呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝) 作:navaho
今回は、戦闘シーンを久々に描いたような気がします。
今更ですが、かずみマギカの舞台である”あすなろ市”が正しいのですが、ここでは敢えて”アスナロ市”と片仮名で表記しています。
プレイアデス聖団
地方都市 アスナロ市を拠点とする7人の魔法少女によって構成されるチーム。
ギリシャ神話に登場する7人の姉妹 プレイアデスの名を冠している。
構成員は、御崎海香 牧カオル、宇佐木里美 神那ニコ 浅海サキ 若葉みらい そして・・・・・・
和紗ミチル・・・・・・
浅海 サキは突如として現れた魔法少女 暁美 ほむらに対して厳しい視線を向けていた。
「私たちの邪魔をするのなら、容赦しない」
「それならば何故、この子をそこまでして消そうとするのかを説明してもらいたいわ」
浅海 サキに対してほむらは、特に表情を崩すことなくこれまでの時間軸のようにポーカーフェイスで応えた。
内心、ほむらには、浅海 サキと若葉 みらいの二人にある考えがよぎっていた。
縄張りに入ってきた魔法少女に対して、魔法少女が行うことは徹底した排除か、話し合いの場を設けることの二択なのだが、この二人はどちらも選ぶつもりがない様に思えた。
脳裏によぎるのは忌々しい”魔法少女狩り”。同じ魔法少女を”殺す”ことで何らかの目的を果たそうとしていた存在が過去に廻った様々時間軸に存在していた。この二人にも過去の二人と似たというよりも確実に”魔法少女狩り”を行っているという確信がほむらにはあった。
兄の言葉を借りるのならば”そういう匂い”が二人からはするのだ。こういう発想をするのは、バラゴの暗黒騎士の姿が”狼”だからだろうか。
「説明する必要はない。お前はそいつを庇った時点で私達の敵だ」
初見攻撃と言わんばかりに乗馬用の鞭をほむらに対して振るうが、鈍い金属音と共に鞭が跳ね返った。
「なにっ!?魔法少女が銃を!?!」
サキは純粋に驚いていた。通常の魔法少女ならば、魔法による武器を生成し戦う。そして、武器を生成する大まかな時間も把握しており、自身の鞭による攻撃は確実に相手に届くはずだった・・・
「早撃ちは得意よ。言っておくけど私は目的の為なら、形振り構って居られないの」
ほむらの右手には拳銃が握られており、いつの間に出現させたのか分からなかった。いや、魔法で作ったのではなく元々持っていた銃を抜き出し、サキの攻撃に対応してみせたのだ。
魔法少女らしからぬ魔法少女 ほむらに対し、浅海 サキは危険と判断し、目配せで 若葉 みらいに手を貸すように指示する。テレパシーを使えばよいのだが、この目の前の魔法少女は得体が知れないため、テレパシーを使うことで手の内を相手に垂れ流してしまうことさえ考えられる。
二人は一斉に飛び出したと同時に若葉 みらいは自身の得意とする魔法 テディベアを大量に召喚し、ほむらを足止めしようと指示を出す。
対するほむらは、いつもであるならば”時間停止”を行うのだが、今回は戦闘ではあえて使わないことを選んでいた。
これは、この時間軸で戦闘面で指導してくれる”エルダ”より、”時間停止”は大きなアドバンテージだが、故にそれを崩された時の対処が甘いと指摘をされたからだ。
実際、バラゴと出会う前に蜘蛛の女 ホラーには時間停止を見破られて不覚をとっていた。
これを機に戦闘方法を改めて見直すべきではとほむら自身も必要性を感じ、時間停止を戦闘では、必要に迫られる以外は使わないことにしたのだ。
二人よりも高く飛ぶことでアドバンテージを得て、ここ最近の得物である弓を構えようとするが
「っ!?!っ」
サキの身体が一瞬であるが電気が弾けたように見えたと同時に魔法少女でもありえない速さで眼前に迫って来たのだ。手には自身の固有魔法を誇示するかのように電気の塊が走っており
(これで・・・・・・)
サキはこのまま距離を詰めて、自身の生命すらも操れる魔法を当てればよかったのだが・・・
鋭い金属音と共にほむらの袖から四本の異様に長い爪が飛び出してきたのだ。
勢いよく振るわれたその金属製の爪の威力を察して回避するのだが、いつのまにかほむらは真横に来ており、そのまま横っ面に肘を当てられたと同時にビルの壁に叩きつけられてしまった。
