魔法少女リリカルなのはties 作:ハルハルharuharu
なのは達は、アースラのブリッジで、秀人とはやての決闘を見守っていた。
予想と反して、終始、秀人が圧倒しており……
――画面の中、秀人のボディブローが炸裂し、はやての身体が紙のように宙を舞った。落ちたはやての腹を、これまた容赦なく蹴り上げる。
「うっ……!」
その、情け容赦の無い攻撃に、顔を逸らしたい衝動に駆られた。
『手加減してんじゃねぇっ!』
秀人の怒声を浴び、はやてが起き上がる。
……非常識なことに、ほぼノーダメージだった。
『来いよ、はやて…………、テンタトレス!』
その名を呼ぶ。
モニター越しでも分かるほどの、巨大な魔力があふれ出す。そして……
『 「『うァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』」 』
咆哮が重なり……はやては、かつてと同じ、『闇統べる王』としての姿を現した。
「……!」
はやての素を知った今でも、その濃密な殺気に気圧される。
なのはは、無意識に胸元のレイジングハートを握り締めた。
『マスター』
その状態で、レイジングハートはなのはに呼びかける。
「…………怖いよ、レイジングハート」
『確かに、不安です…………秀人だけでは』
「……、アイ?」
頷く……ような気配を見せるレイジングハート。
『………………教育プログラムを途中で放棄するような破天荒でも、私を敬わない無礼者でも、家事をしない怠け者でも、秀人を独占したつもりになっている不届き者でも…………もちろん、秀人はまだ私の使用者です。ええ。譲るものですか、そこだけは』
ちょろっと独占欲を覗かせていた。
『それでも、あやつは私の………………自慢の妹なのです』
画面の向こうで……秀人とアイが、何かやり取りをしている。轟々と吹き荒れる旋風に遮られ、内容は伺えないが……恐らくは。
『信じましょう。アイを…………秀人を』
「だいじょーぶだって!」
不安がるなのはの肩を、フェイトが抱き寄せる。
「ひでとは、ここぞというときは、ぜーったいにまけないから!」
ユーノも、アルフも……ブリッジにいる全員が、同意した。
「秀人さん、アイ……!」
なのはは、モニターの向こうの秀人を見て……
「――――……頑張って!」
声援を、送る。
『 「 『 我が名は――――!』 」 』
そして秀人は……その名を、告げる。
「 『 ――――――イモータルハート! 』 」
――――――――――……!!!
巨大な火柱が屹立し……暗雲を焼き払い、天を焦がした。
◆ ◆ ◆ ◆
『誓約完了…………通常起動。イモータルハート、全機能正常』
天を焼いた火柱は、その言葉に従うように、一気に収束した。消えたのではない。秀人の身体を覆い、取り巻いたのだ。
それは、『闇統べる王』の武装シークエンスと、同一のものだった。
「……」
右腕を掲げる。
――バキィイイインッ!!
その腕に、手甲が現れる。下腕だけではなく……指先から肩までを隙間無く覆う、曲線を帯びた、堅牢な手甲だった。
――……ガキンッ!!
背面に鋭角的な突起を備えた装甲が、展開される。左肩には、無骨でブ厚いショルダー。下半身には、膝にハードポイントを備えたブーツ。
それぞれが、非常識なまでに強固。
『武装完了』
だが、それらは……この第一形態にとっては、申し訳程度のものだ。
――右腕。
秀人の右手には、無尽蔵に魔力を吸収・蓄積する、ロストロギア級の魔力結晶が埋め込まれている。
それは、武装に呼応するかのように表出し……眩い光を放っていた。間違いなく、一撃一撃が、必殺級の威力。
右腕の破壊力が突出した、歪な……だが、秀人に最適化された、武装形態だった。
今や、秀人の放出する圧力は、目の前のはやて……『闇統べる王』と十二分に比肩し得るほどの段階に達していた。
「…………」
「…………」
武装を完了した二人は、言葉は無しに、一歩一歩……間合いを詰めていく。
――こつんっ。
右手の手の甲同士を、挨拶のようにぶつけ…………
――――ドゴガガガガガガガッ!!!!
