマミが黙って街を離れるわけがない。何かあったんだ」

 

杏子は、少し前に出会った暁美ほむらの事を思い出していた。ポートシティーから戻った夜、青い光を発する蝶の使い魔を従える彼女と出会ったのだ。

 

『なあ、伯父さん。あれって?』

 

『ああ、珍しいな。使い魔だ。それも魔戒導師の……』

 

サイドカーにのり何となく空を見上げてみれば、見滝原の空を一匹の青い蝶が何処かへ向かっているのだった。

 

『魔戒導師?』

 

『今の時代にはほとんど居ないが、未来を予期することの出来る存在だが…最後の一人が居なくなってから、もう数年は経つな』

 

青い蝶は歩道橋の上に居る黒い髪が特徴的な少女の指先に止まった。その少女を見かけたバド、杏子の二人はサイドカーを近くに止め、その少女の下へと急いだ。

 

『あの子って、伯父さんの知ってる子?」

 

『いや、知らないが……あの子に良く似た人は知っている』

 

この時のバドは、遠めに見た少女 暁美ほむらの容姿は、今自分がちょっかいを出しているあの男が最も大切にしている”人物”に良く似ていたのだったから……

 

『お~いっ!!アンタっ!!!お~いっ!!』

 

杏子は思わず声を上げてしまった。理由はいうまでもなく、見滝原で出会った初めての”魔戒”の関係者なのだ。個人的に興味は尽きないし、話も聞いてみたいのだ。

 

『そうだな。杏子ちゃん。鳴り札をあの子に向けてくれるかい?もしくは・・・・・・』

 

『分かっているよ♪伯父さん』

 

杏子は袖から淡く輝く金魚に似た生き物を歩道橋の上に佇む少女 ほむらに対して放った。

 

放たれた生き物は、ほむらの前に躍り出るように現れ、彼女もその意図を察したのだ。

 

『そういうことね。分かったわ、近くにあなた達のバイクが止められる所があるから、そちらで会いましょう』

 

ほむらもまた、自身の使いである蝶に伝言を載せて杏子達と合流を果たすのだった。

 

『魔法少女で魔戒導師見習いって……アタシと同じかよ』

 

『……まあ、そんなところかしら』

 

杏子とバド、ほむらは近くのファミリーレストランの前に来ていた。杏子からみたほむらの第一印象はそれほど悪くはなかった。

 

むしろ親近感すら抱いていた。理由はいうまでもなく、自分と同じ境遇、同じ立ち位置にいる少女と出会うのは初めてだった。

 

伯父との付き合いで、出会う同業者”魔戒関連”の者のほとんどは、自分よりもずっと歳を経ている者ばかりだったからだ。

 

『へぇ~~。その衣装って法衣だよな。邪美に似てるけど、向こうと比べたらおとなしいな』

 

『……あの…あまりじろじろ見ないで欲しいのだけれど……』

 

『あ、ごめんよ。法衣を着ていて魔法少女ってことは、相当この業界に入れ込んでるってことだよな』

 

『えぇ、つい最近ね。彼とその従者に就いているわ』

 

ほむらは、素直に”魔戒”に関わったのは、ここ最近であることを明かした。嘘をついて魔戒騎士、法師の家系と偽るほど図太く振舞うつもりはなかったのだ。

 

『あんたは……っと』

 

『暁美ほむらよ。アナタは、佐倉杏子で良かったかしら?貴女の事は美樹さんから伺っているわ』

 

自己紹介がまだだったので、ほむらは自身の名前を杏子に明かした。さらには、自分が美樹さやかと顔見知りであることも伝えて……

 

『な、なんだって!?!さ、さやかが契約をしたっ!!!?』

 

自分が離れている間にとんでもないことになっていたことに杏子は驚きの声を上げた。

 

『えぇ、幼馴染の男の子の手を治そうと……インキュベーターと契約を交わした』

 

ほむらから、自分が居ない間の見滝原で起きたことを大まかに聞き、さらには……

 

