呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝)   作:navaho

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呀の特別編です。序のみ公開、纏めて書けたら、一気に投稿したいところです。
オリキャラありだったりします。




「 呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 」
呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 序


アスナロ市某所 その場所に数人の少女達が訪れていた。

 

「これで……12人目か……」

 

「そうね。今度は絶対に希望に変えてみせる」

 

「そう……私は、あの子を取り戻すために罪を刻み続ける」

 

悲痛ともいえる表情の後、少女達はその場を後にした。そこは、数日前に一人の少女が住んでいた部屋だったのだが……

 

強大な力を持つ猛獣が暴れたかのように、滅茶苦茶にされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原 とある病院のロビーにて……

 

古い掲示板に張られている一枚の”探し人のチラシ”を一人の青年が無造作に千切った。

 

「ったく、久々に名前を聞いたと思ったら、こんな事になっているって……」

 

赤黒い毛を一束に結わえた端正な顔立ちの蒼い瞳の青年が表情を歪めた。

 

「……なぁ、ほむら。一体、何があったんだ?」

 

チラシに載っている眼鏡を掛け、三つ編みの何処にでも居る少女の写真と手元に持っている携帯電話に保存している画像に目を向けた。

 

その画像には、青年 ジン・シンロンとチラシの写真よりもずっと幼い暁美ほむらと輝かんばかりの笑みを浮かべる赤みが掛かった金髪碧眼の少女がVサインを向けていた。

 

彼は”暁美ほむら”を知っており、それなりに深い付き合いをしていたようである。

 

「ったく……これから、一旦アスナロに戻らなきゃ行けないんだよな………」

 

実を言えば、彼もまた暁美ほむらの両親同様、彼女が行方不明になったと報を受けて、アスナロから見滝原に駆けつけてきたのだ。

 

言葉を交わすことが少なくなってしまったが、彼の中では……

 

「湿気た花火みたいに落ち込むなよ……ほむら……とりあえず、酷い目には合っているが、それほどな目に合っていないってことでいいよな」

 

彼の第六感が現在のほむらの状況を察していた。この青年、一応は……

 

「まさか俺が医大生って聞いたら、どうなんだろうな~~」

 

当時のほむらが知っている自分は”馬鹿なお兄ちゃん”である。体力だけが取り柄で勉強はからっきしで、ただ勢いと常識を無視した行動で何度もほむらと”アスカ”の心臓を冷や冷やさせただろうか。

 

時を経て、そんな彼も医大生で、明日から、重要な講義があるため出席しなければならなかった。合流したほむらの両親からも、しっかりと講義は受けなさいと言われ、一旦戻ることになったのだ。

 

普段の彼ならば、講義もへったくれと言わんばかりに動くのだが……ここは仕方がないと割り切らなければならない。

 

かつての14歳のように無茶な行動は自重しなければならないのだから。

 

「………ほむら。お前はちゃんとアスカにお別れを言えたか?俺は俺なりにお前のお姉ちゃんに伝えたぞ」

 

画像を閉じ、青年 ジンは病院から背を向けて少し早めに駅へと向かって言った。時刻は既に日が傾いている。今日の夜中には、アスナロに付ける筈である…………

 

”ほむら!!!今日は、久々の外出だから張り切っていくわよ!!!!”

 

”ま、待ってください!!アスカお姉ちゃん!!!”

 

”って、お前ら、荷物全部お、俺に押し付けんな!!!ってこら、俺を置いて電車に乗るなって!!”

 

”あぁ~~~ジンお兄ちゃん。挟まってます!!車掌さんが凄い顔でこっちに来ています!!!!”

 

”馬鹿ジン!!!何やってんのよ!!!って、逃げるわよ!!!”

 

”な、なんで逃げるんですか!!?!”

 

特に理由も無く三人で騒いだ日々を思い返しながら、ジンは明日からの講義を終えたら、また見滝原に戻ろうと心に決めるのだった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市

 

突発的な豪雨の中、一人の少女が宛もなく彷徨っていた。何日も衣服を着替えていないのか、汚れと解れが目立ち、青いジーパンは元の色がわからなくなっていた。

 

「はぁ…はぁあ……はぁ……」

 

足が縺れ、目の前の水溜りに転んでしまう。口に広がる泥の味と冷たくなったアスファルトの感触に身体を大きく振るわせた。

 

冷たくなった身体がさらに凍えていくのを感じる。寒さに震えながらも少女は頭を上げた。

 

少女が居る場所は路地裏であり、目の前には傘を差した人々が行きかっている姿を少女は目に映した。

 

