呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝)   作:navaho

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第四話「再会」

杏子

ああ、むしゃくしゃする。せっかく頂いた財布を掏られ返されるなんて、何なんだよ、一体何処のどいつだ?アタシにこんな舐めた事をした奴は?

苛立ったアタシは普段は放って置く使い魔を憂さ晴らしに狩っていた。

 

 

 

 

使い魔っていうのは、魔女が生み出した分身のような物で”人を喰らえば魔女になる”つまり、”グリーフシード”のなるってこと。

アタシ達、魔法少女にとって、”グリーフシード”なくてはならないモノだ。”グリーフシード”を持っていない使い魔は狩るだけ無駄だ。

狙うは、高い確立で持っている魔女。持っていることが少なそうな使い魔なんて狩るだけ無駄で今回も無駄だった……

 

 

 

 

 

 

使い魔たちを狩ったアタシは、既に静まり返った街を闊歩する。アタシぐらいの年齢の奴は大抵は、寝ている時間だ。もしくは暖かい家に帰っている。

アタシにはそれはない。魔法少女って言う事もあるが、それにアタシは……

何となく冷めた気持ちを持て余していたアタシの目の前に”あの人”が………”おじさん”が居た……

「……あんた……怪我しているのか?」

誰かが傷ついても手を差し伸べることがないアタシは、気がつけば”おじさん”へ向かって駆けて行った………

正面に駆け寄ったアタシを……

「久しぶりだね。杏子ちゃん」

あの時と変わらない声と笑顔でアタシの名を呼んでくれた………

「………おじさん」

 

 

 

 

 

数年前

「最近になって、教会の教義にない教えを説いているようだが、大丈夫なのか?」

「…………そういうあなたこそ、教会の教えすら歯牙にかけることがないのに、私の心配ですか?兄さん」

一人の神父と背中を合わせるようにして話している男が居る。二人は兄弟のようである。

「分かっているだろう…俺達の使命を……」

「ええ、分かっています。救われずに悪にとらわれた魂をさらに死に追いやる”殺し”を生業にしているんでしたよね。あなたは……」

嫌悪感を表情に露にして神父は言葉を返す。

「何度言ったか分からないがホラーに憑依されることは、死を意味する。その苦しみを永遠に続かせるわけにはいかない」

「建前は結構です。あなたのような考えがあるから、世の中は不幸で溢れかえるんです。だからこそ、私は新しい教義が必要だと思ったのです」

「………そうか。だが、お前にも妻子がいるだろう。彼女達はどうするつもりだ?」

「妻と子供達は分かってくれます。だから、兄さんが関わる必要なんてないんです」

「…………………」

拒絶する弟に対して兄は、無言のまま去っていく。

「あっ、おじさんっ!!!!」

去っていこうとする男の前に赤毛の少女が駆け寄ってきたのだ。

「杏子ちゃんか…暫く見ないうちにまた大きくなったな」

駆け寄ってきた少女はそのまま男に抱きついた。

「大きくなっても変わらないな……桃ちゃんも元気かな?」

「うん、桃もお母さんもお父さんも元気だよ」

満面の笑みを浮かべて応える杏子に男は、満足そうに笑みを浮かべた。

「そうか……それは良かった。俺はこれから仕事に行かなければならない。だからしばらく杏子ちゃんには会えない」

「えっ……もう会えないの?」

寂しそうな表情になった杏子に男は視線をあわせるようにして屈み

「そういうわけではない。また、会えるさ。いつになるか分からないが、この近くに着たら必ず会いに行く。それまで待っていてくれるかな?」

杏子を安心させるように頭を撫で、お土産のお菓子を手渡した後、男はその場を後にした………

男が去った後杏子は、

「ねえ、お父さん。おじさん、また会いに着てくれるかな?」

「…………それは分からない。あの人の仕事は、何時死んでもおかしくないからね。杏子、今日のことは忘れなさい」

手を引かれ教会へと行く杏子は振り向きざまに去っていく男の姿を教会の中へ入るまで見ていた……

 

 

 

 

後に男は、風雲騎士 バドの称号を得ることとなった……

 

 

 

 

 

そして……現在 見滝原

「杏子ちゃんか、しばらく見ない間にまた大きくなったようだね」

肩を貸してくれる杏子に対して、バドは”少しかっこ悪いところを見せてしまったな”と内心思ってしまった。

「おじさんこそ、変わらない。なんで・・・・・・・・・」

顔を俯かせた姪に対して、バドはその事情を察した。

呀と交戦する前に、杏子達がいた教会へ足を運んだのだが……少し前に一家が心中した事を知っていた。

風の噂で杏子が孤児になってしまったことも知っていたが、ある事情で会いに行くことができなかったのだ。

「こんな事をいっても何もならないかもしれないが、杏子ちゃんが生きていて良かったよ」

彼の言葉に杏子は突き放すようにバドから離れる。

「何言ってんだよ。アタシが生きていて良いことなんてないから、そんなこと……言うなよ!!!!」

変わらぬ”おじさん”に対して、変わってしまった自分自身に嫌気が差したのか杏子は、背を向けて走り去ってしまった。

「杏子ちゃん!!!!」

バドも急いで彼女を追う。普段なら追いつくのは容易であるが、先ほどの戦闘のダメージが抜け切っていないのだ。

普段なら気を弱くすることはないのだが、気を緩めてしまったせいなのか……彼女の精神的な揺らぎに呼応するように”それ”は現れた。

 

