呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝)   作:navaho

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今回の時間軸ではちょくちょく”ニルヴァーナ事件”というワードが出てきますが、この辺りで詳細を出します。

原作キャラもこの件には関わっており、別の拙作には当時の事を書いています。






第弐拾六話「上条 恭介 後編 壱」

 

早乙女 和子の朝は早い。彼女自身の職業である教師も関係しているが、朝が早いというよりも眠りが単純に浅いのである。過去に遭ったある”事件”により、大切な人を失い、というよりも奪われてしまった為、精神が若干不安定になっているのである。

 

寝室のベッドのサイドボードには、自身の恋人である”鈴原 トウヤ”と一緒に写った写真と彼の遺品である”渡されることが叶わなかった婚約指輪”が置かれていた。

 

ベッドから降りる際に必ず彼女は一度、”指輪”に手を通す。暫くしてから、それを外して身支度に入る。

 

スマートフォンには何時ものごとく実家より見合いの連絡が来ており、両親の顔を立てる為、お見合いをし、互いを理解するためにお付き合いをするのだが、自分がこのような感じというよりも”本来の自分”を曝け出してしまうことで相手が逃げてしまうということを続けている。

 

おかげで生徒達との話題には困らないので、可能な限りこれからも続けていくだろう・・・・・・

 

朝のニュースをチェックする為にテレビをつけると見滝原の隣の町である風見野にある施設が近日中に取り壊されることが報道されていた。

 

映し出された施設を見て和子は思わず目を見開いた。そう彼女にとって今も自身を苦しめる忌まわしき”事件”の象徴ともいえる”ニルヴァーナの本部施設”であったからだ・・・・・・

 

『今月末にニルヴァーナの本部施設は解体される予定です。住民からは早期の撤去を求められていましたが、市議会によりようやく決定されました。この施設に関連してニルヴァーナ関連の裁判では、幹部、関連者は現在逃亡中の一人を除いて進行しています・・・・・・』

 

流れてくる報道に和子は心臓の鼓動と精神が異様に高ぶるのを感じながら、常備していた精神安定剤に手を出しそれを服用する。本来ならば、朝の食事前に服用すればよいのだが、万が一に備えて強いストレスや精神的な高ぶりを感じたら服用するようにと渡されたものだった。

 

(・・・・・・あの事件からもう数年ね。事件は終わってはいないわ・・・だって、まだ私の中では・・・)

 

自分は直接この事件に関わったわけではないが、過去に”ニルヴァーナ”の危険性と重大な違法行為が行われていたことを突き止めようとしていた想い人である”鈴原 トウヤ”の死は明らかに他殺であるのに、今も”事故死”として扱われているのだから・・・・・・

 

”鈴原 トウヤ”の友人である”報道記者”も”ニルヴァーナ”が違法行為を行っていた背景には、”警察機関”に回し者が居て”事件”の証拠を揉み消しているのだと言っていた。

 

今も”鈴原 トウヤ”の件が”事故死”なのは、自身の罪が公になるのを恐れている存在が今も何処かで隠れているということなのだろう。友人の報道記者はその誰かを突き止めていたが、2年前に謎の”失踪”を遂げている。

 

想い人の事件の真実が明るみに出るまでは、彼女の中では”ニルヴァーナ事件”は過去の出来事ではなく、今もなお進行形のできごとである・・・・・・

 

和子は精神衛生上あまりよろしくはないが、”鈴原トウヤ”が残した記録と友人である”相原 ケンスケ”が残した情報に少しだけ目を通すことにした。

 

遺品として彼女が引き取ったもののそれらを目にする、手に取ったことはほとんどなかった。

 

”相原 ケンスケ”が残した情報には、過去に見滝原で起こった”暁美 ドウゲン氏 殺害事件”についてだった。”暁美”という名字が今更ながら気になったからだ。

 

そして”ドウゲン氏の孫娘が誘拐され、ニルヴァーナの本部施設で保護された”。

 

