呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝)   作:navaho

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八月に更新すると言いながら、久々の更新。

正義の味方さんが活躍?します。

タイトルを変えてみました。

ほぼ番外編に近いです。






幕間 「正 義 (前編)」

 

 

 

「・・・今更だけど、お前、昔見滝原中学校に通ってたアイツか?もしかして・・・」

 

ゼロナインスーツを纏ったアクター兼番組の主役である 勝巳 ゲキは、かつて通っていた見滝原中学でクラスメイトだったある少年を思い出していた。

 

妙に気取っていて、捻くれた目つきをしていた目立たなかったクラスメイトの朧げな姿を・・・

 

『そうだ!!!お前が!!イジメていたあの娘の事を忘れたとは言わせないぞ!!!!』

 

「っ・・・・・・あぁ、俺はいつも幼馴染のアイツを・・・リン。お前の姉ちゃんをいつも泣かせてたな」

 

嫌な過去を抉ってくる変わり果てた目の前の同級生に対して 勝巳 ゲキは改めて過去は決して消し去ることはできないものだと起こってしまったことを変えることはできない事実を痛感する・・・

 

「ちょっと待てよ!!怪物!!!兄ちゃんはっ!!!姉ちゃんをイジメてなんか!!!」

 

「傍から見ればそうだったかもしれない・・・否定はしないさ。意地を張らないでミドリの所に素直に謝りに行けば・・・ずっと後悔をすることなんてなかったんだろうな」

 

 

 

 

 

 

もしもあの時ミドリの所に行けば、保志 リンという少年は今も姉の傍に居たのではないかと思う時がある。

 

そして何よりも”幼馴染で初恋”の彼女をあの”ニルヴァーナ”に攫われるようなことはなかったかもしれない。

 

幼馴染の彼女 保志 ミドリは、女子でありながら”正義の味方”が大好きな変わり者だった。

 

いつかは憧れたTVの正義の味方になりたいと言っていた。

 

”おいおい・・・ミドリ、俺らそろそろ良い年齢だぜ。いつまでもヒーロー番組をみるのもなぁ~”

 

”だって、好きなモノは仕方ないじゃない。それに、みんなに笑顔を与えられる仕事が将来になったら、それはそれで素敵じゃない”

 

”玩具会社の宣伝だろ?大半は・・・この間もパワーアップツールでてたよな”

 

”そういうゲキだって見てるじゃん。でもね本当にすごいのは、精一杯頑張っているアクターのみんななんだよ!!!”

 

目を輝かせて力説するミドリにまた発作が始まったと思い、この話をさっさと切り上げるべく、今も・・

 

どうしてあんなことを言ってしまったのだろうと後悔する言葉を言ってしまったのだった・・・・・・

 

”ああ、凄いよ。アクターの動きは・・・どんくさいミドリの運動神経じゃ務まらねえよな”

 

”なんだよ!!!そんなこというなんて!!!!私だって、これでも頑張っているんだから!!!”

 

”未だに逆上がりもできない、金づちのお前が何を言ってるんだよ”

 

できることならば、過去の自分の口を塞いでしまいたかった・・・

 

”もう知らない!!!ゲキの馬鹿!!!!”

 

涙目で背を向けてしまった幼馴染にゲキは頬を掻き・・・

 

”また・・・やっちまった・・・本当はお前がヒーローのアクターになろうって頑張っているのを知ってたんだけどな・・・どうして、こんな事しか言えないのかな・・・”

 

本当は夢を応援したいし、素直に頑張れと言いたい。

 

だけど・・・変に意地になった心がそれを阻んでしまう・・・・・・

 

何故か冷たく当たってしまうことに後になって気分が悪くなる・・・

 

明日もいつものように不機嫌な幼馴染の顔を見つつ、ふとしたきっかけでいつものような毎日が始まるんだろうと・・・そう考えていた・・・・・・

 

だが、ミドリは家に帰らなかった・・・

 

ミドリを知らないかと彼女の両親から電話が掛かってきた時ほど恐怖を感じたことはなかった・・・

 

それと同時に罪悪感が芽生え、気が付けば家を飛び出し、居なくなった幼馴染を一晩中探した。

 

探しに行った父親もなぜか行方不明になり、そのまま何も出来ずにミドリが戻ってくるのを待つしかなかった・・・

 

