呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝)   作:navaho

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今回は、プレイアデス聖団が突撃握手会に見舞われた前日

バグギとの一戦を終えてからのバラゴ達の話というよりもほとんど暁美ほむらの話です。




呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 玖

アスナロ市 京極神社

 

 

バグギとの一戦を終えたバラゴは、ほむら、合流したエルダらを伴い協力者である京極カラスキの案内の元、拠点をアスナロ市内のホテルから郊外の京極神社へと移していた。

 

バラゴの様子は目に見えて不機嫌であり、精神が幼いミチルは困惑した表情でほむらの傍についていた。

 

他に理由を挙げれば、バラゴとほむらの兄である”ジン・シンロン”の間の空気がギスギスしており、周りにとっては非常に居心地が悪いものであった・・・・・・

 

ほむらもこの空気を何とかしたかったのだが、二人が目に見えて不機嫌なのは”自分自身”であることを察しておりそれを態々口にして出す程、彼女は愚かではなかった・・・・・・

 

唯一の彼女の心の癒しは自分よりも年上の容姿でありながら、行動や思考が幼いミチルの相手をすることであった。

 

そんな様子のほむらにエルダも珍しくバラゴではなく、ほむら側に就いており飛び火しないように庇ってくれているところはありがたかった・・・

 

「あの・・・ほむらさん。エルダさんってどうしていつも黙っているんですか?」

 

ミチルからしてみればエルダは”怖い年上の人”という印象であった。

 

生気のない青白い顔に無口無表情で威圧的な雰囲気を持つ彼女の存在が苦手なのであった・・・

 

「エルダは無駄なことは絶対に言わないからよ。必要な時にしか喋らないわ」

 

出会った当初は、”魔女”を思わせる得体のしれない女であったが、今は、ほむらに戦闘訓練を師事してくれる頼もしい”師”であった。

 

「私から話しかけても返事こそはしないけど、話は聞いてくれるわ。苦手意識を持つまでもないわよ」

 

口に出してエルダを正直にフォローしても”無駄なことを”と切り捨てられるであろう・・・

 

今の彼女にとってエルダはいざという時”頼りになる”存在であった・・・・・・

 

自分と似た経験の果てに”闇に堕ちた”、”暗黒魔戒導師”の彼女に自分”IF”を思わせる為、ほむらは彼女を内心懼れていたのだが、ここ十数日間過ごし、彼女と接したことでその気持ちに変化が生じていたのだった・・・

 

「・・・・・・うん・・・言われてみれば・・・・・・」

 

ホテルで迫ってきた神那ニコに似た”少女”から自分を守ってくれていた。そのことは改めて思うと感謝すべきなのだろうとミチルは考えるが、エルダ本人は”感謝”をされても”無口無表情”で返されるだろう・・・・・・

 

「・・・・・・お礼をいうのもありだけど、エルダにはいつも通り接してあげる方がエルダの為よ」

 

ほむら自身も”エルダ”には感謝しているのだが、彼女は普段通り一言で済ませてしまうため、もう少しだけ愛想よくできないモノかと考えてしまう時があるが、考えるだけ無駄であろうと思い、ほむらは考えるのを辞めた。

 

続いてバラゴであるが、自分の中では素直になれない気持ちもあるのだが、”同族嫌悪”に近い感情を抱いている。

 

他人から見た”暁美ほむら”を一人挙げろと言われれば間違いなく”バラゴ”であると彼女は考えていた。

 

言うまでもなく、彼の目的は”唯一の究極の存在”になる為の”力”への渇望であり、その為なら、いかなる犠牲を払っても達成しようとするであろう。自分は実際の目にしたことはないが、目的の過程で”邪魔”と判断すれば間違いなく”障害”として排除するであろうことは明白だった・・・・・・

 

彼は弱い”暁美ほむら”と違い、圧倒的な戦闘力を持つ”暗黒魔戒騎士 呀”である。

 

その力は彼女が知る限り、どの魔法少女、魔女でも敵うことができない”存在”であり、最大にて最悪の魔女”ワルプルギスの夜”ですらも倒すことも容易いのは間違いなかった・・・・・・

 

故に分からないことがある”彼”が何故、暁美ほむらに構うのかであった・・・・・・

 