「サキっ!?!!」
仲間を傷つけられたことに怒りを覚えて、ほむらに視線を向けテディベアをけしかけるが・・・・・・
「私は早く用事を済ませたいから、ここで失礼するわ」
ある意味、数を揃えられる若葉 みらいを厄介であると判断し、サキが戦線に復帰する前にほむらはこの場から離れるべく、楯から閃光手榴弾を取り出し、それを爆発させた。
「キャっ!?!!」
視界に強烈な光が飛び込むと同時に爆発音が聴覚を奪い、若葉 みらいは困惑したのだった。
この事態に頭の整理がつかないミチル?だったが、急に手を掴まれたと同時に彼女はほむらに手を引かれていた。
「あ、あの、あ、あなたは」
「自己紹介は後にしましょう。今はこの場から離れるわ」
戦闘での自身の力量の把握に満足し、この場から離れるためにほむらは”時間停止”を使い、モノクロとなった世界を走った。
先ほどの戦闘スタイルは”魔法少女狩り”をしていたあの白と黒の魔法少女に似ていることに自嘲しながら・・・
「あいつは何処に行った?」
「サキ・・・・・・目が・・・目が痛いよ」
地上に叩きつけられるように降り立ったサキは、すぐにほむらを探すがすでに彼女の姿はなく、さらにはミチルの姿もなかった。
「あいつ・・・・・・今度、見かけたらただじゃおかない」
サキは必ず次こそはこのような無様な姿をさらしてなるものかと心に誓うのだった。
「キャハハハハハハ!!!!あんなにいきっておいて、新参者にコテンパンにされてるじゃないの。すっご~~~く、だっさぁあああい♪」
躍り出るように彼女 真須美 巴は現れたのだ。彼女の出現にサキとみらいは表情が引きつってしまった。
「えっ!?!サキ、あいつ。ボクたちがこの間、捕まえて・・・・・・」
「何故だ・・・・・・あそこから出てこられるはずがない・・・・・・」
あの拠点は厳重に結界を張ることと真須美 巴自身にも封印を施していたはずなのだ・・・・・・
「それは・・・そうよ・・・・・・ワタシにも助けてくれる”仲間”が居るんですもの。あぁ~~~、あなた達の無様な姿が見れて本当にお腹いっぱいだわ」
上機嫌に”仲間”という言葉を強調する 真須美 巴に対し、二人は警戒するのだが、その仲間はもしかしたら先ほど、自分達と戦ったあの”魔法少女”ではないかと考えた。
「私は帰るわ。見かけたら声をかけてちょう~~~だぁい♪」
今の二人は明らかに戦闘でダメージを負っているのに、自分たちの知る真須美 巴ならば容赦なく攻撃をしてくるだろう。だが、攻撃をするどころか隙を思いっきり見せ、さらには背中を向けて去っていったのだ。
「ふざけるな!!!私達なんていつでも倒せると言いたいのか!!!」
怒りの声を上げるサキに対し、みらいもまた不安を覚えていた。
あの真須美 巴に仲間が居たのだ。これは由々しき事態だった。すぐに他のメンバーにも知らせるべく二人はテレパシーを飛ばしたのだった。
そんな二人の様子は近くに設置されていた治安維持用のセキュリティカメラが無機質に覗いており、さらにその光景は真須美 巴の手元にあるスマートフォンに映し出されていた。
さらにはプレイアデス聖団のテレパシーを傍受し聞き耳を立てていたのだ。
「あらあら・・・・・・私、あの子が”仲間”だなんて一言も言ってないのにね~~~~」
バグギが狙う 暗黒魔戒騎士を捉えるには手駒は多い方がよい。あのプレイアデス聖団はきっと良い駒になる。
真須美 巴は邪悪に微笑む。その笑みは希望を齎す魔法少女のそれではなく、人々の邪心に付け込み、肉体と魂を喰らう魔獣 ホラーそのものだった・・・・・・
「バグギ・・・・・・面白いことになったわ。プレイアデスには動いてもらいましょう。私達の望みの為に」
LINEのアプリを起動させ、メッセージを送る。メッセージは直ぐに既読と表示された。
エルダ、ほむらと遅れてバラゴがアスナロ市に足を踏み入れたのは正午を回った頃だった。
彼がアスナロ市に足を踏み入れて奇妙な違和感を感じた。町全体が何かを拒絶するかのような結界が張られているように感じたのだ。
「これは・・・・・・魔戒法師でもホラーでもない。いや、だから惹かれたのか?使徒ホラー バグギ」