もう子供じゃないと粋がっていたが、結局は子供でしかなかったと思い知らされた・・・・・・

 

数日後、幼馴染は変わり果てた姿で戻ってきた・・・

 

遺体は無残な姿であり、肉親ですらも直視することすらできないほど損傷がひどかった・・・

 

このような仕打ちを行ったのは”ニルヴァーナ”というカルト組織だった・・・

 

その話を聞いたとき、言いようのない怒りを感じた・・・どうしてあの時、ミドリの後を追わなかったと

 

当時、危険と分かっていた”カルト組織”が徘徊していた状況を甘く見ていた馬鹿だった自分が許せなかった・・・

 

自分がついていれば、ミドリを庇い逃がすことだって出来たかもしれないのに・・・

 

犯人である”ニルヴァーナ”よりもあの時、幼馴染を傷つけた自分が憎かった・・・

 

夢を笑い、傷つけたのは自分だと何度も責めた。あんなことになったのは自分のせいだと・・・

 

自身を責め続けた果てに自分自身の否定すらも考えるようになった・・・

 

自分さえいなければ、ミドリは夢を笑われずに、傷つくこともなかったと・・・

 

”ニルヴァーナ”が壊滅しても、心は晴れなかった。無気力に日々を無為に過ごしていた・・・

 

そんなある日、ミドリの母が彼女の遺品である手紙を持ってきてくれた・・・

 

それは、あの後にミドリが自分に当てた気持ちだった。

 

 

 

 

 

 

 

”ゲキへ・・・

 

なんでいつも酷いことをいうのかなと思うけど、私が夢を見ているだけでそれを叶える為の力がまだまだ足りないって言ってくれているのに、私もついムキになって毎日喧嘩ばかりだよね。私達って・・・

 

ごめんね。ゲキは、きついことを言うけど私の好きなことに文句は言うけど付き合ってくれてたよね・・・

 

私のわがままでいつもゲキを怒らせて・・・

 

・・・私、子供たちに夢を与えられたらなっていつも思っているんだ。今の時代は、正直に言ってあまり良くないし、変な噂や怖いカルトだっているどうしようもない現実だけど、せめて少しの間だけでもそんな怖い現実を消してしまえるような希望を見せられたらなって思っているんだ。

 

私がヒーローになりたいって願ったのは、実を言えばゲキが昔、見せてくれたあのヒーロー番組がきっかけだって覚えてる?覚えてないかもしれないけど、私はあんなふうにゲキが目を輝かせていたのに感激して、ヒーローになりたいって思ったんだよ。覚えてないなら、思い出させてあげるからね!!!

 

だから私ね。絶対に子供たちに夢と希望を与えるヒーローになりたいんだ。

 

でも、まだまだ力不足だし、これからも私の幼馴染で居てくれたら、嬉しいな”

 

 

 

 

 

 

”・・・俺かよ・・・お前をそんな風にしたのは・・・その俺は覚えてもいなかった”

 

手紙を読んだ後に久しぶりに頬が緩む。気が付けば、起き上がる気さえなかったのに、今では既に立ち上がっていた。

 

”・・・ミドリ・・・俺は、こんな所で腐っている暇なんてないんだ・・・”

 

夢と希望を与える存在になれずに亡くなった幼馴染をこのままにしておけない・・・

 

だったら、自分がその夢と希望を引き継ぐ・・・

 

暗い世の中だけど、ほんの少しの夢を見させられるような”存在”に・・・・・

 

”・・・・・・ミドリ・・・俺は、やるよ。お前のやりたかった将来を俺が代わりに叶える。もしも、天国にいるのなら見ていてくれ。お前の幼馴染はヒーローだってことを自慢できるように・・・”

 

それからは真摯にトレーニングに打ち込み、中学、高校を卒業後に、とあるプロダクションに就職した。

 

 

 

 

 

 

そして数年後、彼は特撮ヒーロー番組”仮面騎士 ゼロナイン”の主役兼アクターに抜擢された・・・

 

 

 

 

 

 

 

現在、まさか同級生が”怪人”になって、再会するというあり得ない事態に至っていた。

 

撮影現場に突如現れるやいなや、スタッフ達に対して訳の分からない言葉を叫びながら”力”を振るい、現場を混乱させた。

 

