元RTA実況者がSAOをプレイしたら   作:Yuupon

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一応完結です。
かなり時系列が飛びますが、これが一番まとめやすかったので。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
(気が向いたら番外編やりますけど。ギャグ重視で……うん)



28.元RTA実況者がSAOをプレイしたら

 

 

 SAO。

 正式名称はソードアート・オンライン。

 世界初のVRMMOとして世界から注目を集めたが、サービス開始から一転。恐怖のデスゲームとして注目を集めることとなる。

 製作者、茅場晶彦は世界最高の頭脳とも呼ばれる科学者(サイエンティスト)だったが、その事件をキッカケに世紀の狂科学者(マッドサイエンティスト)と呼ばれていた。

 

 さて、彼が行った犯罪の特徴とはなんなのか。

 まず彼が行ったのは彼が作った鋼鉄の城「アインクラッド」に一万人ものプレイヤーを閉じ込めることだった。

 メディア露出が少ない彼が珍しく、サービス開始前に『これはゲームであっても遊びではない』という言葉をマスコミに残しているが、まさしくその通りの行動だろう。

 

 この事件においての凶悪性は以下の二点だ。

 ・一万人のプレイヤーをゲーム内に幽閉した。

 ・ゲーム内での死が現実の死と繋がるようにした。

 

 一般的なMMOゲームとは何度も死んでクリアを目指すものが多い。β版のSAOもそれは変わらなかった。

 そして中のプレイヤーと情報交換が出来ない以上、中のプレイヤーの中にはこのような考えを持つものも存在する。

 

 ーーーーこの世界で死ねば現実に戻れるのではないか。

 

 しかし、その最悪な未来は『とあるプレイヤー』の行動により回避される。

 さて、そろそろその『とあるプレイヤー』を含めこのソードアート・オンラインというゲームについてまとめていこう。

 本作では、時系列順に物語を進めていくことにする。

 

 始まりはデスゲーム宣言。ソードアート・オンラインのサービスが開始した日だ。

 本来、「ゲーム内での死が現実に繋がる」なんて宣言された初日にこのような事が起こるのは酷く物語染みた話ではあるが、真実だと前述しておこう。

 

 この日、全百層あるうちの第一層目が『たった一人のプレイヤー』によって攻略される。

 そして、同時にそのプレイヤーは後に現実と仮想世界との唯一の繋がりを持つ人物として非常に重宝されることになるのだが、それは今は置いておく。

 ともかく、デスゲーム初日にも関わらず彼はβ版では四〇数人で挑んでなお攻略はギリギリだった第一層のボスに打ち勝ってしまったわけだ。

 

 プレイヤーネーム『ハクレイ』。

 

 このゲームを語る上で外せないキーパーソンとなるプレイヤーである。

 

 さて、まず彼について簡単にまとめよう。

 元々彼は『ニコニコ動画』と呼ばれる動画投稿サイトで一定の人気を誇る実況者、と呼ばれる存在だった。

 実況者とはゲームをしながら話す動画を投稿する人物を主に指す。彼の場合は動画投稿と同時に生放送でのゲームプレイも行っていた。

 事件前の彼は多々あるゲームジャンルの中でも『RTA』。リアルタイムアタックと呼ばれるゲームプレイ(人力で最速でのゲーム攻略)を中心にプレイしており、そのゲームの腕はプロゲーマー並みに高かったらしい。

 今回、SAOを語る上で彼が外せない、という理由に移るがその理由は彼がSAOを『生放送配信しながらプレイしていた』からだ。

 ニコニコ動画のサービスとは動画内に『コメントを打てる』というのが人気の要因である。つまり外部からゲーム内にコメントを通して情報を送れるのだ。

 さらに、彼はソードアート・オンラインの『第一層最速攻略』をゲームプレイ前に宣言しており、宣言通り成し遂げたプレイヤーである。

 

 つまり、彼は外部と唯一通信する手段を持ち、かつ彼は人並み外れたプレイヤースキルの持ち主なのである。

 

 さて。

 彼は第一層攻略を皮切りに、彼は外部との通信を積極的に取り始めた。

 まず始めたのは朝七時と夜一二時に行なう生命の碑石確認、通称現在生きているプレイヤーの確認である。

 生命の碑石とは全プレイヤーの名前が刻まれた石なのだが、その名前は今生きているプレイヤーを表している。死んだプレイヤーの名前には横線がされ、生死が分かるのだ。

 