嵐のような拳の連撃が、応酬される!
「うおおおおっ!!」「……!!」
――バチィイインッ!!
相殺しあった余波が、二人を引き離す。
『Blaze cannon!』
「ファイアッ!!」
――ドゴンッ!!
アイの独自詠唱により、魔力砲が発射される。
『ハハッ、ヌルイッ!!』
「ナイトメアッ!!」
だが、テンタトレスもそれにピタリと合わせてきた。同サイズの、漆黒の魔力砲が発射され……
――……ボンッ!!
ブレイズキャノンを貫通。
『ソンナモノ、通ジルカァっ!!』
魔剣を振り上げ、魔力砲と共に、秀人に迫る!
「くっ!」
防御しようとする秀人。だが……
『避ける必要は無いの』
――ボシュッ……
……はやての砲撃は、秀人の魔力結晶が輝いたと認識した瞬間……霧散した。
「ッ……!!」
魔剣を振り上げたまま、驚愕する。だが、振り下ろすことは中断しない。
炎の魔剣。現存するいかなる剣をも凌駕する、はやてのメイン武器。あらゆる敵を両断する、必殺の刃。
『打ち返すのっ!!』
「……! 応っ!」
秀人は、右拳で応戦する。
秀人の装甲と、はやての魔剣。はやてとテンタトレスの目算では、強度はほぼ互角。打ち合い拮抗し、カートリッジで押し切れる……そう思っていた。だが。
――――……ギュィイイインッッ!
秀人の魔力結晶が、先ほど霧散させた魔力を瞬時に吸収。そして……
――バキィンッ!!!
魔剣を、一撃の下に叩き折った!!
「!?」
『ナ……!!』
影を操り、咄嗟に三層の防壁を築いたテンタトレスも、流石と言える。しかし……
――ゴ……バンッ!!
拳の威力は微塵も衰えず……はやてを打ち伏せた。
『……自分の魔力の味は、どう? ……なの』
『オノレ……!』
アイの挑発に、テンタトレスが噛み付く。。
『……マスターの体表に、スターライトを応用した無効化フィールドを形成。魔力攻撃を霧散させ、純粋魔力に還元し、右手の魔力結晶に吸収。それを瞬間放出したの』
なんでもない事であるかのように、言った。
『マスターを守る。それが、アイの本分なの』
つまり、武装した秀人を魔力攻撃で傷つけることは困難であり、かつ、強固な鎧が物理攻撃をも阻む。もし傷つけたとしても、秀人自身の肉体の性能で、瞬時に回復してしまう。
そして……秀人自身の魔力の消耗は、ほぼゼロなのだ。いや、それどころか……敵が攻撃すれば攻撃するほど、秀人の魔力は、無尽蔵に高まっていってしまう。
反則級の性能だ。
『……コンナ、モノォ!!』
はやては、傷を癒して立ち上がり……折れた魔剣を修復する。
『ナラバ、鎧ゴト断チ切ルマデッ!!』
――ガキュンッ、ガキュンッ!!
カートリッジを二発ロード。魔剣の内部に、魔力を充填する。内部に通じさせた魔力までは、アイでも霧散させることはできない。
『受ケルシカ能ノ無イ、腰抜ケガァアアアアッ!!』
――ガギイイイインッ!!
拳と魔剣が衝突し、火花が散る。強化の恩恵か、今度は折れない。
そして、同じく内部に魔力を通された影たちが、全方位から秀人に襲い掛かる!
『受けるしか、脳が無い……?』
ぴくりと、アイが反応する。武装と化しているため、表情は伺えないが……気に障ったらしい。
『……そう。なら……マスター。今こそ』
「よし……いくぞッ!」
秀人は…………新たな力を、解き放つ!