撮影スタッフを庇う為に、勝巳 ゲキは既に着込んでいたスーツのまま飛び出し、目の前に現れた”怪人”に呆然とする幼馴染の弟であり、従姉妹の保志少年を庇うように立ったのだった。

 

”怪人”こと、彼は遠巻きに自分の事を見ていて、何度も幼馴染を泣かせていたことを”いじめ”を行っていたと思い込んでいたのだろう。

 

正義の味方が大好きだったミドリと同じように”彼”も”正義の味方”と言わんばかりに自意識過剰な正義感を振り回していた。

 

若干、痛い発言をしていた夢見がちな少年ならまだしも、とにかくトラブルが絶えなかった。

 

ミドリは、”彼”について勝巳 ゲキにこう語っていた。

 

”あの人・・・正義の味方じゃなくて、誰かを攻撃する口実として正義を求めているだけで、正義の味方でも何でもないよ”

 

てっきり、気が合うかとその時は考えていたが、ミドリは”彼”の事を苦手と言うよりも半ば嫌っていた。

 

ミドリの言葉は的を射ており、”彼”の本質は”正義の味方”ではなく・・・

 

「お前は、正義の味方でも何でもないだろうが、ただの血に飢えた怪人だ」

 

あの頃と本質は変わっていないのだろう・・・

 

むしろ訳の分からない非現実的な”異能の力”を得て、それを振りかざしているのだから性質の悪さは、あの頃以上だ・・・

 

クラスメイトの蓬莱が亡くなった時、確か”マサオ”という同級生を何故か犯人扱いして”制裁”を加えていた時は、思わず庇い、彼を殴ってしまったが、担任の早乙女先生からは、今度からは先生を呼ぶようにと小言を貰うだけで済んだが、”彼”は厳重注意と反省文を書かされたと聞いたが、それを不服だと言ってそのあと”不登校”になり、今の今まで会うことはなかった・・・

 

ゼロナインを演じるに至ってプロダクションの社長から聞かされた話は・・・

 

”正義の味方は、鋼の道徳心、倫理観がなければ務まらない”

 

自分の小さな欲の為に力を使うようになっては、正義の味方でも何でもない・・・

 

・・・強い力に対して、誰よりも厳しく向き合わなければならないというもので、特に主役を演じるのだから、それをしっかりと理解し、表現してほしいと・・・

 

”ゼロナイン”の設定そのものは、”アンドロイド戦士”でありながら、人間と同じ感情を持つ存在である

 

”重力エネルギー”を操り、一切の武器を持たずに”徒手空拳”のみで戦うという一番のスポンサーである”玩具メーカー”泣かせのものであった。

 

派手なエフェクトを使ったシーンは少ないモノの様々な強敵に対し、何度も傷つき倒れながらも決して諦めない姿は、当初こそは地味であると酷評されたが、回を重なるごとに多くの子供達から支持を得るに至った。

 

憧れの目でTVの前に座る子供らの話を聞くたびに、勝巳 ゲキは自身の演じる”役”に責任と誇りをより強くしていった・・・

 

自分に夢と希望の視線を向けてくる子供らを裏切ってはいけないと・・・

 

ヒーロー”ゼロナイン”の役である以上、目の前の理不尽な暴力に屈してはいけないと・・・

 

蟹とも蠍の鋏にも見える腕を勢いよく、殺すつもりで放ってきた。

 

だが、勝巳 ゲキは”力”こそは強力ではあるが、目の前の”怪人”自身がその”力”を扱いきれず、まるで振り回されているように見えた。

 

アクターとして、危険なスタントに耐えうるトレーニングと平行して殺陣をこなす為に道場などで指導を受けてきたが故に目の前の怪人は力と見た目こそはインパクトはあるが、冷静に見てみると素人そのものの動きにしか見えなかったのだ・・・・・・

 

そして、懐に入りこむと同時に勢いよく腕を掴み、背負い投げを掛けるにいたった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

『なっ!?なんでだっ!!!俺がこんな無様に飛ばされるなんて!!!』

 

今までの相手は、この姿に恐れ、何も出来ずに”力”によって倒されるはずだった。

 

それなのに目の前の”偽物”は、怯むこともなく自分の懐に入り、このような醜態をさらさせた。

 

”彼”は、このような恥をかかせてくれた”偽物”に激しい怒りを抱いた。

 

『お前っ!!!偽物の癖に!!!正義の味方である俺に恥をかかせるなんてっ!!!』

 