『巴さんは、今ワルプルギスの夜に向けて動き出している。私も参戦するけど、どうしても手が足りないの。貴女にも……』

 

『で、でもさ……アタシはマミに…』

 

拒絶されていることに後ろめたさを感じるのか、いつもの彼女らしからぬ歯切れの悪さである。

 

『巴さんは心のそこから貴女を嫌っているわけではないわ。ただ、彼女もベテランの魔法少女ではなく、一人の人間だという事を分かってあげて』

 

巴マミとの付き合いならば、ほむらよりも杏子の方が長く、よく理解しているだろう。だが、人というものはただ付き合いが長いというだけでは理解は出来ない。

 

そのことをおぼろげながら、ほむらは理解しているが、それを本当の意味で解ってはいなかった。

 

『そ、そうかい?じゃあ、アタシも近いうちに顔を出すよ』

 

『そうだね。そのときは俺も一緒に行こう。できれば、ほむらちゃんも着てくれると話がスムーズに進みそうで助かるんだが……』

 

ここでバドが二人の会話に入った。今まで魔法少女の会話に入らなかったのは、自分が不用意に立ち入っては駄目だと判断していたからだ。

 

『そうですね。私も橋渡しになりたいのですが、話を強引に進めては巴さんを傷つけてしまいます。私は三日後に戻りますのでその時に……』

 

『三日後って?何処に行くんだよ』

 

『アスナロ市です。そこに大物の使徒ホラーが現れたので、一緒に居る者とそこに行かなくてはならないのです』

 

”一緒に居る者”という単語の時に表情が引きつっているのを杏子は見た。

 

『なあ、アンタ…ほむらと一緒に居るのは伯父さんと同じ魔戒騎士だよな?なんか、凄く嫌そうな顔をしてたけど』

 

『………別に……アイツを見張ってないと何かしらあったら、後悔しても遅いのよ』

 

手のかかる身内に苦言するさまであるが、実際は自分等がどうあがいても勝てる相手ではないことはほむら自身よく分かっている。

 

だからと言って、大人しく従うつもりもないし、言いなりになるつもりも無かった。ほむらの様子にバドは”くくっ”と笑い、”程々にな”と付け加えていた。

 

『それで君は、杏子ちゃんと俺のように魔戒騎士の家系でもないのに、どうして魔戒の技術を学ぼうとしているんだ?それに魔法少女の契約まで……』

 

”何者にも勝る力”それこそが、自身の奪われたモノを取り戻す物であるのではなかろうか?その理想に近い存在は、彼女 ほむらの傍に居り、自身の同類であることへの同族嫌悪、

 

そして、無敵としか言えない彼の凄まじいまでの”闇の力”に対しての僅かな憧れ……

 

『………私は誰かの為とか、正しいこと等を言うつもりはありません。ただ自分自身が憎いだけです。弱くて、何も出来ずに愛しい人を失う。そんな自分を抹殺したくて仕方が無いんでしょうね』

 

自身への嫌悪にも似たほむらの言葉に杏子は思わず息を呑んでしまうが、バドはこの少女といま彼がちょっかいを掛けている男の姿が重なったのだ。

 

《だからこそ、バラゴと一緒に居るのか?自分と同じ人間を見つけてどうするつもりだ?》

 

その疑問を彼は口には出さなかった。そこに不用意に踏み込んでは駄目なのだ。彼女自身の意思を強制するようなことは、たとえ身内でも許されることではない。

 

『それでは、三日後に佐倉さん。大変かもしれないけど美樹さんの事をよろしくお願いします』

 

頭を下げ、ほむらはアスナロ市へ向かうべく駅のほうへと歩みを進めていった。

 

『あ、あぁ……』

 

去っていたほむらに対し、杏子はただ見送ることしか出来なかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ほむらもややこしい奴なんだけど、悪い奴じゃ~ないんだよな)

 