その少女の目は、普通の人のそれとは違っていた。何故なら、本来白い部分が黒く瞳は血を思わせる真っ赤な物だったからだ

 

「はぁ………はあ……はぁ…うぅううう……」

 

痛む身体を起き上がらせと同時に自分の手の中にある唯一の持ち物である”ソウルジェム”を見つめる。

 

そのソウルジェムは、他の魔法少女のそれとは違っていた。そう…ソウルジェムの下に”グリーフシード”の棘を思わせるモノが存在していたのだ。

 

さらに今も頭の中に響く自分を呼ぶ声に対し、精神的な頭痛が常に響いていた。

 

”ミチル”

 

「……違う……私は……貴方達の知っているミチルじゃない……」

 

ソウルジェムを胸に抱え、少女は覚束ない足取りでその場を後にするのだった……

 

「じゃあ……私は、一体誰なの?」

 

”お前は、ミチルじゃない!!!!!”

 

「勝手なことを言わないでよ……私は……じゃあ、何だというの?」

 

少女の影が大きく広がったと同時に近くに居たと思われるネズミが悲鳴を上げて息を引き取った。

 

まるでこの世に生きる”命”を呪わずには居られないほどの瘴気を放ちながら………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所は変わり、少女たちは拠点であるある場所に来ていた。

 

「で、大丈夫なの?12人目……あの子の暴走はかなりやばいって……」

 

「えぇ、私達との記憶は持っているはずなのに……今までのミチルとは違う。ミチルの記憶を持った他人なの」

 

裏切られたといわんばかりに少女は表情を歪ませた。

 

「わ、分かったよ。今度は誰がやるの?私は、もう嫌だよ……」

 

「今更、何を言っている!!!共犯の癖に!!!!」

 

怯える少女に対し、浅海 サキは叱咤した。

 

「で、でも……今度の13人目は成功させるためには12人目は殺さないといけないの?」

 

これから行うことに対して、怯えを含んだ視線を投げかけるが……

 

「………えぇ、忌まわしい事にそれを証明してくれた先輩がちゃんと私たちの為に書き残してくれましたしね」

 

御崎 海香は、鞄から一冊のファイルを取り出す。それは数ヶ月前に”見滝原”のある場所から回収したモノである。著者は 蓬莱暁美と記されている。

 

「何でも、魂というのは同一のものは二つとして存在しておらず、複数の身体を用意しても命が宿るのは一体の身体だけだと……」

 

これを証明させるために、かなりの業を行ったのは誰の目にも明らかであった。事実、自分たちもそれを行ったが……

 

「………さらには、仮に目的の人物を蘇らしても、それは決して生前の人物とは別人だと……単なる怪物」

 

狂ったように魔女や、その他の魔法少女に襲い掛かるそれは獣そのものだった。さらには、可憐な少女だったのに、醜い怪物へと変化し、最後には泥のように崩壊していく。

 

悪趣味なことにそれらを写真にまでしているのだ。

 

「そんなのっ!!!あの魔女が性悪だったから、そういう結果が出ただけじゃない!!!!」

 

浅海 サキはさらに言葉を続ける。これまでの結果は、単にヘマをしただけで次こそは巧くいくと言わんばかりに……

 

「大体、あの魔女は”インキュベーター”とつるんでたり、さらには、道徳や倫理すらない凶悪な魔法少女を多数従えたり、見滝原がああなったのは、あの魔女が何かしたって話でしょ!!!!」

 

過去に見滝原に居た魔法少女の罪状をこれでもかと述べる。まるで自分達が行っているのは、彼女達とは違う崇高なものだといわんばかりに………

 

「私達は違う!!あの日記を絶望で終わらせないために!!!!その為に私は、汚れたって構わない!!!!」

 

宣言する彼女の眼下には、クリスタル状の棺に揺らぐ少女達の姿があった。それは、かつて見滝原に存在したとされる”魔女プラント”に酷似していた……

 

だが、ここは”魔法少女という矛盾に満ちた存在に対する叛逆”の砦である。魔女プラントのような汚れたものではない。中央には色とりどりのソウルジェムが存在している。

 

「キャハハハハハハハハハ!!!!そんなの貴女の単なる自己満足で、あの子のことなんてちっとも考えていないじゃない?要らなくなったら、新しいものに?まるで……」

 

それを言い切る前にその少女の体から血飛沫が跳んだと同時に強烈な電撃が走る。

 

声の主は、ソウルジェムが置かれている台座の中央に手足を切り刻まれ、さらには、本来眼球があるところにはそれすらなかった。衣服など着せられず、身体の至る所には電流を流しやすくする為か、無数のボルトが打ち込まれていた。