もしかしたら、彼女なら自身の恋人を奪った”犯人”を見ているのではと考えた。

 

年齢から察すると自身の生徒達と同じ年齢である。

 

保護された少女の名は ”暁美 ほむら”

 

そう、自身のクラスに佐倉杏子と共に転校してくる少女だった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

見滝原中学校

 

ホームルームを終え、クラス全体が和やかな雰囲気になり、授業の準備を行ったり、またグループ同士が集まって思い思いに過ごしていた。

 

杏子とさやかも直ぐに集まり、雑談などをしていたのだが、そこへクラス委員長である 中沢 ゆうきが近づいてきた。

 

「美樹さん・・・今日、鹿目さんはいつもの定期健診だけど、志築さんはどうしたの?今日の休みの理由が先生も分からないって言ってたけど」

 

普段、あまり話すこともないのだがクラス委員長の仕事は割とまめに行うため、クラス全体からの信用は高い。

 

「あぁ~~、仁美ね・・・ちょっと、訳アリみたいなんだ・・・・・・」

 

歯切れの悪い言葉を返すさやかに対し、中沢 ゆうきはこれは聞かない方が良いかもしれないと思い

 

「ここのところ色々あったからね。分からないなら、それで大丈夫だよ」

 

席に戻った中沢 ゆうきはクラス日誌に本日の欠席者を三名 書き込んだ。

 

 

 

 

 

 

鹿目まどか 定期健診の為 欠席

 

志築仁美  理由分からず。

 

上条恭介  理由分からず。

 

 

 

 

 

 

 

中沢ゆうきが上条恭介の事をさやかに聞かなかったのは、彼自身が聞くべきではないと判断したからだった。

 

今朝のニュースもそうだが、スマートフォンのニュースには彼の父親が経営する ミュージックスクールで謎の爆発事故があったからだった・・・・・・

 

そして、念の為、彼自身は入院していた上条恭介の事を病院に確認したら、昨晩より行方不明になっていたことが分かったからだった・・・・・・

 

この事実を知ったとき、中沢 ゆうきは何か”とんでもない事態”がやはり上条恭介自身に起こっているのではと考えるが、それは”関わってはいけない何か”なのは間違いないであろう・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

何処かのとある魔女の結界にて・・・・・・

 

 

どこあの水族館を思わせる迷宮とさらには、コンサートホールを思わせるステージに上条恭介こと、ホラーミューゼフは居た。観客席にはこの結界の主である”人魚の魔女”が座している。

 

この結界より”陰我”を発生させ、魔界に存在する自身の仲間を集めようと思案していた。

 

だが、ホラー ミューゼフはこの”人魚の魔女”が自分を慕う理由を把握しかねていたのだ。

 

言うまでもなく、無言で自身を助けてくれ、さらにはこの結界には憑依した”上条恭介”の望むモノ、嗜好に合ったものが多く存在するのだ。

 

正体こそは、気になるがこの”魔女”は”音楽”に理解を持っているので同好の士として迎え入れても構わないと考えていた。

 

一刻も早く仲間を魔界から呼び寄せてコンサートを開きたいと願っていた・・・・・・

 

時折、自身が憑依した上条恭介の”魂”が何やら嘆いているのだが、ホラーとしてはいつもの事なのだから気にするまでもなかった。

 

ホラー ミューゼフは”上条恭介の魂”が嘆く時、”人魚の魔女”が睨むような視線を向けることに気が付いていなかった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原中学校 四限目 社会科

 

「皆さんもは、今朝のニュースを見ましたか。いよいよ風見野市に存在する カルト組織”ニルヴァーナ”の本部施設がいよいよ解体されることになりました」

 

電子掲示板へ自身の端末より画像をダウンロードさせる。そこには特徴的な三角形の105階建ての巨大建築物があった。画像の建物は、柵や有刺鉄線により完全に封鎖されていた。

 