さやかのこととマミに対して気を使ってくれるところは、ありがたく、同じ魔戒のモノとしては個人的には仲良くしておきたいのだが……

 

(あの自分自身を抹殺したいってのは、どうにかならないかな)

 

魔法少女ではあったのだが、最近になって魔戒導師の術を学びだしたのは、強い力を欲しているためだ。確か、魔戒騎士の逸れ者になる者のほとんどが強い力を欲することから始まるのだ。

 

自分ではどうにか、ならないかもしれないが、マミと一緒なら何とかほむらの助けになるのではと杏子は考えていた。

 

杏子はマミが如何なる魔法少女であるかは、自信を持って述べることが出来ると自負している。

 

魔法少女としての”師”であり、”友人”でもあった彼女は、魔法少女の中では一番良識がある部類だと考えている。キュウベえですらもその辺りは認めている。

 

正義感が強く、道徳、倫理もあるのだが、自分を必要以上に追い詰めてしまう傾向があり、魔法も自分の為であることに目を背けており、他人の為に使わなければならないことを自分に強要している風にさえ見えるのだ。

 

(……だから、反発したアタシはマミに拒絶されたんだ)

 

誰かの為に魔法を使うことを主張した時は、穏便に話をしていたが、次第にヒートアップをしていき互いに魔法を使って傷つけあうに至ってしまったのだ。

 

「OK。杏子の事情は良くわかるよ。信用をGETできるのは、難しいかもしれないけど、気長にやって行こうじゃないか。それにマミちゃんは君の先生だったんだよね。だから無事で居るさ」

 

「気持ちだけは受け取っておくぜ。ナダサ」

 

杏子は内心、マミが魔女、もしくはホラーにやられてしまったのではと考えたが、マミが死んだのならキュウベえ辺りが他の魔法少女を見滝原に呼び込もうとするだろう。

 

恐ろしく邪悪な魔法少女がアスナロで消息を断ったという噂を耳にしていたが、その辺りの事をほむらに伝えてあげるべきだっただろうかと今更ながら後悔の念を感じてしまう。

 

とは言っても、以前見滝原で活動をしていた”蓬莱暁美”ほどではないだろう。

 

他の魔法少女の気配は無く、見滝原は異様な雰囲気に包まれている。普段と変わらない街の光景であるが、言い表すことの出来ない違和感を覚えてしまうのだ。

 

特にキュウベえの動きが無く、時折、観察をする様にこちらを見ているあの纏わりつくような視線が鬱陶しかった。

 

「そういえば、伯父さん言ってたよな。見滝原は異常に陰我が多いから気をつけろって……」

 

見滝原は魔法少女の狩場としては最高の場所であると言われている。魔女が他の街と比べて異様に多いのだ。

 

風見野にも魔女はそれなりに居るが、見滝原と比べれ多くはない。何故、ここまで魔女が多いのだろうか?見滝原に大きな陰我があるのは何故なのか?

 

伯父も”蓬莱暁美”の事を気にしていた為、見滝原の陰我の中心にいたのは彼女であるのはほぼ間違いないかもしれない。

 

「伯父さんはそれを調べに行くって言ったけど……って……ん?」

 

杏子は人混みの中に見知った顔というよりも記憶の中に何となく憶えているといった人物を見かけたのだ。

 

「アイツ、マミの隣に居た奴だよな?」

 

記憶の中にあるのは、マミとコンビと組んでいた時の道中、何だか近くで女と一緒に居るのを見た事があった。見かけるたびに女が違うことに杏子は内心、軽蔑に似た感情を抱いていた。

 

「ま~~た。別の女のところに行ってるのかよ。お盛んなことで……」

 

「杏子。そういうのは、あまり口にはしないようにLeadyとしてはしたないよ」

 

「別に……あんな女たらしに言葉の汚い綺麗はどうでもいいだろ……それよりもさ。アイツってさ、陰我ってあるの?」

 

「ん~~~っ、確かに男と女がらみならそういう陰我というのはあるね。だけど、あの青年自体に陰我は……ないけど……」

 