 

「…アンタに喋ることを誰が何時許した?このロクデナシが……」

 

汚らわしいといわんばかりにサキは、その少女 麻須美 巴に対しさらに鞭で制裁を加えた。

 

「かぁっ!!?……まったく、少しは先輩を敬おうとは思わないのですか?」

 

表情を歪ませて憎まれ口を叩く彼女に対し、サキはさらに苛立ってしまった。海香はそんな彼女を制するように震える肩に手を掛けた。

 

「サキ……こいつに何を言っても無駄。それに蓬莱暁美とはそれなりの仲だったけれど、あの実験をやっていたのは蓬莱暁美だけで、こいつは特に関わりが無いみたい」

 

海香の視線は、サキよりも更に厳しい。”この役立たず”と言わんばかりのものであった。

 

「蓬莱さんは、私達の中でもそれなりにずば抜けていたわ。彼女の功績が後輩の役に立つなんて……友達として鼻が高いわ」

 

「最悪の友達ね。それに加担していた貴方も相当なまでに最悪な魔法少女……」

 

笑う巴に対し、海香は吐き捨てるように巴の隣に置かれているソウルジェムに視線を映した。どういうわけか、巴はこの状況にも全く絶望していないのだ。

 

それもそうだろうこの少女は、周囲に対して最悪な願いを押し付けて、魔法を得るに至ったのだ。それなりに能力は厄介だったが、蓬莱暁美の関係者として拘束し、今に至っている。

 

その過程で、絶望を希望に変える実験にも協力してもらったが、大した効果は挙げられていない。単に制裁という傷を与えただけであった。

 

先に進まない現状に苛立ちながらも次こそはと少女達は決意を新たにしてこの場を後にした。だが、少女達は気がつかなかった。ここを監視するために備え付けていた”監視カメラ”が設定とは違う動作をしていた事に……

 

”監視カメラ”に繋がれたケーブルは、部屋に備え付け得たるノートPCに、複雑なプログラムをいくつも映し出し、様々な映像を表示した。

 

カメラは中央に貼り付けられた少女に視線を向けた。同時に画面にあるプログラム名が表記される。

 

 

 

 

 

 

 

                                                 ”BAGUGI”

 

 

 

 

 

 

 

 

この文字の意味を知る者は、一部の者に限られている………

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女は誰?魔女?それとも………」

 

目が見えない巴は、独特の感覚でこの施設に訪れたモノを察していた。

 

 

 

 

 

 

 

劇場版 呀 暗黒騎士異聞  序

 

 

 

 

 

 

見滝原

 

 

 

その夜、少女は一人駅のホームを歩いていた、時刻は幼い少女が歩いてよい時間ではなかった。ここで彼女は一人の男と合流しなければならなかった。

 

「……見滝原の闇は私が思うよりも深いのね……」

 

魔女結界と共に何かが紛れこむ感覚があった。

 

”陰我”。あらゆる万物に宿る邪悪な意思。それは、呪いを撒き散らす魔女も同等である。

 

暁美ほむらは、ソウルジェムを輝かせたと同時に魔法少女へと変身し、紫の弓を構えた。

 

そこに居たのは、陰我に憑依していないホラー、素体ホラーであった。ゲートになったのは、魔女結界のようだった。

 

(……これが陰我に取り付いたら厄介なことになるわね)

 

ほむらは、弓を引き素体ホラーに先制攻撃を掛ける。ホラーは縦横無尽に結界の中を飛び回り、接近してくるがこれを彼女は難なく交わしカウンターと言わんばかりに袖に仕込んでいた短刀をホラーの額に突き立てた。

 

黒い血を出しながら額を押さえるが、至近距離から矢を放ち、跳ね飛ばされた首に呼応するようにホラーの身体は消滅する。

 

「私は……ここで立ち止まるわけには行かない……いつまでもホラーに遅れを取るほど愚か者ではないわ」

 

それを横目にほむらは結界の中を進み、そこに居る魔女に視線を向ける。現れた魔女は、今までも何度か遭遇した…一言で言うなら

 

「相変わらず嫌な奴と同じ顔をしているわね……こいつは」

 

キュウベえに良く似た頭部を持った魔女に対し、ほむらは今までの魔女以上の憎たらしさを感じていた。インキュベーターなどこの世から居なくなってしまえば良いという想いはいつまでも変わることはない。

 

無表情であるインキュベーターに良く似た顔が嘲笑っているように見えるのが余計に腹立たしい。だからこそ、普段の魔女以上に容赦しない。

 