 それを固定時間で確認すると同時、彼は最前線の情報を集めてはそれを無償でプレイヤー達に配布する情報屋兼、攻略プレイヤーとしての活動を中心に日々を過ごすようになる。

 持ち前のゲームスキルを活かし、敵mob(敵のモンスター)の行動パターンや、良いアイテムの手に入るクエストの紹介。また、初心者プレイヤー達へのゲーム内での立ち回りのレクチャーや、それと同時に最前線の攻略を自主的に行なうという過酷な日々。

 それを『当たり前』と言って戦い続けた姿は賞賛されるものがある。

 

 そして一ヶ月。

 武器を消えたように見せかける詐欺にも使える小技など、様々な仕様を細かく割り出し、ついで第二層のボスとの交戦を行い大まかな行動パターンを調べた彼はそれをまた、無償で情報提供を行なった。

 この頃はようやくプレイヤー達が現実を受け入れたといった時期でもあるため、彼が提供した第一、第二層の情報はそんな彼らの助けにもなった。

 

 そして第二層攻略。

 今度は四〇人のレイドを組んでの戦いであった。

 だが敵の行動パターンは割り出していた上に、『体術スキル』の情報公開を行ったことで前線プレイヤー達の多くはそれを所得。

 ボス戦開始と同時に全員が斧を石でも投げるかのようにぶん投げ続け、後ろに仰け反らせ近づけさせない戦術で敵ボスは押し潰される。

 また、二体目や周りのお供mobも登場するも、同じく装備欄から落ちた斧を回収しては投げ続けるえげつない戦法で撃破した。

 この作戦は『ハクレイ』が提案したものであり、敵ボスが跳ねた時に当てて墜落させれば大ダメージを与えられるとのこと。

 

 その後はそういった小技を駆使し、半年ほど時間が過ぎていく。

 国が出した当初の推定死者数は三割。三〇〇〇人を超える程度の数値だったが、約一二〇〇人に抑えることに成功する。

 ギルドと呼ばれる集まりも作られ、鍛冶プレイヤーなど様々なプレイヤー達が盛り立て、攻略の希望が見えていた時期にまで話は飛ぶ。

 その頃には第二四層までの攻略を完了したのだが、ここで初めて攻略組と呼ばれる最前線プレイヤー達に危機が生じることになる。

 

 さて。先程この時期にはギルドと呼ばれる派閥が作られていたと説明したが、この時最も大きいギルドと呼ばれていたギルドが暴走したのだ。

 名は、『アインクラッド解放軍』。通称、軍と呼ばれるギルドでその名の通り仮想世界からのプレイヤー達の解放を目的としたギルドである。そのリーダー、ディアベル氏と副リーダー達の不在の時であった。

 一部プレイヤーがこれまでの順調過ぎる戦いから油断と慢心を起こし、軍のみでの単独攻略を図ったのだ。

 

 軍単独の第二十五層攻略。

 その結果は凄惨たるものだった。

 偵察隊一〇名が死亡、攻略部隊は一三名の死者を出した。なお、この層は事前に外部の、アーガス社の社員から『クォーターポイントとなる第二五、五〇、七五、一〇〇層は特に強いボスがいる』という情報を『ハクレイ』がプレイヤー達に伝えての暴走である。非難されたのは言うまでもない。

 

 この第二十五層に関しては第二次征伐においてそうそうたるメンバーを招集した。

 軍リーダー、ディアベル氏を含む上層陣に加え、β版最強と謳われたキリト氏、第一層の単独攻略を果たしたハクレイ氏も加わった面子。当時のSAO最強の布陣で挑んだ第二征伐は危ない場面もあったが結果的に一人の死者もなく撃破に成功する。

 ただし、ここまで最も攻略に関わってきたアインクラッド解放軍は一時前線から離脱し、この後のボス戦参加は数名のみにとどまった。

 

 

 またこの事件は現実にも大きな影響を及ぼした。

 これまで、ゲーム内プレイヤーの『ハクレイ』氏との情報提携を結び順調に死者を減らしつつの攻略に成功した日本政府の対応は褒められていたが、この事件を皮切りにSAO対策部の大臣が失脚。人員入れ替えとなる。

 また、SAO内には数名。外国人プレイヤーも存在していたため、該当した国からこの事件は大きく非難を浴びた。

 

 

 だがその後も攻略スピードは途絶えることなく、層は攻略され。ソードアート・オンライン開始から一年が経つ頃には半分の五〇層が突破される。

 この時期は『神聖剣』などの所得条件不明の超高性能スキルを持ったプレイヤーが現れたと同時、ハクレイが唯一外と繋がりを持つ話が受け入れられ、顔バレしたくない人々がこぞって顔を隠すフード型の装備を買い、装備したためフードが流行り始めた時期である。