黙ったナダサに対し、杏子は

 

「なんだよ?あるのかないのか、ハッキリしろよ」

 

「長いことホラーは見てきたけど、あそこまで恨みを引き連れている人間は現代でもそうそういないよ」

 

「あん?やっぱり、女で災難に遭ってるのか?」

 

思わず笑ってしまう杏子であったが、ナダサがあの青年から感じたそれは非常に危うい物だった。ホラーは陰我より現れる。それは自然界に存在する邪悪なものであり、人の悪しき心が陰我を招くのだが……

 

ナダサが見たあの青年には邪念は無かった。純粋に何かを求めて、一度火がつくとそれに向かっていくだけのある意味純粋な存在に近い。だが、そんな彼の影に隠れるように、絡みつくようにいくつモノ女の顔が…

 

いくつもの女の怨念が絡み合い、あの青年に迫ろうとしていたのだから………

 

古の時代、多くの女性達に言い寄られながらもそれに応えることなく、その想いを呪いに変化させ、魔物に変えてしまった言い伝えが存在している。                                                                             

 

「はは、じゃあろくな死に方しないってことかよ。まさかマミの奴…あ、でもそれは無いか……」

 

内心、マミがあの青年に何かされたのではと考えたのだが、普通の少女のマミならば可能性はあったかもしれないが、魔法少女としてのマミならばそんなことはありえないだろうと考え、人探しを続けるのだった。

 

”魔法少女としてのマミ”に対する盲目的な信頼……この時間軸で彼女と接した暁美ほむらが内心危惧したことであるが、その危惧が他の魔法少女たちは察していなかった。暁美ほむらも例外ではない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柾尾 優太は、足早に見滝原の住宅地に足を踏み入れていた。普段と違い落ち着きの無い様子であった。

 

大切なモノをなくし、それを必死に探しているように見える。事実、何人かの人間が彼に声を掛けたのだが、その度に

 

『話しかけるな!!!!今、僕は、忙しいんだ!!!!』

 

声を掛けてきた人たちを怒鳴りつけ、場合によっては突き飛ばすなど、普段の彼を知る人が見れば明らかに様子がおかしかった。

 

やがて彼は、ある住宅の前にたどり着いた。表札には ”上条”と書かれていた。

 

美樹 さやかの願いにより、手を取り戻した少年 上条 恭介の自宅であり、今もヴァイオリンの練習をしていた。

 

閑静な住宅街に響くヴァイオリンの音は、複数にあり一つは彼自身の演奏であり、もう一つはカセットテープに録音された”蓬莱暁美”のモノだった。

 

「あぁっ!?!暁美だ!!!暁美の演奏だ!!!!」

 

居ても立ってもいられず、彼は上条恭介の家の敷地内へと呼び鈴を鳴らさずに入っていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 庭に入り込んだ彼は、演奏の音源を捜すべく勝手に徘徊を始めた。その都度、この家の住人の趣味であるガーデニングを施された庭の花を踏み荒らしていくが、特に気にすることも無かった。

 

彼の求める物は1階ではなく2階にあるらしく、何としても家に入らなければならなかった。

 

「あ、アナタはっ!?!だ、誰ですか!?!勝手に人の家の庭に……」

 

声を上げたのは、上条 恭介の母親だった。その手には電話が握られており、警察に突き出すつもりだったが……

 

彼は感情の篭らない目で見据え、警察にいる自分の協力者から奪った”拳銃”を突き出し……

 

驚く間もなく上条婦人の視界が安定し鈍い音と共に庭に倒れた……住宅街に銃声が響いたのだが、時間が時間の為か誰もそのことに気がつかなかったが、

 

「な、何なんだい?銃声?それも僕の家の……1階からだって……」

 

恭介は突然の事態に対して恐怖を感じていた。言うまでも無くいきなり非日常的な銃声が自身の近くで聞こえてきたのだ。

 