久しく感じていない闘争心が滾るのをバラゴは感じる。本来ならば、使徒ホラーは7つのエレメントに罠を張り、人間を喰らうという他のホラー以上に性質の悪い性質を持っており、その強さは魔戒騎士、魔戒法師らも幾人もの犠牲を出す程のものである。だが、アスナロ市に現れた バグギはエレメントに現れず、通常のホラーのように出現したのだ。今までにない使徒ホラーの出現に対して番犬所も警戒していたが、このバグギに惹かれるようにして暗黒騎士 呀もまたアスナロ市に現れた。
今までのホラーや魔女以上に手ごたえを感じさせる相手に対し、高揚感すら覚えていた。
二体の脅威に対し、番犬所も互いに潰し合って、疲弊したところを討伐するよう風雲騎士に指令がでたのだが、その風雲騎士は未だに指令を受理していなかった・・・・・・
市内の至る所に設置された治安維持用のセキュリティカメラがバラゴの姿を捉える。
様々な角度からバラゴをそれは、電子の海、電脳空間より見ていた。
「ようやく現れたか・・・暗黒魔戒騎士・・・・・・」
様々な映像があり、その中にはオープンカフェでティータイムと洒落こんでいる真須美 巴の姿があった。
「真須美 巴め。随分と楽しんでいるじゃないか、私の欲しいものをちゃんと用意してくれるのだろうな」
「私も楽しむとするか・・・・・・暗黒魔戒騎士とはいかなるものかをな・・・・・・」
電脳空間に潜んでいた バグギは意識をあるモノに転送した。それは赤い光を輝かせ、ゆっくりと歩き出した。
呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 弐
時刻は昼を回った頃、彼もまたアスナロ市にある大学の講義に出ていた。
彼は、ジン シンロン。先日まで見滝原で行方不明になった自らの妹分 ほむら探すべくアスナロ市から飛び出していたのだが、今日は重要な約束がある為、大学に来ていたのだ。
講義の内容は心理学でありテーマは”トラウマ”についてだった。
ジンが医師を目指すようになったのは、かつて自身が恋をした少女 アスカが心臓の病で亡くなったことがきっかけであり、さらには同じ病を患う妹分を治したいという願いがきっかけだった。
だが、姉と慕ったアスカが亡くなり、心に深い傷を負ってしまったほむらの手助けがしたいと願っても、姉との思い出があまりにも眩しくその思い出を共有した自身が彼女を傷つけてしまっていることに内心、ジンは不甲斐なさを感じているが、いつまでも不甲斐なさを感じるだけではなく、これを乗り越えなくてはならなかった。
だからこそ、こうやって勉強に明け暮れ、他の同期からの誘いも断っている。
身体の傷は時間がたてば治るが、心の傷は時間と共に広がり、いつまでも囚われる。
心に負った傷を治すことができるようになったら、世の中は今とは比べ物にならないくらいに”優しい世界”になっているだろう。
だが、人はそんなに”優しくはない”。これは自身の経験を持って知ったことである。
自身の生まれは日独中の混血児であり、日本人の血は流れているがドイツと中国のハーフである父親の血が濃く、見た目は西洋人のそれであり、アジア系の血もあり典型的なハーフ顔である。
青年になってからは自身の見た目に憧れを異性に抱かれているが、幼少の頃はこの容姿で差別されたこともあり、さらには今は亡き両親を周りの大人に侮辱されたこともあった。その時は、怒り暴れたことで”問題児”扱いされやが、自身を本当の”息子”のように扱ってくれる”暁美家”の人達には”怒って当然”、”殴られても文句の言えないことをした”と肯定してくれたのだ。
だからこそ、自分は”暁美家”に恩を返したいし、妹分である”ほむら”を助けたかった。
今回は行方不明と来ていて、自身の考えの及ばない事態に巻き込まれていることに無力感を募らせる。
「まるでXファイルだな・・・・・・オレはモルダー派なんだが、今はスカリーに鞍替えしたいぜ」
少し前に新シリーズがリリースされているあの”都市伝説 海外ドラマ”の主人公二人を思い出しながら、ぼやくのだが・・・・・・
「ジンは、どちらかと言えばモルダーよりもドゲット捜査官の方がお似合いだと思うんだけどね~~僕は・・・」
ジンの蒼い目に緑色の目が覗き込まれた。オレンジが入った赤毛のハーフの少女が少年のような口調でジンの隣に立っていた。
