やはりダンジョンに出会いを求める俺の青春ラブコメはまちがっているだろうか【まちガイル】 作:燻煙
由比ヶ浜結衣は困っている。①
迷宮都市オラリオ。魔石産業で発展したこの都市は、昼と夜とでその姿を変える。
冒険者たちがダンジョンへ潜り、商売人たちが街道へ繰り出す昼。
戻ってきた冒険者でごった返す夜。
眠らない街とも称されるオラリオの夜は今日も喧騒に包まれていた。
ダンジョンから帰り、本日の冒険譚を語って聞かせる冒険者たち。
そんな冒険者たちを受け入れ労をねぎらってやる酒場や娼館。
バベルを中心に八方に伸びる各メインストリートはそんな酒場や飯屋の灯りが煌々と輝いている。
そんな陽気なオラリオの夜とは打って変わり、俺は今、暗い路地裏を歩いている。
酒場に好きこのんで行く趣味はない。粗暴で野蛮な冒険者どもの巣窟である。ある意味ダンジョン以上に危険かもしれない場所なのだ。
ロキ・ファミリアと別れてからダンジョンから出ると時刻は既に夕暮れだった。東の空は群青色に染まっていた。夜と夕陽の輝きの境目にあるあの色は一体何色と言うのだろうか。
あの後、雪ノ下、由比ヶ浜と明日の予定を決めて解散。俺が逃げ出さないように釘を刺し、雪ノ下と由比ヶ浜はディナーに向かって行った。というよりも由比ヶ浜が一方的について行ったようなものだが。
………ついでに言っておくが俺も一応は誘われたんだぞ?断っただけなんだからな?
現在俺が向かっているのはバベルから北北東、ちょうどメインストリートの間を縫うように直進している。
目的地はとある屋台。
目印となるBARを右手に折れ、目的の屋台へ着くと、本日待ち合わせている人物は既に到着していた。
「早いっすね先生。」
「君は時間ちょうどだな。相変わらずだ。」
既に一杯やっていたのか少し顔が赤らんでいる。
白衣を纏った彼女の名前は平塚静。ギルド統括顧問というエリート独身職員だ。
「比企谷、君は何にする?私はショウユだ。」
「じゃ、俺もショウユで。」
現在、俺と平塚先生はとある屋台に腰掛けている。客は俺たちだけ。
この店のメニューは「ラーメン」という東から伝わった料理なのだが、これがまたすげぇ美味い。
隠れ名店ということで噂となっている。(俺調べ)
「比企谷、今日はどうだったかね?」
寡黙な店主にショウユラーメンを2つ頼み、平塚先生が聞いてくる。
「ぶっちゃけこの仕事もう辞めたいんですけど。ちょっと色々あって疲れました。」
「ダンジョンの話だよ。君の感想はいらん。」
ですよねー。知ってた。
「それで?色々というのは何だね?」
平塚先生に掻い摘んで話す。由比ヶ浜の依頼を引き受けたこと、5階層にミノタウロスが出たこと、それがロキ・ファミリアが逃した物であったこと。
「まぁ今日は大体そんな感じですかね。」
「ヘファイストスの鍛冶師にミノタウロス、ロキ・ファミリアか………。なるほどな。」
出てきたラーメンを受け取りながら平塚先生が妙に得心したかのように頷く。
俺もラーメンを受け取りさっそくいただく。
すすり、飲み込む。夜風に冷えた身体に染み込むスープの旨味がたまらない。
会話を切り、一心不乱に食す俺と平塚先生。やはりラーメンこそ至高。隠れ家的雰囲気もポイント高い。
スープの一滴も残さずに2人とも完食する。丼を持ってスープを飲む平塚先生の姿は一周回って魅力的ですらある。
「まずそのミノタウロスの件だが、どうも妙だな。」
「ええ、俺もそう思います。あのロキ・ファミリアがそうやすやすとモンスターを、それも5階層まで取り逃がすとは考えられません。」
「モンスターの大量発生、ということだろうがな。その数が圧倒的に多かったなら、ありうるが。」
まぁその可能性も確かにある。だがロキ・ファミリアが狩りきれないほどの量となればすなわち【奉仕部】の管轄ということになってしまう。
「………やはりダンジョンで何かが起こっているのか、はたまたその前兆なのか。」
タバコに火を灯した平塚先生がそう呟く。
「ま、その件に関しては君たちに任せよう。早速のイレギュラーだ。慎重に調査してくれたまえ。」
「やっぱ俺たちの仕事なんすね。」
「もちろんだ。期待しているよ。」
店主から灰皿を受け取り平塚先生が快活に笑う。
「さて、【奉仕部】の奉仕活動のことなのだがね。」
「今は由比ヶ浜の依頼中ですので別件との掛け持ちはちょっと。」
「心配するな、誰も仕事を増やすとは言っていないよ。」
いや結構ケチャップ感覚で増量してると思うんですけど。ケチャップ増量。
