呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝)   作:navaho

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8月に入ってから急に忙しくなりましたが、更新は続けていきます。




第弐拾捌話「 転 廻 (弐)」

 

見滝原市

 

志筑仁美は、骸骨のアクセサリーに似た魔導具を弄びながら自分の手で魔法少女を攻撃できることに喜色の笑みを浮かべていた。

 

まだ魔女に対して攻撃を行ってはいないのだが、いずれ戦力の確認も兼ねて”魔女狩り”を行っても良いだろうと考えていた。

 

少し前は魔女や魔法少女と遭遇すれば、無様に逃げるしかなかった自分が今や攻勢に出ることが出来る。

 

そう思うだけで愉快だった。

 

彼女に”想い”に応えるように、物言わぬ”人型魔導具”らが、幽霊のようにビルの間を駆け抜けていく。

 

夕暮れに照らされたビル街の影に紛れるように進む”黒いローブ”の男達の存在を誰も気が付くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

髑髏にも似た白い仮面に存在する黒い眼窩がビルの間を進む二人の魔法少女を映し出した。

 

その光景は黒いローブの男たちの主である”志筑仁美”にもしっかりと見えていた。

 

「さぁっ!!!行きなさい!!!!わたくしの願いを踏みにじった忌々しい美樹さやかに相応しい罰を与えなさい!!!」

 

”想い人”を死に追いやった”元凶”には同じ惨めな”死”を持って償わせる。

 

未来ある”彼”を絶望に堕とした彼女が行く先は”地獄”以外にないと志筑仁美は考えていた・・・

 

 

 

 

 

 

 

さやかの隣りを移動していたソラは不意に自分達に近づいてくる”何”かに気が付いた。

 

「さやかっ!!!何かが私達の直ぐ近くまで来ています!!!」

 

「なにっ!?また、あの変な針に操られた人達!?」

 

「いえ・・・これは、人間でも怪異でもない別の何かです」

 

「それって・・・って、言ってる傍から、アタシ達、囲まれてるっ!?!」

 

ビルの影より、ある者は屋上を飛び越えて、二人を黒いローブの男たちが取り囲んできた。

 

一人の黒いローブの男が勢いよくさやかに近づき、ローブの中から肘から下が無骨な”大剣”と化した腕を勢いよく振るってきた。

 

幽霊のような動きに反比例して、その攻撃の威力はすさまじく、避けることが出来たが足元のビルの屋上に大きな傷を付ける程のものだった。

 

「なに?こいつら!?人間じゃないよねっ!?!」

 

さやかの驚愕の叫びを合図に黒いローブの男らは一斉に攻撃を開始した。

 

幽霊のように浮遊しながら高速で移動する男らの異形の腕から繰り出される攻撃を持ち前の素早さでさやかは回避しつつ、顔面に蹴りを加えるがこれと言って痛がる素振りも見せなかった。

 

背中合わせにソラと二人で互いの武器で攻撃を往なし、それぞれ反対側に抜けることで距離を置く。

 

「・・・もしかしてこれは・・・魔導具なのでしょうか?」

 

知識としてはソラも知っていたが、このような人型魔導具を見るのは彼女もまた初めて出会った。

 

刃を突き付けてくる攻撃を薙刀の刃で返し、そのまま抜けるようにして足を切断すべく払うが・・・

 

「っ!?!」

 

金属音と共に刃が弾かれてしまい、そらは黒い男の突進を諸に受けてしまい、そのままビルの間へ落ちていく。

 

切り裂かれた足元のローブからは、人の脚ではなく馬の脚を思わせる蹄行性の生き物のソレであった・・・

 

「ソラっ!!!」

 

突然襲いかかってきた黒いローブの男達の攻撃を受けながらもさやかは攻撃を受け、ビルの谷間に落ちそうになる妹分の名を叫んだ。

 

黒いローブの男たちの幽霊のような動きと仮面をつけている為か表情は読めない。

 