自分の魔法に興味があり、”ワルプルギスの夜”をこの目で見てみたいという”好奇心”で協力してくれているようだが、実際は彼に半ば”囚われている”方が正解である。

 

何故、彼は自分を手元に置きたがるのだろうか?それだけが良く分からなかった・・・

 

少しだけ分かることがあれば、彼は自分を通じて”誰か”を見ているのではと思う視線を時折、感じるが、それは懐かしさからくるものであり、その”誰か”ではなく”暁美ほむら”としてみてくれている・・・・・・

 

彼が自分を護ろうとしてくれていることに悪い気もせず、本来ならば”まどか”を護るために見滝原で準備や活動を行わなければならないのだが、彼と共にこのように”アスナロ市”に来ていることで一種の気分転換もできており、初めて出会った頃のような”恐ろしさ”は薄れていた・・・・・・

 

そんなバラゴが兄であるジンとの間に何かあったのか互いに睨み合うように険悪な雰囲気を出している。

 

自分の知らないところで何があったのか知りたいところであるが、自分が出しゃばっても状況を悪くするだけであろう。

 

 

 

 

 

 

時刻は既に深夜を回り、日付が変わって一時間ほど経とうとしていた。

 

一同はカラスキの案内で多くの参拝者を持て成すための大広間に案内される。

 

純和風の構造で畳などが敷かれ少し高い場所には歴代の神主の写真が飾られており、歴史を感じさせる掛け軸などがいくつも掛けられていた。

 

「とりあえず、みんな適当に座ってくれや・・・茶でも沸かしてくるわ」

 

カラスキが一同に寛ぐように声をかける。

 

「カラスキさん。その前にミチルを休ませても良いですか?彼女、あまり体調がよくないようなの」

 

ほむらが少し顔を赤くしているミチルの容態を伝える。

 

「そうだよ、カラやん。ぼくもほむほむの意見には賛成だよ」

 

「・・・・・・ほむほむって、私の事ですか?メイさん」

 

突然の自身の呼び方にほむらは、困惑するように聞き返した。

 

「そ~だよ♪ほむほむって、響き・・・良い感じだよね」

 

兄 ジンの友人であるメイ・リオンとは道中話してみたが、明るくそれでいて気遣いのできる女性だった。

 

最初は兄の”彼女”かと思えば、そういう関係ではなく単なる”友人”関係でしかないようだ・・・・・・

 

何故なら彼女は、”異性”に対して恋愛感情を持てないと明るく話してくれたのだ。

 

現代でこそ、理解が深まっているが世間では厳しい目で見られるのだが、彼女は”言わせたい奴に言わせておけ”

と話してくれた。

 

「その子は普通の魔法少女とは違うみたいだしね・・・」

 

メイは目敏くミチルの胸元にある奇妙な形をした”ソウルジェム”を見ていた。

 

「メイさんは・・・魔法少女の事を・・・・・・」

 

「うん・・・昔ね。契約を迫られたけど、契約をしなかったんだよね」

 

悪戯好きの猫のように笑い、カラスキに断りを入れてからほむら、ミチルはメイの案内で泊り客用の客間に案内されることとなった。

 

「メイさん。ここに泊まったことあるんですか?」

 

「うん、カラスキが年始年末に巫女のバイトを募集しててさ、その度によく利用させてもらっているんだ」

 

三人は大広間から退出するが、少し時間をおいてエルダが

 

「バラゴ様・・・ここは多少なり安全であっても用心はすべきです。私はほむらを護衛させていただきます」

 

「・・・エルダ・・・まぁいい」

 

普段はバラゴに直接意見することがほとんどないエルダの発言にバラゴも少しだけ驚いたが、アスナロ市はバグギが徘徊している地域である為、つけておいた方が良いと判断した。

 

外は雨が降っており、時折雷鳴が響く。

 

これが自然現象なのか、はたまた”魔雷ホラー”バグギによるものなのか判断はできなかった・・・・・・

 

大広間に残ったのは、ジン、カラスキ、バラゴの三人であった。

 

「・・・ほむらの手前、オレも騒ぎたくはなかったが改めて聞くぞ、カラスキ・・・龍崎駈音さん、アンタら、一体何者だ?」

 

ジンは改めて二人の問いただした。友人であるカラスキは”神社”で仕事をしている為、お祓い等を行っていることと職業柄不可解な現象や体験を多くしてきたことを知っている。

