やはりダンジョンに出会いを求める俺の青春ラブコメはまちがっているだろうか【まちガイル】   作:燻煙

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比企谷八幡は腐っている。⑤

 

諸用があるとかなんとかで、平塚先生は去っていったので雪ノ下と2人でエレベーターに乗り、バベル内の装備屋へと向かう。こんな個室に2人っきりだと思うとちょっとだけドキドキしてしまう。もちろん、殺されるんじゃないか的な意味で。

 

「「……………。」」

 

2人とも無言だが別に気まずいとは思わない。無駄口を叩くような奴でないことは恐らく両者共にわかっているし、会話のネタもないためだ。言うまでもないことだが、俺から他人に話しかけるなんて不可能だしな。

 

 

そろそろ目的の階に到着するというタイミングで、唐突に雪ノ下が帽子を被りだす。ベージュのサイズ大きめのつば付き帽子を目深に被った雪ノ下は、銀の胸当てとミスマッチすぎてとても偏屈な格好となっている。素材がいい為か、偏屈というよりはファッショナブルなイメージ。何着ても似合う奴っているんだな。

 

 

「………。」

 

 

何だろう、前衛的ですねとか言ったほうがいいのかしらん?殺されそうだから絶対言わないが。

 

「………あなたも何か変装したほうがいいわ。治療用の包帯ならあげられるけれど。」

 

「え、それ変装なの?てかなんで?」

 

 

包帯で変装って何だよ。透明人間と間違われるだろうが。

 

 

 

「ギルド職員が急に装備一式を買い求めるなんて、明らかに不自然でしょう?顔くらい隠した方がいいわ。」

 

 

やれやれだぜ、といった体で雪ノ下がそう言い、自分の荷物から包帯を取り出そうとする。

 

 

 

「いや大丈夫だから、特に包帯とかいらないから。」

 

 

 

「でもバレると今後困ることになるわ。何か他に策があるのかしら?」

 

 

 

 

策、ね。まぁあるにはあるんだが、言うかどうか迷いどころだな。

 

 

 

「あー、策、というか、な。まぁとにかく大丈夫だ。禁則事項だから言わんが。それにぶっちゃけ俺は接客系が苦手だから、ギルドではほとんど裏方の事務しかしてない。顔バレなんてすることなんてないだろ。」

 

 

禁則事項ですっ♡ととりあえずはお茶を濁しておくことにする。いずれ説明することになるだろうが、説明しないでも大丈夫なら説明しないほうがいいに決まってる。むやみやたらにステイタスは見せる物でもないし。

 

 

「………そう。なら、いいわ。」

 

 

ステイタスに関することだと感づいたのか、雪ノ下がそれ以上追求してくることはなく、会話が終わる。こいつ空気読めるんだな。読む空気と読まない空気を分けているだろうが。流石にステイタスを明かすよう要求してくることはないか。

 

 

チーンという甲高い音と共にエレベーターの扉が開く。

 

雪ノ下から遅れて5歩ほどの距離を空け、先ほど言葉を濁した(・・)とやらを実行しておくに。

 

 

エレベーターが閉まるギリギリで出て雪ノ下についていく。

 

昼過ぎという時間帯のためかはわからないが、装備屋近辺はあまり人がいなかった。

 

雪ノ下と視線で合図し、とりあえず1番空いていそうな装備屋へ。まずは防具だ。雪ノ下も何か買うのかは知らんが、真っ先に掘り出し物のセールコーナーを目指す。そこそこいい物があるといいのだが。

 

 

手当たり次第に持ったりして吟味してみる。………なんだこの《兎鎧(ピョンキチ)》って。

 

ネーミングセンスは皆無だがそこそこ軽く中々な装備だと思う。名前が気に食わんから止めとくが。

 

 

5万ヴァリスもあるのだ。もうちょっと値を張るものでもいいか、と思い吟味を再開する。お、この胸当ては中々だな。だがこちらの軽量鎧も捨てがたいな…………。うーむ、八幡こまっちんぐ。早く帰って小町に会いたい………。

 

 

結局、胸当てを主体に腕、脚用の防具を買い店を出る。1万近く使ってしまったが、まぁいいだろう。多少無理をしても防具は良いものを選ぶべきだ。

 

店を出ると隣の店から雪ノ下が出てくるのが見えた。隣の店にいたのか。どうりで店の中で見かけないわけだ。

 

雪ノ下と合流しようかと思い、止めておこうと考え直す。いくら顔バレしないといっても、雪ノ下みたいな、失礼だが変な格好の奴と歩くと流石に目立つ。

 

 

そう思い直し、雪ノ下がこちらを向くタイミングくらいで雪ノ下とは逆方向の店に入る。

 

 

 

次は武器だが、どうしたものかな。

 

「ま、とりあえず掘り出し物コーナーだな。」

 

 