「今日ロイマンに掛け合ってきてな。【奉仕部】の拠点としてあの部屋を正式に借りてきた。今後の依頼は私を通して発注することにするよ。」
「え?あの部屋勝手に使ってたんですか?」
「まぁね。何、心配はいらんよ。」
「これで俺クビになったりしませんよね?」
「表向きはもうクビになってるよ。」
ぐ、そうだった。
3本目に火を灯す平塚先生。
タバコは身体に悪いらしく、独特の香りを嫌う人もいるが、俺はあまり嫌いではないし、平塚先生の吸うタバコは嗅ぎ慣れた匂いだからだろうか。ちょっと和む。
「今は由比ヶ浜とやらの依頼に精を出すといい。それにしても《月の石》か。また懐かしい物を。」
そう言って何かを懐古するかのような瞳をする平塚先生。過去に何があったのだろうか。
「そういえば昔先生も持ってましたよね。」
昔の平塚先生(当時2X歳)が意気揚々と中層に潜り、三日三晩かけて月の石を選別、乱獲してきたことがあったようななかったような。
………その1週間後、やけ酒に付き合わされたが。
「《月の石》なんて所詮は御守りにすぎん。なーにがあの人も振り向くだ。世の中嘘だらけじゃないか………。くそぅ、結婚したい………。」
何があったのか大体想像できてしまう自分が少し恐ろしい。早く誰か貰ってやってくれよ………。
いつものことに面倒くさそうな顔をしていると、立ち直ったのだろうか。平塚先生が目元を拭い、急に真面目な顔をする。
「さて、比企谷。《月の石》ということは『中層』だな。君と雪ノ下の心配は特にしていないが、その由比ヶ浜という少女はどうなんだ?」
「Lv.2なんで早々簡単にやられたりはしないと思いますが、ちょっと戦闘技術がヤバそうですね。囲まれたらマズイかもしれません。」
それに。今日のミノタウロスの事件でわかったことだが。
「どうもあいつ、大型モンスターにビビりがちというかですね。」
今日の由比ヶ浜はミノタウロス相手にほぼ腰を抜かしている状態だった。Lv.2の冒険者がミノタウロスに出くわしてテンパるのは分かるが、流石にあれはビビりすぎている。
「そうか。中層からはオークやミノタウロスが出現するしな。モンスターの出現数も上がる。大丈夫そうか?」
「雪ノ下もいるんで、大丈夫だとは思いますが。サラマンダーウールとかは用意しといた方がいいかもしれません。」
「まぁ滅多なことはないだろうがな。雪ノ下も中々腕が立つ。ただ、今のダンジョンは何かが変だ。注意して臨みたまえ。」
「………わかりました。」
ダンジョンでは何が起こるかわからない。レベル適正値を十分に満たしているからといって、死なない保証などないのだ。
「装備は十分に整えて行ってくれ。………その刀も、中々のものだとは思うがね。見た目はアレだが。」
先ほどとは打って変わって平塚先生がニヤけだす。
「なんか成り行きでコレになっちゃいましてね。悪くはないんですが。」
常時隠蔽をかけているからといっても、流石は平塚先生。見抜いていたようだ。
由比ヶ浜に貰った《デコポン》は今俺の背中にかかっている。断ちにくいとされるミノタウロスの肉に引っかかることなく斬り裂ける良性能だ。本当見た目だけがアレだが。
「君の場合は《魔法》があるから装備品に気を使わなくてもいいだろうな。2人をよろしく頼むよ。」
4本目を吸い終えて平塚先生が立ち上がる。さらっと俺の分の代金を支払ってしまうあたり、本当この人かっこよすぎる。エイナさーん!出番ですよー!!
「比企谷、ちょっと家に寄っていきなさい。」
店を出て少ししてから平塚先生がそんなピンクの台詞を言ってきた。
「なんでですか?」
理由はハッキリわかっているものの、知らないフリをして問い返す。
「わかっている癖にな。ステイタスの確認だよ。」
こちらを振り向かずに平塚先生が言い放つ。
「あれから随分と経つ。今後の調査にもステイタスの確認は必要となってくるだろう。」
「自分でステイタスが見られないのも、不便だろうしな。」
【
人目の多い大通りを避け、裏路地を進み平塚先生の家へ。シックな雰囲気の部屋は相変わらず趣味が良い。
「比企谷、脱げ。」
着くと同時に平塚先生がそう告げる。字面だけ見ると結構ヤバいセリフだ。
まぁ平塚先生相手にどうこうなる気も可能性もないので、あっさりとインナーを脱ぎ捨て床にうつぶせになる。
それが普通で、当たり前。
「ふむふむふむ、なるほどな。」
平塚先生が俺の背中をなぞる。ちょっとくすぐったい。
「つか平塚先生、別に指で触る必要ないと思うんですけど。」
「ほぉ、なるほどな。」
俺の抗議虚しく平塚先生の指が背中を這う。ちょっと?別に俺のサービスシーンとか需要ないでしょ?