 

だが、今晩の出来事はジンの中の常識が大きく揺らいだ。想像の存在である”魔法少女”の実在とさらには、アスナロ市に現れた”金色の獣”と黒い・・・闇色の禍々しい鎧を纏った龍崎駈音の存在であった

 

一般人であるのならば、ほとんどのモノが取り乱し現実から逃避するのだが、ジンはこれをしっかりと直視し現状の把握を務めていた。

 

「何者って言われてもな・・・ジンはおいらのこの顔を知ってたよな」

 

カラスキは、自らの顔を手だ翳すと禍々しい”呪いの顔”が浮かぶ。

 

鮫の目を思わせる黒く澱んだ眼に目の下には黒く紫の入った毒々しい隈が濃く存在しており、口は耳元まで裂けていて不揃いな牙を思わせる歯が並んでいるという禍々しいものであった・・・・・・

 

「お前のその顔は前から知ってるから、今更だよ。つーかその顔、ほむらとミチルちゃんの前で見せんなよ。絶対に泣くから、あと夜中、枕元に出たら殴られても仕方がないって思えよ」

 

恐れるどころか、普通に受け止めているジンにカラスキは”呪いの顔”で笑みを作り

 

「普通なら、腰を抜かして叫ぶところだよ・・・そういうジンだから、”闇の世界”の事は知らないでほしかったのにな・・・・・・」

 

この友人は相手がどんな境遇であろうとも決して拒絶することはなくどんなことがあっても手を差し出してくれ、支えてくれる。

 

以前、お祓いに行ったときに妙に正義感だけが先走りした料理人見習の青年が居たのだが、余計なことをされて呪いが祓われるどころか余計に怒らせたこともあり、カラスキはこいつは痛い目に遭わないと駄目だと感じ、祓うには祓ったがその青年にわざと呪いを取り憑かせていた・・・・・・

 

ジン・シンロンという青年も正義感は強いのだが、彼の正義は”家族”や身近の人”に向けられていて、その人たちの支えになることを前提とした人として真っ当な生き方をしてきた。故に平穏な日常の中で一生を過ごし、血なまぐさい”闇の世界”を知ってほしくなかった。

 

だがどういう運命の悪戯なのか、妹のほむらは”魔法少女の契約”を結んでしまい、結果的にジンは魔法少女の世界だけではなく”陰我”の世界、ホラーの存在すらも知ってしまった。

 

「カラスキが言ってくれたことはオレも良くわかる。呪いってのは収まるところに収まれば何も害がないって奴だろ。だけど、今回だけは別だ、ほむらの身に起きたことはほむらの問題だというのは分かる」

 

”分かるんだ”とジンは再び、バラゴとカラスキの二人に視線を向ける。

 

「アイツはオレの妹だ!!!あの時みっともない姿をさらしてアイツを支えてやれなかった!!!だからこそ、今度は絶対にアイツを支えたい」

 

ジンの言葉にカラスキは、こういう真っ当な人間は自分達と関わっちゃいけないのにと改めて思うのだが、この青年と友人になれたことを嬉しく思っていた。

 

「・・・・・・君は血の繋がらない彼女を妹というが、彼女が必要としているのは”支え”ではなく、障害を取り除く為の”圧倒的な力”だ・・・君がどんなに頑張っても持ちえないほどのね」

 

逆にバラゴは冷たい視線でジンを見ていた。

 

数日前の暁美ほむらの家族の前では見せなかった厳しい言葉をかける

 

「龍崎駈音さんの言うことは分かってるよ。どんなに良いことを言ったとしてもオレは、体が丈夫なだけのただの一般人だ。カンフーもやってたけど正直に言って、それも役に立たないこともな」

 

カラスキやバラゴの住まう”闇の世界”は、自分達が想像にできないほどの厳しい世界なのだ・・・

 

そんな世界を知らずに生きてきた自分が今更ながら何ができるのだろうか?できることなど何もない。

 

「それでもな・・・オレはほむらの傍に居てやりたいし、アイツには笑っていてほしいんだ。妹が辛そうな顔をしていたら兄ってのは笑わせなくちゃいけないだろ」

 