彼女の名は メイ・リオン。イギリスの血が入ったハーフであり、同じ異国の血が入った者同士何かと気が合うのであった。印象は悪戯好きな猫を思わせる可愛らしい顔立ちの少女である。
「オレはターミネーター2のT-1000かよ・・・・・・」
あのどうやったら倒せるんだと思わせた水銀ロボットの姿を思い浮かべる。
「あの俳優 ロバート パトリックさんは凄いよね。瞬き一つしなかったよね」
役を意識しすぎて奥さんとの夫婦仲が気まずくなったという裏話があるほどのめり込んでいたそうだ。
「そうそうターミネーター2と言えば、アスナロ市のあのイベントのAI技術の発表に便乗しイベント上映するらしいぜ」
近々、アスナロ市で行われるイベント ”科学博 未来への希望”のテーマが最新鋭ロボット工学を押し、それらを支える人工知能などの体験できるらしい。
さらには、年齢問わずに自作のプログラム、アプリ等を発表できる場もあり、人材をスカウトする場にもなっている。メイもまた参加することになっており、彼女が作り上げた自作のアプリを発表する予定である。
話は変わるが、あの映画の人工知能は、希望ではなく絶望の未来を齎していた・・・・・・
「それは楽しみだね・・・僕はAIは人類にとって自分達を見つめ直すにはいい機会にしたいんだけどね」
メイは最近纏めたレポートのテーマは「人工知能と愛情」であった。
彼女が専攻する学科は”情報技術”である。
これは効率ばかりを追求する”道具”としてのAIの技術発展が人間の適応能力を凌駕し、やがては人間社会そのものが崩壊していくのではというものであり、AI 人工知能の想像はある意味、聖書に伝わる”神が自らに似せて人を作った”行為に似ていることから、人工知能を開発していく過程で人としての愛情等の情操教育が必要であることを述べたものである。実際にこの社会の発展は凄まじく適応できる人間とそうでない人間の差があまりにも多く、そこにAIが加わることでさらに加速するのではないかということなのだ。
人類最後の発明は”人工知能”とされているのだから、その影響は計り知れない。
メイが聖書に準えさせたのは彼女が信仰しているキリスト教 プロテスタントの考えが強いためである。
イギリスでのプロテスタント宗派は、一人の司祭を崇めるよりも個人が考え、行動する個人主義の側面が強い。
”万人司祭”という言葉すら存在するのだ。
代表的なプロテスタントの言葉に”私は立つ”のように個人としての自立を重視している。
自立するためには、やらなければならないこと身につけなければならないことは多い。その中でも重要なのは他者との触れ合いであり、感情面などの情操教育というのがメイ・リオンの持論であるのだ。
「だったら、AIの完成はもっと先だな・・・・・・ドラ〇もんなんて22世紀じゃなくて多分、24世紀ぐらいまで開発延期に決まりだ」
「それまでに僕たち人間が優しくなっていればいいんだけどね」
二人は何か思うことがあるのか、何処か気落ちするような視線を講義室の電子掲示板に宣伝されている”科学博 未来への希望”に向けられていた。開催まであと一週間である・・・・・・
「ここだけの話だけど、出資している企業の大半が軍事産業で儲けているところなんだって・・・・・・」
堂々と軍事用ドローン等も展示予定なのだが、あくまでも平和の為という理由らしい。
さらには、ここ最近の国産の戦闘機を作るというニュースもあり、国を挙げて軍需産業に参入したいという魂胆が出ている。
「人間っていうのは、嘘つきだからね・・・・・・嘘つきと言えば・・・・・・」
「メイ。詐欺にでも遭ったのか?」
「違うよ。昔、人畜無害そうな顔をしてそういうことを言うのに会ったことがあるだけだよ」
メイの脳裏にかつて、契約を持ち掛けてきた”白い小動物”の姿が浮かぶのであった。
『僕と契約して魔法少女になってよ』
僕はそんな柄じゃないよ。だって、皆に期待もしてないからそんな奴が身の丈の合わない魔法少女になっても希望なんて与えられないよ。他を当たってよ・・・・・・キュウベえ
先に到着したほむら達の待つホテルに向かうバラゴであったが、誰かが自分を常に見ている奇妙な感覚を覚えていた。ホラーの意思のようなのだが、それにしては邪気を感じることができない。
(何なんだ・・・・・・この気配は視線だけは感じる・・・・・・こんな人混みで接触をするつもりだろうか?)