その建物に杏子は見覚えがあった。幼い頃に自身の家族を不安にさせた”カルト組織”の総本山だったからだ。

 

(いつみても嫌な建物だ・・・・・・あそこだけは絶対に近づきたくないんだよな・・・・・・)

 

魔法少女となり伯父と再会するまで、宿無しの放浪暮らしこそはしていたが、あの建物だけには死んだとしても入りたくはなかった。

 

”ニルヴァーナ”が組織として活発に動いていた頃は、人嫌いを滅多にしない”杏子の父”ですら、立ち退きの運動に参加しており、”ニルヴァーナ”から脱走してきた人達を教会に保護していた。

 

あの時、逃げ込んできた人達のほとんどが生気のない顔をしており、”ニルヴァーナ”で何が起きたのかを話そうとしなかった。体中の至る所に薬物を注入したであろう傷やさらには手術をしたで思われる傷まであった。

 

保護して親元や家族の元へ帰れたら良かったのだが、逃げ出したほとんどの人間が何らかの拒絶反応を起こして死亡するという異常な事態を杏子は幼い頃に見てしまい、それから数日は死んだ人の顔が夢に出てくるなど悪夢にうなされてしまった。

 

この異常な事態に”杏子の父”も教会を避難場所にすることを拒否した。苦痛に満ちていたが、家族への悪影響を懸念した為であった・・・・・・

 

(思い出しただけでも嫌な事件だ・・・アタシもあの事件で死んだ奴を間近で見たんだよな・・・・・・アイツらが何をやったかって知りたくもない)

 

教師から回されたプリントには、当時の事件についての大まかな概要が記載されていた。

 

杏子が知りたくもないことを知らせようと教卓に立つ教師は声を上げて授業を始めた・・・・・・

 

クラスメイトは神妙な顔でプリントを見ており、二人ほど顔色を青くしていた人物が二人居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

一人は 美樹さやかであった。

 

(・・・・・・あの気持ちの悪い女の人だ・・・この人、昔、お父さんが熱心に信仰していたんだよね)

 

”ニルヴァーナ”組織のトップである 錨 ユラ。顔立ちこそは整っている年齢の割には、かなり若い外見をしているのだが妙に生理的な気持ち悪さを感じる目をしているのだ。

 

さやかも幼少の頃に”ニルヴァーナ”の施設に連れられたことがあり、このトップの女性に会ったことがあり、気持ち悪さだけを感じていた。彼女を神聖視していた当時の”父親”には心底呆れていたことを思い返していた。

 

父親のあまりの”ニルヴァーナ信仰”に耐えられなくなり、家を飛び出し、姉である蓬莱暁美と出会ったことは、彼女にとっては唯一の温かい記憶一つだった・・・・・・

 

気が付けばいつの間にか”ニルヴァーナ組織”は謎の崩壊を遂げており、あの父親が普通になっていたことは心底驚いてしまったことに姉は苦笑いを浮かべて家族の間を取り持ってくれた。

 

あの組織が何をしていたかまでは詳しくは知らないが、恐ろしい”何か”をしていたことだけは分かっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

プリントに記載されている”ニルヴァーナ事件”は、現代で”人体実験”を行っていた団体であり、”人類の進化”の名のもとに多くの犠牲者を出した戦後最悪の事件であったと・・・・・・

 

この事件は、様々な製薬企業もまた認定を受けていない薬物の実験を”ニルヴァーナ”と提携し行っていたことも連日報道され、現代の悪魔の飽食とも呼ばれ、関わっていた一部の政治家への追及もされていた。

 

この時、多くの”ニルヴァーナ”に関わった企業、政治家を断罪し特別法、被害者への救済を呼び掛けたのは

 

三国 光一議員が中心となっていた。後年、三国 光一議員は汚職議員として報道されることになるのは、当時の情勢には何も関係のない事であった。

 

また、この事件は不可解な点を幾つも残しているが、その中でも最大の謎が・・・・・・

 