ほむらの望みは、おそらくバラゴのような”力”が不可欠なものであろう。だが、それでいて辛く笑えない望みなど叶えてしまっても意味のないものではないかと・・・

 

どんな結果であろうと彼女が心の底から笑ってくれることが”兄”の望みなのだ・・・・・・

 

「ハハ。龍崎さん、こいつはとことん、妹、家族の為ならどんなことがあっても笑わせようとする馬鹿な奴なんですわ・・・龍崎さんからしたら足手纏いかもしれませんが、おいらにとってもジンには生きてほしいし、ジンらしくやってほしいんですよ」

 

若干口調こそは厳しかったが、カラスキはジンがほむらの傍に居させてもらえるように頼む。

 

「・・・・・・・・”力”無くして望みは叶えられない。僕だけが彼女の望みを叶えることができる」

 

バラゴは口調こそは、ジンを認めることはなかったが、このアスナロ市での彼女のことを考えるとこの青年にも一応の使い道はあると自分を無理やり納得させてそのまま席を立ち、出ていった・・・

 

「京極カラスキ・・・あとでバグギの事とその対策について聞かせてもらおう」

 

去り際に協力者との打ち合わせを告げて・・・・・・

 

「・・・・・・カラスキ・・・・・・」

 

「言わなくてもわかってるよ、おいらは。龍崎さんに協力をお願いしている手前こういうしかかなかった」

 

「サンキューな!!」

 

そのまま勢いよく背中を叩かれたカラスキだった。妙に力が込められていて痛むのは気のせいではないだろう

 

「で、今夜出てきたあの金色の化け物は一体何なんだ?」

 

「あぁ、そいつの為においらは龍崎駈音さんの力を借りたかったんだよ。ジンも聞いたことぐらいはあるだろ、アスナロ市の”雷獣伝説”を・・・・・・」

 

カラスキは視線で大広間に掛けられている掛け軸に視線を向けた。

 

魔雷ホラー バグギの姿が描かれていた・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

ほむらとミチルの夜の会話。家族について聞くミチル。

 

泊り客用の客間では布団が敷かれ、ほむらはミチルを寝かしつけた。

 

「・・・なんだか、ごめんなさい。ほむらさん」

 

「いいのよ・・・ミチル、貴女は生み出されてから”プレイアデス聖団”に追われ、ろくに寝ることもできなかったんでしょう。それに今夜は使徒ホラーも現れた」

 

あの強大な力を持つ”金色の雷獣”の”邪気”による悪影響も考えられるのだ。

 

「今日はこのままおやすみなさい。今は自分の体を休めることだけを考えなさい」

 

見た目の年齢は明らかにミチルの方が上なのだが、精神的な年齢ならばもしかしたら”暁美ほむら”の方が上かもしれない。いや、実際にミチルは”生み出されてから数日”の存在なのだ・・・・・・

 

「ほむほむって、そうやってみるとお姉さんみたいだね」

 

「お姉さんですか・・・アスカお姉ちゃんがこんな風にしてくれたこともありました」

 

数年間思い出すこともなかったのにどうして、今頃になって姉、アスカを思い出し、彼女が過去に自分にしてくれたようにミチルと接しているのだろうか・・・・・・

 

「私には、ほむらさんみたいな家族は居ないかな・・・最初のミチルにはグランマって人が居たみたいなんだけれど・・・よくわからない」

 

魔法少女であるが人間であるほむらには、当然のことながら両親も居れば”姉”と”兄”も存在していた。

 

そのことに”普通の人間ではない”ミチルは羨ましく思った。

 

「・・・グランマは祖母ね。私には祖父が居たわ。正直言って凄いマフィア顔だったわ」

 

それでも自分にとっては優しい祖父であり、絵本 ”火の子”の作者であった。

 

小さい頃はそれを気にすることなんてなかった。

 

「濃い顎髭に色の付いたサングラスをいつもしていたわ。小さい頃は特に気にしなかったけど・・・」

 

「じゃあ、グランパだね。今は・・・・・・」

 

少しだけほむらは、寂しそうに笑い

 

「亡くなったわ・・・覚えているのは怖い人たちが私と祖父を追い回していたわ」

 

 

 

 

 

 

”ほむら・・・大丈夫だ、お祖父ちゃんが守ってあげるからな”

 

”お祖父ちゃん”

 

人混みから離れ、気が付けば二人は街の外まで逃げていた。

 

”お前達!!なんのつもりだ!!!ほむらに、何をするつもりなんだ!!!”

