呀 暗黒騎士異聞(魔法少女まどか☆マギカ×呀 暗黒騎士鎧伝) 作:navaho
三日前…
まどか
とても哀しいあの子の戦い。誰にも分かって貰えず、本当はすごく泣き虫で弱いのに、”私なんか”のために全てを犠牲にして…
絶望して、誰かを呪っても良いのに……一言で良い、”お前のせいで、私は”と罵ってくれても構わない。
自分の”理想”の為に、死を見せつけ、無責任な約束をしてしまった……それが例え、私じゃない私でも、何だか許せない……
どうして、魔法少女なんかになったの?
何故、話を聞いてあげなかったの?
自分が価値がない?少しでもカッコよくなれたら?
ほんの些細なことを願ってしまったために、私は話を聞かずに、ほむらちゃんを悲しませ、今も、繰り返させている………
自分自身が”呪い”を振りまき、他の皆を…世界の全てを滅ぼしてしまった……
私じゃない私達……どうして”契約”をしたの?あなたの軽はずみな願いが、人一人の人生を、他の人達の人生を滅茶苦茶にしてしまった事を……
”嫌だよ……こんなこと…いやだよ………”
それは自分じゃないと言われても割り切ることなんて出来ないよ……
今も繰り返されている”事態”に私は、泣いてしまった……
「何故、泣いているんだい?僕に言ってみなよ。何とか出来るかもしれないよ」
見計らったように私の傍に現れたのは………キュウべえ……いえ、インキュベーター……
知っているんだよ。あなたの言葉がすごく薄っぺらくて、感情がないことを……
皆を苦しめていることに、心が痛むことがないことも……
「おや?その手に持って居る物は、何だい?僕をどうするつも……」
最期まで言わせない。気がつけば、私は鋏の切っ先でインキュベーターの脳天を差していたのですから………
見滝原の工業地帯に近い湖の近くに彼女 暁美ほむらは居た。湖の底、さらにはその周辺を見ている。
「今までの統計だと、この時間軸だとここに来るわね」
決まって巨大なスーパーセルが発生し、都市は壊滅的な打撃を受けてきた。
真夜中のためか、人一人居ない。街頭の明かりが湖面に揺らめき、周辺は異様な静けさと雰囲気を保っていた。
ほむら
ここのところ、色んなことがあっていつもの準備がかなり遅れているわ。
一番の原因は、バラゴに関わってからね。イレギュラー……今までにも、私とは違う系統の”時間”を操る魔法少女が居て、その事をよく覚えている。
必要な銃器の準備もそうだけど、対ワルプルギスの夜への準備も行わなければ………
戦力だけなら、バラゴ、いえ、暗黒騎士 呀一人で足りている。でも私は、彼を戦力としてはしていない。いえ、そうすることができない。
無謀かも入れないが、私は暗黒騎士をワルプルギスの夜諸共、倒すことは出来ないかと考えている。理由は言うまでもなく、アイツが途方もなく危険極まりないからだ。
ワルプルギスの夜を倒した後、どんな大きな災厄を齎すか……誰の目にも明らかだ。正義の魔法少女故に見逃せないというわけではない。
あの危険な奴と接触してしまった自分自身の”責任”。この事態に関わらせてしまった自身の……
「?ソウルジェムが揺らいでいる……この揺れは……」
このパターンは、いくつもの時間軸で見てきた。そう……この激しく反応する揺れは……
”……あたしって、ほんとに馬鹿”
ソウルジェムがグリーフシードへ変わる反応だ。まさか……
視線を向けると手すりに寄りかかる私と同年代と思われる少女が居た……
「………………」
見滝原の制服ではなく風見野の制服を着ている。近づくと鼻を刺すような腐敗臭が漂ってくる。彼女の身体は・・・
「あなた……、もしかして魔法少女?ねえ、私って悪いことをしたのかな?」
街灯に照らされた彼女の顔は……崩れていた。そう、ソウルジェムが身体から離れて、かなり経った後にソウルジェムが戻ったようだ……
「………それは、あなたが望んだことよ。そうなることは、覚悟の上だったはず」