実験に掛けられたのは何故か10代前半 第二次成長期の少女がほとんどであることだった・・・

 

そして、錨 ユラは日本の最高学府を卒業するほどの才女であったが、どういう訳か”魔法少女”の話題をたびたび話していたことだった。さらには、魔法少女関連のグッズやキャラクター等をコレクションしていたこともあってか、錨ユラの影響もあり”魔法少女”モノは非難の対象となり、数年間はメディアに上がることはなかった・・・

 

彼女は”魔法少女が存在している”と度々主張していた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

(・・・・・・10代前半って、アタシ達ぐらいの年齢だよな・・・・・・)

 

教師は狂った人間の戯言であり、精神に異常のある人間の考えることは理解できないと熱弁を振るっていたが、杏子は”ニルヴァーナ”の 錨 ユラが人体実験を行っていたのは人工的に魔法少女を生み出そうとしていたのではと考えた・・・・・・

 

前例と言うよりも、魔法少女の素質がなく”願い”が叶えられないことに逆恨みしている志築仁美の姿と一瞬であるが被ったのだ・・・・・・

 

頭の出来は正直あまり良くないというのが杏子自身の評価であったが、伯父と共に”陰我”に関わるうちに”人の闇”を覗き見るうちにこのような考え方をするようになっていた・・・・・・

 

(まさか・・・この女も魔法少女の素質が無くて願いが叶えられなかったから・・・・・・)

 

幼い頃に自分の近くで起こったおぞましい事件に杏子は寒気を覚えた。やっていたことはホラーと同じ、いや、ホラー以下の”鬼畜の所業”だろう・・・・・・

 

 

 

 

 

 

二人目は、ある男子生徒だった。彼は普段、お調子者で通っていた夢見がちな少々”痛い”年頃の少年でクラスで通っていたのだが・・・・・・。

 

授業が始まってから、顔色が徐々に青ざめていた。呼吸も若干、荒くなっており、彼の脳裏に数年前に”ニルヴァーナ”の施設で発見された姉の変わり果てた姿がフラッシュバックしていた。

 

 

 

 

 

 

 

”今日は、友達と一緒に遊んでくるからね”

 

”姉ちゃん、何処へ行ったの?母さん・・・・・・”

 

”分からないわ。お父さんも探しているんだけど・・・・・・”

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・いやだ・・・いやだ・・・・・・姉ちゃん・・・姉ちゃん・・・・・」

 

地元では可愛いと評判だった自慢の姉が・・・自分をとても可愛がってくれた姉ちゃんが・・・・・・

 

”姉ちゃんが見つかったんだ!!!姉ちゃん!!!!”

 

やっとのことで再開した姉は・・・・・・人の形をしていなかった・・・・・・

 

「あああああああああああっ!!!!!!!!!!」

 

突然、少年が狂ったように叫び出したのだ。頭を押さえ、必死に何かを抑え込むように・・・・・・

 

「おい!!!大丈夫か!!!!」

 

中沢 ゆうきが急い駆け寄るが、彼は電子黒板まで走り、そのまま映し出されていた”ニルヴァーナ関連”の画像に向かって拳を叩きつけ始めた。

 

「消えろ!!!消えろ!!!消えろ!!!消えろよオオオオオオオオオ!!!!!!!!」

 

黒板を一心不乱に壊す彼に教師は、青ざめていたが、騒ぎを聞きつけた 早乙女和子が扉から入ってきた。

 

「保志君!!!どうしたんですか!!!まさか、貴方も・・・・・・」

 

生徒が突然暴れ出した原因は、生徒の机にあるプリントを見て早乙女 和子は直ぐに察した。

 

そうこの少年も自分と同じで”ニルヴァーナ事件”の被害者なのだ・・・・・・

 

おそらくは大切な家族を理不尽に奪われ、そのトラウマに今も苦しんでいるのだろう・・・・・・

 