この接触は友好的なものではないだろう。少なくともここで騒ぎを起こしたくなかったのか、バラゴは一旦は人混みから離れた。
彼を追跡するように目深に帽子を被ったトレンチコートの大柄の男が動き出した。
顔を隠すように襟を立てており、僅かに見える口元は何故か生気がなく、呼吸音すら聞こえなかった。
無機質な赤く光る目がバラゴを捉えていた。
人混みから離れたバラゴはアスナロ市の開発地区まで来ていた。アスナロ市は日進月歩と言わんばかりに開発が進められており、近日中に巨大な商業施設を立てることになり、現在はテナントを募集している最中である。
資材置き場で足を止めたバラゴは、背後からくる存在に対し・・・・・・
「私に用があるのならばここで聞こう。お前はホラーか?」
重い足音と共にバラゴの目の前に現れたは、大柄なトレンチコートの男であった。
『・・・・・・YESと言っておこう』
返ってきた言葉はサンプリングした声を合成したかのようなものであった。さらにバラゴは、目の前の相手に対し、視線を険しくする。
「お前のその視線はホラーのモノに間違いないが、ホラーの気配が感じられない」
『フフフフフフフフ。この身体の意思こそ使徒ホラー バグギのモノが入っているが、これは我が作り出したのではなく、この時代の人間の欲望が生み出したものだ。少しばかり試させてもらえるかな』
トレンチコートの男は一気に駆け、拳を突き出す。人の放つ拳にしては正確に頭部に向けられる。
威力は当然のことながら凄まじく、バラゴはそれを正確に見極め往なす。
勢い余って倒れ込んだ際に人間が倒れる音ではなく、鈍い金属音が響いたのだ。
「・・・・・・・・・」
バラゴの視線はさらに険しさを増す。これまで多くのホラー、魔戒騎士を相手にしてきたが、このような毛色の違う相手は今までに存在しなかった。
まるで、”宇宙人”を相手にしているような感覚さえ感じていた。
『ハハハハハハハハッ、暗黒騎士もこの身体の相手は初めてだろうな』
起き上がる際に発した笑い声にはノイズが入る。ホラーの声ではない。
姿勢を低くし両腕を広げて掴みかかるが、バラゴは往なすのではなく敢えて相手の懐に飛び込み相手の顔面に向かって拳を撃ち込んだ。
拳の感触はやはり生き物ではなく、作り物であった。固い構成樹脂で作られた顔が砕ける。
露わになったのは・・・・・・金属で作られた”骸骨の顔”だった・
赤い目の輝きがバラゴを押さえ、蹴りを繰り出すが・・・・・・
「ほう・・・・・・確かにその身体は魔戒法師、騎士にはない技術だ・・・だが・・・・・・」
手に構えた魔戒剣を抜き、繰り出された腕を斬る。感触は金属であり、斬り落とされた腕から火花が散る。
さらにはもう一方の腕を斬り落とすが、同じく火花が散る。落ちた腕もまた金属でできていた。
そのまま手を緩めることなくバラゴは一刀の元、首を刎ねたのだった。
刎ねられた首の根元から火花が散ったと同時に眼窩に埋め込まれていた赤い目・・・目を模したセンサーの輝きが消え、地面に落下したと同時に金属音を鳴らした。
バラゴは倒れ込んだ大男に視線を向けた。
「バグギは古の時代・・・・・・雷と共に現れた。現代でのライフラインである電気を使って来るか・・・そしてこれもまた・・・・・・」
特に興味がないのかバラゴはその場を後にするのだった。その様子をこの資材置き場に備え付けられていたセキュリティカメラが覗いていた。
アスナロ市 第三ドーム イベント会場
イベント会場のある一角にバグギは存在していた。先ほどのバラゴとの戦いを画面に映し、それを眺めていたのだった。
「やはり、機械人形では相手にもならないか・・・・・・まあいい、それならばもっと改良をすればいいだけの事」
バグギの視線は、第三ドーム周辺にある施設の一角に向けられた。そこでは、先ほどバラゴと交戦していた”機械人形”が10体程作られていたのだった・・・・・・
ほむらは直ぐにエルダと合流し拠点であるホテルに辿り着いていた。
連れてきたミチル?は薄汚れていた為、一人でシャワーを浴びていた。
彼女はその間、考えていた。何故、彼女 暁美ほむらは自分を助けてくれたのかと・・・・・・
自分は認めがたいが人の形をした”災い”に近い存在だ。それなのに、そんな”災い”に用があるとは、どういうことだろうか?分からない・・・・・・
(でも悪い気はしない・・・・・・どんな目的であれ、私を私としてみてくれるなら・・・・・・)
自身が体験したことのない記憶を持つが故に”オリジナル”と違うために拒絶された自分を受け入れてくれるから。
その時、ほむらは部屋に備え付けのキッチンを使い、簡単な食事を作っていた。
ここの所、バラゴの食事の用意をしているのはほむらである。かつてはエルダが身の回りの世話をしていたが、エルダの作る料理はお世辞にも美味しいとは言えなかったので、さすがに食事ぐらいは楽しめるぐらいの美味しさが欲しかったので自分が作ることになったのだ。
これは何故かバラゴに好評であり、彼は朝食と夕飯には必ず現れる。普段の彼は何をしているんだろうと考えなかったわけではないが、考えても教えてくれないだろうと諦めていた。
エルダには戦闘面で指導を受けていた為、その礼も兼ねていたがエルダ自身は食事に手を付けても何も言うことはなかった。
この部屋に居るのは、自分とエルダとミチル?と名乗ったあの少女である。
ほむらはミチル?について考えていた。あの少女が持っていたソウルジェムについて・・・・・・
胸元にあるソウルジェムとグリーフシードを掛け合わせたようなモノが根付いているのだ。
あのようなものは今までの時間軸でも見たことがない。おそらくは何かとんでもないことをあの二人の魔法少女は行っているのではないだろうか?