腕そのものが武器と化しており、叩きつけるように振るわれ、その一撃により近くの巨大な電子掲示板をショートさせる。

 

この攻撃をさやかは避けるが、ソラを助けることに意識を取られてしまい、真上からくる黒いローブの男の存在への反応は遅れてしまった。

 

「さやかっ!!!危ない!!!」

 

このことに気が付いたソラがさやかの身を案じて叫ぶが肝心のさやかはこのままでは攻撃を受けてしまう。

 

黒いローブの男の真横より十字の刃を持った杖が勢いよく飛び出し、そのまますぐ近くのビルの壁に縫いつけてしまった。

 

「っ!?!!」

 

二人が十字の刃が飛び出してきた方向を見ると黒い翼を背中に背負った女性の姿があった。

 

ビルの間に吹く風に黒い髪を靡かせ、紫がかった黒い瞳が見下ろす。

 

彼女が立つ鉄塔が夕日と影により、”傾いた十字架”のようにも見えた・・・

 

「こいつらね・・・ギュテク・・・」

 

『ああ、遠慮はいらん。所詮は単なる操り人形、存分に力を振るってやれ』

 

鉄塔を思いっきり蹴り、ほむらは自身が放った杖の元に飛び、再び手に掴むと同時に背後に迫ってきた黒いローブの男・・・

 

人型魔道具を両断すると同時に離れた上半身を思いっきり突き上げ、魔導力を流し込んで爆発させた。

 

さやかからほむらに標的を変えて迫ってきた別の人型魔導具に対して杖の刃の部分の反対側である石突をその頭部に突き立て、勢いよく吹きと飛ばす。

 

「美樹さんっ!!!」

 

黒髪の女性の声に応えるようにさやかは、吹き飛ばされる人型魔導具の胴体を勢いに任せるようにしてサーベルを両手で持ち、

 

「やぁあああああああああああああっ!!!!」

 

人型魔導具を両断する下半身と上半身に分かれ、上半身はビルの屋上の壁面にほむらの放った杖によって縫い付けられてしまった。

 

人型魔導具からは、人間の血のように赤く生臭いものとではなく死臭が漂う紫色の血が飛び散った。

 

「こいつら・・・やっぱり人間じゃなかったの?こんなやつらよりも・・・ソラっ!!」

 

自分達を襲ってきた”存在”も気になるが、妹分はどうなったのかとそちらに意識を向ける、

 

「大丈夫です。あちらに居る彼女のお陰です」

 

すぐ近くに降り立つ背中に”黒い翼”を背負った女性を見た。

 

自分達を助けてくれた存在であるのだが、若干ソラは警戒していた。

 

そんなソラにさやかは、

 

「ねえ、ソラ・・・気のせいかもしれないけど、アタシ見覚えがあるんだよねあの人」

 

「えっ!?さやか・・・魔戒騎士以外で知り合いが・・・」

 

ソラから見てもあの黒い翼を持った女性の存在は今まで見たこともないし、その存在すらも聞いたことがなかったのだ・・・

 

さやかは何処かで会ったかもしれないと言うが・・・そもそも一体何処でと疑問が浮かぶ。

 

ほむらは、昨夜の佐倉杏子と同じ反応をしていることに内心、苦笑するが、今は・・・

 

「ギュテク・・・魔導具を操作している人を追えるかしら?」

 

『すまん・・・操作していた奴は、普通の人間と変わらないところまでは分かったが、人混みに紛れ込まれて気配が追えなくなってしまった・・・』

 

「気にしないでギュテク・・・とりあえずは、美樹さん達を助けられたし、魔導具を使っていたのは法師や騎士の類じゃないことが分かっただけでも収穫よ」

 

もしかしたら法師や騎士がこちらに来たのではと考えていたが、魔導具を何らかの事情で手に入れた”一般人”であるとギュテクが教えてくれたことだけでも十分だとほむらは応えた。

 

『そうか・・・しかし、お前も随分と我に気を許しているな』

 