「早乙女先生・・・一体、彼は・・・」

 

訳が分からないと訴える社会科の教師であったが、

 

「先生・・・こんど授業を行う際は注意してください。とくにニルヴァーナ事件は・・・あの事件でPTSDを患っている人はまだ見滝原に沢山いるんです」

 

一通り電子黒板を壊したことに落ち着いたのか、保志は肩で息をしていた。だが拳は血で染まっており、すぐにでも手当をしなければならなかった。

 

「保志君。私達の配慮が足りなくてごめんなさいね。保健室へ行きましょう・・・今日は鹿目さんはお休みだから・・・・・・」

 

「俺が行きます」

 

保健委員である 鹿目まどかが欠席の為、クラス委員長である 中沢 ゆうきが彼を保健室まで付き添うことにした。

 

「先生。今日は保志が落ち着いたら一緒に早退しても構いませんか?とてもじゃないけど、彼がこんな様子だと心配で・・・それにこいつ親は母親だけですから・・・・・・」

 

そのことはかつて中沢 ゆうきは保志自身から話を聞いていた。姉を探しに行った数日後に”変死体”として発見されたと・・・・・・その時の彼は、生気のない虚ろ表情をしていた・・・・・・

 

その後、授業ができるわけもなく、自習を各々過ごすことになった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

鹿目家

 

鹿目まどかは、自室で少し奇妙な気分に浸っていた。

 

(なんだか恥ずかしいな・・・わたしが生まれる前にそんなことがあったなんて・・・名づけ親の人と一緒にパパとママを助けてくれたのが杏子ちゃんの伯父さんだったなんて・・・)

 

いきなり頭を杏子の伯父であるバドこと”ナナシ”に撫でられた時はそういう年頃じゃないのにと思わなくもなかった。

 

とりあえずは予習をしておこうと思い、机に向かうのだった・・・・・・

 

今夜は一緒に食事にと父が誘っていたが、用事があるとのことで明日杏子と一緒に来るとのこと・・・・・・

 

 

 

 

 

 

ちょうどその頃、志築仁美は鹿目家の前に来ていた。自宅を隙を見て抜け出し、まどかを連れ出そうと考えていたのだ・・・・・・”上条恭介”を救うために・・・・・・

 

だが、自宅には忌まわしいあの男が居り、手が出せる状況ではなかった。

 

自分が”願い”を叶えれば、有意義なものになると信じている為、それを邪魔する存在が許せなかった・・・・・・

 

これ以上ここに居ると抜け出したことがばれてしまい、今後の動きがとりにくくなると判断し、忌々しそうに鹿目家を睨み、その場を後にするのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

保志の手は血は出ていたものの多少の切り傷出会った為、学校医が処置を行い、そのまま中沢 ゆうきと一緒に早退することになり、現在は彼の自宅に居た。

 

「大丈夫か・・・一応スポーツドリンク買っといたから、これを飲んで」

 

「悪いな・・・ゆうき。みっともないところを見せて・・・・・・」

 

ばつが悪そうに保志は、中沢 ゆうきから冷えたスポーツドリンクを受け取り、そのまま勢いよく飲んだ。

 

普段はやたらお調子者で少し”痛い”年頃の少年なのに、そんな普段の彼と違って、年齢以上に落ち着いているように見えた。

 

「べつにみっともないのはいつものことじゃないか」

 

「おい、言ってくれるなよ。俺だってな・・・まぁ、チート転生には憧れるけど・・・さすがにそこまで上手くやれる自信はないんだよな・・・・・・」

 

意外であった。”神様からチート”を貰い、異世界で無双すると言っていたのだが、その彼がそれを否定したのだ。

 

「おいおい、この間”退屈な世界から抜け出して大冒険”って言ってたのは、何処の誰だったんだ?