「教えてくれなかったわよ!!!キュウべえも!!!!ほかの魔法少女も!!!!!皆、皆!!!!自分のことばっかり!!!!」
言われなくても分かるわよ。誰もが自分の願いの為に”魔法少女”になることを選んだのだから……誰のせいにすることなんてできない……
彼女の負の感情に呼応するようにソウルジェムの穢れが更に濃くなる…ここで魔女になられても厄介だ……
グリーフシードを渡そうとしたが……
「こんな身体でどうしろというのよ!!!!!こんなゾンビみたいな!!!!!腐った身体で!!!!!誰が感謝してくれるのよ!!!!!!」
怨嗟の声は、響く。
「私は願った!!!!!皆を護って、誰も不幸にしないことを!!!!!!その報いがこれ!!!!!皆、不幸になればいい!!!!あいつも、みんな、あんたも!!!!!」
その瞬間、ソウルジェムが砕け散り、グリーフシードが生まれ、黒い奔流と共に結界と共に魔女が姿を現した……
抜け殻となった身体は、手すりを越えて湖へと堕ちていった……
この魔女は……確か………
”盾の魔女” 性質は 哀れみ
その姿は魔女というよりも、鬼女に見える。そう思わずに居られないのは、他の魔女に比べて姿は人間らしいが、その表情は険しく、恐ろしいモノだからだ。
右手に持った巨大な鉈を振りかざしてきた。左手にはその名を示すように盾を…そして背中にも………
こいつは、こうやって生まれた訳か………魔女の誕生を見るのは、初めてではないけれど……
ソウルジェムを輝かせたと同時に私は、魔法少女となりこれと対峙する。
元々ストックしていた銃器を構え、”盾の魔女”に攻撃を開始する。弾薬を盾で弾きながら前進して、その歩みにあわせて盾の形を模した使い魔が四方に展開する。
丸い盾、四角い盾、逆三角形の盾と姿は様々だが、共通しているのは血走った恐ろしい目を持っている。
私を恨むかのような…目は………、
使い魔達が盾本来の使い方ではなく、突進してくるさまは意表をついてくるが、私には通じない。
時間を停止させ、この場から離れ、魔女の背後に回り、マシンガンを構え、連射したのち、時間停止を解除する。
弾薬は魔女の体に直撃し、激しく震わせた。その間に爆弾足元に置き、止めを刺す……結界内凄まじい爆風が吹き荒れる。肌に付くのは熱気と火薬の匂い……
思ったとおり…盾の魔女というように、こいつの防御能力は桁違い。倒すにはそれなりの爆薬が必要………
ここのところ、バラゴと一緒に”魔女”、”ホラー”と言った存在を見てきたツケが回ってきたようね……
鉈を構えて私に振りかぶってくる魔女に対して、後退しようとするが、使い魔達が取り囲む。
時間停止を行おうとしたときだった…………
その瞬間、結界の空気が淀む……まるで夜が来たような肌寒さを感じる……
そう……あいつが来た。この強烈な存在感を放つのは、あいつ、バラゴ以外に私は知らない。
私の背後に重々しい足音が近づいてくる。いきなり武装した状態で来るなんて……
「君が居ないと魔女結界に入るのは少し手間が掛かるようだ……」
隣に立ち、白い目が私を映した。
「こういう事があるのなら、予め言ってくれないか?それに”ワルプルギスの夜”の対策は、私一人居ればことは足りる」
その力を見せつけるように、盾の魔女に向かい、振りかぶった鉈を剣で受け止めず、そのまま左腕で受け止め険しい顔を鷲づかみに、近くに居た使い魔にぶつけるように投げ飛ばした。
盾の魔女は呀から逃れようと使い魔達をその進路に展開させるが、呀は、それらをたった一突きの拳で貫きそのまま奥にいる魔女を再び鷲づかみではなく、構えた盾諸共その半身を吹き飛ばしてしまった……
魔女はホラーに比べて、味が薄いと言っていたから、今回の魔女は喰らうに値しなかったということか……
半身を吹き飛ばされた魔女はそのまま倒れ、結界が崩れ、消滅していく……