ほむらは、紫色の弓を取り出し、法術で練られた矢を複数、射る。紫の矢が魔女の頭部、胴体に突き刺さると同時に魔戒文字を浮かび上がらせて弾けた。

 

魔女はほむらに対し敵意の声を上げると同時に体の至る所から針を無数に渡って飛ばしていく。だが、ほむらにとってこの攻撃は脅威ではなかった。

 

左腕の楯を回転させることにより周囲の時間を停止させる。停止させられた時間により、魔女の攻撃は全て意味を成さなくなる。

 

見慣れたモノクロの景色に対し、ほむらは魔法少女特有の身体能力で飛翔し、振り返りざまに魔女の急所 頭部、胴体へと先ほどとは比べ物にならない程の矢を発射させた。

 

時間を再び動かしたと同時に魔女はさらに弾けた。頭部からはぬいぐるみの綿ではなく生き物のそれとは違う黒い何かを弾けさせ、紅い目は勢いよく吹き飛んでいく。

 

一般の少女ならば青ざめるであろうこの光景に対し、ほむらの視線は冷ややかであった。魔女結界が消失すると同時にほむらは、戦利品であるグリーフシードの元へと向かっていく。

 

(この光景……まどかが見たら何と思うのかな?)

 

あの優しい少女はいざという時、誰よりも頼もしい一面を見せる。だが、本心ではこのような事を望んではいないだろう。例え、それが人に危害を加える魔女であっても……

 

「敵対するのならば、容赦はするな。妙な慈悲は己の身を滅ぼすだけだ」

 

魔女を倒した後、自分を迎えるようにエルダが立っていた。いつもの魔女を思わせる奇抜な衣装ではなく、喪服を思わせる衣服を纏っている。

 

「バラゴは…まだ着ていないの?」

 

「バラゴ様は現地で我らと合流される。我らはこれで先に行かねばならない」

 

気づけば夜行列車がホームに来ていた。二人はそれに乗り、目的地である”アスナロ市”へと向かう………

 

「その服は目立つ。バラゴ様より預かってきた」

 

衣装が入れられた綺麗にラッピングされた箱をほむらに差し出した。その箱に覚えがあるのか、ほむらは少し複雑そうに眉を寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”君も少しは着飾ったほうが良いと思ってね。その服もいいが着飾った君自身も見てみたい”

 

さやかが魔法少女になった翌日、バラゴは私をとあるブティックに連れ出していた。

 

”呆れた・・・・・・貴女、まさかと思うけどロリこ・・・”

 

”ほむら君。そこまでは言ってはいけないよ。僕も流石に許しがたい”

 

何を気障に振舞っているんだろうか?私は知っている、こいつがわたしと同じ根暗であることを・・・・・・

 

根暗がそんな綺麗な衣装を纏うのはどうかしている。私はこの魔戒法師の法衣をジャージのように日常的に着用していた。

 

理由は言うまでもなくこの法衣がとても動きやすいためである。良くは分からないが、バラゴが紹介したお節介なスタイリストにより私はいくつかの衣装を着ることになった。

 

まどかに良く似合いそうな桃色のドレスを見つけたが、これは私には似合わない。だが、バラゴは何を勘違いしたかしらないが、この衣装と私が選んだ黒い衣装を私に押し付けてきたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロにも魔法少女は存在しているらしいので、騒ぎを大きくするわけにもいかない。ある意味目立つ法衣からバラゴがほむらの為に用意した衣装を切るため、列車に備え付けてある個室のトイレに向かうのだった。

 

ほむらの後をつけるように白い小動物が窓を横切った。

 

ラッピングされた箱を見ながらほむらは、こんな服を纏うような子ではないと自嘲した。綺麗な物には憧れるが、それが自分に似合うなど思わなかった。

 

「着替える前にここで話をしても構わないかな?暁美ほむら」

 

不意に背後を振り返ると見慣れた白い悪魔が座り込んでいた。ほむらの白い悪魔ことキュウベえを見る視線は何処までも冷たく厳しかった。

 

「視線は気にしてはいないよ。暁美ほむら。君はこれからアスナロ市に向かうようだけど、何かマミから聞いているかい?」

 

古い時間軸であるが、マミから見滝原以外にも魔法少女は居ると聞いているが、実際に他の町の魔法少女は風見野以外にほむらは知らなかった。

 

彼女の沈黙を肯定と見たか、キュウベえは言葉を続けた。

 

「そうだね。魔法少女の遠征は早々無い物だからね。僕から、一つお願いがあるんだけれど……いや、気が向いたらでいいよ」

 

「……不思議ね。少女と契約すること以外にお前がお願いごとをするなんて」

 

