魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
『キュエエエエエッ!!』
目の前で、鳥を素体にした暴走体が吼える。とはいえ、大して強力な個体ではない。精々、二体目の獣と同格の戦闘力だ。
「アクセルシューター」
魔力スフィアを展開。数は6。
「シュート!」
――ドドドドン!
四発を発射。誘導弾は、暴走体へと迫る。
『クエエエエッ!』
だが、暴走体はその羽根を羽ばたかせ、アクセルシューターを回避する。案外速い。アクセルシューターの速度をいくらか上回っている。
「無駄」
二つで追い掛け回し、それに気を取られている間に、逆方向から挟み撃ち。
――ゴゴンッ!
二発、命中。完全に回避されてしまった二発は、魔力に還元。
『Restrict Lock』
動きが鈍くなったその身体を、新たに覚えた魔法で縛り上げる。
レストリクトロック。私の得意な、『収束』系の上位魔法……らしい。殆ど思いつきで組んだ魔法だから、そこまで意識していなかった。まぁ、要は強力なバインドだ。
「ディバイン……!」
そして、バインドを維持しつつ、すかさずキャノンモードへ変形。
「バスターーーー!」
――ドゴオオォォン!
「ジュエルシード、シリアル12、封印」
ふぅ……終わった終わった。
『なのはちゃん、お疲れ様!』
ぽん、とモニターが表示され、アースラのオペレーター……エイミィがサムズアップしてくる。この人……悪い人じゃないんだけど、テンションが高いから苦手だ。
『高町なのは、戻ります』
あとは、アースラに戻って報告だ。
「お帰りー」
アースラのロビーで、秀人さんとユーノくんがコーヒーを飲んでいた。
「ただいま! そっちはどうだった?」
ぎゅっと秀人さんの腕にしがみつく。
秀人さんは、ポケットからプラスチックのような質感のケースを取り出す。その中には、すっかり光を失ったジュエルシードが一つ、収まっていた。
「とりあえず一個」
かぽん、とケースを開け、中のジュエルシードを摘み出す。
「レイジングハート、ほい」
それを、待機状態のレイジングハートに近づける。すると、すぽん、と吸い込まれた。
「あと四つか……」
いよいよ、ジュエルシード集めも大詰めに入ってきている。
最初の頃に比べると、ジュエルシードの出現頻度は格段に増えてきている。このアースラに関わって十日が過ぎて、既に四つ。二つは私達が。もう二つは、フェイトが掠め取っていった。
「クロノは?」
「まだ、周辺に魔力反応があるから、念のために調べていくって」
クロノが苦手な私としては、大助かりだ。クロノは、妙にお堅いというか……意識的に、壁を作っているような気がする。
「あー……そろそろ、のんびりしたいなぁ。学校も休んじゃってるし」
今回の長期欠席は、ちゃんと富山先生に伝えてある。条件として、毎日ちゃんと電話連絡することを命じられた。とはいえ、殆どは雑談……というか、先生の愚痴だ。
『高町さんが休んでから、テストのクラス平均点が下がった』だの、『葉山君が居眠りばっかりして自信無くしそう』だの、『長谷川先生にまた叱られた』だの……あなた本当に教職課程を修了してきたんですかと問いただしたくなるような内容だった。
――ビーッ、ビーッ!
再び、警報がけたたましく鳴った。
「忙しいな……」
コーヒーの残りを一気に飲み干し、秀人さんが立ち上がる。
どうせなら、全部いっぺんに出てくればいいのに……
『市街地に、魔力反応! ジュエルシードです! ……え!?』
そして、底意地の悪くて偏屈野郎な神様は、私の願いをバッチリ叶えてくれた。
『反応、四つ! しかも……隔離結界が張られていません!!』
「「「……はぁ!?」」」
私達三人の声が重なる。結界が張られていないてことは、被害がモロに発生してしまうし……何より、人が傷ついてしまう。
「ヤバいな…………フェイトも向かってる筈じゃないのか」
駆け出し、転送ポートに向かいながら、秀人さんが誰にでも無く呟く。
「そういえば……」
以前、お巡りさんに追いかけられていた時……
「前に言ってた。結界は、いつもアルフに張ってもらってる、って」
もし何らかの理由で、アルフとフェイトが別行動を取っていたら……まずい!
「エイミィ、ルート開け!」
『ちょっと待って! ………………よし、いいよ!』
もつれ込むように転送ポートに駆け込む。
◆ ◆ ◆ ◆
「くそ……!」
フェイトは悪態をつきながら、四つのジュエルシードと相対していた。
傍らには、意識を失って倒れている何人かの少女たち。
取り込まれてはいないことから、今回の相手は暴走体ではない。
しかし、それよりも遥かに危険な、純粋に暴走したエネルギーの塊だ。曲がりなりにも『願望器』であった四つのジュエルシードは、互いに共鳴し、単独のものとは比べ物にならない程の量に膨れ上がったエネルギーが、貪欲に膨張を続け……間もなく、弾ける。
「止まれ~……!」
フェイトは、ただでさえ苦手な防御魔法を応用し、ジュエルシードを押さえ込もうとしていた。狭い範囲に持てる限りの魔力を注ぎ、強固なシールドを展開している。
――ピキッ
「あうっ……!」
シールドに皹が入り、フェイトが唸る。
(せめて、アルフがいてくれたら……!)