あの魔女、かなり厄介な部類に入るのだけれど……剣を使うまでもなかったなんて……
結界が消滅した後、バラゴは鎧を解除した。振り返ったほむらを見たとき、僅かに表情が強張った……
そう彼女の背後に広がる水面は、彼にとって忘れることの出来ない忌まわしき”悪夢”を象徴とする物だったからだ……
………崩れ落ちる愛しい母……冷たい水から引き上げた身体は、更に寒かった……
その光景と今のほむらが重なったのか、バラゴはその手を無理やり取った。
「……何?」
ほむらの手を取ったバラゴの手が少しだけ震えていたことに、ほむらは少しだけ驚いた。
「………あなた……」
察しられたくないのか、バラゴは直ぐに手を離し
「着いて来たまえ。今晩は、このまま拠点に戻ろう」
そして……現在
「待ってください!!!マミさん!!!」
まどかは、廊下を歩くマミに呼びかけた。
「あなた?どうして、私の名前を……一言も言っていないんだけれど…」
マミは怪訝そうに眉を寄せ、まどかを見る。まどかはハッとしたように
「あ、あの……キュウべえに聞いたんです。この街を護ってくれてくれる魔法少女は、巴マミさんですって…」
「そう…キュウべえが……」
自身の”友達”が味なことをしてくれたことにマミは頬を緩めた。その表情にまどかの心に僅かながら影が差した。
「はい…この間も契約してほしいと言ってくれたんですけれど……怖くて、決められなかったんです」
「そうね。魔法少女は願いの為に戦い続けなければならない。簡単には決められないモノね……」
優しそうに微笑むマミに対してまどかも
「そうですね。私、自分に自信がなくて、でも誰かの為に戦い続けることを続けられるといわれれば……」
そっちも自信がなくてと小さく呟いた……
「だから、あなたの納得の出来る答えを見つけてね。後悔のないように……」
まどか
何だか、嫌だな。嘘をつくのって……私は知っているんですよ。
マミさんが、一人生き残ってしまって、それをずっと後悔して、自分の為じゃなくて、誰かの為に”魔法”を使ってきたことを……
でも、この事を言う事はできません。未来を、事情を知っているからといって、運命を変えられるわけじゃないから………
これを変えるには、一人じゃなくて…みんなの”力”があれば………
この時、私は迷い込んだ”物語”に少しだけ浮かれていたかもしれません。
だって、傷だらけのほむらちゃんを抱いた”闇色の狼”……暗黒騎士 呀の存在を忘れていたのだから………
私に向けられた感情を映さない白い目に映った”殺意”と”憎しみ”を……
放課後
「姐さん。この後、予定ありますか?」
「だから、姐さんはやめろっての……」
「杏子さん。私も姐さんて呼ばせていただいても……」
「お前もかよっ!!!!」
さやかとそれに応じる仁美に対して、声を上げる杏子であった。
「いいじゃないっすか…姐さん」
肘で突きながら、笑うさやかに杏子は内心、”このやろう”と思ったのは言うまでもなかった……
「これから、一緒に歓迎もかねてお茶ってのはどうですか♪」
「良いですわね」
こういう風に誘われるのは、久方ぶりなのか杏子は
「ああ、いいぜ。おいしい所紹介してくれよ」
「さっすが、姐さん!!!よ~~~し、行きましょうよ!!!」
さやかは声を上げて先導し、教室を出る前に
「まどかももちろん来てくれるよね」
話を振られたまどかは
「あ、うん。もちろん行くよ」
応えたまどかに対して、杏子は少しだけ眉を寄せた……
杏子
あの後、何もなかったみたいだが、この小さいの。まさかと思うが、願い事を決めようとしているのか?
だったら、アタシは全力で止める。魔法少女にしようとしているマミもな……
たとえ、嫌われても”人生”を投げ出してでも”魔法”なんか求めるなんて間違ってる事を………
とある閉鎖されたビル内部にて……一匹の白い影が躍り出る。その口元には、黒く淀んだ”グリーフシード”が加えられていた………