純粋にほむらは驚いた。インキュベーター自身の目的の為に魔法少女を絶望のレールに乗せようと画策するのだが…

 

「プレイアデスから蓬莱暁美が書き記したファイルを回収してもらいたい。何なら、中身ぐらいは自由に見てもいいから」

 

妙な前不利は言わずにズバリ言ってくるところは、ある意味好感をもてるのだが、ほむらはインキュベーターが嫌いだった。

 

聞きたくもないと言わんばかりにほむらは、キュウベえから背を向けた。対するキュウベえもこの手の対応はほむら以外からも受けていたので、特に気にすることなく背を向けるのだが……

 

ここでキュウベえは、不意に今アスナロ市で活動している”同類”を思い出した。自分と同類であるが、自分とは違う存在はこんな事を言っていた。

 

「チャオ、暁美ほむら」

 

キュウベえらしくない言葉に対して、ほむらは思わず振り返ってしまった。だが、そこにはキュウベえ、インキュベーターの姿は無かった……

 

「……インキュベーターって、あんなだったかしら?」

 

もっと機械的でかつ独善的な人類と価値観が違う生命体には違いなさそうだが、この時間軸のインキュベーターも今までとは違うかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衣装は黒いゴシック服であり、エルダが着ている喪服よりもフリルなどの装飾がされており、ほむらに良く似合っていた。

 

「私にこんなモノを着せるなんて……何を考えているのかしら?」

 

スカートの裾をつまみながら内心、バラゴはそういう性癖なのではと疑ったが……

 

「ほむら、バラゴ様への侮辱は許さんぞ」

 

人の心を読んだと言わんばかりに応えるエルダに対し、

 

「バラゴは気にしていないわ」

 

自分がどんなに噛み付いても気にすることなく、微笑ましそうに見てくるところは腹立たしいことこの上ないが……

 

「…そうかもしれん。私とお前では在り方が違うからな」

 

「在り方って…バラゴは私に何を望んでいるというの?」

 

「……………」

 

いつものように口を閉じてしまう。バラゴに聞いても彼は応えることはなかった。

 

(分からない……何故、私にここまでしてくれるのか?本来の二人なら私が死んでも関心なんて寄せることなんて絶対にない)

 

バラゴを含めて自分たちは全うな存在ではない。そのことを自覚しつつ、暗い窓の奥の光景に視線を向けた。見滝原を離れ、列車は暗い森を走る。暗い闇の先は一切見えず、列車の走る音だけが闇の中に木霊していた。

 

暗い場所は嫌いだった。小さい頃に大好きだった”お姉さん”が居なくなり、最後に見たのも暗い場所だからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスカお姉ちゃん・・・

 

私、暁美ほむらの病室のすぐ隣にいた14歳のゲルマン系アメリカ人の少女。もしかしたら、まどかと同じぐらいに大好きだった私のお姉ちゃん。

 

初めて会ったとき、彼女は

 

”挨拶に着たわ、お隣さん。アタシ、霧島 アスカ ツエッペリンよろしくね”

 

年上で、気さくな彼女に私は、入院した時に出会った彼女の手を思わず取ってしまった。

 

”ほむら、辛気臭い顔しない!!!あんたの名前は、炎なんだから燃え上がるの!!!”

 

ツインテールが特徴的で勝気な青い目が大好きだった。アスカお姉ちゃんにベッタリしていた頃の私は、まだ10にも満たない年齢だったと思う。

 

今の私と同じ年齢だった彼女は、巴さんと同じぐらい大人びていた。時々二人で病室を抜け出して、近くの町を遊んだこともあった。

 

二人でスイーツ食べたり、流行りものの服を見繕ったりと私達は楽しい時間を過ごしたことを憶えている。

 

私にとっては姉のような人だった。だけど、そんなお姉ちゃんにも好きな人が居て、見ていてお姉ちゃんが幸せになってと思う気持ちとお姉ちゃんを彼に盗られたという複雑な思いを私は抱いていた。

 

その人 お兄ちゃんはお姉ちゃん曰く”あの馬鹿ジンにロマンスなんて無いわよ”と言われて納得するぐらい無駄に熱い馬鹿なお兄ちゃんだった。

 

でも、そんな馬鹿で熱いお兄ちゃんが私は、お姉ちゃんが好きでよかったと思っていた。

 

アスカお姉ちゃんは、小さい頃にお母さんを事故で亡くして、お父さんに引き取られているんだけど、あまり仲が良くない。

 

看護婦さん達が、陰で”ここは託児所じゃない”と零していたのを聞いたことがある、アスカお姉ちゃんとジンおにいちゃんの馴れ初めは、ジンお兄ちゃんが馬鹿な事をして大怪我を負って入院してしまったことだった。