 

”その子は素質がある!!!我らが指導者に選ばれたのだ!!!”

 

”お前達はニルヴァーナか!?!ふざけるな!!!”

 

 

 

 

 

 

 

「今、思い返しても私をどうして追い回していたのか分からない」

 

霧が覆うように記憶があいまいなのだが、何故か祖父の声は強く思い出すことができる。

 

「普段は争いごとを嫌う祖父が声を荒げて私を護ろうとしてくれた・・・だけど・・・」

 

 

 

 

 

 

 

”お前こそユラ様の理想が分からない愚か者だ。愚か者はユラ様の為、ここで処分する”

 

 

 

 

 

 

 

突然聞こえてきた大きな音と共に視界が真っ赤に染まった。

 

「多分、銃声だったと思うわ。祖父は頭を撃ち抜かれて私を抱いたまま倒れてしまった」

 

無理やり引き放され、連れ去られた自分は両親と再会するまでの数日間の記憶が抜け落ちていた。

 

そして帰ったときに”祖父”が亡くなっていた。死因は”事故死”として処理されていた・・・・・・

 

「あっ、ごめんなさいね。ミチル、こんな話をすべきじゃなかったわね」

 

自分の話している内容の重さに改めて気づき、ほむらはそのままミチルが落ち着き眠るまで他愛のない話をしていた。

 

「ねぇ、ほむらさん・・・わたしはこのまま生きていても良いのかな?」

 

「なにを言って・・・・・・」

 

「だってわたしは”ミチル”を模して造られた人間みたいだけど人間じゃない存在。普通じゃありえない生まれ方をしているの」

 

「貴女までなに、重い話をしているの。生きているんだから、そんな事を悩む前に体調を治しなさい」

 

ほむらは、ミチルに軽く額にデコピンをしてそのまま彼女を寝かしつけた。

 

眠るまで傍で彼女の手を握りながら・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

穏やかな顔をして眠るミチルの眠る客間を出た後、ほむらとメイは大広間へと向かっていた。

 

「ほむほむ。ぼくに聞きたいことがあるんじゃないかな?」

 

「はい、メイさん・・・あの・・・」

 

「メイさんなんてそんな風に呼ばなくても良いよ。メイって呼んでよ♪ジンの妹なんだからさん付けなんて他人行儀はなしさ♪」

 

やはり悪戯好きの猫のようにころころ表情の変わる女性である。

 

「じゃあ、メイ。貴女は魔法少女の契約をインキュベーターに持ち掛けられたのに貴女は魔法少女にならなかったことを聞きたかったんです」

 

「そのことかい?ほむほむも随分と事情通だね。キュウベえの事をインキュベーターって呼んでるところなんか」

 

「メイも魔法少女が・・・・・・」

 

「うん。知ってる・・・宇宙の為に第二次成長期の女の子の感情エネルギーを集めてるって話だけど、魔法少女なんてゴージャスな装飾品でデコレーションされた電池ってわけよ」

 

メイは笑いながら話す。魔法少女の真実は非常に重いものであるのにこの女性は何でもないように話している。

 

魔法少女にとっては死活問題であるはずなのにこのように話すメイ・リオンに対してほむらは、少しだけではあるが怒りを覚えた。

 

「気に障ったら謝るよ。ぼくにとってはもう過ぎてしまったことだからね・・・」

 

「ほむほむ・・・ちょっとだけ昔話をしようか・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

”これは、ぼくがほむほむと同じぐらい、もしかしたら、もう少しだけ子供だった頃の話だよ”

 

 

”あの頃のぼくはずっと子供で何処にでもいる子供と言う割には、可愛い女の子だったと思うよ”

 

 

”そういわないで、ほむほむ。その頃はちょっとした悩み事があってね”

 

 

”ぼくはね、女の子が大好きだったんだ。恋愛対象としてね”

 

 

”当時のぼくは実はとんでもない性癖の持ち主じゃないかと真剣に悩んだよ。同年代の女の子の”男の子との恋バナ”の話なんか当然のことながら理解できなかった”

 

 

”そういうことで悩んでいたらね・・・アイツが来たんだよ、インキュベーターが、ついでに魔女まで来てね”