背中に視線を感じながらそう呟いて掘り出し物コーナーへ。

 

昔は結構色々な武器に手を出していたが、やはりここは短剣か刺突剣、片手剣あたりかな。

 

昔使っていた武器や防具はそのほとんどを売ってしまっている。雪ノ下にはヒノキの棒とお鍋の蓋と言ったが、誇張ではない。部屋にあるのは精々が護身用の短剣くらいだ。

 

 

(ま、その護身用短剣でも別にいいんだがな。)

 

 

 

と、不意に昔を懐かしんでいる自分に気づいてしまい、心の中で悪態をつく。

 

 

(何を考えてるんだかな、全く。)

 

 

自己嫌悪と共にイライラが襲ってきた。俺はダンジョンが嫌いだ。冒険者なんて職業なんざ底辺だ。

 

 

頭の中でそう唱えつつ、もうこれでいいか、別に何でもいいし。と近くにあった細身の片刃の片手剣、カタナを手にとり抜いてみる。

 

 

 

 

ヘンテコな装飾が入ってはいるが、悪くない。軽く、鋭く。刺す、斬る用の片刃の剣。

 

(ただ………)

 

 

持ってみてから気づいたが、掬がピンクにコーティングされており、鞘もなんだかデコデコしている。正直言って目が痛い。ギャルギャルしたオーラが溢れており、そこそこいい物品なのに売れていない理由が明確にわかる。こりゃ誰も買わんわ………。良い品なのに、勿体無い。

 

 

(さっきのピョンキチと良い勝負かもな。)

 

 

どっちを買うかと言われれば無論ピョンキチなのだが。

 

 

 

ライトセイバーばりに光る刀を元あった場所に置こうとした時、ふと気づく。

 

 

 

 

 

違和感、違和感だ。

 

 

 

 

(………この視線、雪ノ下のものじゃないな。誰だ?)

 

 

店に入る前に感じた視線は近くにあり、さらに距離を詰めてきている。バレることを恐れていた雪ノ下がこちらに近づいてくるとは到底考えられない。

 

 

何者かはわからないが、こういう時は動揺を表に出さないのが定石だ。バレているわけがない。ビー・クールだ比企谷八幡。

 

 

 

堂々とした態度で再度手に持っていたデコ刀を置こうとしたその瞬間、

 

 

「………ヒッキー、なの?」

 

 

視線の主が、俺の後ろで可愛らしい声をあげ、すぐそばまで近づいてくる。

 

ヒッキー?何それ新種のモンスターか何か?

 

 

「やっぱりヒッキーだ!なんでこんなところにヒッキーが?」

 

 

頭をクエスチョンマークで埋めながらも、とりあえず声の主の方へ顔を向ける。で、ヒッキーって何?ゼツボーグの親戚か何か?

 

 

俺のすぐ後ろで声をあげていたのは雪ノ下より少し小柄だろうかというくらいの身長、そしてそれに反比例するかのように豊かな胸部をもった少女だった。

 

 

 

緩くウェーブのかかった肩までの明るい茶髪に大きくくりくりとした人懐こい目。

 

 

明るい色の、まさに『イマドキ!』な服装の上に、スポーツブラのような白い胸当てを着けている。

 

 

 

健康的ビッチ系美少女といった体の彼女の大きな瞳は、間違いなく俺を捉えていた。

 

 

(………誰こいつ?)

 

 

意外ッ!それは初対面!

 

 

そう、完全に初対面のはずだ。

こんなギャルギャルした知り合いは記憶にない。むしろ知り合いがいないまである。

 

 

人違いじゃないすかね?と切り出そうとしたその時、俺の耳に絶対にありえないはずの言葉が飛び込んでくる。

 

 

 

それは、絶対にありえない言葉。

 

 

 

 

 

 

 

「………ヒッキー、ギルド辞めて冒険者になるの?」

 

 

 

 

ああ。

 

 

(………嘘だろ?)

 

 

 

これは、紛れもないイレギュラー。

 

 

 

(こんなことなら、包帯巻いとくんだったか。)

 

 

 

 

バレる筈が、なかったのに。

 

 

 

 

 

俺の《魔法》が破られた。

 

 

 

 




買い物回&ガハマちゃん登場回でした。ダンジョンに潜るのはこの分だとまだまだ先になりそうな感じです。すいません。

見切り発車のツケが早くも回ってきた感じがします。極力違和感・矛盾点がないようにはしていますが、もし矛盾点や食い違い等々があれば御指摘していただけると幸いでございます。


また、感想欄にて御指摘がありましたので既出作品も含め改変いたしました。バベル→ギルドに変更してあります。にわかがアッサリとバレました。申し訳ございませんでした。

次回こそは!ダンジョンに行きたい!でも行けるかな、といった感じになりそうです。多分行けません。
読んで頂きありがとうございました。

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