華麗に優雅に圧倒的に相手を一方的に倒すはずなのに、それを否定した”偽物”を非難する。

 

白いスーツを纏った勝巳 ゲキは、目の前のかつてのクラスメイトだった”正義の味方”に対し・・・

 

「恥をかかせた?お前のやっていることは正義でも何でもないって自分で認めているぞ。その台詞は」

 

『なんだとっ!!!おまえぇ!!ただの一般人の癖して、正義の味方であるはずの俺にっ!!!』

 

蠍とも蟹とも言えないグロテスクな顔が醜く歪む。

 

「ただの一般人じゃないさ・・・今の俺は勝巳 ゲキじゃない」

 

後ろに居る幼馴染の弟である少年の視線を感じつつ、この”役”を精一杯全うすべく、勝巳 ゲキは

 

「俺は、仮面騎士 ゼロワンだっ!!!」

 

勇ましく名乗りを上げ、切れのある動きで構えを取った。

 

子供達に”夢と希望を与えるヒーロー”になると幼馴染に誓い、その願いを叶えられる立ち位置に居るのならば、今の自分は決して逃げ出してはならない。

 

”ゼロワン”は、特別強い華やかなヒーローではないが、彼は”どんな困難を目の前にしても、どんなに傷ついても倒れても立ち上がり何度でも向かっていく不屈の心をもった戦士”なのだ・・・

 

そのゼロワンを演じるのならば、自分はゼロワンを否定するようなことはしてはいけない。

 

勇ましく目の前の”怪人”を見据えるゼロワンに対し、彼は思わず足を引いてしまった・・・

 

『な、なんだよ・・・てめぇ・・・そんな子供だましのただのお遊戯の偽物を真面目にやるなんて馬鹿じゃねえの?どうせ、碌な生活をしてないんだろ』

 

様々な人やまた、異形の怪物である”ホラー”すらも倒せる力を得たのに、何故か怯えすら感じる目の前の”ゼロワン”の存在が理解できないのか、彼は嘲笑う。

 

「言ったはずだろう。俺は仮面騎士 ゼロワンだ。それ以外の何物でもない・・・もう勝負はついた」

 

『はぁっ!?なに、言っちゃてんの?俺がお前に負けた!?!』

 

”彼”にしてみれば、いきなり訳の分からない事を言い出したゼロワンに声を上げた。

 

「そうだ。お前は既に足を引いている。お前の信念はたったの一回の背負い投げで砕けるぐらいの脆いモノだったんだよ」

 

口には出さないが、自分の事を馬鹿にしたように罵りだしたのも彼自身のショックがあまりにも強かったためなのだろう・・・

 

「俺は、子供たちに夢と希望を見せる為にこの役を授かった。だから、相手がどんな相手だろうとも引く気はないし、負けるつもりはない」

 

『な、なにを言っているんだよ・・・まるでお前・・・』

 

彼は、目の前に居るのは、彼自身が憧れた”正義の味方”そのものではないかと感じるのだが、それを認めることはできなかった・・・

 

認めたら自分は”正義の味方”ではないと認めなくてはならないのだから

 

「これ以上何も言うな。勝負がついたなら、これ以上、俺はお前に何も言う気はないし、何もする気はない。だから、このまま見滝原から出ていけ、そして、その力を捨てて真っ当な道に戻るんだ」

 

”力”を捨てて、真っ当に生きろ・・・・・・

 

『ふ、フザケルナ!!!そんなこと認めてたまるか!!!!正義を否定する存在!!!お前は悪だ!!!』

 

”彼”は、もしかしたら、引き返せるかもしれない選択肢を出されたのだが、それを否定した。

 

力ある者が悪を倒す。それこそが正義の味方であると・・・

 

激昂し、勢いよく向かってくる怪人となり果てた”正義の味方”を名乗るかつてのクラスメイトに・・・

 

「馬鹿野郎!!!誰かを傷つけることに正義なんてないのに、何故それが分からない!!!」

 

特別な力こそはないが、ゼロナインは彼の攻撃を往なし、急所である顎に掌底を当てると同時に”彼”は勢いよく吹き飛んでしまった。

 

白いヒーローと蟹と蠍を掛け合わせたような人型の怪人が戦う光景であり、白いヒーローにより怪人は堅いアスファルトの上に倒れてしまうのだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