何かしらの事件に自分が巻き込まれたのではと考え、最悪な結末が脳裏に過ぎった。

 

「冗談じゃないよ……お金なら上げるから僕から”お姉さん”だけは奪わないでくれ……」

 

ヴァイオリンを乱雑ではあるがケースに押し込み、数日前に治ったばかりの自身の右手を大切そうに押さえ込み、恭介は祈った。このまま何事も無く災厄が過ぎることを……

 

だが、災厄は過ぎるどころか着実に彼 上条恭介の元に近づこうとしていた。

 

柾尾 優太は、ガラスを割りそのまま土足で上条家のリビングに上がった。リビングは婦人の趣味なのか北欧を思わせる家具で統一されているが、彼にとってはリビング等どうでもよかった。

 

リビングで彼は思わず目を見開いた。家族や旅行を行った際に撮影されたであろう写真の中に彼が求めていた”彼女”が居たのだ。

 

「暁美っ!!!」

 

その写真は、上条家の人と美樹さやか、蓬莱暁美が写っている物だった。何処かのスタジオのようだが、その場所を彼は知らない。

 

柾尾 優太は、鞄から鋏を取り出し写真の蓬莱暁美のみを切り出し、他の部分は不要と言わんばかりに捨てた。

 

「暁美……僕の蓬莱暁美………」

 

普段の物静かな彼を知る人からしてみれば異様な光景だった。彼は笑っていたのだ……光悦としており、愛おしそうに切り取った蓬莱暁美を眺めていた。

 

二階からは、彼女 蓬莱暁美が演奏していた物を記録したカセットが流れていたが急に止まってしまった。

 

上条恭介が強制的に機器を止めたのだ。そして彼は、部屋の中に立てかけてあった金属バットを掴んでいた。

 

「来るなら来い!!!!お姉さんを奪われてたまるか!!!!」

 

音楽が聞こえて来なくなったことに柾尾 優太の表情は不機嫌さを強くしていた。

 

「誰だ?お前なんかがどうして僕の蓬莱暁美と一緒にいるんだ?僕だけだ……蓬莱暁美は僕の……僕の……」

 

自身の中に渦巻く”何か”に心地良さを感じながら、柾尾 優太は階段を上がり上条恭介の部屋の前に立った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上がってきた侵入者に対し、上条恭介は金属バットを入り口の前で構えていた。

 

(……さぁ来い!!!!)

 

心の内の言葉に呼応するかのように引き戸から何処と無く見覚えのある青年が顔を出した。その青年は……

 

(あっ!?!この人はお姉さんに纏わり付いていた!?!)

 

恐ろしい何者に対する恐怖心に対し金属バットを握っていたが、彼の中の感情に黒い物が過ぎった。青年がこちらに顔を向けたと同時に感情の篭らないガラス玉のような目が自身の目と交差した。

 

上条恭介の感情に過ぎったのは”不快感”であった。かつて幼い頃に慕っていた”お姉さん”に唯一の不満はこの”人形”のような青年と交際をしていたことだった。

 

なんどもどうしてと、問い詰めたが、”お姉さん”は聞く耳を持ってくれなかった。お姉さんとの演奏は自分との大切な時間なのに、どうしてこの”人形”にまで時間を割くのかと……

 

途端に彼は、容赦なく柾尾 優太の頭部に鈍い音を立てて金属バットを振りかざしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 視界が大きく揺れるのを感じながら柾尾 優太は目の前の少年の目に対し、”不愉快”なモノを感じていた。必死になって自分を排除しようと大切な人から引き離そうとしていたあの一家と同じ目を少年はしていたのだ。

 

逆に上条恭介の表情は光悦としていた。目障りとおもっていたこの青年を自身の手で排除できるからだ。

 

(僕とお姉さんの演奏は誰にも邪魔させないぞ!!!!出て行け!!!!僕の前から!!!!)