 

 

 

 

 

彼女の周囲が奇妙な風景に変わっていく。それは、たくさんの積み木が積まれている世界だった………

その中でも一番大きな積み木の影からゆっくりと魔女 ”らくがきの魔女”はゆっくりとその姿を現した。

いつのまにか魔女結界に迷い込んでしまったことに軽く舌打ちをして、直ぐに自身のソウルジュウムを掲げたと同時に赤い光と共に槍を携えた魔法少女の姿へと変わる。

「ったく、今日は本当に厄日だ。財布は掏られるし、よりによって”おじさん”に再会するなんて………」

あの日からずっと会いたくても会えなかった人に出会えたことに喜びを感じる一方で、今の自身の現状に苛立ちを覚える気持ちのほうが大きかった。

 

 

 

 

 

 

槍を構え、魔女に向かって杏子は大きく飛翔した。槍を構え覗き込んでいる魔女に一閃を浴びせるが、魔女は怯えた子供のように頭を抱えて蹲る。

彼女を護るようにらくがきのような物体が杏子に特攻するかのように突撃する。それは”らくがきの魔女の使い魔”である。

”ぶぅ~~~~ん”というプロペラの音を立てて杏子の周りを大きく旋回する。その使い魔に釣られるように車に乗った誰かを描いたらくがき、船に乗った誰かを描いたらくがきがそれぞれ現れる。

複数に存在し、杏子を取り囲む。

「厄介だな、この使い魔共」

戦いを仕掛けてくる使い魔たちと違い魔女は、味方を得た子供のように万歳をしている。まるで子供そのものである。見た目も画用紙に描かれた子供そのものだが……

故に杏子は何故かは分からないが、ムッとした。

「……餓鬼は寝んねずる時間だ」

喜ぶ魔女に対して、杏子は槍の柄を二つに分離させその間から鎖が出現し、それを蛇のように操り地上に居る使い魔と上空にいる使い魔の両方を瞬時に切り伏せ、勢いのまま魔女が居る場所まで駆け上がる。

不敵な笑みを浮かべ、左右から交差するように来る飛行する使い魔を再び槍に形を戻して、正面から切り伏せて驚いたような仕草をする魔女を斬りつける。

切りつけられた魔女は、小さな子供のように身体を震わせて泣き始めた。

”ああああああああああああああああん”

泣き始めた魔女の声を聞いたとたん、杏子は意識が奇妙に揺れるのを感じた。魔女の中には精神に直接攻撃してくるものも存在している。

普段なら、対処は可能だが、今の杏子は対処できなかった。理由は言うまでもなく、この結界に入る前に大きく心を乱してしまったからだ。

”ぶぶぅ~~~~ん”

という奇妙な音と共に左から衝撃を受け、杏子は結界の地に伏せてしまった。

「くそっ、何なんだ?さっきのは……」

頭を抑えながら、杏子は直ぐに態勢を立て直そうとするものの使い魔の方が対応は早かった。

”ぷぷぅ~~~”

車に乗った人のらくがきが杏子に向かっていく。これに引かれる光景を脳裏に浮かべながら、槍で防御の態勢に入る。

 

 

 

 

 

「追ってきてみれば、最近の子は、こういう事は当たり前なのか?」

 

 

 

 

 

 

 

