やはりダンジョンに出会いを求める俺の青春ラブコメはまちがっているだろうか【まちガイル】 作:燻煙
比企谷八幡は腐っている。①
「………比企谷くん、これは何かな?」
俺の目の前でエイナさんが顔を顰める。
「そりゃ、君に押し付けたのは私だけどさぁ………」
エルフ特有の長耳と美しい容貌を持つ彼女はバベル職員でも指折りの人気職員だ。エルフとヒューマンのハーフ、ハーフエルフである彼女は純血のエルフ族たちとは違い、親しみやすいのも人気のポイントの一つである。
「いや何って、『ギルド職員の人員減少傾向を打開するためにオラリオへ呼びかける啓蒙書の作成』をしてきたつもりなんですけど………」
現在場所はギルド職員専用休憩室。2人分のコーヒーを用意して一つを我が上司の前に置く。最近買い替えられた新型コーヒーメーカーは使いやすくていい味が出ている気がする。
ありがと、と一言いってエイナさんがコーヒーに口をつける。エイナさんはブラック派だ。
「それ、眼の前でやられると胸焼けがしてくるよ………」
ブラックの苦味にその尊顔をさらに顰めてこちらを睥睨してくるエイナさんを尻目に、備え付けのミルクとサトウをだばだばと淹れる。ミルクもサトウもフリーサービスなんて、やはりバベル職員は最高だ。
「エイナさんこそ、カッコつけてブラック飲まなくてもいいんすよ?平塚先生に憧れてるのはわかりますけど。」
図星を突かれてギクッとした顔をするエイナさん。そういう反応が、モテるポイントなんだろう。あざといどこかの女とは違い、素でやっているのがわかる。
「やぁチュール、比企谷。調子はどうだ?」
とそこへ件の女性が現れる。突然現れたこの女性の名前は平塚静。ギルド職員統括主任。長い黒髪を無造作に垂らし常に白衣と白煙を纏うその姿は全ギルド職員の憧れである。ちなみに独身。
俺に目でコーヒーを催促すると彼女はどっかり、という擬音が聞こえてきそうな動作でソファに腰を下ろす。
「珍しいですね、先生がここに来るなんて。何かあったんですか?」
そうなのだ。ギルドのトップ、とまではいかないにしても、ギルドにおいてかなりの地位を持つ彼女は、本来ならこんな末端の休憩室にはこない。
ちなみにさっきからエイナさんは顔を赤らめ口をパクパクさせている。恋なの?むしろ鯉?
「実は、比企谷に用があってな。チュール、そのレポートはなんだね?」
コーヒーを啜りながらエイナさんの手から羊皮紙をむしりとる。まぁエイナさんが動いてないから仕方ない。それよりも。
「俺にですか?」
「ああ。………それにしても、相変わらずお前は腐っているな。」
「他人の身体的特徴を揶揄するのはやめてください。で、こんな末端構成員の俺に先生直々に通達する用事ってのは何なんです?」
もしかしてクビ?働きたくはないが食いぶちが無くなるのは非常に困る。
「別に比企谷の目の話はしていないんだがな。レポートのことだ。これでギルド職員が増えると思ってるのか?」
「冒険者が減れば、その分増員は見込めるんじゃないすかね。」
あ、エイナさんが復活した。
「まさかギルド職員のイメージ向上ではなく冒険者に対するヘイトスピーチだとはな。呆れて物も言えないよ。」
俺と平塚先生との会話にどうやって入ろうか右往左往しているエイナさん。マジであざとさが見えねぇな。俺じゃなかったら惚れてる。
「御褒めに預かりましてどうも。で、先生の用事って何なんです?」
「チュール、比企谷はうまくやれているかね?」
おっと無視ですかそうですか。突然話を向けられてエイナさんが赤面してあたふたしている。かわいい。
「あ、えと、そうですね。冒険者に対する接客系は全然ですけど。レポート関連の事務仕事には適正があると思います。………多分。」
それでも素早く落ち着きを取り戻したエイナさんが言う。流石だなぁ。俺には無理だ。語尾に引っかかりを覚えるがきっと気のせいだろう。
「ふむ、そうか。ありがとう。」
満足気に頷いた先生がこちらを見る。お礼言われて頬に手を当ててるエイナさん、ちょっと平塚先生のこと好きすぎません?貰ってあげてほしい。
「比企谷、君はクビだ。」
………え。え?ちょ、え?
声にならない声がでる。嘘、マジでクビ?え、ホントに?