 

何でも誘拐犯の車めがけて、偶々近くにあったパトカーを盗み、それを運転して突っ込んでしまったからだ。聞けば誘拐された近所の女の子を助けるために”仕方なく”やったらしいけど……

 

とんでもなく馬鹿だけれど、思わず心がスッとするようなことを仕出かすし、アスカお姉ちゃん曰く、放っておけないらしい……

 

”アイツを放っておいたら、絶対に人様に迷惑を掛けるわ。ここは…アタシが…”

 

隙あらば病院を抜け出そうとするアスカお姉ちゃんも…って痛い。こんな事を思っていると頬を抓ってくるのだ。

 

”いいのよ、いいのよ、アタシの人生だモノ。好きに生きてやるわ。今、この場で心臓が止まっても後悔なんて無いわ”

 

怖いことを言わないでください。その言葉に何度、ハラハラしたことか……それが現実になろうとは、この時の私は考えすらしなかった。

 

話を戻して、馬鹿ジンことジンお兄ちゃんは受付から来ずに窓からアスカお姉ちゃんの病室にやってきては、看護婦さんや先生をいつも困らせていた。私の病室にもよくやってきていた。

 

”よっ!!ほむら、相変わらず湿気た顔してんな。もっとぱぁ~~っと弾けたらどうだよ”

 

来るたびに私を湿気た花火と言わんばかりに笑うハンサム顔は何時見てもムッとしてしまう。アスカお姉ちゃんよりもずっと濃い蒼い目はいつも私達を優しく見ていた。

 

外出許可が出たときは、三人で避暑地に行ったりと見滝原でまどか達と過ごした頃と特色の無い楽しさがあった。

 

だけど、それもまた理不尽な”死”という形で楽しさは悲しい過去へと変わっていった。

 

”000号室の患者が急変だ!!!”

 

”先生を呼びなさい!!!!急いで!!!”

 

穏やかな朝だったのに、目覚めと共に私は異様な喧騒の中にいた。何があったのかすら分からなかった。分かっているのは、隣に居たアスカお姉ちゃんが私の傍から居なくなってしまったという事だけだった。

 

ジンお兄ちゃんが必死だったのは憶えている。ただ、どんなに想いを叫んでも神様はそれを聞き入れてくれなかった。ただ残酷に私達の手の届かない世界へお姉ちゃんを連れて行ったのだ。

 

最後に見たのは、地下の薄暗い階の奥の部屋で白い布を被せられたお姉ちゃんだったもの。

 

それからの私は、いつか自分も得体の知れない何かに見知らぬ場所へ連れて行かれるのが恐ろしくなった。

 

卑屈になった心は、私を長い間蝕んでいた。楽しかった、輝かしい思い出も過ぎてしまえば、何も感じられないただの記録と成り果ててしまった事に、私は絶望を感じた。

 

お兄ちゃんは、時々私の所に来てくれたけれど中学を卒業して高校入学と同時に地方へと引っ越してしまった。

 

時折連絡を入れてくれたけど、私はそれを返すことは無かった。彼と関わることで彼女の事を思い出し、自分が傷つくのが嫌だったからだ。

 

そうだ、私は”アスカ姉ちゃんの死”が怖くて、認められなくて、逃げ出したのだ。だからこそ、大好きなお兄ちゃんの言葉にも耳を貸さなかったし、酷いことに無視までしてしまった。

 

そして見滝原に転校して行き、まどかと私は出会った。

 

私は”魔法”と出会い、この身体を人間のモノとは違うものへと変え、いくつモノ迷走を繰り返し、今に至るのだ。

 

幼い頃、死人は決して帰らないことを私は知り、二度目の大切な友達 まどかを亡くした時、あの白い悪魔の甘い言葉に縋ってしまった。

 

”死者は戻らない”それを幼く不出来な暁美ほむらは分かっていた。だからこそ、”契約”を交わしてしまったのだ。

 

今、現在の状況は今にして思えば、私は”お姉ちゃん”の死を引きずっていて、それを解決させることなく怠惰に過ごしてきたつけだったかもしれない。

 

”二度目の大切な人”を亡くしてしまった事実に何も見えなくなり、インキュベーターと契約してしまった。

 

他の魔法少女同様、自分の過剰な願いが自分自身を裏切るかもしれないのに………

 

なぜ、あの時鹿目さんを生き返らせてと願わなかったの?と問われたこともあった、私は真っ先に応えた。

 

”死者は絶対に帰ってこない”

 