「アスナロ市での事?ギュテク、あなたはあの”バグギ”ではなく、今は私と契約している”魔導輪 ギュテク”よ。それにあなたは自分の課したルールを破ることはしないんでしょ」

 

自信を気遣ってくれるほむらに、ギュテクは彼女があまりにも気を許しすぎているのではと思ったが、彼女自身もその辺りは自覚している。

 

ギュテク自身が課しているルールを守る姿勢に信頼を置いていた。

 

『その通りだ。だが、今はあの二人に事情を聞かなくてはならんな』

 

「・・・そうね。今回の件もそうだけど、私が離れている間に見滝原では今までになかった事が起きているのだから・・・」

 

昨夜聞いた佐倉杏子からの話によると”上条恭介”のホラー化という、今までの時間軸では経験したことのない事が起こっていた。

 

此処に来るまでの間に見聞きしたニュースなどでもそのことは報じられていたのだ。

 

”上条恭介”の最期を見届けた彼女 美樹さやかは、どんな想いを抱いてこの場に居るのだろうとほむらは突き立てていた杖を引き抜いた。

 

「美樹さん。そんなに警戒しないで・・・少し前に一緒に戦ったのを忘れたのかしら?」

 

振り向きざまに自身の”変身”を解き、さやかに声を掛けた。

 

さやかの傍にいるよく似た顔立ちの和装の魔法少女がソラであろう・・・

 

(・・・人工的に生み出されたインキュベーターでありながら、魔法少女・・・まるでミチルね・・・)

 

彼女の事も既に聞いていた。話を聞いたときは、アスナロ市での事を思い出し少し気分が落ち込んだが、実際に見てみると懐かしさとも寂しさにも似た感情を覚えた。

 

自分が守り切れずに”犠牲”になった”ミチル”に似た彼女と共にいるさやかをほんの少しだけだが、羨望の想いを抱く。

 

「ふぇ?少し前に一緒にって・・・」

 

女性の声と顔が早く会いたいと思っていた”魔法少女 暁美ほむら”がさやかの中で重なった。

 

「えぇええええええええええっ!!!!ほむらぁ!!!!!!」

 

(・・・みんなこういう反応をするのね。バラゴ、ジンお兄ちゃんやメイ、カラスキさんはそこまで驚いてはいなかったけど・・・家族に会った時が少し気が重くなるわね・・・)

 

エルダに至っては、”魔戒札”による”占い”で見えていたらしく、いつものように無表情だった。

 

「ちょっとぉおおおお!!!一体、何があったの!!!!!どうして、大人になってんのよ!!!」

 

あまりのほむらの変わりようにさやかは、失礼にも彼女を指さしてしまった。

 

「さ、さやか、落ち着いてください。ここで騒ぐとまた敵に気づかれてしまいます。それと人を指さすのは失礼です」

 

「あ、ごめん。ソラ・・・じゃなくて、ほむら・・・さん?」

 

「いえ、ほむらで構わないわ。美樹さん、私の変わりようは魔法少女であることを除いても、驚かれるのも無理はないから気にしていないわ」

 

「そ、そうなんだ・・・じゃあ、ほむらって呼ぶね・・・」

 

戸惑い気味にさやかは、ほむらに近づく。ソラは、敵に襲来を気にしているのか周囲に気を配っていた。

 

「大丈夫よ・・・ギュテクの話だと相手はもうこの近くから離れたわ」

 

「ギュテク?」

 

聞きなれない単語にソラは疑問符を浮かべる。

 

『我の事だ・・・小娘・・・ではなかったな。お前があの佐倉杏子の言っていた”ソラ”で相違ないな?』

 

ほむらの皮手袋を付けた右手首につけられた鳥と骸骨でデザインされたアクセサリーが話していた。

 

「はい・・・私の事もあなた方は、知っているのですか?」

 

『ああ、昨夜、佐倉杏子と風雲騎士に大まかな事は聞いている』

 

「話は聞いているけど、お互いに会うのは初めてね。美樹さんとは数日ぶりになるけど・・・」

 