 

 

”そこで魔法少女にであったんだ。それも凄く美人で一目惚れだったよ”

 

 

”本当に綺麗な子って息を飲むぐらい雰囲気があるんだ。そして誰よりも芯が通っているんだよ”

 

 

”その子・・・要 カルナにね。魔法少女になりたいって、一度言ってみたんだ。カルナみたいにかっこよくなりたいってね”

 

 

”でもカルナはぼくに言ったんだ。魔法少女になる前に自分でできることを見つけることから始めなさいって”

 

 

"インキュベーターはカルナを責め立てたけど、足蹴りして追い出されたけど”

 

 

”良い女っていうのは腕っぷしも強いんだってね、あ、話がそれたね”

 

 

”ぼくの女の子が大好きなことを解決してもらおうって考えたんだけど、それを魔法で解決するのは違うって言われてね。カルナはぼくが自分にできることを見つけようとしてた時もずっと見守ってくれた”

 

 

”そしたらぼくは思ったんだ。魔法でぼくの悩みを解決しても結局は何も変わらなくて、こうやって悩んで色々な事を考えてきたのが自分自身なんだってわかったんだ。だから、ぼくは自分らしく自分を受け入れていこうってね”

 

 

”カルナは、魔法少女の真実をぼくに教えてくれたんだ。こんな契約を結んでしまったら二度と引き返すことができないって・・・そして魔法よりも本当に大切なのは自分自身を認めることなんだって、魔法はいつか解けるんじゃなくて自分自身で解くものなんだって・・・”

 

 

”それからカルナはどうなったて?アレから会ったことはないよ。分かっているのは、カルナは今も何処かで自分自身に掛けた魔法を解こうとしているんじゃないかってことかな・・・・・・”

 

 

 

 

 

 

 

「これがぼくの昔話さ・・・カルナと別れてからインキュベーターがぼくに契約を持ち掛けてきたんだ。その頃は自分自身に納得していて悩みなんてなかったけど、ちょっと理不尽な目に遭ってイラっとしてた時に来たんだ」

 

「だから言ってやったんだ。僕はそんな柄じゃないよ。だって、皆に期待もしてないからそんな奴が身の丈の合わない魔法少女になっても希望なんて与えられないよ。他を当たってよ・・・・・・キュウベえってね」

 

”パンッ”と手を叩き、これぐらいやる気がないように言えばあきらめるでしょと付け加えて・・・

 

「これでぼくの昔話はおしまい。魔法少女になるのはその子が悩んだ末だから、どうこういう気はないけど、カルナの言うようにやり方は魔法に頼らなくてもあるってことかな」

 

メイの話を聞き、ほむらは気が重くなってしまった。

 

言うまでもなく、”鹿目さんとの出会いをやり直したい”と願った自分はメイのように自分から行動を起こしたことがあっただろうか?

 

いや、姉 アスカの死を認められずに、見滝原で新味になって接してくれた”鹿目さん”が目の前で亡くなってしまったことに自分は姉の死から逃げたように鹿目さんからの死から逃げ出したのだ・・・・・・

 

「もしかして気に障った?というよりも・・・・・・何か悩んでいるの?」

 

「・・・・・・メイ。少しだけ私の話を聞いてもらえる?」

 

大広間まで少しのところまで来ていたが、ここは敢えて適当な言い訳を考えてほむらの話を聞こうとメイは思った。

 

 

 

 

 

 

 

ほむらは今まで誰も信じなかった”自身の過去”をメイ・リオンに語った・・・・・

 

少し前にミチルに思わず話してしまった祖父との理不尽な別れ・・・・・・

 

心臓の病が悪化した為、入院した病院で出会った”姉 アスカ”と”兄 ジン”との出会い・・・

 

そして二人と一緒に過ごした騒がしくも楽しい日々・・・・・・

 

そんな日々も長くは続かず、姉 アスカの容態が悪化し彼女の死を目の当たりにしてしまったこと・・・

 

彼女の死と向き合うことで姉との思い出が暗く塗りつぶされることが耐えきれずに”一人”になりたいからと言って無理を言って”見滝原”に行き、そこで”鹿目 まどか”と出会い、魔法少女の事を知った・・・

 

見滝原に現れた最大の魔女”ワルプルギスの夜”との戦いで亡くなった”鹿目さん”・・・・・・

 

”鹿目さんとの出会いをやり直したい!!彼女を護れる私になりたい!!”