 

 この頃には水の上を駆ける『水走り(ウォーターラン)』や壁を駆ける『壁走り(ウォールラン)』などが当たり前のように使われるようになり、特に後者の壁走りを利用したボス攻略が盛んだった。

 やり方は、まず前衛のタンクが敵を一箇所に押しとどめ、残りの全員が壁を走り空中落下しながらボスめがけてソードスキルを放つ。

 

 それをタンク除いた三〇人で行なうといえばその恐ろしさは分かるだろう。まるで特攻兵のように爆弾(スキル)抱えたプレイヤーが降ってくるのだ。

 また、この頃には攻略ギルドと呼ばれるギルドも安定しており、血盟騎士団や聖龍連合。また攻略組に復帰したアインクラッド解放軍や風林火山など多数のギルドが攻略に参戦している。

 

 順調。

 そんな言葉しか出ないその時期だった。

 唯一外部との通信が可能である『ハクレイ』が倒れたのは。

 

 その原因は不明。恐らくは精神疾患からと言われている。

 前述したが、ハクレイ氏は攻略と同時に情報屋として。また外部との通信役として日々を過ごしていた。

 それに加え、もう一つ彼には大きな問題を抱えていたのだ。

 まず、彼という単語を使っている時点でお分かりだろうが、『ハクレイ』氏は男性である。だが、彼の容姿はゲーム内において小さな少女という現実とは似ても似つかぬ姿をしていたのだ。

 その原因は茅場晶彦の口からマスコミに対し、『一部プレイヤーは顔バレした場合プレイ続行が厳しくなるため配慮している』という文が送りつけられていたが、彼もまたそういった一人だったのである。

 

 また、常に外部との通信が繋がっているというのも問題だった。

 彼の意思で画面を暗転させることは可能だったが、生放送であった以上音を消すことが出来なかったのだ。

 正しくは、ゲーム外では出来るのだがゲーム内で調整出来なかったというべきか。その為、風呂などの際も音だけは垂れ流しという精神的苦痛を日々味わい続けていたのも大きいのかもしれない。

 ゲーム内で寝ている彼はよくうなされていたのはそれの前兆だったのだろう。

 第五七層攻略に出発して間もない時間、急に彼は倒れた。

 そして目覚めた彼は記憶を失っていたのだ。

 小さな女の子、見た目そのままの口調に見た目そのままの精神。

 そんな状態では攻略には連れて行けないので、しばらくの間、護衛の意味も込めて彼女は攻略組プレイヤーが保護することになる。また、護衛にはβ版からの知り合いだというキリト氏。当時、攻略の鬼と呼ばれていたアスナ氏がこれまでの恩を返す、と発言し攻略の手を止め護衛にあたっている。

 

 だが、数日後事態は急変する。

 精神的疾患を抱えた彼女はそれでも生命の碑石の確認など外部との通信だけは拙いながら行っていたが、その最中に当時、殺人ギルドと名高い『笑う棺桶(ラフィンコフィン)』というギルドメンバーに誘拐されてしまったのだ。

 映像が残されているが、今その映像を見てもゾワリと背筋を凍らせるものがある。

 中身はどうあれ幼い少女が暴言を吐かれながら暴行を受ける、という映像は気分が悪い。麻痺状態で身動きは取れず、時期も悪かった。

 だが、殺される寸前に『ハクレイ』氏は正気を取り戻し、そのギルドメンバーから麻痺属性のある短剣を奪い取り、麻痺させることに成功。その後、ハクレイ氏を見張っていた数名の犯罪プレイヤー全員を麻痺させ、黒鉄宮(SAOにおいての牢屋)へと送る。

 その中にはラフコフ幹部の者も含まれており、これにより攻略組とラフコフが全面的に敵対することになった。

 

 続いて同、第五十七層でもう一つの事件が起こった。

 通称、圏内事件(けんないじけん)と呼ばれている。圏内とは敵mobが入ってこない安全地帯を指し、その中ではいかなる手段を用いてもプレイヤーを殺せない範囲を指す。いわば安全地帯だ。

 そこでプレイヤーが殺された、というのがこの事件である。

 

 だが、この事件は一日も掛からず解決することになる。

 帰還したハクレイ氏が日課だった生命の碑石確認中に、被害者名が普通に載っているという事が判明したのだ。

 この情報が伝わり事件はスピード解決する。だが、この裏にも先程名前の上がったラフコフが関わっており、よりプレイヤー達の溝を深くした。

 