リンクを回復させておかなかったことを、今更になって後悔した。
――ビキッ、ビキキッ……!
亀裂が、広がっていく。フェイトの予想を遥かに上回る密度だった。人がまばらな地域で発動していたのが、せめてもの救いだ。とはいえ、もし爆発すれば、この町全体に被害が及ぶだろう。そして何より。
(こんなとこで、ジュエルシードを失うわけにはいかない!)
もし一つでも欠けてしまったら、プレシアの願いが叶わないかもしれない。
(おかーさんが、ボクに笑ってくれなくなる……!)
それが、フェイトには何よりも恐ろしく……
――――ケーキは、美味しく楽しく、食べたいよね
「……!!」
だが、この場で思い出すのが、母の言葉ではなく、そんな言葉であることが不可思議だった。
「フェイト!」
フェイトの耳に、聞きなれた声が届く。視界の隅で、茜色の毛並みが揺れる。
「アルフ! 結界張って! 終わったらシールドで押さえ込んで!」
「ああ、わかった!」
多少仲がこじれていたとしても、そこは主と使い魔。
――キィンッ!
アルフは即座に結界を張り、周囲を遮断。更に、フェイトが使用していたシールドの維持制御を受け持った。
「よくも手こずらせてくれたな! でも、これで!」
封印魔法を放つ。だが。
――ボシュッ……
「えぇッ!?」
猛烈なエネルギーの中に飲み込まれ、消えてしまう。
「この! このっ!」
――ボシュッ! ボシュッ!
だが、何発撃っても届かない。あまりにもエネルギーの密度が高く、ジュエルシードに到達する前にかき消されてしまうのだ。
「ふぇ、フェイト……! こっちが、ヤバい……!」
見れば、アルフが維持しているシールドが破られかけている。
「うー! 何でだよ、もー!」
二人掛かりでシールドを維持する。今はまだ押さえ込めてはいるが、このままでは魔力と体力を削られジリ貧だ。
「ああ、もう……! どうすれば!」
――バキンッ!
とうとう、『亀裂』は『穴』になってしまう。封印を停止し、フェイトも結界の維持に加わる。
「くっそ、止まれぇえええええええええええええ!」
フェイトが叫ぶ、その声に。
「エイミィ! ジュエルシードを!」
力強い声が、答えた。
なのはが、秀人が、ユーノが、揃ってこちらに向かってきていた。
『了解!』
――ヴゥンッ!
壊れかけていたシールドの代わりに、新しくアースラの出力でシールドを張らせる。ひとまずは、すぐに爆発、ということは無くなった。
だが、もしもジュエルシードが爆発すれば、呆気なく破られてしまうだろう。それでも、そのシールドを張る理由は、一つ。
「お前らも手伝え!」
一人でも多くの魔導師で、封印するため。アルフがやってきて、輪に加わる。今は、敵
味方に分かれている場合ではない。5人で、ジュエルシードを囲む。
「フェイト」
なのはが、フェイトの目をまっすぐに見据えながら……
「色々とお話ししたいけど……今は、全部後回し」
決意を込め、言った。
「手伝って。フェイトの力が必要なの」
フェイトは、ツンとそっぽを向きながら、答える。
「……ふん! 足引っ張ったら、承知しないからな!」
フェイトもまた、輪に加わった。
秀人が、なのはを、ユーノを、アルフを……そして、フェイトを順番に見回す。
「『俺達』で、押さえ込むぞ!」
『俺達』の中に自分がいることに気づき、フェイトは、くすぐったいような、背中がむずがゆいような……だが、不思議と心が温まる、そんな気分を感じた。
「いわれなくても……やってやるよ!」
桜色。空色。緑色。黄色。茜色。
各々の魔力光を輝かせる魔法陣が展開する。
――そして、奇妙な現象が起きた。
フェイトの、バルディッシュを留めていたチェーンが、自ら発光し…………秀人の、空色の魔法陣。一つの大円の中で、二つの正方形が八角形を描き出す、オーソドックスなミッドチルダ式魔法陣が……
――――変形を始めた。
大円を飛び出すように、四本の直線が伸びて行く。
「え!?」
「な、何これ!?」
二本は、それぞれなのは、フェイトの魔法陣を貫通。
「うわっ!」
「なんだ!?」
残る二本は、ユーノ、アルフの魔法陣を貫く。
更に、展開。なのは達の魔法陣からは三本のラインが伸び……
ジュエルシードを取り囲む五つの魔法陣が……秀人を天辺に、五芒星を描いた。
――ヒュイイイイィィィン……!!