自分の”魔戒札”による占いで見た二つの内のソウルジェム。もう一つはあの場にはなかった・・・
これは自身の技術がまだ未熟であると彼女は判断した。
改めて考えるが、今回はバラゴの目的である”使徒ホラー バグギを倒す”ことを目的とすると関わるべきではなかったと思う。だが・・・・・・
(寄ってたかって一人の女の子を虐めて・・・・・・ジンお兄ちゃんがみたら絶対に許さなかったわね)
この時間軸で父と母は確認した。それに兄 ジンもまた居るのだ。かつての祖父の家に用意された自分の部屋に彼の手紙があったのだから・・・・・・
正義の味方とは名乗るにはあまりに烏滸がましい。ならば、悪役らしく名乗る方が自分らしいだろう・・・・・・
二人のあの”魔法少女狩り”に似た行為に嫌悪だけは感じていた。
続 「 呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 参」
あとがき
久々に戦闘シーンをと書いてみましたが、意外と難しい。
バラゴはアスナロ市で頑張ってくれる予定です。
ジオシティっぽい街になっており、治安維持も含めてあちこちにカメラが設置されている具合です。
アスナロ市でのイベントでは、軍需産業で有名な企業も参入しており、さらにはそれと接触してコネを作ろうとする国内企業、政治家等も多数、来ており、陰我も強くなっています。
ほむらのバラゴとエルダに対する気持ち。
今作におけるほむらは、割と料理もできるるのでバラゴとエルダの食事を作ったりしています。この辺りはまどマギ スピンオフ作品「見滝原 マテリアルズ」よりマミとほむらがルームシェアして食事を当番制で交代したりし、マミが手のかかる姉と化し、ほむらがしっかりものの妹のようになっていたので家事全般はこなせるという設定です。
バラゴは家族料理や誰かに作ってもらう思い出はほとんどないと思いますので、ほむらのこの行為を嬉しく思っています。そして、ほむらに対する執着も強くなっています。
エルダはエルダで特にほむらに居場所を奪われるとかそういう気持ちはなく、主人であるバラゴの心を慰撫する役目はほむらであり、自身の役目はバラゴの道具としてあり続けることであり、彼女も彼女で指導し、弟子となったほむらのことを彼女なりに気にかけています。
そんな二人に対してほむらも気持ちに変化が生じ、二人は自分に似た存在であるが故の仲間意識を無自覚ですが抱いています。
ある意味共依存にも近いですが、ほむらとバラゴの関係は少しずつ変化していきます。
またある願望も抱いています。それは究極の存在になった暗黒騎士 呀の姿を実際にこの目で見てみたいと思っています。
ほむらも戦力アップしており、隠し武器を袖に仕込んでいます。
相手の不意を突く形でカウンターも兼ねた伸縮自在の金属製の四本の爪とさらには、短剣をしこんでいます。これはエルダの指導もありますが、偶然にも爪はキリカの武器に似ています。
魔戒札を使っての予知なども行えるよう訓練していますので、この辺りは織莉子の魔法に近くなるかもしれません。
魔法少女から魔戒法師よりの戦いにシフトしています。
メイ・リオンのキャラ紹介は次回に回します。