例え、インキュベーターに願ったとしても、完全には叶えられないだろう。だからこそ、私は”やりなおし”を願ったのだ。

 

もし、願いでまどかを蘇生させてもそれは、まどかではない、”何か”だったのではと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……暗い場所は本当に嫌なことが多すぎるわ。アスナロまでは……一晩掛ければ大丈夫ね」

 

自分の人生は人に話すようなものではない。卑屈な自分を追い立てるように絶望が、ほんの僅かな救いはあっという間に自分の元から去っていく。

 

これからいく先には、今まで以上に恐ろしい何かが待っているかもしれない。少しでもそこから逃れたいのか、ほむらは瞼を閉じ、意識を闇の中に沈ませていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の身体は眠っているが、意識だけがハッキリとしている。不思議な感覚だった……

 

まるで私の居る場所が世界から切り離されたようなそんな感じがするのだ。

 

私の向かい側に”そいつ”、”わたしではないわたし”が居た……

 

「ふふふふふふふ。そうよね、死んだ人は決して帰ってこない」

 

今まで覚えていなかったのが不快すら感じる。この”自分であって自分”でない存在は、バラゴ以上に嫌悪を感じる。

 

以前、動物ドキュメントで言っていたが、生き物は同じ生き物を自分のテリトリーに寄せ付けないと・・・・・・

 

「……アナタとは、少し前に会ったけれど、今度は何なの?バラゴと私の事でまた何か言いたいの?」

 

二度と出てこないといったくせにと…やっかみなら喜んで受けてやるわ。癪だけれど、私には複雑だが、それなりに頼りになる”二人”が居る。

 

貴女にはいない……どうせ、貴女は今も昔も一人だったんでしょう。

 

「少しばかり、アナタとは話がしたかったのよ。それに気になることもあるしね……」

 

アメジストを思わせる淀んだ瞳は、見る人に不思議な気持ちにさせる。人々は、目というものには不思議な力が宿ると信じていたが、改めて目の前の”存在”をみる。

 

人には無い奇妙な魅力があり、彼女の仕草の一つ一つにどうしても注目してしまう。

 

「……気になること?」

 

「フフフフフ。今までの貴女だけど、まどかと一度も言葉を交わしていないけど、そういうのは良くないわよ」

 

「っ!!!貴女に……」

 

「事情が、事情だと言いたいの?あの危険な男をまどかと関わらせてはならない。そうよね……バラゴって、まどかの事を結構、目の仇にしているみたいだし……」

 

「そこまで分かっているの?だったら……何か言いたいわけ?」

 

まどかの件での自身の不甲斐なさもそうだが、それと同等に彼女が気安く”バラゴ”と呼ぶのが何故か気に入らなかった。漣が立つように私の感情が揺さぶられる。

 

「貴女と私に言えることだけれど、お互いに視野が狭すぎて色々と損な生き方をしているのよ。今にして思えば、もう少し視野が広ければって思うところがね…」

 

自嘲気味に笑っているが、それに対して後悔はしていないようだ。選んだのは、自分自身なのだから・・・

 

「暫くは、アスナロ市で色々と見てくるといいわ。それと……まどかとは、なるだけ早く話をしなさい。今のあの子は……」

 

「母さんそろそろ時間だよ」

 

次に現れたのは、自分の笑い顔を模した白い仮面を被った男装の少女だった。まさか、こいつはナルシストなのだろうか?それに母さんって………

 

少女と判断したのは、腕に奇妙なぬいぐるみを抱いているからだ。あのぬいぐるみは、何処かの時間軸で”ナイトメア”と呼ばれていることを私は知らない。

 

「メイ……もうそんな時間なの?」

 

「ええ、その人が夢から醒めようとしているんです」

 

その人とは無論、私のことだ。よく分からないが。夢であって夢でない、現実であって現実でない時間なのだろうか?

 

「うふふふ、分かったわ。じゃあね、暁美ほむら。気が向いたら、またお話をしましょう」

 

両手を”パンっ”と合わせたと同時に私に意識は弾けてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスナロ市 駅

 

「……ほむら。アスナロ市だ……行くぞ」

 

気がつけば、エルダが私を起こしてくれていた。見た目魔女を思わせる”まともな”女ではないが、最近はそうではないのではと思うようになっている。

 

この時間軸での”戦闘技術”を師事してくれているのだ。エルダはエルダで得たいが知れないが、バラゴ同様、私に気を使ってくれる事に私は気を許している。

 

「……その低落では、また不覚を取るぞ」

 

気だるさを感じながら、私はエルダを睨み返した。いつまでも”ホラー”に遅れを取る訳には行かない。私は……どうしても”あの光景”を変えなければならないのだから……

 

