崩壊した世界の中で、冴えない魔術師である少年はフランケンシュタインの怪物と過ごしていく――。

※完全自己満足ものですので、ツッコミどころは多々あります。
※気楽な感じで呼んで下さると幸いです。
※フランちゃんきゃわわ。

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フランケンシュタインの怪物――通称フランちゃんと冴えない魔術師である少年の日常の一部を切り抜いた短編です。
完全自己満足ものですので、まぁ頭を空っぽにして気楽な感じで呼んで下さると幸いです。


フランケンシュタインの花嫁

 世界はいつの間にか終わっていた。

 前兆も予兆も無く、ただ突然に、人理は崩壊した。残されたのは、目も当てられない程に蹂躙し尽くされた世界と見るも無残に捻り潰された文明だけ。他にも無事だったものをあえて付け加えるとするならば、少数の人類と聖杯の堕とし子(クリーチャー)ぐらいか。どちらにせよ、世界が崩壊した事には何ら変わりはない。

 カルデアなんていう高尚な機関では今も世界を取り戻す為の活動をしているという話だが、それも嘘か真か。この目で確かめてみない事には断言も信用できない噂でしかない。

 そう。

 信じられるのは、この目で収めた光景だけなのである。

 

「……酷いな」

 

 そして、唯一信じられる俺の目は、かつて冬木と呼ばれた街に向けられていた。

 冬木。

 聖杯戦争の舞台として有名だった街であり、海を越えたイギリス・ロンドンでもその重要性に注目されていたとかいないとか。一応、俺は魔術師であるが、別にロンドンの時計塔に属した訳ではない為、そこら辺の詳しい事情はあんまり把握できちゃいない。ただ一つだけ――時計塔の魔術師でもこの崩壊は止められなかった、という事だけははっきりと理解している。

 瓦礫を蹴り飛ばし、漆黒の髪をガシガシと掻く。日本男児特有の黒髪だが、今では埃まみれで少しばかり灰色に染まってしまっている。かれこれ一週間ほど水浴び出来てねえからな……そろそろ不快感で気がどうにかなってしまいそうだ。

 薄汚れたジャケットを手で払いながら、その場で胡坐を掻いてみる。世界の崩壊によって全域が戦場と化したこの世界で気を抜くのは自殺行為でしかないが、まぁ、『アイツ』が見張りをやってくれてる事だし、少しぐらいはいいだろう。……というか、二十歳の人間風情が集中力を永続的に続行できる訳ないだろ。そんな事が出来たらそれこそバーサーカーか何かだと思う。

 懐から飴を取り出し、ぽいっと口に含む。柑橘系の芳醇な香りが口内いっぱいに拡がる感覚は中々に癖になる。飴を舐めてりゃ唾も出るし、まさに一石二鳥と言えるだろう。

 と。

 青く晴れ渡った空の下。瓦礫の上で飴を舐め転がす俺の肩を、何者かが優しく叩いた。

 ――敵襲か?

 なんて気を引き締める必要はない。視界の端に僅かに映る柔らかそうな手――純白の手袋に覆われている――は俺と行動を共にしている『彼女』のものであるからだ。

 肩に置かれた手に苦笑しながら、後ろを振り返る。

 そこに立っていた『可憐な少女』の鉄面皮を見上げながら、俺は余っていた飴を一つ差し出す。

 

「お前も食うか? フラン」

 

「……あぅ……」

 

 表情は変わらず、しかし行動には変化があった。

 彼女は俺の手から飴を掴み取ると、慣れた様子で包装を排除。ぽいっと口に放り込み、ころころと舌で飴を転がし始めた。その間、彼女の表情は一ミリも変化していない。

 薄桃色の髪に、ただ透き通っているだけの淡白な瞳。身長は一七〇センチ以上と意外や意外、中々の高身長であり、抱き締めたら折れてしまいそうな細身の身体は白のウェディングドレスに包まれている。額には特徴的な角が生えていて、耳の辺りにもヘッドフォン染みた機械が取り付けられている。

 彼女の名は、フランケンシュタイン。

 いや、それを彼女の真名とするのは少しばかりおかしいか。彼女は『フランケンシュタイン博士が作り出した怪物』なのであって、決してフランケンシュタインその人ではないのだし。故に彼女は名無しのゴンベイという訳になるのだが、まぁそれでは分かりにくいので俺は『フラン』と呼ぶことにしている。

 フランは相変わらずの無表情を貫き通したまま、俺の隣にペタンと腰を下ろした。生きた屍とも言うべき彼女には温度感覚というヤツがないのだろう。十一月も半ばのこの薄ら寒い季節に大胆にも肩を丸出ししている。いや、召喚された瞬間からウェディングドレス着用だったから仕方がないのかもしれねえが、少しはこう、身体を震わせて寒がるとか、分かりやすいアクションをしてくれてもいいとは思うのだが。……感情表現能力が皆無な人造人間に何を求めているんだろうか、俺は。