 だがそれ以後、しばらく動きはなく攻略だけが進んでいく。

 変わったことといえばここまで自由時間というものを作らず、常に他人の為や攻略、またはレクチャーに時間を割き続けてきたハクレイ氏がキチンと休息と息抜きを取るようになったくらいであり、まともにどこかに食事に行くことすらしていなかった為、おっかなびっくりとしながら店員に話しかけていた姿は逆に見ている側に切なさを感じさせたのは有名な話だろう。

 これまで彼一人に頼りきりだった、とプレイヤー達もしばらく彼を攻略から離れるように言いこの時期はボス戦に参加していない。

 ただ、何か申し訳ないと思ったのかその代わり細かいマッピングなどの作業には余念なく行っていたように思える。

 

 そして第七四層。

 再び問題が起こる。またもアインクラッド解放軍が先走ったのだ。

 第二十五層にて、一部プレイヤーが先走った事でその後厳しい統制と他のギルドとの協力に力を注いだディアベル氏だが、アインクラッド解放軍は単純に数が多かったこともあり統制しきれず一部のプレイヤーが再び暴走。

 同じく不満を持ったプレイヤー二〇数人を集めボス戦に挑むがまたも壊滅の憂き目をみる。

 だが、偶々同じエリアにいた数名の攻略組プレイヤーが救助に向かい、キリト氏の『二刀流』という『神聖剣』などと同じ特殊スキルでボス撃破に成功する。

 

 そして第七十五層。クォーターポイントということで満を持してハクレイ氏が攻略組に復活し、また神聖剣持ちにして血盟騎士団団長のヒースクリフ。二刀流持ちのキリト氏。アインクラッド解放軍団長のディアベル氏、攻略の鬼のアスナ氏、その他精鋭を率いた陣営で挑む。

 が、初撃で五名が死亡。

 その後ハクレイ氏が武器を持たず体術だけで使える、という剣技連携(スキルコネクト)と呼ばれるシステム外スキルを使い、両足で敵をスタンさせ続けつつ踏み続ける、連続小足というオリジナルスキルでボスの体力を削り、スタンし切れない攻撃をヒースクリフが受け止め、キリト氏がトドメを刺すという形でボス戦が終結する。

 

 だが。

 ボス戦終了直後、ハクレイ氏とキリト氏が同時にヒースクリフに襲いかかった。

 ハクレイ氏は先程の小足、キリト氏は二刀流スキルを用いて襲いかかったのだが、その理由は驚愕するべき理由だった。

 『ヒースクリフは茅場晶彦である』

 二人が出した結論にヒースクリフは事実だとあっさり認める。同時、キリト氏を除く全員が麻痺状態にされ、身うごき不能に。

 真実に辿り着いたハクレイ氏が何故麻痺にされたのかは不明だが、何らかの理由があったのだと推測される。

 

 その後、アスナ氏が麻痺から逃れキリト氏の盾となり、キリト氏とヒースクリフ。茅場晶彦が相打ちという形で戦いは決着する。

 直後、ゲームクリアの音が鳴り響いた。

 一年と半年。SAOのクリアである。総死者数は一八六七人。

 間違いなく言えるのは、ハクレイ氏とキリト氏の二人はSAOにとっての英雄と呼ぶにふさわしい存在だろう。また攻略組の勇士達も忘れてはならない。彼らの力があってこそ、このゲームクリアが成されたのだからーーーー。

 

 

 

 

 

「……随分とかっこよく描かれてるねぇ。『ハクレイ』ちゃん?」

『……一度精神的に死にかけたからって弄らないでください。つかその時の映像見たけど何あれ、恥ずかしくて死にそうなんでちゃん付けはやめて下さい、菊岡さん』

 

 現実世界。ファミレスにて。

 SAO内で『ハクレイ』と名乗っていたプレイヤーは菊岡誠二郎という人物に呼び出され、顔を合わせていた。

 菊岡誠二郎。(きくおかせいじろう)

 SAO事件において被害者の病院受け入れ先を整えた中心人物である。多くのプレイヤーに事情聴取を行うなど表でのSAO事件解決の一面を担った人物で、彼がよく通信した相手だった。

 ニコニコと外聞向けの笑顔で茶化す菊岡に少年は疲れたように呟く。

 だが菊岡はすぐ「じゃあ本題に移りたいけどいいかな?」と言って真剣な顔つきになると少年も顔色を変えた。

 

「SAO。ソードアート・オンラインを救った英雄二人に頼みたいことがあるんだ」

 

 声色も真剣だったので彼は話を聞く体勢を整える。

 

「一年と半年。思えば長かったけどソードアート・オンラインはクリアされたよね。他ならぬ君達や攻略組の力もあって」

『えぇ。確かにクリアはしましたね……』

 