 

「そういう意味じゃなくて・・・俺さ、巴先輩にあわよくばお近づきになれればッて思ったんだよ」

 

「なんだ・・・そんな理由かよ。お前も年相応の男の子をやっているんだな」

 

思い返せば最近の星の好みは”痛い系”の年上のお姉さんというものだった・・・

 

なるほど、あのやり取りを見てそういうモノと思っていたんだろうか・・・・・・

 

「俺だってさ・・・普通の人間だぜ。チートなんか貰って上手くやれるのは創作物だけだ・・・実際は上手く行かないことぐらい分かるよ・・・・・・」

 

「創作物だからこそっていうのは、分かるよな。実際に町全体にゾンビが大量発生して生き残れるかと言われれば、そんな風にできるかわからないし」

 

「そうなんだよな・・・・・・それもそうだけど、上条の奴、なんで休んだんだろうな・・・まさか、異世界に行ってたりしてないだろうな」

 

「おい、あまり不謹慎な事を言うなよ」

 

保志の言葉に今現在、行方不明になっている上条恭介についてそのようなことは本人が居ないところで言うべきではないと注意するが・・・

 

「だってさ・・・アイツ、動かなかった手が動くようになって、それでまた事件に巻き込まれて手が吹き飛んだって話じゃないか・・・・・・もう、何かに呪われてるか・・・アイツ自身がそんな目に遭っているってことじゃないかな・・・」

 

「だったらどうする?助けに行くのか?」

 

保志自身も上条恭介とはほとんど話したことのなかったが、やはり彼の不幸はどうしても気になってしまうのだ。

 

「いや、辞めておくよ・・・俺にはもう母さんしか家族は居ないし・・・魔法少女みたいなファンタジーな世界なんて誘われたって、行ってやるもんか」

 

保志は何だか自分が罪人になったかのような目で中沢 ゆうきを見た。

 

「俺はそれが正しいと思うよ。保志には傍に居てあげなくちゃいけない家族が居るんだろう。だったら、そっちを優先して考えるんなら、それで良いじゃないか」

 

中沢 ゆうきの言葉に気を軽くしたのか、保志は少し笑って

 

「サンキューな。せっかくだから夕飯ぐらい食べて行けよ・・・俺が奢るからさ・・・」

 

いつの間にやら、保志の手には宅配ピザのチラシがあった。

 

友人の気持ちが落ち着いたことに安心し、その彼から奢りと言われれば断る理由はないと思い、彼らは何を注文しようかとチラシのメニューについて夢中で議論をしていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

上条恭介は、見滝原のコンサートホール前に来ていた・・・・・・

 

いよいよ今晩、この地で”魔界”より、ホラーミューゼフの仲間を呼び出すのだ・・・・・・

 

”魔戒騎士”の存在が気がかりではあるが、こちらには音楽に理解を示してくれる”人魚の魔女”が居るのだから・・・

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

過去に見滝原市、風見野市で起こった”ニルヴァーナ事件”について出してみました。

日本の歴史上最悪極まりない事件として知られており、今なお被害者が悲しみに暮れており、助けられた生存者も実験の後遺症で苦しんでいます。

傍から見ていた中沢君も最近の出来事はちょっと不可解すぎやしないかと思っています。
とは言っても彼自身に何かができるわけではなく、トラウマに苦しんでいる友人の傍に居てやることが精一杯な状況です。

ちなみに保志くんですが、やはりいた何処かで見た人(笑)
上条君の事を心配するモノの自分達に何ができることと今の日常を放棄するほどの覚悟が持てないこともあり、非日常へ関わることはありません。

和子先生もまた当時の出来事に精神的に苦しんでいます。

今更ながら、恋人を殺害した人物を目撃していたであろう人物が転校生 暁美ほむら。

暁美ほむら。本人の居ないところで大変なことになってます(笑)

ほむらも被害に遭っていますが、当時の出来事があまりにもトラウマモノなのでその辺りの記憶が抜けています。

次回はいよいよ、上条恭介編の決着に入ります!!!


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