 

願い、インキュベーターと魔法少女の契約を結んだ・・・

 

時間を遡り、再び彼女と出会いともに魔法少女として歩み出した日々・・・だけど

 

それは自分達の都合の良い色眼鏡で見ていた”幻想”であった・・・

 

魔法少女と魔女の残酷な真実を知った時、かつてのような”幻想”のような時間を過ごすことはできなかった。

 

”ほむらちゃん過去に戻れるんだよね。だったら、キュウベえに騙される前の馬鹿な私を助けてくれないかな”

 

”やっと・・・名前で呼んでくれた・・・嬉しいな”

 

誰も未来を信じないという”考え”に至り、信じられないのなら自分が信じることのできる”未来”にしてやると

 

幾つもの過去を・・・何度も時を遡っても”鹿目まどか”の救うことは叶わなかった・・・・・・

 

その過程で様々な人達と出会い、別れた。

 

かつては敵対しながらもある時間軸では”家族”として過ごした 三国 織莉子・・・

 

自分と同じく時間を繰り返していた魔法少女 キリ・・・・・・

 

別れてから、鹿目まどかとのズレは大きくなり自身の無力とやり場のない怒りと自己嫌悪・・・・・・

 

そんな思いの果てに彼女は・・・暗黒騎士 呀バラゴと出会った・・・・・・

 

自分自身と合わせ鏡のような”闇色の狼”に・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

語り終えたほむらにメイ・リオンは彼女をそっと抱きしめた。

 

抱きしめてくれるメイに対して、一瞬身体を強張らせたが・・・・・・

 

「・・・・・・ほむほむ。よく頑張ったね・・・・・・ぼくに言ってくれてありがとう」

 

”よく頑張った”そんな言葉をかけてくれた人なんてほとんどいなかった・・・・・・

 

「でもメイ・・・わたしは・・・たくさんの世界を・・・・・・みんなを・・・」

 

「それはほむほむが頑張った上ででしょ・・・それにほむほむの話を聞こうとしなかった、いや、魔法少女の真実を知ろうともしなかったその子たちはなるべくしてそうなったんだよ、ちょっと厳しく言わせてもらうとね」

 

「まどかを悪く言わないで」

 

「ほむほむ・・・・・・ずっとずっと悔しくて・・・それでいて自分が嫌になってまでその子の為に頑張れるのは凄いよ。でもその子はその子で進んでしまった”破滅”は彼女自身の責任であって、救えなかったきみのせいなんかじゃない」

 

抗議するほむらであったが、メイは諭すように穏やかに話す。

 

「やり直したいと願ったほむほむの気持ちは、みんなが一度は願うことだから分かるよ」

 

「ぼくだって、カルナを救ってあげたいって思ったこともあるよ。だけどカルナはそんなことを望まなくて、自分のことを思うのなら”メイ自身の時間を生きて”って言ってくれたんだ」

 

「もしかしたらだけど・・・ほむほむに助けてってお願いした彼女はほむほむにこれから、インキュベーターに自分のように騙される馬鹿な子を助けてくれるようにお願いしたんじゃないかな」

 

「まどかが・・・そんなことを・・・・・・」

 

「ほむほむが守りたいって願った子だよね。だったら、そういう風に・・・思っていても不思議じゃないよ」

 

メイはほむらから身体を放し、軽く頭を撫でる。

 

「ずっと言えずにいたことも人に話してみると案外、今まで見えてこなかったモノが見えたりするんだよ」

 

「・・・・・・メイ。あの時、貴女のような人がいてくれたら・・・・・」

 

彼女のように魔法少女の契約を選ばなかった人物が居たら、まどか達を含めた自分達は少しだけでも明るい未来を見られたのだろうか?

 

「それは買いかぶりすぎだよ。ほむほむ・・・ぼくは君が友達の妹だから味方で居たいなって思ったんだよ」

 

悪戯好きの猫のように笑いながら足早に大広間へとメイは足を進めた。

 

「だから、ほむほむにマルを上げよう♪」

 

そんなメイの後追うようにほむらは、もう一度だけ”まどか”との約束について考えるのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

”魔法は誰かが解くのではなく・・・自分自身の力で解くものである”

 

”いつか自分は繰り返すときの更に先へ進むことが出来たとき・・魔法少女の自分はどうなるのだろうか?”