 ムカつくぐらいに快晴な空を見上げ、フランはぽかーんと間抜けに口を開く。一見子供の様な彼女だが、その中身は意外と冷静沈着。彼女の柔軟で冷静な思考に今まで幾度となく助けられてきた。狂化を施されたバーサーカーが参謀役ってのはどういう事なんだと思わないでもないが、実際にそうなってしまっているのだから仕方がない。いやほら、一応はバーサーカーっぽい所もある訳だしね。言葉を話せない所とか。

 

「今日はバカみてえに平和だなぁ」

 

「うぅ……おぅぁ……」

 

「こんな日は昼寝をするに限るが、寝ている最中に襲撃を受けちまったら元も子もねえし……」

 

「あぅあ。えぅおお!」

 

「あン? どうしたフランよ」

 

 俺が顔を向けるや否や、身振り手振りで俺に何かを伝えようとするフラン。ふむふむ、なになに……。

 

「……全く分からん」

 

「がぅーっ!」

 

「どわぁっ!? わ、分かった、ちゃんと理解できるように頑張ってみるから! だから襲い掛かってくんなバーサーカーの怪力で!?」

 

 正式な召喚を行った訳ではないが、彼女のステータスにバーサーカーのクラス名が刻まれていたのは既に確認済みだ。何故、終わった世界でサーヴァントが召喚できて、あろう事か没落した魔術師一族の嫡男である俺に令呪なんてものが与えられてしまっているのかについては未だ謎だが、しかし、分かっている事も少しばかりは存在する。

 一つ、この世界の崩壊は『聖杯』が原因であるということ。

 一つ、何らかの方法によってサーヴァントの召喚が可能となっているということ。

 一つ、実際に俺がフランを――偶発的にであるが――召喚してしまっているということ。

 この三つの事から、世界は本当に危機的な状況に陥っているということが分かるのである――!

 

「……あぅあぅ……」

 

「そんな残念そうな目で見るのはやめろ。分かってるよ、俺のオツムが残念だって事ぐらい、俺が一番分かってんだよ! だからそんな目で俺を見るなぁーっ!」

 

「…………えぅ……」

 

 フランの不器用な慰めに涙が止まらない。

 と、とりあえず、今はさっきのジェスチャーの意味を探る事に集中しよう。決して自分の残念さを再認識したことで悲しくなった訳ではないのであしらかず。

 さて、先ほどのジェスチャーについてだが。俺が「昼寝をしたい」と言った事に対してのジェスチャーだったと記憶している。それだけでなく、「襲撃されたらヤバい」みたいなセリフも口にしてた憶えがある。その二つを考慮に入れて、彼女が一番提案しそうなアイディアを導き出せば――

 

「――もしかして、お前、『あなたが昼寝をしている間、見張りは私に任せておけ』的な事を言おうとしてたのか?」

 

「あぅ」

 

 こくん、と縦に振られる可愛らしい頭。

 なんていい子なんだろうか、フランケンシュタインの怪物! こんなに可愛い女の子に対して「お前は狂った怪物だ」なんて言い放ちやがったヴィクター・フランケンシュタイン博士の気が知れない。まぁ、結構高齢だったらしいし、もしかしたらボケてたのかもしれんね。

 フランのジェスチャーもちゃんと理解した。そして俺の睡魔は既に限界値。もう迷うこともない。瓦礫の上で寝難いというマイナスはあるが、背に腹は代えられんだろう。ここは一つ、フランの誠意に甘えるとしよう。

 その場に横になり、太陽から目を背けるように瞼を瞑る――と、何を思ったのかフランは俺の身体を軽々と持ち上げると、あろうことか自身の太腿に俺の頭を優しく置いたではないか。

 こ、これは……っ!?

 

(ひ、膝枕!? これはジャパニーズHIZAMAKURAというヤツなのでは!?)

 

「……うぁぅ……」

 

 日本人なのに何処ぞの外国人みたいな言い回しになってしまったが、そんな事より今の状況だ。何気に俺の守備範囲にドストライクなフランの想定外すぎる膝枕。これは逆に眠れなくなってしまいそうですよ――あ、いや、やっぱり凄まじく眠い。フランの柔らかな脚がなんとも心地よくて、逆に眠気が増幅されて――

 

「――――――――――すぅ」

 

「………………あぅ」

 

 微睡から闇の中へ。

 俺の意識が薄暗い泥の中へと沈んでいくまでの間、フランはそのきめ細やかな細指で俺の頭を撫で続けてくれていた。

 

 

 世界は終わった、人理は崩壊した。

 人類には何も残されておらず、文明は何一つ残っちゃいない。

 カルデアと呼ばれる組織が世界を取り戻す戦いに日々身を投じている――そんな事など露ほども知らない少年は。

 

「…………(むにゃむにゃ)」

 

「……うぅ……えぁぅ……」

 

 今日も何処かで――純真無垢な花嫁との危険なスローライフを堪能している。

 

 





 フランちゃん出ません(泣き)

 歓迎の準備は万全なのですが……かむおん、フランちゃん! 我がカルデアに!


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