 彼は同意するように頷いた。

 菊岡は述べる。

 

「クリアはされた。だけど、全てのプレイヤーが目覚めたわけではないのはキミも周知の事実だろう」

『……!』

 

 その言葉に彼が反応する。

 そこでだ、と菊岡は二枚の紙を彼に渡した。

 

「そこで、SAOクリアの立役者とも言えるキミのプレイヤースキルを見込んで依頼したい」

 

 紙に視線をはしらせる少年に対し菊岡は説明を始める。

 

「ALO。通称『アルヴヘイム・オンライン』にて目覚めなかったプレイヤーの一人。アスナさんらしき姿が目撃された」

『……アスナ、が?』

「あぁ、これだ」

 

 少年の問いかけに答え、菊岡は一枚の写真を見せる。大分ピントがボヤけてはいたが、確かにアスナらしき姿がそこには映されていた。

 菊岡は説明を続ける。

 

「彼女のいた場所は世界樹と呼ばれる場所でね。未だどのプレイヤーもクリアした事のない超高難度エリアだ。本当なら彼女とゲーム内で結婚したキリト君に頼むつもりだったが、どうやら調べたところ彼はもう既にアルヴヘイム・オンラインに居るらしくてね」

 

 だからキミにお鉢が回ってきたわけさ、と言う菊岡に成る程、と彼は呟く。

 それから私を含めたメンバーで世界樹に挑んだけどコテンパンにされてね、と溜息を吐きながら呟いた菊岡はそこでだ、と少年の顔をジッと見た。

 

 

「キミに世界樹の攻略をお願いしたい。無論、世界樹以外の超高難度エリアでSAOプレイヤーが存在しないか探してもらうでも構わない。どうかな? ……受けてもらえると嬉しいけど」

 

 

 菊岡は少しバツが悪そうに言う。

 だが、彼は即答した。

 

 

「ーーーー受けます」

 

 

 一言だった。

 SAOであれだけの現実を乗り越えて、これ以上酷使するのが(はばか)られる程傷付けてしまったプレイヤーはあっさりと頷いた。

 ずっと彼と通信してきた菊岡は知っている。

 今、目の前にいる少年はゲーム内の姿とは似ても似つかぬけれど、顔と名前が一致しないけれど。

 それでも彼はやっぱりそうなのだと。

 

「そうかい、あっ、そう言えばさっき見せた本。まだタイトルが決まってないって話じゃないか。結局どうするんだい?」

 

 茶化した口調の菊岡に対し、あぁアレですかと雑に呟いて『ハクレイ』は答える。

 

『元RTA実況者がSAOをプレイしたら』

 

 端的に答えて彼は続けた。

 

『偉人の伝記じゃあるまいし。それで充分です。それより話を逸らさないで下さいよ』

「はは、こりゃ悪かった」

 

 この少年は。

 やっぱりハクレイというプレイヤーなのだと。

 菊岡は笑っていた。

 楽しげに笑う彼を見て、つられたのかハクレイも笑う。

 

『じゃあ、早速プレイしたいんでソフトもらえます? どうせ持ってきてるんでしょ?』

「あぁ、勿論だ。流石分かってるね、ほらコレだ」

 

 ひとしきり笑ってからハクレイが催促すると、菊岡はソフトを渡した。アルヴヘイムオンライン、通称ALOのソフトパッケージを。

 

「次はアレかな? 『元RTA実況者がALOをプレイしたら』ってとこかい?」

『いや……あの本出したのも毎日のように家に電話がくるから鬱陶しくてですし。つか出しませんよそんなの!」

 

 叫んで、ハクレイはソフトを片手に『じゃあ早速病院でやりますから』と言って杖を突きながら立ち上がった。

 そしてハクレイと呼ばれた少年はこう続ける。

 

『……実は、SAO完全クリアって生きてるプレイヤー全員の現実での覚醒だって思ってましたから』

 

 告げて、彼は呼んでおいた菊岡に背を向ける。

 ハクレイの戦いはまだ終わらない。

 SAOを己の手でクリア出来なかったことから目を背けているわけではない。

 本当の意味で。

 SAOクリア(生存者全員現実で覚醒)するまで彼の戦いは終わらない。

 一度精神が壊されかけ、それでも立ち直った彼は一人静かに思う。

 

(それが、茅場との交渉で実況を続けることにした俺の誓いだから)

 

 いざ、アルヴヘイムオンラインへと。

 SAOの第一層で抱いた思いを胸に、彼はソフトを握り締めた。

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