「す・・・すげえよ、兄ちゃん・・・」

 

保志少年は、振り返ることなく背を見せる従兄弟に対して尊敬の視線を向けていた。

 

凄い冒険をいつかはと求める気持ちはあるが、姉の夢を引き継ぎ叶えようとする彼は、偽物はない、本物の”ヒーロー”だと思うのだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

かつての彼は、ある街の”王子様”だった・・・・・・

 

顔の知らない祖父から代々受け継がれてきた”街”に彼は誰よりも愛着を持っていた。

 

自分はこの”街”を受け継ぐ”特別な存在”であると・・・

 

周りもまた自分を”特別”だと認めてくれていた・・・・・・

 

両親が受け継いだように自分もまたこの街を継ぐのだと確信していた・・・

 

この街で自分を知らない者など誰もいない。

 

その為か、彼はこの街を・・自分の街を護らなければならないといつの頃から思うようになった。

 

故に彼は自分の”街”で悪事を、汚すような真似をする存在が許せなかった・・・

 

幼心にも感じていた不快感・・・自分の利益の為に”悪事”に手を染める存在に対して・・・

 

子供の頃は”親”の威光もあり、自身が悪ふざけをする”他人”に手上げても誰も咎めることはなかった。

 

彼は”正しい”のだからこそ、誰も自分に反論することはないと当然のように考えていた。

 

自分達がこうして居られるのも”正しい”からこそであり、多くの人達の支持を得て、この街のトップの立場に立っている”父親”の背も強い憧れと確かな”正しさ”を感じていた。

 

そして、”悪”は決して許してはならないことを学び、彼自身もまた”正しく”あろうとしていた。

 

彼らは正しくあったはずだったのだが・・・

 

・・・彼の父親がある汚職事件に関わり、破滅したことで彼は”王子様”から只の”彼”になった。

 

今まで自分を特別な存在としてみていた人々が手のひらを返したように自分を見ることがなくなった・・・

 

あろうことか自身の”正しさ”すら”間違い”であると反論されることもあった・・・・・・

 

自身が嫌悪をしていた”悪”が自分を不幸に落としたことに激しい怒りを覚えていた。

 

正しい自分が何故、不幸な目に遭わなければならないのか?

 

どうして、父親は悪に加担するようなことをしたのか?

 

悪への誘惑から救うべき英雄は何をしていたのか?

 

”英雄”は何故、何もしてくれなかったのかと、彼は存在するはずのない”誰か”を求め、責めた・・・

 

彼は待った・・・自分が何時かまた”王子様”に戻れる時を・・・自分を助けてくれる”英雄”の存在を・・

 

だが、彼を救ってくれる”英雄”は彼の元に訪れなかった・・・

 

訪れることのない”英雄”を待つ無為な時間だけが過ぎていき、”街”の姿は大きく変わっていく。

 

住んでいた家を追われ、一家は離散し彼は、名ばかりの親戚の間をたらいまわしにされながら、少年から青年へと変わっていくが、その心の内には、特別であったかつての少年だった彼が存在していた。

 

その少年は、街が変わっていく事を嫌った・・・自分が取り残されることを恐れたからだ・・・

 

自分の知っている”王国”であった”アスナロ市”が変わってしまったことに彼は強く叫んだ。

 

”余所者が俺の街を勝手に変えるな!!!”

 

彼はいつか自分が知っている美しい記憶の中の王国に帰ることを望む・・・

 

そして、自分が”英雄”に・・・”正義の味方”になることを心に誓った・・・

 

”王国”に帰れることを信じて・・・

 

”力”こそはなかったが、彼は目につく不正、悪事にはとことん首を突っ込んだ。

 

彼の行いに、迷惑だけを感じるものが大半でほとんどが感謝することはなかった・・・

 

自身の”正義感”のままにと彼は考えていたが、傍から見ればそれは、自身に酔っているだけであった。

 

”正義の行い”を積んでいけば、いつかは本当の”正義の味方”になれると信じて・・・

 

その本心・・・誰もが自分を”特別”に見ていた”あの頃”へ戻りたいということに気づくことなく・・・

 

戻ることのできない事への苛立ちを他者にぶつけていた・・・

 

何時かなれると信じていた”正義の味方”になる為の力を彼は手に入れた・・・・・・

 

圧倒的な力だった・・・どんなに相手が地位を持とうが純粋な”力”の前には無力だった・・・

 