「それは、そうだけど?ほむら、一体、どうして大人になったの?魔法少女は、最終的に魔女になるしかないのに・・・」

 

さやかの発言にほむらは、彼女が既に魔法少女の秘密を知っていることにここで気が付いた。

 

「美樹さん・・・どうしてそのことを?誰も信じられなかったのに・・・」

 

「まぁ、そうだよね・・・アタシもソラと出会わなければ・・・もう一人のアタシの末路を見なければ、今も心の何処かで自分は関係ないって思っていたんだろうね」

 

明日は我が身とは、よく言ったものである。自分も今後どのような最期を迎えるかは正直分からない。

 

今となっては”守るべき願い”など、とうの昔に砕け散ってしまったのだから・・・

 

「もう一人の美樹さん?それは・・・まさか・・・」

 

上条恭介がホラー化した際に人魚に似た魔女が現れたと佐倉杏子から聞いており、さらにはその人魚は上条恭介に好意を抱き、さらにその使い魔の中には志筑仁美に似たモノも存在していたと・・・

 

それは美樹さやかが”魔女化”した存在である”人魚の魔女”である。

 

いくつもの廻った”時間軸”では嫌という程見てきた存在なので、話を聞くだけで容易に思い浮かべることが出来るのだが・・・美樹さやかが健在なのに、”人魚の魔女”が何故現れたのか?

 

単純に似ている”使い魔”ではとも考えたが、さやかは、その人魚の魔女を”もう一人の自分”と認識している・・・

 

話を聞いたときは、正直ほむらも信じられなかったし、佐倉杏子自身もその正体は良く分からないと言っていた。

 

「うん・・・多分、近い未来から来たというか迷い込んできたアタシなのかもしれない。こんな事をいうのもおかしいかもしれないけどね」

 

さやかも自分の言葉が到底信じられるものではないと自覚しているが、話さずにはいられなかった。

 

(これは・・・今夜。杏子、美樹さんに私自身の事を打ち明けなければならないかもしれない・・・)

 

「アタシの事よりもほむら、ここに来るまでに仁美を見ていない?」

 

「さやか、彼女は志筑仁美の事は・・・」

 

「志筑さんのことなら知っているけど?どうして、彼女の名前が出てくるのかしら?」

 

ほむらは、この場で出てきた意外な人物の名前に眉を寄せるが、さやかの言葉に驚愕する。

 

「多分、こいつらをアタシ達に寄こしたのも、ここ数日の間の殺人事件を起こしているのは仁美なんだ」

 

「それはどういうこと?志筑さんが・・・まさか・・・」

 

何故、志筑仁美が出てくるのだと?ほむらは、意外な人物のイレギュラーな行動に驚きの声を上げる。

 

さやかは、視線を仰向けに倒れた黒いローブの男に視線を落とす。

 

そこには、青白い顔をした死人そのものの”素顔”をさらした”人型魔道具”の姿が・・・・・・

 

「・・・・・・ほむら・・・全ては、アタシの独りよがりの想いが原因なんだよ・・・・・・」

 

さやかは、ここ数日の間に自身の身に起きたことをほむらに語るのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

志筑仁美は、人混みに紛れるように歩きながらパーカーのフードを被る。

 

(まさか・・・あのような存在が居るなんて・・・どうしてこうもわたくしの邪魔ばかりする存在が多くいるのでしょうか?)

 

先ほど、死体を使った”人型魔道具”で美樹さやからを襲撃し、そのまま亡き者にしようとしていたが、突如として乱入してきた黒い翼を背負った女性により妨害されたことに若干の苛立ちを仁美は覚えていた。

 

(そういえば、カヲルさんが言っていましたわ。見滝原には魔戒騎士の逸れモノ暗黒騎士がいると・・・)

 

協力者のカヲルが言っていたことを不意に思い出した。

 

見滝原には佐倉杏子とその伯父である魔戒騎士以外にも別のグループが存在していると・・・

 