コートを靡かせ、二振りの風雲剣で白い軌跡を魔女空間に描き、杏子の前に降り立ったのは ”おじさん”こと。バドであった………

「お、おじさんっ!?!」

杏子は場違いな驚きの声を上げてしまった。何故こんなところに彼がという気持ちが一杯だった。

「お、おじさんっ!!!は、早く逃げろよ!!!」

バドに詰め寄り杏子に対して、彼は片手で制する。

「それはこっちの台詞だ、杏子ちゃん。大丈夫、奴と比べれば、そうそうこのモノに遅れは取らんさ」

杏子には悪いが、先ほどの魔女と使い魔達の関係を見て、魔女は直接攻撃することが出来ないようだ。だが、相手を怯ませるぐらいの能力があることを把握したのだ。

杏子に背を向けると同時に二振りの風雲剣を構えたと同時に頭上に掲げたと同時に光と共に 狼を模した銀の鎧を召還する。

これこそ、彼の魔戒騎士としての姿 風雲騎士 バド………

「っ!?!!」

驚く杏子を横目に鎧の内で笑みを浮かべたと同時に二振りの風雲剣に雷が走ったと同時に周りの使い魔全てが消し飛んだ。

消し飛ばされた後、魔女は怯えたように身体を大きく震わせる。”泣く”暇など与えるものかと言わんばかりにバドは駆け出したと同時にその姿を二つに分身しさせた。

「ろ、ロッソ・ファンタズマっ?!?」

かつての仲間が名づけてくれた技を口走った杏子であった。

魔女の左右に展開し、それぞれが風雲剣を投げそれが交差するように魔女を切りつけるが寸前の所で通り過ぎたが、頭上でいきなり止まり青い光と共にバドが目前に現れた。

分身は、いつの間にか消えており、”泣く”事よりもそれに気を取られてしまった魔女は驚くしかなかった。

二振りの刃が交差した時、魔女はその姿を霧散させ、消滅した………

それと同時に、魔女結界が消失し、深夜の路上に対峙する様にバドと杏子の姿が現れた。少ししてから鎧が解除された……

「………………」

「お互いに聞きたいことは、あそこで話そうか」

バドが指差したところには、24時間営業のレストランがあった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深夜なのか、客はほとんど居らず、二人の貸しきり状態だった。

「杏子ちゃん。好きな物を注文してかまわないぞ」

「うん、何食おうかな♪って、違うよ!!!」

久々のご馳走に対して、上機嫌の杏子だったが、自身のおじの正体をはっきりさせなければならなかった。

「そうだったな。食事をする前に言っておくと俺は魔戒騎士をやっている」

「魔戒騎士?何なんだよ、それ……」

「簡単に言うと、人を襲う化け物を狩る仕事をしている者達のことだ」

”人を襲う化け物”という言葉に、杏子は自身が狩る魔女達の姿を頭に浮かべた。

「化け物は、決まって何かに憑依する奴だ。今日見たアレとは全く別物だ」

「なあ、それって……正義の味方と化け物の関係なのか?」

杏子の疑問にバドは少し苦笑しつつ

「そういう簡単なモノではない。憑依されるのは人間だ。性質の悪いことに憑依された人間を戻す方法はないと着ている」

「じゃあ、取り付かれた人間ごと……」

「ああ、憑依されたなら斬る以外に方法はない」

バドの言葉に杏子は唖然とした。かつての仲間なら、そういう場面は許さないだろうと思いながら……

「今度はこっちから聞くよ。久々に会ってみたら普通では考えられない”力”を持っているようだが?」

「………おじさんは正直に言ってくれた。だから、話すよ」

杏子は赤いソウルジュウムをテーブルに置き、語りだした……それは一人の少女の後悔だった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正直で人を救うことに真面目だった父を助けたくて、少女は祈った。

”父の話を皆が聞いて欲しい”と……

その祈りは叶えられたが、祈りは決して幸福な結末を齎さなかった……

表と裏で世界を救うと心に決めていたが、ある時、父は”真実”知った。

少女の事を”魔女”と罵り、自身に絶望し、少女だけを残して、逝ってしまった………

 

 

 

 

 

 

 

 

「アタシの勝手な祈りが……家族を壊しちまったんだ」

新聞で不幸な人を知るたびに涙する優しい人を傷つけ、絶望させてしまったことに、今も彼女は後悔していた。

「……………」

無言のままのおじに杏子は、

(当たり前だよな。家族を壊し、殺したのはアタシだもんな、軽蔑するよ)

おじは、無言のまま席を立った。”見捨てられた”と思い、杏子は俯いてしまう。数秒たって、彼女はおじに優しく抱きしめられていた。

「お、おじさんっ!?!」

「……何も言うな。お父さんのために何かしようと思ったのだろう、ずっとお父さんの助けになりたかったのだろ。仕事を理由に一人にして、すまなかった」

まるで詫びるようにいうおじに対して杏子の目に涙が浮かんだ。

「どうして…アタシは、父さんを、母さんを、ももを殺したも当然なんだぞ……なんでおじさんは、アタシを責めないんだよ」

「杏子ちゃんを責めても何にもならない。過ぎてしまったことは、”バルチャスの駒”のようにどうあってもやり直すことは出来ない」

さらに強く杏子を抱きしめ、優しくその頭を撫で

「だから、これからは杏子ちゃんが幸せになることだけを考えるんだ。罪を犯したのならそれを忘れるのではなく、忘れずにずっと覚えておくんだ」

他にも杏子が無理をして、進んで犯してしまった罪があることも察したが、それは言うまでもないとバドは思った。

本来の杏子は、人を思いやれる優しい子である。それを否定して罪を言及するなど、余計に杏子を傷つけてしまう。だから、自分が見守ることを誓う。

それが唯一残った身内である自分の務めであるからこそと………

「おじさん……アタシなんかが幸せになっていいのか?アタシは……アタシは……」

「だから、悪人になりきって誰かに罰せられたいのか?それは、単に逃げているだけだ。何時までたっても前には進めん」

おじの厳しい言葉に杏子は僅かに震える。

「だからこそ、前に進むんだ。どんなに罪を犯しても、許されなくても……居なくなっていいという理由にはならない。

生きている限り生き抜かなければならない。そもそも居なくなっていい人間など居るものか」

だからこそ、此処にいてよいと肯定する。その言葉に杏子は涙した。意地なのか杏子は決して鳴き声を漏らさなかった……

そんな姪にたいして、おじは泣き止むまで優しくあやしていた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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