”正義は勝つ”・・・この言葉は正しかった。だからこそ自分は”力”を手にすることができたのだった。

 

そして、今、目の前で過去に悪事を行っていた”悪”が正義の味方に扮するという許せない行いをしている・・・

 

目の前に居る白いヒーロースーツに身を包んだ”悪”を”正義”の名の元に下すはずだったのだが・・・

 

気が付けば奇妙な無重力感と共に視界が流れ、背中に鈍い衝撃を感じていたのだった・・・・・・

 

自身よりも堂々とした姿があまりにも眩しくそれでいて、自分を諭そうとする行動が許せなかった。

 

正義の味方である自分を否定するその”ヒーロー”の存在が・・・・・・

 

またもや自分を無様な醜態を晒させたことにさらなる怒りを覚えるのだった・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「伯父さん。あの白い奴って、魔戒騎士か法師だったりする?」

 

杏子からみて白いヒーローの一般人とは思えない切れのある動きは魔戒騎士や法師らと特色がなかった。

 

「いや、ここには俺たち以外には居ないさ。彼は魔戒とは関係のない人物だろうね」

 

まさか”魔導具”を纏った人間を制するほどの技量を持っていることに素直にバドは感心する。

 

「というよりもあの魔導具 鋼殻装甲を使っている人間は一般人以下でしかないんだろな。一番の理由は」

 

白いヒーロースーツを纏った人物の技量は大したものである。縁こそあれば、彼は魔戒騎士か法師に成れたかもしれない。

 

対する 魔導具 鋼殻装甲を使っている人間は一般人以下の技量しかない。

 

力は結局のところ”魔導具”に依存しており、それ以外に何もないただの一般人以下の人間でしかない。

 

最近になって後輩である影の部隊を率いる騎士より齎された情報にある逃亡した魔戒法師 香蘭があの青年に絡んでいるとバドは睨んだ・・・

 

故にあの魔導具の入手経路と魔戒法師 香蘭の事を聞かなければならないと考え、物陰より足を進める。

 

『WHAT!!!あの女、やっぱりやりやがった!!!』

 

杏子が持っている魔導輪 ナダサが”鋼殻装甲”が変化していると同時にホラーが出現する”ゲート”の存在を感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『ギャアああああああ!!!!な、なんなんだっ!!!俺が、く、喰われる!!!いやだ!!!俺は、こんなところで死にたくない!!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

”鋼殻装甲”がいつの間にか解け、腕の模様が”彼”の身体を侵食し、その身体を喰らい始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見滝原市内から離れて人が誰も載っていないモノレールの車両に一人 彼女 志筑仁美は座っていた。

 

「・・・・・・この方って本当に頼りになりませんわね。何もできない、何の力もない虚構の子供番組の役者に負けるなんて・・・つまらないを通り越して、呆れてしまいますわ・・・」

 

志筑仁美は、美樹さやからを葬ることが出来なかったことの憂さ晴らしにと正義の味方による行いを見守っていたのだが、期待外れの光景であったため、酷く落胆していた・・・

 

「香蘭さんは、つまらなくなったらこれを覚醒させると面白いと仰っていましたわね」

 

好奇心の赴くままに蠍を模した腕輪の中央をスライドさせ、そこにある鍵穴にキーを刺し回した・・・

 

「あはははははは。正義の味方は確か自己犠牲を厭わないのですよね・・・でしたら、あなたは私の傷ついた心を慰撫する為にそのまま”陰我”に堕ちてください」

 

 

 

 

 

 




あとがき

正義の味方さんの活躍ですが、後編で終わります。

柾尾 優太本人は出てないけど、正義の味方さんは一時的に見滝原に居た時期があり、クラスメイトでした。

ゲストキャラ 勝巳 ゲキは柾尾 優太が”正義も味方”に理不尽な暴力にさらされているのを庇ったことがありますが、とうの柾尾 優太は彼の事を覚えておりません。

次回より、杏子ら風雲騎士一家が出張ります。

魔導具を持ったとはいえ、むやみに人を傷つけることができないこともあり、正義の味方さんにお灸を据えられそうなヒーローに任せても良いんじゃないかと思ったのですが、まさか魔導具に”陰我”のゲートになりうる”オブジェ”を仕込まれていたという予想外の事態・・・・・・




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