一つに繋がった五つの魔法陣が、回転速度を上げていく。それに比例し、処理能力が加速度的に上昇する。
『稼働率、76%、84%、89%、94%……』
そして、五人の身体にも、異変。
「う、わ……!」「すご……!」
体中を、かつて無いほど濃密な魔力が駆け巡っていく。
「……よし、やるぞ!」
秀人の号令と共に五人は、示し合わせたように両の目を閉じる。
リンカーコアに、身体を循環する濃密な魔力に、意識を集中する。
――どくん
五人はその時……確かに、繋がっていた。
――どくん
心臓のように、伸縮するリンカーコア。バラバラだったそのリズムが。
――どくん、どくん……
徐々に、合わさっていく。重なっていく。
――どくんっ!
そして、五人全員のリンカーコアが同時に、力強く鳴動した。瞬間。
『稼働率100%』
五人は一斉に目を開き……!
「「「「「せーーーーーの!」」」」」
――――――――――――――――――――!!!
光の爆発が、結界内を埋め尽くした……!
「くっ……エイミィ、状況は!?」
アースラのブリッジで、リンディが真っ先に復帰する。
「す、少し待ってください……ええと」
エイミィが、未だチカチカする目を擦り、コンソールを確認する。
「暴走反応、ありません! 鎮圧成功です!」
その言葉に、ブリッジが沸く。
「……そう」
リンディも安心し、シートに腰を下ろす。災害を未然に防ぐことが出来て喜ぶ反面、どうしても気になることがあった。
(秀人くん達が使った魔法……いや、あれは、魔法なの……?)
浮かれているエイミィの端末から、情報を引き出す。いくつかの波形グラフと、棒グラフが表示された。
五本五色の棒グラフを繋げ、一本の長い棒にする。既に隣にあった棒グラフとの長さは、ぴったり同じに見える。
次に、五つの波形グラフを並べる。あの、五芒星魔法陣が出現してから、封印魔法が発動されるまでの時間分だけを切り出し、重ねる。その箇所だけが、ピッタリと一致した。
「誤差、ほぼゼロ」
五人がかりで発動された、あの封印魔法に使われた魔力総量は、五人全員分の瞬間最大放出量の和と全く同じだった。
――まるで、リンカーコアを直結させたかのように。
(……まさか、ね)
リンディは、自分の荒唐無稽な考えに呆れ、苦笑した。
(ありえないわ。そんな理論には、何年も前に『不可能』という結論が出ている)
偶然だろう。そう結論付け……リンディは、そのデータを閉じた。
◆ ◆ ◆ ◆
「……………………」
「……………………」
四つのジュエルシードが私とフェイトの間にぷかぷかと浮かんでいる。取ろうと思えば、いつでも取れる距離。でも、私もフェイトも、手を伸ばそうとはしない。今がきっと、『その時』なんだろう。
「フェイト」
「……何?」
眉根を寄せながらだけど、敵意はそんなに感じられない。いや、むしろ……勝手な勘違いかもしれないけど、親近感というか、連帯感のようなものを、感じている……?
「どうして、ジュエルシードを集めているの?」
「…………」
斧を握る手に力を込め……
「うっ!」
辛そうに、顔をゆがめた。
一歩、歩み寄り、フェイトの手をとる。
「……ひどい」
フェイトの手のひらは、ボロボロだった。深い裂傷がいくつも刻まれ、白い肌は火傷で爛れて……恐らく、私達が駆けつけてくるまで一人でジュエルシードを押さえつけていた所為だ。
「こんな痛い思いをしてまで……何で?」
フェイトは、私の手を振り払うでもなく、しばし迷い……口を、開いた。
「おかーさんが、必要だって言ってるんだ」
「お母さん? その人に命令されたの?」
私の問いに、こくん、と首を縦に振る。
「おかーさんの望みが、ボクの望みだから……」
その目から、ぼろぼろと涙が流れ出す。
「おかーさんの望みが叶ったら、きっとまた、ボクに笑いかけてくれる! 優しくしてくれる!」
それは、自分に信じ込ませるように。
「おかーさんは、ボクのこと、ちゃんと好きでいてくれるもん!」
残酷な真実から、目を逸らすように。
私達は、よく似ている。
言うことを聞いて『いい子』でいれば、きっと、振り向いてもらえる信じて。
……いつしか、目が見えなくなっていて。
(ああ、そうか……)
ようやく、気づいた。
虚勢を張るような態度が、気に入らなかったのも。けらけらと浮かべる、空虚な笑いが嫌いだったのも。きっと、全部同じ理由。
それが真実なら、ぶつける気持ちは、敵意でいい。
それが本音なら、交わす言葉は、なんでもいい。
本当の気持ちで、とことんぶつかりたい。
……繋がりたい。
私は、フェイトと……この、ひねくれ者な、寂しがり屋と。
「友達に、なりたいんだ」