 

 

 

 

 

 

続  呀 暗黒騎士異聞 アスナロ市編 拾

 

 

 

 

 

 

時刻は既に夜が明け朝になろうとしていた。メイ・リオンは客間で眠るほむらとミチルを背に部屋をでた。

 

部屋を出ると直ぐにジンと顔を合わせた。

 

「メイ。ほむらとミチルちゃんは・・・・・・」

 

「穏やかに寝ているよ。可愛い女の子の寝顔が見れてぼくは満足さ♪」

 

「相変わらずだな・・・まぁ、今夜は色々あって眠れそうにない」

 

「そうだよね・・・ほんとに雷獣が居て、今になってまた悪さを働くなんてね]

 

一般人である二人もまた今夜の出来事で今まで過ごしてきた”日常の崩壊”を感じていた。

 

「ところでさ、ジンはほむほむの事情は知ってるの?」

 

「魔法少女の契約をしたことだけだな。どうして願って、あの龍崎駈音と一緒にいるかは分からない」

 

ジンの疑問にメイはほむらの事を彼に話そうと決めた。

 

本人には悪いかもしれないが、今は伝えられるときに伝えなければならない・・・

 

使徒ホラー バグギの脅威は未だに終わっておらずどうなるか分からないのだから・・・・・・

 

メイは、ジンにほむらが何故、魔法少女になったのかを、その願いと祈りを・・・

 

幾つもの時間を旅して、この世界へやってきたことを伝えた・・・・・・

 

「君の妹の事だけど、姿かたちはそっくりだけど限りなくよく似た別人の可能性もある。それでも君は・・・」

 

「そんなの関係ねぇよ。ほむらは、どんな事情があれでもオレの妹だ、あの時、オレの事を”兄”って呼んでくれたんだ・・・それだけで十分なんだよ」

 

「君って奴は・・・・・・ほむほむのことちゃんと見てあげるんだよ、お兄ちゃん♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

暁美ほむらの願いについてですが、一種の逃げに近いモノを感じますが、まどか達魔法少女らを救えず、犠牲にしてしまったことは少なからず彼女も気にしているようですが、それらは彼女らが選択肢したうえで進んでしまったことなのでほむらがそこまで気に病むこともないというちょっと厳しい事を書いてしまいました。

メイ・リオンは魔法少女の資格はあったけど、その資格で悩みを解決するよりもそれ以外での方法を自分自身で考え見つけることを経験した為、魔法少女の願いや魔法は不要と考えています。
今作の志築仁美辺りは、激怒し、責め立てそうですが・・・

実際に魔法少女になって願いを叶える方法以外にもできることはあったと思うんですよね

まどマギシリーズの魔法少女は、結構安易に魔法に頼ってしまう印象があり、もう少しだけ魔法に縋らずに頑張ってみてもいいんじゃないのと思うことがあります。

あるいはまどマギ世界があまり良い世界ではなく、少女らが魔法に安易に手を出してしまうような暗い世界の可能性もありますが・・・・・・

オリジナル魔法少女 要 カルナについては、やはりこちらも過去に書いていたあるキャラをサルベージしました。名前は当然のことながら変えています(汗)

ほむらも今まで他の人に話すというのは、中々難しかったと思いますが、魔法少女の事情を知った上である程度、人間としてそこそこできている人ならば心境や考えに影響が出ると思います。魔法少女同士だとある意味身内なので堂々巡りにしかならないので・・・
実際のところ”魔法少女”の真実は、当事者である魔法少女にとっては受け入れ難いので実際に目の当たりにするまでは受け入れることはできないと思います。

今作の相談相手は”女の子が大好き”なお姉さんですが・・・・・・

メイさんはおそらくは、バラゴサイドではかなり真面な人だと思います。

次点でジン・シンロン。

京極 カラスキは目的の為なら、手段を択ばないので常識はあるがあるだけなので、それを平然と破ります(笑)

そしてジンはほむらが例え”別の世界”から来た限りなく似ている別人であっても”兄”と呼んでくれるのならば、自分は”兄”であると覚悟を決めています。



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