「――――ロード……『インパクト』カートリッジ!!」
――――ガシュンッ!!
腕輪のように偽装されていた弾倉が、一つだけ右に回転する。薬莢が一つ、排出され……
「……リリースッ!!」
――――……ゴッパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッッ!!
炸裂した魔力スフィアは……従来のそれとは比較することすら無意味に思える、そんな強大な威力の衝撃波として、全方位に解放される。
衝撃波は、影を、魔剣を……はやてを、全てを吹き飛ばした。
スレイプニルを展開した、全力の羽ばたきですら、その威力に抗うことは出来ない。
ガリガリガリッ……!! と、地面を摑み損ね、地を滑っていく。
『ヌオオオオッ……!! 馬鹿ナ! カートリッジ一発デ、ココマデノ威力ガ……!!』
弾き飛ばされ、テンタトレスが驚愕する。
『ふん。汎用品と専用品を比べるなんて無意味なの』
発声されたのは……インパクトカートリッジ。
文字通り、『インパクト』という攻撃魔法にのみ特化・最適化されたカートリッジ。汎用性はゼロに等しいが……その性能を、テンタトレスは身をもって知ることとなった。
『……マスターの使える術式が少なくて助かったの。覚えの悪さも、たまには役に立つの』
「一言多いっつーの!」
これが、なのはやフェイトのような、多彩な術式を使い分けるような魔導師には、使い道に困る装備だが……秀人にはぴったりの装備と言える。
『汝、下ガレッ!! 魔剣ヲ魔弓ト変ジ、遠クヨリ、ヤツヲ射ルノダッ!!』
はやては、その衝撃波に抗おうとせず、ソレを利用し離れようとする。確かに、それはそれで正解だ。
いくら、攻撃を無効化し、跳ね返せるとはいっても……敵が逃げてしまっては、意味を成さない。
スレイプニルを羽ばたかせ、地平線近くにまで飛び去っていく。手にした魔剣が、弓へと変形しようとする。
だが。
『もう一発!』
「ロード……アクセルカートリッジ!」
――ガキンッ!
薬莢が排出され……背部の装甲に備えられた突起が、可動する。
――ヒュイイイイイイイイイイイイン……!!
そのスリット内部に、炎が灯り……
「リリースッ!!」
『――Take off !』
――ズパァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!!
破裂音を残し……秀人は、瞬時にはやての目の前に迫っていた。
「ロード……インパクトカートリッジ!!」
拳を腰溜めに構え……推進力をそのままに、はやてに突貫!
「……!」
『シュヴァルツェ・ヴィルクングッ!!』
はやてもまた、拳に魔力を集中し、迎撃する。
通常状態ですら、Sに届く威力の近接攻撃魔法。テンタトレスの力も加わった今、それは超級の一撃となる…………はずだった。
「ぐ、うう……!!」
だが、押されている。ただの、初歩攻撃魔法に。
――バチィインッ!!
「うぁあああっ!!」
押し負け……落下する。
――ドンッ!!
秀人が、再び間合いに飛び込んでくる。受けることは、不利にしか働かないと学習し、防御を固める。乱打の中……はやての脳裏に、記憶がフラッシュバックした。
――まあ、腕力に腕力で対抗するのも、十分にアリじゃ。それで凌げる時は、そうするがいい
「……!!」
その瞳に……一時的にだが、正気の光が灯る。
――じゃが、どうしても、腕力同士では押し負けてしまうときも来る。『剛』の力に対抗できない時は……
「力で、対抗できない時は……」
『汝! 何ヲシテイル!?』
だらりと、全身を弛緩させるはやてに、テンタトレスが吼える。
だが、はやては弛緩を崩さず……
「……おおっ!!」
秀人が正拳を打って来るのを、身逃がさず。
――――『柔』の力で、受け流すのだ
「受け、流すっ……!!」
すぅっ……と、撫でるように、秀人の腕に触れ、優しく摑み……
「……! はぁっ!」
――ドォンッ!!