「ん、もう服を着ていいぞ。」
【
「ほれ、君のステイタスだ。」
平塚先生が隣に置いてあった羊皮紙にコイネーで俺のステイタスを翻訳して書いてくれる。
「相変わらずのおもしろステイタスだよ。もしかしたら、君が一番のイレギュラーなのかもしれんな。」
苦笑している平塚先生に礼をいい羊皮紙を受け取る。レベルはやはり4。雪ノ下たちに言った時は確証がなかったが、どうやらあっていたようだ。
どうも俺は、ちょっとばかし普通ではない、らしい。普通冒険者は主神によってのステイタス更新を行うが、俺の場合は少し違う。
羊皮紙の下、《スキル》欄に書かれたユニークスキル。俺が初めから持っていたらしいヘンテコスキルだ。
そのスキルの名は、《
俺は自分の主神を知らない。そもそも主神がいるのかすらわからない。【神の恩恵】自体はあるし、ステイタスも更新されるので不便はないが。
主神もいないため俺にはファミリアもない。ホームもない。あっても電波が届かない。
オラこんな状況イヤだ、とは思うが、どうにもならんし、しようとも思わない。
どうも平塚先生は何か知っているみたいではあるが、教えてくれそうもないのだ。早々に諦めはついている。
その昔、俺と妹の小町は親を亡くし、路頭に迷っていた。そんなところを冒険者であった平塚先生に助けて貰ったのが出会いである。
あの頃からもうかれこれ10年くらいの付き合いになる。俺は小町のための金を稼ぐため、日夜ダンジョンに潜り続けた。その頃から平塚先生に技術を教えこまれてきたため、俺は「先生」と読んでいる。先生は「師匠」とかが良かったらしいが。
まぁその後色々あって冒険者を辞め、バベル職員となったのだが。小町も物心ついたころから住み込みのバイトを始めており、2人して稼いだおかげで現在は夢のマイホーム生活。マイホームって本当素晴らしい。頑張って良かった。庭や白いブランコは付いていないが、中々の家を買うことができて小町も満足している。
「俺を変な奴扱いしないでくださいよ。」
そう言って貰った羊皮紙に一通り目を通し胸ポケットにしまう。
「実際、その数値は変な奴だよ。ギルドには報告できないな。」
「ファミリアがない時点で、報告もなにもないでしょう。」
普通冒険者は自らの所属しているファミリアやレベル等をギルドに報告する義務がある。だが俺はファミリアもないし主神もわからないため、報告しようがないのだ。神や公共施設であるギルドからも見放される俺マジぼっち界のエリート戦士。
「攻撃魔法が発現しないのが勿体無いことこの上ないよ。」
「変装・隠蔽があるだけ十分ですよ。」
「君が攻撃魔法を持てば、最強の一角にもなれると思うがね。」
「確かに、勿体無いとは思いますけど。それはちょっと過大評価ですよ。隠蔽魔法があるだけでかなり満足してますしね。」
雪ノ下には明かさなかった俺のステイタスの異常性。雪ノ下が気付いていた違和感。
「
それは、自身や武器防具に対しての隠蔽魔法の常時使用。俺の異常性の1つ。
先ほど受け取った俺の基本アビリティは敏捷、器用が高めのD、力と耐久が低くFとH。そして
「魔力値測定不能。相変わらず、化物じみた魔力量をしているよ。」
おそらく魔力量だけで考えてみれば、俺はオラリオ最強のギルド職員なのである。
さて、八幡の謎?に迫る回になりました。オリジナルスキルです。(まだ八幡にはスキルを持たせる予定ですが。)主神様はご存命でございます。八幡が攻撃魔法を手にする日は来るのでしょうか?平塚先生は結婚できるのか。作者も全くわかりません。予定は未定です。
圧倒的LIVE感でお送りしております本作品。次回は中層ですかね。その前に作者待望の小町に登場していただきます(確定)。
小町のバイト先は例のあの酒場にする予定です。あざとく可愛いあの子も登場の予定。いつかいろはすと絡ませたいなぁと目論んでおります。
次回はいつ頃になるか全くわかりません。申し訳ありませんが、今後更に更新ペースが遅れると思われます。ご了承くださいませ。ゆっくりゆっくりやっていく方針です。では。