そちらは佐倉杏子とその伯父である風雲騎士と比べるとかなり厄介らしく、話し合いに応じてくれるとは思えないそうだ。

 

厄介な部分は、ホラーや魔女などの怪異を自身の”糧”として喰らうのだと・・・

 

その”ホラーやその他の怪異を喰らう”という部分に仁美は恐ろしさを感じていた・・・

 

暗黒騎士の傍に”堕天使”を思わせる黒い翼を持った女性が居ることも・・・

 

暗黒騎士はその女性を大切にしており、傷つけようものならば容赦なく傷つけた者に死ぬことよりも恐ろしい制裁を加えられると・・・

 

さっきの”女性”がそれだったのだろう・・・

 

(カヲルさんが何故、アスナロ市の明良さん達をわたくしに紹介したのはこういうことも想定していたのですね)

 

”堕天使”を思わせる女性の存在は確認できたが、最大の脅威となる”暗黒騎士”の姿が見えないことに不安を覚える。

 

顔こそを秘薬で変えているということに慢心してしまうことと万が一ということにも警戒し、彼女はすぐに別の場所で展開させている”戦力”の様子を確認する。

 

髑髏のオブジェの魔導具を仕舞い、蠍の形をしたアクセサリーを周りに気づかれないように起動させる。

 

(フフフフフフ・・・正義の味方は動いているようですわね)

 

魔導具を通じて、”正義の味方”を名乗る青年の視界が映り込み、そこには何となく知っている日曜の朝8時ぐらいに放送されているヒーロー番組のコスチュームを着ている人物が怯えている見知ったクラスメイトを庇っている光景が映った。

 

(保志くんですわね?あの時は余計な邪魔をしてくれたせいで・・・まぁいいですわ。正義の味方さん。そんな偽物を屠って下さい。目撃したその子もあの人が非業の死を遂げられたのに気ままに生きているような人も生きていてもこの先何も発展もないですし・・・)

 

仁美は薄ら笑いを浮かべて、鋼殻装甲を展開した青年のこれからの行動に心を震わせた。

 

虚構のヒーローなど都合の良いシナリオでしか存在しない。

 

それを”本物の力”を持った”正義の味方”が現実を見せる為に制裁するというのは、なんと素晴らしい事なのだろうかと・・・

 

彼女自身気が付いていないのかもしれない。傍から見ると彼女はここ数日で変わっていた。

 

かつては人の痛みを理解し、気遣うことも出来ていた心優しい少女であったのだが・・・

 

今は、人を傷つけ、刃で刺し殺し、果ては縄で首を絞め、怨みのままに憎い相手に銃弾を浴びせる。

 

通りすがりの老夫婦の命をこの手で奪ったことにたとえようのない戦慄と喜びさえも覚えていた。

 

今まで当たり前と思っていた”日常”を自身の手で壊すことにさえも・・・

 

彼女は気づかない。彼女の心が既に”壊れている”ことに・・・・・・

 

それを正そうとする気さえなく、様々な手段を用いて”人”の命を自身の”願い”の為に犠牲にすることに何の罪悪感も抱かず、業を重ねていく・・・・・・

 

そこには、かつての日常に居た心優しい少女は居らず、少女の姿をした”陰我”が存在していた・・・

 

何処で間違えてしまったのだろうか?

 

 

 

 

 

 

「な、何なんだよ!?こいつ・・・」

 

保志は目の前に現れた恐ろしい蟹とも蠍にも見えるグロテスクな怪人物に怯えに似た表情を浮かべていた

 

「分からないな・・・こんなグロテスクな奴。朝のテレビには、絶対に出せないだろう」

 

朝の特撮番組である”仮面騎士 ゼロナイン”の撮影現場に突如として現れた謎の”怪人物”に番組の主役である”ゼロナイン”の衣装を着たスーツアクターは、知り合いである保志を庇うようにして怪人物の前に立った。

 

『お前を俺は知っているぞ。昔、ガラの悪い連中と付き合っていたことを、そんな奴がヒーローを名乗るなんて許せない!!!本当の正義がお前の過去の罪を裁いてやる!!!』

 