一気に引き寄せ、反転。秀人の身体を、大地に叩きつけた!
『な……投げ技!?』
アイも、これには驚愕していた。
「いってぇ……!」
秀人は、衝撃をモロに受け、悶絶していた。
そう。いくら堅牢な鎧といえど……内部に浸透する衝撃までは、殺せない。
はやてが秀人に初めて与えた、有効打だった。
スレイプニルを収納。魔剣も捨てる。
まだどこか、ぼうっとした目をしていたが……確かに、変わった。
「……!」
秀人が、ハイキックを仕掛ける。
はやては、その場に屈みこみ……
――すぱんっ!
秀人の軸足を払う。
「くっ!?」
遠心力で、勝手にバランスを崩す。その足を空中で摑み……膝十字固めに持ち込もうとする。
「うおっ……!?」
慌てて退避し、はやてを振り払う。
『汝……ナンダ、ソノ珍妙ナ技ハ……?』
テンタトレスも、大いに戸惑っていた。
「…………」
だがその目には、未だ正気は見当たらず……
『……マァ、ヨカロウ。我ハ、反応速度ノ強化ニ徹シヨウ』
「はぁああああっ!!」
再び、正拳突き。間合いも適正。速度も威力も十分な一撃。
――――打撃には、まぁいろいろと種類があるわな。威力重視であったり、速度重視であったり…………だが、大陸の方では、独特の打撃があってのう。それは、敢えて敵の間合いに深く踏み込み……
「…………間合いに、深く踏み込み……」
はやては、防御せず……するっと、秀人の間合いに深く踏み込んできた。
明らかに、深すぎる間合い。
――――密着状態から、瞬発力で放つ。
「……密着状態から、瞬発力で……放つ!」
震脚。地を蹴る力を、全身を回路とし、伝達し……!
――――ドンッ!!
「ぐはっ……! これ、爺さんの……!?」
『寸頸!?』
重い衝撃に、息を詰まらせる。
――――『力み』から生まれる破壊力もあれば、『脱力』から出ずる突破力もある。体を、液体にも等しく弛緩させ……
「液体にも等しく、弛緩させて……」
「チッ……!」
秀人が、ガードを固めようとする。だが、それよりも早く。
――――鞭のように、振るうのじゃ
「鞭のように……」
はやては、極限まで力を抜き……
「……振るうっ!」
――スパパパンッ!!
拳が霞んで見えるほどの、高速の連撃を放った!
「あ……?」
ぐらり、と、秀人が眩暈を起こしたように揺らぐ。
計三発。その全てが、秀人の顎を的確に打ち抜き、脳を揺らしていた。
「くっそ……効いたぁ~……!!」
ふらふらと、ダウンから立ち上がった。
「やっぱお前、天才だわ……」
「…………」
無言で……再び、弛緩の構えを取る。
「でもな」
その眼前に、唐突に秀人が現れる。テンタトレスによって、反射能力を強化されているはやてですら、まともな反応ができなかった。
「こちとら、免許皆伝だッ!!」
――ド、ドンッ!!
意趣返しの連撃が、はやての鳩尾にめり込む。こちらは、やや威力を重視した連撃。
「……」
間合いを詰め、寸頸を仕掛けるはやて。
「二度も喰らうかっ!!」
秀人はその場で反転し、はやてとの間合いを縮め……
「……どあぁッ!!!」
――ズンッ!!
背中全体を、はやてにブチ当てた!
「……!!」
ズザザッ、と後ずさるはやて。
「へっ……どうだ!」
勝ち誇る秀人。
「……………………ふふ」
はやては…………笑った。
開始から、いまだ15分ほど。
二人の同門生は、その決闘……否、『試合』に、没入していった。