「その気概をしっかりと持っておけ。そして……これをここ、アスナロ市に居る間で憶えるんだ」

 

私にエルダが差し出したのは、タロットカードを思わせる”魔戒札”の束だった。こういったものを憶えて何になるのかと思ったが、まあ、何かの足しにはなるだろう……

 

普段の私なら必要が無いと切り捨てるかもしれないが、エルダは人物像がアレだが、師としては、私が今まで見た誰よりも優秀だった。

 

こんな私をたった数日程でホラーを倒せるぐらいにまで鍛えてくれたのだから………

 

「分かったわ……私にもアナタが覗いている物が見えるようになるのかしら?」

 

「……さあな。前にも言っただろう。例え見えたとしても都合の悪い物であれば、己自身が愚かさを認めなければ……」

 

結局、未来は変わらない。そして、それを後悔した時にはもう、手遅れなのだ。

 

私達はここでの拠点となる”ホテル”に向かうべく駅を後にした………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここ、アスナロ市で私は思い知ることになる。憶えてはいない誰かが、私自身の視野は狭く、色々と損な生き方をしていると………

 

そうだ。別に珍しいことではなかったのだ。見滝原で行われていた絶望と希望の物語は……ここアスナロ市でも繰り広げられたことを………

 

出会わなければ良かったと……もし、出会わなければ、こんな想いを感じなくても良かったのにと……

 

でも、私は出会った……アスナロ市の中心人物である12人目のミチルと………そして、懐かしいお兄ちゃんとも再会することを私は思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続  「劇場版 呀 暗黒騎士異聞 壱」

 




あとがき




一応というか、ほむらの”まどかとの出会いをやり直したい”の真意を考察する。

これに関しては、ほむら本人から聞かなければ分からないことですが、私としましては神様でも悪魔でも絶対に出来ないと思うことの中に”死者の復活”と言うものがあります。

古今東西、死者に未練があり呼び戻そうとアレコレ行った結果、その人物と違う何かになったり、酷い場合、復活までの間が我慢できなくて、蘇生途上の腐敗した姿を見てしまい、拒絶し、”死”を齎す恐ろしいモノになったりと…

この作品の勝手な設定ではありますが、ほむらはまどかと出会う前に姉と慕う人物が居り、彼女の死を認められず、ずっと逃げ続け、二人目の大切な人であるまどかを亡くし、勢いに任せて契約をしてしまったという具合にしています。ほむらは、死人が甦ることはない、帰って来る事はないことを経験で分かってしまったのです。

例外も無くはないんですが、”死人の復活”は、例え、キュウベえでも出来ないのではと思います。それなりの因果が在っても、それが元通りの本人として生き返るということは……まず無いだろうという夢の無いNAVAHOの意見でした。

仮に生き返らせても、それはその人が思う都合の良い”何か”であり、その人そのものではないと思います。事実、他者というのは、長年一緒に居る夫婦でも時々、よく分からないこともあるそうなので、そういうところがあるからこそ、その人本人なのではと考えています。




キャラ紹介

ジン シンロン

この劇場版でのゲストキャラ。元々はかつて、私がエヴァで描いていたシンジ君を助ける仲間キャラとして設定していました。

丸分かりのアスカの元ネタのお相手であったりもします。日独中の混血児なので、瞳が蒼く、体型もそれなりに良かったりします。

こちらでは、入院中のほむらの兄貴分だったのですが、数年間やり取りがありませんでした。時折、ほむらの両親に近況を尋ねたりと気にしていたりしました。

彼の癖に”ちょっと借りる”と言って、人様から勝手にモノを拝借するという悪癖があったりします。

ほむらの武器の拝借のルーツは、この男の存在があったり(笑)ほむらの記録に成り果ててしまった思い出の中の彼は、今も健在だったり(汗)

何気に病院の掲示板の”探し人のチラシ”を少し拝借しています。







霧島 アスカ ツエッペリン

このSSにおけるオリジナル設定であり、元ネタは分かる人には分かりますよね(笑)

ほむらと同じ病状で入院生活を送っていた少女であり、日独の混血児だったりします(元ネタを参照)

性格は勝気で、ハッキリとモノをずばり言ってしまう子で割とキツイ性格に見えて、世話好きな一面を持った心優しい子です。

ほむらよりもかなり前に入院生活を送っていて、お隣さんという事で交流がありました。ほむらも彼女にはかなり懐いていて、姉のように思っていました。

容態の急変により、亡くなってしまい、このことがほむらの人生に大きな影響を与えてしまいました。















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