「なんだ口をパクパクさせて。恋か?むしろ鯉か?」
いや全然上手くねぇよ。なんでそんなドヤ顔なんすか。
「まぁ、心配するな。こちらの部署をクビになるというだけの話だよ。チュールに君を預けたのは私だが、予想通りの結果で何よりだ。」
自分の事を棚に上げているとそんなことを言われる。ん?なんだって?難聴系主人公ではないが、これはちょっと聞き返したい。
「えっ!平塚さん、それは一体どういうことですか??」
口を開きかけたところにエイナさんの不安げな声が入る。まぁ顎で使える便利な部下がいなくなるのだから当然といえば当然の反応だな。べ、別に嬉しくなんてないんだからねっ!
「そのままの意味だ。なぁに、この間の会議で決まった今度新設される部署にな。比企谷が適任だと思っただけだよ。別に二度と会えなくなるわけじゃないさ。そう心配するな。」
ニヤニヤとしながら俺とエイナさんを見比べる平塚先生。面倒くさい上司の典型だな。だが生憎俺とエイナさんはそんな関係ではない。ほれみろ、エイナさんがちょっと嫌そうな顔してらっしゃる。そこそこ凹む。
「………自分の心配をするのが先じゃないですかねぇ」
せめてもの意趣返しとしてつぶやく。行き遅れめ。
「………ほぅ、いい度胸だな比企谷。久々にやられたいのか?」
「………イエ、ナンデモアリマセン。………で、その新設される部署って何なんです?」
平塚静に年齢と結婚の話はタブーである。具体的には殴られる。(超痛い)昔はよくやられたものだ。仁王を相手にする趣味はない。早々に話を戻すが吉だ。
「ぶっちゃけ俺今のポジション気に入ってるんですけど。コーヒーも飲み放題ですし。苦手な接客はエイナさんが全部引き受けてくれてるし。」
たいして働かなくてもなんとかなるし。割り当てられた仕事ご増えることなんてほとんどないし。部署移動で仕事が増えるとかになると最悪だ。
「まぁこればっかりはな。私が推薦したのもあるが、新設部署にはすぐにでも動いて貰わねばならん。諦めてくれ。別に、こちらの部署に友人はおろか恋人がいるわけでもないだろう?」
「ここの部署はおろかどこにもいませんよ。仕事が増えるのが嫌なだけなんです。新設部署とか絶対仕事多いじゃないですか。………で、これって強制命令になるんですか?」
ほんと仕事増量とかだけは勘弁してほしい。マジで。
「ここでもやはりぼっちなんだな。わかってはいたが。その通りだ。強制だから諦めてくれ。チュール、こいつの指導をしてくれて感謝する。これから新設部署に向かうぞ。比企谷、付いてきたまえ。」
わかってたんなら聞かないでほしいんですが。
コーヒーをぐいっと飲み干して平塚先生が立ち上がる。ほんと男らしいなこの人。はぁ、仕方がない。元々今の部署に入れてもらったのだって平塚先生のおかげなのだ。文句は言えない。めっちゃ言ってるけど。
「ではエイナさん、なんかそういうことらしいので。すいません、今までお世話になりました。」
俺も残ったコーヒーを飲み下して立ち上がる。
「えっ、あ、うん。お達者でね。」
平塚先生を見ていたエイナさんが話しかけられたことでこっちに向き直る。この人ほんと平塚先生のこと好きすぎません?もう付き合っちゃえよ………。
「あ!ちょ、ちょっと待って比企谷くん!」
休憩室を後にしようとした俺をエイナさんが引き止め赤くなった顔を近づけてくる。え?何でこの人顔赤いの?何何ちょっと近い近い近いいい匂い!
「………平塚さんと君って繋がりあるの?」
デスヨネー。はちまん知ってた。いやホントまじで。
「そのうち紹介するんで、今日のところはこれで」
エイナさんのいい匂いから逃れるべく適当にお茶を濁す。まぁ繋がりがあるのは確かだが、あまり声を大にして言うことでもない。
「そ、そう?いいの?よろしくお願いね?」
嬉しそうに破顔するエイナさんを置いて平塚先生の後を追う。もうホント、貰ってあげてください………。
エイナさんが誰とも付き合わないのってこれが原因なのか?そんなどうでもいいことを思いつつ、俺は休憩室を後にした。
一字下げはやらないほうがよかったかもしれないので次からは一字下げはしないことにしようと思います。
俺ガイルキャラの名前もダンまちっぽくハチマン・ヒキガヤとかにしようかと思いましたが、違和感が拭えないのでそのままの漢字表記でいこうかと。ただ日本語ではなくコイネーを使って話しているものとして捉えて下さい。