 

さらに容赦なく彼は青年に対して金属バットでその頭部を叩きつけようと振りかざすが……赤く充血した目を交差したと同時に右腕に激しい痛みが走った。その瞬間先ほど聞いた銃声が同時に部屋の中を木霊した。

 

青年の顔ばかり見ていたが、彼が拳銃を所持していることに気がつかなかったのだ。その拳銃が自身に向けられており、右腕が手首からねじ切れるように弾け飛んでいた。

 

「うっうわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!僕の腕が!!!!!僕の腕がぁあああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

数日前に奇跡が起きたことと目の前で起きたことが信じられないのか上条恭介はパニックを起こしていた。

 

「お姉さんが!!!!お姉さんが!!!!!!よくもぉおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

パニックを起こし、柾尾 優太に向かっていくが今度は腹部に衝撃が走りさらには、肩を打ち抜かれたと同時に背後の窓が割れ、彼はそのまま2階から下の庭へと落ちていってしまった……

 

普段ならば、柾尾 優太は観察を行うところだが、彼は部屋の中にあるカセットのプレーヤーから一本のカセットを見つけ確認の為再生を行う。

 

「あぁあああああああっ!!!!!暁美!!!!君は、ここに居たんだね」

 

つい久方ぶりだろうか、柾尾 優太の目に涙が浮かんだ。

 

「君のおかげだ!!!僕の心が!!!!心が!!!!甦ったんだ!!!!僕は人形なんかじゃないんだ!!!!」

 

上条恭介が自分を出来損ないの人形を見ているあの目は、幼少の頃から他の人間が自分を見る目だった。だが、彼女だけは自分を見てくれた。なんと素晴らしいのだろうと彼は、心から信じても居ない神に感謝した。

 

赤く染まった夕焼けに反射した窓ガラスに写ったのは、真っ黒い穴から奇妙な液体を流す木彫りの人形だった……

 

人形は、かつて自分が慕った少女が写る写真をもう一枚切り取った。そして切り取られた写真には右腕が無い少年のそれだげが落ちて行った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 歓喜に震える人形は家を飛び出した。そして声高に叫んだ。

 

「僕は人形なんかじゃない!!!!!!心ある人間なんだ!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予告

 

私は、人間なの?この身体は…なんだというの?

 

アナタ達には、心が無いの?どうしてこんなことが?

 

なのにアナタは…キュウベえ……どうして笑っていられるの?

 

呀 暗黒騎士異聞 第弐拾参話「化 生」

 

美樹さん!!?!やめなさい!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャラ語りと補足

 

 

上条 恭介

 

今更でありますが、彼について私なりの解釈を語りたいと思います。所謂 音楽を大事にする男であり、まどマギの製作の方々曰く、もしさやかと一緒になっても幸せにはなれないだろうと言われて居ます(汗)

 

彼については、さやかがかなり大損してしまい、彼の為に色々と尽くしたんだけれど報われなかったというのが本編なんですよね。

 

さやかは、正直彼に構いすぎな感じがあります。何となくですが余計なことをしてしまったのではと思わなくも無いです。もしくは、願いを叶えればというさやかの打算的な部分もあったりすると

 

どっちもどっちに見えてしまいます。

 

新編でも仁美に寂しい思いをさせていたり、本人はそのことを特に気にすることなくヴァイオリンに打ち込んでいるところを見ると彼に、恋愛はまだ早かったのではと思わなくも無かったです。

 

むしろ周りが少しせかしていたようにも見えました。特にアンチというわけではないのですが、傍から見ると酷い男だったなと(笑)思わなくも無いです。

 

こちらでは、音楽に関してはかなりの執着を持っていて、蓬莱暁美の演奏に対して強い執着を持っていたという具合です。彼女自身ではなく大事なのは彼女の演奏です。

 

仮に蓬莱暁美が事情でヴァイオリンが弾けなくなったら見向きもしなくなります。ちなみにですが彼はまだ生きています……

 

 





次回は、見滝原の魔法少女達が大いに荒れます。

ちなみに主役達はよその町にいますので、次回共に出番はありません(笑)

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