「なにを、言ってんだ!!この化け物!!!兄ちゃんは!!!!」

 

保志が蠍の怪人物に声を荒げるが・・・

 

『化け物?お前には、”正義”が見えないのか?正義とは、悪を制裁することなんだ!!!』

 

蠍の目に似た三つの目が感情の昂ぶりに応えるように赤く光る。

 

「リン・・・俺が昔、ヤンチャしてたのは変えようのない過去で色んな人に迷惑をかけたのも真実だ。だけど、俺はレンカが死んで、守れなかったこととアイツが大好きだった”ヒーロー”になろうと思って今がある。どんなに足掻いても過去を清算なんでできない。お前のような血に飢えた怪物に言われなくても分かっているんだ!!!」

 

ゼロナインのスーツを脱ぐことなく、前に進み出るように保志が”兄”とよぶ彼は構えを取る。

 

『何を言っているんだ。俺が血に飢えた怪物?力の無い弱い人たちを傲慢な存在から護る正義に』

 

「これの何処が正義だ!!この現場には沢山の人達の想いが夢があったんだ!!!みんな、毎日が辛くてもそれを叶えようと頑張っていたのに、お前がそれを滅茶苦茶にしたんだ!!!人の夢を想いを踏みにじる正義なんかない!!お前は、自分の正義の為に血を見るのが好きなただの怪物だ!!!」

 

『嘘つきの正義に、力の無い正義に存在価値はない。お前は後悔しながら死ぬんだ』

 

赤茶けた拳を握り、”正義”を名乗る蠍の怪人物が一歩を踏み出す。

 

その姿に保志は、尋常ではない力を持つ怪人物に恐怖を覚えるが、対照的にゼロナインは引くことなく一歩を踏み出した。

 

「に、兄ちゃん!?何やっているんだよ!!あいつは、ヤバいって、殺されるって!!」

 

騒ぐ保志に対し、ゼロナインは彼を安心させるように肩に手をやる。

 

「リン・・・ヒーローに強敵は付き物じゃないか・・・」

 

『悪の癖に俺を怪人呼ばわりか?偽物の・・・作り物の癖に・・・』

 

「ハンっ!こういう挑発に腹を立てるなんて、自分でもわかっているんじゃないのか?正義の味方じゃなくて、血に飢えた怪人だってな」

 

『煩い!!その生意気な口を叩けないようにしてやるっ!!!』

 

自身の正義を貫こうとする”蠍”の怪人と白いスーツを着た虚構のヒーローゼロナインの影が互いに交差した・・・・・・

 

その光景を佐倉杏子とその伯父が傍から見ていた。

 

「危ない!!伯父さん!!!早く行かないと!!!」

 

杏子は、ホラーや魔女に近い気配を放つ”鋼殻装甲”に向かおうとするが・・・

 

「杏子ちゃん、ここはオレが行くべきかもしれないが、今回はあの白いヒーローの方が良い線を言っていると思うよ」

 

「なにって・・・ええっ!?!」

 

『ふふ、杏子、Justice will win。正義は勝つんだよ』

 

ナダサの言葉を証明するようにゼロナインは見事な投げ技で、”鋼殻装甲”を纏った彼を思いっきりアスファルトの地面に叩きつけていたのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

ほむらの戦闘スタイルは完全に黒曜騎士っぽくなっています(笑)

仁美は仁美で闇堕ちした自分に満足しています。

仮面騎士 ゼロナイン。

この時間軸における朝のヒーロー番組。子供らからは絶大な支持を得ています。

ゼロナインの主演兼スーツアクターは、保志くんの従兄弟のお兄ちゃん。

なんだか格好の良い役柄で出てきていますが、ゲストキャラです。

正義も味方(笑)ヒーロー番組にクレームを入れるけど・・・・・・

次回はバド伯父さんと杏子ちゃんが見守る中、正義の味方の本性が思いっきり出ます。




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